ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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第一章:吸血姫
第0話:リリカルからありふれへ


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 新暦八三年。

 

 ミッドチルダの聖域ミッドチルダ支部では、所属をしている仲間達で溢れ返っていた。

 

 居なくなったユート――緒方優斗の行方を求めて。

 

 とはいえ、ユーキからしたら行き成りユートが居なくなるのはありがちだし、心配そのものはしていなかったりする。

 

「ユーキ姉ちゃん、ホントにユート兄ちゃんは大丈夫なのかな?」

 

「大丈夫、ヴィヴィオ……兄貴はこれまで幾多の世界を渡り歩いた。突然に居なくなるのはよくある事さ。この世界から自分の意志で出るなら、【閃姫】は全員エリュシオンに回収している筈だからね」

 

「うう……だけど〜」

 

「確かに兄様は過去にまで跳ばされても平然としてはいますが、やはり心配にはなりますよユーキ姉様」

 

「アインハルト、大丈夫だっての。兄貴が必要なら、【閃姫】を招喚するしさ」

 

 【閃姫】の招喚、それはユートの側妃達を喚び出す術である。

 

 ユートは必要に応じて、自らの【閃姫】を自分の居る場所に喚べた。

 

 但し、その世界での行動によって獲られるコストを支払う為、すぐに喚べる訳では無かったし、無制限に喚べる訳でも無いのだが。

 

 喚ぶのは身の周りの世話を焼けるシエスタが多く、同じくらい比翼の鳥にして連理の枝たるユーキが喚ばれている。

 

 どちらも最初の転生地、ハルケギニアで出逢っているのだが、シエスタはあの世界の人間であり、ユーキは肉体こそオルレアン大公の娘のジョゼットだけど、その魂はユートと同じ世界の出身、橋本祐希が転生をした存在であったと云う。

 

 現在、この【魔法少女リリカルなのは】主体世界は【魔法戦記リリカルなのはForce】が終了した時間軸であり、とはいえそもそもフッケバインの事件なんて遥か前に終わっていた為、割と平和な毎日を送っていたりする。

 

 そんな日々の中で行き成り行方を眩ませたユート、ユーキが曰く別の世界へと跳んだらしい。

 

 必要なら喚ばれるだけ、だから心配なんてするのは無駄な労力でしかなくて、然しヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトとアインハルト・ストラトス、他にも複数人が初めての経験に等しかったからこそ聖域ミッドチルダ支部で屯をしていた。

 

「ん?」

 

「どうしたの? ユーキ姉ちゃん……って、それは」

 

「ダブルドライバー?」

 

 ユーキの腰に顕れたのはダブルドライバー、つまり仮面ライダーWに変身する為のデバイスである。

 

「どうやら兄貴が呼んでるみたいだね」

 

 取り出したのは緑色をしたUSBメモリみたいな形の機器、【ガイアメモリ】というやはり仮面ライダーWに変身するツール。

 

「変身!」

 

《CYCLONE》

 

 スイッチを押してやり、ダブルドライバーの左側のスロットへ装填。

 

「ジョゼット、暫く身体を頼んだよ」

 

 フッとユーキの意識が消えると……

 

「まったく、いつも留守番ばっかりなんだから」

 

 すぐに目覚めて自分自身へ文句を言う。

 

「お久し振りですジョゼットさん」

 

「うん、久し振りよね……ヴィヴィオもアインハルトもかしら? 何だか他にも一杯居るみたいだけど」

 

 ジョゼットとはユーキの憑依した転生先の娘だが、胎児の頃にユーキと融合をしているから一つに混じり合っていたが、魂の一部を分離してユーキの記憶にあるジョゼットの人格とし、留守番役をやって貰っていたりする。

 

 極稀に……だけど。

 

 それから数時間くらいの刻が経過した。

 

「ただいま」

 

 再びジョゼットと一つになり、彼女との記憶の同期をしてしまう。

 

「お帰りなさい」

 

「お帰りなさい……」

 

「おふぅ、疲れたねぇ」

 

 ヴィヴィオとアインハルトは首を傾げる。

 

「他のみんなは?」

 

「スパーとかランニングに出てます。私とアインハルトさんは留守番ですね」

 

「ジョゼットさんの話し相手をしてました」

 

「う〜ん、みたいだねぇ」

 

 記憶同期が完了した為、今まで何をやっていたのか“思い出せた”。

 

「ユート兄ちゃんは?」

 

「【ありふれた職業で世界最強】って世界に居たよ。まだオルクス大迷宮を抜けてないから、一年くらいは掛かるんじゃないかな?」

 

「え゛、一年〜っ!?」

 

「私の試合、観て貰えないんですね」

 

 驚くヴィヴィオと嘆いているアインハルト。

 

「ま、ある程度の知識は渡しておいたから。後は何とかするでしょ」

 

 ユートと直に話したから御満悦なユーキは、取り敢えず【閃姫招喚】は無理そうだなと考えつつ、新しい【閃姫】候補に思いを馳せるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 世界はいつだってこんな筈じゃなかった事ばかりだ……とは誰の言葉か?

 

 ユートがこの地に来てから数年、高校に入ってから二年目となった訳だけど、この地球には【仮面ライダー】シリーズが放映されていて毎週が愉しい。

 

 【プリキュア】シリーズや【スーパー戦隊】シリーズもバッチリ放映してて、その愉しみを共有している友人も居た。

 

「ハジメ!」

 

「優斗!」

 

 男同士で日曜日に待ち合わせ、端から見たら危ないデート風景だろうか?

 

 勿論、断じてデートなんかではないとユートは断言をするけど。

 

 友人との他愛ない遊興、【仮面ライダー鎧武】……劇場版を観る為の御出掛けという訳だ。

 

 この月に普通はやらないのだが、ユートがちょっとした伝手で映画を映画館で再演させたから。

 

 どうせ、現状では女の子の知り合いなんてレストラン園部の娘と顔見知り程度でしかなく、あそこの洋食を夕飯にするのは珍しくないにせよ、それだけの関係でしかなかった。

 

 一応、高校ではクラスメイトではあるが……

 

「面白かったなハジメ」

 

「うん、やっぱり仮面ライダーは良いよね」

 

「ハジメはやっぱり買ってるんだろ?」

 

「戦極ドライバーやゲネシスドライバー?」

 

「ああ」

 

「勿論だよ。鎧武……葛葉紘汰になった心算で変身とかやるのが愉しくてさ」

 

「だよな、葛葉紘汰葛張りの変身は愉しいよな」

 

 尚、観るのは初めてだが情報はバッチリだった為、ユートは葛葉紘汰が最終的にどうなるか識っている。

 

 まぁ、ネタバレする外道ではないから言わないし、それに折角だから自分自身も新鮮な気持ちで仮面ライダーを愉しみたかった。

 

 というか、『新世界の神になる!』というのは何だか一四歳の心を擽る。

 

 日曜日は目一杯に愉しい時間を過ごした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 明けて月曜日。

 

 この週始めは、誰にとっても憂鬱な日であろう。

 

 会社勤めのお父さんや、学校通いのお兄さんお姉さん達は、昨日の愉しかった日々を一週間後にまた味わう為にも地獄を進む。

 

「お早う、南雲」

 

「うん、お早う緒方君」

 

 そんな朝早くに出会った二人、だけど挨拶は交わせど本当にそれだけ。

 

 ユートは気にしないと言ったのだが、ハジメからの提案というか約束で学校では最低限の接触で済ます、そういう事になっていた。

 

 恐らくは自分が受けている虐めにユートを巻き込まない為なのだろう。

 

 ハジメはユートが強いのは知ってるが、クラスには天之川光輝なる存在が居るから厄介だ。

 

 アレは自分が敷いた正義(笑)以外はシャットアウトしており、常に自分に都合が良い解釈しか出来ない、愚かしい御都合解釈主義者である。

 

 万が一にユートと虐めを行う檜山大介一派が揉めた場合、天之川光輝は勝ってしまうユートを悪と見做して断罪しようとする筈。

 

 それこそ悪役令嬢(笑)を断罪する王子(笑)の如くに……だ。

 

 まぁ、ユートなら誰にでも解る――それでも天之川光輝一派には解らない――やり方で檜山大介達を粛清しそうだが、荒事になるのはやはりハジメも望まない。

 

 だからハジメとしては学校で付き合いはこういう薄いものでも良かった。

 

「お早う、園部。今夜も美味い晩飯を頼むな」

 

「おは……って、こらぁ! 誤解を受ける様な科白を言ってその侭去るなぁぁっ!」

 

 周りが赤い顔でキャーキャーと騒ぐ中、園部優花がやはり真っ赤になりながらプンスカ怒る。

 

 【ウィステリア】という洋食専門レストランが在って、ユートはご飯を作ったりしない一人暮らし故に夕飯は必ず其処で摂っていた。

 

 そして【ウィステリア】の経営をしてるのは、園部博之と園部優理で園部優花とはつまり二人の一人娘である。

 

 将来は【ウィステリア】の二代目を常々標榜しており、其処に日参をしている上にクラスメイトですっかりと顔馴染みな常連客として、園部優花にも記憶されてしまっていた。

 

 また、最近はどうしてか園部優花が自らオカズを作って運んでいて、ユートが言った科白はあながち嘘ではなかったりする。

 

 本人が曰く自分の腕前を上げるべく練習しており、それの処理を頼んでいるだけだと云う。

 

「菅原、宮崎もお早う」

 

「お早う、緒方」

 

「お早う」

 

 園部優花と合流するかの様に登校する菅原妙子と宮崎奈々の二人は彼女とは仲の良い友人同士らしく、ユートが【ウィステリア】に通うのは園部優花に会う為だ……と二人の頭の中では完結をしていた。

 

 それをからかわれてて、余計に優花が意固地になるという負のスパイラル。

 

 知っていてからかうのがユートであり、意外と愉しくそれに応えてもいた。

 

「お早う、遠藤」

 

「あ、ああ。お早う緒方」

 

 遠藤浩介は天然ステルスという謎の仕様を持っていて、謂わば彼は超が付くくらいに究極的な影の薄さで目立たない。

 

 それは本人的には良くなくてもまだ良い方で、何故か機械にも上手く認識されないから三回に二回は自動ドアが開かないなんて笑い話も。

 

 そんな遠藤浩介を簡単に見付けるユート、彼からしたら驚きの相手だろうが、やはり嬉しくもあった。

 

 尚、ユートには【神秘の瞳(ミスティック・アイ)】という神のギフトにして進化をした目がある為、ステルス幽霊すら見付ける高性能で、遠藤浩介を視る事も割と容易い。

 

 元より眼の能力は視る事で効果を及ぼすものだが、ユートの【神秘の瞳】とは正に視る事に特化した魔眼なのだから。

 

「お早う、白崎に八重樫」

 

「お早う、緒方君」

 

「あら緒方君、お早う」

 

 天之河光輝の一派。

 

「序でに天之河と坂上も、お早う」

 

「ああっていうか、序でにって何だ!?」

 

「おう、お早うさん」

 

 所謂、幼馴染みな四人であるが故の正当的なる一派であった。

 

 白崎香織は正統派ヒロインらしい美少女、ほんわかとした雰囲気を持っていて校内では【二大女神】とか恥ずかしい二つ名が蔓延る始末だ。

 

 些か天然気質な処があるけど、瑕疵ではなく魅力として映る辺りが白崎香織のクオリティ。

 

 八重樫 雫は女の子としては一七二cmと高めであり、長い黒髪をポニーテールに結わい付けている剣道小町、【八重樫流】道場を実家に持っていて当人もそれなりな強さを誇っている。

 

 まぁ、ユートから視たら未熟でしかないが……

 

 天之河光輝とはユートからすると徹底的に合わない、万が一にも某かあったとしても彼と同調をする事は有り得ないくらいに。

 

 坂上龍太郎は脳筋である……以上。

 

「谷口、中村、お早う」

 

「おっはー、緒方君」

 

「お早う、緒方君」

 

 ちんまい谷口 鈴は元気なおバカさん、ムードメーカーで頭に二つピョコンと跳ねた御下げがトレードマークである。

 

 中村恵里は谷口 鈴とは謂わば親友として付き合ってて、いつも一緒で傍に居るというイメージ、眼鏡を掛けた黒髪ショートボブな娘で、ユート的には腹黒な気質を感じていた。

 

 ユートが朝の挨拶を交わすのは大体がこの面子であるが、自分からはしない癖に挨拶をしなければ煩い天之河光輝と特に親しい訳では無い脳筋な坂上龍太郎はものの序でだ。

 

 他は基本的に挨拶をされれば返す程度。

 

「南雲君もお早う、今日もギリギリだね。もう少し早く来ようよ」

 

 白崎香織がニコニコ笑顔で挨拶をする相手は、眠そうな表情をしたハジメである。

 

「別に遅刻をした訳じゃ無いんだ。社会に出れば一〇分前行動とか当たり前だとはいえ、予鈴すら鳴ってない今は充分な時間だろ?」

 

 ハジメではきっと無難な返ししかしないだろうからと、庇う形にはなってしまったけど白崎香織に対して物申すユート。

 

「それはそうかもだけど……」

 

 間違ってはいないからか困った表情になってしまう白崎香織だが、此方も彼女ではなく勇者(笑)とも云える天之河光輝が反論。

 

「それでも早く来るべきじゃないのか?」

 

「それならほら見ろ、未だに門を潜ってすらいない生徒が幾らでも居るぞ。そろそろ予鈴も鳴るというのに困った連中じゃないか。白崎も天之河も連中にこそ言ってくるべきだろうに?」

 

「そ、それは……」

 

「話を逸らすな! 今は南雲の事を!」

 

「ハジ……南雲は遅刻処か予鈴前には教室に入っているんだ。注意を受ける理由などは全く無いし、縦しんば有るにしてもそれは教師の役割だろう。予鈴が鳴っても教室に居ないか或いはもう遅刻をして来ているなら未だしも、そうでは無い筈なのに南雲が天之河に注意される筋合いは無いぞ」

 

「な、何だと!」

 

 社会に出れば確かに早目の行動をせねばならないだろう、だけどハジメもそれくらいは弁えての今の行動なのだ。

 

 ユートの識らない原典では文字通りどうなのかを識らない、だけどこの世界線に於けるハジメは

間違いなく予鈴前には来ている。

 

「予鈴が鳴る直前にも拘わらず正門を潜っていない生徒に注意をしに行かず、きちんと教室に来ている南雲に注意をするのは筋が通らないと言ったんだが……補足が無ければ理解が出来ないか?」

 

「くっ!」

 

 天之河光輝がとても尊敬してる祖父の仕事柄、筋が通らないのは赦されない。

 

 故に天之河光輝は去っていったのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一時間目からの勉学に励むのは学生の務めであるが、ユートからしたら既に知っている知識でしかなくて、天之河光輝みたいな文武両道とかを地で往くという訳でないにしても、その成績は普通にトップになっていた。

 

 園部優花とその友人達、割かし仲が良い理由は勉強を中間や期末試験で即席の教師役をしているからで、当然ながら両親とも知り合いとなってしまう。

 

 娘の成績が上がれば喜びもするという事か?

 

 偶に園部優花が父親である園部博之からの御礼であると称し……

 

「はい、お父さんがいつも勉強を見てくれる御礼だってさ……」

 

 ()()()()()()弁当を差し入れてくる。

 

「サンクス、親父さんには御礼を言っといてくれるか?」

 

「わ、判ったわ」

 

 取り敢えず建前だとは判っているのだが、恥ずかしいのだろうしわざわざ晒す必要もあるまい。

 

 朝食はカロリーメイト、昼食は栄養ゼリーで済ませているユートからすれば、この差し入れは寧ろ有り難いものだから。

 

(せめてシエスタを招喚出来れば……な)

 

 いや、作れない訳じゃないのだから自分で作れよ……とか言いたくなる環境。

 

(うん? いつものやり取りが始まったか……)

 

 正に懲りないと言うか、余りハジメに好かれていない白崎香織、普段からやる気のない無気力少年として周りから視られるハジメ、そして構うのは【二大女神】として絶大な人気を誇っている美少女様。

 

 当然ながら嫉妬の視線に晒され、視線で人を殺せるのなら数万回は死んでいるくらい睨まれる。

 

「南雲くん……珍しいね、教室に居るの。ひょっとしてお弁当? 若し良かったら一緒にどうかな?」

 

 不穏な空気が教室に蔓延し始めて、ハジメは『もうやめて』と悲鳴を上げた。

 

 正直、自分に構うのなんてやめて欲しいとさえ思っており、何だか意味不明な方言を叫びたくなる。

 

 当然ながらハジメは抵抗を試みた。

 

「えっとさ、誘ってくれてありがとう……白崎さん。だけどもう僕は食べ終わったから、天之河君達と食べたら良いんじゃない?」

 

 そう言うと中身を搾り取られた昼のパッケージを、これ見よがしにヒラヒラとして見せる。

 

 正直、断ったら断ったで『てめえは何様だ!』とか思われそうだが、昼休憩という憩いの刻をずっと針の筵で居るよりマシだ。

 

 然しながら、ハジメによるその程度の抵抗など意味は成さないと謂わんばかり白崎香織は追撃を掛けた。

 

「ええっ! お昼それだけなの? それはダメだよ、南雲君! ご飯はちゃんと食べないと。私のお弁当を分けて上げるから、ね!」

 

 もう勘弁して欲しい! と切実に思い、周りの空気に気づいてくれと心の中でKY認定をしてしまう。

 

 どんどん増していく周囲からの圧力に、冷や汗を流していたハジメに救世主……寧ろ勇者(笑)が現れた。

 

 白崎香織の幼馴染み達、つまりは天之河光輝の一派というか一派の張本人。

 

「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。折角の香織の美味しい手料理を、寝ぼけ眼の侭で食べるなんてはっきりと言って俺が許さないよ?」

 

 容姿端麗な爽やか笑顔、気障な科白と共にキランと歯を輝かせてる天之河光輝に対し、小首を傾げながらキョトンとなる白崎香織。

 

 恋愛には積極的に動いているみたいなのだが、周りからの事には少々鈍感というか天然気質な彼女にとって、天之川光輝のイケメン特有フラッシュや科白も効果がまるで無いらしい。

 

「えっと? 何で私が南雲君に御弁当を誘うのに光輝君からの許しが要るのかな?」

 

 裏表無く素でハジメを扱き下ろす天之河光輝だったが、上には上が居るとばかりに無邪気な表情で裏表も無く聞き返す香織に、雫は無意識にだろうが思わず『ぶほっ!』と吹き出してしまう。

 

 いっそ憐れすら誘う態度だが、天之河光輝という男は御都合解釈の権化な為、困った様に笑みを浮かべるだけだった。

 

 とはいえ、学校内で人気の四人組が一同に集まっている現実に、周りから煩いばかりの視線が突き刺さり深い溜息を吐くハジメ。

 

 頭の中でくらい愚痴っても罪にはなるまい。

 

『コイツらもういっその事全員、異世界にでも召喚されたら良いのになぁ』

 

 天之河光輝や白崎香織、八重樫 雫に坂上龍太郎なぞ女神や王女や巫女とか、いつ異世界召喚を受けてもおかしくないだろうに……とか半ば本心で。

 

 その瞬間、願いが叶ったのかハジメの目の前に立つ天之河光輝の足元には純白に光り輝ける円環と見た事の無い幾何学模様が顕れたのだ。

 

 明らかな異常事態発生、直ぐに周りの生徒達も気が付いたけど、全員が金縛りにでもあったかの様に輝く紋様――所謂、魔法陣だと思しきものを注視する。

 

 魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たす程に拡大をして、自身の足元にまで異常が迫ってきた事で、漸く悲鳴を上げて慌てる生徒達。

 

 四限目の社会科が終わっても未だに教室に残って女生徒達と談笑に興じていた畑山愛子教諭が、咄嗟に『皆、早く教室から出て!』叫んだけれど魔法陣の輝きがまるで爆発をしたかの様に光るのはそれと同時である。

 

 逃げる間など全く無く、光により真っ白に塗り潰された教室が異常から解放をされた時、辺りは静寂によって満たされていた。

 

 異常から解放されながらもやはり異常な侭で、教室の中には既に生徒も教師も誰もが居なかったのである。

 

 食べ掛けの弁当、散らかっている箸や飲み干されたペットボトル、蹴散らされている教室の備品などはその侭に人間が居た痕跡を残して、その姿を忽然と消してしまっていた。

 

 集団神隠し事件と呼び世間から注目を浴びる事になるが、それは今現在だとこのクラスの者達にはユートも含め最早、別の話であったと云う。

 

 

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勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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