ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 何とか書けました。





第24話:ケモミミ男って誰得だろう?

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 ハルツィナ樹海。

 

 【フェアベルゲン】という亜人族の国が存在している樹海で、元々はシア達のハウリア族もこの国出身であったのが、魔力持ちとして生まれたシアをハウリアが匿い、最近になってそれが露見したから処断される前に逃げたらしい。

 

「つまり、弱い振りをしておくと?」

 

「そうだ。舐めて掛かってくれた方が好都合だしね」

 

 カム達との話し合いで、【フェアベルゲン】に於けるハウリアの動き方の相談をしているが、最初は強くなったのを殊更に強調しない方向性でいく心算だ。

 

 舐められていた方が油断を誘えるし、その上で連中を圧倒出来れば良い。

 

「ねぇ、優斗」

 

「どうした、雫?」

 

「会議をするのは良いんだけど、何で私を膝に乗せて後ろから抱き締めてるの? 嬉しいけど恥ずかしい、カムさんとかガン見してるんだもの」

 

 本気の羞恥心に目を背けるカム達。

 

「ほら、義妹がトータスにまで発生したって悩んでいただろ?」

 

「うう、そうだけど……」

 

 雫にとって義妹(ソウルシスター)とは、彼女への愛を拗らせた女性によって構成されているが、義妹と名乗りながら歳上まで居るのがシスタークオリティ。

 

 地球で義妹筆頭となるのは天之河妹、何かと雫へと絡むらしいがユートは見た事も無い。

 

 イケメン天之河光輝の妹なら、嘸や美少女なのだろうとは思うのだが……

 

「あ、一つ訊きたい」

 

「何だ?」

 

「私もね、仮面ライダーを知らない訳じゃないのよ」

 

「そうか?」

 

「うん。本当に軽い知識って感じなんだけどね」

 

「で?」

 

 雫に先を促す。

 

「仮面ライダーゼロワン、私にはそんな仮面ライダーの知識は無いわ」

 

 それはそうだ。

 

 仮面ライダーゼロワンとは令和ライダーの一号で、この世界では仮面ライダー鎧武が放映中。

 

 つまりは未来の仮面ライダーなのである。

 

「ふむ、それならちょっと見せよう」

 

 雫から少し離れて立ち、ネオディケイドライバーを腰に顕現させた。

 

 ライドブッカーから一枚のカードを取り出す。

 

《KAMEN RIDE DECADE!》

 

 仮面ライダーディケイドへと変身した。

 

「おお、これがユート殿が変身をする!」

 

 見ていたカムが興奮気味に叫んだ。

 

「次はこれだ」

 

《KAMEN RIDE DRIVE!》

 

「え?」

 

 真っ赤なボディにヘルメットみたいなフェイスに、左肩からタイヤみたいなのをくっ付けた姿に変わる。

 

「仮面ライダードライブ」

 

「ド、ドライブ?」

 

「更に……」

 

《KAMEN RIDE GHOST! LET's GO KAKUGO GO GO GO GHOST! GO GO GO GO》

 

「仮面ライダーゴースト」

 

「はい?」

 

 パーカーを被った橙色の仮面に黒い眼、仮面ライダーゴーストになるユートに訳が解らない雫。

 

《KAMEN RIDE EX-AID! MIGHTY JUMP MIGHTY KICK MIGHTY MIGHTY ACTION X!》

 

「コイツが、仮面ライダーエグゼイドだ」

 

 バッチリお目眼な異質、マゼンタな髪の毛を思わせる仮面、それが仮面ライダーエグゼイド。

 

《KAMEN RIDE BUILD! HAGANE NO MOON SAULT RABBIT & TANK YEAH!》

 

 スナップライドビルダーに挟まれて変身。

 

 赤と青のツートンカラーであり、複眼も右が青色で左が赤色となっている。

 

「仮面ライダービルド」

 

「知らないライダーばかりじゃないのよ!」

 

「そして……」

 

 次のカードを装填。

 

《KAMEN RIDE ZI-O! KAMEN RIDER ZI-O!》

 

 黒を主体としたアーマーであり、時計の針を模したアンテナで特徴的なのは眼が【ライダー】と書かれているという点だろう。

 

「これらが二〇一三年以降に活躍する仮面ライダー、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド、更に平成最後の仮面ライダージオウという訳だな」

 

「平成……最後のって? え、天皇陛下が亡くなるって意味?」

 

「否、生きた侭で次に変わるらしいよ」

 

「らしいって?」

 

「僕も知らんからな」

 

 ユートは仮面ライダーだとフォーゼの頃までしか生きてない為、その先の事など判る筈もなかった。

 

 そこら辺の情報はだいたいが狼摩白夜から齎らされており、飽く迄も情報だけでしか識らないのである。

 

「あれ、それじゃゼロワンってどうなるのよ? 最後のがジオウっていうなら」

 

「仮面ライダーゼロワンは令和最初のライダーだよ」

 

「れいわ、新しい元号!」

 

「そう。仮面ライダーゼロワンはつまり01だから、令和01でありレイワンでレイワでもあるな」

 

「二重に引っ掛け……」

 

 既に雫と香織にはユートが転生者だと、オルクス大迷宮を出る前に教えているから納得はしたらしい。

 

「ゼロワンドライバーって造ったばかりだったしな、テストも碌すっぽしていないから丁度良かったのさ。大して強くないし」

 

 大して強くない魔物共、確かに性能テストをするのには悪くない環境。

 

「いやいや、私はサソードにならないと大迷宮の魔物は斃せないんだけど?」

 

 流石に地上の魔物に後れを取りはしないだろうが、まだ大迷宮の魔物とガチに勝負して勝てる自信が雫には無い。

 

 やはり蹴り兎に敗北したのが自信喪失の原因か。

 

 実際のステータス的問題もあり、雫の数値はユートに抱かれて可成り上昇してはいるが、タイマン張らして貰えば何とかなるけど、群だと流石にヤバかった。

 

「大丈夫。雫も闘氣を修得したし、魔力との融合まではまだ出来ないにしても、相当の実力になっているのは間違いないよ」

 

 闘氣による身体強化は、雫的に力より相性が良くて扱い易い。

 

「それに今も見事な纒だ。そうやって続けていれば、必ず大成するよ」

 

「う、うん……」

 

 ちょっと照れながら頷く雫は半端無く可愛かった。

 内側から放たれる闘氣、これを揺らぎ無く身体の周りに纏わせる【纒】。

 

 【狩人×狩人】に於ける念の四大行というのだが、魔力や闘氣や霊力などでも普通に応用が利く。

 

 雫、シア、ユエ、香織の四人はこの基礎たる四大行を【発】を除いて一年間、確りと修業をしていた。

 

 それはカム達もだが……

 

 魔力を持たぬ亜人族達、然し生命体であるからには氣は存在する為、闘う為の氣……即ち闘氣を覚えさせるのは必定。

 

 とはいえ、『やれ』と言われて『はい』とソッコーで出来る筈も無かったし、身体で覚えさせた方が早いから、【心転身の術】を用いて相手を乗っ取った上、闘氣をその身体で扱ってやり【纒】と【絶】と【練】を実際に行った。

 

 尚、ハウリア族は【絶】が凄まじく上手かったり。

 

 四三人分の【心転身の術】は時間が掛かったけど、全員が闘氣を扱える様になったから甲斐はある。

 

 クラスメイトにもやれば闘氣を扱える様になったのだろうが、シアが身内となったからシアの家族であるハウリアを強化したけど、わざわざクラスメイトなんていう“他人”に此処までやってやる気は無い。

 

 ならハジメと優花は? と思うだろうが、そもそもこの強化はハウリア族独立を掲げるのに必要だったから思い立ったに過ぎない。

 

 つまり、クラスメイトと再会した時には思い出しもしなかった方法だ。

 

 確実に強化が可能な方法なのは、再誕世界で出逢ったゲートの向こうの住人、テュカ・ルナ・マルソー、ユノ・ルナ・エルシャー、ロゥリィ・マーキュリー、レレイ・ラ・レレーナなどにやって判っている事ではあるのだけど。

 

 これはこれで割と面倒臭いと云うのもある。

 

 それに大概は仮面ライダーの一つも渡せば、何とかなってしまうのも拍車を掛けているのだろう。

 

「そういえば、優斗が一番好きな仮面ライダーは?」

 

「仮面ライダーブレイド」

 

 だからこそ仮面ライダーアルビオンや仮面ライダードライグへの変身方法は、ターンアップやオープンアップの方式なのだ。

 

「そうなんだ。ジョーカードライバーはそれが理由だったりするの?」

 

「んにゃ。単純にカリスラウザーは義妹のユーキに渡していてね、新しく造ったのがジョーカーラウザーを元にしたドライバーだったってだけだよ。元ネタ……判るかどうか知らないが、四条ハジメって奴が使っていたカリスラウザー」

 

「確か、仮面ライダーディケイドの【ブレイドの世界】に出てくる社長よね?」

 

「当たり。あれの中央部を緑にしたのが香織に渡したジョーカードライバーだ。能力は特に変わらんがね」

 

「じゃあ、香織のあの変身って?」

 

「僕が斃したエヒトの使徒リューン。本人曰く出来損ないで、完成品より能力が低いみたいだな」

 

「そうなんだ」

 

「仮面ライダーカリスも、マンティスアンデッドの真の名前がカリスだったからみたいだし、仮面ライダーリューンもソコからだ」

 

「ああ、そういえばそんな設定よね確か。イーグルアンデッドとライバル関係みたいだったっけ?」

 

「らしいね」

 

 サソードとどっこいどっこいがリューン、完全なるエヒトの使徒は全能力値が12000らしい訳だし、斃せない程じゃないレベルなのは助かる。

 

 馬車に揺られて数時間、漸くでというべきだろうか一行は、【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着。

 

 樹海の外から見る限り、単なる鬱蒼とした森にしか見えないが、一度中に入ると直ぐにも霧に覆われてしまうらしい。

 

「それではユート殿、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆さんを中心にして進みますけど、万が一はぐれると厄介ですからな。それと行き先は、森の深部の大樹の下で本当に宜しいのですな?」

 

「まぁな。聞いた限りで、そこが真の迷宮と関係してそうだからね」

 

 カムから樹海での注意と行き先の確認をされた。

 

 大樹というのは【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大なる一本樹木の事で、亜人達には【大樹ウーア・アルト】と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づく者は居ないのだとか、ユーキ経由で聞いた話だ。

 

「さて、と……」

 

 ユートは識っている。

 

(どうせ今回は入れない。必要なのは【四つの証】、【再生の力】、【紡がれた絆】だったな)

 

 【四つの証】はオルクス大迷宮で手に入れた指輪、オスカー・オルクスの紋章付きのこれだろう。

 

 恐らく最低限、四ヶ所を廻って【オルクスの指輪】と同じ物を持ってこいと、そういう話なのだ。

 

(【再生の力】も神代魔法にあった【再生魔法】の事だろうし、メイル・メルジーネの迷宮に行かないと)

 

 海人族と吸血族のハーフであり、再生魔法の使い手だったメイル・メルジーネの迷宮は、当然ながら海に存在している。

 

 

 ユート達はカム達を先頭に樹海内を歩む事に。

 

 【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮と思われているのだが、樹海の魔物共は奈落の底の魔物と同レベルが彷徨う魔境という事になってしまい、とても亜人達が住める場所ではなくなるであろう。

 

 それ故にユートは樹海の奥に、【オルクス大迷宮】みたいな真の迷宮の入口が何処かに有ると踏んだ。

 

 カムから聞いた【大樹】は正しく、怪しさ大爆発と云える場所である。

 

「それとユート殿、出来る限り気配は消して貰えますかな。大樹は神聖な場所とされております、余り近付く者などは居りませんが、特別禁止されている訳でも無いので、【フェアベルゲン】や他の集落の者達とも遭遇してしまうかもしれません。我々は……その……お尋ね者なので見付かると厄介なのです」

 

「ああ……僕もユエ達も、ある程度の隠密行動は出来るから大丈夫だよ」

 

 ユエも香織も雫も、奈落で培った方法で気配を薄くしていき、ユートはいつも通りに気配を辺りに混ぜるという手法。

 

「ッ!? これは、また……ユート殿、出来たらユエ殿と同じくらいにして貰えますかな?」

 

「ん? やり過ぎたか?」

 

「はい、結構です。話には聞いていましたが、あんなレベルで気配を辺りに混ぜられてしまっては、我々でも見失いかねませんな〜。全く流石ですなぁ!」

 

 兎人族は全体的に身体のスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。

 

 それは地上に居ながら、奈落で鍛えていたユエと同レベル、そう考えれば彼らの優秀さが分かる筈だ。

 

 正に達人級といえるが、ユートのソレは有り得ないレベルで上を行く。

 

 そもそも気配とは万物が持つ為、動かぬ樹や岩でも実は喧しいレベルで気配を感知が出来てしまうもの。

 

 気配を消す【氣殺】は、確かに当人が持つ気配を辺りから消すが、その代わりに気配の空白地が出来る。

 達人の中で更なる上級者となれば、そんな空白地を違和感として感じる事すら出来てしまう為、下手に消しても居場所を知られてしまう可能性があった。

 

 ユートのは気配を辺りの気配に同化させている為、そんな空白地という違和感が顕れたりしない。

 

 その上で【氣殺】自体は出来ているから、本気になれば目の前に居ながらにして姿を消してしまうに等しいレベルで感知不能に。

 

 カムは修業で感知力をも以前より凌いだ自信があったけど、人間族でありながら自分達の唯一の強みすら凌駕されて苦笑いとなる。

 

 ユエはユートの優秀さに我が事の如く自慢気に無い胸を張り、香織と雫は未だに追い付いてすらいない事が信じられず、シアは複雑そうな表情となっていた。

 

 ユートはいずれ旅立つと知っており、シアとしては一緒に行きたい考えだ。

 

 元々がハウリア族からは距離を取る気だったけど、一人旅はカム達が付いて来そうだったし、ユートから交換条件で奴隷にされたのはある意味で助かる。

 

 だけどユートの実力は、仮面ライダーとか何だとか無関係に高く、足手纏いになって捨てられないかとか考えてしまうのだ。

 

 女としてはハウリア族であるシアも自信アリだが、ユエは見た目に幼い顔立ちながら妖艶で、知識だけは嘗て王族だっただけあってか豊富、後は知識を実践で使って擦り合わせていき、ユートの性欲を満足させている感じだった。

 

 香織はほんわかな美少女であり、端からは守りたくなる女の子という感じで、女子力も可成り高い。

 

 そして雫だ。

 

 ユエを抱くのがユートは好きだが、雫は構うのが好きだと謂わんばかり。

 

 普段からイチャイチャとしているのはユエより雫、おっぱいを触るとかではないから、性欲を鎮めたいという話では無さそうで。

 

 胸なら三人よりシアの方が大きいし、雫より上手く挟んで上げられ……ではなくて、色々と出来てしまうのだが雫には敵わない。

 

 胸の大きさ云々でなく、違うナニかに敗北中だ。

 

「それでは、そろそろ行きましょうか」

 

 カムの一言と共に準備を終えた一行は、ハウリア族を先頭にして樹海へと踏み込んだ。

 

 道ならぬ道を突き進む。

 

 直ぐに濃い霧が発生して視界を塞いでくるものの、やっぱりというかユートは路を見失わなかった。

 

 カムの足取りにも迷いは全く無く、現在位置も方角も完全に把握している。

 

 どんな理屈か、亜人族は亜人であるというだけで、樹海の中で正確に現在地も方角も把握出来る様だ。

 

 ユートは亜人族ではないのだが、この濃霧に惑わされてはいなかった。

 

 まぁ、折角の見せ場だから水を差すまいと黙って、カム達の案内を受ける。

 

 順調に進んでいたけど、カム達が立ち止まって周囲を警戒し始めた。

 

 ユートもユエ達も感じている魔物の気配。

 

 どうも複数匹の魔物に囲まれているようで、ユートが樹海に入る前に量産型の戦極ドライバーとは別に、ハウリア族に与えた武器類を構えた。

 

 本来の彼らはその優秀な隠密能力で逃走を図るのだろうが、既に一流な戦士に成長をしたハウリア族達は普通に戦えるのだ。

 

 あの帝国兵を斃した様に魔物とだって。

 

 事実、量産型戦極ドライバーで黒影トルーパーへと変身し、シアとミナの二人がザビーとドレイクに変身した上で全員掛かりだったとはいえ、ヒュドラすらも討ち果たしたハウリア族。

 

 実戦証明は既に終えた。

 

 各々が短剣だったり分銅だったり鎖鎌だったりと、違う武器を手に持ちながら近付く魔物を待つ。

 

「「「キィイイッ!」」」

 

 叫び声が聞こえた。

 

 霧を掻き分け、腕を四本も生やした体長六〇cm程の猿が三匹、ハウリア族へ襲い掛かってくる。

 

「猿……四つ手猿とでも呼ぼうかな」

 

 ダイヘドアとか正式名称が判るなら兎も角、見た目だけで判断しないといけない魔物を仮称する。

 

 コイツらは四本の腕を持つ猿だから四つ手猿だ。

 

 まぁ、正式名称とか云っても此方が勝手に付けている名前だけど。

 

「アイゼン!」

 

 本物みたいな返答は無いのだが、シアの意志を受けたアイゼンⅡが形状変換。

 

 轟天がギガントならば、今回の突撃モードはラケーテンフォルム。

 

 ラケーテンとはドイツ語でロケット、名前の通りにロケット噴射みたいなものがハンマーの後ろから噴出して威力や速度が上がる。

 

「ねぇ、突っ込もう突っ込もうって思っていたんだけどさ……」

 

「雫は寧ろ突っ込まれる方だろうに」

 

「そっちじゃないわよ! シアさんのアレ、グラーフアイゼンじゃないの?」

 

「グラーフアイゼンって、リリカルなのはのだよね」

 

「ええ。形もそうだけど、明らかにグラーフアイゼンの変換でしょ、あれは」

 

 雫も香織も【魔法少女リリカルなのは】は御存知だったらしく、シアに渡したアイゼンⅡの元ネタは理解しているらしい。

 

「グラーフアイゼンなぁ、ヴィータに頼んでコピらせて貰ったんだ。改造するって約束で。序でにシグナムとシャマルにもレヴァンティンとクラールヴィントをコピらせて貰ったしな」

 

「「……」」

 

 二人はツッコミ切れなくなってしまった。

 

「おっしゃ、どりゃぁぁあああですぅ!」

 

 ラケーテンフォルムと同じく先端が尖り、敵を粉砕するべくシアがクルクルと回転しながら突撃。

 

「グギャッ!」

 

 四つ手猿の一匹の頭を、これにより粉砕した。

 

 

 二匹は二手に分かれて、一匹はカムへ、もう一匹は見事なまでにミナへ四本の腕の鋭い爪を振るおうと向かっていく

 

 カムは手にした短剣を揮って、四つ手猿の頸にある頸動脈を切り裂いた。

 

「ギャバッ!?」

 

 敢えなく墜落する。

 

 ミナは……

 

 ドパン!

 

 普通にリボルバーによるヘッドショット、脳漿と血を垂れ流して死ぬ猿。

 

 最早、ハウリア族は弱者では決して無かった。

 

 ユート達が手出しせずとも魔物を屠るとか、武器の力だけではあり得ない。

 

 その後も魔物には襲われたが、ハウリア族が簡単に片付けていく。

 

 樹海の魔物はそれなりに厄介な筈だが、ハウリア族にとっては狩られる獲物と大差がないのだ。

 

 樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれる。

 

 歩みを止めるユート一行だが、これは人数も殺気も連携の練度も今までの魔物とは比べ物にならない程、ウサミミを動かし忙しなく索敵するカム達。

 

「どうやら今度は魔物じゃなさそうだな」

 

「その様ですな」

 

 掴んだ相手が何者かは、ユートもカム達も理解しているし、作戦通りに往く事を表情だけで頷き合う。

 

 そしてやって来るは……

 

「お前達、どうして人間と居る!? 種族と族名を名乗れ!」

 

 虎模様の耳と尻尾を持つ筋骨隆々の亜人、厳つい顔の虎人族であったという。

 

 虎人族と思しき人物は、カム達に対して裏切り者を見るかの如く眼を向けた。

 

 両刃の剣が抜身の状態で握られており、その周囲に数十人もの亜人達が殺気を滾らせつつ包囲網を敷いているらしい。

 

「あ、あの私達は……」

 

 カムが弱々しく額に冷汗を流しながら、弁明をしようとするがその前に虎人族の男の視線がシアを捉え、大きく目を見開く。

 

「青掛かった白髪の兎人族だと? 貴様らは……報告のあったハウリア族か! 我ら亜人族の面汚し共め! 長年に亘り同胞を騙し続けて忌み子を匿うだけでは厭き足らず、今度は人間族をも招き入れるとはな! 最早これは反逆罪だっ! 弁明など聞く必要も無く、全員この場で処刑する! 総員、かかっ!?」

 

 ドパンッ!

 

「ギャァァァッ!?」

 

「な、何だ?」

 

 リーダーらしき虎人族の男が、問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ユートの意を受けたミナが引き金を引いた。

 

 余りに理解不能な攻撃に凍り付き、声が上がってきた方を虎人族の男が振り返った瞬間、ドパン! 再び音が響いて今度は本人の頬に擦傷が出来る。

 

「っ!? な、何だ?」

 

 人間みたく耳が横に付いていたら、確実に弾け飛んでいただろう箇所だ。

 

 聞いた事の無い炸裂音、虎人族を以てしても反応を許さない超速の攻撃。

 

 この場の敵対亜人族の誰もが硬直をしていた。

 

「どうした? 全員を処刑するとか言っておきながら何を戸惑う?」

 

「な、あ……」

 

「周囲を囲んでいる奴らも全てを把握しているから、お前らは既に詰んでいる」

「なっ……莫迦な……!」

 

 亜人族は唯一の例外を除いて魔法行使が出来ない、魔力を持たない多種族連合みたいなものだ。

 

 兎人族、虎人族、熊人族といった獣の特徴を備えている、古くは【獣人族】と呼ばれていた連中に加え、森人族や土人族という一部を除き獣の特徴は持たないが人間族と異なる種族を加えて構成されていた。

 

 三〇〇年前に亡びたとされる吸血種、数百年前に消えた竜人族も広義で亜人族と呼べるだろう。

 

 虎人族の男は見た事も無い強烈な攻撃、しかも明らかに此方が潜む位置を割り出した事に警戒を強める。

 

 どうやらハウリア族の娘が味方の場所を把握して、不思議な道具で攻撃をして来たらしいのは理解しているものの、だからといってどうこう出来る訳も無い。

 

「飽く迄もハウリアを処刑するならば容赦はしない。お前ら亜人族が問題にしてる忌み子、シア・ハウリアは僕のモノでね。その家族の命は僕が保障している。だから……殺る心算ならば覚悟を決めろ!」

 

 凄まじいまでの威圧感、ソコに【念】と殺意を混ぜて亜人族へと叩き込む。

 

 濃厚に過ぎる威圧感を、真正面から叩き付けられた虎人族の男は、ダラダラと冷や汗を大量に流しつつ、ともすれば恐慌に陥りそうな心を叱咤している。

 

 まるで意味も無く喚いてしまいそうな、そんな自分を必死に押さえ込んだ。

 

(じょ、冗談じゃないぞ! こんな奴が人間だというのかよ! まるっきり化物じゃないか!)

 

 歴戦という意味でなら、この虎人族など及びも付かない敵と闘い続けており、この程度の威圧感は例えば冥王ハーデスなら万分の一にも満たない。

 

「この場を引くというのなら追わない。敵対をしないならわざわざ殺す必要性も無いんでね。さぁ、選べ。僕らに敵対をして無意味に全滅するか、それとも大人しく巣に帰るのか……」

 

 ユートが軽くジェスチャーをすると……

 

「はっ!?」

 

 いつの間にか目の前に居た筈のカムが、自身の背後に居るのに気が付いた。

 

「ま、まさか……」

 

「他のハウリア族も、お前の部下の背後に回っているんだ。つまりはいつでも殺れるからな、ほら……路を選ばせてやるぞ」

 

 隠密性なら確かに兎人族の右に出る種族は無いが、目の前に居ながら僅かな虚を付く事すらせず背後に回られた事実。

 

 彼は【フェアベルゲン】の第二警備隊隊長である。

 

 【フェアベルゲン】と、周辺の集落間に於ける警備が主な仕事。

 

 魔物や侵入者から同胞を守護するというこの仕事、彼は……彼らは強い誇りと確かな覚悟を持っている。

 

 故に、例え部下共々全滅させられると理解しても、安易に引く事が出来る筈もなかった。

 

「……選ぶ前に一つだけ聞きたい」

 

「何だ?」

 

 虎人族の男は掠れそうになる声に必死で力を込め、ユートに対してたった一つの質問をする

 

「いったい何が目的だ?」

 

 この答え次第では全滅をしてでも止める、不退転の決意をしながらの質問に、ユートは瞑目をしながらも口を開く。

 

「大樹ウーア・アルトだ」

 

 即ち、ハルツィナ大迷宮の入口と目される場所。

 

 

.




 ミナ・ハウリア。

 原典では空裂のミナステリアと名乗る少女であり、園部優花の事をハジメを巡る愛人友達認定している。

 この世界では厨二化していない為に、普通の少女として描かれています。

 オリキャラではありません。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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