ゼロワン……女の声っぽいけどあれが亡? 予測されるのはウルフさんらしいけど……
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フューレンの冒険者ギルド支部長であるイルワ・チャング、秘書的立場であるドットの二人に支部長室に通された一行。
「で、何か用かな?」
「あれだけ暴れて用も何も無いでしょうが!」
叫ぶドットだったけど、ユートは首を傾げた。
「僕は何か怒られる様な事をしたか?」
「な!? レガニドの拳を砕いておきながら!」
「ふむ……アンタは泥棒が屋根を渡っていたら屋根が抜けて怪我をした。そう言って泥棒が訴訟をしたら、そして泥棒が勝訴したなら金を支払うのか?」
「ハァ? そんな滅茶苦茶がある訳が……」
「今の状況は正にそれだ。ネグレクトだったか? そいつが僕をムーミンに命じられて殴り掛かってきたら、柔なネグレクトの拳が砕けた……と。自業自得って言葉は理解が出来るか?」
「くっ!」
「くっじゃねーよ。理解は出来るのか? 殴ったら拳が砕けた。だから被害者が悪だと抜かす冒険者ギルドのフューレン支部さん?」
「それは……」
「ムーミンが愚かな行動に出たのは僕の連れ欲しさ、成程な……美しい連れが居るから罪だと?」
勿論、そんな事を言っている訳ではない。
イルワとしては貴族との揉め事を収めるべく動き、結果としてユート達を連れて来させただけである。
「と、兎に角だ。先ずは、
「え? オークじゃなく? てっきりオーク貴族だとばかり……」
「「ブフッ!」」
思わず噴き出してしまうイルワ支部長とドット。
ひょっとしたら二人も、あのムーミン……では流石にムーミンに失礼千万か、プームをオークだと思っていたのかも知れない。
というか、オークが居たのかとユートは驚いた。
尚、亜人族の一種族たる豚人族の事らしくて、同じ亜人族内でも余り好かれてないとか。
基本的に別世界のオークと同じで、性欲過多で基本は強姦だからだろう。
和姦? 美意識的に視てプーム・ミンとヤりたいという人間の女性は、果たしてどれだけ居るのか?
視覚的だけではなくて、人格面に於いても……だ。
想像すれば解り易い。
「ゴホン! 取り合えず、プーム・ミンに関しては良いとして、レガニドとの争いに関してだが……」
「争うも何も、あいつらが勝手に盛り上がっていただけに過ぎないな。そもそも僕はまともに目すら合わせていない」
「む、う……」
これでユートも手を出していれば、喧嘩両成敗とか言えたのかも知れないが、ユートは全く剣も抜かず拳も振るわず、目さえ合わさず取り合いもしなかった。
結果、レガニドが殴り付けてユートの防御力に拳が砕かれたという。
無論、そんな筈は無い。
拳が入る丁度その時に、ユートは運動エネルギーのベクトルを反転、全て拳に向かわせてやったのだ。
某・一方通行さんの技能――ベクトル操作も、簡単な反射くらいなら可能であるが故に。
あれも割かし弱点は在るものだが、それを見抜いて攻撃を加えるだけの能力がレガニドに有る筈もなく、簡単に拳を潰された。
知られなければ良い。
気付かれなければ良い。
よく悪党が自慢気に言っているではないか?
つまりはそういう事だ。
ユートは善性こそ有れ、『正義』を唾棄する『悪』であるから、悪徳に染まるのも良しとしていた。
例えば強姦。
ユートは好きになれないプレイだが、それでもヤる時にはヤっている。
勿論、無辜の民に対してヤったりはしない。
基本的に敵対者に対し、性欲を満たすのとスキルやアビリティを簒奪する為、単なる我欲という訳でも無いのだが、それでも我欲は我欲でしかない。
男は殺して女は犯す……スキルやアビリティを簒奪の為なら、敵対者はどちらも殺せば良いのだろうが、それなら性欲も満たせれば尚良しだった。
幻想世界……ある少女が名付けたその世界名故に、ユートがそう呼ぶ世界には『妖精』と称される見た目は少女な色取り取りな存在が居り、侮蔑され差別を受けながら“戦闘員”として国に使われていた。
勿論、『妖精趣味』とか変態扱いを受ける覚悟で、彼女らを犯す事に快感を覚える人間も居る。
現在では市民権を得てはいるが、嘗ては兵士ですらない彼女らは護ってた人間から侮蔑を受けていた程に扱いは悪かった。
当然ながらユートは種族そのものに蟠りなど無く、敵対をしてきた妖精は犯していたし、味方ならば普通に抱いていた訳である。
そうやって技能や能力を簒奪か模写していた。
毒には毒を悪には悪を……毒を以て毒を制するにも近いかも知れない。
ユートが簒奪及び模写が可能なのは能力系、つまり
魔法とあるが、これには霊能力や超能力も含まれ、仮にユートが一方通行君を殺害し、簒奪をしていたら超能力としての一方通行が完全に扱えてたであろう。
因みに、プーム・ミンとやらも今頃は酷い目に遭っている筈だ。
ダークザビーゼクターにダークサソードゼクターの精製する毒を付着させて、それをプーム・ミンに刺させるという悪逆非道を。
尚、ダークゼクターとは原典でも登場をしたダークカブトゼクターが元だ。
元々のダークカブトゼクターは、カブトゼクターのプロトタイプで謂わば0号に当たる。
だが、ユートは折角だからと全ゼクターにダークを造ってしまった。
真なるは闇属性故にか、ダークというのはどうにも惹かれてしまうらしい。
現状、全てのダークゼクターはユートの管理下で、ダークザビーゼクターを使ったのは、魔物による事故を装う為だ。
勿論、認識阻害を使って普通の魔物に見せ掛けて、事故を完全演出している。
今頃ならプーム・ミンは痙攣しながら、お漏らしをしつつ全身を溶かされる様な痛みと酸欠による苦しみを受け且つ決して死ねず、狂えず意識を失えない地獄を味わっているだろう。
殺しはしない。
ある意味で死は安らぎ、ならば生き地獄を味わうが良い、それがユートの考え方の一つであるからには。
まぁ、ユートの冥界へと堕とせば無間地獄で永劫の苦しみを与えられるが……
ダークサソードゼクターには、登録された如何なる毒をも精製するオリジナルのサソードゼクターに無い機能が付いている。
それで精製された毒は、プーム・ミンを苦しめてくれたろうと、黒い笑みを浮かべつつユートは思った。
結局、ユートは手出しをしていないと報告も挙げられてしまい、そもそもにしてプーム・ミンが女欲しさに余計な争いを挑んだ事、どう考えてもユートに非が無いとしてイルワは解放をするしかなかったと云う。
「ああ、解放早々で申し訳が無いのだが……」
「何だ? 僕には僕の目的が有るからさっさとこんなケチが付いた町、出て行きたいんだけどな?」
「正直言って済まないね。実は君に依頼をしたい」
「は? ステータスプレートは見せたろ。黄ランクにギルド支部長が自らとか、ちょっと有り得ないな」
「黄ランクね。私はランクが全てとは思っていない。君はそもそも黒ランクであるレガニドを退けたしね。それにまさかの先生からは紹介状を貰っているし」
「自爆だろうに」
「本当にそうかい?」
「……まぁ、聞くだけ聞いても構わないけどな」
どうやらイルワ・チャングは疑っているらしい。
流石は海千山千のギルドの一つ、フューレン支部を統括する支部長か。
尚、先生とはブルッグの町で受付オバサンをしていたキャサリンさんであり、昔は凄まじい美女だったと聞かされた。
イルワ支部長は彼女から教えを受けていたらしく、『先生』と呼び慕っていたのに加え、少年ながら淡い想いを懐いていた様だ。
写真? らしきを見せられたが、確かに面影はある美女とイルワ君の姿が……
(時の流れは残酷だな……けど、今からでも痩せたらこうなるんじゃないか?)
痩せれば普通に美女に戻りそうだが、よもや本人に『痩せたら?』とか無礼が過ぎて言えない。
「で、依頼とは?」
「これを見て欲しい」
イルワ支部長が置いたのは一枚の依頼書。
「これに書いてある通りで依頼は行方不明者の捜索。北の山脈地帯の調査依頼を受けたある冒険者一行が、予定を過ぎても戻って来なかった為、冒険者の一人の実家が捜索願を出した……というものなんだ」
「ほう? 行方不明者ね」
「最近の事なのだけどね、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査の依頼が成されたんだよ。北の山脈地帯は一つ山を超えると、殆んど未開の地域となっていて大迷宮の魔物程ではないが、それなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。この冒険者のパーティーに本来のメンバー以外の人物が少々ながら強引に同行を申し込んで、紆余曲折あったが最終的に臨時パーティーを組む事になったんだ」
「クデタ伯爵家の三男坊、ウィル・クデタ……か」
男爵家のプーム・ミンといい、またぞろ貴族と関わるのかと辟易する。
「クデタ伯爵は個人的にも友人なんだが、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていた。とはいっても連絡員も居たし私が把握をしていたんだがね。今回の調査依頼に出た後、彼へと付けていた連絡員も消息が不明となった。クデタ伯爵も慌てて此方に捜索願いを出したんだよ。伯爵自身も家の力で独自の捜索隊も出しているけど、手数は多い方が良いからね。ギルドにも昨日だが捜索願いを出してきたんだ。最初に調査の依頼を引き受けたパーティは可成りの手練だったよ。彼らに対応が出来ない様な何かがあったとしたなら、並みの冒険者ではどうしようもないし、却って余計な犠牲者が出てしまうんだ。だけど、依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。だから君達という訳だよ」
「まぁ、確かに黄ランクと残りは青ランクとはいえ、実力は金ランクと自負しても良いくらい有る心算だ。それに……自作アーティファクトも有るから底上げも出来るんでね」
「自作……とは?」
「僕は錬成師と同じ様な、だけど異なる技能が有る。それを使えばアーティファクトの作製が出来るのさ。そしてアーティファクトを造る技術は僕の実力だし、当然ながら加味されて然るべきだろう?」
「確かにそうだろうね……然しアーティファクトを造る程とは」
「錬成師はありふれた職業らしいけど、場合によっては世界最強にだってなれるらしいからね」
「そういうものなのかな? 私も錬成師に知り合いくらいは居るんだが……」
香織と雫は苦笑い。
ユートの科白は明らかに“この世界”のタイトルの揶揄だったから。
正確には魔導器と称されるアイテム、ポーション類を魔導薬、装備類を魔導具と称するのだが、ユートは薬とその他を分けている為に魔導具は総称とした。
「北の山脈か……途中にはウルの町が有るんだな」
地図から道順を調べて、補給地となる町を見付けたユートは、その町の特徴と今現在の状況を思い出す。
(確かリリィとの連絡で、ウルの町の話が出たな)
行き先的に悪くないし、ユートはイルワの依頼に乗る事を決める。
「此方の予定に無い依頼であるからには、多少の色は付けて貰うよ?」
「む、色とは?」
「先ず、依頼金の上乗せ。依頼金自体は変えられんだろうが、アンタの懐から出せば何とかなるだろう」
「まぁ、構わない」
寧ろ金で済むなら良いといえる結果だ。
「次に、ウィル・クデタは素人だとしても調査依頼はそれなりのパーティが行った筈、それが場合によっては全滅の危機だ。ならば、黄ランクと青ランクパーティが解決……はギルド的に威信が傷付く」
「ランクは君を黒にして、他は赤ランクとしよう」
「それで問題は無い」
実質、ギルドランクなど飾り程度にしか思っていないユートだが、いつ何処で必要になるか判らないから保険くらいにはと思う。
必ずしも要る訳でなく、だけど有ったら便利な資格といった感じである。
「持ち帰るのは本人乃至、良くて遺体、最悪で遺品という形で問題無いな?」
「ああ、それで良いよ」
実際にイルワ支部長も、生存を絶望視とまではいかないが、それでも死んだという可能性が高いとみて、ユートに依頼をしている。
ユートもウィル・クデタが生きている可能性は低いと見ており、万が一の可能性が無いでもないがやはり遺品で我慢して貰う事を考えてしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
交渉を終えたユートは、すぐにも車で移動する。
「目的地はウルの町だ」
「ウルの町?」
「ああ、ウィル・クデタは北の山脈への調査依頼を受けた冒険者パーティに寄生していたらしい。途中での町はウル。湖畔の町で水が豊富だからか稲作がされていると聞く」
「「稲作!?」」
日本人たる雫と香織が、殊の外食い付いてきた。
「若しかして、だから依頼を受けたのかしら?」
少し口元がニヤケている辺り、やはり日本人として米食に飢えていたらしい雫が訊いてくる。
「ああ。僕は生まれが英国で母親は火星の一国の女王だったが、転生前も異世界ハルケギニアではあるんだけど、更に前は日本人だったから米は好きだよ」
「英国人なの!?」
黒髪に黒瞳とか日本人の特徴がはっきりしながら、ユートがまさかの英国人という発言に驚く。
「容姿は前々世から引き継いでいるからな。僕の再誕世界は【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】が主になっていて、【ゲート】や【怪奇警察サイポリス】や【隠忍】や【鬼神童子ZENKI】なんかが習合されていたからね」
「それはまた……」
というか、ハルケギニアと繋がっているからには、【ゼロの使い魔】とも習合していたと云えるのだし、更には【恋姫†無双シリーズ】や【キャッスルファンタジア〜エレンシア戦記〜】もそうだ。
正に混沌とした世界観。
「英国人で【魔法先生ネギま!】って、ネギ先生とはひょっとしたら兄弟?」
「二卵性双生児で僕が一応は弟だな」
「一応……ね」
精神的には早熟だけど、それは仕方がない。
転生者で記憶保持が成されている以上、人格だって一から構築されている訳ではないのだから。
「とはいえ、精神的には間違いなく日本人だよ僕は。米を食べたい気持ちは充分に持っているさ」
ハルケギニアに生まれようが英国に生まれようが、心は変わらず日本人というのがユートの主張。
さて? ウルの町までは車に乗って行く訳だけど、一行は既にユート、香織、雫、ユエ、シア、ミレディという六人パーティだからバイクで荷けつもツラい。
全員に支給するのも可能ではあるのだが、ゆったりとしたいならバスを出してしまおうと考えた。
「何でバス?」
「単なるバスじゃないさ。一種のキャンピングカーってやつでね。外観の大きさこそ少し大きめな車でしかないが、中は空間湾曲技術で拡げてある」
「え、まさかナっちゃんの空間魔法を!?」
「違うよ、ミレディ。確かに空間魔法と同じ事が出来てるが、ナイズ・グリューエンの神代魔法とは別物の力だから」
「そうなんだ……本当に、ユー君は私達の神代魔法と似た能力を使えるんだね」
重力系も使っていたし、【創成】はオスカー・オルクスの生成魔法に近い。
魂魄や時間への干渉に、ユートからの説明によると仮面ライダー、これも変成魔法に近い生命への干渉、更には一時的にあらゆる力を向上させる昇華魔法に近い力も持つと聞く。
(本当に何で神代魔法を集めてるんだろ。まぁ、概念魔法を得るには必要かな。それに元々の力の補助には使えてるみたいだしね)
ミレディがユートに付いていく理由、確かに賭けをして負けてしまったから、ユートのモノとなったのも間違いないが、その深淵にはユートの監視という意味も含まれていた。
勿論だが、【仮面ライダーゼロワン】たるユートへの好意が一番にある。
それでも監視は必要。
エヒトへの反逆にして、神からの世界解放は個人の嗜好だけで止められない、七人の【解放者】の総意だったのだから。
「ホント広いわね」
中を見回す雫。
「……ん、寝室がある」
ユエとしてはユートとの性活は、血を吸えるだけでなくそれに近い液体を堂々と飲める場で大切だ。
「御風呂まで有りますよ」
そして性活で汚れたら、風呂で洗い流せるのが嬉しいシア。
「わぁ、本格的なキッチンまで有るんだよ〜」
料理番の一人として香織は嬉しそう。
「最早、これだけで隠れ家でも作れそうだね」
改めてバスの内部を視たミレディは思った。
外からは中が見れなかったが、内部はホテルか? と云わんばかりの豪華絢爛さを醸し出している。
一階分しか無かった筈の階層が三階建て、一階には生活に必要なキッチンやら風呂場やら御手洗い場やら更衣室やらが揃っており、二階と三階は生活スペースな個人部屋とされていた。
性活部屋と来客用である雑魚寝部屋も一階だ。
雑魚寝部屋は百人くらい押し込める広さを持って、衝立で男女別にする事なども出来るし、ちゃんと風呂とトイレと台所は完備されている。
ユートや【閃姫】の為の部屋を超一流ホテルに於けるロイヤルスイートルームとすれば、雑魚寝部屋とは謂わば三流の民宿だった。
差別? 断じて否。
これは区別。
大切な女の子とそうではない誰か、同じ扱いをする理由などあるまい。
それに差別をするなら、それこそ何も無い空間のみの部屋に押し込める。
特にトラブルも無い侭、ユート一行はウルの町へ。
ユート用の性活部屋には全員が集まり、キャッキャウフフ的な行為に勤しむ。
因みに、このバスは高いレベルのAIが完備され、行き先さえ入力しておけば勝手に走ってくれる。
勿論ながら運転も可能、そこら辺は臨機応変で幾らでも変えていけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウルディア湖を臨めるは湖畔の町ウル、ミレディの時代もこの湖はウルディア湖という名前だった。
そんな町にある宿屋――【水妖精の宿】に畑山愛子を筆頭とした一団が宿泊をしている。
この宿屋の名前はその昔にウルディア湖から現れた妖精を、一組の夫婦が泊めた事が由来だであるとか。
ウルディア湖はウルの町の近郊にある湖、大きさは日本に存在している琵琶湖の四倍程だった。
一階部分がレストランになってて、ウルの町の名物である米料理が揃えられており、店内の内装は落ち着きがあって目立ちこそしないが、細かな部分にまでも拘っている装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがあるし、天井には派手過ぎないシャンデリアを完備、『老舗』と呼ぶに相応しいとても歴史を感じさせる宿だったと云う。
高級過ぎて落ち着かないと言い、愛子先生は他の宿を希望していたのだけど、【神の使徒】とか【豊穣の女神】とまで呼ばれ始めている愛子先生や生徒達を、よもや普通の宿に宿泊させるのは外聞的に有り得ないとして騎士達の説得の末、ウルの町に於ける拠点として確定する。
とはいえ、王宮の一室で過ごしていた事もあって、愛子先生達はこの宿屋にも次第に慣れ、滞在している内に落ち着ける出来る場所にまでなっていた。
愛子先生は農地改善にて生徒の立場を守るという、ユートとの相談の上で決めた仕事に精を出しており、優花パーティの三人プラス玉井淳史と清水幸利の五人が【愛ちゃん護衛隊】として付いてきている。
原典との差違は玉井淳史の友人が二人、この場には居ないという処であろう。
理由はあのオルクスでの大量死の際、二人が轢死か焼死かは判らないが死んでしまっていたから。
それでも玉井淳史がこうして居るのは、単純に独りで取り残されたくなかったに過ぎない。
何しろ清水幸利だけならばまだしも、優花達みたいな女の子達までが戦いに赴くし、無能と呼ばれていたハジメまでが戦う中に一人で引き篭る、外聞が悪いにも程があるのだから。
【愛ちゃん護衛隊】は、単純に魔物対策ではない。
聖教教会から明らかなるハニトラ要員、見目だけは麗しい神殿騎士が護衛へと付けられた為、コイツらから『愛ちゃん先生』を守る意味合いがあった。
まぁ、愛子先生本人としては『先生』だから否定をするだろうが、とっくの昔にユートにお熱状態な為、ハニトラ要員に気を移すなど有り得なかったが……
取り敢えず、神殿騎士の戯れ言など気にも留めない愛子先生に、優花達も安心をしていたけどつい先頃、清水幸利が失踪していた事が判明する。
愛子先生は作農師として仕事をしていつ忙しいし、優花達が持ち回りで捜しているが見付からない。
闇術師として普通に強い清水幸利だから、攫われたなんて事は無いと思われるものの、愛子先生は心配をしていたから優花達も必死に捜索をしていた。
それはそれとしてウルの町には米があり、日本食に近い食べ物を食べられるのが楽しみの一つ。
今宵も全員が一番奥にある最早、専用となりつつあるVIP席に座りその日の夕食に舌鼓を打っていた。
「ふわぁ、相変わらず美味しいよ〜。こんな異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったな」
「見た目はシチューだけどスパイシーよね」
ホクホク顔でカレー? を食べているカレー大好きっ娘な優花。
宮崎奈々も特に異論は無いのか、スプーンを口へと運んで相好を崩す。
「いやいや、カレーよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? これ、日本は負けてんじゃないか?」
「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べた事が無いからでしょう? ホカ弁の天丼と比べちゃダメだよ」
玉井淳史の言に菅原妙子が反論をする。
多少なり違いはあるが、極めて日本食に似通っていてテンションが上がっている生徒達、ウルディア湖の魚や北の山脈地帯の山菜や香辛料、そしてお米という素材の豊富さがこんな食事を提供してくれていた。
美味しい料理にて一時の幸せを噛み締めている愛子先生達の許へ、六〇代くらいの年輪を刻む口髭の見事な男性が、にこやかな表情で近寄って来る。
「皆様方、本日の御食事は如何ですか? 何か御座いしたらどうぞ、遠慮なさらず御申し付け下さい」
「あ、オーナーさん」
彼は、【水妖精の宿】のオーナーであるフォス・セルオなる紳士。
スラッと伸びた背筋に、とても穏やかに細められた瞳で、今は白が交じった髪をオールバックにしている男性だった。
「いえ、今日もとても美味しいですよ。本当に毎日、癒されています」
一団を代表してニッコリ笑いながら愛子先生が答えると、フォスも嬉しそうにしながら礼を言う。
「それはよう御座います。我々としても腕によりを掛けた甲斐がありますな」
だけどその表情もすぐに曇る事となる。
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遅くなった上に尻切れ、本当は合流まで書きたかったんだけど……
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる