慟哭   作:宇宙人と呼んで

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第1部 生存者

一台の軽自動車が炎天下の中、走っていた。排気音が歪な唸りをあげていることから、充分な整備をしていないことが分かる。加えて、後部座席には、大量の段ボールが積まれており、リアバンパーは下がり、バックミラーに写る光景も茶色の箱で埋められている。運転手の男は、ハンドルを片手で操作しつつ、頭上のルーフの凹みを右手で押してみるが、すぐに諦めて溜め息をつき、助手席で寝息をたてる青年を一瞥した。

迷彩柄のズボンに、返り血が付着した白のティーシャツ、髪は涼しげに短く揃えられている。それでも、やはり、暑さの影響なのか、額から垂れた汗が、頬を伝って顎先へ到達し、数滴、ズボンへ落下する。その様子を眺めていた運転手の男は、ふっ、と短く鼻で笑うと、正面に向き直り、レジスターを助手席の青年に合わせ、ハンドルを両手で握りアクセルを緩める。

九州地方感染事件から十年、多大な犠牲を払い到着した東京では、マスコミなどに追われながらではあったが、どうにか穏やかさを取り戻しつつあった。しかし、事態は五年前に急変することになる。

始まりは、広島県にある海の名所として有名な浜海水浴場に、腐乱した死体が漂着したときだった。当時の新聞やニュースでは、周辺に集まっていた観光客に襲いかかり、多数の死傷者を出した上に、噛まれた者までもが避難先で死亡したのち、突然、甦り人を襲い始めたとあった。そこから先は、詳しい情報を入手することはできなかった。爆発的に増える動く屍に対して、有効な手立ても見つけられず、僅か数十日で日本が崩壊したからだ。いまや、生き延びている人類よりも、甦りを果たした屍のほうが圧倒的に数で勝っている。生存者達は、拠点を設けて小さな社会を形成し、日々を暮らしていることが殆どとなった現在、二人も例に漏れず、拠点とした場所に戻っている最中だった。

運転席の男は、ドアウィンドウをスイッチで下げると、ダッシュボードに転がしていた煙草の箱に手を伸ばし、紙パック越しに本数を確認すると、男は苦い顔をして、少し悩んだものの、一本を取り出し唇で挟んで火を点ける。漂う煙が外へと流れていくが、助手席に座る男には届いていたようで、小さく唸ってから薄く目を開ける。気付いた運転席の男が言った。

 

「あ、悪ぃ、起こしちまったみてぇだな」

 

声を掛けられた青年は、まだ意識の手綱を握れていないのか、僅かに呆けた顔をしたあと、両目を見開く。

 

「す、すいません達也さん!俺、どれぐらい寝てましたか!運転代わります!」

 

達也と呼ばれた男が、フィルターにまで迫った煙草を指で外に弾いて笑う。

 

「まだ、三十分くらいしか経ってねえよ。気にせず寝てて良いぞ?裕介、お前、最近は特に寝てねえだろ?」

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