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その暗い表情からして、悪い報告なのだろう。
「実は大変申し訳無いのですが、香辛料を使った料理は今日限りとなります」
「ええっ!? それって、もうこのニルシッシル――この世界に於けるカレーライス――を食べれないって事ですか?」
オーナーからの突然過ぎる激白に、カレーが大好物な優花が強い衝撃を受けた様に問い返した。
「はい、誠に申し訳が御座いません。何分、ストックしていた材料が切れてしまいして。いつもならこんな事が無い様に在庫を確保しているのです。然しながらここ一ヶ月程は、北の山脈地帯が不穏という事らしく採取に行くものが激減しております。遂先日も、調査に来られた高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして益々、採取に行く者が居なくなりました次第で。当店としても次にいつ入荷するかは最早、判りかねる状況なのですよ」
オーナーも可成り困っているらしく、優花から問われて申し訳無さそうな表情を浮かべて答える。
「あの……その不穏っていうのは具体的には?」
「何でも魔物の群れを見たのだとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越える毎に強力な魔物が居るらしいのですが、わざわざ山を越えてまで此方には来ないのですよ。処が最近になり何人かの者が、居る筈の無い向こうの魔物の群れを見たのだとか」
「そ、それは……確かに……心配ですね……」
愛子が眉を顰める。
他の皆もこれからの食事事情や、魔物が現れたという話に若干沈んだ様子で互いが顔を見合わせた。
「いやはや、食事中にする話ではありませんでした」
フォスは、やはり申し訳無さそう表情で場の雰囲気を少しでも和らげたいと、極めて明るい口調になって話を続ける。
「然しですな、その異変も若しかするともう直ぐ収まるかもしれません」
「どういう事ですか?」
「実は本日の丁度、日の入りくらいに新規の御客様が宿泊に居らしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索の為に北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしくて、相当な実力者の様ですね。若しかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやも知れませんよ」
「ほぅ……」
フォスにそう言われても愛子先生達はピンと来ない様だけど、食事を共にしていたデビッド達……護衛の騎士は一様に感心が半分、興味が半分の声を上げた。
デビッド達の知る限り、フューレン支部長イルワは冒険者ギルド全体で見ても最上級クラスの幹部職員、そんなイルワ支部長に指名依頼をされるというのは、可成りの実力者の筈だったからである。
それに戦闘者としては、やはり強者に対して好奇心をそられ騎士達の頭には、有名な金クラスの冒険者が羅列されていく。
デビッド達のざわめきに愛子先生達が不思議そうな顔をしていると、二階へと通じる階段の方から男女の声が聞こえてきた。
それはカウンターテナーを思わせる様な男の声と、一〇代と思われる数人から成る少女達の声である。
男の声を含めて聴くだけなら声優か? と思わせる綺麗な声質であり、何処かで聴いた様な声だったが、それに対して反応をしたのはオーナーのフォス。
「おやおや、噂をすれば。彼らですよ騎士様。彼らは明朝には此処を出るそうなので、若しもお話しになりたいのでしたら、今の内が宜しいかと」
「そうなのか、了解した。随分と若い声だが、【金】のランクにこんな若い者が居たのか?」
正直、脳内で羅列していた有名な【金】クラスに、今現在で聞こえている様な若い声の持ち主が居ない。
故に戸惑いを隠せないのだが、そんな事をしている内に件の男女は話をしながら近付いて来た。
このVIP席とは三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店の全体を見渡せる場所でもある。
カーテンを引いて個室にする事までも可能であり、相当に目立つ愛子先生達の一行は、【豊穣の女神】と愛子先生本人が呼ばれる様になって、更に人目に付く事となっていたが故にか、食事の時はカーテンを閉める場合が多かった。
そして今日も御多分に漏れず、VIP席のカーテンは閉めてある。
そのカーテン越しに会話の内容が聞こえてきた。
「もうもう! ユートさんってばえちぃにも程がありますよ?」
「ホントだよ! ユエさんと私とシアちゃんの三人のお、お尻を……同時になんて……もう!」
「……これが尻パイル」
聴いた途端に真っ赤な顔になる愛子先生、更に優花と宮崎奈々と菅原妙子。
三人同時に……だとか、尻パイルだとか不穏な言葉ではあるが、四人は普通に意味を理解したらしい。
デビッド達と玉井淳史、男衆はちょっと理解が出来なかったのか、真っ赤になった女性陣に首を傾げた。
「あんたらはまだマシよ? 私なんて『ハイヨー! シルバー!』とかリード付き首輪でポニーテールを弄られたし、お尻にあんなのを突っ込まれた上……に、もうお嫁に往けないわ!」
「雫ちゃんはユウ君以外に貰われる予定だったのかな……かな? だったら悲しいけどサヨナラだね」
「そんな予定無いわよ!」
「光輝君とか?」
「一番有り得ないわ!」
名前が出てハッとなる。
「え゛!? まさか香織と雫……なの?」
優花は驚愕していたが、端と見回せば信じられないという表情な宮崎奈々と、菅原妙子と愛子先生。
「ミレディさんとしては、もう少し普通を求めたいと思うのは贅沢かな?」
「一番、普通のプレイだったと思うんだが?」
「お、お尻と彼処の交互とか普通じゃないよ!?」
「いやいや、普通だって。ミレディの時代だとアブノーマルなプレイなのか?」
「うぐ、これがジェネレーションギャップ?」
やはり何だか顔が真っ赤になる会話。
「? 何を話しているのかサッパリ理解が出来ない。このよく解らない言語を、愛子には解るのか?」
「……へ?」
玉井淳史は兎も角としてデビッド達、護衛の騎士はそもそも言葉自体を理解してはいなかった。
「あれ、普通にスルーしていたけど……これって若しかして日本語?」
優花が気付く。
「そういえば、普段は此方の言葉が始めから理解出来てましたから、トータスの言語を自然と使っていましたけど、これは確かに私達の国の言語ですね」
言語理解なる技能が無いからには、敢えて日本語で話すとトータス人には理解不能な会話となる。
「そういえば、合間に造っていたのはプログライズキーよね? 黒いのとピンクのやつ……」
「ピンクじゃない」
「うん?」
「マゼンタだ」
「こ、拘るわね」
ユートと雫の声だ。
「モノは試しにレジェンドライダー・プログライズキーを造ってみたんだよ」
「へぇ、レジェンドっていうと今までのライダーって意味よね?」
「まぁね」
《DESTROY!》
《KING!》
電子音声が鳴り響く。
「……これって意味が有るのかしら?」
「実は無い」
「そうよね……だって確かどっちもレジェンドライダーの力が使えるし、優斗はどっちも成れるじゃない」
「否、ディケイドは兎も角としてジオウには成れん。あれは飽く迄もシンオウ、仮面ライダーシンオウだ」
「そっちも拘るのね……」
何の話かはちょっと付いていけないが、間違いなくよく知る声であった。
「ゆ! 緒方君!?」
矢も盾も堪らず声を荒げてカーテンを開く愛子先生の行動は、優花を始めとしてデビッドら騎士達すらも予想外だったと云う。
(今、絶対に優斗君って言いそうになったわよね? やっぱり愛ちゃんも堕としてたって訳? だったら、何で私にはキスくらいしかしないのよ!?)
優花が剥れる。
ユートが優花としたのはディープながらキスのみ、それでも優花からしたなら凄い進歩だったろうけど、当たり前の様に雫と致したと聞いているし、香織まで毒牙に掛けているとか。
一応、多少の御触りくらいは有ったけど。
しかもしかもだ! 今の会話から更に何人かヤっている女の子が居るらしい。
愛ちゃん先生も堕ちているなら、やはり彼が毒牙に掛けているのだと判る。
そんな気はしていたが、ならばどうして勇者側へと戻したのか解らず、やはり気のせいかとも思った事だってあったけど、どうやら堕ちているのは間違いないらしい。
何故なら声を荒げながらも『愛ちゃん先生』の顔に朱が差し、潤んだ瞳は確かな恋心を見て取れたから。
「まったく、まったく! 貴方という人は! 八重樫さんや白崎さんやユエさん……と先生……だけじゃ飽き足らず、またこんな娘達を手籠めにしたんですか? 先生は許しませんよ! ええ、許しませんとも!」
「先生の許可は要らないだろうに。それとも男女関係は先生が審査して許可しないといけないのかな?」
「そ、それは……」
「だいたい、手籠めとかは流石にちょっと外聞が悪い言い方だ。そもそも二人は自主的に肉体関係を結ぶ事を望んだんだしね」
とはいえ、奴隷の首輪を着けていたり勝負に勝って手に入れたり、端から視れば明らかに強制である。
まぁ、シアの首輪なんて今や飾りでしかない。
正確には状態異常耐性とHPMP回復と身体強化の効果を付けた魔導具、それに万が一を考えてハルケギニア時代の異世界放浪期、辿り着いた世界の義弟が考えた魔導具――【異物排除】も付けてあるから、間違っても妊娠をしたりしない効果を持っていた。
ユートは妊娠をさせ難い体質だが、間違って妊娠させる可能性は零ではない。
事実として、一夜だけの関係で孕んでいたなんて知らなかったが、星華が星那という娘を産んでいた。
とある一夜の関係だが、一発大当たりで星華は妊娠をしていたらしい。
ユートに教えられていなかったのは、当時にして既に二六歳だった星華であるのだが、ユートはその頃であると戸籍上は七歳だったからという理由。
星華はとんだショタコン腐女子に見られ兼ねない、だからせめてユートが相応の年齢――日本で婚姻可能な一八歳になるまで待たないと……と考えて、星那の存在をひた隠しにした。
これは星華が日本人で、ユートから教育を受けた際も日本の義務教育分を教えた為で、当然ながら男女の婚姻可能な年齢にしても、日本国憲法に準じて教えられていたからだ。
尚、ユートの生まれた国は英国であり、余り年齢に頓着はしない傾向にある。
因みに、星那とユートが出逢ったのは地上暦にして二〇〇五年、【ハイスクールD×D】世界から還って来た際、教皇である紫龍に報告するべく双魚宮にまで差し掛かった時。
ユートが戸籍上で一二歳の頃だった。
残念ながら星華の目論見は脆くも崩れ去ったのだ。
それは兎も角……
ユートも妊娠し難いからといって、いつまでも避妊を考えない訳にはいかず、だからといって薬に頼るとかゴムを着けるなどはアレだったし、魔導具を使うという方法を採ったのだ。
前者は飲み過ぎとか相手の体に良くないだろうし、後者はいまいち盛り上がらないというか、派手に中へぶち撒けたいからである。
そもそもが一夜での回数が多いので、いちいち着けたり外したりしていたなら盛り下がるし、物理的には未だしも気分的には萎えてしまうであろう。
「久し振りだね先生」
「そ、そうですね……」
エキサイトしてしまい、汗顔の至りとばかりに赤面する愛子先生。
「優花、それに菅原と宮崎も久し振りだな。皇帝訪問の時以来か?」
「そうね」
「お久し振り」
「うんうん、久し振り」
順次、挨拶を交わす。
「それと……玉井淳史……だったな」
「うぉい!」
まるでオマケ扱いな為、思わず叫ぶ玉井淳史。
尚、騎士には目も呉れないユートに対しデビッドらは鼻白む。
ユート的には挨拶も済んだ為、次は優花達が知らないメンバー紹介。
「……ユエ。ユートの女にして最強の魔法使い」
「シアですぅ。ユートさんの女にして最強のハンマー使い?」
そりゃ、ハンマーなんて武器はそう使う人間も居ないだろう。
「ミレディちゃんだよ! ユー君の女さ! そんで以て最強の魔法使いの座は渡さないからね!」
「……そうはいかない」
「師匠に弟子は敵わない」
「……師匠越えは弟子の務めと云う」
何やかんやで師弟にしてライバル、二人はどうやらそんな関係らしい。
「あれ? 何だろうかな、緒方に対して殺意しか湧かないんだが……」
ユートの女を名乗る少女が三人、そんな男のロマンの体現に玉井淳史が宣う。
しかも【二大女神】たる者が、頬を朱に染めている辺りその感情を窺い知れ、更なる激情が玉井淳史の中に湧いてきた。
「6Pしてんのかよ!?」
正にその通り。
因みにだが、最強の魔法使いの座はお互いに譲らないと言って憚らないけど、ユートに関しては言及しない辺り、シェアする事には文句など無いらしい。
「はぁ……相変わらずみたいで逆に安心しました」
呆れるしかないにせよ、元気なのは良い事だから。
ある一部分に元気が有り余っているみたいだが……
ニルシッシルを注文し、持ってきて貰ったそれを食べながら話す。
オルクス大迷宮を出てからの旅路……とはいっても神殿騎士共が居るから要所は省いていた。
「つまり、旅の最中で彼女……シア・ハウリアさんやミレディさんに出逢って、旅を供にしていると?」
「まぁね。ミレディはユエの師匠をしてくれるくらい魔法に長けているし、シアは兎人族としては戦闘力が高いから役に立っている。それに……先生なら理解も出来るよね?」
ボッ! と紅くなってしまう程に頬が熱い、つまりはそういう関係であると、確かに愛子先生には理解が出来てしまった。
「は、はい……」
お腹が熱く滾るのが判る愛子先生、ミレディみたいな小さな――愛子先生主観――子がユートの燃え滾る熱を持ったお肉の棒を突き込まれるのを想像したし、シアの愛子先生では決して持ち得ないデカブツにて、ユートのアレを挟み込んで上下に動かし、シア自身の舌が先っぽを這う情景……その時のあられもない表情を妄想してしまい、御股が潤っていきショーツに染みが作られていた。
「え、と……旅は続けるんですか?」
「勿論。この世界の神なんか当てにならんしな」
ピクリと神殿騎士連中の眉が蠢く。
「どういう意味だよ?」
玉井淳史が訊ねてきた。
「何の約束も保証も無く、勇者として戦わないといけないんだ。当てになるとでも思ったのか? 玉井は」
「っ!? 約束ならされたじゃねーか! イシュタルさんが言っていたんだぞ! 緒方だってその場に居たんだし、それで何でそんな話になるんだよ?」
「イシュタルが言っていた……『救済さえ終われば帰してくれるかも知れない。イシュタルさん? どうでしょうか?』という天之河の言葉に対しての『ふむ、確かにそうですな……エヒト様も救世主様の願いを無碍にしますまい』っていう返しの事か? 何処に確約した科白が在った?」
「……え?」
動揺したのは玉井淳史だけでなく、優花や宮崎奈々や菅原妙子も同じくだ。
「無碍にされたら? あの時にエヒト自らが『還す』と約束をしたのか? 違うだろう、イシュタルがひょっとしたら還してくれるかも知れない……と、予想を言ったに過ぎなかった筈。いつから確約したと勘違いをしていた?」
「そ、それは……」
「無碍にしなかった結果、英雄として持て囃されましたで終わるな。やっぱり還せませんでしたとか言われるだけだ。そして次の戦争に向かうだろうね」
「次のって何だよ?」
ギョッとなる玉井淳史、更には優花達も同じくだ。
「亜人族とだろうな」
「だから何でだよ!」
「それがエヒトの目的だからに他ならない」
「……は?」
ピクピクと騎士連中の額に青筋が浮かぶ、余りにも自分達の奉じる神を侮辱されたから。
「エヒトの目的は戦争だ。だからこそ不和の種を蒔いて種族間で争わせている。しかも愉悦の為ってんだから救われない話だよ」
「はぁ? 人間族を滅亡の危機から救うんじゃ!?」
「違うな、間違っているぞ玉井!」
「な、何だって!?」
「元よりエヒトがやらかした茶番劇。そもそも勇者? の召喚だって新しい駒が欲しかったに過ぎない」
「こ、駒?」
「魔人族側には魔人族側でエヒトの従属神に当たる奴が居て、此方側と似た様な事をやっているさ」
「じゃ、じゃあ……明人と昇は何の為に死んだんだよ? あんな潰されて!」
どうやら玉井淳史の友達がベヒモスに轢死させられたらしく、悔しそうな表情で拳を握り締めている。
「ハッキリ言ってやるよ、無駄死に犬死にだった」
「そんな……」
残念ながらユートは特に明人や昇には全く心当たりは無く、端的にその死んだ意味を突き付けてやる。
正確には苗字なら気付いたであろう。
仁村明人と相川 昇。
対ベヒモス戦に於いて、チャージしてきたベヒモスにより轢死した。
「いい加減にしろ!」
此方の話の真っ最中に、騎士隊長を務めるデビッドが怒鳴ってくる。
「先程から聞いていれば、エヒト様を侮辱しおって! 許されると思っているのか貴様は!?」
「許す? 誰が? そもそも僕はエヒトを信仰してはいない。それは勇者(笑)も同じだぞ?」
「な、何だと!? この、異教徒がぁぁぁっ!」
激昂するデビッドだったが一つ過ちを犯した。
「この様な賎しく汚らわしい獣風情を連れている辺り許されざる行いだ、やはり貴様は異端者だったのだ! 最早、許しておけぬ! 先ず汚らわしい獣から粛清してくれるわ!」
剣を抜いてシアに向け、振り下ろしたのである。
「言ったな? そして……やったな愚か者が」
ゴトッ!
「な、に……?」
その鈍い音に下を見ると見覚えのある剣を握る腕、明らかに肩口から切断をされたと見て取れるモノが、テーブルの上へと無造作に転がっていた。
デビッドが脂汗を流しながら右肩を睨むと……
ブシュゥゥゥッ!
「ギャァァァァァァァァァァァァァアアアッ!?」
今まで何事も無かった肩から、思い出したかの如く鮮血が噴き出した。
「うでぇぇっ!? お、俺の……腕が、俺の腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっっ!!」
既に、異教徒も異端者も亜人族も頭には無くなり、唯
それにしても、ユートの前で腕を喪う人間の何とも多い事か。
「た、隊長!?」
二番手らしき騎士がキッとユートを睨むが、当人は先程から全く変わらぬ……腕組みをしながらふてぶてしい態度で椅子に座って、デビッドが晒す無様を視て嗤っていた。
明らかにユートが何かをしたのだが、それはこの場の誰にも判らないというか見えていない。
小宇宙を使えない現状、それでも魔力などを使って頑張れば雷速すら生身で越える為、常人ではその目に留まる事すらも無い。
とはいえ、魔力なら連中も感知が不可能ではなく、だから今回は
連中がPSYONに対して全く無反応なのを良い事に、身体強化を行った上で最も素早く放てる技を使ったのである。
牡牛座のアルデバランが使う
ユートの聖剣抜刃は漫画的に視ると浮かぶは村正、即ち
抜刀術は刀舞にも存在しているし、ユートからすれば組み合わせない理由自体が見当たらない程。
とはいえ、だからといってアルデバランが聖剣抜刃を使ったり、シュラが威風成角を使ったりは出来ないのだし、ユートだからこそのコラボレーションとは云えるだろう。
恐らくデビッドは疎か、チェイスや他の騎士連中や強化された雫達、優花達も見えたりしなかった筈だ。
「し、白崎嬢っ! 隊長に癒しの魔法を!」
チェイスが縋る。
一応、魔法陣と長い詠唱で彼らも治療魔法は使えるのだが、天職が治療術師たる香織に比べれば手慰みの程度でしかなく、多少の傷なら癒せるであろうけど、こんな部位欠損レベルでは役に立たない。
「御断りします」
「な、何故っ!?」
「シアさんは私のお友達、彼女に剣を向けた人を治療したくありません」
「し、然し……亜人族とは神に与えられし魔法を持たない、即ち神に見放された種族なのですよ! 隊長の行いは間違っていません」
激昂するチェイスだが、愛子先生が冷めた目で見つめながら口を開く。
「正直、失望しました」
「「「え?」」」
痛がるデビッドを除き、神殿騎士愛子専属護衛隊の副隊長チェイス以下、近衛騎士クリスとジェイド……三人が驚愕をした。
「特にチェイスさんです」
「わ、私が何か?」
「私の為なら信仰すら捨てると仰有りながら、貴方は今さっき何と言いました? 『亜人族とは神に与えられし魔法を持たない、即ち神に見放された種族なのですよ! 隊長の行いは間違っていません』でしたね。信仰を本当に捨てられるとは思ってませんでしたが、貴方の言い様は信仰の奴隷にしか思えませんでした。それは御二方や隊長さんも同じです」
最早、名前すら呼ばない愛子先生に愕然となる。
「近衛騎士の御二方も」
「「ううっ!?」」
「私との出逢いを運命だ、身命を賭すと誓う、そんな事を言いながら私の思いなど無視ですか?」
「そ、それは……」
「だ、だが……」
クリスとジェイドがたじろいでしまう。
「白崎さん、彼を治療して上げてくれませんか?」
「え、でも……」
普段は優しい香織だが、この旅に付いていく条件の中に、ユートがやらない事はしないというのが在る。
誰かが助けを求めても、ユートが助けないなら見捨てるという事だ。
今回は明瞭にユートが傷付けた訳で、治療なんかをしたら見放されてしまう。
ハジメの許へと行けなくなったからには、ユートに見放され捨てられるのは、香織にとって耐え難い苦痛にしかならない。
従っていれば愛して貰えるのに、わざわざ反発などしたくはなかった。
まぁ、肉欲を満たす意味で愛されるのだが……
オロオロとする香織は、愛子先生とユートを交互に見遣るしかない。
「ゆ……緒方君、白崎さんの治療魔法の力を借りても良いですか?」
「その心は?」
「四人を私の護衛から解任します」
「へぇ……それを騎士連中が約束するなら構わない」
ユートがチェイスを見据えつつ、ニヤリと口角を吊り上げ嗤いながら言う。
「ぐっ!」
彼らの意志は実際に本物であり、愛子先生への想いに偽りなど当然だが無い。
とはいえ、やはりエヒトへの信仰は洗脳レベルにて施され、簡単に捨て去れる様な根が浅いものではないのも事実なのだ。
近衛騎士の二人もそう、神殿騎士程では無いにせよトータスの常識からして、シアへのデビッドの行いは正当であったから。
「そういえば、アンタらには妹とか居ないか?」
「は? 隊長には修道女の妹さんが居るが……今現在は隊長との折り合いが悪いのと、信仰に疑問を持って辺境に飛ばされています。祈りにより魔法全般に高い能力を発揮する【祈祷師】という天職を持つ、魔法のエキスパートですね」
「ほう? 悪くないな……天職も信仰的にも。それで名前は?」
「フィリム・ザーラー」
デビッド・ザーラーの妹であり、本来の世界線では
ユートとしてはなるべく現地人の仲間を増やしたいと考えており、それならば直に仲間とするなら女の子が良かった。
むさい男を連れ歩きたくはないし、香織や雫やユエやシアやミレディといった【閃姫】に色目を遣ってきたら争う未来しかない。
「その娘を此方に渡すなら解任はさせないように言えるが……どうする?」
「ぜ、是非も無し!」
この失態を取り返せるなら已むを得ない、チェイスは膝を付きながら答えた。
本人の了承もなく決められたが、フィリム・ザーラー本人は割かし乗り気になるのは近い未来の出来事。
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いよいよティオが登場する……筈。
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる