死の王と蠅の王   作:マイクロブタ

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書き溜めが無くなりました。
気を引き締めます。


36話 棚ぼた的冒険

 

 ナザリック地下大墳墓のみでPOPすると聞いたモンスターのナザリックオールドガーダーからもぎ取ったらしい魔法の片手剣を持ち、ティーヌが完全に闇に包まれたダンジョンの中を鼻歌混じりに先頭を歩いていた。

 スタートしてから30分……既に最下層まで辿り着いている。

 この程度のモンスターであれば素手でも問題ない。むしろギミックの対処の方が厄介なぐらいだが、それすらも自身の背後に立つジットを守るのが面倒なだけで、さして問題になるようなものではないようだ。最後尾に立ち、時折ギミック対処と進行方向の指示だけを出す俺の心配はしていない。

 同行する全員が夜目が効く。特に悪魔となったティーヌにとっては昼間も同然のようだ。だから濃密な暗闇の中でも3人とも迷いなく進んでいる。

 銅級3チームが同時にスタートを切ったが、他の2チームは目標が第二階層到達だった。当然最下層などに来るはずもない……と言うより、いわゆる『3人組』が最下層に到達した時点で他の2組は第一階層をクリアすることもなくリタイアしていた。

 しらみ潰しに隠し扉を開け続け、おそらく最後に残った一つ……ティーヌが無造作に岩石を模したスイッチを押すと、音もなく岩肌をくり抜いたような穴が空く。

 同時に魔法の武具を身に付けたナザリックオールドガーダーが動き始める。

 同時に襲いかかる3体を軽くあしらいつつ、ティーヌはニヤニヤと笑いながら入口付近に立ったままの俺とジットの方を見た。

 

「んで、このナザリックオールドガーダーを三体倒せば終わりですかねー?」

「まあ、そうだろうなぁ……マッピングで確認している限りは隠し部屋みたいなものが設置できるスペースはここが最後な気がする。もっとマニアックな隠し部屋もあるかもしれないけど、最下層も他の階層と同じ構造のダンジョンならここで最後だ」

「最後ですよねー……こいつら倒したら、私だけで全滅させたことになりますよ。ゼブルさんも少しは私を褒めてくれて良いですよー」

「んなこと言っても、ティーヌさんなら当然だろ……70レベルのドゥームロードと互角にやり合うってアインズさんから聞いたぞ」

「70れべるとは……凄いのでしょうな?」

 

 ジットが暗闇で振り向いた。

 

「そりゃ、種族ドーピングしてるからなぁ……ジットさんだって最初から考えたら相当なもんだ」

 

 ジットも純後衛職だから分かり難いけど、装備無しで40レベル以上はあるように類推できる……ここにいないブレインを含め、最初の配下全員叛逆可能域に達しているのは間違いないのだから最低でも40レベルはある。そうでなくとも魔力系で第六位階が使えるし、信仰系も第五位階が使えるようになった。まだ実験はしていないが『死者復活』が使えるようになったと申告があったのは、生き残り戦略上果てしなくデカい。

 

 まあ、ユグドラシル時代のようにレベルアップと共に取得可能な魔法を自身の自由に選択できるわけではないようですが……しょーじき、フールーダと同等か、年齢まで考慮したらめっちゃ凄いんじゃないか?

 

「種族どーぴんぐ、ですか?」

「そっ、ジッちゃんも使う?……人間卒業する必要があるけどね」

 

 ティーヌは実にあっけらかんと言った。これまで隠していたとは思えないような口調で……積極的に種族変更を勧めるわけでもないが、自身の優位性を保つ為に拒む気も無いようだ。そもそもとっくに叛逆可能域に到達しているのに俺に対して実に従順だった。

 それはジットもブレインも一緒だが……まあ、脳の強度が強化されるわけではないだろうから、叛逆しても死ぬだけのような気がするど……

 

「おぬしは人間を辞めておるのか?」

「そーだよ……なんか悪魔らしいよ、私……だから成長するだけだし、寿命も無いし、老化もしない……永遠にゼブルさんのお役に立てるんだよ……すっごい便利だよねー」

「……儂も……悪魔になれるのか?」

「おそらくね……私がデミちゃんからもらったのは『堕落の種子』ってアイテムだから多分私と同じ悪魔になるんじゃないかなぁ?」

 

 種族変更アイテムは俺もいくつか持っているけどねえ……とはいえ、今後入手が難しそうなコレクションだから、余程でなければ与える気にはならない。

 ダブっているのは……?

 『堕落の種子』はいくつかあったような?……それ以外のダブりは『昇天の羽』もいくつか所有しているけど、ジットが天使っていうのも似合わない気がするなぁ……そもそも素だと俺の設定以上にカルマ値低そうだし、ジットにしてもティーヌにしても……エゴでエ・ランテルの壊滅を目指した男とドS快楽殺人鬼だしねぇ。

 

「見た目は変わらんように思えるがのう」

「うんにゃ、羽が生えたんだよねー、これが……ちなみに簡単に空も飛べるんだよねー……それに最近だと犬歯が牙っぽくなってきたかなぁ……後、これ」

 

 ニッと異様に鋭い犬歯を見せた後、ティーヌは銀髪の前髪をかき上げた。

 生え際に見える2本の突起物……かなり小ぶりだが真っ白な角が生えていた。

 

 これはもう立派な悪魔……インプからさらに上級種族にクラスチェンジ済ですわ。ゲームのキャラビルドと違って、それがなんだか解らないのが問題なんですけど……

 

「……儂が悪魔……」

 

 ジットは考え込むようにティーヌを見て、自分の右手に視線を移した。

 その間にも3体のナザリックオールドガーダーは懸命にティーヌに襲い掛かっているが、彼女は視線すら向けずに片手であしらっている。

 

「……儂もなるぞ、悪魔に!……その『堕落の種子』とやらを儂にもくれ」

 

 ジットが宣言するのを確認するとティーヌは俺を見てニィと笑った。

 

「……ということなんで、私にもゼブルさんからご褒美が欲しいかなぁ、なんて……どう思いますか?」

 

 つまり俺の為にジットをティーヌが強化してやるから、ティーヌ自身は俺から褒美を欲しがっているわけか……たいがい面倒臭い性格だよなぁ……素直に言えば良いのに。

 

 ティーヌは物欲しげな目で俺を見ながらニヤニヤと楽しそうに笑っている。

 

「別にゼブルさん自身でも良いですよ」

「あー、それは断る」

「即答って、ゼブルさんてば相変わらずイケズ!……私なんか寝ても覚めても四六時中ゼブルさんのお役に立つことだけ考えているのに……でも、まあ、それは、ってことは何かくれるんですか?」

 

 言葉と裏腹にティーヌは笑顔だ……楽しそうで何より。

 彼女の言葉通り出会った頃を考えればティーヌは凄く役立つようになった……でもティーヌに手を出すとか……ここまで『えんじょい子』さんとキャラ被りするととてもそんな気にならない。

 でも、まあ、何かやるか……現地人はプレイヤーみたいに装備規制も無いらしいから、耐性強化用のアクセサリーでもやろうかな?

 虚空の中に手を突っ込み、各種耐性強化の指輪数種と飛び道具無効と時間操作無効のネックレスを取り出して、差し出す。

 ティーヌは剣の腹の一撃でナザリックオールドガーダー3体をまとめて叩き潰し、アクセサリーを受け取った。

 

「……これは?」

「飛び道具無効と時間操作無効のネックレスと全部装備すれば組み合わせ的に全属性に対する耐性強化が可能な指輪が8個……今の強化アクセサリーに重ねて装備すればかなり強化されると思う。ティーヌさんはプレイヤーと違って装備規制が無いから、全部装備することが可能だと思うけど」

「つまり私……無敵ってことですか?」

「いや、強化された耐性以上の火力でゴリ押しされたら、きっちりダメージは入る。とはいえ、飛び道具対策と時間対策は絶対に必要だし、ちゃんと効果を発揮すると思う。力の接近した攻防だと対策を考えなくて良いだけでかなり有利になるだろ」

「あっ、ありがとうございます!……もう命ある限り絶対にゼブルさんについて行きます。ゼブルさんの考えを世界に広めます!」

 

 ティーヌが凄まじい勢いで頭を下げた。

 

「わっ、儂も広めますぞ!」

 

 連れてジットが土下座する。

 

 でもって、2人とも妙なことを口走っているね……俺の考え、って?

 

「魔の神であられるゼブルさんに加えて、この世界における最初の弟子である儂ら2人が悪魔となれば世に魔の教え……厄災の教えを広められる」

「だよねー」

 

 あー、出会った頃に言っていたヤツ……まだ忘れてなかったかぁ……法国人て、本当にどうかしてる……

 

 漆黒の闇の中、ひっそりと溜息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 これまでの階層と同様、最下層でも最奥の宝箱を開けて宝珠を手に取ると転移のギミックが強制発動するようで、俺達はスタート地点横の転移拠点に立っていた。

 各階層で手に入れた6色の宝珠を女性係員に差し出す。

 

「開始から僅か35分……さすがで御座います、副王様と御付き様方」

「魔導国冒険者訓練所におけるミスリル昇級第一号おめでとうございます、ゼブル様」

 

 まるで出来レース……アインザック組合長が既に俺達の名の刻まれたミスリルプレートを差し出す。確実に作ってあったんだろうが……俺は組合長が俺を無視した4日間を一生忘れないからな!

 直後、組合長の背後から見慣れた嫉妬マスクが顔を覗かせた。

 

 まあ、戻った瞬間から知ってましたけど……サプライズ感出すのメンドクセェ!

 

「楽しめましたか、ゼブルさん!」

「えっ……まー、お陰様で」

 

 とりあえずガントレットと握手。

 おそらくニコニコのアインズさん……ティーヌとジットの手も取った。

 

「お前達もご苦労だったな……これで晴れて国家からの依頼を受けられるわけだ。説明してくれ、組合長!」

 

 アインズさんに促され、アインザック組合長が依頼を記した書面を俺に手渡しましたが……全く読めません。組合長はともかくアインズさんはその事実を知っている。なので、そのままジットに手渡した。

 事情を知らぬ組合長は僅かに目を見開いた。

 

「魔導国において最初にミスリル級冒険者となられたゼブル様御一党と魔導国唯一のアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』に魔導国政府からの指名依頼です……ドワーフ王国の探索と国交の樹立……副王として魔導国の外交を統括するゼブル様に適任の依頼で御座います」

「まあ、そーかもな……で、その依頼を俺に受けろ、と」

 

 ティーヌとジットの手を取り、ブンブンと振っていたガントレットが急停止した。

 

「……ひょっとして……怒ってますか?」

「怒らないとでも?」

「……楽しんでくれたって」

「たしかに言いましたね……楽しんだから怒らない、とは言ってませんが」

 

 肩飾りのせいもあって立派に見える魔導王の体躯が縮こまって見えた。

 

「この出迎えがあった時点で悪気が無いのは理解しましたけど、アインズさんは休暇に拘り過ぎな気がします。お陰で仕事が滞るだけでなく、ただでさえ俺のことを嫌っているアルベドと余計な軋轢が生じます」

「それはここに来る前にちゃんとアルベドに言い聞かせてありますよ!」

「あれだけ優秀なんだから、元から頭じゃ理解しているでしょうよ……でも気持ちの部分はどうしようもないんじゃないですか?」

 

 アインズさんは押し黙った。

 

「ハッキリ言いますよ……俺はギルメンになったとはいえ、ナザリックの連中にそれほど思い入れは無いから嫌われても構いませんが、別に上手くやりたくないわけでもないし、敵対したいわけでもない。むしろ俺とNPCの間が必要以上にギスギスして困るのはアインズさんです……違いますか?」

「……違いません」

「じゃ、今後こういうサプライズじみたやり方はやめましょう……必ず事前に相談してください。いいですね?」

「…………はい」

 

 アインズさん、めっちゃ声ちっさ!……非公式ラスボスなのに……年上なのに畏まっちゃってます。虐めすぎても可哀想なので、話題を変えます。

 

「んじゃ、まあ、今回の依頼の話をしましょうか?……わざわざ大掛かりに仕組んだんですから、せいぜい有効利用しましょうよ」

 

 アインズさんが顔を上げる。

 仮面越しでもパァッと明るくなったのが理解できた。

 しょぼくれて見えた背筋も伸びている。

 

「では、副王にしてミスリル級冒険者ゼブルよ!……今回の依頼について説明する。魔導国からの依頼第一号だ。私は今後この依頼を受けられることを冒険者の名誉としたい。全ての魔導国国民から称賛を受けるべきものとしたい。よって必ず成功させなくてはならない」

 

 唐突な支配者ムーブというか魔王ムーブに面食らっていると、アインズさんはノリノリで続けた。

 

「最高位アダマンタイト級の『漆黒』と魔導国ミスリル級第一号の手によって達成されることに意義があるのだ。達成のあかつきには魔導国は最上の栄誉と最高の報酬をもって応えるだろう。頼んだぞ、ゼブルよ」

 

 勢いに圧倒され、思わず跪く。

 どうにもこういう勢いに弱いなぁ、俺……なんとなく『バンバン』さんの勢いに流されて、キャラのリビルドの為に殺されまくっていた頃を思い出す。たしかに言い出しっぺは俺とはいえ、80レベルから100レベルを何回繰り返したことか……当時は永遠に思えた苦行を思い出し、僅かに震えが走った。

 

「……ご依頼たしかに承りました、陛下」

 

 ガントレットが差し出され、素直に手を取る。

 完全に魔導王と化したアインズさんが俺をハグすると、耳元で囁いた。

 

「これで国家公認の最小人数で出発できます……リザードマンのゼンベルだけ加えて行きましょう」

 

 小狡い悪巧みを仲間だけに告白する悪戯小僧……唐突にアインズさんの雰囲気が一変し、戸惑ってしまった。

 

「……つまりアルベドは自分で作り上げた法令で?」

「……俺も考えたんですよ。どうやったら守護者達に文句を言わさないで最小人数で探索に出れるかって」

 

 俺はアインズさんの肩を叩き、アインズさんはサムズアップを返した。

 

 

 

 

 

 

*************************

 

 

 

 

 

 

 カルネの巨大宮殿の謁見の間のほど近い第一会議室には巨大な円卓が設置されていた。

 最奥の上座に魔導王が鎮座し、右手に副王である俺、左手に宰相アルベドが着座している。他の階層守護者は各々いつもの位置に座り、ヴィクティムは席上の宙に浮いたままだ。会議に出席しても意味の無いガルガンチュアの代わりに領域守護者で唯一出席を許されているパンドラズ・アクターは一番入口に近い下座が定位置となっていた。そして入口の横には実質的に第九階層の守護者であるセバスが控えている。

 会議は白熱していた。

 当初は意見交換であったが、感情論が場の大勢を支配するに至り、冒険に同行したいという欲の発露と阻止したいという理性的な意見にも安全確保以外の側面も芽吹いていた。

 支配者を前にした発言に一定の抑制は含んでいるものの、どうしても会議開催当初より声も発言内容も荒れてくる。最終局面になると御前会議は荒れに荒れたが、アインズさんの「騒々しい、静かにせよ!」の一言で異論を唱えていた守護者達は一斉に押し黙った。

 だからと言って守護者達も素直に引き下がったわけではなく、アルベドとデミウルゴスは再度舌戦の戦端を開くタイミングを測っているようだ。

 迎え撃つは魔導国の絶対者アインズさん。

 

「私とアルベド……2人で最終決定した法令にアルベドは反対するか?」

 

 さすがのアルベドもどうしてもこれを言われると弱いらしい。先程からその度に舌鋒が引っ込む。

 沈黙したままのアルベドに代わり、デミウルゴスが発言の許可を求める。

 アインズさんが頷くと、デミウルゴスは立ち上がった。

 

「私などにはアインズ様が自ら出向くような案件とは思えません。百歩譲って、パンドラズ・アクターでなくどうしてもご自身で出向くというのであれば、あまりに手薄な陣容……ゼブル様を信用しないわけでは御座いませんが、もう少し護衛を揃えて、我々守護者を安心させていただきたいのです」

「それでは意味が無いのだ、デミウルゴスよ……魔導国における冒険者の地位の向上も複数ある狙いの一つだ。モンスター専門の傭兵稼業から未知を既知に変える職業にし、全国民から称賛されるものへと昇華するのだ。やり切れる者は減るだろうが、目指す者が増えるようにしたい。報酬が上がる以上に名誉を与えてやりたい……最終的な目的がドワーフ王国との国交樹立である以上、ドワーフ達の口を塞ぐわけにはいかぬ。つまり探索し、訪問するメンバーについて虚偽は禁物なのだ。最悪のケースを想定しても同行するゼブルさんがゲートを使える以上、転移阻害を阻止し、逃げ切る間の時間が稼げれば良い……故に最小人数で良いのだ。案内役のリザードマン……ゼンベル・ググー以外の者は同行させぬ。魔導国の冒険者チーム筆頭であるアダマンタイト級の『漆黒』と最初に任を受けられるミスリル級となった『3人組』の2チームだけで完遂させることに大きな意味があるのだ」

 

 絶対者アインズさんの決意表明にデミウルゴスは引き下がった。

 主君に複数ある狙いの中の一つとまで言われては、護衛を増やすことに対して、それ以上のメリットを示さねばならない。国策としての冒険者の地位向上と単に守護者達に安心感を与える為では比較するのもバカバカしい。そうでなくともアインズさんも俺も長距離集団転移が使える以上、時間稼ぎ以上の戦力は不要なのも事実。仮に敵が初手で転移阻害を使ったとしても100レベルプレイヤー2人相手の戦闘でそこまで余裕を持った対応が可能な現地勢など世界中に数えるほどしかいないだろうし、相手がプレイヤーの集団であれば俺達が異形種であるとはいえこの世界で初手から全力戦闘でプレイヤーを滅ぼしにくるとは思えない……俺もそうだが、まずコンタクトを試みるはずだ……と思う。理性的でない戦闘狂相手でなければ、の話だが。

 

 デミウルゴスが着席した。なにやら視線がアルベドに向けられたような気がするが……思惑を確認する間も無く、今度は意外なところで、シャルティアが挙手した。彼女がこういった会議でまともに発言を求めるのは非常に珍しい。現に先程からほとんど発言は無い。もちろん賑やかしみたいなものは散々発言しているが……

 アインズさんが頷くとシャルティアが立ち上がる。

 

「アインズ様にゼブル様、ごきげん麗しゅう……仮に守護者が今から冒険者訓練所に入所しんしたとして……卒業後にアインズ様か、ゼブル様のお仲間に加えていただくことは可能でありんしょうか?」

 

 アルベドとデミウルゴスを除く守護者達が一斉に顔を上げた。

 どちらにしてもアインズさんのモモンの代役であるパンドラは関係ないので無視しているように見える。

 ヴィクティムはよく解らん。

 

「可能デアレバ、私モ!」

「私も冒険者になりたいです!」

「……おっ、おねーちゃんがなるのなら、僕も……」

 

 アインズさんは大仰な素振りを見せ、食い付いた3人を抑える。

 

「お前達の忠義は嬉しく思う……が、いまさらそんな姑息な真似を魔導国の支配者がしたとして、魔導国の民心はどう感じるであろうか?……ことはナザリック内部の話ではないのだ。お前達も想像してみるが良い」

 

 黙り込む3人を尻目にアインズさんは立ち上がり、断言した。

 

「自分達が担ぐのは情けない支配者と思うであろうな……お前達は私をそう思わせたいのか……それは本意ではないだろう?……心配してもらえるはありがたく思うが、それだけではダメなのだ。支配者は強くなければならん」

「しかしアインズ様!」

 

 今度はデミウルゴスが立ち上がった。

 

「アインズ様のアンダーカバーである冒険者モモンと魔導王であられるアインズ様はあえて別人とされているはず……アンダーカバーに護衛が加わったとこで支配者としてのアインズ様に何ら問題は生じないかと」

 

 一瞬、アインズさんが黙り込んだ……どうやら困っているのか?

 

「……だがアンダーカバーはアンダーカバーだ。いずれ同一人物と露見するかも知れぬ……現状の魔導王人気が継続するのであれば、私はそれでも構わないと考えているのだ」

 

 聞いている限り、かなーり無茶苦茶な屁理屈ですが、デミウルゴスは「おおっ、さすがはアインズ様!」と感動して、何故かあっさり引き下がった。

 

 まーた勝手に深読みしてやがる……困ったらアインズさんに意味深なことを言わせていれば対処が楽な反面、毎回毎回どう深読みしたのか探らないといけないのは面倒だ……が、今回はこれで良いのかもしれない。なにしろ今回はこちらも言っている以上のことは一切考えていない。

 

「そっ……そういうことなのだ。だから今回に関しては『漆黒』と『3人組』とゼンベル・ググーだけでことを成す。帝国のフールーダ・パラダインや著名な武器コレクターであるオスクからは既に情報を得ている。我々の目的であるドワーフ王国と帝国には既に貿易があり、魔法の武器の輸入をしている。しかし100年程前からルーンを刻み込んだ武器の輸入が絶えてしまったということだ」

 

 しれっとアインズさんはかなりの重要情報をぶっ込んできた。

 

「……マジ?」

 

 思わず口を突いた言葉にアインズさんが食い付く。

 

「マジもマジですよ。なんでもルーン工匠とかいうユグドラシルにはないこの世界独自のクラスを持ったドワーフがい帝国に来たことがあるらしいです」

「……輸入が100年前から絶えている、と」

「そうみたいですね」

「単純に生産量が減ったとか?」

「その辺りの詳細な事情は不明ですが、近年でも武器の輸入はされていたようなので、ドワーフ王国が滅んだとかはなさそうでですね」

「ドワーフ王国が現存し、ルーン武器の輸入が絶えた……つまりルーン武器の価格釣り上げを狙っているのでない限り、ルーン工匠の数が激減している可能性がある?……大変じゃないですか!」

「えっ?」

「ルーン武器ですよ!」

「はぁ?」

「この世界にルーンコレクターがどれだけいるかは知りませんが、魔導国が独占するチャンスかもしれません。それにこの世界独自の技術体系がロストしたら、もう復活もありませんよ……これはアイテムコレクターとして放置するわけにはいかないでしょう!」

 

 急にアインズさん以上に乗り気になった俺に、アインズさんの頭蓋の奥の赤い光が大きく揺らいだ。

 

「どうやら急を要するようだな!……話は終わりだ。我々は出発するぞ。セバス、ナーベラルにナーベとして私に同行するように伝えろ!……他の者も勝手に同行することもシモベを付けることも許さぬ!……良いな!」

 

 アインズさんに従う形で会議室を出る。

 背中に突き刺さる憎悪は無視することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 カルネ内に造成された親水公園のような巨大池の近くにあるリザードマンの居住区まで歩く。

 アインズさんを先頭にナーベ姿のナーベラル・ガンマと俺にジットにティーヌと続く。既にティーヌとジットの準備は完了していた。元々持たせている睡眠飲食不要の指輪を装備し、冷気対策をさらに強化してある。さらに『飛行』のネックレスを装備している。2人とも種族として飛べるが、念の為……アクセリー類ジャラジャラの2人を見て、アインズさんは装備規制の無い現地勢の優位性を再確認し、警戒心を強める一方、単純に羨ましがっていた。現地勢はプレイヤーでは不可能な全属性に対する耐性強化が可能なのだ。

 目の前にカルネの巨大宮殿の敷地に匹敵する大きさの優雅な親水公園がひろがっていた。見た目も美しく、とても瓢箪池に住み着いていたリザードマン居住地には思えない。人間種の子供達や親子連れが入り込んでいるが、リザードマン達と出会う度に挨拶していた。奥の方には極少数のトードマンも住んでいるらしいが、彼らは人間種の前にほとんど姿を現さないらしい。

 ここにトブの大森林内にいたリザードマンの半数が住んでいた。残りの半数は元々の居住地である瓢箪池に残り、半数はエ・ランテル近郊に水源を引っ張って新設されたリザードマンの集落に住んでいる。

 カルネ内の居住区を代表するリザードマンのザリュースが魔導王一行の訪問を出迎えた。

 

「ザリュースか、久しいな……魚の養殖事業はどうだ?」

「お陰様を持ちまして、魔導王陛下より数々の知識と施設を授かり、マーレ様のご協力の下、順調に事業は拡大しております。新設していただいたカルネ城外の施設での生産分からは売りに出す予定でございます」

「そうか、それは良かったな……ところで今日は兄と妻はどうした?」

「兄者はエ・ランテルの集落へ出向いております。あちらの代表であるキュクー・ズーズーに何やら相談されているようです。妻は出産を控え、自宅で安静にしております」

「そうか……無事に子が産まれたら、何か祝いをやろう」

「ありがたき幸せ」

「ところで……今日は以前に伝えておいたゼンベルにドワーフ王国までの道程を案内させる件で来たのだが……」

 

 ザリュースは立ち上がり、後方に手を翳した。

 

「準備万端でございます、陛下」

 

 異様に右腕が肥大化した傷面のリザードマンが建物の中から現れた。パッと見20レベルを僅かに超える程度……ちなみにザリュースの方が僅かに強いように感じる。2人とも雑魚だがトブの大森林内で最初にナザリックの配下となった種族として、リザードマン達は優遇されていた。居住地でも独自の養殖事業でも武技実験でもかなり優遇されている。

 俺とジットはともかく、ティーヌは彼等と顔馴染みだ。

 ティーヌの姿を見ると、ゼンベルは表情の読めないリザードマンとしても俺でも即座に理解できる笑顔を見せたが、それも一瞬、アインズさんの前に即座に跪く。

 挨拶もそこそこに、ゼンベルが口火を切った。

 

「……陛下、無礼を承知で確認したいんですが?」

「ゼンベル、よせ!」

 

 ザリュースがゼンベルを諭す。

 

「良い、ザリュース……疑問があるならば申してみよ、ゼンベル」

「……陛下はドワーフ王国を侵略する目的で出向くんですかい?」

 

 嫉妬マスクがゼンベルからザリュースに向き直った。

 

「リザードマン居住区には布告が無かったのか、ザリュースよ?」

「……ございました」

「では、布告の通りだ……お前達との最初の出会いこそ、侵略するような形になってしまったが、現在の魔導国は多種族共生を標榜している。私は魔導国の支配者である魔導王だ。この先いかなる種族もいかなる国家も魔導国と敵対関係にならない限り、武力侵略することはない」

「申し訳ございません、陛下!」

 

 ザリュースもゼンベルも深く頭を下げる。

 

「良い、2人とも許す……では、協力してもらうゼンベルにはこれを授ける」

 

 ユグドラシルの登山基本セットをゼンベルに手渡し、特に『飛行』のネックレスの使い方をレクチャーする。

 レクチャー担当は顔馴染みのティーヌだ。元々特殊部隊員だけあって、レクチャーも上手ければ、アイテムに関しても一度覚えたことは忘れない。

 

 その間にアインズさんはナーベの案内で建物内に入り、アダマンタイト級冒険者『漆黒』のモモンのフルプレート姿となって現れた……うーん、やっぱり色々と考えてもこれが一番リスキーな気がする。せいぜい30レベル程度の戦士職の選択はどう考えても危ないような……?

 

「では出発だ!」

 

 アインズさんを先頭に『転移門』のエフェクトの中に一行は進む。

 誰も躊躇しない。

 最後に残った俺は跪くザリュースを見てから、宮殿に視線を移した。 

 ドーム状屋根の上から視線を感じた気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

*************************

 

 

 

 

 

 

 体力的には辛いかもと思っていたジットも悪魔化の影響なのか余裕でアゼルリシア山脈を進んでいる。まあ、歩いているの自体はアインズさんが狩ったモンスターの死骸で作成したソウルイーターなのだが……まあ、時間こそ掛かったが探索行は順調そのもの……ゼンベルの記憶にヒットしたドワーフ王国の廃墟に到達するまではの話であるが。

 

 廃墟というにはまだ放棄されてから間もないのだろう。

 ゼンベルが訪れたのも数年前だ。

 誰もいない地下都市と坑道群は寂しげだが、一夜の宿とするには充分な広さを居住性を維持していた。睡眠も飲食も不要だが、やはりゼンベルのレベルでは休憩が必要な行程ではあった。

 警戒用に眷属を2匹召喚する。

 漆黒の蠅は闇に溶け込み、映像を送信可能な範囲で周囲の警戒に飛び回っている。

 誰もいない……何もいない。

 ドワーフどころか、モンスターすら発見できない。

 かと言って、この廃墟に種族が滅ぶような戦闘の痕跡があるわけでもなく、単純に放棄したような印象を受ける。

 

 ……ん?

 

 闇の中、眷属が空気の揺らぎを感知したらしい。

 映像が送られてくる。

 妙な外見の一団だ……亜人種かモンスターか……小柄で毛むくじゃらなのは一緒だが、どう見てもドワーフとは思えない。

 

「……地下都市の入口近辺に奇妙な一団を発見したけど、どうしますか?」

 

 ティーヌと話していたアインズさんが振り向く。

 

「奇妙な一団?」

「少なくとも俺は見たことが無い。モンスターじゃなきゃ、かなり見た目が動物よりの亜人かな?……パッと見はやたらデカいモグラ……ただし個体毎に毛色が微妙に違う」

「総数は?」

「30はいないかな……えーっと26、いや27体……個体としては完璧に雑魚だけど組織だって動いている感じがしますね……こいつらが偵察部隊だと少し厄介かもしれない」

「武装は?」

「なし」

「対処可能ですか?」

「殲滅でも捕縛でもやり過ごすでも可能です……ただいずれにしてもこいつらが偵察部隊だった場合は大きなリスクが生じますね」

 

 フルプレート姿のアインズさんが腕組みしたが、それも僅かな間……

 

「全部捕縛して下さい。とりあえず情報が欲しい。ドワーフの廃墟に組織だって動く連中が現れた……関係があればドワーフ達の移住先が判明するかもしれない」

「了解!」

 

 眷属に命じた数秒後には巨大モグラ団は呆然と立ち尽くす集団と化した。

 仕事を終えた眷属が消えたので、残りは1匹だけ。

 別方向の警戒に飛び回っていたヤツを呼び戻し、モグラ団が侵入して来た穴近辺を中心に警戒網を引かせた。

 

「叛逆可能域に達しているヤツは無し、と……とりあえずの支配は完了したんで、こちらに呼び寄せますか?」

「そうしてください……相変わらずエグいですね?」

「あまり戦闘向きじゃありませんけどね……カンストプレイヤー相手じゃ、通用しても一瞬の足留めにしかならないし、多用すれば簡単に対処されるし」

「それでもこっちの世界じゃ、優秀じゃないですか?」

 

 そりゃ、そうなんですけど……どうにもナーベラルの前であまり披露したいものじゃない。だからアインズさんの後ろに控えるナーベラルが気になって仕方ない。

 

 そんなことを考えている内にモグラ団が休憩中の建物内に現れた。

 身長は140センチ程……かなりずんぐり体型だ。

 特別デカい個体もいないが小さな個体もいない。

 そいつらが俺の前に整列し、おそらく指揮官らしい毛色が微妙に青い個体が一歩前に進み出る……が、記憶も意思も無いので拝跪することはなく、呆然と俺を見上げるだけだ。

 

「さて、お前らは何者だ?」

「我々はクアゴアでございます」

「クアゴア?……クアゴアについて詳細を話せ」

「土の種族でございます。幼少期に食べた鉱石の種類よって体毛の色が変化します。赤や青の混ざった体毛の持ち主は強者でございます。金属製の武器に対して絶対耐性を持っています。弱点は雷属性でございます。アゼルリシア山脈に八氏族で約80000のクアゴアが暮らしております。またドワーフとは出会えば即殺し合う程の犬猿の仲でございます」

 

 土の種族……なんだ、そりゃ?

 んで、赤や青はレアな強クアゴア、と。

 種族特性として金属製武器に完全耐性を持つ……後で実験するか?

 弱点は雷……魔力系魔法詠唱者なら属性特化していない限り低レベルでも使える感じだ……結構、致命的。

 で、ドワーフと敵対中……殺し合う程仲が悪い、と。

 

「お前達はどこから来た。どうして来た。誰に命じられた。ここに住んでいたドワーフはどうした?……可能な限り詳しく話せ」

「我々はクアゴアの歴史上最高の英雄であられる統合氏族王ぺ・リユロ様に命じられ、現在はフロスト・ドラゴンの一族が支配するドワーフ共の旧王都フェオ・ベルカナより、ドワーフ共の偵察と攻略路探索の為にフェオ・ライゾに参りました……ドワーフ共は難攻不落の砦を築き、大裂け目の向こうのフェオ・ジュラに逃げ込んでいます」

 

 うん、なんか重要な情報が山盛り出て来たな……まずは下手すればドワーフよりも有益な情報から……

 

「フロスト・ドラゴンの一族がいるのか?」

「はい……氏族王が取引し、我々と共生しております」

「取引とは?」

「ドワーフ共から奪った宝物や希少な鉱石を献上していると聞いております」

 

 共生ね……要はクアゴアってえのはフロスト・ドラゴンの一族に使い走りにされているわけか……弱肉強食のモンスターのヒエラルキーとはいえ、数がいてもクアゴア程度の戦力じゃ太刀打ちできない程のドラゴン一族がいる、と。

 

 見れば、アインズさんは明確にガッツポーズをしている。

 

「さすがに……ドワーフよりドラゴンを優先しますよね?」

「ルーン技術は残っていれば今日明日で無くなるわけじゃありませんよね……だったらドラゴン優先でOKじゃないですかね?」

 

 ヒャッホー、とハイテンションのアインズさんはハイタッチをして回っています。配下達は困惑してしるのか、微妙な表情で応えていた。

 

 まっ、浮かれる気持ちは俺も一緒……ドワーフの旧王都に住むドラゴン……簡単に言えば、存在自体がお宝の山なのにお宝の山かもしれない場所にわざわざお宝を集めて住んでいるわけです。しかも一族という以上、複数ですよ。ユグドラシルではドラゴンが複数集まって暮らすとか聞いたことないし。

 

 ここで攻めなきゃユグドラシルプレイヤーじゃない!……ぐらいの鴨ネギ状態と遭遇したわけですよ!

 

「よし!……お前はドラゴンのところまで案内しろ。残りはここで誰にも見つからないように隠れていろ。もし捕食者に見つかったら逃げることを許す。ただし安全を確認したら逃げろ。それとドワーフと遭遇したら生かしたまま捕らえ、絶対に殺すな」

 

 脳内の肉腫に動かされ、クアゴア達が頷く。ただしこいつら自体は何の記憶も残らない。だからなんとなくこの場から離れられなくなるだけ。

 

「さて、アインズさん?」

「なんですか?」

「金属武器に対する完全耐性とかいうこいつらの能力の実験しますか?」

 

 んーっ、と考え込む漆黒のフルプレート。

 そのままポンっと手を打ったかと思うと、自身の大剣を抜き、青毛隊長の右腕に叩き付けた。あっさり腕が落ちる。

 響き渡る絶叫。

 

「ミドル・キュア・ウーンズ」

 

 治癒魔法を詠唱すると、青毛隊長に腕が生えた……そして黙り、再び虚空を見つめる木偶人形となる。

 

「金属武器に対する完全耐性ってより……こっちの世界で一般的に最高硬度とされるアダマンタイト以下の金属武器に対する耐性ぐらいに考えておけば間違いなさそうだと思いますよ……ナーベも剣を使わなければ良いだけですし、問題ないかと」

「んなもんですかね」

 

 ちょっとクアゴアの子供にレア鉱石を与えて赤や青以上の毛色が作れるか試したかったんだけど……この体たらくで完全耐性とか言っているようじゃ、素の能力はたかが知れているしなぁ……

 

「んじゃ、まっ、ドワーフ王国の旧王都に向けて、出発しますか?」

「そうしましょう!」

 

 座り込んでいたゼンベルを起こし、青毛隊長に先導するように命じる。

 

 ドワーフ王国よりも美味しい獲物が俺達の行方に待っている!!

 

 

 

 

 

 

 

 青毛隊長が難所と説明した溶岩地帯もガスが噴出する死の迷宮も難無く通過し、俺達は意気揚々とフィオ・ベルカナに向かう。

 あー、『転移門』て、マジで偉大な魔法だ。

 その道中で青毛隊長を完全に支配し、彼は統合氏族王への忠誠を捨て、俺の配下となった。自身も仲間も同族も……全てミンチにされる映像を気が狂う寸前まで見せた。個の死に疎い種族でも、種の存続は極めて重要らしいとビーストマン支配の経験から学んでいて良かった。

 彼の名はパだかぺだかピだかプだかポだか……とにかく頭に入り難いので青毛隊長と呼んでいる。

 現在、青毛隊長は先行して統合氏族王の下へ……人間国家の強力な冒険者チームが侵入した……そう伝えに向かった。

 

 ティーヌを先頭に暗黒に包まれた洞窟内を進む。

 ゼンベルの直後にモモン姿のアインズさんが続き、後続は俺、ジット、殿がナーベという隊列だ。

 と言っても隊列に意味は無く、緊張感も失せていた。

 もはや完全武装のピクニック……気分はユグドラシルの狩猟会よりもかなりお気楽なドラゴン狩りだ。レイドボスクラスのドラゴンならばまだしも、青毛隊長からの聞き取り情報ではどう考えてもレベルのカンストしていなさそうなフロスト・ドラゴンが複数……であれば希少な素材の草刈場に最速で到達するみたいなもの……むしろ緊張するのが難しい。

 

「ドラゴンを捕まえて実験をしましょう!……殺して、素材を剥いで、またトゥルー・リザレクションで復活させるのが可能なら、素材を剥ぎ取り放題みたいなものですよ!……同時にトゥルー・リザレクションの実験にもなるし」

「アイテム使うのももったいないんで、それは俺がやりますよ……それに青毛隊長の情報ではドラゴン達が解錠できない宝物庫もあるらしいですよ!……アインズさんて高位の解錠魔法かスキルありましたっけ?」

「そっちは手持ちのアーティファクトのエピノゴイを使います。低レベルでもドラゴンの攻撃を凌ぐような宝物庫の守りでも、90レベル盗賊の解錠スキルならばなんとかなるでしょう」

 

 道中、延々とそんなお気楽な会話が続く。

 ユグドラシルプレイヤーの常としてドラゴン単独でも涎が出るのに、群れでいるとか、まるで夢のようですわ。

 

 少しはクアゴア達の抵抗でもあるかな、と思っていましたが、実にあっさりと旧王都フェオ・ベルカナらしき場所に到着……まあ、間違いないでしょう。完全支配した青毛隊長が嘘を吐くはずがない。

 いかにも古いドワーフの都市のような場所で獣臭が充満しています。

 80000人いると聞いたクアゴアのものか……ただ誰も姿を現しません。

 代わりに精巧な彫刻の施された通路の奥からドラゴンが1匹……クアゴア並みに暗視可能なティーヌが発見した。

 慌ててゼンベルを背後に匿い、前に出ないように言い含める。

 その間にもドラゴンは早足で歩み寄って来く。

 ティーヌが単純に前に進むと、そいつはビクッとして立ち止まった。

 

「アハッ……ドラゴンなのにビビったみたいですねー」

 

 そりゃ、いかにドラゴンと言えどせいぜい20レベル程度じゃ、ざっくり70レベルの悪魔にゃビビるんじゃないかなぁ……?

 

「わっ……私の名前はヘジンマールと申します……貴方様方がクアゴア達の言う人間の冒険者様ですか?」

 

 んっ……ドラゴンなのに妙に腰が低いし、丁寧語?

 

 疑問に思う間も無く、アインズさんが進み出た。

 

「いかにも……私はアインズ・ウール・ゴウン魔導国のアダマンタイト級冒険者である『漆黒』のモモンだ!」

「ではモモン様とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「それで構わないぞ。ではフロスト・ドラゴンのヘジンマールに問うが、お前は何者なのだ?……いったい何の為に単独で現れた?」

「私は父オラサーダルクに命じられ、人間の冒険者チームの討伐に来たのですが、貴方様方を見た瞬間に自身の愚かさを悟った次第……もし可能であれば、貴方様の配下に加えいただく……」

 

 ヘジンマールは地面に頭をつけた。

 

「何卒、ご許可を……お願いいたします!」

 

 おそらくドラゴンなりの服従のポーズなのか?

 

「どうしますか、ゼブルさん?」

 

 振り向いたアインズさんから困惑が伝わります。

 

「どうもこうも……リザードマン居住区でゼンベルに宣言した通り魔導国に屈服するのであれば、国民として受け入れるしかないでしょうよ……いくら素材として価値の高いドラゴンとは言え、こう完全に服従の意を示されては手の出しようがない」

 

 アインズさんは俺から背後に守られて立つゼンベルに視線を移した。そして表情から何かを悟ったのか、再度俺を見てがっくりと項垂れた。

 

「……今度は出会い頭に殺りましょう!……絶対に皆殺しにしましょう!」

「いやいや慌てなくても……とりあえずドラゴンの蘇生実験さえ成功すれば何度でも素材は剥ぎ取り可能ですって……まぁ、最低でも1体、1回は犠牲になってもらう必要がありますけどね」

 

 俺達の会話を聞いていたヘジンマールはガクガク震えながら、さらに強く頭を地面に押し付けた。

 

 しかし奇妙な体型のドラゴンだ。俺達がユグドラシルで見慣れたフロスト・ドラゴンと同種に見えるが、ポッコリと腹が出てるし、一族で徒党を組んでいる。股間から漏れているのは尿か?……尿が地面を伝って達しても、決して頭を上げようとしないのは……立派なのか?

 ドラゴンの孤高で強欲なイメージがガラガラと崩れる。

 

「ヘジンマール!」

「はっ……貴方様はゼブル様とお呼びすれば?」

「それで構わない……お前達は何匹いる?……お前が迎撃を担当していると言うことは、お前が一番強いのか?」

「いえ、私よりも大きなドラゴンが4匹、私と同等の大きさのドラゴンが6匹、私よりも小さなドラゴンが9匹、一緒に暮らしております。私よりも大きなドラゴンと同等の大きさのドラゴンは皆、私よりも強いです」

「そうか、俺達もナメられたもんだな。まあ、ドラゴンは総じてそんなイメージだけど……決して気分が良いもんじゃないな」

「おっ、お許しを!」

 

 ヘジンマールは頭をぐりぐりと地面に押し付けた。自身の股間から漏れる尿らしき液体を飲むんじゃないかという勢いだ。

 

「構わないぞ……で、お前達の中で一番強いのが、さっき言ったオラサーダルクか?」

「ゼブル様の仰る通りでございます」

 

 今度はアインズさんの質問が飛ぶ。

 

「そいつは魔法を何位階まで使える?……魔力系魔法以外も使えるのか?」

「魔力系のみ、第三位階でございます」

「本当か?……実は第八階層ということはないのか?……後で虚偽情報を言ったと知れば、お前は敵対したとみなすぞ」

「嘘ではございません!……そんな高位の魔法が使えるなど聞いたこともございません!……父オラサーダルクが使えるのは第三位階の炎防御の魔法と聞いたことがございます!」

「……そうか……もし違ったら、お前で蘇生実験を試してやるぞ」

「私は知る限りの真実のみを申しております」

 

 ヘジンマールはさらに頭を地面に擦り付ける。

 

「ではヘジンマールよ、お前達の住処に案内しろ!」

 

 その背にゼンベルとジットを乗せ、ヘジンマールは歩き始めた。

 

「……頭のプライドさえ潰せば案外簡単にフロスト・ドラゴン共は屈服するかもしれませんね?」

 

 前を進むアインズさんが俺に振り返る。

 

「できたら、抵抗して欲しいんですけど……」

「でも僅か19匹のフロスト・ドラゴンで80000人のクアゴアを支配していたわけでしょう?……その19匹のフロスト・ドラゴン一族もオラサーダルク1匹を抑えれば支配可能です。つまりオラサーダルク1匹を支配すれば効率的にフロスト・ドラゴンとクアゴアという種を支配できるわけですよ。しかも腐ってもドラゴンなんだから、評判を広めればアゼルリシア山脈に住む様々な種族にも影響を与えると思いますよ。魔導国の影響力を山脈全域に広げるチャンスとも言えます……だからお願いがあるんですけど」

「オラサーダルクの対処ですか?」

「そう、ドラゴン狩りを楽しみにしているところに水を差すようですけど、俺に任せてもらえませんか?」

 

 ほんの一瞬だけアインズさんは黙りましたが、すぐに俺の肩に手を置いた。

 

「任せますよ……国家からの依頼はドワーフ王国との外交関係の樹立も含まれますからね……ヘジンマールは交戦前に服従を選択したわけです。だったらオラサーダルクも含めて他の個体も服従するかもしれません。強者中の強者であるドラゴンの群れを従えて、ドワーフ王国に向かえば、魔導国の保有戦力を理解させやすいんじゃないですか……そんなところが狙いですか?」

「もっと言えばアゼルリシア山脈の全種族を支配下に置きたいかなぁって……せっかく王国も帝国も竜王国もビーストマン国家も魔導国の領土としては承認させたんですから、名実共にってしたいかなぁ、と」

 

 そんなことを話し合っている間にひときわ大きな扉の前に到達した。

 ヘジンマールが振り返り俺を見る。

 

「開けろ」

 

 ヘジンマールか両開きの扉を器用に引き開ける。

 その向こうには俺達のイメージ通りのドラゴンが横たわっていた。

 




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