ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 前回に書き損ねた部分を書く為の回です。





第103話:ありふれた白皇

.

 家族会も無事に終わって通信は切られ彼方側の姿が見えなくなると、堪らず坂上龍太郎の拘束を抜け出した天之河光輝がユートに怒鳴る。

 

「おい、緒方っっ!」

 

「黙れ!」

 

「っ!?」

 

 ちょっと『念』を篭めてやったら震えてしまい後退り、ちょっとした小石に躓いて後ろへひっくり返って頭を打った。

 

「げぶっ!」

 

 当たり所が悪かったのか気絶する。

 

「雑魚が、ちょっとした念能力にすら耐えられないとはな……」

 

「いや、それは無理でしょ。念を防げるのは念のみとか漫画でも言われてるし、念を知らない人間が下手に念を受けたら確か……『極寒の中で裸で居ながらそれに気付いてない』なんて感じになるんでしょ? ピエロが言ってたわよね?」

 

 苦笑いの雫が一応の庇い立てをしてみたけど、ユートはヤレヤレとばかりにリアクション。

 

「魔力でも防げん訳じゃない。抑々にして彼方側――【HUNTER×HUNTER】の世界では魔力自体が認知されていなかったから、念のみを指針として会話が成されているに過ぎないんだからな」

 

「あ、そうなんだ」

 

 流石に予想外という程では無かったらしく雫としては確認程度のものだった。

 

「それで、このヘルシャー帝国を支配するのは誰なんだよ?」

 

「そうだな、ちょっと待て」

 

 ユートはストレージから神様印のスマホを取り出して番号をプッシュ、ユートが量産をしている他のスマホとも電話が可能なのである。

 

「もしもし」

 

〔はい、もしもし〕

 

「トータスには来ているか?」

 

〔うん、(わたくし)達も皆で来てるかな〕

 

「じゃあ、βーαの方が来てくれるか?」

 

〔……了解かな〕

 

「すぐにな」

 

〔うん、すぐ行くよ……()()

 

 一瞬の間……

 

『『『『『父様ぁぁぁっ!?』』』』』

 

 そして絶叫が響き渡ったのだと云う。

 

「え? 私達みたいな【閃姫】じゃなくって娘さんなのかな!?」

 

「だ、誰との!?」

 

「ふわわ~」

 

 地球組が大混乱だが……

 

「……娘ときたか」

 

「どんな人でしょう?」

 

「ふむ、声は中々に可愛らしかったがの」

 

「ムフフ、愉しみだねぇ」

 

 トータス組はミレディも含めて然したる驚きは無かったらしい。

 

 声に出さなかっただけで矢張り娘という事で、優花もちょっと吃驚して出されたお菓子をポトリと落としているし、恵里"もニヤ~リと口角を吊り上げつつ汗を流していた。

 

 そして、矢張りというか永山組は唖然となって間抜けな表情を晒しているし、天之河光輝ですら愕然とした顔でユートを見つめている。

 

 待つ事約一〇分後、長い黒髪を優雅に靡かせる美少女然とした娘がこの場に現れた。

 

「来たよ父様、御久し振りかな」

 

 その頭には人間とは違う獣の如く耳とお尻には長くて白い尻尾がゆらゆら、つまりトータスに於いては亜人族――中でも獣人系とユートが定義をしているタイプの存在だ。

 

「あ、亜人だと!? ヘルシャー帝国を亜人族に任せようってのか?」

 

「確かに亜人(デコイ)だよ、トータス由来では無いがね。皮肉が利いているだろう? 亜人族を貶める事に定評があるヘルシャー帝国の新しいトップが亜人ってのは……さ」

 

「俺はもうトップを降ろされた身だから構わんと言えば構わんが……揉めるぞ?」

 

「ヘルシャー帝国では力尽くこそが正義なんだろう? ある意味で素晴らしいじゃないか」

 

 両腕を横に軽く肘を曲げて掌を上にするポーズで浮かべるアルカイックスマイル、ゾクリと背筋が凍り付くが如く感覚に囚われたガハルド・D・ヘルシャー元皇帝。

 

 更に金髪金眼にまるで女性の様な顔立ちとなるユートは、普段はフツメンを気取りながら今現在は男と解りながら見惚れる程の美貌で、今も皇帝だったならユートを口説いてもおかしくない程にその顔は見た目の細さも相俟って釘付けになる。

 

()に敵うと思うてか?」

 

「……無理だろうな」

 

 第一封印の解除はマスターテリオン化を促す、金髪金眼は彼の大導師の特徴であった。

 

 ガハルド元皇帝が背筋を凍らせる思いに囚われた原因とはユートの美貌だけでは決して無い、マスターテリオン化したユートの放つ覇氣とでも云えるナニかに怯えてしまったのだ。

 

「それで、父様? 私は何故呼ばれたのかな? 取る物も取り敢えず来たけど」

 

「余が呼んだのは其方(そなた)では無いが?」

 

『『『『『『ッ!?』』』』』』

 

 睨むユートにクオンは頭を掻きながら笑みを浮かべて、覇氣と共に放たれた科白にこの場に居たクオン以外の者は驚愕しつつ目を見開く。

 

「え、ヤダな~父様ってば」

 

「いつまでも韜晦するならば……」

 

「むぅ、判った! 判りましたよ! 確かに私は父様に呼ばれたクオンじゃありません」

 

 降参のポーズで苦笑い。

 

「どういう事よ?」

 

「先にも少し話したな? この世界は【ありふれた職業で世界最強】のβ世界線だと」

 

「え、ええ」

 

 勿論、雫も覚えている。

 

「それと同じでクオンが属した世界というのが、【うたわれるもの】と呼ばれていた」

 

「【うたわれるもの】……舞うんじゃなくて待って頂戴、あの作品なら私や香織もPSPでプレイしているけど『クオン』なんてヒトは登場していないわよ?」

 

 香織が肯定する様に頷く。

 

 ユートは瞑目しながらマスターテリオンモードを解除して話し始めた。

 

「それは恐らく【うたわれるもの PORTABLE】ってタイトルじゃないか?」

 

「え、そうだけど……」

 

「これは狼摩白夜――令和の世まで生きた僕の【閃姫】からの情報だが、【うたわれるもの】には続編が二〇一五年に発売されているそうだ」

 

「続編!?」

 

「【うたわれるものー偽りの仮面ー】というそうだが……次いで翌年に【うたわれるものー二人の白皇ー】が発売されたらしい」

 

「二年連続で?」

 

 雫だけでなく香織も驚く。

 

 鈴はどうやら【うたわれるもの】は識らなかったのか首を傾げており、矢張り識らない吉野真央や辻 綾子も同様に首を傾げるしかない。

 

 辻 綾子は野村健太郎に訊ねているが……

 

「形としては前後編という事だったんだろうが、クオンはこの【うたわれるものー偽りの仮面ー】と【うたわれるものー二人の白皇ー】でヒロインとして登場していたらしい」

 

「らしい?」

 

「僕も【うたわれるもの PORTABLE】は一応だけど既知でね、だけど何しろ死んだのが二〇一四年だったから続編に関しては僕も実は識らなかったんだよ。抑々、あの作品自体が悪友に無理矢理やらされたモンだったしな」

 

 ユートは転生前に悪友と呼ぶ友人が居たけど、何故か彼はエロゲーをプレイさせようとしてくるからか、ユートに懸想する白亜達からはたいそう嫌われていたのは言うまでもあるまい。

 

 プレイしたのを【うたわれるもの PORTABLE】と誤魔化したが、実際には【うたわれるもの】の最初に出たPC版こそユートがプレイた物だ。

 

 つまりはエロゲー。

 

「それは兎も角、【うたわれるもの PORTABLE】のエピローグの際に墓の前でオボロが抱いていた赤ん坊がクオンだ」

 

「っ!?」

 

「α世界線でオボロの妹のユズハはハクオロに頼んで『生きた証』を遺した。つまり遺伝子を――自分の子供を……だ」

 

「じゃあ、クオンさんは二人の子供なんだ」

 

「そうなるな。α世界線ではね」

 

「α世界線では?」

 

「α世界線は僕が一切干渉しない、言うなれば極めて原典に近しい世界線だ。そしてβ世界線というのは僕が干渉した世界線を意味している」

 

「それならβーαって何よ?」

 

「β世界線の中のα軸」

 

「意味が判んないわ!」

 

「僕が干渉した世界線の僕が知り得る軸世界で、つまりはユズハに子を産ませたのはハクオロではなく僕でありクオンは僕の実の娘、其処から一切の派生が無い軸世界という意味だね」

 

 どうにも意味不明で全員が頭を抱える。

 

「更に僕は【うたわれるものー二人の白皇ー】の後に白夜が曰わく、【うたわれるものーロストフラグー】と呼ばれる世界観に客人として喚ばれたんだ。そして同じく客人として喚ばれたのは僕が識りながら僕を識らない仲間達」

 

「優斗が識っていて優斗を識らない?」

 

「違う時間軸だったり世界線から来ていたんだ。最たる例では何十年も前のトゥスクルさんが若い姿で現れた時だな」

 

「トゥスクルさんってお婆ちゃんよね?」

 

「ああ、トゥスクルさんというより寧ろあの姿ならトゥスクルちゃんと呼べる。同時期に顕れたのがオンカミヤリュー族の姉で黒翼のカリーティと妹が白翼のクリュー、そしてエヴェンクルガ族のディコトマ。違う時間軸から来ていたから四人の言い分がおかしかったよ」

 

 トゥスクルちゃんはカリーティとクリューに対して『クソムシ』を連呼、然しながらそんな侮蔑を受ける謂われが無いと言うカリーティ。

 

 来る前の時間軸が違ったからこそ起きた違和感であったと云う。

 

「其処に居るクオンはα世界線のβ軸から来てて、それが故に僕の事は疎かハクの事さえ識らなかったからな。因みにハクというのは【うたわれるものー偽りの仮面ー】に於ける主人公だとさ。確かに中心人物だったからな」

 

「あれ? 【二人の白皇】は?」

 

「そっちもハクだけど、偽りの仮面を身に着けてヤマトの國の右近衛大将オシュトルを名乗っての話しだから」

 

「ヤマトの國?」

 

「地軸が随分と歪んでたけど、恐らくロシア辺りに帝が興した大国だよ。トゥスクルが日本列島だったから位置的に」

 

「そうなんだ……うん? トゥスクルって……そっか、トゥスクル國が統一して日本列島が全体的にトゥスクル國に成ったのね」

 

 オンカミヤムカイは変わらず自治区を認められていたりするし、小さな勢力も幾つかは存在していたけど日本列島その物がトゥスクル國というのも決して間違いではない。

 

 此処に来たクオンはハクオロとユズハの娘として生まれ、ハクと出逢う前の時間軸から召喚された彼女は事情を聞いてあっさりユートを『父様』と呼ぶ様になっていた。

 

 何しろ、α世界線でも実の父ハクオロと育ての父オボロの二人がいたのだし、『母様』や『姉様』なんてハクオロと関わっただけ存在する。

 

 今更、見覚えすら無い別世界線の『父様』が増えた処で何ら問題なんて無かった上に、リンネを名乗る同一存在が齎したβ世界線の記憶も獲てしまったらしく、オボロと違って何の血の繋がりを持たない『父様』に友愛でも親愛でも無い愛情を抱いてしまった。

 

 ユートと血縁では無くハクとも出逢わなかったクオン……成程、確かにそういう可能性が無かった訳ではないのであろう。

 

 本来は血縁のクオンを呼んだのに何故か所謂、【ロストフラグ】版のクオンが来たのだから確かに頭を抱えたくなる。

 

 尚、リンネはα世界線でγ軸のクオンであるのだとユートは認識をしていた。

 

 つまりα世界線α軸から分岐した存在。

 

 事実として客人として招かれたクオンとは違い『ハク』を識り、そして『ハク』を求めて時空の旅をしていたのがリンネだ。

 

 そんなリンネとの関係者がルゥナとミトであると名乗るフミルィルとアンジュ、α世界線の存在だから当然ながらユートの事を識らない。

 

 β世界線でのフミルィルとアンジュはユートを識っているし、何ならウルトリィとフミルィルはある意味で親子丼な『戴きます』をしている。

 

 本当の両親が普通に居て、ウルトリィとの血縁が皆無だったとしても矢張り母と娘なのだ。

 

 それは扠置き、世界線と軸世界をギリシア文字で表しているのは某ゲームの影響だったけれど、割と解り易い説明が可能だから特に拘りも無いからその侭に使っていた。

 

 リンネがγ軸とは云ったが、其処まで単純明快とという訳でも無いであろうからいざや説明をするとなると、少なくともその手の知識の無い人間に一から説明するのは大変だから。

 

 何故ならリンネは確かにベースはクオンなのだけど、実は『黒の皇』との融合が成された状態でもあるからだ。

 

 白皇と黒皇の闘いは空蝉と分身の二つに分かたれてから爾来、【うたわれるものー散りゆく者への子守歌ー】で融合して大封印により封じ込められるまで続いていた。

 

 『トゥスクルちゃん』も白皇側で参戦をしていた大戦、白皇は今現在というか『ハクオロ』の姿の侭で変わらなかったけど、実体を持たない黒皇は復活毎に肉体を獲なければならない。

 

 【うたわれるものー散りゆく者への子守歌ー】に於いてオンカミヤリュー族の哲学士たるディー、黒皇は彼の肉体を乗っ取る形によって顕在化を果たしていた。

 

 そしてどうやら黒皇側が勝利したとされている前大戦、あの時にはトゥスクルちゃんの姉である『エルルゥ』の肉体に憑依していたらしい。

 

 尚、『トゥスクルちゃん』の生まれ持って付けられた本名は『アルルゥ』である。

 

 この乗っ取りもウィツァルネミテアに云わせれば願いを叶えた結果でしかない。

 

 ディーは『全知』を求めた結果、黒皇に憑依されて彼が乗っ取れば即ちそれが『全知』となり、エルルゥの場合は恐らくだが生贄とされたものの『死にたくない』と考えて助けを求め、黒皇による憑依でその生命()()は助かった――死ななかったという事なのだろう。

 

「これでもクオンはトゥスクル國の皇女としての帝王学は学んでいた……筈だし、為政者としても充分にやっていけるだろう。しかも僕の世界でのクオンに負けたくないからと同じ修業までやっているからね、実力主義なヘルシャー帝国で力を示すなら幾らでも出来る」

 

 ニヤリと口角を吊り上げて言う。

 

「筈……っていうのは?」

 

「飽く迄も僕の娘のクオンの話で、ハクオロの娘であるα世界線のクオンまでは流石に知らん」

 

 無責任にも聞こえるが、抑々にしてユートが呼んだのは実の娘の――間違い無く帝王学を学ばせたクオンであるのに、ノコノコとやって来たのは血の繋がりを持たない方のクオンだった。

 

 流石に責任は持てない。

 

「だ、大丈夫だよ父様! 幾ら私でもトゥスクルの皇女で大神(オンカミ)ウィツァルネミテアの天子として、決して恥ずかしくない様に教育は受けてるかな」

 

 パタパタと両手を振りながら苦笑いを浮かべるクオン、頬を赤らめながら言う辺りひょっとしたら割と教育から逃げていたのかも。

 

 事実、α世界線のクオンは簡単な算術すら間違えていたくらいである。

 

「まぁ、アインハルトと同じく補佐は付けるから問題も無いだろう」

 

「補佐?」

 

「月嶋夜姫、冥王のパンドラをな」

 

「そんなヒト、ダイコンボイに乗ってたっけ? (わたくし)は知らないかな……」

 

「パンドラは基本的に冥界に住んでいるからな、此方から喚べば普通に来られるよ」

 

「あ、そうなんだね。それなら父様、私としてはネコネも補佐に呼びたいかな」

 

「構わんが……それならもういっその事だし他の連中も喚ぶか?」

 

「他って、私の時代に本来ならば集まっていた筈の娘達? 確かに折角なんだから皆でワイワイとやるのは愉しそうかな」

 

 はにかむクオンは本当に嬉しそうな表情となり綺麗な笑顔を浮かべ、ユートの出した意見に賛成の意を表明するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アトゥィやノスリ達だけではなくエントゥアやクーヤやサクヤなど、あの世界由来となるであろう者達をクオンに付けてやったのだが、その人数が余りに多かったからか多分に呆れられた様だ。

 

 オプティマスプライムのフライトモードに乗り込んだユート達は、シュネー雪原は氷雪洞窟に向かうべく蒼空を堂々と往く。

 

 ヴァンドゥル・シュネーが自身の神代魔法を遺した場所、それは彼こそが嘗ての魔王の血族にして氷竜人族のハーフであるが故に魔人族領内であったから変成魔法は後回しにされていた。

 

 幾らユートでも人間族の仇敵たる魔人族領内へと最初期から向かう気にはなれず、近場から攻めて往くのを最良としたのは言うまでも無い。

 

 とはいえ、何の準備もしないで敵地も同然たる魔国ガーランドへ向かう心算も無かった。

 

 抑々にして現在のオプティマスプライム内には大迷宮攻略をしない面子も居り、この御邪魔虫とまでは云わない迄も役に立たない連中を何処ぞで降ろす必要性がある。

 

 それは語るまでも無い永山組、正直に云うなら永山組の中でも友人たる浩介は連れて行きたいとは思うが、護衛は必要だったから已むを得ないとばかりに諦めていた。

 

 まぁ、ウルの町に降ろして愛子先生やその護衛をする『愛ちゃん護衛隊』も居るので、実は大した危険も無いのだとは考えている。

 

 特に仮面ライダーシノビの浩介や仮面ライダーキバーラの優花が居る時点で、余程の強者でもなければ真っ正面から太刀打ちは出来ない。

 

 そして現時点で人間族に敵対者は居なくなり、初めから亜人族は敵対者では無かった。

 

 竜人族はクラルスを中心に隠遁、吸血鬼族など既にユエしか存在していない。

 

 とは言っても亜人族自体が大きく分けて二種、獣要素を用いた獣人型とそれ以外の妖精型。

 

 翼人族は鳥の要素の鳥獣と考えるべきだろう、然しながらユートはフェザリアンやハルケギニアの翼人から妖精型に分類している。

 

 つまり森人族と土人族と翼人族、序でに云うと海人族も妖精型としてカテゴライズしていた。

 

 決してTANNOKUN的な魚人では無い。

 

「愛ちゃん先生ってば殊の外、遠慮が無くなってきたわよね」

 

 ウルの町への道中とか言ってみてもそれ程には時間も掛からない為、ユートは【閃姫】達を引き連れて所謂『精神と時の部屋』的な魔導具である処のダイオラマ魔法球に引き篭もっていた。

 

 外での一日が内部時間で三〇日という単純計算で三〇倍に引き延ばされる代物、この中でならば沢山の【閃姫】をたっぷりと愛せる時間が取れるから重宝しており、しかも【閃姫】は肉体調律によりユートと同じ時間を若い侭で過ごせるから、使用に老いるからという理由で躊躇う必要性も無く存分に活用が可能。

 

 現在は優花が二人切りでベッドインしているのだが、既に事は済んでピロートークの真っ最中という訳である。

 

 話題に挙がったのは愛子先生。

 

 当初は正式な【閃姫】と成るのを躊躇っていたのだが、オルクス大迷宮で自身の初めてをユートに捧げてしまって以来、色々と悩みが尽きない侭で今日まで過ごして来たけれど【閃姫】が雪達磨式とまではいかないにせよ増えて、遂には優花の情事まで誤って視てしまったのを切っ掛けにブチギレてしまった。

 

 生徒だから、自分が年上だから、そんな理由で躊躇っていたら次々と追い抜く生徒が居る。

 

 悲しくて口惜しくて涙を流した。

 

 否、生徒ばかりか他にも見知らぬ少女や女性達が次から次へと正に矢継ぎ早で現れる。

 

『私だって優斗君を受け容れてるのに!』

 

 そんな考えが脳裏を過り愕然とした。

 

 何故ならばそれは教師としてあるまじき考えであり、嘗て自分を救ってくれた恩師を裏切ってしまったのでは? と思ったからだ。

 

 そんな愛子先生の気持ちを【閃姫】となっていた香織や雫や優花や鈴、地球組の者達は充分過ぎるくらいに理解をしていたりする。

 

 だからこそ愛子先生が選び易い選択肢を与えるべく話した。

 

 先ず仮に帰っても愛子先生に居場所は無いと、これは前にも話した事があったから可成り理解もしてくれる。

 

 人間とは高潔な者も居るには居るけど、大概の者は腐れた性根の持ち主ばかりであった。

 

 例えば『二大女神』と今の高校で云われている香織と雫、そんな香織に構われているハジメには学校中の男子から怨嗟の篭もった目を向けられ、別に恋愛対象にはならない筈の女子からも何故か睨まれていた始末。

 

 オタクである事がマイナスなのは間違い無い、ユートからしたら実はハジメこそが一番に現実を見据えて動いており、父親である南雲 愁の経営をするゲーム会社の職場でアルバイトをしていて、更には母親である南雲 菫の職場――少女漫画家の仕事にも従事をしていた。

 

 技術は親バカを抜いても充分だと判断されて、その気になればゲームクリエーターでも漫画家でも好きに成れたろうし、上手く売れれば間違い無くクラスメイトの中でも一番に稼げるだろう。

 

 世の中では学歴社会を標榜して何と無く高校を卒業し、何と無く大学を出て、何と無く会社へと就職するだけの人間の何と多い事か?

 

 それに比べれば随分とマシだった。

 

 それは兎も角、そんな人間が弱い立場の相手に対して弱味を見付けたらどうするかなど火を見るより明らか、別に愛子先生が某かをやらかした訳でも無いというのに『召喚』の責任を被せられ、下手をしたら懲戒解雇されてもおかしくない。

 

 それを伝えた時の絶望した表情は……悪いけどちょっと興奮してしまった。

 

 他にも矢張り一年か其処らで終わる筈が無いという戦争を、クラスメイトが甘く見ていた事に関しては意外でも何でも無い。

 

 抑々にして数の人間族に質の魔人族で数百年を膠着状態だった戦争に、ちょっと数値が高い程度の人間が僅か三〇人弱が増えたがらと一気に事が動く筈も無く、上手くいっても一〇年は掛かるであろう大事業となってしまうだろうし、下手を打てば数十年の時が流れても終わらない可能性だってあるだろう。

 

 それを聞いたクラスメイトは真っ青に青褪めていたのが実に嗤える。

 

 奴らはそれを何も考えていなかった。

 

 例えば『失踪宣告』を受けて七年間を生死不明の場合――普通失踪の他にも戦争や船舶の沈没や震災などで行方が判らず一年が過ぎた――には、家庭裁判所が生死不明者に対して法律上は死亡したものと見做す。

 

 仮にそんな法律が存在してなかったとしても、五〇年も戦争に明け暮れて漸く地球に帰還したのだとして、六七歳は既に一般的には大抵の会社で定年退職している年齢であり、然し国民年金などは受け取る資格すら有していないだろう。

 

 親だって八〇歳を越えて下手したら亡くなっていてもおかしくないし、つまりは五〇年も地球に居なかったら最早帰るよりトータスに残留する方がマシになるのだ。

 

 それ処か一生帰還が叶わない可能性も。

 

 ユートからしたら天之河光輝の煽りが有ったとはいえよくもまぁ、あれだけ派手に盛り上がれたものだと誉めてないけど感心はしていた。

 

 バカばっか……と。

 

「そう言えばさ」

 

「何だ?」

 

「奈々と妙子は抱かないの?」

 

 シンとなる寝室。

 

「何でそんな話に?」

 

「あの二人、それなりに優斗への好感度が高いと思ったからね」

 

 宮崎奈々と菅原妙子は優花の友達で、香織と雫……程では無いかも知れないけどその友人としての仲はとても良い。

 

 容姿は流石に香織や雫に劣るかも知れないが、それなりに可愛いから話すのも愉しかった。

 

「直に言われた訳じゃ無いんだけど、私が優斗と仲好くしてると羨ましそうな顔で見ているわ」

 

「それは逆じゃないか? 僕と仲好しな優花を羨んでるんじゃなくて、優花が僕と仲好くしているから僕を羨んでるとかな」

 

 だけど優花は微妙な表情になって明後日の方を向きながら言う。

 

「かも知れないけど、あの子達って前に部屋の外でイチャイチャしたり……キ、キスしたりしたのを見てたらしくってさ」

 

「ああ、偶にヤってるからな」

 

「その話題の時と同じ表情なのよ」

 

「……そうか」

 

 優花は首肯する。

 

「ま、その辺りは追々な」

 

 幾らユートでも【閃姫】の親友だからとて無闇矢鱈と手は出さないが、本当に二人がその気ならユートとしては別に構わなかった。

 

 パサリと優花の背中に掛けられていた毛布が落ちて肌が露わとなる。

 

「優花」

 

「どうしたのよ?」

 

「もっかいスるか?」

 

「……バカ」

 

 話をしていただけだったけど、毛布が落ちてしまい艶姿な優花を視ていたら分身が元気に勃ってしまったのだ。

 

 真っ赤になった優花だったけど疲労も割かし抜けていたし、もう二~三ラウンドくらいであれば付き合えると判断して自ら抱き付くと唇を重ね、翌日の料理当番に支障を来さない程度にユートのモノを胎内へと受け容れた。

 

 尚、優花が数ラウンドで完全にダウンをしてしまった後にユートは、シャワーを浴びて優花の匂いを消してからティオに逢いに行く。

 

 そしてティオをノックアウトして次へ向かうという繰り返し、僅か一日しか使えない暇な時間を三〇倍に引き延ばしてまでイチャイチャするのを坂上龍太郎は茫然自失で見送ったらしい。

 

 因みにだが、矢張り強引に付いて来る事を強硬をしてきた天之河光輝はトレーラーの一番後ろ、荷物すら容れていない部位に放り込んだ。

 

 一日くらい飲まず食わずでも死なないだろうと食料は疎か水すら渡さずに。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 其処は大雪が吹雪く大地に横たわる少女。

 

 褐色の肌という魔人族の特徴を持ちながら決して魔人族では無い、肌も魔人族に比べると褐色が薄い感じだったし肌の色以外に魔人族を表しそうな特徴も見られない。

 

「うっ……此処……は?」

 

 開かれた瞳は翡翠の様な色、センターから分けられた金髪は肩口に届く程度に長いセミロング。

 

「わた……し、生きてる……の……?」

 

 まだ意識が朦朧としているのか辿々しい口調で言葉を口にする少女、彼女の最後の記憶に於いてはどうやら死んでいた筈だったらしい。

 

「はーい、生きてますよ~」

 

「っ!?」

 

 女の子の声が響く、しかも耳朶を打つ声では決して無くて頭に……脳裏に響いてきた。

 

「だ、れ……?」

 

「たった独り切り貴女の存在がいつか世界の全てを変えるかも知れませんね、フフフ……其処に在るのモノは果たして貴女にとっては儚き希望? それとも……見果てぬ絶望でしょうか?」

 

「な……に、言って……」

 

 吹雪の中で鈴を転がす様な声が響くのは判る、然しながら少女には意味在る言葉の羅列には思えない、言語の違いから内容が理解出来ていない野では無く言っている意味が不明。

 

「魅せて下さいな、私に貴女の希望と絶望を! それが貴女を此処に連れ出した対価ですよ」

 

「ど、う……いう……」

 

 どうやら自分の今置かれた現状は彼の声の主によるものらしいが?

 

「クククッ、ウフフフ……ア~ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!」

 

 響き渡る

 

 少女の意識が再び途絶えようとしたその瞬間、まるで燃える様な三眼が吹雪の向こう側へと浮かんだ気がするのであった。

 

 

.

 




 この引きが必要でした。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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