「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」
顔、肩、胸、腹、仮面ライダーBLACKはビルゲニアの上半身にありったけの力を込めて殴る。ひたすらに殴る。殴る。
「ウウウウウ、ダァッ!!」
思いっきり踏み込み、最後の一撃をビルゲニアの顔面に叩き込む。踏み込んだ地面は陥没した。腕を振り切ると、ビルゲニアは声を出す間もなく吹き飛び、避難し無人となっている建物へ突っ込んでいった。
「ハァ・・・、ハァッ・・・、う!? ぐ、がああ!?」
両腕から走る激痛が脳内で暴れまわる。叫びたい衝動は奥歯を噛みしめ無理矢理押し殺す。両腕はもう動かない。形だけなら再生しているが、腕を壊しながら殴り、瞬く間に再生させながら殴り、とあれだけ無茶な使い方をして元の形に戻っているのが不思議なのだ。
これもキングストーンの力なのか、傷1つ残らずBLACKの両腕は再生されていた。しかしその両腕はだら~んと垂れておりピクリとも動かすことができない。肩から先の感覚がなくなっていった。
「ぶっつけ本番だったが、なんとかなるもんだな」
そもそも、何故BLACKはこのような手段をとったのか。
BLACKはビルゲニアに勝つ為には何をすればいいか考えた。ビルゲニアが産み出した新たな必殺技の対処? それもあるが、一番の決め手はビルゲニアの持つ盾、ビルテクターをどうにかすることだった。
今までの戦いを振り返った時、あの盾こそがビルゲニアの生命線だと思った。あの盾には何度も攻撃を防がれている。あの盾をビルゲニアの手から離す、あるいは破壊する、いずれかの選択があった。
仮に盾をビルゲニアの手から離すことができたとする。そこで安心していいのか。いや、ダメだろう。以前ビルゲニアが自分の剣、ビルセイバーを念力のようなもので呼び寄せていたのを見たことがある。ならば盾の方も念力で呼び戻す可能性がある。
ならば残る選択肢は盾を破壊するしかない。しかし、あのビルテクターが尋常ではない堅さであることは身をもって知っている。ライダーパンチもライダーキックも通用しなかった、ならどうする? 盾を壊すまでライダーパンチやキックを撃つしかないと思ったがそんな連続で技を放つ隙をビルゲニアが簡単に与えてくれる訳がない。
じゃあ、どうすれば、といい考えが浮かばない。しかしうだうだと考えてる暇もない。ならばとBLACKは思考を単純にした、そして1つの結論に至った。
ぶ っ 壊 す ま で ぶ ん 殴 る。
細かいことは後にすると思考をかなぐり捨て、取りあえずぶん殴ることにした。
1発でダメなら2発、2発でダメなら3発、3発でダメならと、とにかくぶん殴ることだけに集中した。
とはいえ普通に殴っていては時間がかかる、又は破壊することができないかも知れない。腕にありったけ、いや限界以上のキングストーンエネルギーを込めるのだ。そこでBLACKはビルゲニアに突撃する前にこう呟いた。
通常、仮面ライダーBLACKが扱う技の1つにパワーストライプスというものがある。これはベルトからではなく、首周り・手首・足首にある赤と黄のラインから蓄積されたキングストーンエネルギーを放出するものだ。ストライプから全身に行き渡らせ、身体能力や必殺技の威力の上昇、また敵の拘束を解く際に使われることがあった。
言うなればハイパワーストライプスはパワーストライプスの強化技。と、BLACK本人は思っていたが実際はそうではなく暴走と言ったほうが正しいかもしれない。
ベルトのキングストーンのエネルギーを過剰に供給し続けそのエネルギーを腕に集中させた。無理矢理だが確かにパワーは溜まる。バイタルチャージよりも予備動作などがなく、血液が体内を巡回するようにエネルギーを腕に送る。だが過剰すぎるエネルギーを蓄えられた腕はそのパワーに耐えきれずビルテクターに接触すると腕の内側からエネルギーが爆発した。
これでは
ならとっとと治せッ!
無茶な思考を受け取ったのかキングストーンは更にエネルギーを送る。殴るためのエネルギーと腕を治すエネルギー、莫大なエネルギーは肉体の負担を無視し“殴る”という行為を行うために働き続けた。
その結果、殴る、壊れる、治すという3工程の無限ループが完成する。止まらず、動き続けるこのループは加速しBLACKの拳は荒れ狂う嵐と化した。
その甲斐があり、
「クソ、ビルゲニアめ」
腕にキングストーンエネルギーが送られ、それが内側から回復していることがなんとなく理解しながらBLACKは悪態を吐く。
拳は確かにビルゲニアを捉えた。だが直撃はしなかった。その理由はぶっ飛ばしたビルゲニアが此方に向かって歩いてくる姿が見えたからだ。
拳のあとがくっきりとビルゲニアの魚類のような鱗の鎧にびっしりついている。腹部から駆け上がり、胸部、肩、腕が潰されたように見える。真っ白い顔面も青あざを作り腫れ上がっていた。
だが、それでもビルゲニアは悠然と立つ。右手の
BLACKの拳の跡はビルゲニアの体半分にしかついていなかった。BLACKから見て右側、つまりビルゲニアの左半身を潰しただけに終わってしまった。
ほとんど反射に近い反応だった。拳が直撃する刹那、ビルゲニアの体を動かしたのは戦士としての直感か、はたまた生存本能が働いた結果か、いずれにせよビルゲニアは拳が当たる直前に僅かに身をよじった。
直撃は避けられた。だが左半身は犠牲になった。
(恐ろしい威力だった。一発一発がライダーパンチ以上だとわ、だがオレは生きている。まだ! 戦える!)
(こっちはもう腕が使えねぇ、キングストーンがエネルギーを寄越さねえ。腕の回復に集中してやがるのか? だがまだだ! まだ終わってねぇ!)
互いに言葉は交わさず視線だけが交差する。両者の乱れた呼吸だけが聞こえる。
残された武器は互いに1つ、BLACKは足、ビルゲニアは剣。
そして互いに理解した、次の一撃で決着がつくと。
ビルゲニアは腰を落とし剣を構える。その構えはBLACKのライダーキックを破った
ビルゲニアが力を流しビルセイバーを回転させる。発射体勢は整った。BLACKは深呼吸を繰り返す。そして、先に動いたのはBLACKだった。
後ろへ大きく跳躍する。後ろ宙返りだ。逃げる為の跳躍ではない。着地地点には2人の戦闘の余波で折れ曲がった街灯があった。それを足場する。竹のようにしなった街灯の反動を利用し高く飛び上がった。不快な金属音と共に街灯は完全に折れた。
「来ぉいッ!」
「デェイヤアアアアアアアアッ!!」
「ビルセイバーネオダークストームッ!!」
BLACKは急降下し脚を突き出す。ビルゲニアは向かってくるBLACKを迎え撃つ。
脚と剣が激突する。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「ハァアアアアアアアアアアアアアッ!」
互いの意地と想いがこもった一撃が炸裂する。風が吹き荒れ、火花が散り、互いの一撃が拮抗する。
(拮抗した時点でオレの勝ちよォ!)
以前の戦いと同じ状況。ライダーキックとビルセイバーがぶつかり拮抗した状況でビルゲニアはもうひと押し力を加えライダーキックを撃ち破った。
今回も同じだ。勢いよく右手を引いてビルセイバーの柄を───
「アアアアアアアアアアッ!」
「な!?」
右手を引いた瞬間をBLACKは見逃さなかった。いや、それを待っていたと言っていい。ビルゲニアがビルセイバーの柄を殴る為に右手を引いたその瞬間、BLACKは高速回転するビルセイバーを自らの左足に深々と突き刺せた。
足裏から表へ剣が貫通。足から血が飛び散る。だが、ビルセイバーの回転は止まった。
BLACKは更に、足に突き刺さったビルセイバーの剣腹に右足の足刀を叩き込む、ビルセイバーは甲高い金属音を辺りに響かせ真っ二つに折れた。刀身の先端から中腹にかけてはBLACKの足に残り、それより下の部分は地面を転がっていった。
「バカなッ!」
ビルゲニアが右手を引いた瞬間に起こった出来事だった。高速回転する剣を片足で無理矢理止め、あまつさえその剣を叩き折られた。ビルゲニアの中でナニかが砕けていく音が聞こえる。
だが、BLACKはまだ止まらない。
ビルセイバーを折った勢いのままに空中で回転。そのまま廻し蹴りを繰り出す。
「ッ!? ぬぅおおおおおおおおおッ!!」
ビルゲニアも一歩踏み出し引いた右手を握り締め突き出した。
先に届いたのはBLACKの方だった。
ビルゲニアの横っ面に廻し蹴りが決まる。ビルゲニアは錐揉み回転して倒れ、BLACKは頭から地面に落ちたのだった。
☆
「・・・む、・・・ぐ・・・・・・」
体に走った痛みの信号によりビルゲニアは意識を取り戻した。まだ動く右目を開ければ、視界に広がるのは朝焼けの空。自分が仰向けに倒れていることがわかった。
「・・・・・・」
何てことはないただの空、ビルゲニアは何故か空を眺めているだけなのに心穏やかな気持ちになっていた。
ただ空を眺める。こうして空を眺めるのは何時ぶりだろうか、そんなことを思っていると、足音が聞こえてきた、しかも近づいてくる。何とか視線をその方向に向けると、1人の男がこちらを見下ろしていた。
「・・・フン、どうやら貴様の勝ちらしいな、黒山陽介」
ふぅー、と一息吐く、そこにいたのは変身が解けているニンゲン、黒山陽介がいた。
「ビルゲニア、お前・・・」
「何だ? トドメを刺すならさっさとするがいい。もうオレは動けんのだからな。それとも
ビルゲニアは仰向けに倒れているが五体満足という状態ではなかった。
残っているのは上半身のみ、そこにある筈の下半身はなく、下半身に相当する部位には白い砂が溜まっていた。そして、ビルゲニアの残った体はパキ、パキ、と少しずつ崩れ落ちていた。
そんな自分の姿を哀れむか、黒山陽介、そう思っているならその喉笛を噛み千切ってやると憤慨しそうになるがそんな気にはならなかった。
その黒山陽介の顔はこちらを哀れむようなモノではなかった。
「・・・・・・1つ、聞きたいことがある」
「・・・何だ」
「お前、何の為に戦ったんだ」
「・・・・・・フフフ、フハハハハハハハハハッ!! いきなりどうした! 数多の怪人を屠ってきたキサマが敵の戦う理由など気にするとは、軟弱になったな仮面ライダーBLACKッ!」
「気になったんだ、しょうがねぇだろう」
「フン、以前にも言った筈だ。キサマとの決着つける───」
「それだけじゃねぇだろ」
「・・・・・・」
「俺が知ってるビルゲニアって怪人は目的の為なら卑劣な手段をとることも厭わないヤツだった。だけどお前はそんな手段はとらず真正面から勝負を挑んできた」
「軟弱になったキサマに策を労するまでもなかっただけだ」
「・・・お前の剣からは以前あった邪念のようなものを感じなかった。鋭くて、重くて、立ち合ってみて“ヤバイ”って肌に感じられるものだった」
「その剣はキサマにへし折られたがな」
「だけど、お前は強かった」
「─────」
「お前の剣には“想い”が乗っていた。以前あった邪念とは違うなにか純粋な想いがな。想いを背負ったやつってのは強いんだよ。だから気になったんだ、お前がそんな“想い”を背負って戦う訳がよ」
「・・・・・・・・・ハァッ!」
「うわっ!?」
突然の衝撃が黒山陽介を襲った。ビルゲニアが急に手をかざすとそこから見えない力、念動力のようなもので吹き飛ばされた。
「トドメを刺す気がないならとっとと失せろ。気分が悪くなる」
「っつつ。ヤロウ、何だよいきなり」
「こんなところでペラペラと喋ってる暇があるのか? 随分と余裕だなキサマは」
「ッ! そうだ、行かなきゃ」
陽介は立ち上がりそそくさとロードセクターに跨がる。エンジンを入れ、走りだす直前、陽介は口を開いた。
「ビルゲニア、・・・あばよ」
「・・・ああ、さらばだ」
交わすのは言葉のみ。互いの顔を見ることはなかった。
そして、陽介はロードセクターを走らせる。向かう先は空までそびえ立つ塔、カ・ディンギルだ。
「フン、結局トドメを刺さずにいったか、甘い奴よ」
ロードセクターが地を駆ける音を聴きながらオレは再び空を見る。いや、顔が動かせなくなって空を見上げることしか出来なくなった。
体がボロボロと崩れていくのがわかる。不完全な体だというのによくもったほうだ。それにしても、
「フフ、フハハハハハハハハハッ!!」
体はボロボロだというのに笑いにが込み上げてきた。自分でも驚いている、オレは負けたというのに何故か不思議と気分が高揚していた。
「しかしあそこまで愚直に拳を振るうとはな、バカとは思っていたが、あそこまで己を省みないとはな」
オレがが知っている黒山陽介こと仮面ライダーBLACKはもう少し冷静な男だったはずだが、今のあの男はどこか壊れている。
それがなにで、いつからかは知らん。知るつもりもないし知る時間もない。それにそんなことは些細なことだ。
今のオレは、そう、満たされたのだ。
戦士としてこれ程満たされたことはかつてあっただろうか。見定めた宿敵と全力で戦う。何者にも邪魔されずオレは全力で戦えた。
オレの人生は次期創世王を育てるための当て馬で終わる人生ではなかったのだ。どの道終わるとしてもこの終わりはオレが望んだことだ。悔いはない。
このまま仮面ライダーBLACKとの戦いの記憶を反芻しながら消えていくのだろう。
ああ、満たされた。
満たされているはすだ。
それなのに・・・、
戦士でないオレが心残りがあると叫んでいる。
「・・・・・・すまんな、フィーネ」
呟いたその名は、美しい金髪を持つ彫刻のように美しい女の名。
───お前の剣には想いが乗っていた───
なにをバカなことをと思った。
剣に乗せるのは敵を斬るという意志だけで充分だ。それ以外は余計な邪念だ。余分なもの乗せればそれだけ剣は鈍る。
だというのに奴は今のオレは強いと、暗にそう言っているようだった。
・・・・・・、
・・・・・・・・・、
ああ、そうだ。
あの女の為に戦ったのは事実だ。だがそれは、何度も転生を繰り返してでも己の野望を果たさんとするあの女に興味があったからだ。
それだけだ。
それだけのはずだ。
・・・いいや、違うな。
最初はそうだったかも知れないが、いつからかあの氷のように冷たく美しい女が、花咲くように笑う姿が見たいと思った。
だが、オレではそんなことは出来ぬだろう。戦うことしか知らんオレではあの女を笑顔にする方法などない。それに、あの女の中にはもう誰かが居座っている。オレの入る余地など最初からない。
ならばせめて、あの女の望みを叶える手伝いをしてやろうと思った。オレでは無理だが、あの女が望みを果たせば笑顔が見れるはずだ、たとえそれがオレに向いていなくても。
・・・あぁ、そうか。
こんなにも単純なことか。
「オレは、あの女の笑顔が───」
風が吹いた。
人肌を撫でるような優しい風だ。
風は運ぶ、剣聖と呼ばれた怪人だったものを。
無人となった街中を風が吹く。そこにあったヒトの形をした白い砂が次々と風に運ばれていく。
何も残らない。そこにはもう何もない。
ただ、風が吹く。戦士として戦いぬいたモノと1人の男が抱いた淡い思いと共に何処かへと飛んでいく。
風が、吹いたのだった。