神を見たければ青天にキスをしろ~クソゲープレイヤー、神に挑まんとす~ 作:雨 唐衣
五日間に渡り国際空港の利用者数は一万人を超過した。
都心部のホテルは連日キャンセル待ちが相次ぎ。
飛行機のチケット代金はシーズン期を逃してもなお右肩上がりで上昇した。
周囲のコンビニなどには急遽呼び出されたバイトが運び込まれる荷物を運び切り、片言の英語で訪問者を相手し続けた。
ガトリングドラム社のトレード・ショー。
その入場チケットが売り切れるまで五分も必要が無く。
転売屋が250倍の値段で売り払ったという話は都市伝説として語り継がれている。
放送契約を取り付けたチャンネルサイトは膨大な数の
そして。
その日、トレード・ショーの会場に向かう人々の誰もがライオットブラッドを腰に吊るしていた。
離島から泳いで辿り着いた、海水を滴らせる水着姿の男もいたかもしれない。
人種を問わない多くの人間が会場の周りに集まり。
期待と興奮に気温が上昇していた。
ざわめくように言う。
――シルヴィア・ゴールドバーグ。我らが
――アメリア・サリヴァン。
――魚臣 慧。流星を落とした
――
――
そして。
仮面をつけたランゾウ。
名前不明、ゲストの最後に乗せられたそれに誰もがその名前を告げた。
『空ビヨンド』
幻想でしかない青天の存在、それの名を期待するように呟いた。
この日、奇跡を見られるかもしれないと。
「う~~ん、偉いことになったなぁ」
まさかの三度目の傭兵出撃で、さらに空ビヨンドとの試合。
またシルヴィアとかアメリアとやりあうことになるとはなぁ。
家からさて出かけるかと思ったら、謎めいた黒塗りのリムジン(ガトリングドラム社のロゴつき)に迎えに来られて、恐ろしいほど快適な送迎……輸送……拉致? されてやってきたらここである。
顔隠し前控室というネームプレートの書かれた部屋と、その中央にあったギンギンに中が冷え切った全種類ライオットブラッドと、もってきた記憶のない磨き抜かれたライオットブラッドカスタムのジャックヘルメットから逃げたわけではないのだ!
そう決して逃げたわけじゃない。
万全の態勢で挑むためにしばらくライオットブラッド抜きをした体が求めそうだったから逃げたわけではないのだ。
まだ試合まで少し時間がある、最低三十分前に準備と儀式をするにしても時間があるのだ。
「しかも新ステージと新規ルールだからなぁ」
一切合切の情報伏せ。
参加するプレイヤーにまで今日の朝になるまで伝えられなかった新ギミックルール。
変則多対戦モード:ロシアン・ツヴァイ。
そして、シティモード:コウトリナ。
どちらも新規のもので概要しか伝えられてないから打ち合わせしても、ぶっつけ本番だ。
(コウトリナってなんだよ?)
コウノトリのことじゃねえよなって思いつつ首をひねる。
説明された画像と映像見る限り、ただのシティモードと大差なかったが……
まあとにかく突貫で作られたステージなのは間違いないらしい。
――運営曰く、
「まあやるだけやるしかねえか」
しかし迷うな。
既視感を感じる地図アプリ片手だが、とりあえず軽めにカフェインをいれてエンジンを温めなければ焼き付きを起こす。
そう思って自販機でも探してうろうろしてるんだが、忙しく警備員とか誘導スタッフらしい人間が駆け抜けていっていて歩きにくい。
と、あったあった。
丁度廊下の隅で自販機とベンチのセットを発見。
「ふぅ」
缶コーヒーを買って座り込む。
あー体にカフェインが染みる。一応最低限の仮眠は取ったが、昨日はシャンフロにまた戻って、それからクソゲニウム接種にエンジンの始動速度を上げるためにVR剣道教室・極も久しぶりに挑み直した。
「小細工は上々、あとは仕上げをごらんあれってな」
などとにやついて言ってみたが、まあぶっちゃけ本番だな!
高度な柔軟性を維持してうんぬんかんぬん。
「横失礼するぞ」
「あ、はい」
声をかけられ、どさっと見知らぬ男に横に座られた。
(ん、救護スタッフか?)
首からかけたネームプレートに救護スタッフという文字、そして羽織っている白衣。
この手の大会に関しては、まあ二度しか顔を出したことはないんだが、大規模な会場ならこういうのもいるんだろう。
実際合法堕ちとか医者呼んだ方がいい……のか?
「あの、ここ禁煙なんですけど」
白衣の男がいきなり煙草を取り出して吸い出したのに、思わずツッコむ。
「ああ? 大丈夫だ、これ電子タバコだから」
といって男が見せたのは機械っぽい筒。
「入れてあるカートリッジもニコチンはねえよ。口元が寂しいから吸ってるだけだ」
そう言って深々と吸って吐く煙からは確かに、煙草っぽい臭いはしないが。
俺別に好きなわけじゃないんだけどな。
「長生きする予定はなかったんだけどなぁ、予定変更だわ。まったく」
「予定変更?」
「ああ。ちょっと生きないといけない理由が出来てな」
スン。と鼻を鳴らされた。
「お前、もしかして参加する奴か」
「え」
思わずギョっとした。
確かにそうだが、今別に迷彩服も、目立つアイコンも部屋に置きっぱなしだ。
さすがに常時コスプレしてられる度胸は、
あいつなんか青いジャージマフラーに、スパッツと帽子被ってたけど。
「臭いに覚えがある」
エスパーみたいなこと言われた。
「そうだけど」
「そっか」
「最高の瞬間へようこそ、楽しんでいけ」
なんて言われて肩を叩かれて、そいつは去っていった。
イベントNPCかなんかで?
『空ビヨンドはまだか?』
『まだ来てないみたいね。でも時間はあるのだからそんなタップ鳴らすのやめたら?』
『そういうお前こそ、随分と念入りなウォームアップじゃねえか。あたしとの対戦でも見た覚えがないぜ?』
『そう?』
『そうさ』
『しょうがないじゃない、ワクワクしてるんだから。貴女もそうでしょう?』
『まあな。Leo Queenの奴には悪いが、この機会には幸運を感じてるぜ』
『フフ。決まった時にはキツイメールが届いたわ、イギリスでこそ開くべきだって同意求められてもねぇ? 世界ランク三位の貴女は?』
『精々<赤い狼>と戯れてろって私は返した』
『最近パキスタンに夢中だから寂しいんじゃない?』
『かもな。まったく黒いやつといい、ジャックといい、世の中飽きさせないぜ』
『そうね』
『ん、誰だ? まだ時間じゃ……』
『……どうして』
『
『悪い冗談だわ』
『隠しボスを倒しにきたら、ラスボスかよ。なぁ』
『『世界一位』』
国際公式勝率90%以上。
その生涯の半ば以上を勝利で積み上げた存在。
人の最高峰でも、まだ
伝説を超えた者は今だ一人しか――
その日、辻斬・狂想曲:オンラインの参加ログイン率は18%を切っていた。
情弱の京ティメットは獲物を探して、無人の荒野を彷徨っていた
勇者はそれを発見した
レイドボスと遭遇した
たった二人のイクサが始まった