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「ウーア・アルトだと? あんな場所にいったい何の用事がある?」
【フェアベルゲン】にとって大樹ウーア・アルトというのは、国家成立以前から存在して神聖視こそされているが、特に何があるでもないから観光資源にすらならないものだ。
「ハルツィナ大迷宮に挑みたくてね、樹海の深部たる大樹ウーア・アルトにまで行きたいのさ」
正直、亜人を奴隷にする為だとか自分達を害するのが目的かと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない【大樹】が目的だとか。
虎の亜人族は疎か全ての亜人族にとり【大樹】は、云ってみれば樹海の名所の様な場所に過ぎない。
そんな場所に行きたいと言う、それは物好きな範疇でしかなかった。
ユートの言葉は亜人族からしたらおかしなもの。
「な、何? おかしな事を言うな。大迷宮とは此処、ハルツィナ樹海そのものを指している。一度入れば、我ら亜人族以外は決して抜けられぬ天然の迷宮だぞ」
「そんな訳が無いだろう」
「な、何だと!?」
妙に自信満々に言われ、虎人族の男は訝し気に問いを返した。
「此処を大迷宮というには魔物が弱過ぎる」
「な、弱いだと?」
「大迷宮の魔物ってのは、簡単そうな兎が一匹であれ化物揃い。少なくとも僕が降りた【オルクス大迷宮】の奈落はそうだったんだ。そもそも……」
「そもそも何だ?」
「七大迷宮っていうのは、七人の【解放者】達が残した試練だ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろう? 幾ら通常は魔法が扱えないとはいえ、亜人族なら誰でも深部に行けたら試練になってないだろうに。だから樹海自体が大迷宮ってのはおかしな話なんだよな」
「むう……」
虎人族の男はユートからの情報に、困惑をしてしまうのを隠せなかった。
言っている意味が理解の範疇外だったから。
樹海の魔物はそれなりに厄介で虎人族もそうだし、最強種たる熊人族だったとしても数が来れば面倒な、それを弱いのだと断じる事もそうだったが、そもそも【オルクス大迷宮】の奈落というのも、【解放者】とやらも迷宮の試練だとかも聞き覚えの無い話ばかり。
普通なら『戯言を!』と切って捨てていたに違いないが、この場にてユートが適当な戯れ言で誤魔化してくる意味はない。
ユートは現在、虎人族達に圧倒的優位に立っている訳であり、誤魔化しなんて微塵も必要無いのだから。
若し本当にユートが亜人や【フェアベルゲン】には興味が無く、大樹ウーア・アルト目的だというなら、部下を無意味に死なせてしまうよりは、さっさと目的を果たさせて立ち去って貰った方が幾分か良い。
そう判断した虎人族の男だったけど、ユートが余りにも脅威故に自分の一存で野放しにする訳にもいかないから、この件は自分の手に余ると理解をした。
「お、お前が国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行く程度であれば構わないと判断をする。部下の命を無駄に散らす訳にもいかんのでな」
周囲の亜人達が動揺する気配が広がる。
このハルツィナ樹海で、侵入して来た人間族を見逃すのが異例だったからだ。
「とはいえ、一警備隊長の私如きが独断で下していい判断ではない、本国に指示を仰ごうと思う。お前の話も長老方なら知っている方が居られるやも知れぬし、本当にお前に含む処が無いのなら、この伝令を見逃し私達と待機して貰う」
中々に強い意志を瞳に宿して、ユートを睨み付けてくる虎人族の男の言葉に、少しばかり考えてみた。
彼からすればギリギリの譲歩なのだろう、元来ならハルツィナ樹海に侵入した他種族は問答無用で処刑されると聞いている。
彼も本当は処断したくて仕方ないが、そんな莫迦な事をしようとすれば間違いなく部下の命を失うだろうと理解していた。
それも最弱と蔑まれた、ハウリア族によって。
危険極まりないユート、そして何故だか凄まじい強さなハウリア族を、決して野放しには出来ないが故のギリギリな提案。
「判った。アンタの冷静な判断を尊重しよう。そちらから仕掛けて来ない限りは僕や雫達は勿論、ハウリア族にも手出しをさせない」
「……感謝する」
「その代わり先程の言葉、曲解せずに伝えてくれ」
「勿論だとも。ザムよ! 聞こえていたな? 長老方に余さず御伝えしろ!」
「了解!」
部下Z(スレイヤーズ風)を伝達に遣いを出した虎人族の男、それに頷く部下Zは素早く【フェアベルゲン】へと戻る。
ユートは警戒は解かないものの、身体を弛緩させて伸びをしながらユエや雫や香織とイチャイチャし始めており、シアが何だか羨ましそうに視ていた。
今なら! 部下らしきが動かんとした瞬間、背後から尖った何かが当たる。
ゾクリと冷や水を背中からぶっ掛けられた気分に、虎人族の部下Aはゴクリと固唾を呑んだ。
「下手に動かない方が身の為だよ? 先程の約束は、そちらが攻撃を仕掛けてきたら反故にしたと見做し、ハウリア族に君らの殲滅をさせるからな?」
「りょ、了解している」
笑顔は脅迫である。
ユートの笑顔だったが、その目は笑っていない。
本気で殺る心算だろう。
カムを見れば間違いなく本人なのに、まるで別人を見ている気分だった。
題するならば『戦士』、単なる御人好しなオヤジに過ぎないハウリアの族長、それが一端の戦士の顔となってこの場に居る。
他は見えないがやはり、同じく戦士の顔で自分達を追い詰めているのだろう、シア・ハウリアなる忌み子の為に人間族を頼った。
その結果がこれとは……
どうやら、ハウリア族を追い込み過ぎたらしい。
当のユートは女の子らと遊んでいるが、隙らしきは全く見付けられず驚愕する他になかった。
当のユートは女の子らと遊んでいるけどな!
「来たな。森人族が居る、【フェアベルゲン】の長老格の一人か?」
「わ、判るの?」
「判るよ、雫。風の精霊が教えてくれたからね」
「せ、精霊って……」
虎人族の警羅隊には再び緊張が走る。
霧の奥から数人の新たな亜人達が現れたのだけど、中央に居る初老ながら美しい男が特に目を引いた。
ストレートで長い金髪、知性を備える碧眼。
細身で吹けば飛んで行きそうな雰囲気を感じるが、威厳に満ち満ちている容貌には皺が刻まれてはいるものの、それがアクセントとなってより美しく魅せた。
人間族に近いながらも、その横に長い耳から森人族だと推測が出来る。
「初めましてだ、森人族の長老さん?」
「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? お前さんの名は何という?」
「緒方優斗。貴方は?」
「私の名はアルフレリック・ハイピスト。この樹海の国【フェアベルゲン】に於いて長老の座を一つ預からせて貰っている。お前さんの要求は遣いの者から聞いているが、その前に聞かせて貰いたい。『解放者』という言葉は何処で知ったのであろうか?」
「オルクス大迷宮の奈落、その最下層に解放者の一人……オスカー・オルクスの隠れ家が有ってね。其処でオスカー自身の記録映像に語られたよ、延々とね」
オスカー・オルクスは、決して悪人ではないのだろうし、寧ろ善人なのは理解も出来るのだけど話が諄くて余りにも長いのだ。
割と顔は良いが下手すれば『陰険眼鏡』と呼ばれそうなオスカー・オルクス、だけど彼は真摯な表情にて全てを話してくれた。
勿論、彼が所属していた組織――【解放者】についての話も。
元々はエヒトから神託を降される巫女、ユーキからの原典知識から【聖光教会】総本山の大司教に名を連ねるリエーブル家の人間、ベルタ・リエーブルこそがリーダーだったらしいが、オスカー・オルクスがこの【解放者】に身を委ねた際のリーダーは、ミレディ・ライセンだった様だ。
固有魔法……【運命視】という、人の未来の可能性を視る魔法を扱えたとか、シアの固有魔法に割と近いモノであろう。
それとは違う神代魔法、オスカー・オルクスは彼女の力を詳しく説明してくれなかったが、ユーキからはちゃんと聞いていた。
【重力魔法】と端的には云われるが、その本質とは惑星のエネルギーを自在に操る魔法らしい。
重力操作はその一端でしかなく、ミレディ・ライセンは重力としてしか発現をしていなかったのか、単純に重力以外に適性が無かったのか?
或いは使えていたけど、伝えていないのか?
閑話休題
「ふ〜む、奈落の底のう。聞いた事がないのだがな、それを証明は出来るか?」
ユートがアルフレリックの眼を見遣ると、嘘吐きの色を宿しているのが判る。
或いは亜人族の上層部に情報を外へと漏らしている裏切者が存在する可能性を考えて、敢えて知らぬ存ぜぬでユートに訊いているのかも知れない。
「証明になるかは知らん、この魔石とオスカーが着けていた指輪ならどうだ?」
【宝物庫】と呼ばれているアーティファクトから、地上の魔物では有り得ない質を誇る魔石を幾つか取り出し、ユートがアルフレリックへと渡した。
「ムウ、これは……こんな純度の魔石、この樹海でも見た事が無いぞ……」
驚くアルフレリックと、驚愕の声を上げる隣に居る虎の亜人、恐らく彼が長老の一角なのであろう。
オルクスの指輪も見て、アルフレリックは刻まれた紋章を見て目を見開くと、どうにか気を落ち付かせる様に吸った息を吐いた。
「成程、確かにお前さんはオスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いたようだな。良かろう、取り敢えずだが我らが【フェアベルゲン】に来るが良い。私の名前で滞在を許そうではないか。勿論、ハウリアも一緒に」
その言葉に周囲の亜人族だけではなく、ハウリア族も驚愕の表情を浮かべる。
「ま、待て! 何を言ってるアルフレリック!」
「そうですよ、長老様!」
虎の亜人を筆頭にして、抗議の声が猛烈に上がった訳だが、未だ嘗て【フェアベルゲン】に人間族が招かれた事は無かったのだし、このアルフレリックに対する批判はまぁ、当然の事なのではあるのだろう。
「彼等は客人として扱わねばならぬ。その資格を有しているのでな。それが長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだよ。それをお前も知らぬ訳ではあるまいに?」
アルフレリックが周囲の亜人達を厳しく宥めるが、抗議の声はユートの方からも上がった。
「警備隊の隊長らしき奴にも言ったが、そもそも僕は大樹ウーア・アルトに用があって、【フェアベルゲン】には興味が無いんだよ。問題が無いって言うなら、僕らはこの侭、ウーア・アルトに向かいたいんだが」
「確かに今なら大樹に行ける時期だがな、残念ながら一日ばかり早いのだよ」
「ん? 時期……周期か何かでもあるのか?」
「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、我ら亜人族だとて方角を見失う。一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは早くて明日だ。これは【フェアベルゲン】の亜人族なら誰でも知っている筈だがな」
「あ!」
カムがアルフレリックから視られ、思い出したかの様に声を上げる。
「周期を忘れていたな?」
「も、申し訳ありません」
「まぁ、構わないけどな」
「……え?」
アッサリと許され戸惑いの表情を浮かべるカム。
「どうせ行ってもハルツィナ大迷宮には入れん」
「ほう、面白い事を言う。その根拠を聞いても?」
アルフレリックが目を細めながら問う。
「ハルツィナ大迷宮へと入る為には、【四つの証】と【再生の力】と【紡がれた絆の道標】ってのが必要なんだとさ」
「四つの証?」
雫が首を傾げる。
「オルクスの指輪に刻まれた紋章、多分だがライセンやハルツィナやバーンとか他の大迷宮にも有る筈だ」
「それを七つ中四つも見付けて来いと?」
「最低限で過半数だとさ」
驚く雫に戯けるユート、だけど必須な理由は想像も付いていた。
「……再生の力、私?」
「違うな。数千年は前らしいからユエが生まれた時代よりずっと前で、ユエ前提は有り得ないだろうに」
「……ん、確かに」
納得したユエ。
「それじゃ、再生の力って何なのかな?」
それならば……と香織が疑問に思う。
「【再生魔法】。神代魔法でメイル・メルジーネという海人族と吸血族のハーフだった女性が使っていた。恐らくこれを手に入れろという意味だろうね」
「……再生魔法」
「再生魔法にメルジーネの紋章でもアリだろうから、最低限で四ヶ所を廻れば済むんだが、再生魔法を外したら最大で六ヶ所も廻らないといけなかった訳だよ」
「うわぁ……」
冷や汗タラリな雫。
「大変そうだよね」
香織も苦笑いである。
「それじゃ、紡がれし絆の道標は亜人族の案内を意味しているのですかね?」
「そうだろうな」
「ですぅ!」
シアがちょっと嬉しそうにしているが、彼女は身分的に奴隷なのは気にしていないのだろうか?
「然し思うんだが、それを当の案内される場所で明かしてどうするんだろうな。それならもっと前に警告をすべきだろうよ」
「ああ!」
そういう警告はせめて、樹海の入口でするべきである筈で、案内された後に実はこれが必要ですだとか、間抜けにも程がある事案であろう。
「【四つの証】と【再生の力】を携えて、亜人族との【紡がれた絆の道標】を以て訪れよって事なんだろ。いずれにせよ、【紡がれた絆の道標】以外は集まっていないから、ハルツィナ大迷宮には入れないよ」
「あれ? それなら此処にはどうして来たですぅ?」
「面倒事を早目に片付けときたかった」
「面倒事ですか?」
(亜人族との話し合いは、どうしても必須事項だよ。まぁ、単純なウーア・アルトへの案内役はハウリア族に任せるんだが……な)
つまり、仮に【フェアベルゲン】と行う話し合いが上手くいかずとも、問題にはならないのである。
況してや、ユートは案内が無くても迷いはしない。
その確認が出来たのも、ちょっとした旨味だろう。
「そんな情報を何処で仕入れたのやら?」
ハウリア族ではないと、アルフレリックも考える。
シアの態度から彼女が知らないのは見ても判るし、ハウリア族は長老の一角には名を連ねていない。
森人族に虎人族に熊人族に土人族に翼人族、大まかにはこの種族が長老に名を連ねるからだ。
「情報源は明かしても意味が無い。敢えて言うなら、【ありふれた職業で世界最強】だな。香織と雫ならばこの意味が解るよな?」
目を見開く二人は青褪めた表情となり、口をパクパクと開閉させている。
「う、そ……でしょ?」
「まさか、私達の世界は……そういう事なの?」
それは絶望に近い。
当然ながらそんなオタク知識が無い連中は、ユエやシアを含めて意味不明だと首を傾げていた。
「寝物語に教えてやるよ」
そんな囁きにも余り反応を出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
濃霧の中を虎の亜人――ギルの先導で進んでいく。
アルフレリックを中心にし周囲を亜人達で固めて、ユート達やハウリア族を引き連れ、既に一時間程は歩いている筈だ。
虎人族は割と素早さがあるのか、ザムとやらの伝令は相当な駿足らしい。
暫く代わり映えのしない樹海を歩いていると、突如として霧が晴れた場所へと出てきた。
別に全ての霧が無くなった訳でなく、一本の真っ直ぐな道が出来ている状態、道の端に誘導灯の様に青い光を放っている拳大の結晶が地面に半分埋められて、それを境界線に霧の侵入を防いでいるみたいだ。
青い結晶を視ている事に気が付き、アルフレリックが解説をしてくれる。
「あれはフェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には何故か霧や魔物が寄り付かないのでな【フェアベルゲン】も近辺の集落も、この水晶にて囲んでいる。魔物の方は比較的にという程度だがな」
「ふ〜ん、四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろう。住んでる場所くらい霧は晴らしたいのは解るが……」
樹海の中であっても街の中は霧が無いらしいけど、ユートが注目したのはそれではない。
「フェアドレン水晶を少し貰えないか?」
「いや、渡せる筈も無かろうに……」
「ちょっとだけ、先っぽだけで良いからさ」
何故か香織と雫が頬を朱に染めたが、ユートは気にせず交渉? を続ける。
「この世界の金も少しはないと困るし、魔導具を造るにしても危ない物は売りたくない。魔物避けは悪くないと思うんだよ」
ユートが考えたのは魔物が寄り付かないという事、確かにそんな機能を持った魔導具なら、商人や冒険者などを中心に売れそうだ。
「じゃから、諦めよと言うておろうが!」
「僕が諦めるのを諦めろ」
「意味が解らんわ!」
アルフレリックが若干、キレ気味に怒鳴ってきた。
「NARUTO……」
「そして私達の世界も?」
やはりまだお悩み中だ。
「仕方がない。現物が有れば後からでもやれたけど、ケチな森人族だな」
「誰がケチか!」
文句など聞かないとばかりにジッと、フェアドレン水晶を視ているユートは、
所謂、拍手を一発。
力の循環……即ち円環と螺旋を示す動きを最小限に行い、ユートは力を持たぬ無為なる暗黒物質を原子に変換して固着させる。
「なっ!?」
ユートの掌の中に青い光を放つ結晶体、フェアドレン水晶が乗っている事に、アルフレリックが驚愕して目を見開き呻いた。
それは他の亜人達も同様であり、既に『その時、不思議な事が起こった』とかは慣れたのか、ユエ達からは特にリアクションは無かったらしい。
「よし、上手くいったな」
「そ、それは……?」
「勿論、フェアドレン水晶だけど?」
「ば、莫迦な……いったいどうやって?」
「僕が攻略した大迷宮は、オルクス大迷宮だと説明はしたろうに」
「だから何だと?」
「ああ、知らないよなぁ。オスカー・オルクスって、天職は錬成師だったんだ」
「え? 南雲君と同じ」
やはり香織が反応した。
「彼が使った神代魔法は、【生成魔法】というんだが……錬成師なら垂涎の的、正に錬成魔法の上位互換。創る事に掛けて最上な魔法だと云える」
「それを手にしたと?」
「大迷宮は解放者の試練、攻略の暁には神代魔法が手に入る仕組みだ」
「な、何と!?」
勿論、生成魔法とは創る事に特化した魔法なのは、間違いない事実ではあるのだが、アーティファクトを創る魔法である。
流石にユートの【創成】みたいな、暗黒物質の錬成までは出来やしない。
再び歩き出して暫く時間が経つと、ユート達の眼前に巨大な門が見えてきた。
極太な樹と樹が絡み合いアーチを作っており、其処には木製の一〇mはあるだろう、両開きの扉がデンと鎮座をしている。
樹で作られた防壁の高さは約三〇mはありそうで、亜人の【国】というに相応しいまでの威容を感じた。
ギルが門番らしき亜人に合図を送ると、重厚な音を立てて門が僅かに開く。
樹の上からは亜人達からの視線が降り注いだ。
これが長老アルフレリック自ら迎えに来た理由で、下手をすれば絶対に一悶着があったに違いない。
【フェアベルゲン】……それは自然との融合とでも云おうか、随分と美しいと形容が出来る街並み。
「ふふ、どうやら我ら誇る故郷、【フェアベルゲン】を気に入ってくれたようで私も嬉しいよ」
表情が嬉しげに緩んで、囲の亜人達やハウリア族の者達も、こんな時ばかりはちょっと得意げとなる。
「中々に美しい街並みだ、空気も美味いし自然と調和した見事な街だよ」
「……ん、とても綺麗」
「凄いわね」
「うん、雫ちゃん」
ド直球な称賛を受けて、流石にそんなに褒められるとは思ってなかったのか、亜人達は驚きの表情となって此方を見つめる。
とはいえ、故郷を褒められたのが嬉しいかったか、そっぽを向いていながらもケモミミや尻尾を、ピクピクと動かしている様子だ。
様々な視線に晒されながらも、ユート達はアルフレリックからの案内で街中へ入ると先に進で行く。
それなりな広さを持った会議室みたいな場所にて、改めて自分達が得た情報を亜人へと伝えた。
「……成程。それが先に言っていた試練に神代魔法、それに狂った神による盤上のゲーム……か」
「どの道、この世界は亜人に優しくないから今更感が溢れるだろうね」
「そうだな」
この世界の神たるエヒトの真実を聞いたとしても、アルフレリックは全く顔色を変えたりしない。
そもそもが神から見放されたとされる亜人に取り、トータスという世界は決して優しいとは云えないし、『だからどうした』と対岸の火事にも等しかった。
「フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟がある。それはこの樹海の地に、七大迷宮を差し示す【紋章】を持つ者が現れたなら、それが仮令どの様な者であれ決して敵対したりしない事。そしてその者を気に入ったのであれば、望む場所に連れて行く事」
「それは【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者たる、リューティリス・ハルツィナが伝えたのか?」
「うむ。解放者の意味までは伝わっておらんのだが、仲間の名前と共に伝えたものなのだとされる」
「そりゃ、攻略者に手出しはさせたくないだろうな。大迷宮の攻略が出来るならそれは凄まじい実力者だ。要らん抵抗で亜人が殺られても困るだろうしね」
オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑が存在しており、その内の一つと同じだったからだとか。
「僕は有資格者な訳か」
この説明で人間を亜人族の本拠に招き入れた理由、それを充分に理解が出来たユートは、面倒が無いなら特に問題は無かった。
二人が話を詰めようとした時、階下がちょっとばかり騒がしくなる。
ユート達のいる場所とは最上階で、階下にはシア達ハウリア族が待機中の筈であったが、どうやら彼女達が争っているらしい。
アルフレリックはユートと顔を見合わせて、それと同時に立ち上がって階下へと下りていく。
熊の亜人や虎の亜人に、狐の亜人、背中に翼を持つ亜人、小さく毛むくじゃらの土人族などが剣呑な眼差しをハウリア族に向けている処であった。
ユート達が下りてきたのに気付き、彼等は一斉に鋭い視線を送ってくる。
熊の亜人が強い声で発言をしてきた。
「アルフレリック。貴様、どういう心算で人間を招き入れた? こやつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなどとは……返答によっては長老会議で貴様に処分を下す事になるぞ!」
亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵、それを国内に入れたものだから熊人族の男は激昂しているのだ。
「口伝に従ったまででな、お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できる筈だがな?」
「何が口伝だっ! そんなもの眉唾物ではないか! 【フェアベルゲン】の建国以来、一度も実行された事など無いだろうが!」
「故に今回が最初になるのだろう、それだけの事でしかないのではないかな? お前達も長老なら口伝には従え、それが【フェアベルゲン】の掟なのだからな。我ら長老の座にある者が、掟を軽視してどうする」
「ならば、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言う心算なのか! 敵対してはならない強者だと!?」
「その通りだ」
【フェアベルゲン】では種族的に見て能力の高い、幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。
兎人族に長老枠が無いのは弱いからだ。
裁判的な判断も長老衆が行う訳で、の場に集まっている亜人達が当代の長老達らしいのは理解出来る。
口伝に対する認識には、少し差がありそうだが……
アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種で二百年くらいが平均寿命の筈。
流石はエヒトルジュエが造った出来損ないとはいえエルフ、寿命は他の種族の単純に二倍である。
他の長老とアルフレリックでは大分年齢が異なって、価値観にもそれなりに差があるのかもしれない。
だから、アルフレリック以外の長老衆はこの国内に人間族、果ては罪人が居る事に我慢がならない様だ。
「それならば今、この場で試してやろう!」
激昂をした熊人族の大男は行き成り拳を振り上げ、ユートに対して重たい拳で殴り掛かってくる。
その時、不思議な事が起こった!
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本当はジンとの直接的な対話? までやり切りたかったんだけど……
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる