第21話:幸運グッズにはウサギの尻尾があったかな
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オルクス大迷宮を抜け、魔法陣の光に満たされている視界だが仮令、何も見えていなくても明らかに空気が変わった事は解る。
数千年の年月が経過し、澱んだ奈落の空気とは一線を画するからだ。
新鮮な空気を感じてか、香織も雫もユエも笑みを浮かべてしまう。
光が収まり、目を開けたユート達の視界には……
「また洞窟!?」
香織を絶叫させる洞窟の侭であったと云う。
転移陣を越えたなら地上だと、香織は無条件に信じていたから落胆を隠せてはいなかった。
全く代わり映えしない、相変わらずな光景に思わず叫んだ香織、ペタンと女の子座りでへたり込んでしまった雫。
ユートはポリポリと頭を掻きながら言う。
「ま、反逆者と呼ばれていたんだからね。幾ら何でも直接的に繋いでないさ」
「……ん、秘密の通路だから隠すのが普通」
ユートの言葉に手を繋ぐユエが、それを肯定するかの様に言った。
「という訳で、香織もへばってないで立つ」
「は、はい……」
ゆったりと立ち上がろうとする香織、ユートは溜息を吐きながら手を差し出してやる。
「あ、その……ありがと」
「何ならお姫様抱っこして運ぼうか?」
「けけ、結構かな!」
そんな風にからかわれ、香織は赤くなりながらも慌てて立ち上がった。
訓練をして体力は付いていたし、ユートに抱かれて潜在能力を引き出されていたから、ステータスも充分に上がっている。
故に香織だって疲れている訳ではなく、自分の足で立って歩く事が出来る程度には強かった。
ネタを知る雫は苦笑い。
緑光石すら無い洞窟ではあるが、ユートは光の玉を出して灯りを灯せる。
そもそも視るに特化した【神秘の瞳】は、その気になれば夜目が幾らでも利く訳で、吸血種のユエもそれは同じ事だった。
途中、封印が施されている扉やトラップ類も有ったのだが、それは手に入れたオルクスの指輪が反応し、悉くを解除していく。
暫くそうやって進んでいくと到頭、外から入ってきているであろう光を見付ける事が出来た。
「外! 外だよ、出られたんだよ雫ちゃん!」
「ええ、良かったわね」
「うう、色々とあったけど……良かったよ〜!」
香織は、やはり嬉しさからだろう感慨無量といった感じに涙を流す。
ユートの手を握っているユエの力が強く籠められ、新月の様な表情が三日月の光の如くとても柔らかく、喜色を表して小さく笑みを浮かべていた。
香織からしたら二ヶ月、ユエはもう三百年は地上の光を見ていなかった訳で、天に耀く陽の光を眩しそうに見つめている。
「……風を感じる。大迷宮内は大気の流れが殆んど無いから澱んでた」
三百年間は吸えなかった清浄な空気は、それだけで嬉しいものだとユエは理解が出来た。
「ユエ、三百年振りの風と光はどんな気分だ?」
「……ん、最高」
ユートからの問いに答えたユエは、男が見れば魅了されそうな暖かな笑み。
「じゃあ、行こうか」
こうして、ベヒモスとの戦いからずっと見ていなかった地上へ、ユートと三人の帰還が叶うのだった。
「まぁ、行き先がライセン大峡谷なんだがな……」
「……不毛の大地」
洞窟を出た先は崖が切り立つ渓谷、前か後ろにしか進む道は有りそうに無い。
ユートは飛べるけど。
「ユエ、此所はライセン大峡谷だから魔力の扱いが、ちょっと大変だろう?」
「……ん。魔力結合が困難だから困る」
「一〇倍くらい濃密にすれば使える筈だ」
「……それだとすぐに息切れしてしまう」
アイデンティティーが脅かされる。
「此処がライセン大峡谷って訳だな」
夜会の時に聞かされた、ライセン大峡谷の怪。
少し前も王宮へ愛子先生を連れて行く為に通っているが、魔法が分解されてしまってまともに使えない。
「嘗てはライセン家という聖光教会の意向に従って、異端者を処刑していた伯爵一族が使っていた処刑場」
「ちょ、怖い話をしないでよね!?」
雫が叫ぶ。
見れば雫も香織も怯えた顔になっていた。
「ああ、折角の爽快感に水を差したな」
とはいっても、やっぱりライセン大峡谷は処刑場だった事に違いない。
「ユエ、魔力結合が阻害されるけど安心しろ」
「……ん、力尽くだと大変なのに?」
「【閃姫】は特典として、凄まじいエネルギー量を持つタンクが使える。魔力として出力すれば殆んど無制限に魔法が使えるさ」
恒星数個分のエネルギーを確保してある。
「何で急に魔法がどうとか話してんのよ?」
「そいつは随分迂闊だな、サムライガール」
「誰がサムライガールよ、って! まさか魔物?」
「正解だ」
ユートは腰にディケイドライバーを出現させると、左腰のライドブッカーからカードを取り出す。
「変身!」
《KAMEN RIDE DECADE!》
黒いインナーに緑の複眼を持つ、マゼンタカラーで左右非対称なアーマー。
仮面ライダーディケイドに変身をした。
「……サガーク」
ユエの腰にベルトとなってサガークが装着。
「……変身!」
《HENSHIN!》
ジャコーダーを右側にあるスロットに填め込んで、すぐにも抜いてしまう。
「私も変身するわ!」
《STAND BY》
ジョウントを通って顕れたサソードゼクターが地面から飛び出し、雫の手の中へと飛び込んだ瞬間……
「変身!」
サソードゼクターをサソードヤイバーにセット。
《HENSHIN!》
仮面ライダーサソード・マスクドフォームに。
仮面ライダーとなって、あっという間に襲って来た魔物を殺し尽くした。
蹂躙と云っても良い。
「ふう……」
変身解除して一息を吐いた五人は、取り敢えず移動をしようと考える。
「……魔法が扱い易い」
「仮面ライダーに変身すると魔法は別のエネルギーに変換されるから、魔法を使ってそれがライセン大峡谷で分解されたりはしない」
「……地味に便利」
ユートからの説明にユエは染々と思った。
故に仮面ライダーサガの状態なら、魔法は正に使いたい放題という訳だ。
エネルギーの残量を気にする事無く、分解されてしまう心配も要らないから。
「にしても、弱かったな」
「正直、仮面ライダーに成る必要は無かったわね」
「……私は魔法を使う為に必要だったけど」
ライセン大峡谷の魔物、それはオルクス大迷宮から考えると弱い。
「多分、オルクス大迷宮の魔物が異常なんだろうな」
「成程、そういう事か」
納得した雫。
「この絶壁は登ろうと思えば登れそうだね。どうするかな? ライセン大峡谷は七大迷宮が有る場所だし、樹海の方に向かって探索でもしながら進むか?」
「樹海側に?」
「峡谷を抜けてから行き成り砂漠横断は嫌だろう? 樹海側なら町にも近そうだと思うぞ雫?」
「確かにね」
(さて、ユーキが言っていた通りに逆算した日数で、ライセン大峡谷に出た訳だけど……)
此処でヒロインの一人、シア・ハウリアという名前の兎人族と会う筈。
原典では魔物に追われているらしいし、下手なタイミングでは既に喰われた後とか洒落が利かない。
『一応、兎人族は亜人族として見れば造形も良くて、愛玩奴隷や性奴隷としても人気が高い。シア・ハウリアはその中でも一際美少女だから、助けて恩を売るのも悪くない。彼女が支払える対価は能力か女である事だけだしね』
こういう辺りはユーキも流石と云うべきか。
兎に角、彼女も持ち前の能力である程度は此方に合わせて動く筈、というのがユーキからのアドバイス。
魔物の能力から考えて、ライセン峡谷その物が迷宮という訳でなさそうだし、迷宮への入口が別に存在をしている可能性がある。
ユートは普通に翔べるから絶壁を超える事は可能、ライセン大峡谷の探索自体必要だったので、特に誰も反対したりしない。
どっち道、シア・ハウリアなる兎人族を道中で捜すのだから、道なりに行けば良いであろう。
ユートはマシンディケイダーを出し、ユエを背中に乗せて香織を後ろに、雫には別の魔導単車を出してやって進む事に。
ライセン大峡谷というのは基本、東西に真っ直ぐと伸びている断崖である。
脇道は殆んど無いから、道なりに進めば迷う事なく樹海へと到着する筈。
迷う心配が無いのだし、迷宮の入口らしき場所などが無いか注意をしながら、マシンディケイダーで道を爆走していた。
とはいえ、爆走さている間にもユートは魔物を蹴散らしている。
「まさかバイクが有ったなんてね」
「凄いけど、ゆう君ってば免許とかは有るのかな? 因みに雫ちゃんは無いよね?」
「……免許?」
ユエには免許の概念自体が当然無かった。
マシンディケイダーにて大峡谷内を進んでいると、余り遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてくる。
それなりの威圧であり、今までに相対していた谷底の魔物より強そうだ。
もう大した刻も置かず、接敵をするであろう。
大型の魔物が現れた。
真のオルクス大迷宮見たティラノサウルス擬きに似ているが、頭部が二つあるから謂わば双頭のティラノサウルス擬き。
だけど注目するべきは、双頭のティラノなんかでは決して無く、足元をぴょんぴょんと跳ね回って半泣きで逃げるウサミミ少女。
マシンディケイダーを停めて、ユートは胡乱な眼差しで今にも喰われそうであるウサミミ少女を見遣る。
「見付けた……」
青に近い白髪を長く伸ばしたウサミミの美少女で、聞いていた通りの容姿だったのもあるが、目を惹いたのはやはり凄まじいまでの露出度な服装だろうか。
まぁ、見るからに服装がドロドロな上に鼻水や涙で顔も美少女が台無しだし、あれでは百年の恋も冷めてしまいそうだが……
(残念ウサギだな)
苦笑いをしながらユートは再びマシンディケイダーを走らせ、ウサミミの少女シア・ハウリアに近付く。
「何かしら? あれは」
「……兎人族?」
雫も見付けたみたいで、遠目に見えるシア・ハウリアに疑問を持ち、雫よりも目が良いのかユエは兎人族と判ったらしい。
「兎人族って谷底が住処なのかしら?」
「……聞いた事ない」
「あ、犯罪者として落とされたとか? 昔そんな処刑が有ったんだよね?」
「……悪徳なウサギ?」
香織も雫もユエも首を傾げながら、逃げるウサミミ少女を見つめていた。
「優斗、どうするの?」
「ま、取り敢えず喰われたら交渉も何も無いしね」
取り敢えずは助けるという事らしくて、雫も香織もちょっと安堵している。
若し見捨てると言われた場合、二人も見捨てるという選択しか無くなるから。
ライセン大峡谷落としが処刑方法の一つとして使用されていたのは確かだが、そもそもライセン一族などオスカー・オルクスの手記に有るミレディ・ライセンが唯一の生き残りであり、今現在はそういう使われ方をしていない筈なのだし、ウサミミ少女が犯罪者である訳ではあるまい。
「香織がやってみるか?」
「え、でも私はガシャットなら返しちゃったし」
「やるなら新しいのを渡すんだが、どうする香織?」
「……やるよ!」
ウサミミ少女の方が此方を発見したらしい。
双頭のティラノ擬きから吹き飛ばされ岩陰に落ち、それでも四つん這いになりながら這う這うの体で逃げ出して、必死に優斗達が居る方へと駆けてきた。
双頭ティラノ擬きが爪を振い、それで吹き飛ばされたウサミミ少女はゴロゴロと地面を転がる。
だがその勢いを殺さず、猛然と逃げ出して優斗達へと近付いて来た。
それなりに距離はある筈なのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが大峡谷に木霊して優斗達に聴こえる。
「だずげでぐだざ〜い! ひぃっ、死んじゃうよ! 私、死んじゃうよぉぉっ! だずけてぇ〜、おねがいじますがら〜っっ!」
涙を滂沱の如く流して、折角の美少女な顔をぐしゃぐしゃにして、必死に駆けてくるそのすぐ後ろには、双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女を喰らわんとしていた。
微妙に間に合わないし、この侭では優斗達の所まで辿り着くよりも前に、彼女は喰われてしまうだろう。
「モンスタートレインか、MMORPGとかだったらマナー違反だし、これだと普通にMPKになるぞ」
「……傍迷惑な」
優斗もユエも呑気だ。
「ほれ、香織」
「あ、うん。ありがと」
渡されたのは大きさ自体は大したものでもないが、緑色のハートを模したそれは中心にスリットが有る。
腰に据えるとカードが顕れて左から右へ合着して、ベルトとして機能を果たすそれにカードホルダー。
開いたら一枚だけ入っていたので出すと、ワルキューレの意匠が描かれているトランプみたいな物。
ハートのA、【CHANGE】と端の方に書いている。
「まっでぇ〜! おねがいですから、みすでないでぐだざ〜い!」
ウサミミ少女はどうやら見捨てると勘違いしたか、更に煩いくらいに声を張り上げて叫んだ。
香織は苦笑いをしながらカードをスリットに。
「変身っ!」
《CHANGE!》
まるで水を潜ったかの様なモーフィング、其処には仮面ライダーとは似ても似つかない銀髪女性。
「あれ? 仮面ライダー、じゃないよね?」
双頭のティラノが逃げるウサミミ少女の向かう先に此方を見付け、殺意を向けてくると共にけたたましいまでの咆哮を上げた。
『グゥルァアアアア!』
「ほら、使い方は同じだから早く行け」
「もう、判ったよ〜」
ちょっと膨れっ面となりながらも、背中に翼を展開して高速匍匐飛行で一気にウサミミ少女の許へ。
「行っくよ〜!」
手にしたのは弓。
醒弓ジョーカーアローとでも云おうか、赤いラインが緑色なだけのカリスアローと変わらない代物。
双頭ティラノがウサミミ少女に追い付き、片方の頭が顎を開いてウサミミ少女に喰らい付かんとしていたのを、使徒リューンと同じ姿の香織がジョーカーアローにて攻撃する。
ドピュッ!
ちょっと卑猥な擬音が聞こえた気がしたのだけど、香織は全く気にせず連射で双頭ティラノ擬きを攻撃。
峡谷に響き渡る音と共に一条の閃光が通り抜けて、目前にまで迫っていた筈の双頭ティラノの口内を突き破りつつ後頭部を粉砕して光の矢が貫通をした。
所詮は地上の魔物だからだろう、簡単に斃せてしまって首を傾げる香織。
生命を失った片方の頭が地面へと激突してしまい、双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てその場に引っくり返る。
その際の強い衝撃にて、ウサミミ少女は再び吹き飛ばされていた。
「うきゃぁぁぁぁっっ! た、助けて下さ〜い!
「はいよ」
パッと掴んで引き寄せ、その侭で地面へと置く。
あっさりめだったけど、痛い目を見ずに済んだのは地味に嬉しかったらしく、優斗をポーッと見ていた。
「トドメだよ! ってぇ、カードが一枚しか無い? もう、仕方ないかな……」
バックルをジョーカーアローに取り付け、スリットへとスラッシュさせる。
《MIGHTY!》
読み取られたカード名は【MIGHTY】で、仮面ライダー剣系の新世代ライダーが使っていた単独必殺技用。
マイティグラビティというカードで、重力を発生させて破壊力を増す。
「グラビティシュート!」
仮面ライダーグレイブが使ったカード、グレイブは剣撃に乗せていたものだったのだが、香織は放たれるエネルギーの矢へと乗せて射っていた。
そして双頭ティラノ擬きは残りの頭を吹き飛ばされてしまい、呆気なく死んでしまったのだと云う。
「うう、グロいよ〜」
もう、パンッ! と弾ける様に目の前で吹っ飛んだから、香織からしたらさぞかし気持ち悪かろう。
「にしても、弱かったね」
それだけは間違いなく、香織は戦ってみた感想を話してきた。
「真のオルクス大迷宮が強かっただけだなやっぱり、ライセン大峡谷は処刑場に使われていただけあって、魔法が無ければ辟易するんだろうが、それでも僕らの敵じゃないよな」
雫も香織も別に二ヶ月も食っちゃ寝をしていた訳ではなく、戦いに慣れる為の修業を行っていた。
ユエはアレーティア時代に戦争をしていた訳だし、レベルもそこそこは高かった上に、魔力特化型ステータス値で魔法が可成り強いから、真のオルクス大迷宮でも見劣りはしていない。
「うう、ありがとうございます。あの御願いします! 助けて頂けませんか?」
「だから助けただろうに」
「いえ、違くて! 家族を助けて欲しいんですぅ!」
ウサミミ少女――シア・ハウリアが凄い剣幕で目的を言い募る。
「聞いたろ? 香織、雫。こうしてヒトはひたすらに図々しくなれるんだよ」
「ああ……」
「確かにちょっとね」
「……」
「助けてくれて当たり前、くらいに考えてるぞ?」
シア・ハウリアはそれを聞いて青褪めた。
急ぎ過ぎて図々しいとか思われたのだ……と。
ユエは余り人の事を言えないからか、口にチャックをしており黙して語らないを示していた。
「ま、待って下さい!」
「何だ?」
「ダイヘドアを簡単に斃せる貴方達だからですぅ! 御願いします! 家族を助けてくれたなら何でもしますから!」
香織も雫も頭に右手を乗せると天を仰ぐ。
「「あちゃぁ!」」
やっちまったと謂わんばかりの態度である。
「何でも……ね。助けるというのはどういう事だ?」
「は、はいですぅ! 私は兎人族ハウリアの一人で、シアと云いますですぅ!」
「緒方優斗」
「八重樫 雫よ」
「白崎香織だよ、宜しくねシアさん」
「……ん、ユエ」
漸く名を名乗るシアに、ユート達も名乗った。
シアは訥々と語る。
ハウリアと名乗る兎人族達は、【ハルツィナ樹海】で数百人規模の集落を作りひっそり暮らしていた。
兎人族は聴覚や隠密行動には優れてもいるものの、他の亜人族に比べてみればスペック的に低いらしく、ステータス的にも平均値か其処らで、亜人族の中でも格下と見られている。
ハジメを思い起こしていたユートと香織、彼もまた平均的に低いスペックだった上に、仲間である筈の者から下に視られていた。
性格的には皆が温厚で、兎人族の者は誰もが争う事を善しとはせず、集落全体の仲間を家族として扱う絆が深い種族だと云う。
そしてシアを見れば解る通り総じて容姿に優れて、森人族の様な美麗さとまた異なった可愛らしさや愛嬌があるので、帝国などに捕まって奴隷にされた時は、愛玩用で大人気の商品となるそうな。
ある日のハウリア族に、異常な女の子が生まれた。
兎人族は基本的に濃紺色の髪だが、その子の髪の毛は青みが掛かった白髪で、亜人族に本来は無い筈たる魔力を持ち、魔力操作を行える上に固有魔法までもを使えたのである。
ハウリア族は大いに困惑をしたが、亜人族一の家族の情が深い種族たる兎人族なだけに、普通なら魔物と同じ力を持つとして忌み嫌ってもおかしくないのに、ハウリア族は女の子を見捨てる選択肢を捨てていた。
とはいえ、樹海の深部に存在する亜人族の国である【フェアベルゲン】に若し女の子の存在がバレれば、その子は間違いなく処刑をされるだろう。
魔物は正に不倶戴天の敵であり、国の規律にも魔物を見付けたなら即刻殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした者が、追放処分を受けたという例もある程。
そもそも被差別種族たる亜人族は、只でさえ排他的なのだし自分達以外の種族が【フェアベルゲン】へと入る事さえ嫌う。
ソコへ来て魔物と同じ力を持つ女の子だ。
ハウリア一族は女の子をひた隠しにして、一六年間ひっそりと育ててきた。
だけど遂に彼女の存在が国にバレてしまう。
故にこそハウリア族は、【フェアベルゲン】で捕まる前に、一族ごと樹海を出てしまったのである。
取り敢えず北の山脈地帯を目指すことにしたのは、山の幸があれば生きていけるかも知れないからだ。
未開拓地ではあるけど、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシで、生きるのに必死だったと云うのもある。
処が件のその帝国により目論見が潰えた。
樹海を出てから直ぐに、本当に運が悪く帝国の兵に見付かり、一個中隊規模とあっては勝ち目なと無く、ハウリア族は南に逃げるしか道は無い。
か弱い女子供を先に逃がす為に、男達が帝国の追っ手の妨害を試みるものの、そもそもが温厚で平和的な兎人族VS訓練されている帝国兵では、既に戦うまでもない歴然とした戦力差があり、気が付いてみたなら半数以上が帝国兵に捕らわれてしまっていた。
仕方無しと全滅を避ける為に、ライセン大峡谷へと辿り着いたハウリア族は、苦肉の策ではあるが峡谷内へと逃げ込んだ。
魔物に襲われるか帝国兵が居なくなるのが早いか、これは分が悪い博打にしかならない賭け。
なのに反転を全くしない帝国兵、そうこうしている内に想定通り魔物が襲来してきて、最早これまでかと帝国兵に投降をしようとしたのだが、魔物が回り込みハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしか無くなる。
「気が付いたら、六〇人はいた筈の家族も今となっては四〇人程しか居ません。このままでは全滅ですぅ、どうか御願いですから助けて下さい!」
涙々に語るシアは成程、哀れを誘う内容ではあるのだが、ユートにはハッキリと云えば関係が無い。
ユートは善人でなければ正義の味方でもない訳で、何処ぞの勇者(笑)だったり未来の錬鉄の英雄だったりしないから、実利が無ければ動いたりしないのだ。
勿論、ユートにも情くらいは有るから琴線に触れたら或いは……だろうけど、果たしてシアの言葉がそれに当たるかと訊かれれば、首を横に振るだけである。
だけどシア・ハウリア、彼女はある意味で幸運だったと云えよう。
(ユーキからの情報通り、つまり【ハルツィナ大迷宮】に入る為の鍵、亜人族との絆を育む絶好の機会か)
打算塗れの絆だが……
「シア・ハウリアだったな君は」
「は、はいですぅ」
「何でもすると云うなら、奴隷にもなるんだな?」
ギクリと肩を震わせて、意を決した表情で……
「なりますぅ!」
奴隷となる事を了承するのであった。
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シアの運は良いか悪いかまだ判らない?
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる