ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 何故か未だに大迷宮に行かないなぁ……





第105話:ありふれた妹の子孫

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 スーシャ・リブ・ドゥミバル、現在に於いてはグリューエン砂漠と呼ばれる嘗ての赤の大砂漠、ドゥミバル領のリブ村に妹のユンファ・リブ・ドゥミバルと暮らしていた。

 

 赤龍大山という活火山の近くという程でも無いにせよ、それなりに近場となるリブ村は規模としてみれば町と呼ばれても良いくらい。

 

 尚、赤龍大山は現代ではグリューエン大火山と呼ばれている大迷宮の一つである。

 

 今も昔も活火山でありながら噴火していないのはナイズ・グリューエンが、大きな魔力鎮静効果を持つ静因石を要石にして仕掛けを施したから。

 

 因みにだが、この世界の砂漠の民は名前と共に住まう地を名乗る習慣があり、ナイズ・グリューエンの実際の名前は『ナイズ・グリューエン・カリエンテ』とされていて、カリエンテ領のグリューエン村が出身地となっている。

 

 スーシャの場合は『スーシャ・リブ・ドゥミバル』な訳で、ドゥミバル領のリブ村に住んでいたという訳だった。

 

 そんなスーシャは一万年は前のトータスから、何故かこの現代に迷い込んでしまっている。

 

 ベッドの上で布団を背中に羽織って褐色の肌の肢体を隠す様にしているスーシャは、今現在は何と素っ裸で下着ですらも身に着けていなかった。

 

 勿論、ユートとの事後とかでは決して無いけどある意味では似た様なものかも知れない。

 

 ユートが魂の入っていないスーシャの服を剥ぎ取って、自らも裸となり抱き締めながら唇を重ねるといった行為に及んでいたのだから。

 

 とはいえ、この時点では別に役得とかではないのも確かであろう。

 

 考えてもみるが良い、相手は死体で死後硬直によりガッチガチに固まって血流も無いし温もりも皆無、褐色肌とはいっても死体では青褪めていて折角の美少女が台無しであるし、何よりユートには死体で盛る屍姦趣味など断じて無かった。

 

 まぁ、それでもスーシャの魂が戻ってからなら柔らかさや温もりや息遣いも戻り、充分過ぎる程に役得と云えるだけの心地良さから股間のモノが勃ち上がっているけれど。

 

 兎に角、最後までヤられた訳では無いし何より救命行為だったと言われれば納得するしかない。

 

「私の事は知っているみたいですね。それで……貴方の名前は?」

 

「優斗」

 

 簡潔に名前だけを伝えた。

 

「ユートさん……」

 

 どうやら名前は覚えてくれたらしい。

 

「這い寄る混沌というのは?」

 

「便宜的に『神』と呼称される存在、性格的にはエヒトと大して変わらん。因みにエヒトは神じゃない、奴は神の真似事が出来るだけの()()()に過ぎないからな」

 

「到達……者……?」

 

「人という種族に於けるある種の到達点に至った存在が到達者。そして其処から更に飛び越えたら()()()と呼ばれる存在に至る」

 

 力の有無や多寡は無関係では無いけど必須という訳でもない、何故なら神でも無い到達者がこのトータスの女神ウーア・アルトを打倒している。

 

 非常に残念な事にエヒトはこの世界の女神なら

斃せる程度には力が在った。

 

「君の時代の【解放者】達、七人の神代魔法の使い手は誰も到達者にすら至れなかった。これに関してはミレディからも確認をしているから間違い無いし、抑々にして到達者に至ったなら最低限で寿命を越えられるからね」

 

「寿命を……」

 

 例えば神殺しの魔王たるカンピオーネも謂わば到達者の一種、神のエネルギーたる神氣を身に宿して本来ならば扱えない神氣を権能として操れる様に造り換えられた存在。

 

 例えば来世で出逢う予定の者達。

 

 そして世界の理から生まれてしまった超越者、即ち神の力に対する反作用体――美沙樹。

 

 問題が有るとすれば自らが至った訳では決して無く、三頂神が力を玩び過ぎたが故に存在を確立された悲劇であるという事。

 

 原典のα世界線では柾木天地が超越者と成ってどうにかしたみたいだが、ユートが居るβ世界線

に於いても彼が超越者と化すかは判らない訳で、何よりも柾木・美沙樹・樹雷は阿重霞と砂沙美の母親だけあり美女だから天地任せにするより自らの手に入れたい事もあり、ユートとしては上手く動きたいという思いが無いでもない。

 

 但し、確定した未来では無い様だ。

 

 また、マスターテリオンやアルと共に世界を駆けた方の大十字九郎も超越者である。

 

 とはいえ、戦闘力の多寡という問題もあるから実質的に到達者だ超越者だと云ってみても可成り曖昧模糊な感じであり、例えばDBに於ける地球の神様は到達者に位置するのだが、地上の者――異星人にだが負ける程度の戦闘力でしかない。

 

 地球の神様は元々が戦闘型では無いナメック人だった上に、地上の穢れに触れて蓄積されていた悪意を解き放った際に弱体化もしている。

 

 それに惑星の神とは就任時にその惑星の人類の戦闘力よりも優れていれば良いのかも知れない、事実として当時の地球に神様より強い人間は居なかった筈だから。

 

 この事例からも到達者や超越者が神を気取るのが実はアリだったりするのだ。

 

 取り敢えず仮面ライダーみたいなスペックには意味が無い様な例もあるし、余り厳密には気にする必要性が無いのも事実であろう。

 

 ユートもどちらかと云えば非戦闘型。

 

 何の冗談かって? ユートが最も得意としているのは基本的には想像力を創造力に換える力で、戦闘能力は云ってみればオマケ程度の代物でしか無かったりする。

 

 欠点は独創性に欠ける事。

 

 皆無では無いけど低いから、基本は模倣となるので自嘲気味に【模倣者(イミテイター)】と名乗っていた。

 

 これは最初に生まれ付いての事で、だからこそ

ユートは五歳も年下であった白亜に勝てない程度の腕前にしかならず、白亜に勝利出来たのは転生をしてハルケギニアに生まれて再会した後。

 

 まぁ、白亜が群を抜いて一際に腕が立つ謂わば天才美少女剣士だったのも理由だが……

 

「序でに言えば超越者に成り上がれば寿命自体が無くなる場合が殆んどだ。エヒトは寿命を超克する超越者には成り得ず、到達者として肉体を既に喪っているから神域に引き篭もっているらしい」

 

「そ、そうなんですね……」

 

「ミレディからの情報だぞ?」

 

「っ! 本当に生きてるんですか? 一万年もの年月を越えて?」

 

 スーシャは目を見開いて驚く。

 

「正確には処刑されたんだから死んでる訳だし、ゴーレムに魂を入れ換えていたからアストラル体が普通に残されていたんだ。だから情報(マトリクス)書き換え(リライト)も可能であったし、アストラル体に残る生前の肉体情報を取得してしまえば再構築も可能だったんだよ」

 

「まとり? りら?」

 

「判らないならそれは構わんよ」

 

 別に生きるに当たって必要な情報では無いし、取り敢えず自分風に言ってみただけ。

 

「それで、スーシャはどうする?」

 

「どうする……ですか?」

 

「助けて蘇生はしたものの、一万年も経っていては君からしたらこの時代は異世界にも等しい筈。見覚えのある地形くらいは有ってもとても未来の光景には見えない」

 

「そ、それは……」

 

 愛しい男性も愛しい妹も居ない、知り合いと言えるのはウザレディーなミレディくらいであり、生きていられる希望と何もかもを喪ってしまった絶望がスーシャの胸を締め付けていた。

 

 リブ村も無いし、ドゥミバル領ですら最早無い訳だから行く場所も存在していない。

 

(スーシャは美少女なんだからその気になったら男でも誑し込むとか、そんな悪女みたいな真似をしたら生きるだけであれば可能だろうが……)

 

 蘇生して血流も戻って、温かみや柔らかさを取り戻したスーシャは女の子としての肢体は明らかにミレディより上、香織ともタメを張れるだけの女性らしいラインを得つつある。

 

 享年が一四歳か其処らだったから二年もすれば更に成長をするだろう。

 

 ミレディが曰わく、妹のユンファも成人をしたら凄まじく化けてナッちゃんを誑し込んだとか。

 

「強くなりたいです」

 

「強く?」

 

「私は弱かった。ナイズ様を追える程の能力は何も無くて、最期の刻もユンファや仲間達の足手纏いにならない様に奈落の底へ落ちる以外に選択肢も無かったんです」

 

「成程」

 

 あの頃はそれでも【解放者】の一員として動いていけたが、今は完全な外様に等しいスーシャの出る幕などあろう筈が無かった。

 

「とはいえ、僕らの旅も終わりが近い。スーシャが今から頑張っても余り意味は無いんだけどな」

 

「それは……」

 

「だから大人しくオルクス大迷宮の最深部で待っていると良い」

 

「オルクス大迷宮? ひょっとしてオスカーさんの大迷宮ですか?」

 

 よく知る名前を聞いて顔を上げた。

 

「まぁね、大迷宮でも恐らく唯一だろう人間が住めるだけの空間が在るんだよ」

 

「唯一ですか?」

 

「既にシュネー雪原の氷雪洞窟以外は全て攻略をしたけど、どの大迷宮の最深部も人が住まう事を前提に造ってはいなかったよ。そんな中でも最初に攻略したオルクス大迷宮だけはラスボスが配置されている以外は人間が住める状態だった」

 

 畑や邸など整備をしなければならなかったが、それでも簡単な手入れくらいで住める。

 

「正直、その気になれば地上より快適に住めた。実際に僕も仲間と共に数ヶ月を暮らしたからね。オスカー・オルクスは自分の時間が長くない事を知った時、テーブルと椅子を用意して座った侭に往生したみたいでね。黒い外套の遺体が椅子には鎮座をしていたよ」

 

「……オスカーさんが」

 

「風化してなかったのは状態を留めるアーティファクトでも有ったんだろう。稀代の錬成師にしてあの時代で唯一の秘宝製作者(アーティファクト・メイカー)だったらしいからさ」

 

 あの時代で唯一の……この時代にはトータス人でこそ無いけどユートが居る。

 

 ユート本人は魔導具と称しているが、明らかに秘法(アーティファクト)級というアイテムをゴロゴロと製作していた。

 

「嘗てとは違って闘う必要性が無いんだからさ、スーシャはオルクス大迷宮でのんびりと待っていれば僕がエヒトを殺してやるさ」

 

「……そうなのかも知れません。だけどあの頃も私達姉妹は【解放者】として活動こそしていましたけど、サポートをしていただけで闘いに赴いていた訳ではありません。そしてあの件が起きて私は死ぬ……筈でした」

 

 力が無いのは不安という事だろう、スーシャは両手をニギニギしながら掌を見つめていた。

 

 そして妹や仲間を危険に晒さない為に自ら手を放してクレパスに落ちたのである。

 

(力の無さに絶望するでなく仲間や妹の為にその命を投げ打つ覚悟……か。ウルトラセブンもこんな気分だったのかも知れないな)

 

 仲間の命の為に自らの命綱を切って墜ちてしまった薩摩次郎青年、ウルトラセブンにより救われたとはいえその魂は高潔であったと云う。

 

 そんな薩摩次郎の躰と魂を写し取って姿を変えたウルトラセブンは、地球人のモロボシダンとして地球での活動を開始したのだ。

 

(とはいえ……)

 

 だからといって力を与えるかと云われればそれは否と答えるしかない。

 

 確かにミレディからすれば身内であるのだが、身内の身内が=ユートの身内では無い。

 

 力の拡散を防ぐべくユートが力をあたえるのは基本的に身内のみ、場合によっては次代で使えなくなる完全な専用化すらしていた。

 

 当然ながら仮面ライダーファイズなどみたいに敵に奪われても使えない。

 

 いずれにせよ、何処ぞの勇者(笑)様に比べてみればどちらも立派であるし、スーシャにしても勇者(笑)と比べるべくも無いであろう。

 

「一から鍛えたいなら人を紹介する事くらいなら出来るけど、一般人だったスーシャが結果を出せるのに数年は掛かるぞ?」

 

「それは……」

 

「僕が魔導具を造れる事は教えたから……それで一足飛びに闘いたいと?」

 

 ビクリと肩を震わせる。

 

「確かに魔導具の力を使えば素人でもそれなりに闘える。事実、今代の勇者(笑)だって聖鎧に身を包み聖剣を揮ってるだけで、実戦経験も無かったのにそこそこのレベルには闘えていたからな」

 

「今代の……勇者様?」

 

「様付けは要らんだろ。所詮はエヒトの駒風情で()()()()()だからな」

 

「エヒト……」

 

 忌々しいと思う表情がありありと見て取れる、スーシャからすれば愛しい人物を害するだけでしかなく最早、『神様』だなんて考えてはいないであろう。

 

 ユートには知る由も無い事だが、スーシャが見せるその表情は嘗てオスカーとミレディに対してスーシャが、『御二人は教会の方ですか?』と訊いた際にしてた表情とソックリであったと云う。

 

「エヒトに召喚されて、エヒトが与えた勇者という天職とそれに紐付けられたステイタス値や技能に加え、ハイリヒ王国の宝物庫に保管されていた聖剣と聖鎧を装備していたからな。僅か二週間か其処らの短い訓練でオルクス大迷宮の表層二〇階層をクリア出来る程度には力が有る」

 

「に、二週間!?」

 

 スーシャには表層の二〇階層がどの程度かは判らないが、僅か二週間で実戦経験が碌に無かった勇者(笑)が闘える様になったのは驚愕だった。

 

「まぁ、能力的に可成り優遇もされていたから。能力値が全て一〇〇、技能も能力値を三倍化する現界突破を始めとして幾つもが備わっていたし、技能一覧に表示はされてこそいなかったが間違い無く、『獲得経験値増加』や『必要経験値減少』みたいなのを極々一部除いて皆が持っていたんだと思っている」

 

「極々一部を除いてというのは?」

 

「錬成師には適用外だったみたいだ。他の連中が僅かな期間で順調に能力値を伸ばしている中で、錬成師だけは碌すっぽ数値が上がらなかったよ。技能も異世界で言語に困らない『言語理解』しか付いてなかったしね」

 

「うわぁ……」

 

 ユートの想像でしかないのだが、トータスでは天職持ちが居ない事も珍しくない中で全員が天職を持つ事、更に全員のレベルが1であった事などを考慮に入れて、召喚の魔法陣に【解放者】が使った神代魔法を修得させる魔法陣と似たモノを混ぜてあり、必ず召喚された者が何らかの天職を得る様にしていたのだろう。

 

 そして能力値は天職に紐付けされてトータスのステイタスが与えられた。

 

 全員のレベルが1だったのは正しくトータスに来てからステイタスを得たからだし、それが故に隠し技能みたいな形にて『獲得経験値増加』や『必要経験値減少』をひっそりと付加も可能で、逆に錬成師という天職に対して付けない事だって出来たのかも知れない。

 

 よく考えるが良い、ステイタスプレートを得て初めてレベルが生えてくるなら今までにそれを持たなかった筈の者、ユエやシアやティオのレベルが普通に高かったのはおかしいという事になる。

 

 隠し技能に関して云うならば、歴戦の勇士たるメルド・ロギンス元団長でさえもレベル七〇には到達せず、能力値だって三〇〇前後にしかならなかったらしいのに、僅か二週間程度の修業とも呼べぬ恐らく八重樫道場で行われていたチャンバラごっこで数値が倍の二〇〇になった。

 

 元の数値も有り得ない全能力値が一〇〇とか、明らかに作られたステイタスだと判る。

 

 そう、普通ならバラける筈。

 

 エヒトの使徒たるノイント達みたいな造られた存在であれば成程、全能力値が一二〇〇〇という異常とも取れるピン並びした数値も頷ける。

 

 だけど自然発生した人間が力も速さも耐久力も魔力も魔力耐性も全てが同じなど、そんな莫迦な話が有り得る筈が無いではないか?

 

 縦しんば偶然にもそんな人間が一人くらいは居たとしても、ならばハジメの能力値の全てが一〇というのに説明が付かない。

 

 偶然にも二人? 有り得ないだろう。

 

 以上の考察から、ユートはトータスでの能力値が召喚時に与えられたモノだと判断した。

 

 それは兎も角……

 

「鍛えなくても力を得る手段が無い訳でもないんだが、当然ながら重たい対価を必要とするから余り僕としては御勧めはしない。僕自身の感情から云うと勧めたい気はするんだけどね」

 

「……そういう話ですか」

 

 敏いが故に気付いたらしい、スーシャがいったいナニを求められているのかを。

 

「その方法なら強くなれますか?」

 

「成れる。何ならちょっとした訓練さえしてしまえばだいたいの敵を斃せるだろうね。とは言っても流石にエヒトを処するのは無理だろうけど」

 

「それは理解してます。単純に民意を操れるだけでも脅威でしたから」

 

 正しく恐るべき闘い方だったであろう。

 

 【解放者】は神殿関係者以外は手に掛けないと決めており、仲間が死んでいたのを検分した結果として決まりを守っていたのだと判った。

 

 これは【解放者】としての矜持。

 

「だけど良いのか? もう察しているだろうに、好きな男だって居たんだろ?」

 

「もう……居ません。それにきっとあの人(ナイズ様)は妹と少しでも幸福で居られたと信じています」

 

「確かにミレディから聞いた話ではユンファって娘が成人したら降参したらしいけどな」

 

 まるでスーシャが取り憑いたかの如く妖艶なる色気を振り撒き、ナイズがユンファに性的に喰われてしまった結果として【解放者】の七人の集まりに於ける最後の日には身重だったとか。

 

「あの、頼みたい事があるんですが……」

 

「構わんよ。契約する相手には須く某かの願いを叶えているからね」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「スーちゃん、どうだった?」

 

「可愛かったが?」

 

「誰が顔形の事を訊いたんだよ~。どうなったのか訊きたいの!」

 

「そうだな。褐色の肌はそれなりに好きだから、日焼けで服の下が白いのも悪くは無いんだけど、全身が褐色ってのは趣きからして違うよな」

 

「だ、か、ら! スーちゃんの容姿の話はしてないんだよ!」

 

 何だかハイテンションなミレディ。

 

「まぁ、揶揄うのはこれくらいにして。取り敢えず【閃姫】になる気はあるそうだ」

 

「ナッちゃんの事は?」

 

「特に話してないが、一応は好きな男が居る筈だって言ってみたけどな……妹と結ばれて幸せが少しでも訪れたのならそれで満足だそうだよ」

 

「そっか……話してないのは少しでもスーちゃんを手に入れる確率を上げる為かな?」

 

「無いとは言わないがね、どちらにしても彼女の願いを聞くには対価を支払って貰わないといけないからさ」

 

 こればかりは誰かが身代わりにとはいかない、故に当人が決断をする必要があったのである。

 

「それで、スーちゃんの御願い事って?」

 

「簡単に言えば人捜しさ」

 

「人捜し?」

 

あの二人(ナイズ様と妹)の子孫に会いたいってね」

 

「なっ!?」

 

 確かにナイズ・グリューエンはユンファと子を成しているが、既に数千年~一万年というバカげた時間が経過しているのだ。

 

「流石に血縁が途絶えたり、或いは拡がり過ぎて逆に見付からないんじゃないかな?」

 

 ミレディが言う。

 

 百年とか二百年でも血脈が途絶える事は侭あるのに、経過した時間はその百倍にも及ぶ訳だから疾うの昔に途絶えた可能性が高い。

 

 その逆に下手したら砂漠――アンカジ公国の者などは全てがナイズの子孫な可能性もあるけど、それはそれで最早ナイズやユンファと関係が無いと云えるであろう。

 

「捜すだけなら容易い。若し見付からないのならそれはそれで仕方がないと笑っていたよ」

 

 とても寂しそうに……ではあるが。

 

「容易いって言うけど、ユウ君はどうやって捜す心算なのさ?」

 

「ミレディは何を言ってる?」

 

「……へ?」

 

「捜し物にぴったりなアーティファクトが存在しているじゃないか」

 

「捜し物にぴったり……あ、それって若しかして『導越の羅針盤』!」

 

「そういう事だ」

 

 チャリンと掲げて見せる『導越の羅針盤』が、キラリと金属質で鈍い光を反射していた。

 

「どっち道いずれ使う必要はあったから丁度良いって話だ。ナイズ・グリューエン・カリエンテとユンファ・リブ・ドゥミバルの直系かそれに近しい直近の子孫の居場所を示せ!」

 

 そう言った瞬間、『導越の羅針盤』が反応を示したのでユートは迷わず躊躇い無く跳んだ。

 

 それが如何にも拙かった。

 

 ユートの『直近の子孫の居場所』という言葉に律儀に応えた『導越の羅針盤』君、ユートは掌のソレが指し示す場所へ瞬間移動をした訳だが……

 

「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

 その瞬間、視てはならないモノを直視してしまったユートを見た誰かさんが、チョロチョロという小さな音を響かせながら視せてはならない場所から温かく黄金に煌めく温水を垂れ流した挙げ句の果てに、この世の全ての絶望を目の当たりにしたかの如く絶叫が響き渡るのだった。

 

 そして、バチィィィンッ! という消魂(けたたま)しくて軽快なビンタが放たれるも……

 

「~~っっ!?」

 

 叩いた筈の人物の方が俯きながら叩いた右掌を抑えて蹲まってしまう。

 

「取り敢えず、出したモノを拭いて下着も穿いた方が良いぞ」

 

「っっっ!」

 

 真っ赤なその人物はササッと拭いて下着を穿き直してから出て行った。

 

「ちょっと可哀相な事をしたな」

 

 だけど確信もしている。

 

「あの子がナイズとユンファの子孫か。直近だから彼女の前に出たんだろうな」

 

 一番新しいから直近、恐らく彼女に子供……は王族でも少し早いか? 妹か弟でも居たのであればそっちに出たのだろうけど。

 

 金髪に翡翠色の瞳に褐色の肌は確かにスーシャを思わせる容姿だった。

 

「ああ、お前さんは何者かね? ウチの孫娘が泣きながら駆けて行ったのじゃが……」

 

 白髪に翡翠色の瞳を持つ浅黒い肌の七〇歳にも届こうかという老人が、困った表情をしながらも右手の人差し指で頬を掻きつつ立っている。

 

「初めまして、僕の名前は優斗。緒方・ユート・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナ。アシュリアーナ真皇国の真皇だ」

 

「ほ?」

 

 まぁ、流石に意味が解らないだろう。

 

 取り敢えず老人から客間に通されたユートは、オンボロな小屋が砂漠に存在しているのを確認しており、つまり此処はグリューエン大砂漠の何処かであるという推測が成り立つ。

 

 老人に案内された室内。

 

 ガンッ! と凄まじい音を立てて中身が僅かながら零れる置き方でカップを置いたのは先程の、ユートに有り得ない痴態を見せて泣きながら走り去った女の子。

 

 まだ顔が赤いのは仕方が無いのだろう、大事な部位を視られた挙げ句にソコから聖水(笑)を精製しているのまで視られたのだから。

 

 若干、涙目で睨んで来る。

 

 カップの中身は紅茶らしいけどグツグツと煮え滾るかの如く温度で淹れられ、マナーもへったくれも無いものだったから兎に角飲んだ。

 

「だ、大丈夫かの?」

 

「味は普通だからね、僕に水や火や土や風によるダメージは無いから問題無し」

 

「そうかね」

 

 通常の温度な老人の紅茶は彼が飲み干してしまったので話をする。

 

「先ず、僕に彼女への痴漢行為をする意図は無かったと言っておく。それと視てしまったのは取り消せないが『済まなかった』と謝罪はする」

 

「くっ! 判りました、貴方の謝罪は受け容れますよ……ワザとでは無いのでしょうから」

 

 見た目には十代後半くらいの僅かに幼さを残す美少女、よくよく視れば成程と思えるくらいにはスーシャと容姿も似ている気がした。

 

「改めて自己紹介する。貴方達の奉じる神により召喚された異世界人、緒方・ユート・スプリングフィールド・ル・ビジュー・アシュリアーナで、アシュリアーナ真皇国の真皇という立場に在る」

 

「つまり『真皇』というのは異世界での王位ですかな? それならば儂が知らぬのも無理は無いのやも知れませぬな。儂の名前はシモン。シモン・リベラールと申します」

 

「私はシビル・リベラールよ」

 

 異世界のとはいえ皇族となれば無視を決め込む訳にもいかなかったか、祖父たるシモンが名乗った後に美少女――シビルも名乗る。

 

「それで、孫娘に無体を働きに来た訳では無いなら何用でこんな荒ら屋へ?」

 

 思い出したのか再び赤くなったシビルを取り敢えず放置して口を開いた。

 

「実は捜す人が居てね」

 

「捜し人ですかな?」

 

「そう、とは言っても捜し人自体は見付ているから後は連れ帰るだけだよ」

 

「ふむ? それは若しやシビルの前に行き成り顕れたのと関係がありますか?」

 

「当たり。捜し人は貴方達だ」

 

「「っ!?」」

 

 シビルは兎も角、シモンは予想していた通りの答えではあったらしい。

 

「儂は一〇年も前にちょっとした粗相から左遷をされましてな、今更ながら我が家に何やら教会が用事でもありましょうや?」

 

「教会? ああ、着ている服から予想はしていたけどシモン老は聖教教会の司祭か」

 

 それは真白の司祭服。

 

「教会は関係無いよ。ってか、教会は総本山である本教会を神山毎ぶっ飛ばしたから消滅しているんでね」

 

「「ハァァァァッ!?」」

 

 それはエヒトを奉じる聖職者からしたら余りにも衝撃的な話であったと云う。

 

 ユートからの説明では、真皇たるユートを勇者召喚という名の拉致を行った上に戦争に送り込む暴挙に出た人間族、それが故にアシュリアーナ真皇国との戦争になってハイリヒ王国とヘルシャー帝国は解体処分、聖教教会も本教会の置かれている神山その物を消滅させて教皇や枢機卿や数多の司教や司祭が捕らわれの身に、ハイリヒ王国でもランデル元王子は戦争の責任で本来なら斬首だったのだが、先に投降したリリアーナからの嘆願もあったから蟄居処分、ルルアリア元王妃は性奴隷的な扱いで捕らわれているのだとか。

 

 しかも教会関係者やランデル元王子は子を成せない処置まで施されたと聞いて、シモンは思わず自身の分身の身を案じてしまった。

 

 多分、宦官の如く処置と勘違いしたのだろうとユートは苦笑いを浮かべる。

 

 ヘルシャー帝国もフェアベルゲン領国と成った亜人族の国と、ユートの手持ちの戦力により皇族は皇太子バイアスを含めて殆んどが死亡。

 

 生き残りはガハルド元皇帝とトレイシー元皇女とアリエル元皇女とその母親くらい、元皇帝には引退をさせて一戦士という形で雇用をしており、トレイシーとアリエルはユートの奴隷的な立場ではあるがトレイシーは騎士、アリエルは行儀見習い的にメイドとなって働く事になる。

 

 アマンドラ元皇妃はやれる事も無かったから、取り敢えずルルアリア元王妃と似た立場だ。

 

 やれる事は無くともヤれる肉体は在るという、それ相応に美しいからこその皇妃なのだから。

 

 頭が痛くなるシモン。

 

「つまり、貴方は人間族の三大勢力を全て潰してしまわれた……と?」

 

「楽勝だったな」

 

 頭痛が痛いと叫びたくなる。

 

「魔人族とは未だに戦争中だというのに、これでは人間族に勝ち目は無くなるのですぞ?」

 

「心配は要らない。魔人族も今となっては邪魔だから潰してやるさ」

 

「然し、連中は不可思議な力を……」

 

「神代魔法の一つ『変成魔法』を敵将フリード・バカーとやらが獲得、魔物を魔人族の戦力と化したってのは知っているさ」

 

「し、神代魔法ですと!?」

 

 尚、フリード・バグアーである。

 

「此方も神代魔法は『変成魔法』が魔人族領だったから後回しにしていたけど、既に七つ中六つを獲得しているから戦力的に負けていない」

 

「「なっ!?」」

 

「そして現在は魔人族領へ赴き、『変成魔法』を手に入れるべく行動中。その最中に雪の中で拾った女の子がちょっとした曰く付きだったんだが、その娘がどうしても会いたいっていう人間が居るらしくてね」

 

「それが我々、リベラール家と関わりがあるという事ですかな?」

 

「そうなるね。正確には手掛かりとなる情報を元に行き先を示す神代のアーティファクトが在る。その導きの侭に『空間魔法』の転移にて跳んだら彼処に出てしまったんだ」

 

 即ち、シビルが御小水をしようとしていた中のトイレへと。

 

「僕もまさかの事態に驚いたさ」

 

「確りと視てましたけどね!」

 

「あの場合、視ない方が失礼だろう」

 

「んな訳、無いでしょ!」

 

 美少女が下半身を晒して突っ立って居るのだ、男なら目が晒された下半身に向かうものだ。

 

「寧ろ視ない輩を男とは認めん!」

 

「何でよぉぉぉぉおおおっ!?」

 

 ちょっとした戯れ言は置いといて……

 

「それで二人には……家族も居るなら一緒に来ても構わないけど今は魔人族領だからな。だから、取り敢えず二人に来て貰いたい」

 

「然し、我がリベラール家に連なる者が魔人族領に居たとは俄には信じられませぬな」

 

「ま、自由な意思に任せるさ」

 

「自由な意思?」

 

 迎えに来た割にはおかしな事を言うと思ったのと同時に、シモンはリベラール家に伝わる口伝を思い出さずには居られなかった。

 

「抗う者の子等よ。天を仰いで生きよ。神の意思が銀の翼となりて降臨する。神威が世界を駆け巡るだろう。縋る事無かれ、沈黙し頭を垂れ陰に身を寄せ未来を想え。いつの日か反逆の子が産声を上げる。耳を澄ませ、目を開き、心を決めよ。抗う者の子等よ。汝等の未来が、自由な意思の下に在らん事を……」

 

「それは?」

 

「最早、辿れぬ程に遥かな昔の御先祖様が遺したとされる口伝……というより予言に近いかのぅ。不思議な事に一度聞けば我々リベラール家の直系の者はこの言葉を絶対に忘れん」

 

 それは恐らくだが、何らかの魔法が作用している可能性も否定は出来ない。

 

「確かにすんなり頭に入ったけど」

 

 シビルも初めて聞いたらしく、本当に聞いたら忘れられない言葉として脳内に残った様だ。

 

「他に口伝みたいなのは?」

 

「口伝を伝授した直系に伝えるべき事があるの。忘れられないリベラール家には受け継ぐべき二つの名前が有るんじゃよ」

 

「セカンドネームみたいなもんか?」

 

 ユートの問いに頷く。

 

「うむ、折角じゃからシビルにも伝えておこう。

正式に名乗るなら儂はシモン・L・G・リベラールとなる」

 

「すると私はシビル・L・G・リベラールとなる訳ですか?」

 

「そうなるのぅ」

 

 そのイニシャルにユートは口を開く。

 

「リブ・グリューエン……か」

 

「「っ!?」」

 

 シビルは元より、まだ伝えていなかったのにとシモンが驚愕に目を見開いてしまう。

 

「僕の保護した娘の名前はスーシャ。スーシャ・リブ・ドゥミバル」

 

「リブ……じゃと!?」

 

「シモン老とシビル嬢の遥か彼方とも云えるだろう大昔の先祖の姉……という事になるのかね?」

 

 自身の家の隠された名前を持つといわれといる女性、それはユートの言葉を嘘と断じるには()()()()()()()程の衝撃であった。

 

 

.




 次回、序盤はスーシャとシモン&シビルの逢瀬で後半からは大迷宮に行きたい。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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