裕介と達也が調達に出たのは二日前、書類が確かならば、二人なりに時間を空けて、しっかりと確認をとったのだろう。そして、発覚した食料の不正問題、さきほどの一悶着と合わせて、非常に頭が痛いところだ。
「亜里沙、この件ってさ、浩太さんには報告を上げてるのか?」
亜里沙は首を振る。
「言える訳ないよ……」
目を伏せた亜里沙の唇に、ぐっ、と力が入る。
「ねえ、裕介君は報告したほうが良かったと思う?」
「いや、それで正解だ。言いにくいけど、今の浩太さんなら、犯人を追放するか、最悪、殺そうとするかもしれない。達也さんにも、一応、隠しておいたほうが良い」
「うん、そうだね。アタシもそう思ってたから……」
同意を示した亜里沙が、田辺を一瞥すると、彼も同じく頷いた。共通の秘密というものは、精神的な負担を良くも悪くも分割してくれる。
「じゃあ、次の疑問として、犯人の目星がついてるとか、あてがある、みたいなことない?」
「無くはないけど……」
渋々、といった様子の亜里沙を促すように、田辺が肩に手を置く。少しの緘黙のあと、口をひらいた。
「最近、出産した小林さんの旦那さん……則松さんなんだけど……奥さんの圭子さんが母乳が出にくくなってるらしくて……」
「母乳と野菜がどう関係があるんだ?」
きょとん、として首を傾げた裕介に深い溜め息を返した亜里沙が続ける。
「あのね、母乳ってお母さんの血液から作られてるの。鉄分を取らなきゃ出にくくなるのは当たり前でしょ?それに、無くなってる野菜も、ホウレン草やジャガイモが特に多いし、そもそも、栄養が偏っちゃうと良くないよ」
「だから、小林さん……旦那の則松さんのほうな?が怪しいってこと?他に根拠はないか?」
「根拠と言って良いかは分からないけれど、それらしき行動はあったよ」
二人の会話に入った田辺は、落ちてきたメガネを押し上げる。
「裕介君と古賀さんが出発してから、一騒動があってね。問題事態は岡島さんの介入で片付いたのだけど、その際に、小林則松さんの姿がなかったんだ。あらかた、事態が収束したあと、ふとした拍子に戻ってきていたのだけど、その場では、どこにいたのか聞けなかった」
岡島さんもいたしね、と付け加えたのは、秘密を守るという意思の表れだ。裕介は、更に踏み込む。
「けど、それじゃあ、証拠として扱うにはあまりにも弱いですね……どうにか、止めさせないと、大変なことになる……」
「そこで、僕からは、罠を張ることを提案するよ」