ツヴァイウイングのライブの惨劇。
仮面ライダーの敗北と死。
この2つの大事件が、まさか同じ日に起こるとは誰が予想しただろうか。
私が、天羽奏という片翼を失ったあの日。世界からは1人のヒーローが失われた。私が奏を失った悲しみから立ち直る暇もなく、その日から、世界は激動の日々を送った。
仮面ライダーの敗北と死を宣言したゴルゴムの首魁、シャドームーンは、世界征服を宣言し、日本を始め世界中でゴルゴムの怪人が暴れまわり、ゴルゴムを信奉する人々によってライフラインの制圧、独占がされ、世界は混乱を極めた。
ノイズよりも直接的な危機に防人として奮い起つ時だというのに私は、戦えなかった。歌えなかった。片翼をもがれ、地に堕ちた私は、1人では戦いの空へ飛ぶことができなかった。
日本がゴルゴムに征服され一週間が経過した頃、ある噂が世に流れた。
仮面ライダーが復活した。
真実かどうかも分からぬ噂だった。だが、日が経つにつれてその噂の信憑性が増した。仮面ライダーがゴルゴムの怪人と戦っている写真や動画が広まり、その姿を見た人々はゴルゴムに対して反撃を開始した。
やがて、ゴルゴムの怪人達が消失し、ゴルゴムを信奉していた人々が取り押さえられ、ゴルゴムが壊滅したことが世界に報じられた。後に“ゴルゴムショック”と言われる出来事だった。
私は、何もできなかった。
☆
ゴルゴムショックから半年が過ぎた。
世界は、緩やかに平穏を取り戻そうとしていた。そんな中、私個人に矢文が送られてきた。その内容に驚愕した。
風鳴八紘を預かった。
信じられない事だった。何の戯れかと思ったが、同封されていた写真に、頭部から血を流し拘束されているお父様の姿を見て、冷静ではいられなくなった。
奏に続いて、お父様まで失うのか。そう思ったらいてもたってもいられなくなった。矢文に記された場所に向かう。相手の陰謀など知ったことか。今度こそ守るために私は、走り出した。
時刻は夜の8時を過ぎた。満月が夜道を照らしてくれている。指定された高級ホテルに向かう。政界の人間がよく使う20階建ての超高級ホテルだ。おそらく相手はお父様の敵だろう。政敵という奴だ。
いざ、参る!
そう意気込んだ瞬間、ホテルの中腹部分が爆発した。
轟音が鳴り響き驚愕の光景に呆気にとられてしまう。数秒経って、気を落ち着かせホテルへ急ぐ。
ある程度ホテルに近付くと、そこで私は見た。
倒れているお父様に、手を伸ばす黒い影を。
瞬間、ギアを身に纏う。黒い影に剣を振るった。
☆
勘違いだった。
穴があったら入りたいとはこういう気持ちなのかと、羞恥の感情が沸き上がる。
事は既に終わっていた。
私が、矢文を読んでいる間に、弦十郎叔父様、緒川さん、そして、仮面ライダーBLACKの3人で、事態を解決していた。
今は、二課に移動し、医療ベットで眠っているお父様を見ていた。司令と緒川さんは、今回の事件の後処理があると言って、この場にはいない。私の隣には1人の男性が立っている。
身長は170後半ぐらいで、髪型は黒い短髪、体格は普通よりやや痩せ型、というより少し筋肉質なように見える。そして、特長的なのはその瞳だった。宝石のような紅い瞳。見てれば吸い込まれそうなほど、綺麗、と感じてしまう瞳だ。
そして、彼と目が合った。
「ん? どうかした?」
しまった。じろじろ見すぎたかもしれない。体をこちらに向ける彼。その右腕には包帯が巻かれていた。
「あ、その・・・この度は申し訳ございません。父の窮地を救っていただいた恩人に、そのような傷を・・・」
「ああ、これ? 大丈夫だよ。見た目ほど酷くないから」
「ですが」
「俺よりも、ゲンさんのお兄さん、君のお父さんの方が怪我の状態は悪いんだから、そっちを心配してあげて」
彼は、気にするなと言う。お父様を救ってもらった恩人に怪我を負わせるなど、なんたる失態か。そんなとき、彼は思い出したかのように言い出した。
「それにしても、君のお父さんは凄いね」
「え?」
「いやね、今回の事件の黒幕がね。え~と、君に対して結構下品なことを言ってたんだけど、それを聞いた君のお父さんが、すんごい怒ったんだ」
「・・・怒った?」
「うん。『貴様の様な下衆に、私の大切な娘を渡さんッ!!』って、拘束されてたのに、そのまま黒幕に回し蹴りを喰らわせてたなぁ」
「・・・」
「まぁ、そのあと追い詰められた黒幕が逆ぎれして、部屋に仕掛けてた爆弾を爆発させて道連れにしようとしたんだけどね」
私が見た光景は、その時の爆発だったのか。医療ベットで眠るお父様を見つめる。
「お父様が、私のことで・・・」
「どうしたの?」
「いえ、その、・・・父は厳格な人なので、私の為に怒るなんて、少し信じられなくて・・・」
「・・・風鳴の家の事情ってやつは、俺には詳しくは分からないけど、少なくとも、君のお父さんは、君のことを大切してるのは間違いないないんじゃないかな?」
「・・・そう、でしょうか・・・」
「そうだと思うよ。あんなに、怒った人は見たことがないからね。・・・目が覚めたら、話してみたら?」
「・・・そうですね。・・・そうしてみます」
確かに、私とお父様は“普通の親子”ではない。風鳴の家の人間として、為すべき使命がある。それを、不満に思うことはないが、私には“親子”というものに、あまり馴染みがない。
たげど、ほんの少しだけ勇気を出してみよう。
今なら、少しだけ、お父様と話ができそうな気がするから。
☆
事件から数日がたった。お父様が誘拐された事件についての全貌が明らかになった。黒幕はゴルゴム派の政治家で、ゴルゴムが壊滅したことで後ろ楯を失った奴は、お父様を人質に、シンフォギアを扱える私を手中に収め、風鳴宗家との繋がりをもつ腹積もりでいたらしい。
・・・もっとも、仮に、お父様を人質にし、私を捕らえた所で宗家がそう簡単に動くとは思えんが・・・。
ゴルゴム派の政治家の動きを探っていた調査部の連絡を受け、司令と緒川さんが対応していたそうだが、生き残ったゴルゴムの怪人を護衛として匿っていたらしく、仮面ライダーに秘密裏に接触、協力してもらうことになったそうだ。
そして、3人による少数精鋭で事件を解決した。と、いうわけらしい。怪人は倒され、自爆した政治家も奇跡的に命が助かり逮捕された。
そして、二課に新しい人が配属されることになった。
仮面ライダーBLACKこと黒山陽介さん。
少々込み入った事情はあるが、彼が新たな仲間となってくれたのは嬉しいことであり頼もしいことであった。
普段は、喫茶店の定員として働いている彼は有事の際、主に対ノイズ戦では、いの一番に戦場に駆けつけ、ノイズを殲滅していた。ノイズと戦うだけではなく、戦闘後の生存者の捜索なども積極的に行っていた。
私は、ふと聞いてみた。
「何故、そんなに戦えるのですか?」
彼が二課に来てから、彼に関するこれまでの行動の軌跡を報告書で読ませてもらった。
彼は人生を壊されていた。
19歳の誕生日に彼はゴルゴムに拉致され、その身を改造され人の体ではなくなり、改造人間となってしまった。だが、どうにかゴルゴムから脱走することができたが、ゴルゴムには同じ日に拉致され同じ改造手術を施された親友が捕まったままだったそうだ。
彼は、親友を救い出す為にゴルゴムとの戦いに臨んだ。しかし、その戦いは厳しいもので市民の助けになるはずの警察はゴルゴムの圧力で捜査に出れず、彼は孤独に戦うことになった。
僅かな情報を頼りにゴルゴムと戦い、数々の怪人を打ち倒し、ようやく再開できた親友はゴルゴムの首魁、シャドームーンとなっていた。
彼はいったいどれほどの苦痛を味わってきたのだろう。彼がゴルゴムを壊滅させたということは、シャドームーンを、親友を倒したことになる。親友をその手に掛ける。その痛みを想像もしたくない。
彼がゴルゴムを壊滅させた後は、現れるノイズを遭遇できたら殲滅するという行動をとっていた。
そして、今は二課で共に平和の為に戦っている。
・・・彼の人生はゴルゴムによって一変し、そこから戦いの連続である。
何故、そこまで戦えるのか? 只の一般人だったはずの彼の戦う理由が知りたくなった。
「自由と平和の為だね」
まるで、それが当たり前かのように彼は答えた。
「そりゃ、最初はあいつを取り返す為にゴルゴムを追ってたけど、ゴルゴムがやらかす事件も放っておけないしね。何より、ゴルゴムのせいで苦しみ、悲しむ人達がいる、そんなのは許せない」
・・・力強い瞳、その奥から感じられる怒り。
「まぁ、ゴルゴムがなくなっても、悪事を働く奴はいるし、ノイズもいる。人の自由と平和を守りたいから俺は戦えるんだ」
何より、俺が満喫したいからね、自由と平和を、と、付け加えてたははと彼は笑う。
少年のように笑う彼の笑顔に胸の奥が不思議と温かくなった。
悪を許さぬ正義感。力なき人々の為に立ち上がる勇気。この人はまるで、いや、正しくヒーローなのだ。
☆
「やらせるかよ! 好きに、勝手に!」
ネフシュタンの鎧の少女がもがく。翼が放った技、影縫いでその場から動けなかった。
翼がこれから歌う“絶唱”は装者の切札とも最終手段ともいえるものだ。歌えば凄まじい高出力を得られるが、その代償は最悪装者の命を奪う危険なものである。
「クソッ! オマエラ何してんだ! あいつを止めろォ!」
冗談ではない。自爆に付き合えるか! 内心焦る少女はクモ怪人達に檄を飛ばす。
クモ怪人達は少女の命令を聞き翼に飛びかかる。四方から攻めいるクモ怪人に、翼は右手に持ったアームドギアを天に掲げる。空から無数の剣が降り注いだ。
豪雨の如く降り注ぐ剣はクモ怪人達を斬りつけていく。己が身を守る為に足を止める者がいれば、ダメージを気にせず突き進む者もいた。
やがて、剣の雨を抜け翼に接近できた一体のクモ怪人はその鋭利な爪を突き出す。翼の顔面を捉えたはずの一撃は届くことはなかった。
クモ怪人は困惑する。目の前で、あと数ミリというところで自身の爪が止まった。いや、爪だけではない。体の自由が利かなかった。周りを見れば他の同胞も動けずにその場でもがいていた。
「ガッ!? ギッ!?」
「安心しろ。きっちり冥府へ送ってやる。」
クモ怪人は理解した。今の攻撃は自分達を単に迎撃したのではない、自分達の動きを止める為の攻撃だった。
「立花ァ!」
「ッ!?」
「防人の、戦士の生き様、覚悟を見せてあげる! 貴女の胸に焼きつけなさいッ!!」
響は何も言えなかった。翼の表情が、発せられる強い言葉にただただ圧倒された。翼が再びアームドギアを掲げる。そして、
「Gatrandis babel ziggurat edenal―」
透き通るような歌が響いた。
「Emustolronzen fine el baral ziz―」
ネフシュタンの鎧の少女は必死にもがく。そのかいあってか、ノイズを召喚する杖を取り出すことができた。すぐさまノイズを召喚。翼にけしかけようするが、防人の少女は既に目の前にいた。
翼が優しく少女を抱き寄せる。穏やかな顔で歌い終える。翼の口端から血が流れると、衝撃が広がった。
凄まじい衝撃だった。翼を中心に広がる膨大なエネルギーは、地を抉り、ノイズやクモ怪人を消し飛ばした。ゼロ距離でその衝撃をまともにくらった鎧の少女は苦悶の声をあげながら吹き飛ばされていった。
「うぅ・・・」
意識が覚醒する。翼の絶唱に巻き込まれ吹き飛ばされたが、自分に巻き付いていた糸はなくなり動けることが立花響にはわかった。
まだ、全身に痛みが走るが我慢出来ないほどではない。顔をあげ周囲を確認する。ノイズや怪人、鎧の少女の姿はなかった。立ち上がると少し離れた所に人影が見える。地面に突き刺さった剣のように立っている人。風鳴翼が見えた。
「翼さ―」
「ガァアアアアア!!」
翼のもとへ駆け寄ろうとした瞬間、翼のいる地点の左側の地面からクモ怪人が飛び出した。
間に合わない。翼はクモ怪人が現れたことに気づかず、響の助けも間に合わない。憎悪にまみれた咆哮をあげながらクモ怪人は爪を振るう。
クモ怪人は同胞を盾にしながら急いで地面を掘り、間一髪、翼の絶唱から逃れた。
屈辱だ。
妙な姿になっているとはいえ相手は人間なのだ。自分は怪人だ。人間以上の膂力を持ち、遥かな時を過ごせる寿命があるのだ。この人間につけられた傷が痛む。
与えられた命令があったが、そんなこと知ったことか。
コロス。コロス。
コロスゥ!
憎悪に任せて爪を振るう。普通の人間なら簡単に貫ける。
だが、クモ怪人の爪が翼に触れることはなかった。
「グギャア!?」
紅い閃光がクモ怪人を突き飛ばした。
クモ怪人を突き飛ばしたソレの纏っていた光が徐々に消えていく。響はソレが何なのかわかった。オンロード型のバイク、自分も乗せてもらったことがあるそのバイクの名はロードセクター。そして、そのバイクに乗るのは
「ヨウさん!」
仮面ライダーBLACKだ。
「翼ちゃん! しっかり! なんて無茶を・・・」
「私とて、人類守護の勤めを果たす防人、こんなところで、折れる剣じゃありません。・・・それに、あなたなら必ず来ると、信じていましたから」
ロードセクターから降り、倒れそうになった翼を抱き留める。目や口から血を流す彼女の体は限界だった。防人であることに誇りをもつ彼女はそれだけ言うと瞳を閉じた。
「翼ちゃん・・・ぐっ!?」
突然呼吸が苦しくなる。何かが自分の首を絞めている、糸だ。視線を首に向けると糸があった。その糸の先にはクモ怪人がいた。
「ヨウさん!?」
「響ちゃん、翼ちゃんを・・・」
「は、はい!」
「早く、二課に」
「で、でも」
「早く!」
「ッ!」
気を失っている翼を響に受け渡す。翼の容態が心配だ。早く治療しなければならない。響が首を絞められてる陽介を案じるが優先度が違う。少し怒鳴ってしまったが、それでようやく響はこの場から離れていった。
クモ怪人は怒り心頭だ。せっかく仕留められた弱った獲物を仕留め損なったのだ。だか、この場に現れた仮面ライダーBLACKは自分を無視して背を向けた。
チャンスだ。そう思い、背後から糸を吐く。弱った人間に気をとられていたBLACKの首に糸を巻きつけ締め上げる。そこから引きずり爪を奴の首に突き刺してやる。
だか、奴は動かなかった。この重さは何だ? 改造人間とはいえ100㎏もないはずだ。山のようにBLACKはその場を動かない。
糸を掴み、こちらに振り向くBLACK。そこでクモ怪人は過ちに気付いた。
「ゆ る さ ん !」
自分は奇襲ではなく逃走を選ぶべきだった。飛蝗としての要素があるBLACKのその赤い目に射ぬかれた瞬間、自身の体が固まった。
何故か? 答えは単純だ。仮面ライダーBLACKから伝わる巨大な怒り。その圧に呑み込まれたのだ。
心臓を鷲掴みされたかのような錯覚を覚える。感じるのは恐怖だけだった。
にげろ、ニゲロ、逃げろ!
本能が警告する。だが体が動かない。まずは糸を切らなければ、そう思った瞬間、首がもがれたような衝撃が走る。
悲鳴をあげる暇も、鋭い痛みに悶える暇もなく、自身の体が引っ張られた。次に伝わったのは腹部から全身を駆け巡る激痛だった。
「グボガァ!?」
痛み、浮遊感、痛み、痛み、手足が勝手にばたつく。自身が今、どういう状態なのかクモ怪人はわからなかった。
何てことはない。BLACKはただ首に巻き付いた糸をおもいっきり引き寄せ、釣られた魚の如く引き寄せたクモ怪人の腹部を殴り、空へご案内しただけだ。
ベルトのキングストーンが輝く。バイタルチャージ、BLACKの右腕にエネルギーが集中する。
「ライダーパンチッ!!」
落ちてくるクモ怪人にめがけて必殺の拳をくらわせる。
クモ怪人の顔面にクリーンヒットさせ、再び空へ返す。
まだだ、
右足にエネルギーを集中し跳躍、
「ライダーキックッ!!」
黒い稲妻が天へ昇った。
直撃。クモ怪人の胸部を穿ち着陸する。
「ガァ・・・アァ・・・」
体が燃える。燃えて、燃えて、燃え尽きて、クモ怪人が落ちた場所には何も残らなかった。
「・・・・・・」
静寂。今、この場には仮面ライダーBLACKしかいない。月の光が地を照らし、夜風が皮膚を撫でた。