神を見たければ青天にキスをしろ~クソゲープレイヤー、神に挑まんとす~ 作:雨 唐衣
笑い声が響く。
「無駄だ!」
蹴り転がされ、視界が回転し、間断なく衝撃がジェットコースターのように震わせながらも、歯を剥き出しに笑う。
「通じ」
殴られる。
歯が折れるような錯覚、脳幹が揺るがされる、体幹が削られて吹き飛ばされる。
だがそれでも、その恐怖を超えて、彼には自信があった。希望が見えていた。
「ン!!」
全身から緑色のオーラ――蒸発した自らの血煙を巻き散らしながら、ゼノセルグスは自らの超必殺技を発動していた。
一ラウンドをひたすらにNPCの虐殺に費やし、ゲージを溜め抜いたなりふり構わない戦略によって。
(奴の
赤く塗り上げられた塔の壁をバスケットボールのように殴り上げられながらも、彼は確信している。
(バグかエフェクトの続きか! あと何秒もつ!?)
空を舞う、無機質にしか見えないランゾウの顔に怯えながらも、コンボが途切れた刹那に向けて神経を研ぎ澄ませる。
(あと十二秒、十一秒、まだもつか!)
これは所詮ゲーム、リアルではない。
痛みなど畏れるものではない、恐ろしくもない、故に笑う。
(ほぉら、あと九秒もあるぞ、八秒もあるぞ!)
勝利へと微笑む。
残り体力八割、青天らしきコンボの始動から奇跡的に割り込ませて発動した超必に決めた。
(マテリアルスープレックスで奴を空から叩き落とし、その伝説を大地に沈めてやる!!)
嗤う、嗤う、恐怖に耐えた先の甘美なる勝利の美酒へと酔いしれて。
【殺してやろう】
それから
――GAME BRAKE――
青天は終わらなかった。
そんなわけで魔法の呪文が必要なしゃれた喫茶店に来たのだ。
「ソイラテショートアイスシナモンロールアタタメデ」
「えっと、抹茶ラテ、トール、ホットで」
なんでリアルでゲーム呪文唱えないといけないんだろうな!!
「なんでお前キョドってるの、恥ずかしいんだけど」
「うるせえトイレの妖精、トイレの位置は確認したか」
「いつまでそれ引っ張るんだよ」
「あのお客様、トイレはあちらにございますので。どうぞご自由にご利用下さい」
「」
オイカッツォの心が死んだ。
奴の荒んだ心には人の善意は劇薬だったのだ。
「で、明らかにとんぼ帰りな格好してどうした。仕事サボって大目玉喰らったんじゃないのか?」
休日の昼間、賑わう店の中で運よく四人掛けのテーブル席が空いていたので腰掛ける。
オイカッツォの恰好は旅行鞄に私服、つばの深い変装用の帽子と帰国したばかりだとわかった。
「何で知ってる?」
「外道情報。夏目嬢が心配してたぞ」
「なんで鉛筆頼るかなぁ」
「彼女は地獄に行ってしまうだろうな」
「せめてブルースでも貰えばよかったのに」
あいつの家って十字路にあるのか? ありそうだ。
「話を戻すが」
「ああ」
「サンラク、お前に手伝ってほしいことがある」
「空ビヨンド」
探しだろ。
そう続けようとして、一瞬声が途切れた。
「? どうした」
「あーいや、空ビヨンド探しだろ」
(おいおい、マジか。今洒落になってない目してたぞ)
それなりに長い付き合いになるが、オイカッツォのあんな顔を見た記憶がない。
下手すればシルヴィアとの闘いの時よりも熱い目つき。あるいは殺意めいた目。
――「青天に取り憑かれたらしい」――
――「空ビヨンドに」――
――「恋でもしたみたいに」――
ガチかもしれねえ。
「で、探すのはいいけどよ。なんか方法考えてるのか、悠長にネット対戦で探すつもりか?」
「……サンラクは驚かねえんだな。あいつCPUだと思ってないのか?」
「いんや、あれ人間くさくね? ちなみにペンシルゴンはCPUだと言ってたぜ」
「あいつはそう思うよなー。で、まあこれをみてくれ」
実はお前とペンシル説得する材料だったんだけどなぁ、といいながら鞄から取り出したノーパソを机の上に広げる。
「ちょっと横座れ」
「おいおい俺と掛け算はやめろよ。やべ、想像したら鳥肌立ってきた」
「そういうのやめてくれない?」
自爆ダメージ受けながら、オイカッツォの横に座る。正確に言うと壁側の椅子にだ。
「これは一応社外秘の情報だからな」
タタンと使い慣れたタッチでオイカッツォが一つの動画、それも速度編集された動画を見せる。
「シルヴィアと空ビヨンドの試合じゃねえか」
俺も繰り返し見たハッキングされた仕合の動画。
それもスロー再生されたものだ。
「これなら俺も結構見直したが、なんかあったっけ?」
「……シルヴィアのミーティアは一ミリもゲージを削れずに敗北した」
……何度聞いても冗談みたいな話だ。
下手をしなくてもズタボロのシルバージャンパーが、ケイオスキューブを掴み取った時よりも衝撃的で、「おいおい
「だが別に棒立ちで負けたわけじゃない。技を応酬し、攻防をした」
「それでノーダメなのがあり得ねえとしか思えねえ」
「ああ、で、ここだ」
早送りにしていた動画が停止する。
それはミーティアの足首が狩られて、転倒した次の
「ここでランゲツが中段から突き殺すところだった」
「だが、それをアイツ避けたんだよな」
獣じみた反応としか思えない。
顎から串刺しになる完璧な一撃を、首を曲げて、自由落下よりも早く地面を殴り飛ばして、それを避けた。
そこからの反撃も、空ビヨンドのランゲツは鮮やかに避けたんだが。
「
「…………は?」
「ここだけだ、ここだけが遅れている。これがCPUでもチートでもない証拠だ」
確信した声だった。
同時に思う。
(ここだけってお前どんだけ検証したんだ)
オイカッツオ、魚臣慧は事前に勉強し、シミュレーションを繰り返し、万全の備えで挑む言わば秀才型だ。
だからといって検証勢みたいなことに熱意を向けるタイプじゃない。
必要なことをするのであって、全てのデータを知り尽くしたいというタイプじゃない。
だがそれがここまでする。
(取り憑かれてやがる)
夢中になれるクソゲーを発見した俺のような顔をしている。
「ようこそ、
「キモい」
ガン否定だった。
「しかし、一挙動だけ遅いってのは確かにCPUだとありえねえな」
ああいうのは決められたルーチンで動いている。具体的には常に同じ反応速度か、あるいはワザと設定された遅くなる挙動だ。
こんな攻防の中で一つだけ、しかもこんなスロー再生でしかわからないような動きで遅くなる理由がない。
「……サンラク」
「なんだよ」
「お前笑ってるぞ」
「お前もな」
火が入る。なんとなくそうじゃないかと思っていたことが、確信へと変わった瞬間は、まるで火花が散ったようだ。
か細く何処に繋がってるかわからない渡り糸が、どこかへと繋がっていると確信出来る。
踏み外さなければどこかへといけるという希望。
「で、この情報を
「それで」
「ネット回線からして空ビヨンドがいるのはこの日本だ。溜め込んできた有給全部叩きつけて、許可をもぎ取ってきた」
ドロリと熱が溢れ出し、眼球が溶け落ちるかのような顔で、女顔のオイカッツォが。
「奴を見つけ出し、表舞台へと引っ張り出す」
鬼女のような顔をしている。
「生ける伝説、空ビヨンドは今世界をもっとも沸かせているチーター。だがそれが人間だったら?」
「それを表舞台で戦わせられたら?」
「どれだけ稼げる?」
「どれだけ動員を、知名度を上げられる?」
「
言葉が軽い。
薄っぺらい。
並べられる言葉の軽さと、表情の重さがまるでちぐはぐで。
「
その言葉に、俺はあいつの肩を叩いた。
「OK、
本気の言葉にはノる。
「で、手は考えてあるのか。人探しだけなら探偵の仕事だぜ」
「ああ、手は考えている。ていうか頼んだ」
「誰に?」
「ペンシルゴンに」
「お前地獄に落ちるぞ」
「
回らない寿司ぐらいで済むと祈れ。
統天の元ネタが青天だったことが判明
読まれているぅううううう!