戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第九話 一夜明けて

 

 

 

 

深夜の激闘から一夜が明けた。

 

私立リディアン学院の地下、二課本部のオペレーションルームに主要な人物達が集まっていた。

 

「それでは、今回の件の経過報告といきましょう~」

 

間延びした声の主、二課所属のエージェント蛇川悟は手に持っている報告書を読み上げた。

 

「ネフシュタンの鎧、ならびにそれを所持していると思われる少女の行方は不明。ゴルゴムの残党と思わしき怪人も、確認できた五体は全て消滅・・・。うん、な~んにもわかんないことだけがわかりましたね~」

 

「陽介を誘き寄せた廃工場もか?」

 

「はい~。数年前から放置されている工場で何もなかったですね~」

 

「そうか・・・」

 

「怪人が現れたってことはゴルゴムが復活したんですかね?」

 

二課のオペレーターの一人、藤尭朔也は心配そうに言う。短期間とはいえ日本を征服したかの悪の組織、暗黒結社ゴルゴム。多くの人々に恐怖を植えつけたその組織の復活を危惧するが、

 

「それはないはずだ」

 

それを否定するのは仮面ライダーBLACKこと黒山陽介。

 

「ゴルゴムは間違いないなく壊滅した。生き残って姿を潜めている怪人はいるかもしれないが、組織としてのゴルゴムは完全に壊滅している」

 

「・・・じゃあ、あの怪人は?」

 

「それについてはなんとも・・・だけど、クモ怪人やネフシュタンの鎧の女の子の背後に黒幕がいるのは確かだ」

 

「まぁ、現場に証拠が残ってないんで調査は難航してるんですけどね~」

 

「・・・それにしてもその黒幕の狙いは何なのかしら?」

 

「狙いの1つは響君だろう」

 

ネフシュタンの鎧の少女は言った。狙いは最初から立花響だと。日本の最重要機密であるシンフォギアシステム、その装者である響個人を狙えたこと、それは、

 

「内通者、ですか・・・」

 

「考えたくはないですね」

 

「・・・私が悪いんです・・・」

 

「響ちゃん?」

 

「2年前も、今度のことも、私がいつまでも未熟だったから翼さんが・・・、シンフォギアなんてスゴい力があっても私自身が至らなかったら・・・、翼さん、泣いていました。翼さんは強いから戦い続けてきたんじゃありません。ずっと、泣きながらもそれを押し隠して戦ってきました。悔しい涙も、覚悟の涙も、誰よりも多く流しながら、強い剣であり続ける為に、ずっとずっと1人で・・・」

 

少女は震える。自身の情けなさに涙がでる。それでも、

 

「私だって守りたいものがあるんです! だからッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店ストーン。

 

昼下がりの午後、客足も落ち着き、店内は静かだった。黒山陽介は店内の床を清掃していた。ただ、ひたすらに。

 

今は、何かしていなければ落ち着いていられなかった。風鳴翼は絶唱によるバックファイアで凄まじいダメージを負うも一命はとりとめた。しかし、まだ意識は戻らず今も二課の医療室で眠っている。

 

立花響もあの戦いで何か思うところが出来たのだろう。翼の力になれなかったこと、自身の力が足らなかったこたを、総じて己の未熟さに震えていた。

 

「(君を守るだなんて言ってこの様か)」

 

そして、黒山陽介も共に戦う仲間を守れなかったことを悔やんでいた。防人の少女は血を流し、撃槍を宿した少女は涙を流した。

 

この体でできることは結局何かを壊すだけなのか、本当に守りたいものは守れなかった自分はこの先、何かを守れるのか、そんな思考がぐるぐると頭を駆け巡っていた。

 

「お~い陽介」

 

「ッ! はい! おやっさん!」

 

「お前さん、いつまで同じところ掃除してるんだい?」

 

「え? ・・・あ・・・」

 

喫茶店の店長、石田に声をかけられはっとする。床を見れば一部分だけがぴかぴかになっていた。大分、思考の渦にはまっていたらしい。

 

「・・・陽介、ちょっとこっちにきなさい」

 

言われるがままカウンター席に寄る。石田は、座ってなさい、と言い陽介は席に座る。しばらくするとあるものが差し出された。

 

コーヒーだ。

 

「・・・おやっさん?」

 

「まぁ飲みなさい。儂の奢りじゃ」

 

コーヒーカップを持つ。普通のブラックコーヒーのようだ。特に気にせずコーヒーを飲む。

 

「ッ!? ニガッ!?」

 

とんでもない苦さだった。匂いは何ともないのに、口の中で一気に苦みが広がった。脳天に突き刺さるような苦味だ。

 

「はっはっは」

 

「ちょ、おやっさん!?」

 

陽介がおやっさんと呼ぶこの石田という男は、客の注文に合わせて様々な飲み物を提供する。甘いミルクココア、香りが良い紅茶、コクが深いコーヒーなど様々だ。どの飲み物も美味しいと老若男女を問わずそう称されるのが石田という男だ。

 

それが、こんな苦いコーヒーをだすとはいったいどういうことだろうか? 急激に頭が冴えてくる。

 

「少しは目が覚めましたかな?」

 

「・・・え?」

 

「なにやら珍しく悩み事がありそうでしたからな。しかし、回りが見えてなかったようなので、少し休憩と思いましてな」

 

「・・・それでこのコーヒーを・・・確かに目が覚めましたよ」

 

「ここは喫茶店じゃ。誰でも心休めるようなゆったりとした時間を過ごせるような店じゃ。だから、陽介よ。少し落ち着いてはどうじゃ?」

 

「・・・落ち着いてませんでしたか?」

 

「お前さんとはもう2年以上の付き合いになるが、お前さんよりは少し長く生きてるからの。そういうのはなんとなくわかるもんじゃ」

 

優しい笑みを浮かべながら石田はそう言った。

 

「年寄りのお節介で言わせてもらうなら、悩み過ぎるな」

 

「悩み過ぎるな、ですか」

 

「そうじゃ。悩むことじたいが悪いとは言わんが、答えが出ない悩みに時間をとられるのは勿体ないと思わんか? そもそもお前さん、考え事が得意な部類ではあるまい」

 

まぁ、確かにと内心同意する。

 

「なら、どうすれば?」

 

「やれること、できること、したいことに全力を尽くすのじゃ。それだけでよい」

 

「・・・・・・」

 

「お前さんはまだ若い。悩みすぎず、自分がしたいことをしてみてはどうかの?」

 

「俺がしたいこと・・・」

 

「それでも、悩み、疲れることはあるじゃろう。そんなときはこの店に来るがよい。暖かい飲み物でも飲んでゆっくりするとよい」

 

ほっほっほ、と笑いながら石田は店の奥へと行った。

 

残ったコーヒーを再び飲む。苦い。だけど、先程と違い苦味の奥から体の芯に届く旨みを感じた。

 

その時、店のドアが開いた。カランカランとベルが鳴る。入ってきたのは、

 

「あ、いた! ヨウさん!」

 

「響ちゃん?」

 

「ヨウさん! 私、強くなりたいです! 私が私のまま強く!」

 

ズンズンと勢いよく陽介に近付き、若干鼻息荒く響は言う。年頃の女子から聞かされる力強い発言。その目はやる気に満ちていた。

 

この子はもう踏み出したのだ。自分がしたいことをするために。ならば、自分は、

 

『私とて、人類守護の勤めを果たす防人、こんなところで、折れる剣じゃありません。・・・それに、あなたなら必ず来ると、信じていましたから』

 

翼の言葉を思い出す。彼女の決意は既に固まっていた。それに、彼女は言っていたではないか、

 

信じていましたから。

 

己を律している彼女に信じられ、今また、目の前の少女もフンスフンスと気合い充分な様子でいる。

 

「・・・よし」

 

バチン!と、自分の頬をはたく。

 

「うわわ!? ヨウさん!?」

 

「大丈夫だよ響ちゃん。ちょっと気合い入れただけだから」

 

「?」

 

陽介がいきなり自分の頬を叩いたので驚く響。理由を聞こうにも気合い入れたと言うだけでそれ以外はわからなかった。

 

俺は守りたいんだ。

 

人が当たり前に過ごせる日常を、それを謳歌できる自由と平和を。

 

なら、くよくよしている暇はないのだ。

 

「それで、響ちゃん。強くなりたいの?」

 

「はい! ヨウさんなら強くなるためのいい特訓とか知ってそうだったんで!」

 

期待の眼差しが陽介に突き刺さる。自分が過去にゴルゴムの怪人に対抗すべく特訓をしたことがあったが、かなり無茶な方法が多い。

 

彼女に、落ちてくる岩を殴り壊せと、言ってやらせるわけにはいかない。

 

とはいえ、彼女の決意を無駄にしたくはない。

 

「・・・響ちゃん。特訓もいいけど、君はまず戦い方を覚えた方がいいと思う」

 

「ならそれを教えてください!」

 

「待った待った。俺の戦い方は我流だし、俺も誰かに戦い方を教えたことはないよ。そもそも、参考にならないと思うし」

 

「えぇ~、そんな~」

 

「だけど、いい師匠になってくれそうな人は知ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「たのもー!!」」

 

「二人揃ってどうした」

 

というわけで、気合い充分の2人は風鳴弦十郎が居る風鳴邸にやって来た。

 

「ゲンさん、響ちゃんに戦い方を教えてやってください!」

 

「お願いします!」

 

むぅ、と、風鳴弦十郎は唸りしばし思案する。こちらに頭を下げる2人。

 

気落ちしていた様子だったが、今はもうやる気に満ちている。なら、大人として彼がとる行動は決まっていた。

 

「・・・俺の指導は厳しいぞ?」

 

「望むところです!」

 

響は歓喜した。自分が自分のまま強くなるために信頼する人に頼み、その人が推薦してくれた人が指導してくれることになった。

 

どんな厳しい修行だろうと必ず強くなるぞ! と、わくわくしていた。

 

「ところで響君。君はアクション映画に興味はあるかね?」

 

「・・・はい?」

 

立花響、最初の修行はアクション映画の映画鑑賞だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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