慟哭   作:saijya

10 / 11
第7話

集団の双眸だけが、やけに光を放ち始め、いまにも足を踏み出してきそうだ。それを男が諌めるように睨目つけた。

よっ、と短い声を出した達也が段ボールを地面に置いて片膝をついたまま裕介を見上げる。

 

「これが俺達に分けることができる限界だ、こっちも人がいるから」

 

段ボールには、丁寧に重ねられた缶詰が詰められていた。肉や魚、野菜と数にして二十はある。一斉に喉を鳴らす集団を、もう一度、左手の動きで抑えた男が頭を下げる。

 

「充分すぎる。ありがとう」

 

微笑みで返した裕介が缶詰の一つを男に渡せば、指で開いて傍にいた女性の手に落とす。その流れを皮切りに、どっ、と集団が段ボールへ両手を伸ばした。空を仰いで燕下しては、満足そうな息を漏らす。

もう一箱といきたい所であった裕介だが、それだけは駄目だ、と鋭い声に遮られた。恐らく、いまだに納得していないだろう達也に、なにも言わず、男へ改めて向き直った。

 

「ところでさ、そっちはどこかに拠点でもあるの?」

 

男は首を振って言う。

 

「さっきも伝えたように、俺達は這う這うの体で逃げて来たんだ。拠点を築く暇なんかなかったよ……口振りである程度は分かるが、そっちはどうなんだ?近くにあるのか?」

 

「テメエに関係ねえだろうが」

 

忿懣を隠そうともしない達也に巧笑を作った男は、両手を胸の位置で揃える。原因は、ハッキリとしているが、どうにも虫の居所が悪いみたいだ。そんな状態なので、裕介も頷くだけに止めておき、話題を切り替える為に、話しを傷物という一味に戻した。

 

「聞きそびれていたんだけど、さっきの話しに出てきた奴等って、近くにいる?」

 

「アイツらに関してはなんとも言えない。一ヶ所に長いこと留まることはあるようだが、基本的には移動を繰り返しているみたいだ。俺達が逃げ出したのは、確か、東京に入ったばかりだったと思う。ただ……」

 

男が言葉を区切った理由は、裕介にもすぐに分かった。

並べられた廃車の奥から無数の影が伸びてきており、慚愧の念を訴えるかのような伸吟が聞こえてきたからだ。段ボールの缶詰に夢中になっていた集団が短く悲鳴をあげる。車輛と車輛の間から垣間見えるだけで、二、三十人はいそうだ。

軽い舌打ちを挟んだ男が、裕介と達也へ言った。

 

「こっちは、まともに歩けない奴が多い。申し訳ないが、頼んでも良いか?」

 

「分かった。ただ、こっちも倒すことはできないんだ。代わりに引き寄せるから、その内に逃げてくれ」

 

それだけを言い残すと、裕介は運転席まで歩いてエンジンを掛けた。二度、三度と空回りはしたものの、車が震えて排気音が響き出す。助手席に達也が乗り込み、ナイフを引き抜くと窓を開けて走り出そうとしていた男に言った。

 

「もう会うことはないだろうけどな、一応、言っとく……死ぬなよ」


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。