ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 唯一、あの七人以外に出せた零の人員。




第104話:ありふれた要救助者

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 少女は目を覚ます。

 

 ゆっくりと瞼を開いて翡翠色の瞳が映しているのは、真っ白くて今までの人生にて見た事も無いくらいに綺麗な天井だった。

 

「知らない天井だわ……」

 

 御約束に則った訳では勿論だけど無いのであろうけど、見覚えの無い天井を見るとこんな感想が存外と自然に口を吐くのかも知れない。

 

 先程まで眠っていたからかセミロングな金髪が乱れており、女の子としてはちょっと有り得ない身嗜みの悪さに少し羞恥を覚える。

 

「私、生きてるの?」

 

 ギュッと腕を抱き締める様に絡めた。

 

 其処から感じられたのは温もりと確かな生命の鼓動、この二つが少女に今を生きている事を実感させてくれている。

 

「……あ」

 

 ポタポタと目元から水が零れ落ちた。

 

「うん、私は生きている」

 

 生きている事への実感と生命への感謝が涙を浮かべさせたのだろう。

 

「だけどこれは……ひょっとして誰かが助けてくれたのかしら?」

 

 今までに居た場所が大変な事になって大慌てで仲間や妹と離脱したは良いが、自分はクレパスに落ちてしまって『死ぬ』と自覚させられた。

 

「あれからどのくらい経ったかしら? 助けてくれたのなら敵……では無いと思うけど」

 

 何しろ起きた出来事が出来事なだけに警戒するのは当然である。

 

 シュンと音が響き音源を見遣ると……

 

「目を覚ましたみたいだな」

 

 長身で黒髪黒瞳の男性が何故か半裸で立っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それは数時間くらい前の事。

 

「これは……」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、雫か。行き成りオプティマスプライムのレーダーに生体反応が表れてね」

 

「生体反応? って、行き成りとはどういう? 誰かしらが動いていた訳じゃ無いの?」

 

「本当に行き成りだ。まるで界穿――転移魔法でも使ったかの様にな」

 

 『界穿』は神代魔法の『空間魔法』の中に在る魔法の一つで空間転移の魔法、ミレディが曰わく使い手だったナイズ・グリューエンも割と多用をしていた魔法だったとか。

 

 正確にはゲートの魔法とでも云うべきモノで、光の膜を出現させて膜を通ると移動する。

 

 尚、ナイズ・グリューエン本人は『界穿』によるゲート無しでも自由に転移が可能らしい。

 

「厄介なのは『界穿』の場合だと何故か時空振動が起きない点だが……」

 

 まぁ、点と点で繋ぐタイプだからだろうと割かし適当に考えている。

 

「起きたのね?」

 

「ああ、オプティマスプライムに生体反応が顕れた場所のログを調べさせたら極々小さな時空振動が起きていた。しかもこれは通常転移じゃない」

 

「というと?」

 

「時間転移――タイムスリップやタイムリープと呼ばれる現象だった」

 

「なっ!?」

 

 その事実に雫が驚愕に目を見開いた。

 

「タイムリープは過去乃至未来の自分に精神を跳ばすという意味合いが強い、つまり自分が生きている時代までしか行き来が出来ないという制約が在る。僕の【閃姫】にはセーブポイントを作って

其処にタイムリープをするなんて、VRMMOーRPG御用達な死に戻り系能力者が居るんだよな」

 

 セーブポイントを作った自分に精神を戻すという能力者、『リセットOKな人生(リセット&リスタート)』と名付けられたその能力はある意味で可成り強力ではあるが……

 

「うん? それって何だか聞いた覚えがあるわ。確か『リセットOKな人生』って能力で能力者は……桜雨キリヱだったかしら?」

 

「【UQ HOLDER!】だったよね」

 

 雫の言葉に香織が頷きタイトルを言う。

 

「僕の再誕世界では主に【魔法先生ネギま!】と【聖闘士星矢】と【Fate/stay night】関係により構成されていてね、だから未来の続編は僕が識ろうが識るまいがその時になれば必ず訪れるんだ。とは言っても、この三作品共が既存の世界線から外れたのは最早言うまでも無いとは思うけど」

 

 全員が『だろうな』と思った。

 

 【UQ HOLDER!】も御多分には漏れずユートが【魔法先生ネギま!】の時代に動きまくった為、近衛刀太は抑々にして誕生すらしていなかったのに加え、例えば『祝 月詠』は京都で四肢を斬り落としたりしたから執心先が刹那からユートに変わっていたし、『水無瀬小夜子』が自殺をする理由が無くなったりなど影も形も無い。

 

 【Fate/stay night】なんて作品の根幹とも云える『第五次聖杯戦争』が起きなかった、何故ならば【Fate/ZERO】の時代にユートが聖杯を手に入れてしまったからだ。

 

 勿論、第三次聖杯戦争でアインツベルン家による不正は起きて聖杯の中身は穢れた泥と化してしまっていたが、ユートはあらゆる呪詛の無効化をしてしまえる体質を手に入れていたし、強壮たる

【C】の神氣を【C】が干からびるまで喰らい尽くして尚も平然と出来る太陰体質の許容量にて、ユートは泥の呪いを打ち消して大量の純化された根源にすら至る魔力を呑み込んでしまう。

 

 とはいえ、その侭では碌に使えぬ無駄魔力でしかなかったそれを神殺しの魔王――カンピオーネと成った事で権能として扱える様になった。

 

 お陰で都合、一四体ものサーヴァントの召喚が出来てしまったのだから悪くない結果だ。

 

 因みに召喚が可能なサーヴァントの数は元々は七体だったのが、平行世界で第五次聖杯戦争へと参加して新たな聖杯を獲た事で倍に増えた。

 

 今回、特に無関係な話だけどユートが召喚した訳ではないサーヴァントが二体居る。

 

 第四次聖杯戦争に於いて衛宮切嗣が召喚をしたセイバーと、第五次聖杯戦争がユートの召喚したサーヴァント七体と他のマスターの七体によって行われた際、聖杯が召喚したルーラーのクラスのサーヴァントがソレだった。

 

「いずれにせよ、この転移者は転移先を自らが決めて転移した訳じゃ無さそうだな」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「HP――生命力が割と凄い速度で減っている。防寒具を身に着けて無いか、着けていても気絶をしていて余り意味を成していないかだろうね」

 

 ユエの質問にあっさり答えるが……

 

「た、大変じゃないですか!」

 

「ウム、のんびりはしておれんの」

 

 慌てたシアが叫んでティオも頷いた。

 

「まぁ、こんな所で死に瀕しているなら魔人族って訳でも無いだろうし……な」

 

 此処は魔人族領だから魔人族は寒い地域であると理解している筈、そんな莫迦な装備でシュネー雪原の近場に来たりはしないだろう。

 

(転移事故の可能性も確かに有るが、それにしても魔人族なら基本的に魔力が高いんだから魔法でも使えば暖は取れる筈だし、自分で転移したんなら再転移すれば済む。こんな状況に甘んじているのは自らは転移が出来ないか、或いは出来るにしても魔力量に不備があるのか……)

 

 瞬間転移呪文(ルーラ)は転移と謳ってはいても実態は高速飛翔による移動呪文、それが故にか大したMP消費も無くてシリーズを追う毎に少なくなり、遂には消費MP1とか訳の解らない状態にまでなっているくらいだが、空間転移であるならば一番簡単な同一世界間移動でもそれなりには消費もしていた。

 

 まぁ、水のゲート魔法を使っていたフェイト・アーウェルンクスみたいな大量のMP持ちだったりすると、お手軽気分で転移が出来てしまうのだから余りよく解らないかも知れないが……

 

「生命反応も大分弱っているから余り時間を掛けると死ぬな」

 

「は、早く助けなきゃ! あ、う……」

 

 香織は叫ぶけど自分に決定権が無いのを思い出して口を噤む。

 

 オルクス大迷宮での契約の一つに在るからだ、この手の決定権はユートが持っていて香織と雫に意見具申は出来ても決定権は無く、ユートの顔色を窺わねばならないのだという現実。

 

「心配しなくても助けるさ」

 

 ユートの言葉にあからさまに胸を撫で下ろしている香織と雫、他のメンバーも矢張り見捨てるのは寝覚めが悪いのかホッとしていた。

 

「坂上」

 

「うん? 呼ばれたってこたぁひょっとして俺に行けっていう話なのか?」

 

「違う、天之河を呼んで来てくれ」

 

「光輝を?」

 

「急げ、余り時間が無い!」

 

「わ、判ったよ!」

 

 急かされて坂上龍太郎は走って天之河光輝が居る筈のトレーラー部へと向かう。

 

 暫くして天之河光輝が来た。

 

「緒方、呼んでると龍太郎から聞いたけどいったい何の用だ?」

 

 長らくトレーラー部に押し込められていたからか御機嫌斜めだったが、ユートからしたらコイツの御機嫌なんてキッパリとどうでも良い。

 

「今、遭難者が見付かった」

 

「っ? 遭難者! なら早く助けないといけないだろうに!」

 

「そうだな、だから……行ってこい」

 

「……は?」

 

「お前が行ってこい、そう言った」

 

 間抜け面を晒す天之河光輝に再度言う。

 

「な、何で俺が!?」

 

「僕とハジメは除くクラスの仲間やトータスの人は守るんじゃなかったのか?」

 

「うっ!?」

 

「まぁ、クラスメイトの大半は守れもしないで死んだけどな?」

 

「くっ!」

 

「ああ、それとも死んだ連中は既にお前の中ではクラスメイトの仲間じゃないのか!」

 

「そ、そんな訳!」

 

「そして遭難者もトータスの守るべき人間では無いと? だから行きたく無いんだな」

 

「ち、違っ!」

 

 ユートの言葉の刃はザックザクと天之河光輝を切り裂いて往く。

 

 正しく心に念じる見えない刃。

 

「ほら、入口は開けたから早よ逝け」

 

「くっ!」

 

 ユートに促されて天之河光輝が開いた入口から下を見遣ると……

 

「うわっ!?」

 

 余りの光景に尻餅を突く。

 

 凄まじく吹雪くのは当然として、その下がまるで底無しの奈落とでも云うかの如くで真っ暗闇、オプティマスプライムの滞空をしているであろう場所が可成りの高さである事が窺えた。

 

「も、もうちょっと降ろしてくれ! こんな高さじゃ飛び降りられない!」

 

「莫迦を言うな、下手にこれより下に降ろしたら遭難者が雪崩に巻き込まれて助かるものも助からなくなるぞ? これでも雪崩を起こさないギリギリを攻めているんだからな」

 

「だ、だが……」

 

「さっさと飛び降りろ。そんなに心配しなくてもメルド元団長のステイタス値でも大した怪我も無く飛び降りれる高さだよ」

 

 天之河光輝は一度はユートのレベルドレインによりレベル1になってしまい、更にはハジメにも劣る初期値にまで数値が下がってしまっていた。

 

 それでもエヒトが与えたステイタスの特殊効果によって、可成りの早い段階でレベルが元に戻ったからステイタス値も以前程では無いが、それでもメルド元団長より三倍以上の高いステイタス値を誇っていたりする。

 

 とはいえ、天之河光輝はメルド元団長みたいな経験値に伴う()()は無くて、飽く迄もパワーレベリングされた促進栽培戦士でしかない。

 

 しかもスキルも既に『言語理解』以外はもう持ってはいなかった。

 

 まぁ、レベルが1では前線には出せないからとエヒトは天職に紐付けたステイタスに隠しスキルとして、恐らく必要経験値減少や獲得経験値増大というのを付けていたのであろう。

 

 何しろ少なくとも二〇年以上も騎士団長としてきっと魔人族とさえ闘ってきたメルド元団長が、レベルで70を越えていないのに温いお散歩的な接待ダンジョンで半年程度の闘いでレベル100に近付くなど本来なら有り得ないのだから。

 

 況んや、一年足らずで最高レベルに? そんな莫迦な事が有り得る筈も無い。

 

 尚、ハジメやユートの錬成師はレベルアップが余りに遅い事から隠しスキルなどは無かい様で、相変わらずエヒトは錬成師という天職が好きでは無い様子であったと云う。

 

 取り敢えず数値だけはメルド元団長より上で、上手く飛び降りれば多少の怪我で済む……というよりも、雪のクッションが利いているから恐らく怪我の一つもしないであろう。

 

 天之河光輝の運が非常に悪ければ骨折をしたりするかもだが……

 

「くっ、うう……」

 

 只管に寒いだけの冷風が吹き抜ける中に在って天之河光輝の額には、それでも冷や汗が留まる事を知らず流れ落ちている。

 

 大陸の最南東一帯を覆っている大雪原で西には『魔国ガーランド』、北には『ハルツィナ樹海』と囲まれている此処『シュネー雪原』は決して晴れる事無き曇天により、まるで常闇の如く闇黒なる世界を作り出していた。

 

 しかも普通に飛んでいるオプティマスプライムは約千mは上、つまり下の様子が全く以て判らない状態で千mをダイブしろと言われている。

 

 尚、原典では一応でも自棄糞ではあるものの飛び降りているのだが、その時は約六百mの絶壁で空力ブーツなる魔導具を装着していた上に風魔法も有るから落下速度を落とせたという、少なくとも今現在の天之河光輝の状況よりはマシだったのは先ずを以て間違い無い。

 

 しかもこのβ世界線の天之河光輝は、α世界線の天之河光輝より弱い上にスキルが無いから飛び降りるだけの果敢さは無かった。

 

 因みに云うとα世界線の天之河光輝はシュネー雪原の時点でフルスペックだった筈。

 

 つまり、レベル一〇〇で全能力が一五〇〇という人間族としては最高値のステイタスである上、技能も阿呆みたいな数を派生も含めて持っていたのだから単純な実力は有っただろう。

 

 限界突破も派生技能の『覇潰』をカトレア戦で修得をしていたし、短時間という制限こそ在ったにせよ全能力が五倍の七五〇〇になる。

 

 そしてこのβ世界線の天之河光輝は技能が無いから最大値で漸く一〇〇〇を越えた程度であり、彼方側みたいな自信など持てる筈が無いからだろうか? 矢張り跳べなかった。

 

「早く跳べ! もう生命反応が可成り微弱になっているんだぞ?」

 

「だ、だけど……」

 

 HPの減少幅はだいたい二〇秒に一Pといった程度だが、元より低くなっていたから減れば減る程に近付く死は一般の常人よりも早い。

 

「だったら手伝ってやろうか?」

 

「ばっ、止せ!」

 

 突き落とされると感じたのか入口から離れている場所まで逃げる。

 

 ピィィィィィィッ!

 

「な、何の音だ?」

 

 それは無情なる機械音。

 

「要救助者の生命反応が途絶えた」

 

『『『『『っ!?』』』』』』

 

 ユートの言葉に全員が息を呑んだ。

 

「途絶え……た?」

 

「阿呆にも解り易く言えば死んだ」

 

 それは誤魔化しも何も無いとてもはっきりとした言葉、この室内に居た全員に聞こえていたから全員――ミレティでさえも――が沈黙する。

 

 そんな死を司る神(タナトス)が呼びそうな静寂を破り裂いたのは矢張り我等が勇者(笑)。

 

「な、何故だ!」

 

「あ?」

 

「何故、見捨てたぁぁぁぁぁっ!」

 

 ユートは呆れた。

 

 そして雫でさえ勇者(笑)を蔑みの篭もった目で視ていて、香織は頭が痛そうな表情となりながらも何とか(かぶり)を振って誤魔化す。

 

「結果としてはそうなったけど、抑々にしてお前に行けと言っても聞かなかったからだろうに? さっさと行っていれば要救助者を助けられたんだからな。クラスメイトもトータスの人達も助けて見せるとか息巻いておきながらこの体たらくで、何処をどうしたら僕に文句を言うなんて選択肢になるのか是非とも聞きたいな。それとも要救助者はお前が助けるトータスの人達の範疇には入らなかったのか?」

 

「煩い! お前がたす……」

 

「アークエネミー!」

 

「あじゃぱぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ユートの魔力を篭めた拳が天之河光輝の鳩尾を突き破る勢いで貫くと、天井にぶつかって跳ね返り頭から床へと激突をしてしまう。

 

「元より期待はしてなかったから敢えて期待外れだの失望しただのとは言わんが、せめて自分自身の行動には責任を持って欲しかったというのは、果たして僕の贅沢な悩みなんだろうかな?」

 

 最早、蔑むのも面倒臭くなったユートは開かれっ放しの入口に足を掛けると……

 

「I Can Fly!!」

 

 などと叫びながら跳んだ。

 

 幸い? アークエネミーで気絶していなかった天之河光輝はそれを見て絶句する。

 

 全身を苛む寒さにも底が見えない落下にも全く怯まず跳べる胆力、実行してしまえる身体能力は天之河光輝にも理解が出来るくらいの高さ。

 

 天之河光輝は我知らず、ユートの居なくなった入口を睨み付けギリリッと奥歯を噛み締める。

 

 それを見つめる雫はやれやれと出来の悪い弟でも見る気分で(かぶり)を振った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「見付けた」

 

 始めから近場に滞空をしていただけあってか、簡単に死亡した元要救助者を見付け出す。

 

「褐色の肌は魔人族の種族特性らしいが、どうやら彼女は日焼けに近い肌だな。人間族なのは間違い無いと思うけど……」

 

 お姫様抱っこから荷物を肩に担ぐみたいな形に持って行き、少女の重みを感じながらオプティマスプライムの在る場所まで移動をしたユートは、バッとジャンプをしてから舞空術にて宙を舞うと殆んど間を置かず入口にまで戻った。

 

「優斗! 彼女が要救助者だった?」

 

「ああ、今は死亡していて寒さも相俟ってか死後硬直と冷たさを感じるよ」

 

 雫からの質問にユートが淀み無く答えると次は香織が訊ねてくる。

 

「それで、御遺体は埋葬を?」

 

「否、蘇生させる」

 

『『『『『『っ!?』』』』』』

 

 全員が驚愕した。

 

「蘇生だと! そんな事が出来るんならクラスメイトを生き返らせるべきだろう!」

 

 そして案定の天之河光輝節である。

 

「生き返らせたいなら『死んで間もない傷が殆んど無い遺体』と一人につき一〇億円を用意しろ」

 

「か、金を取る気か! しかも一〇億円とか莫迦みたいな大金を? 恥を知れ!」

 

「生き返らせたいなら『死んで間もない傷が殆んど無い遺体』が必要だと言ったにのも拘わらず、金の事にしか言及をしないとは相変わらず自分の都合が悪いと華麗にスルーをするんだな?」

 

「誤魔化すな!」

 

「誤魔化してんのはお前だろうが! 金云々の前に遺体を持って来いっつってんだよ糞之河!」

 

「なっ!?」

 

 飽く迄も『遺体を持って来い』と言われてしまうと反論も出来ない。

 

「ま、クラスメイトの遺体なんてオルクス大迷宮の六五階層でグチャグチャな挽き肉や焦げ過ぎた焼き肉状態、しかも腐れ果てて大迷宮の養分化したみたいだから持って来れないか」

 

「っ! 緒方ぁぁぁぁあああっ!」

 

 クラスメイトを貶したからか或いは自分が貶されたからか、恐らく後者だろうが叫びながら殴り掛かって来る天之河光輝。

 

「チッ、遺体が見えないのか不埒者が」

 

 それは後ろ回し蹴り……龍の尻尾を思わせるというその蹴りの名は龍尾脚、単純にとある小学校の校長先生が使っていたのを視たから覚えたってだけの話だが兎に角、顎に踵による蹴りを喰らった天之河光輝は堪らずダウンした。

 

「ゲハッ!」

 

「お前の意見なんか聞く気は無い」

 

 それが善き意見ならまだしも、単なる感情論から来る刹那的な意見と呼ぶのも烏滸がましい文句など、ユートとしては聞く価値を全く見出せないのだから当然だろう。

 

 思えば最初から天之河光輝はそうだ。

 

 ハジメに対する態度も結局は『気に入らない』という感情からである。

 

 例えば特に優しく声を掛ける香織、それが気に入らないから不要な文句を言っては溜飲を下げているのがバレバレ。

 

 意見なんてモノではなく、気に入らないという自身の感情の吐露にしか過ぎない。

 

 勿論だがユートだってそこら辺は変わりない、だけど自身の感情を排してでも他者の言葉くらいは聴くし、仮に天之河光輝が気に入らない人間でも()()()()()()()()()耳を傾ける。

 

 今回の件ならば死んだクラスメイトを生き返らせろ……だが、せめて対価の一〇億円は兎も角としてもクラスメイトの遺体を持って来るでも無く只々、生き返らせろと喚くだけの聴くに堪えない言葉の羅列に耳を傾けるなど時間の無駄だった。

 

「それでそれで! ゆう君はホントに死者蘇生とかが出来るの? ミレディさんが昔の【解放者】で生き返らせたのは聞いてるけどさ!」

 

 何だか不謹慎ながらワクワクが止まらない感じに訊いてきた鈴。

 

「そうか、ライセン大迷宮からの仲間やティオには話していたけど鈴にはちゃんと話していなかったよな。見せたのはライセン大迷宮組だけだし」

 

 ミレディ・ライセン復活劇はライセン大迷宮で行われたし、後に仲間入りをしたティオは話しだけは聴かされていても実際に見てはいない。

 

「だけどこの子の復活は見せられない」

 

「え、何で?」

 

「はっきり言うと正常な人間には視るに堪えない姿になるからだ」

 

『『『『『『視るに堪えない!?』』』』』』

 

 全員が首を傾げてしまうのも無理は無いけど、ユートとしてはちょっと見せられない姿だ。

 

「抑々にして優斗はどれだけ蘇生手段が有るのか訊いても良いかしら?」

 

「それは構わない」

 

 雫からの言葉に頷く。

 

「先ずは蘇生呪文。DQならザオラルやザオリクがそれだし、Wizardryならディやカドルトだな。FFだとレイズやなアレイズ、メガテンだとリカームやサマリカーム、テイルズだとレイズデッドだけどアレは死者蘇生が出来る訳じゃ無かった。スターオーシャンも同じ名前で効果も変わらん。他にもHP0で復活させる魔法は色々と存在している訳だが……いずれにしても遺体が存在していて魂と肉体の繋がりが残滓でも良いから残っていないと使えないし、余りに酷いダメージだと仮にゲームでは一〇〇%の成功率だろうと失敗する。Wizardry系だと失敗は灰化と消失だから更に厳しいと言わざるを得ない」

 

 それを聴いてシンと静まり返る。

 

 【Wizardry】とはファミコンすら開発されていなかった遥か昔、パソコン――というより当時だとホームコンピューターで出来たダンジョン探索型のRPGであり、プレイアブルキャラクターは

スタート時点で用意されたデフォルトキャラ以外だと全てプレイヤーが作成する必要があった。

 

 そして死の概念が割とシビアで蘇生に失敗をしたら灰化(アッシュ)、更に失敗してしまうと消失(ロスト)として完全に居なくなってしまうのだ。

 

 上位呪文のカドルトでさえも失敗するだけに、下位呪文のディは成功率が可成り低い。

 

「いずれにせよ、僕のゲーム系蘇生方法は特殊なルールに基づいて揮われるから使えない」

 

「あ、パーティ制ね?」

 

「そう。あの迷宮離脱呪文みたいなパーティによる制限が蘇生関係にも適用される」

 

 オルクス大迷宮に於いて、愛子先生とは違って香織と雫はパーティ加入が出来なかったが故に、迷宮離脱呪文(リレミト)の範疇外として共に離脱させる事が叶わなかった。

 

 それと同じで、回復系は使えるのに蘇生呪文は何故かパーティ非加入者に効果を及ばさない。

 

 しかも回復系にしてみてもランクが下がってしまうので、ホイミは殆んど役立たずに成り果ててベホイミやベホイムで各々ホイミとベホイミ級の回復率、ベホマでさえベホイム級でしかないからパーティ外の人間への回復は少し面倒臭かった。

 

 仮に蘇生呪文が使えても恐らくザオラルは役に立たないレベル、ザオリクでさえ果たしてゲームのザオラルと同じかどうかの自身が持てない。

 

 この制限は恐らくユートが強化され過ぎたから一種の意志が掛けたモノ、内容的にはユートによるゲーム知識や常識を基に構築されたのだろう。

 

 ゲームに於いてパーティ外の者に攻撃以外を行う機会は滅多に無いから。

 

 因みに攻撃呪文は普通――ユートの魔力強度に比例した――の威力である。

 

 こればかりは親和性も仕事をしない。

 

「他には僕がハーデスから神氣を奪って手に入れた権能、一二時間限りの生を与えるモノと冥衣を与えて冥闘士に作り替えて僕の部下的な扱いでの蘇生だな」

 

「一二時間限りって、死んだ黄金聖闘士に施されていたやつだよね?」

 

 それなりにサブカルチャーの知識を持っている香織が問うて来る。

 

「そうだよ。まぁ、OVAでは白銀聖闘士も居たんだけどね」

 

 権能はイメージによって変わる事もあるらしいからか、ユートの獲た都合三回分の冥王ハーデスの神氣から構築された権能は『冥衣を創造する』と『一二時間の蘇生』と『冥界の創造』だった。

 

 尚、『冥衣の創造』は一〇八の魔星っぽい名前ながら百八個を越えて創造可能で、単なる雑兵なスケルトンの冥衣ならそれこそ万を越える。

 

「そして後者の【天輪する一〇八の魔星】というの権能が在る。これで冥衣を創造して与える事による蘇生なんだけど、この場合だと僕の眷属としての蘇生なんだよな」

 

 つまり、今は御遺体な彼女にスケルトンの冥衣でも与えれば蘇生は叶う……但し、ユートの眷属として括られてしまうのは不可避となるが。

 

「何か問題が?」

 

「男であったり元より夫を持つ女性だったりなら特に問題はないんだが、未婚女性であった場合は僕の世界間移動に逆らえない。近場なら兎も角としても、遠距離となれば完全に移動をせざるを得なくなってしまう。どうも権能が構築された際に眷属となる未婚女性=主のモノみたいな要らない設定が組み込まれていたらしくてね、僕らしいと云えばらしいんだが……」

 

「ひょっとしてそうと判る事象が?」

 

「まぁね。男の冥闘士はケレリスとクライドだけだから何とも言えないが、結婚していて夫を持っている姫島朱璃はその世界に置いていけたけど、再誕世界で冥闘士にした娘らは僕の移動の際には自動的に冥界で待機状態だった」

 

 ケリーは置いて行けていたが、朱璃と同じくで喚ぼうと思えばいつでも喚べる状態だったのに、彼女ら――【11eyes】世界由来で冥衣を与えていた『天魔星アウラウネの栞』『天孤星ベヒーモスの雪子』『天罪星リュカオンの美鈴』『天哭星ハーピーの菊理』は間違い無く冥界に居た。

 

 他にも始めから冥界で仕事をしていたから判り難かったけれど『天英星バルロンのカレン』――カレン・オルテンシアや、元夫持ちながら立場的には未亡人な『天雄星ガルーダのアイリスフィール』――アイリスフィール・フォン・アインツベルンも普通に移動していたのだ。

 

 とは言っても、今挙げた中でアイリスフィール以外は一応だけど【閃姫】だったから判らないでも無かった。

 

 問題だったのは『地妖星パピヨンの響子』――須藤響子である。

 

 彼女は男に対する憎しみと恐怖心から【閃姫】契約に踏み切れずに居たのだが、【カンピオーネ!】世界に習合されていた【風の聖痕】世界の人間でありながら自動的に【ハイスクールD×D】世界に移動、更にユートの再誕世界にも移動をさせられていたのだ。

 

 響子と同じ世界出身である『天刃星パラドキサのラピス』――ラピス・ラズライトは、また別の理で動く存在だったから置いとく。

 

 尚、アイリスフィールは【閃姫】契約していなかっただけで関係は持っていたし、何なら娘であるイリヤスフィールとガッツリ丼していた。

 

 因みにだけど、再誕世界時点では未来に於ける『天猛星ワイバーンの奏』――天羽 奏や『天貴星グリフォンのセレナ』――セレナ・カデンツァヴナ・イヴが世界移動をしていたが、その世界にもユートが居たから移動出来たのか或いは移動だけなら可能なのか検証してはいない。

 

「だからもう一つの方法を使う」

 

「もう一つ……それがさっき言っていた見るに堪えないっていう?」

 

「男には絶対にやらないし、女性が相手でも気分が良いものじゃないから絵面的にも見せたくない類いの手法だ。だから部屋に戻って一人で行う」

 

「それは了解したわ」

 

 ユートが移動をしようとしたら今まで角度から見えなかったらしい遺体の顔が見えたらしくて、それを見たミレディが大きく目を見開いて驚愕をしながら叫んだ。

 

「嘘っ! スーちゃん!?」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そして冒頭の時間に戻る。

 

「スーシャ・リブ・ドゥミバルで間違っていないよな?」

 

「……何故、私の名前を?」

 

「警戒するのは判る、君の嘗ての境遇を鑑みれば当然だろうね。加えて僕は半裸で君はスッポンポンな真っ裸、相手が男となれば当然ながらソレを疑うだろう。結論から言えば最後まではヤってないけどキスをしながら裸で目合(わぐわ)ってはいる」

 

「っ!」

 

 それを聞いた途端に涙が零れるスーシャ。

 

 椅子に座り両手は太腿に拳で押し付けていて、顔を伏せてボロボロと溢れる涙が太腿を濡らす。

 

 些か古い考え方な所為か、好きな相手が居ようとも肉体的な接触をしたら他に嫁げ無いと考えてしまったのだろう、どちらにせよその御相手は既に墓の下ではあるのだが……

 

「一応、救命措置だとは言っておく」

 

「救命?」

 

 ユートは説明した、スーシャは助けに行く前は生きていたけど残念ながら救う前に死亡をしてしまい、蘇生をする為に先程にも言った手法を取ったのだという事を。

 

「素っ裸で抱き合うのは素肌での接触をしないと軽い抵抗で上手くいかないから、キスは口移しで生命エネルギーを補給する為だな。性行為にまで及ばなくても出来るから其処までヤらなかった。とは言え、ヤればもっと早く目覚めた筈だけど」

 

「そう、ですか……」

 

 この遣り方は端から視ると死体を抱き締めながらキスをするアブノーマルな行為に他ならない、謂わば屍姦をやらかしているのと何も違わないのだから当然の事。

 

 蘇生すれば温もりや柔らかさや息遣いが戻るから気持ち良くなるが、それまでは死後硬直でガチガチで血の巡りも無いし冷たいし息もしてない、流石にこれでは如何なる美少女でもユート的には勃たないのだ。

 

 スーシャがユートの股間をふと見遣ると其処には勃起した男のモノが……

 

「生き返れば普通にこうなるんだよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 未だに裸で健康的な褐色の肌を晒していたのを思い出し、更に男のアレまで視てしまった羞恥心からか思わず赤らめながら顔を背ける。

 

 じんわりとお腹の奥が熱くなって何故か股間から液体で湿り、そして全身が熱くなるのに時間が掛からなかった。

 

「それとこの方法で蘇生すると暫く種の保存的な欲求から性欲が増すから」

 

「っ!?」

 

 確かに、好きな男への顔向けが出来なくなったからとはいえ見知らぬ男、しかも蘇生の為とはいえ顔向けが出来なくなる理由を作った相手に対して『欲しい』と思える異常性。

 

「暫く経てば治まるから我慢してるしかないし、取り敢えず話を続けるぞ」

 

 生殺しな状態で話を聴かされるらしい。

 

「大前提としてこの世界は君が本来に生きていた時代から約数千~一万年の時が過ぎている」

 

「……は?」

 

「【解放者】は大迷宮に試練と神代魔法を遺して死んだ。リーダーのミレディ・ライセンだけは、エヒトとの契約に基づき公開処刑で火炙りとなって魂をゴーレムに移し、この一万年を越えた時間をたった独り切りで存在してきた。君の名前に関してはそのミレディから聞いたんだよ」

 

 クレバスに落ちそうになっていた自分、それを助けようとする妹のユンファと危ないと止めようとする大人達……

 

『スー姉ぇっ! 待ってて、今助けるから!』

 

『来ないで! ……あの人を、頼むわね』

 

 ユンファが巻き込まれない様に自ら手を放してクレバスへと消えた自分、其処からの記憶は途切れていてそれで死んだと思ったが、暫くは生きていてぼんやりと意識も残されていたのを思い出して同時に……

 

「赤い……燃える様な三つの眼?」

 

 完全に意識を失ってしまう前に見えた異様なる光景と、『希望と絶望』という謎の言葉を思い出して口にする。

 

「矢張り這い寄る混沌の仕業か」

 

 どうやら見知らぬ男はソレが何なのか理解をしている様子だった。

 

 

.




 次回はスーシャの願い事を叶えつつ氷雪洞窟に行けたら良いなぁ……


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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