「俺達は、とある場所から逃げ出してきたんだ……」
ノロノロと歩み寄る集団に意識を奪われてしまっていた達也が、我に返って疑問を口にする。
「とある場所……?」
男は首肯して言った。
「こうなった以上、タダで手に入れる訳にはいかない……物資を分けてくれるのなら、俺も相応の情報をやる。お前達も身を守るのなら、聞いておいて損はないはずだ。どうする?」
目を配られた達也は、裕介へと受け流す。ふてくされたような行動に、苦笑いをした裕介だが、すぐに表情を固めた。男は、息を吸い込むと、訥々とした口調で話す。
「奴等は、自分達の事を「傷物」と呼んでいた……リーダーの名前は分からないが、常に左目を閉じていて、左耳が削ぎ落とされている。分かりやすい特徴だろ……」
すかさず、裕介が訊く。
「その傷物って連中が、どれだけ危険なのか、説明できる?」
男が、さきほど現れた集団に顎をしゃくると、渋々といった足取りで三人が前に出る。肋が痛々しく浮き、足と腕は白く細い。炎天下の現在、ながらく外出をしてこなかったのだろう。陽に当たるのも辛そうだ。
「コイツらは、まだマシなほうだったから歩けるが、それでもこれだよ」
男が一人の服を捲ると、陰部から首元にかけて、多数の生傷が現れる。特に、胸を裂くように刻まれた裂傷の奥に白いものが見えそうだ。裕介は、驚愕のあまり目を見開き、達也は息を呑んだ。
男が捲ったシャツを戻して続ける。
「さっきも言ったが、これでも、マシなほうなんだ。さすがに、女性の傷を見せることはできないが、ここにいる全員の胸にも、同じような傷がある」
どうやら、足元が定まっていなかったのは、単に炎天下による疲れのせいだけではなかったらしい。刻まれた傷は、胸だけでなく、他にもありそうだが、裕介は見せなくても良い、と右手を突き出す。
「これがお前達に渡すべき情報だ。これでどうだろうか?」
男は、横目で達也を確認するように見た。この情報で物資と吊りあうか、と暗に示しているのだろう。それでもなお、達也の態度は変わらず、男と目が合うや、ついと逸らす。確かに、吊りあうかと問われればなんとも言えない。しかし、裕介はもとからそうするつもりだったのだから、収穫はあったと思うべきだろう。
裕介が右手を出すと、男は視線だけを落とす。
「ありがとう、その傷物ってやつらには、注意しておく。それなら、段ボール一箱くらいは分けてもバチは当たらなそうだ」
裕介が達也を一瞥すれば、溜め息を吐き出し、ボンネットから降りて後部座席を開ける。