戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第二十五話 飛蝗は跳ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

全身が痛みを訴える。もう休めと神経が叫ぶ。しかし止まれない、止まってる暇はない。

 

早く、早く、早く!

 

ロードセクターをドンドン加速させ黒山陽介はカ・ディンギルの根元を目指した。

 

嫌な予感が増していく。

 

カ・ディンギルに近づくということは二課本部があるリディアン音学院に近づくということだ。

 

カ・ディンギルとの距離が縮まるほど崩壊した建物が、瓦礫が、煤の山が増えていく。そして、同時に人の気配がどんどん消えていくのを感じた。

 

「こちら黒山だ、誰か返事をしてくれ。弦さん、響ちゃん! 翼ちゃん! クリス!」

 

『・・・・・・・・・・』

 

配布された通信機を使うも、帰ってくるのは無機質なノイズのみ。電波が悪いのか、それとも通信が出来る状況でないのか。

 

最悪の状況が頭に浮かんでしまう。そんなはずはないと思いながらも周りの惨状が希望の芽を摘むんでいく。

 

走る。不安を吹き飛ばすように ロードセクターを走らせる。すると、 走り続けた先に人影が見えた。

 

2人いた。

 

1人は地面に横たわっている。リディアンの制服を着ている女の子だ。

 

もう1人は倒れている女の子を見下ろしている。金の髪と黄金の鎧を纏っていた、その姿は明らかに異質な人物だった。

 

その人物が結晶が連なったような鞭を振り下ろそうとしている。

 

アクセル。ロードセクターが唸りを上げる。

 

「何ッ!?」

 

2人の間に割って入る。鎧の女はその場飛び退き少し距離をとったようだ。

 

「ッ!? 響ちゃん!」

 

「ヨウ、さん」

 

倒れている女の子は陽介がよく知る人物だった。

 

「響ちゃん、何があったんだ。他の皆は無事なのか!?」

 

「あ、あ、ヨウさん。クリスちゃんが、翼さんが、私何にも出来なくて・・・」

 

立花響は酷い状態だった。今の彼女からはいつもの元気がなくその瞳は絶望に染まっていた。かつての自分を思い起こすが今はそんなことを思い出している場合ではない。

 

彼女が伝えようとしていることが、自分が予想してしまった嫌な状況だとわかってしまう。それを行ったのは、

 

殺気を感じた。

 

響を抱き抱えその場から急いで飛ぶ。着地もままならず響を抱き抱えながら地面に倒れる。轟音が聞こえ、振り向けば先ほどまでいた場所がつぶれた饅頭のように陥没していた。

 

「随分と手荒い挨拶ですね了子さん。イメチェンにしては少々派手過ぎな気がしますけど」

 

「櫻井了子という女の意識は既にこの世にない。私はフィーネだよ、仮面ライダーBLACK」

 

マジかよ。と当たってほしくなかった疑惑に内心ショックを受ける。

 

「なぁ了子さん、もうやめにしないか。カ・ディンギルはこの子達がぶっ壊したんだろ。もう月を破壊するなんてできないはずだ」

 

「だから止まれと? バカを言うな。確かにカ・ディンギルは破壊されたが、私のこの想いは止まらない。この胸の内をあの“御方”に打ち明けるまで私は何度でも立ち上がる。何者にも邪魔はさせない!」

 

強い。途方もない意志の強さを感じた。彼女は生半可な気持ちでこんなことをしでかしたわけではないのがわかる。その胸の内にある純粋な想いを叶える為に行動したのだ。

 

「だからって、こんなやり方しかなかったのかよ」

 

「積み上げた年月が違う。俗物共には理解できまい。月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす惑星規模の天変地異は極大だ。世界は荒れるだろうが必要な犠牲だ。だが、私という新霊長が愚民共を纏め上げ、統一言語を取り戻す。そうすれば、きっとあの御方は再び現れてくれる」

 

「ふざけるな! 呪詛だが統一だが知らんが、月の破壊で被害が出るってわかってあんたは何も感じないのか!?」

 

「蟻が何匹死のうが私には関係ないことだ」

 

「了子さん、あんたはッ!」

 

「私はフィーネだ!」

 

止めなくてはならない。己の行いが間違ってないと突き進むこの人を止めなくてはいったいどれほどの涙が流れるのか。

 

「響ちゃん、立てるかい?」

 

「・・・」

 

「響ちゃんッ!」

 

「え、あ・・・」

 

駄目だ。完全に闘志が折れている。今の彼女は闘える状態ではない。

 

フィーネが振る鞭を辛うじて避けながら響を瓦礫の影に隠す。

 

「ここにいるんだ」

 

「ま、待って」

 

返事は聞かずフィーネの前に飛び出す。

 

「覚悟はできたようだな」

 

「ああ、あんたを止める」

 

「出来るかな、キサマに」

 

「止める。これ以上あんたの好きにはさせない! ─────変・・・身ッ!!」

 

既に体は限界を越えている。表面上は傷は消えているが内部はボロボロだ。しかし、それでもやらねばならない。倒すためではなく、止めるために戦うのだ。

 

「仮面ライダー・・・BLACKッ!!」

 

「───ククク、クハハハハハハハハハハハハハハッ!」

 

体が変わり、フィーネと相対すると思いきや、フィーネが突然大声で笑いだした。それは、こちらを侮蔑するような笑いだった。

 

「ハハハハハ! その姿が仮面ライダー? そんな醜い姿のどこがヒーローなのだ」

 

「何を言って・・・ッ!?」

 

フィーネの言葉で自分の体を見て驚愕した。体は確かに変わっている。人の姿ではない。だがそれは仮面ライダーBLACKというにはあまりにも欠け離れた姿だった。

 

視界に写る腕には自分を覆う黒い装甲、リプラスフォームが展開しておらず薄緑色の皮膚のみが現れている。

 

腕だけではない、腹、足もリプラスフォームが展開しておらず全身が薄緑色の皮膚に変化している。

 

そして、ロードセクターのミラーに写った自分の顔を見た。

 

「これは・・・ッ!?」

 

その姿は仮面ライダーBLACKではない。まさしくバッタ。バッタ人間とも言うべき姿に黒山陽介は変わっていた。

 

「ククク、どうやらビルゲニアとの戦闘は思った以上に影響が出ているようだな。そんな姿ではまさに怪人だな、アハハハハ!」

 

思わずキングストーンがある腰部をまさぐってみる。

 

ある。

 

キングストーンは確かに自分の中にあると感じる。だがこれはどういうことだ。何故、変身できない。

 

思い当たる節があるとすればフィーネが言っていたようにビルゲニアとの戦闘だろう。

 

BLACK自身に自覚はないが、ビルゲニアとの戦いは熾烈を極めた。BLACKは今ある力を、これから生きる()()の力を振り絞って戦った。今、BLACKは自分の中にあるキングストーンは休眠しているかのような感覚を覚えた。

 

「化けの皮が剥がれたとはこういうことだな。お前は既に人間ではない。いや、その姿こそがお前の真の姿だ。ゴルゴムに体を改造されたお前はその姿から人間に、仮面ライダーに変身していたのだ。お前は、人の、ヒーローの仮面を被った“怪物”だ!」

 

「くッ!?」

 

フィーネが乱暴に鞭を振るう。生きた大蛇のような軌道を描きながら猛烈な勢いで陽介に襲いかかる。

 

何とか回避するもフィーネの攻撃は止まらない。地を跳ね、空中で軌道を変え、四方八方から鞭が襲いかかる。

 

「今のお前を人前に見せたらどんな反応をするかな。きっと、掌を返し、石でも投げつけるだろうな。“この怪物が!”と恐れるだろうな。所詮は“仮面”を被っただけ、本性を見れば人間は襲いかかってくるだろうよ!」

 

「そんなこと!」

 

「英雄というものは市民が望んだものだ。都合よく望まれ、役目を終えれば用済みとなる。人類にとっては都合のいい使い捨ての駒だ。脅威から守ってもらうのも、厄災の元凶に仕立てるのも、願い、乞われれば簡単に人柱になる。全く厄介で哀れだな英雄というのは!」

 

(軌道は見える、身体中が痛てぇがまだ動ける、鞭は避けられる。)

 

「お前も哀れなものだな。そんな醜い姿になってまで戦っても称賛など得られまい。あるのは謂れのない非難や罵詈雑言だというのに」

 

(一撃でも食らうのは駄目だ。こんな状態じゃ、一発で致命傷だ。後は・・・)

 

「人間は見た目で判断する。お前がどれだけ人を助けようが、その助けた人間にお前は裏切られる。誰もお前を望んではいないのだ」

 

(とにかく動け、動け、動け、とべ、飛べ、跳べ!)

 

「だが、そんなお前でもまだ利用価値はある。大人しく頭を垂れ、私にキングストーンを差し出すがいい。その石は実に魅力的だ。いち科学者としておおいに興味がある。それだけがお前という無価値な生物に残った唯一の───」

 

「ごちゃごちゃうるせぇッ!」

 

「かはッ!?」

 

風が走る。

 

縦横無尽に降りかかる鞭をギリギリで避け、陽介は跳んだ。

 

回避も防御も間に合わない、反応できない速度でフィーネの顔を蹴り抜いた。

 

「好き勝手言いやがって、あんたそんなに上から目線だったか」

 

「・・・事実、私は全ての存在の頂点に立つ。お前こそまだ抗うか、意味などないぞ」

 

「それがどうした。俺の姿が化け物だとか、英雄がどうだかなんだ言ってるけど、そんなことは大したことじゃないんだよ。俺は、俺が護りたいものの為に戦ってきたんだ。周りがなにを言おうが、自分を誤魔化して見て見ぬふりなんてしたら、俺は自分が許せない」

 

「だから護ると? 傲慢だな」

 

「傲慢で結構。目の前で人が死ぬを黙って見てられるか。どんな姿だろうと俺は俺だ! だから戦う。あんたがやろうとしていることは見過ごせないからな」

 

「やってみるがいい、無駄な足掻きを!」

 

「うおおおおおッ!」

 

ネフシュタンの鞭が鋭く襲いかかる。バッタ人間と化していても陽介は止まらない。止まるわけにはいかない。

 

全身が軋む、どこかの筋が切れる音がする、だけど止まらない。陽介は跳ぶ。

 

地を跳ねる、瓦礫を蹴る、跳ぶ。

 

「ダァ! ハァ! セイ!」

 

フィーネが振るうネフシュタンの鞭を潜り抜け、的確に、確実に蹴りを加えていく。

 

リプラスフォームが展開されてないことで今の陽介の防御力は0に等しい、一撃でも攻撃を受ければ終わりだ。

 

だが、怪我の功名と言うべきか、今の陽介は仮面ライダーBLACKへの完全な変身ができず、バッタ人間という中途半端な状態へと変身している。

 

バッタ、そう飛蝗なのだ。

 

バッタと思い陽介が思い浮かんだことはとにかく“跳ぶ”ことだった。

 

跳んで跳んで、跳びまくる。それがこの状態で出来る唯一のことであり、最大の武器だった。リプラスフォームという身を護る鎧のような皮膚はないが、“鎧”がないことでBLACKを上回るほどのスピードを手に入れたのだった。

 

ネフシュタンの鞭の怒涛の攻撃を避け、とにかく跳ぶ。

 

跳んで、蹴る。跳んで、蹴る。跳んで跳んで、蹴る。跳んで跳んで跳ぶ。

 

「うぉうりゃああああああッ!!」

 

「ちぃ、鬱陶しい!」

 

まるで光に群がる虫のようだとフィーネは感じた。忙しなく跳ね回り、ちょっかいをかけるこの怪物をどう対処するか。

 

いや、深く考える必要はないと思考を切る。此方は堅牢な防御力と無限の再生力を持つ完全聖遺物と融合した上位存在。片や、完全な変身ができず怪物と化したヒトもどき。

 

アレは此方の攻撃を避け、自分の攻撃を当てているつもりだろうが、無駄な行為だ。

 

痛くも痒くもないのだ。あるのは鬱陶しいという感情のみ。

 

想定していた仮面ライダーBLACKのパワーには及ばず、シンフォギア装者の戦闘力にも及ばない。生身で皹を入れたあの埒外の漢の拳にも及ばない。

 

放っておいても勝手に自滅する、まさに無駄な足掻きだった。

 

「ハァッ・・・ハァッ・・・、ゲホッ! ゴホッ!・・、ハァッ・・・ハァッ・・・」

 

血反吐を吐きながら跳ね回る姿はもはや見苦しい。無限に跳ね回る体力はなくスピードも落ちている。迫る鞭を回避することか叶わなくなっていき、時折どうにか蹴飛ばして直撃を避けているのがやっとだった。

 

───だというのに、

 

「うぐぅあああああアアアアアAaaaaッ!」

 

(何故、奴は止まらないッ!?)

 

獣のような雄叫び、命を燃やし尽くすような叫び、その見苦しくもがむしゃらな姿にフィーネは僅かに臆してしまった。

 

その瞬間を待っていたかのように陽介は加速する。

 

繰り出させる加速の乗った蹴り。相手を穿つような一撃。それを防げたのはほぼ反射に近い反応のおかげだった。臆したことで体が守りに入りで鞭を引き寄せ蹴りを受け止めることができた。

 

鋭利な鞭に陽介の足裏が沈み血が噴く。まだ足は一本ある。追撃の蹴りを繰り出そうとするが迎撃の鞭の方が速いので断念。鋭利な鞭を無理矢理足場にし、一端飛び退く。

 

陽介は空中で一瞬力を溜め、そこから真下に垂直に落下。着地をするにしては勢いが強すぎるが、狙いは着地ではない。地面を穿つ。衝撃が震動となって辺りを揺らすがフィーネにダメージはない。

 

何を、と呟く前にフィーネは陽介の狙いに感づく。地面の一部が盛り上がっていた。落下の威力で、テコの原理で地面を盛り上げたのだ。

 

「うらぁッ!」

 

5メートルはあろう盛り上がった地面を陽介はサッカーボールのように蹴り飛ばす。

 

「そんなもの!」

 

常人ならともかく、完全聖遺物と融合した私にこんな地面の塊でどうにかできると思っているのか。やはり無駄な足掻きだとフィーネは嘲笑う。鞭の一撃で地面の塊は呆気なく砕け散る。

 

───陽介の狙い通りに。

 

跳ぶ。無数に砕けた地面を足場にして跳ぶ。砕けた破片を壁にしてフィーネの視界から隠れ背後に回り込む。

 

「む、ヤツはどこに・・・ッ!?」

 

言い終わると同時に背後に気配を感じたフィーネだがもう遅い。

 

「シャアァッ!」

 

「ゴッ!?」

 

フィーネの首に蹴りを叩き込んだ。容赦のない攻撃だ。下手をすれば危険な状態に陥れてしまうかもしれないが、それだけ陽介に余裕がなかったとも言える。

 

ともかく、この一撃で決着が───

 

 

 

 

 

 

 

「───フフフ」

 

「な、に」

 

フィーネは首に受けた陽介の足を掴んだ。その表情に痛みを感じている様子はなかった。

 

「痒い痒い。やはり無駄だったな、もうお前には私を止める力などない!」

 

掴んだ足を離さずフィーネは陽介を地面に叩きつける。片手で、成人男性の体格をしている陽介を棒のように振り回し叩きつける。

 

1、2、3、と連続で何度も叩きつけ、10を越えてから力の限り投げ棄てた。

 

水切りする石のように地面を転がり、瓦礫の山に激突してその勢いは止まる。

 

「ゲホッ、ゴホッ、・・・ゴフッ」

 

咳き込み、灰の中の空気が体内の血と共に吐き出される。指を1本動かそうとする度に全身に苦痛が走る。

 

もう駄目だ。身体はとっくに限界を越えている、バッタ人間として全力を奮ってもフィーネにダメージを与えることすらできない。

 

───なのに、なぜ。

 

「・・・まだ、立つか」

 

「・・・フー・・・フー・・・」

 

全身の至るところから血を流しながらも陽介は立ち上がる。言葉を発する余裕はないが、荒い呼吸を繰り返しながらもフィーネを睨み付ける。その瞳からはまだ闘志が消えていない。

 

「・・・いい加減キサマの相手は飽きた。これで終わりにしてやろう」

 

鋭く迫る2振りの鞭、それが迫ったと思ったら急に軌道を変えた。あらぬ方向へ向かっていく鞭の先を見れば、

 

「なッ!?」

 

「証明してやろう。キサマは何も護れんとなあッ!」

鞭が向かう先、瓦礫の影から顔を覗かせる響がいた。

 

「え?」

 

呆けた声を上げ、迫る鞭を見つめることしかできない響。もう彼女に戦う力も気力も残ってない。陽介に動くなと言われたものの、戦い続ける陽介を目から離せなかった。

 

だがこの場から逃げもせず、隠れもせず戦いの様子を見ているという行為は最悪の状況を生んだ。

 

この鞭に貫かれれば自分は簡単に死んでしまうだろう。逃れられない死、それでもいいかもしれないと思ってしまう。だって、もう護るものも、帰る場所も失くなっていくのだ。ひだまりすら感じない。

 

既に絶望が響の心を染めている。響は生きるのを諦めかけている。そんな彼女の人生に幕が引くように鞭が迫った。

 

 

 

 

 

 

 

───しかし、鞭が響に届くことはなかった。

 

赤い液体が響の顔面にかかり頬を伝う。

 

「ヨウ、さん・・・」

 

「が・・・ゴホッ・・・」

 

右肩と左脇腹、鋭利な鞭は陽介の身体を易々と貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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