戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第二十三話 嵐の拳

 

 

 

 

 

 

 

始まりが何時だったかはもう覚えていない。

 

封印されながらも思念体を飛ばし、外の世界を観察しながらオレは奇妙な女を見つけた。

 

その女は祈っていた。有象無象が無駄に増えていくなかでその女は誰かに向かって祈っていた。

 

何を祈っていたかは知らん。だがその女の念は、なんというか、迷いがなかった。とても強い念を込め祈っていた。ここにはいない誰かに、遥か彼方遠い空を見つめながら・・・・・・。そんな祈り続ける女をオレは見続けていた。

 

しばらくして女が死んだ。何故死んだかはオレもよく知らない。ニンゲン共の事情など知ったことではないからな。だが、あの女を観察できなくなったのは少し残念だな。

 

しばらく時が経つと強い念を感じた。この感じ覚えがある。念を飛ばす者を見つける。姿はまるで別人だが、オレにはわかった。この女は、以前見つけた女と同じ念を込め祈っていると。オレはまた祈り続ける女を見ていた。

 

またしばらく時が経つ。女は死んだ。今度は寿命だった。いったいあの女は何を祈っていたのだろうか。思念体の状態では見るだけで話すことなどできないからな、何とも歯痒い。結局、あの女が何を祈っていたかは分からずじまいだった。

 

・・・・・・何故オレは歯痒く感じたのだ?

 

再び時が経つ。これで何度目は分からぬがどうやらオレが見つけたあの女は“転生”を繰り返しているらしいことがわかった。

 

定期的に感じる強い念はやはり別人ではなくあの女のものだった。何度も、何度も何度もあの女は転生を繰り返していた。死んで、生きて、死んで、生きて、いったい何があの女を掻き立てるのか。それが知りたくなった。

 

不思議なものだ、ある種の狂気ともいえるが、あの女は相も変わらず転生を繰り返している。あの女は何かを為そうとしている。それが何かはハッキリしないがあの女は着実にその準備を進めている。

 

興味が湧いた。転生を繰り返してでも為し遂げたいことがあるあの女に興味が湧いた。

 

だがオレに何ができる? あの女の為に思念体のオレができることは・・・・・・・・・。

 

・・・傲慢な理由で封印されたとはいえオレはまだ生きている。ならばチャンスはある筈だ。

 

王になる。

 

創世王になれば不可能などない筈だ。

 

オレが王になり、あの女を手助けしてやろう。そうすれば見れる筈だ。あの女が目指すその先が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がおきた?」

 

夜空を、()()()月を、ビルゲニアは見た。宿敵を討ち果たし、タイミング良く発射されたカ・ディンギルの荷電粒子砲を祝砲として見上げてみれば不可解な光景を目の当たりにした。

 

月を破壊するほどの威力があるというカ・ディンギルの光が月と地上の丁度中間ぐらいの位置で何かに押し止められた。

 

とはいえ、押し止めたのもほんの僅かな時間。あっという間にカ・ディンギルの光が阻んでいたモノを呑み込み月へとその光を伸ばしていった。

 

だが月は破壊できていなかった。直撃せず月の一部しか破壊できていない。押し止めた何かのせいで僅かながらに軌道を逸らされ、威力が減衰したのだ。おそらくシンフォギア装者の内の1人がやったのだろう。

 

「フッ、無駄なことを」

 

そう無駄なのだ。カ・ディンギルの砲撃を逸らしたことは称賛されるべきことなのだろう。だがそれを行った装者は選択を誤った。カ・ディンギルの動力源は不朽不滅の聖剣デュランダル。その不滅の輝きは無限のエネルギーとなり、幾らでも砲撃を撃つことができる。もっとも、連射はできず一発ごとにエネルギーをチャージする時間が必要なのだが。

 

つまり発射されるエネルギーよりも砲身の方を何とかすればよかったのだ。砲身を破壊すれば発射される筈だったエネルギーは行き場を失いカ・ディンギルの内部で爆発するだろうに。

 

さて、とビルゲニアはこれから自分が行うべきことを考える。

 

カ・ディンギルは2発目の発射体勢に入るだろう。あの場にはフィーネ、そしてシンフォギア装者が集まっているだろう。一発目に邪魔がはいった以上装者共は全力で抵抗しているのだ。ならば、フィーネと合流し邪魔な装者共を一掃するのが妥当だろう。

 

「ならば急がねば、な」

 

ふと視線先にあるものが映る。一台のオンロード型のバイク、ロードセクターだ。

 

かつてゴルゴムがとある博士に作らせたスーパーバイク。ゴルゴムに献上される筈だったが紆余曲折あって仮面ライダーBLACKの手に渡ることになったバイクだ。

 

このバイクには仮面ライダー共々苦戦させられた。だが今はその仮面ライダーはここにはいない。

 

「フフフ、戦利品としては丁度よいか」

 

ロードセクターに歩みを進める。主を失ったのだ、なら自分が新たな主となってやろうとロードセクターに手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ

 

「ッ!?」

 

音が聞こえた。砂利を蹴る音。ロードセクターに伸ばした手をビルセイバーに掛け振り返る。

 

「・・・・・・」

 

暗闇だ。目の前に広がるのは暗闇。今はもうすっかり日が落ちて夜だ。仮面ライダーとの戦闘で道路は砕け街灯なども倒れ辺りは暗くてよく見えない。だが、

 

ザッ・・・・・・、ザッ・・・・・・。

 

いる。

 

何かがこちらに向かって来ている。

 

何が? と疑問を浮かべながらも今この状況で向かってくる者など1人しか思い浮かばない。

 

だがあり得るのか? オレの攻撃は間違いなく奴を捉えた。ビルセイバーの刀身が奴の血で塗装されるほどの出血を、負傷を奴はしている。それなのに向かってこれるのか?・・・。

 

断続的に聞こえてくる足音。やがて音が大きくなってくる。そして、暗闇の中から“赤い光”が見えてきた。

 

「馬鹿な・・・」

 

赤い光は奴の目。ふらつきながらも、一歩一歩踏み締めるかのように歩いてくる。その姿を見間違う筈がない。

 

「ハァーッ・・・・・・ハァーッ・・・・・・」

 

「仮面ライダー、BLACKッ!」

 

「どうした、ビルゲニア。そんなに驚いた顔してよぉ~」

 

「・・・手応えはあった。貴様は確実に致命傷を負った筈だ。なのに何故貴様はここにいるッ!?」

 

「へへっ、さぁな」

 

「シラを切るつもりか」

 

「どうかな? ・・・強いていうなら歌が聞こえたんだ。なら、寝てるわけにはいかねぇからな」

 

「歌、だと!?」

 

馬鹿な! と理解が及ばぬ現状にビルゲニアは困惑する。歌で甦ったとBLACKは語るが歌など聞こえなかった。

 

いや、まさかシンフォギア装者の歌がBLACKにだけ聞こえたというのか。しかし、そうだとしても装者の歌に他者を回復させるような効果があるとは聞いてない。

 

だが、そんな不可思議な現象を起こしかねないモノをビルゲニアは目にしていた。

 

仮面ライダー BLACKの腰部で輝く紅い宝石、

 

(キングストーンか!? まさかキングストーンが歌の影響を受けたのかッ!?)

 

創世王になるのに必要な特別な石。手にしたものに銀河を創造することすら可能な力を与えるという王の石。その片割れを持つが故に王になる資格を持つ奴にそのような恩恵を与えたのか。

 

キングストーンを持たぬオレでは奴に勝てぬというのか!?

 

・・・

 

・・・・・・・・・否。

 

否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否否ァッ!

 

断じて否だッ!

 

キングストーンがあろうがなかろうが関係ない。仮面ライダーBLACKが何度も甦ろうというなら、何度でも斬り捨てるまでだ。

 

奴を見ろ。

 

肩で息をして足取りもおぼつかない。フラフラではないか。焦る必要はない。今度は首を斬る。そして、キングストーンを破壊してやる!

 

嵐のように荒れ狂った感情を抑え込みビルゲニアは剣を構える。

 

対する仮面ライダーBLACKは荒い呼吸を続けながら、ゆっくりにじりよってくる。

 

傍目から見れば圧倒的にビルゲニアが優勢だ。片や落ち着き、片や満身創痍。このままぶつかれば倒れるのは仮面ライダーBLACKの方だろう。

 

しかしビルゲニアは慌てず構えを崩さず、にじり寄ってくるBLACKを睨みつけ待ち構えた。

 

(油断するな。奴のしぶとさは散々思い知っている。何をしてくるか・・・)

 

警戒。ゆらりゆらりと幽鬼のような歩みの仮面ライダーBLACKに最大限の警戒をとる。

 

そして、

 

仮面ライダーBLACKは足を止めた。

 

2人の距離の間は実に10メートルほど、BLACKは変わらず肩で息をしているが、

 

(・・・くるか)

 

ビルゲニアは警戒を強める。静寂が2人の周囲を包み聞こえるのはBLACKの荒い呼吸のみ。

 

10秒か1分かはたまた1時間か、時間の流れを上手く感じとれない。

 

「ハァー・・・ハァッー・・・。・・・・・・スゥーーー」

 

「ッ!?」

 

「─────────────うおおおおッ!」

 

大きく息を吸い、何かを呟き、咆哮を上げBLACKは走り出した。

 

ビルゲニアは落胆した。

 

何だそれは? その様は?

 

ここまで這い上がってきた貴様の最期の力がそんな子供が癇癪をおこしたような姿なのかとがっかりした。

 

右の拳を振り上げながら不恰好に走るその姿は戦士のソレではない。ただ闇雲に、破れかぶれの苦し紛れに見えた。

 

最早奴は限界なのだ。いかにあの致命傷を治そうともそこまでが限界だったのだ。必殺のライダーパンチやライダーキックもできず、バイタルチャージによる強化もない。だが奴は逃げなかった。痛みで足を引きずりながらここに来た。ならぱ終わらせてやろう。この宿敵の命を今度こそ斬り捨てるのだ。

 

BLACKが拳を振るう。フォームはむちゃくちゃだ。この拳を自慢の盾、ビルテクターで弾き、返す刀で首を斬る。それで終わりだ。

 

盾を構える。拳がぶつかる。

 

爆ぜた。

 

「───ッ!?」

 

地面を抉りながらその場から後ずさられる。

 

(な、にが!? この腕の痺れは───ッ!?)

 

盾を構えていた腕に走る痺れの原因を思考する間もなくBLACKが追撃してきた。今度は左の拳を振るっていた。下から上へのアッパーだ。

 

「く・・・、グッ!?」

 

また爆ぜた。足が地面から離れその場から浮き上がってしまう。

 

だが今度は見えた。奴の拳がビルテクターに当たった瞬間に爆発した。恐ろしい威力だ。ビルテクターにかかる衝撃は凄まじかった。例えるなら、子供が乗ってる三輪車がぶつかってきたと思ったらその威力はダンプカー並みの威力だったというべきか。

 

しかしその威力も代償があったようだ。BLACKの両腕はボロボロだ。比喩でも何でもなく文字通り奴の拳が爆発したのだ。奴の腕を覆っている黒い装甲は爆ぜ、腕の筋組織が丸見えで夥しい量の血を撒き散らしている。

 

一か八かの賭けだったのだろう。思わずビルテクターが破壊されるのではないかと思うほどの威力だった、よほどの力を込めたようだが、自分の腕の方がもたなかったようだ。これでもう奴は腕を使えない。

 

だというのに、奴は何故は、拳を握れる?

 

「グッ、アアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

痛みを堪えるかのような叫びを上げながらBLACKは拳を握る。今度は右の拳を振り下ろした。

 

振るった拳は真っ直ぐにビルゲニアに向かっていく。しかしそのまま行けば間にある盾に阻まれるだろう。その盾が見えてないのか、自分の状態が把握できていないのか。BLACKのボロボロの拳はそれでも向かっていく。

 

(なんだとッ!?)

 

ビルゲニアは信じられないものを見た。体感している時間がゆっくりと遅くなっていくなか、向かってくるBLACKの拳が元に戻っていた。

 

再生、というにはあまりにも早すぎて、ビルゲニアの目には一瞬にも満たない時間で元の状態に戻ったようにしか見えなかった。

 

再び黒い装甲に覆われたBLACKの拳はビルテクターに激突し、血と装甲を撒き散らしながら爆発する。

 

だがBLACKは止まらない。

 

右、左、右、左、と一撃一撃、腕を破壊し、再生しながら拳を打ち続ける。

 

最初のスピードはそんなに速いものではなかった。しかし、最初の一撃を受けてしまったことでビルゲニアは盾を持つ腕を中心に全身に痺れがまわり動きが一瞬止まる。BLACKの拳を避ける隙も反撃の隙もなくなってしまったのだ。

 

殴る。

 

殴る殴る殴る。

 

BLACKの動きが、

 

殴る殴る殴る殴る殴る殴るッ!。

 

加速していく!

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

もはや人が上げる雄叫びではない。獣のような咆哮。止まらぬ拳は一発ごとに威力と速度を増していく。暴嵐のような乱撃がビルテクターを打ち続けている。その都度に拳を、腕を破壊し、再生させながら、

 

(止まるな、止めるな、いけ行けイケェッ! このチャンスを逃すなッ!!)

 

痛い。

 

腕が痛い。

 

壊れる腕が痛い。治る腕が痛い。

 

痛みで頭がおかしくなりそうだ。

 

だけど、それがどうした!

 

「ングガァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

振り絞る。声を、力を、自分の中にあるものを全てフリシボリ、拳に宿す。回避はさせない。このまま邪魔な盾を粉砕し、その奥にいるビルゲニアにこの拳を叩き込む。

 

仮面ライダーBLACKこと黒山陽介の思考はその一点にのみ集中された。

 

(・・・まだだ。まだ耐えるのだ)

 

一方のビルゲニアもBLACKの激しい攻勢に耐えながらも反撃のチャンスを伺っていた。

 

(確かに恐ろしい威力だ。我武者羅な拳でもこのパワーが直撃してしまうのは不味い。だが単調なのだ貴様の動きは!)

 

加速していくBLACKの猛撃に耐えながらビルゲニアは一瞬の勝機を待つ。

 

拳を打つというのは、腕を引いてから突き出す動きのことだ。BLACKがどんなに速く、強い威力のパンチを打とうと、やっていることは引いて突くという単純な動きだ。

 

ならば、あとはタイミングを合わせるだけだ。拳を引いたその瞬間に盾を押し込めばこの暴嵐の拳撃は抑えられる。

 

焦るな。

 

「オオオオオオオオオオオオッ!」

 

焦るな。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

焦る、な。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オ」

 

(ッ! ここだッ!)

 

実際、ビルゲニアの考えは正しかった。

 

止まらないBLACKの攻勢を止める手段はそれしかなかった。BLACK自身もビルゲニアをぶっ飛ばすまで止まるつもりはなかった。しかし無視していた肉体の負荷は本人が気付かぬところ露呈してしまった。

 

一瞬、ほんの一瞬だ。ほんの一瞬の呼吸、僅かながら鈍くなった動き、その瞬間がビルゲニアに勝機をもたらした。

 

───その視界に崩れていくカ・ディンギルを映さなければ。

 

「な」

 

それはあり得てはならぬ光景。1人の女が長年積み重ねてきた悲願の塔。天に届きそうなその塔の先端部分が破壊され砕け散っていた。

 

何があったッ!? と思考がぶれる。

 

思考がぶれた。

 

それが決定的な隙になった。

 

「ダァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「しま」

 

嵐の勢いが増す。

 

しまった、という暇もなかった。最大の好機を逃したビルゲニアに待っているのはBLACKの猛攻。そして、その時は遂に訪れた。

 

ピシッ、と何かが皹割れる音。それはビルテクターに皹が入った音。追加の拳。ビルテクターが爆散する。

 

己を守っていた盾が破壊された。広がる視界、そこに見えたのは拳。視界を埋め尽くす赤黒い拳。

 

ビルゲニアは拳の暴嵐に呑み込まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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