ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 ライセン大迷宮までもう少しかな?





第26話:オラオラの次は無駄無駄をしてみた

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 周りから見て間違いなく『不思議な事が起こった』と云える現象、三百年を生きる――実質的に二十数年――ユエですら御目に掛かった事が無い現象である。

 

 熊の特徴を持つ熊人族、アルフレリックとの会話に遠慮が無い辺り、彼こそが熊人族から輩出された長老であると理解が出来た。

 

 粗野な見た目に反する事は無く、立派に野蛮人としか云えない短気さで森人族の長老アルフレリックへと喰って掛かる。

 

 そして凶行に走った。

 

 試すとか何とか言いながらも、試合とか模擬戦ではなく行き成り殴り掛かって来たのだ。

 

 端から視たら雫の脚くらいに太い腕で、筋骨隆々な身体はユートと見比べても覆い隠せるくらい横幅的な恰幅が良かった。

 

 肥満体では決して無く、筋肉故に重たいであろうと判る肉体をしている。

 

 そんな熊人族が無遠慮に手加減も無く殴った。

 

 殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った殴った!

 

 留まる事を知らぬ暴行、だけど絶句していた香織や雫らなら兎も角、狐人族や翼人族や土人族などはニヤニヤしながら視ている。

 

 【フェアベルゲン】では人間族も魔人族も等しく疎まれており、彼らからしたら熊人族の長老は正に正義を執行している認識……という事なのであろう。

 

「ゆ、優斗……」

 

「ゆう君!」

 

 二人は既にユートへ心を奪われており、個人差こそあるにせよ抱かれるのだって今は忌避感も無い。

 

 そんなユートが暴行を受けたとあらば、許せる筈も無かったであろう。

 

《STAND BY》

 

 サソードヤイバーが起動して、サソードゼクターもジョウントを通過し地面から顕れ、雫の手の中へ飛び込んで来ていた。

 

 香織もジョーカードライバーを腰へとセットして、ハートスートのカテゴリーA……【CHANGE】リューンのカードをカードホルダーから取り出している。

 

 一触即発の雰囲気を醸し出す仲、やはりムカついたのかシアもザビーゼクターを呼び出したらしく手の中に握っていたし、ライダーブレスも左手首に装着中。

 

 ミナは“あの時”の羞恥が勝る為に、ユートからの誘いを拒絶してしまってはいたが、それを揶揄せずに真っ直ぐ見てくれていたのは嬉しかった。

 

 シアを奴隷にしたと聞いた時にはやっぱり人間族、相容れる筈も無いと失望に近い感情を持つ。

 

 しかもそんなシアの前で口説いてくるし、どういう神経かと思っていたのに、その時の事を謝罪された上に皆とは違うドレイクグリップという物を渡された。

 

 最初は『奴隷苦』とか、奴隷になって苦しめと言われた気分だが、どうも勘違いだったらしい。

 

 ドレイクとはドラゴンフライ……蜻蛉を意味しているのだと言われる。

 

 蜻蛉というのは知らないのだが、ドレイクゼクターみたいな形をした昆虫であると聞いた。

 

 勿論、ドレイクゼクター程に大きくはなくて精々、指先に留めても苦にならない程度だとか。

 

 ミナの意志を感じたか、ドレイクゼクターが既に周りを飛んでいた。

 

 カム達も戦極ドライバーを準備万端に整える。

 

 そんな中……

 

「四八発」

 

 何処か愉しそうな弾んだ声で数字が読まれた。

 

 ゾクゥッ! 氣を操れる様になってから、雫達も少し気配には敏感になっていたのだが、背中に氷を大量にぶち込まれた様な悪寒、その感覚が背中を這い上がり奔るのを感じる。

 

 直に自分達へと向けられてたモノでもあるまいし、こんな濃密な悪寒……死の予感にまで昇華された感覚を感じるなんて、異常だとしか思えない事態である。

 

 識っている、雫も香織も単純な知識としてではあるのだが、これを……

 

 ユートが氣を教えてくれた時、そのやり方にまるで【狩人×狩人】の念法修得の修業みたいだった。

 

 氣とか言うから寧ろDBみたいなのを予想していたのに、意外と云えば意外な修業だったのを覚えてる。

 

 とはいえ、ユートは首を傾げながら……『基本的には同じだろ』と言う。

 

 氣を纏う【纏】。

 

 氣を消す【絶】。

 

 氣を増幅する【練】。

 

 かめはめ波などは放出系の【発】だと云えた。

 

 氣を感じるのも【円】と考えれば成程……と。

 

 やっている事は同じだ。

 

 DBみたいなダイナミックさは足りないが、対個人に重点を置くなら問題など無いのだろう。

 

 そして念法で識っている知識の一つ、念を使えない人間が念を叩き付けられた場合は、それだけで死亡してもおかしくないとか。

 

 事実、キルアなど念を覚える前に念を浴びていて、凄まじいまでの悪寒を感じているくらいだ。

 

 死を連想する程に。

 

 兎に角、今や念法を修得したに等しい筈の雫達からしてこの悪寒。

 

「一発には一発だ」

 

「ば、莫迦な……俺の拳を無抵抗に受けて無傷!?」

 

 氣を纏い【練】の侭にて維持をする応用技【堅】、念の籠らぬ拳など幾ら受けてもダメージは入らない。

 

「温いな」

 

「なにぃ!?」

 

「温い上に軽い拳だった。あれで亜人族最強種族か、ハウリア族にそんな温くて軽い地位は明け渡したら? お前、弱いわマジに」

 

「ふざっ」

 

 この瞬間だった。

 

 ――その時、不思議な事が起こった。

 

 そんなナレーションが聞こえた気がしたのは。

 

「四八発。威力やダメージは関係無い、一撃必倒の拳での四八発を受けた気分はどうだった?」

 

 いつの間にかユートが立っており、何故かDIO様みたいな香ばしいポーズを決めている。

 

「フッ、貧弱貧弱ゥ!」

 

 しかも鼻で嗤って正しくDIO様な科白を!?

 

 しかもしかも、いつの間にか金髪で女性みたいな?

 

 更に云えば熊人族の男は吹き飛び、血塗れとなって完全に意識が途絶えているみたいだった。

 

 尚、貧弱貧弱ぅ! とはディオの科白であり決してDIO様ではない。

 

 同一人物だが……

 

「本当に不思議な事が起こったんですけど!?」

 

 雫はサソードゼクターを手にした侭で絶叫する。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 熊人族の男……長老らしきが四八発のパンチを繰り出して来て、ユートは全てを無防備に受けた……様に端からは見えるであろう、だけど雫や香織とかの氣を修得した連中は気付いた筈だと、ユートは口角を吊り上げながら呟く。

 

「時は停止する」

 

 ゆっくりと立ち上がり、マスターテリオンモードにわざわざ移行、長い金髪に金瞳となって明らかに女性と見紛う容姿となった。

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYーーーッ!」

 

 愉悦を含む表情で叫び、ユートはその拳を握り締めて振るう。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄……!」

 

 無駄の一言に付き一発、先ずは四七発の拳。

 

「無駄ぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして抉り込むかの如くコークスクリューパンチ、コイツを左頬へと打ち込んでやった。

 

 四八発目の拳である。

 

「そして時は動き出す」

 

 静かなる世界。

 

 静寂なる世界。

 

 それが再び喧騒に満ち、ユートはバンッ! と香ばしいDIO様ポージング。

 

 走馬灯というモノが存在している。

 

 死に際して人は思考加速により、刹那の刻で永い夢みたいなものを視るとか。

 

 熊人族の長老はその域に確かに居た。

 

「あ……ありの侭、今起こった事を話すぜ!」

 

 独白というヤツだ。

 

「俺はあの人間族を殴っていたと思ったら、いつの間にか殴られていた」

 

 何が起きたのかは完全に理解の範疇外。

 

「な、何を言っているのか判らねーと思うが俺も何をされたのか判らなかった」

 

 単に理解を放棄した。

 

「頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……ぜ……」

 

 意識はソコでプツンと、途絶えてしまっていた。

 

「四八発。威力やダメージは関係無い、一撃必倒の拳での四八発を受けた気分はどうだった?」

 

 ユートは瞑目しながらも熊人族の長老に訊ねるが、当然ながら吹き飛ばされて意識が無くなっているから返答は無い。

 

「フッ、貧弱貧弱ゥ!」

 

 正しく貧弱な熊人族と、ユートは嘲るのだった。

 

「前回、天之河には条太郎のオラオラッシュでやったからな。今回はDIO張りの無駄無駄ラッシュだ」

 

 単純に科白回しが違う、それただけの事である。

 

「何でDIO様ごっこしてるのよ?」

 

「アハハ、判んないかな」

 

 兎に角、DIOな科白を言っているだけのごっこ、つまりは遊びでしかない。

 

 ユートが仮面ライダーに変身して言う、劇中の科白なんかも謂わばそれだ。

 

 例えば、仮面ライダーディケイドに成れば……

 

『僕は破壊者だ!』

 

『通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!』

 

 などとそれらしい科白を口にしてる訳で、早い話がDX○○ドライバーとかを子供が身に着けて、成り切りごっこ遊びをしているのと似ているだろう。

 

 それは即ち、遊びを入れられるくらい余裕が有るというのもそうだが、ちょっとした拘りなんか有るのかも知れない。

 

「っていうか、あれは誰? ってレベルで顔が変わってるわよ!?」

 

「アリカ・アナルキア・エンテオフュシアのコスプレだったり?」

 

「確かに似てるわね。二重な眉じゃないし瞳の色とかは違うけど……」

 

「金髪はDIO様的な?」

 

「それでわざわざ?」

 

 呆れてしまう二人。

 

 そして見事に付いていけないユエとシア。

 

「ジ、ジン……」

 

 土人族の長老が呟く。

 

 亜人族の誰もが絶句し、硬直をしていると……

 

「さて、貴様らは僕と敵対する意志は有るかな?」

 

 長老達へと殺気を迸らせながらジロリと視線を向けてやるものの、頷く亜人族は誰一人として居なかったらしい。

 

 アルフレリックの執り成しにより、ユートが亜人族の蹂躙をする悲劇は何とか回避されていた。

 

 ジンなる熊人族の長老は内臓がグシャリと破裂し、全身の骨が粉砕骨折するとか可成りの危険な状態ではあったのだが、一命だけは取り留める事に成功する。

 

 雫が蹴り兎にやられた時に近いが、より重体となったのがジンなる熊人族。

 

 【フェアベルゲン】でも高価な回復薬を湯水の如く使い、本当に生命を拾っただけ儲け物な状態であり、最早二度とは戦士としての戦働きは出来ないらしい。

 

 稍をして当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルアに、ジンの名前を呟た土人族のグゼ、そして初めから居た森人族のアルフレリック、熊人族のジンを除く五人がユート達と向き合って座っている。

 

 ユートの両隣には香織と雫が陣取り、ユエは何故かユートの膝の上に座って、その後ろにハウリア族全員が固まり座っていた。

 

 長老衆の表情は固くて、緊張感に満ちている。

 

 戦闘力では亜人族中でも一、二を争う程に強かったジンが、本気で殴り掛かっていたにも拘わらず回数を数えている余裕すら持ち、更には無傷で同じ回数での報復すらしていたユート、それは即ち【フェアベルゲン】に住まう亜人族の誰も敵わないという事。

 

「それで? 結局はどうしたいんだろうなアンタら、僕はちょっと大樹ウーア・アルトの下へ行きたいだけなんだが、別に邪魔さえしなければ敵対する事だって無かったんだがな」

 

 それはアルフレリックも聞いた通り。

 

「亜人族全体の意思ってのを統一してくれないとさ、場合によって何処まで殺って良いのか判らないしな。僕は殺し合いになってから老若男女を区別する程に、御人好しじゃ無いんでね。戦争をしたいなら構わないんだが、それだと老人だろうが女だろうが赤ん坊だろうが関係無い、そうなったら【フェアベルゲン】最期の日になるだけだしな」

 

 ゾッとする様な透明無垢の黒曜石の如く黒い瞳で、威圧する意味すら無いのだと散らばる凶悪濃密な気配を受け、長老衆は固唾をのんで乾いた口を何とか潤すしかない。

 

 その言葉の内容には殺意しか存在していなかった。

 

「こ、此方の仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか! それで友好的になれるとでも思うのか?」

 

 土人族の長老のグゼが、苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情で、怒りの侭で呻くみたいに呟く。

 

「あの熊が此方を殴っている時はヘラヘラと嗤って、逆襲されたらキレるだとか無いわ〜。餓鬼の喧嘩では見た事もあったけどな? 先に殴って来たのは熊で、僕は同じ回数で返り討ちにしただけ。再起不能になったのは貧弱だったからだし自業自得じゃないか」

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつでも国の事を思っていてっ!」

 

「つまり国の事を思っていれば、初対面の者を殺して良い理由になるんだな? 【フェアベルゲン】では」

 

「そ、それは……然し!」

 

「宜しい、ならば戦争だ! 僕も日本の事を思って、【フェアベルゲン】を滅ぼそうじゃないか!」

 

 この世界の日本では決してないが……

 

「……は?」

 

「【フェアベルゲン】流に則り、日本国首相から受けた許可の下にお前らを殲滅させる!」

 

「なっ!?」

 

 流石にアルフレリックも驚愕をしてしまうものの、このテロリストや何やらが多い世界で、ユートは掃除屋みたいな仕事をしていたりするけど、その時に得た許可みたいなものだ。

 

「【フェアベルゲン】よ、これは聖戦だ!」

 

「ちょっと! あっさりと戦争しようとしないで!」

 

「そうだよ!」

 

 雫と香織に両腕を取り押さえられてしまった。

 

「グゼ、気持ちは判るんだが……下手に刺激しないでくれ。お前も彼の力は見たろう? それに彼の言い分は全くの正論だよ」

 

 グゼはアルフレリックの言葉に、落ち着きを取り戻したのか座る。

 

「我々に戦う意志は無い。君も軽々しく戦争などとは言わないで欲しい」

 

「知らんよ。アンタら次第だからなそれは」

 

「やれやれ。確かに、この少年は【解放者】の紋章の一つを所持しているんだしその実力も、彼の大迷宮を突破したと言うだけの事はあるよね。僕は彼を口伝の資格者と認めるよ。あの力で本当に戦争をされたら、命が幾つ有っても足りやしないしね」

 

 狐人族の長老たるルア、糸目でユートを見つめると他の長老はどうするのか、残り四人の長老を見回す。

 

 その視線に翼人族のマオと虎人族のゼルも、思う処は可成りあるようだけど、已むを得ないとして同意を示した。

 

 土人族の長老グゼだけは意見を放棄、他の者の言葉に従うスタンスとなって、飽く迄も自分自身が同意をしないとする。

 

 アルフレリックが代表となりユートに言う。

 

「我ら【フェアベルゲン】の長老衆は、緒方優斗……お前さんを口伝の資格者として認めよう。それ故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ……可能な限りは末端の者にも手を出さない様に伝えもしよう……然しだ」

 

「絶対とは言えないか?」

 

「そうだ。知っての通り、亜人族は人間族を良く思っていないというより寧ろ、可成り憎んでいるとも言えるだろうな。血気が盛んな者達は長老会議での通達を無視をする可能性もある。特に今回、再起不能にされたジンの種族、熊人族からの怒りは抑え切れないであろうな。アイツは粗暴に見えて人望があったのでね」

 

「ふ〜ん、それで?」

 

 全く意に介さない様子のユート、アルフレリックの話に何ら痛痒を感じない。

 

 間違いなく攻撃を受ければ殺す……と、ユートの瞳から意志を強く感じる。

 

 アルフレリックはそんなユートの意志を理解して、それでも【フェアベルゲン】の長老格として同じく、ユートへ強い意志の宿った瞳を向けて言う。

 

「お前さん方を襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「殺意を向けてきた上に、攻撃までした相手に手加減しろとでも?」

 

「その通りだ。お前さんの実力なら可能であろう?」

 

「あの熊が一番の手練だと云うなら、確かに手加減は可能だろうね。そうする為の手段も有るっちゃ有る。だが、そんな事をしていたら間違いなく調子付くな。次から次に襲って来る可能性もあるだろう、いちいちそれで手加減なんぞをしていられるかよ、面倒臭い。気持ちは判らないでも無いんだがな、そっち側の事情は僕に関係のないものだ。死なせたくないってんなら死ぬ気で止めろ。曰く……撃っても良いのは撃たれる覚悟のある者だけだ」

 

 ユートにとって敵対者は殺すのが当たり前であり、死ななかったらラッキーと思うしかない。

 

 そもそも、殺し合いでは何が起こるか判らないし、手加減して此方が要らないダメージを喰らわないとは限らないのだ。

 

 御優しい誰かさんが甘さを見せ、結果として味方側が痛い目を見るなど莫迦らしいにも程がある。

 

 誰がそんな天之河光輝みたいな真似をするものか!

 

「待て!」

 

 虎人族の長老のゼルが、この話合いに口を挟む。

 

「それならば、我々は大樹の下への案内を拒否させて貰うぞ。口伝でも、気に入らない相手を案内する必要は無いとあるのだ!」

 

 交渉にもならない。

 

 そもそも案内はハウリアが行うし、初めからユートには霧の結界は効いていないのだから、実は案内人が必要無いのである。

 

「ハウリア族に案内して貰えるとは思わない事だな。そいつらはそもそも罪人。我々【フェアベルゲン】の掟に基づき裁きを与える」

 

 ユートは怪訝な表情となって虎人族の長老を見遣るものの、明らかに本気で言っている様子だった。

 

 曲解せず余す事無く伝えろと言われた筈なのだが、ゼルとかいう男はちゃんと伝えなかったらしい。

 

 自分達がハウリア族に、ボロ敗け同然だったと。

 

「何があって同道していたのか知らんが、ここで貴様らはお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った咎人。そいつらは【フェアベルゲン】を危険に晒したも同然なのだよ。既に長老会議で処刑をする処分が下っている!」

 

 何だかドヤ顔で言い放ったゼルに、ユートは瞑目をしながら一言……

 

「愚かな」

 

 ザムとあいう伝令役と、意味も自覚も無しに自分が【フェアベルゲン】を危機に晒していると、丸っきり思わない長老ゼルに対して呟いた。

 

「どういう意味だ!?」

 

 そんな叫びを無視して、ユートはハウリア族の方を向いて問う。

 

「ああ言ってるが、諸君は無為に死にたいか?」

 

「いいえ」

 

 カムは拒否。

 

「ならば戦争だ! カム率いるハウリア戦士の諸君、戦争を始めようか」

 

「了解です、ユート殿! ハウリアの家族達よ、我らは最早【フェアベルゲン】を故国とは思わぬ。此処は既に敵地と知れ!」

 

『『『『『『『応っ!』』』』』』』

 

 全員が立ち上がる。

 

 ギョッとなるのは処刑をすると断じたゼル、そしてアルフレリックも取り成す心算がこの有り様に驚愕に充ちた顔だ。

 

「ゆ、優斗殿?」

 

「生存権は生物の権利だ。それを侵すならば立ち向かうのは当然、これはお前ら【フェアベルゲン】と彼らハウリア族の生存権を懸けた戦争という訳さ」

 

「ば、莫迦な!?」

 

 余りにもぶっ飛んだ話に目を見開くが、ハウリア族は既に戦闘準備に入った。

 

「変身っ!」

 

『『『『『『『変身っ!』』』』』』』

 

 カム以下、四〇人が一斉に量産型戦極ドライバーのカッティングブレード操作により、備え付けられていたロックシードをカット。

 

《ICHIGEKI! IN THE SHADOW!》

 

 一律で電子音声が鳴り響くと、上空にクラックが開いてマツボックリアームズが降り、カム達の顔を覆う様に装着されると鎧化。

 

 黒影トルーパーに成る。

 

 シアとミナも既に手にしていたゼクターを装備。

 

「「変身!」」

 

《HENSHIN!》

 

《HENSHIN!》

 

 ザビー・マスクドフォームとドレイク・マスクドフォームに変身、シアは手にアイゼンⅡを持って構え、ミナは武器でもある変身銃を直に構えた。

 

 元よりこの可能性は伝えてあった為、ハウリア族は迅速に戦闘準備をしていたのである。

 

 黒影トルーパーは量産型であるが故に、スペックは大した事も無いのだけど、それでもこの世界に於けるステータス的に3000は越える為、仮に最強種たる熊人族でも確実に手に余る処か、寧ろあっさりと斃されてしまうだろう。

 

「アーティファクトか?」

 

 その姿を変えたハウリア族を見て、アルフレリックが見当違いを叫んだ。

 

 翼人族と狐人族の長老は迷惑そうにゼルを睨むが、ハウリア族を最弱と見下して処刑を決めたのは彼らとて同様、謂わば同罪だから文句など筋違い甚だしい。

 

 これが強化前な原典でのハウリア族なら、シアが泣きながら寛恕でも願うのであろうが、既に戦士として殺しも経験をした彼らは、戦う意志を以て武器をその手に取るであろう。

 

「我らは生きる! モナの忘れ形見のシアも殺させはしない! 槍を取れ、我が家族達よ! 我々を殺すと息巻く【フェアベルゲン】に亡びを!」

 

 狂気ではない。

 

 正気でもない。

 

 戦に出る戦士と成りて、仇敵の【フェアベルゲン】を討つ!

 

 カムの檄にハウリア族は『えいえい応!』と応え、槍……影松を構えた。

 

 【仮面ライダー鎧武】の劇中、黒影トルーパーとは単なる雑魚的な扱いだとはいえ、量産型にありがちな性能低下は無いから使い方次第であろう。

 

 それから始まったのは、云ってみれば蹂躙だった。

 

 ハウリア族の身体能力は一年間、ピンク筋の獲得とその鍛練を欠かさず行い、極限にまで鍛え抜かれているし、武器の扱いなども確りと覚えていったものだ。

 

 それを思えば亜人族だの何だと云ってみても、所詮はちょっとばかり喧嘩が強かったり、特殊な能力が有るという程度でしかなく、本格的な戦闘訓練を受けたハウリア族に敵う筈無し。

 

 数値的にも1000すら越えない程度で、3000を越えるであろう黒影トルーパーには勝てはしない。

 

 何よりも……

 

「どっせいぃぃですぅ!」

 

「喰らいなさい!」

 

 ドパン!

 

 倍以上はあるザビーや、ドレイクまで居るのだ。

 

 一応は後に退ける様にと非殺傷設定で斃す。

 

 アルフレリックは頭を抱えるしかなく、他の長老達も悪夢の具現に項垂れた。

 

「判った、我らの敗北だ。【フェアベルゲン】は彼らハウリアとの話し合いを望みたい、戦いを中止して貰えないだろうか!」

 

 遂には折れる。

 

 森人族と狐人族と翼人族の連名、虎人族と土人族はそれに従う旨が長老会議に寄越され、熊人族は真っ先に叩き潰されて機能していないと云う。

 

「良いだろう」

 

 これでユートの望みの侭の交渉が可能となったし、戦争はやり過ぎたにしても怪我の功名、ユートはカム達に戦いの中断を伝えるのであった。

 

 

.

 




 戦争はあっさり終結。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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