「ぐ、ぐぐ・・・」
身体を貫く鞭がズブリ、スブリと自分の後ろにある護るべきものに迫ろうとしている。そうはさせないと鞭を掴む。鋭利な鞭は掴んだ手を切り裂くが気にしてる場合ではない、強く握ったおかげか鞭の進行は止まった。
「響ちゃん、大、丈夫かい?」
「ヨウさん、なんで・・・」
「全く、ダメじゃないか出てきちゃ。早く、離れるんだ」
まるで何でもないように喋る陽介だが、今の状態は芳しくない。右肩と左脇腹を鞭で貫かれながらも倒れずにいるが、そこから血が流れ出ている。
助けなきゃ。
そう心に浮かぶ響だが、一歩も踏み出せない。一歩も下がれない。胸の中のナニかが欠け、ただ見ていることしかできなかった。
そうしていると陽介の身体から蒸気が吹き上がる。皮膚の隙間から漏れでるかのように吹き出す蒸気は一瞬、陽介を包み込む。そして、蒸気が晴れるとそこにはバッタ人間ではなく、人の姿になった陽介が現れた。
「クッソ、こんな時に」
「哀れ、無様、滑稽だな」
侮蔑の視線を向けながら陽介を嘲笑うフィーネ。陽介は睨み返す。
「そのようなゴミを見捨てておけば、万が一にも私に一矢報いるチャンスがあったかもしれぬのにな。愚かな事だ、お前は、自己満足の果てに何も護れず死んでいくのだッ!」
トドメを刺そうとフィーネが鞭を振るおうとするが、鞭は動かなかった。
「なんだ? 何故、びくともせんッ!?」
「ま、もる」
「なんだと?」
「俺は、護るんだ」
ありえない。それは誰の目からも明らかだった。
黒山陽介はボロボロだ。人の姿になって、全身から血を流し、足下には血だまりができ、今にも倒れそうだ。
───だが、彼は倒れない。
荒い呼吸を繰り返しながらも、歯を食い縛って根を生やしたようにしっかり立つ。
「ダメ、ダメだよヨウさん。死んじゃうよ!」
懇願するかのように響が叫ぶ。目の前の青年が力尽きてしまう。出血多量で死んでしまう。
もういい、逃げて、逃げてくれと願う。これ以上誰かが傷付くのを見ていられない、目を伏してしまう。
「大丈夫」
優しい声。
「大丈夫だよ、響ちゃん。俺が護るから」
「ッ! でも・・・ッ!?」
見上げて陽介の顔を見る。彼は笑っていた。ボロボロで苦しい筈なのに穏やかに笑っていた。
「俺がやるんだ、俺がやらなきゃいけないんだ。俺は、仮面ライダーだから」
「・・・ヨウさん・・・・・・・」
「フン、だからどうした。この状況を覆せると? お前を助けるものはいない。ズタボロのキサマにいったい何ができる!」
「・・・そいつは、どうかな?」
「何?」
「俺はもう1人じゃない。あの時にのように孤独に戦ってるんじゃない。・・・聞こえるんだ、声が!」
「何を言って・・・? いやまて、何だこの耳障りな歌は? ・・・歌、だとッ!?」
「これって・・・」
響の耳にもそれは聞こえてきた。段々大きくなっていくその音は声、いや幾つもの音色が重なった歌が聞こえてきた。
その歌は自分が通う学院の校歌。録音音声ではない、生の歌がスピーカーから流れてきた。
「まだ、終わってない。みんな、生きてるんだ」
「小癪! 今さらこんな歌で───ッ!?」
「うおおおおおおおおおッ!!」
微動だにしなかった鞭を陽介は引っ張りフィーネを引き寄せる。
拳を握る。一瞬だが腹の奥が熱くなった。残った力を全部右腕に集中させる。
「ラ゛イ゛ダー────」
ギリギリと腕が軋む。血が吹き出す。それがどうした。痛みなどとうに感じない。あるのは、今、この瞬間に全力を出しきることだ。
振り絞る。力を、想いを、願いを。
「バカな」
思わずそう口をこぼした。フィーネが目にしたのは瞬間の奇蹟。拳を握った男の腕が黒く変わり、一瞬、ほんの一瞬だが“黄金”に輝いた。
「───パァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛チ゛ッ!!」
なりふり構わない渾身の一撃。その拳はフィーネの顔面を捉え、瓦礫の山へ吹き飛ばした。
☆
息も絶え絶えになりながらも陽介はフィーネを吹き飛ばした方向を見つめる。身体を貫いていた鞭もフィーネに引っ張られるように飛んでいった為、右肩と左脇腹に穴ができ更に血が溢れ出した。
フラリ、と身体がふらついた。意識が遠くなる。
慌てて踏ん張り、何とか意識を保つ。視界がぼんやりしているがまだ終わってはいない。
強い気配が消えていないのだ。
「まさか、な」
視界の向こうから歩いてくるフィーネはピンピンしていた。
「偶然か? お前が“そこ”に至る可能性があるというのか? ・・・・・・いいや、そんなはずはない。完全でないお前にそんな可能性などありえない! それが成せたのはキングストーンのせいだ! そうでなければ───」
「・・・? なに、言ってんだ?」
どこか動揺した様子のフィーネだが、彼女が言っている言葉の意味を理解する暇はなかった。
「殺す。キサマはここで確実に殺す」
「がっ」
鞭が振るわれた。今までとは違う明確な殺意、鞭の先端から放たれた球場のエネルギーが陽介を襲う。避けられない、違う、身体が動かなかった。もはや避ける体力はない。
エネルギーが爆発し、その衝撃をもろに受け陽介は吹き飛ぶ。受け身などとれず無造作に地面を転がった。痛みはなかった。
「ま、だ・・・」
寝てる暇などないと、意地で身体を動かす。まだ、生き残っている人達がいる。その人達を護るためにも立ち上がらなければならない。そうでなければ自分に生きている価値などないと言い聞かせる。
立つ。だが、膝に力が入らなかった。姿勢が崩れる。
「倒れるわけには───」
ぽふり、と何かが陽介を支えた。温かい。何だとおもい視線を下げれば、
「ふぎぎ」
立花響が黒山陽介を支えていた。見た目は細みだが脱力した成人男性の体重を支えるのは大人ではない少女には厳しい。
「響、ちゃん」
「ヨウさん、ごめんなさい」
謝罪。いったい何に対しての謝罪だろうか。
「私が守りたかった皆は、まだ生きている。こんな私を支えてくれている。私が戦うのは、そう言うことだったんです」
陽介の肩を担ぎながら響は豪語する。まだ戦えると、その瞳には炎が宿っていた。
「だから、頑張れる。まだ、歌える。私はまだ、立ち上がれる。まだ、一緒に戦えます!」
「まだ戦えると言うのか。仲間を手折り、心を砕いたはず。お前が身に纏うその力は、何だと言うのだ?」
「シンフォギアアアアアアアアアアアッ!!」
光が、響と陽介を包んだ。
☆
「・・・・・・ん、・・・・・・ヨウさん!」
「ん」
微睡んだ意識が覚醒する。一瞬気を失っていたのか。いかんと思いつつ重い目蓋をこじ開ける。
「・・・綺麗だ」
「ふぇ!?」
「なッ!?」
「ちょ!? なに言ってんだこんな時に!」
どうやら口を滑らせたらしい。だが正直な感想なのだから許してほしい。それだけ今の彼女達の姿は幻想的に思えた。
響と復活した翼とクリスが纏うギアの形状が変化していた。彼女達の無事にほっ、としつつその姿に目を奪われてしまっている。
それぞれのパーソナルカラーを残しつつ全体的に白く輝いていて翼が生えている。不思議な形態だ。
「みんな、その姿は?」
「何ですかねこれ? ていうか私、空飛んでる!? なんか羽も生えてる!?」
「これはエクスドライブ。シンフォギアの限定解除モードです」
「ようはパワーアップだ。それよりもあんたの方だ! まったく、そんなボロボロになって、また無茶したんだろ」
「いや~、あはは」
「まったく、ほんとしょうがねぇやつだなあんたは。・・・ほら、肩貸してやるよ」
「・・・クリスちゃん。なんかヨウさんと距離近くない?」
「はぁ? 肩貸してんだから近くなるだろ」
「そうじゃなくて! なんか私達よりなんか心の距離感? が近いような気がするし、あとなんか対応がやわらかいし」
「・・・気のせいだろ。そんなことお前には関係ないし、いいからこの人はあたしに任せてお前は離れろよ。それとも、その空っぽの頭の中を銃弾で埋めねぇとわかんねぇか?」
「空っぽなんてヒドイ! ちょっとはあるよ!」
「・・・容量は少ねぇのかよ」
陽介を挟み何やら言い合いを始める響とクリス。しかし、いがみ合うような空気ではなくクリスが茶化すように響に話しかけていた。
どうやら、スカイタワー付近で別れてから何とか仲良くなれたようだ。その様子を微笑ましく見守っていたいが、先程からクリスは響から陽介を引き剥がそうと力を込めている。
エクスドライブってシンフォギアのパワーアップ形態だよね。そんな状態のこの子達に引っ張られたら痛だだだだだだだだだッ!?
「んっんッ!」
陽介が危うく裂けるチーズになりそうなところを見かねた翼の咳払いで2人の少女は一旦動きを止める。
「ふっふ~ん」
「・・・・・・」
結局、陽介は響に担がれたままだが響の顔は何故かこれ以上ないほど勝ち誇った顔をしていた。クリスは響の眉間を撃ち抜こうかと一瞬思案した。
「各々いろいろ言いたいことがあると思うが、まずは、この状況を打開してからにしよう」
「はい!」
「ちっ、わーたっよ」
4人の視線が地上にいる1人の人物に集中する。
「ふん、限定解除ができたぐらいすっかりその気か。その程度でこの私を止められるとでも? それにその役立たずを抱えたまま闘おうというのか、甘いぞ小娘共が!」
フィーネがソロモンの杖を起動させる。ノイズの召喚。しかし、その数は尋常ではない。辺り一帯を埋め尽くすほどのノイズをフィーネは召喚した。
圧倒的戦力数の差。常人なら絶望しているところだろう。だが、少女達に恐れはなかった。
「はっ! 今のあたし達をいまさらノイズで止められるか!」
「立花は黒山さんを頼む。殲滅するぞ!」
「うおおらぁあああッ!」
蒼と紅が飛翔する。斬撃が、銃弾が飛びノイズを一蹴していく。彼女達も桁違いな戦闘力を発揮していた。
「ふっ! はっ! だぁりゃああああッ!」
飛行型のノイズが陽介を抱えた響に襲いかかるが、響は慌てることなくこれに対処する。向かってくるノイズを避けては殴り、蹴りと確実に屠っていた。
鎧袖一触。あれほどまでいた大量のノイズはあっという間に全滅した。
フィーネは再びノイズを呼び出す。幾ら呼び出しても今の彼女達の前には通用しないということがわかったはずだが、
「ふんッ!」
フィーネは手にしたソロモンの杖で自分を貫いた。陽介達が驚いている間にノイズがフィーネに群がる。自決? いや違う。フィーネがノイズを取り込んでいるのだ。
大量のノイズが混ざり合い巨大なナニかが出来上がる。肥大しきったその姿は赤い龍にも見えるが、そう表現するにはあまりにもおぞましいモノだった。
閃光。龍が放った一条の光は街を焼き払った。
「逆さ鱗に触れたのだ。相応の覚悟はできておろうな」
龍の中からフィーネが姿を見せる。その手には完全聖遺物デュランダルがあった。ネフシュタンの鎧を軸に、ソロモンの杖、ノイズと融合。さらにはデュランダルを手にしたフィーネは正しく自身を完全な生物と豪語するだけの自信があった。
「さて、お前達の拠り所も奪ってやらねばな」
そういってフィーネは指を鳴らす。すると、どこからともなく異形の者達が沸いて出た。
「あれは!?」
「蜘蛛の怪人!? どっから沸いてきたんだこいつら!?」
「それに数が多いよ!?」
「ゆうに100匹。使い捨ての消耗品だが、地下の鼠どもを駆逐するには充分だろう」
クモ怪人達は一斉にある方向に向かって進軍し始める。それは二課本部へ繋がるゲート。あの数のクモ怪人が地下へ雪崩れ込んでしまったら、地下は地獄と化してしまう。
「そんなこと───」
「私を無視できる状況か?」
「くっそぉおおお!」
クモ怪人を止めようと装者達が動くが、そうはさせまいとフィーネが妨害する。装者達もフィーネに反撃するが与えたダメージはフィーネの所持しているネフシュタンの鎧が一瞬に修復する。
不味い、と装者達は焦る。このままでは護るべき人達に危険に晒されてしまう。せっかくもう一度立ち上がる力をくれたのに、みんなを護れないの?
「響ちゃん。俺を、投げろ」
そんな時、陽介が口を開いた。
「な、何言ってるんですかヨウさん!? そんなことできませんよ!」
「了子さんを止められるのは君たちだけだ。なら怪人を止めるのは俺の、仮面ライダーの役目だろ?」
「だからって、ボロボロのヨウさんに任せるなんてそんなこと───」
視線を陽介に向けると響は驚愕した。傷だらけで血だらけだった陽介の身体はいつの間にか綺麗になっていた。
「戦う力を分けて貰ったのは君たちだけじゃない。あの光に包まれて、俺も元通りだ。だから任せてくれ」
「でも・・・、ううん、わかりました」
「ありが」
「その代わり! これが終わったらおにぎりください! 私だけじゃなくみんなの分も、そしておにぎりパーティーしましょう!」
「ははっ、みんなか、そりゃいっぱい握んなきゃな」
「はい! 私、いっぱい食べます! 食べたいです! ・・・だから、気をつけてください」
「うん、わかったよ」
「何を、ごちゃごちゃしている!」
フィーネの攻撃を避け、響はおもいっきり振りかぶる。そして、
「どぉおおおりゃああああッ!!」
響は渾身の力で陽介を投げた。
「うおおおおおおおッ!?」
着地地点にいたクモ怪人の1体を踏み潰しどうにかゲートの前にたどり着く。目の前にはクモ怪人達が敵意の声をあげながらたった1人の門番に襲いかかる。
「こっから先は通さねぇ、絶対に。───変・・・身ッ!」
陽介に群がったクモ怪人達だが爆発がおきたような衝撃が起こり吹き飛ぶ。
煙が発生するが、それは発生させた本人の手で振り払われるとその姿を現す。
黒いボディに真っ赤な目。
人類の自由と平和を護るその戦士の名は、
「仮面ライダー・・・BLACKッ!!」
「ギ、ギギ」
本能が恐怖した。相手はたった1人、数では圧倒的にこちらが勝っているというのにクモ怪人達は足を止めた。
逃げろ、と本能が叫ぶ。
仮面ライダーBLACKから感じる気迫にクモ怪人達は言い様のない恐怖を覚えた。
だが、相手は1人。そう1人なのだ。
1対1では敵わなくてもこの数で押し潰せばいいのだ。
「G 、GYAAAAAAAAAAAAAAAA!」
沸き上がってくる恐怖を圧し殺すように叫び、クモ怪人達は突撃する。
その時、BLACKが護っているゲートのシャッターが吹き飛んだ。
「「ッ!?」」
「おおおりゃあああああああッ!」
ゲートの中から1人の男が飛びだし巨岩を思わせる腕を奮いクモ怪人の一匹を殴り、何体かのクモ怪人を巻き込みながら吹き飛ばした。
「げ、弦さん!?」
「応! 陽介、加勢させて貰うぞ!」
ニカッ! と、笑いながら二課司令、風鳴弦十郎が現れた。
「司令、あまり無理はなさらずに!」
「緒川さんも!?」
瓦礫が積もった高台から二課エージェントの緒川慎次がクモ怪人達に向かってハンドガンを発泡。命中するが通常の銃弾ではクモ怪人達にダメージを与えることができなかった。
突撃しようとするクモ怪人達だが妙な現象が起きた。身体か動かない。まるで地面に縫い付けられたように身体が動かなかった。
影縫い。緒川が扱う本家本元の緒川流忍術である。
そして、無防備になった相手を見逃すほどこの2人は甘くなかった。
「せぇぇぇいッ!」
「ライダーチョップッ!」
弦十郎の拳が腹を穿ち、仮面ライダーBLACKは手刀で両断した。2人は背中合わせになる。
「さすがっすね、弦さん」
「相手がノイズでないなら引っ込んでる必要はないからな。このまま蹴散らすぞ」
「司令! 痛み止めを射ったとはいえ重傷なんですからあまり無茶は」
「緒川は援護を頼む」
「・・・あぁ、もうわかりました」
どこか生き生きとした様子の弦十郎に緒川はため息を吐きながらも納得する。
3人が見渡すとうじゃうじゃとクモ怪人達が群がっていた。
「さて、もうひと踏ん張りってとこですけど、弦さん大丈夫なんですか? 怪我してるみたいですけど」
「そういうお前は本調子ではないだろ? 動きのキレが悪い。あれだけの無茶をしてまだ戦うというのだから、身体はとっくに限界のはずだろ」
「・・・黙って寝てるわけにはいかないでしょ。せめて、あの娘達が帰る場所は護んなきゃ」
「なら、この話題は終わりだ。・・・今、俺達がやれることをやるぞ陽介」
「はいッ!」
2人の男は駆け出した。
敵はあまりにも多い。だが彼らに退く理由はない。護るべきものの為に全力を尽くす。
誰に言われるでもない。それが自分達の為すべきことだから。