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「それにしても竜……か、久し振りにドラゴンステーキといくか? クックッ、獲物を前に舌舐めずりとは三流のする事、某・専門家な兵士が言っていたけど、
割ととんでもない事を、ユートは平然と言う。
(でも竜は魔物なのかね? だとしたらこの世界の竜は不味い……のか?)
「あ、あの……」
「何だ? ボンクラ三男」
「ボ、ボンクラ三男って……ああ、いえ。そんな事よりユートさんでしたか? まるであの絶望と戦うみたいな事を仰有いますが?」
「当たり前だろう」
「じょ、冗談でしょう? ゲイルさん達がまともに戦えなかった相手ですよ!」
「ゲイル・ホモルカか? ゲイでホモって、名は体を表すとはよく云ったよな」
ゲイもホモも同性愛者を示す言葉で、特に日本に於いては男色家を表す。
彼の冒険者リーダーたるゲイル・ホモルカは、何と恋人が男で本人も男であると聞いている。
しかも何だか死亡フラグを建設していたらしい。
ある世界に主人公を神雷から救った結果、代わりに本来なら彼が行く筈だった世界や人を救うべく行った世界……其処で知り合って仲好くなってあろう事か、男女の仲にまで発展をした恋愛神が曰く、彼女の仕事は道筋を立てる事であり、死亡フラグ――『俺、帰ったら結婚するんだ』とかをほざくと、結婚が出来ない様にするんだとか。
ゲイル・ホモルカはそれに触れてしまった訳だが、だからといってあの世界の恋愛神な緒方花恋が居る筈も無い。
(この世界って、エヒトルジュエと眷属神アルヴくらいだと思ったんだけどな)
後はリューンみたいな、量産型の使徒……一神教で云う天使が大量生産をされている程度だ。
まぁ、外見的に限ったらヴァルキリーっぽくて何処ぞの
「と、兎に角! 私は反対です!」
「確かにお前自身は依頼主でも何でも無いにせよだ、イルワ・チャングから受けた依頼内容からすれば竜と戦うべきではないかな」
「でしたら!」
「仕方がない、ウルの町は諦める方向性だろうな」
「は? どうしてウルの町がどうとかって話に?」
本気で理解が及ばない、そんな顔で訊いてくる。
「簡単な話だ。竜の目的は暫定的だがウィル・クデタ……お前だからな」
「は、はぁ!?」
正しくとんでもない予測をされ、ウィル・クデタは絶叫を上げるしかない。
「落ち着け、暫定的な予測ってだけだよ」
「で、でも!?」
ウィル・クデタだけではなく、雫達……ユート一行や愛子先生と護衛隊の面々も驚き目を見開いている。
「そもそも、最初に襲撃を仕掛けてきたブルタール、あれからしてウィル・クデタだけでなく、この北山脈地帯に潜り込んだ鼠を始末するべく放たれた可能性が高い。そして冒険者を面倒な相手と視た誰かは竜という最強の一手を放った」
「な、私達が標的?」
「まるで挟撃されたみたいにじゃない、挟撃されたんだよ……文字通りにな」
「ど、どうして!?」
「この北山脈地帯で何かしら疚しい事を仕出かしていた奴からすれば、調査に来た冒険者なんか邪魔者以外の何者でも無いだろ?」
言いたい事はウィル・クデタにも理解は出来たが、それでも自分が狙われているなどと思いたくも無い。
「だいたいにして、何者かってのは誰ですか!」
「ハイリヒ王国というか、神山で勇者召喚が行われたのを知っているか?」
「え、はい。概要くらいにはですが」
勇者召喚という科白に、愛子先生が顔を上げた。
「普通、天職持ちはそれなりにレアらしいが、勇者とその仲間は全員が天職を与えられてた」
「それは凄いですね」
「まぁ、中には非戦系天職だったり、ステイタス数値が低かったりした者も若干ながら居たがね。それで、その中に闇術師も居た」
「ゆ、緒方君!?」
ユートの意図を気付き、愛子先生が絶叫をする。
「闇……術師……洗脳! え、まさか? 私を狙ったのは勇者一行の闇術師?」
「ち、違います! 清水君がそんな事をする筈がありません!」
「シミズ君? それがその闇術師の名前ですか?」
「違います! 絶対絶対! 違うんですっっ!」
愛子先生が大きく首を振りながら絶叫、目には大粒の涙が溜まっていた。
「いい加減で現実を見ろよ先生。明らかに操作された動きの魔物は闇術師の魔法で洗脳されているだろう、そして同じ頃に姿を消した清水幸利。町には姿が無いからこの北山脈地帯にまで捜しに来たんだろう?」
「そ、れは……」
違うと更に言い募りたい愛子先生だが、状況証拠だけを鑑みれば極めて黒に近いグレーと言わざるを得なかったし、少なくとも本人を見付けて否定して貰わないとならないだろう。
「ねぇ、でも魔人族も魔物を操る術を得たのよね? そもそもそれが理由で私達が召喚されたんだし」
「そ、そうですよ! 魔人族の仕業の可能性の方が高いんじゃないですか?」
「魔人族の使っているのはヴァンドゥル・シュネーが使っていた変成魔法、オルクス大迷宮にて手に入れた生成魔法が無機物の操作ならば、変成魔法は有機物の操作を行う魔法。これにより動物を魔物化、若しくは魔物を強化して操っているんだろうがな」
ミレディを見遣りながら言うと……
「うん……ヴァンちゃんの変成魔法は魔人族の領地に置かれているからね。魔人族なら手に入れてもおかしくはないかな?」
肯定する様に頷いた。
「そ、そうなんですか? でもどうして【解放者】のお仲間なのに、魔人族領に大迷宮を?」
「ヴァンちゃんは魔人族と氷竜人族のハーフ、ミレディちゃん達はそれぞれ所縁の地に自分の大迷宮を置いたからさ」
「所縁の地?」
「オー君はオルクス大迷宮だけど、嘗て孤児院の兄弟を攫われた場所を大迷宮に造り変えたし、ミレディたんはライセン大峡谷の内部にライセン大迷宮を拵えたのさ。同じ様にメル姉だとメルジーネ海底遺跡って呼ばれてる場所、ナっちゃんはグリューエン大砂漠で、ラウ君が神山にバーン大迷宮を、リューちゃんがハルツィナ樹海だったっけか? で、ヴァンちゃんがシュネー雪原だよ」
今現在と嘗ての呼び名が異なるが、一応はユートから聞いて把握をしていた。
基本的には彼女らの姓が付けられている為、物凄く判り易いと言えば判り易いのではなかろうか?
当たり前だが【解放者】が動いていた頃、元々の名がそうなハルツィナ共和国とライセン大峡谷を除き、他は後に名付けられたのは明白である。
尤も、ハルツィナ共和国はハルツィナ樹海と名前を変えて、国もフェアベルゲンに変化をしているが……
「可能性としては0じゃないという程度。清水幸利がやっていると考えた方が、幾らか納得も出来るんだ。というより、本来は自分達でやる予定だったのかも知れないな」
「? それはいったいどういう意味ですか?」
「動機の問題だ。清水幸利が魔物を洗脳している理由がいまいちでね。そこで、魔人族が清水に接触したと考えた」
「なっ!?」
それが意味する処を正しく理解した愛子先生。
即ち、清水幸利が魔人族に寝返ったという。
「どうしてそうなるんですか!?」
「先ず、少なくとも洗脳か操作かは判らないが魔物が何らかの意思を受けて動いているのは確か。ではその目的は何だ?」
「目的……ですか?」
「魔人族だったとしたら、この北山脈地帯で動く理由はウルの町しかない」
「そうなんですか?」
「変成魔法を持つからには単純に魔物を増やしたいのなら、魔人族の住まう国たる魔国ガーランドでも出来る事だ。わざわざ人間の町の近くまで来る理由が有るとすれば、魔人族はウルの町を襲撃する心算だろう」
「え?」
「ウルの町を襲撃って!」
愛子先生が驚愕に目を見開き、カレー効果で愛着を持つ優花も叫ぶ。
「ど、どうしてですか?」
「愛子先生だよ」
「……へ?」
「戦争に於いて糧食というのは大切だ。作農師なんてレア天職持ちが次々と糧食を量産している。邪魔者と厭うのは当然だろうに」
愛子先生が固唾を呑む。
「そ、そんなぁ。ゆ、緒方君がやる様に言ったんじゃないですか!?」
「意外と早く動いたよな」
「予測してた!?」
当たり前だ。
明らかに魔人族が不利になる作農師の活動なんて、ぶち壊したいに決まっているのだから。
「予測が出来ていたから、今回の推理も成り立つ」
事前に情報が有ったればこそ、予測をする事も叶うというものだろう。
「だけど、連中は自分達でやるより上手くいきそうな人材に目を付けた」
「それが清水君?」
「勿論、清水が天之河みたいなタイプなら乗らなかっただろうが、生憎とアイツはコンプレックスの塊だ。城で何度か見かけた時も、『俺が勇者なんだ』とか、『あいつら莫迦ばかりだ』とか、『俺をモブ扱いしやがって』とか呟いていた。要するにオタク根性丸出しで異世界転移俺TUEEE! とかしたがっていたのさ」
掻く云うハジメ辺りも似た事は考えていたろうが、彼の場合はありふれた職業で低過ぎる数値の所為で、あっという間に夢破れたと言っても過言ではない。
「それに気付いた魔人族が清水を勇者として迎えたらどうだ? 愛子先生を抹殺したらという条件でね」
青褪める愛子先生。
「まさか、そんな……」
フラフラと覚束無い足取りで下がり、ペタンと尻餅を突いてしまった。
「アイツは常日頃から言っていたからな、魔人族とてそんな言葉は聞いたろう。利用し易いとか与し易いとか思われたろうな」
「そんな、そんなぁ……」
ガタガタと震えつつ涙を浮かべながら、愛子先生はガクリと俯いてしまった。
涙が地面に染みを作る。
ユートの言った事は飽く迄も予測に過ぎないけど、情報からして違うと言えないのだ。
黙って居なくなった。
闇術師の洗脳が成されたであろう魔物や竜。
これだけでも最早、白とは言えないくらいにグレーであろう。
寧ろ真っ黒であった。
それにユートの場合は、“情報源”が情報源なだけに疑う余地しか無いのだ。
(ユーキから、清水幸利に関して注意する様に言われていたからな)
だからといって某か干渉をする気にはならない。
というより、清水幸利について聞いたのはそもそも仮面ライダーWに変身し、勇者(笑)をボコった日なのだから既に手遅れである。
「まぁ、あれやこれや言っても仕方がない。確実だと判る事は洞窟を抜けたら、間違いなく竜がウィル・クデタを襲いに来るって話」
「うぇ!?」
「当たり前だろう。竜の受けた命令は恐らく目撃者となった連中――ゲイル・ホモルカのパーティとウィル・クデタを抹殺する事だ。まだお前が生きているからには、命令も解除されちゃいないだろうさね」
「そ、そんなぁ……」
情けない声を上げるのは仕方がないのだろうけど、ユートは情け容赦無く外への一歩を踏み出した。
当初は武器や防具くらい身に付けていたのだろう、然し今現在のウィル・クデタは丸腰であり、竜は疎かスライム相当な魔物にすら勝てはすまい。
恐らくレベルも低いだろうし、そもそも召喚されたクラスメイトとは違って、トータスの人間は能力が低いとされている。
レベル60を越えているメルド・ロギンスでさえ、最も高い数値で漸く300そこらだと云うのだから、ウィル・クデタなど三桁処か20を越える数値すらも有るかどうか。
尚、装備やライダーシステムを渡す気は一切無い。
話をしていたらいつの間にか外付近だった所為か、違和感無くウィル・クデタは外に出てしまう。
「グゥルルルルッ!」
低い唸り声を上げつつ、艶光をする黒き鱗で全身を鎧い、翼をはためかせながら空中より金の瞳にて睥睨をする、それは間違い様が無いくらい“竜”だった。
「ヒィィッ! 絶望が! 漆黒の竜がぁぁぁっ!」
「狼狽えるな小僧っ!」
「おがぁぁぁしゃまぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
両腕を振り上げてウィル・クデタを吹き飛ばす。
ドシャァアッ! 車田落ちと呼ばれる頭からの落下でピクピクと痙攣しつつ、仰向けになって倒れ伏したウィル・クデタだったが、気絶はしてなかったからかすぐに漆黒の竜から身を隠す様に、玉井淳史の後ろへと逃げ出してしまう。
「チッ、素人が。邪魔をするよりはマシか」
何処ぞの赤ロン毛なヘビースモーカー神父だとか、堕天使エロメイド聖人とかの気持ちが解る気がする。
成程、確かに愚痴りたくもなるであろう……と。
「ゆう君、どうするの?」
「ふむ」
ユートからしたら強敵でも何でも無い。
「あれぇ? ヴァンちゃんと似た感じが……若しかしてこの竜って?」
ミレディが呟く。
竜の体長は約七m程。
騎神と同じくらいな為、使えば同じスケールで戦闘が出来そう、全身を艶やかな黒の鱗に鎧われており、長い前足には岩さえ裂けそうな五本の鋭い爪がある。
背中から大きな翼が生えていて、少しばかり輝いて見える事から恐らく魔力を纏っているのだろう。
宵闇に浮かぶ月を連想させる黄金の瞳は、竜種というのが爬虫類だと謂わんばかりに瞳孔が縦に割れて、おどろおどろしくも剣呑に細められていたが、宝石を思わせる美しさだった。
ライセン大峡谷の谷底で見たハイベリア、極一般的な認識では厄介な高レベルの魔物ではあるが、目の前の黒竜に比べれば雑魚以外の何物でもない。
大空の王者……その様に云われるだけの威容を竜は確かに放っていた。
「僕にとって竜は相性が良過ぎるんだよ!」
香織の質問に答える様に叫び……
「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」
まるで悪意そのものを、竜蛇への呪いに換えたかの如く聖句を紡いだ。
「【
【神の毒より呪い在れ】――結界型権能で、ユートがカンピオーネに転生後に【ハイスクールD×D】な世界に帰還して、英雄派と呼ばれる【禍の団】の一派との戦いの中で、
本来は悪意を持たない筈の聖書の神、それが唯一人に悪意を向けたのである。
それは竜蛇を殺す概念に昇華され、正しく凄まじいまでの呪いに変換をされてしまった。
無限の龍神オーフィスをも弱体化させる程に。
今現在は紅い空間が広がっている訳だが、この空間は竜蛇の全能力を百分の一にまで落として、あらゆる技能や魔法を使用不可能とした上で、結界内で受けたダメージは結界から出ないと治癒しない機能があり、更にユートに限られるにしても能力が一〇倍になる。
ギリギリで竜化は解けていないが、飛ぶ力もブレスも封じられてしまった。
墜ちる七mの巨体。
竜化が解けてないのは、既に成立しているからか?
「フッフッフッ、不思議だろうな? 何が起きたのかも理解が出来まい?」
〔グルル!?〕
正気を保たぬ竜だけど、やはりこの空間に囚われては何も出来ず、動きも矢鱈と鈍くなっていた。
「おらっ!」
〔ガァァッ!?〕
顎に蹴りを入れてやると巨体が上空に吹き飛ぶ。
「嘘……」
パンチ力が約10t。
キック力が約25t。
とはいえコイツの自重を鑑みれば、吹き飛ばすのは無理ではないかと思うが、膂力がそれだけあったという事だろう。
実際、4000tを越えるデモンベインをワンパンで吹き飛ばしたマスターテリオンも居る。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」
オラオラッシュにより、殴り付けられる漆黒の竜は血飛沫を上ており、硬い筈の竜鱗も砕け散っていく。
〔ま、ま、ま……〕
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無っ!」
今度は無駄無駄ラッシュだが、結局は単純にぶん殴っているだけである。
〔まつ、まて、ひあっ!〕
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!
今度はアリアリラッシュ……イタリア語だから普通はCorsaだけど。
尚、最後の科白はイタリア語で別れの挨拶となる。
「次は……」
〔ま、待つのじゃ!〕
『『『『っ!?』』』』
魔物だと思っていた竜が喋った事に、殆んど全員が驚愕に目を見開いた。
ミレディは『やっぱり』と言わんばかりだったし、ユートは喋ろうが喋るまいが関係無かったから驚きは特に無い。
「竜人族か。だとしたら、君の名はティオ・クラルスで間違いないか?」
〔わ、妾の名前を知っておるのか? 如何にも、妾は最後の竜人族たるクラルス族の一人じゃ〕
「やっぱり情報通りだな。いつ何処で出逢うかまでは聞いてないが、本来であればハジメのヒロインだった一人。ユエとシアにティオが加われば、後はミュウとレミアの母娘のみだ」
尚、地球人側は除く。
「それにしてもだ、洗脳はいつ解除された?」
〔御主に顎を蹴り抜かれた時には解けておったわ!〕
「蹴り? 最初の一撃じゃないか」
〔あの脳天を衝く衝撃で、妾は正気を取り戻した〕
「成程な」
無駄に痛い目を見ていたというティオ・クラルス、その背中は悲哀を漂わせている気がする。
「取り敢えず人型を取れ。洗脳も解除されたんなら、攻撃の意志は有るまい?」
〔うむ、承ったのじゃ〕
光と共にティオ・クラルスが縮んでしまい、黒くて長い髪の毛に金の瞳で黒い着物を着た美女に成る。
胸はシアよりでっかい、彼女がメロンならティオはスイカであろう。
スケールからすれば程好い大きさなユエは、その胸を視て自らの胸をペチペチと触っていた。
「面倒を掛けた。本当に申し訳ない」
「随分とアッサリ洗脳をされたもんだな?」
「う、うむ。これにはふか〜い訳があってのぅ」
「深い訳? 不快なとか、不愉快な訳じゃなく?」
「おうっふ、中々に辛辣な事極まりないのぅ」
元々は隠れ里に住んでいたティオ、然し数ヶ月前に局地的な大魔力を観測。
この世界に何かがやって来たのを感知した。
数百年も前から竜人族は表舞台に関わらないという種族の掟が出来たのだが、流石にこの未知の来訪者の件を何も知らない侭で放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、一族での議論の末に調査の決定が成されたのである。
ティオは割と強引に自らが調査するという目的で、集落から飛び出してきたのだと云う。
山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族である事を秘匿して情報収集に励む心算だったのだが、その前に休息をと思い少しばかり休んでいた。
周囲には魔物もいるし、竜人族の固有魔法【竜化】により、先程まで取っていた姿の黒竜状態になって。
「そんな折りじゃったの、妾が眠っておるのを良い事に黒いローブを着た男が、闇魔法による洗脳を仕掛けてきおってのぅ」
「闇……魔法……」
「恐ろしい男じゃったの。闇系統の魔法に関しては正しく天才だと言っても良いレベルじゃろうな。そんな男に丸一日懸けて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど流石に耐えられんかったよ。ホンに一生の不覚じゃった!」
ぬぐぐっ! と悔しげな表情で拳を握るティオ・クラルスだったが……
「それって要するに調査に来ていながら丸一日の間、魔法が掛けられているのにも気付かないくらい爆睡していたって事だろうに」
ユートが莫迦を視る目を向けながら言った。
「そ、そうとも云うの」
明後日の方向に目を逸らしていたと云う。
尚、一日という時間が判ったのは単純に、黒ローブ本人が――『ま、丸一日も掛かるなんて』と愚痴っていたのを聞いたから。
洗脳されても記憶は普通に残るし、自意識を封じられた訳ではないのだ。
洗脳後、ローブの男に従って二つ目の山脈以降で、魔物の洗脳を手伝わされていたらしい。
そんなある日、一つ目の山脈へと移動をさせていたブルタールの群れが、山に調査依頼を受け訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令に従って追い掛け回した。
ブルタールの中の一匹がローブの男に報告に向かい万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは厄介と考え万全を期してティオを放った様だ。
そして現在、脳天を衝く程の激震を喰らって正気に立ち戻るも、それを主張する前に『オラオラオラオラオラオラ』とか『無駄無駄無駄無駄』とか『アリアリアリアリアリ』とかユートが叫びながらフルボッコにしてくれたのだと云う。
「ふ、巫山戯るなぁっ!」
ティオ・クラルスの事情説明が終えた時、激昂しながら絶叫が発せられた。
ウィル・クデタが拳を握り締め、その瞳に怒りを宿しティオを睨んでいる。
「……操られていたから、ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方がない……とでも言う心算かっ!」
心境に余裕が出来たからだろう、仲間として連れて来てくれた冒険者達を殺された事に対する怒りが湧き上がってきたらしい。
「……」
ティオ・クラルスは一切の反論をしなかった。
静かにウィル・クデタの言葉の全てを受け止めて、金の瞳が真っ直ぐに彼の目を見つめている。
その態度が余裕に取れてまた気に食わないのか……
「大体にして、さっきの話だって本当かどうかなんて判らないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」
更に言い募った。
「……今の話は真実じゃ。それは竜人族の誇りに懸けて嘘偽りでないと誓おう」
ティオの言葉に反論しようとするウィルだったが、それに対して急にユエが口を挟んでくる。
「……きっと嘘じゃない」
「そんな、一体何の根拠があって!」
「……竜人族は高潔にして清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も今よりもっと身近なもの。彼女は『竜人族の誇りに懸けて』……と言っていた。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘吐きの目とはどういうものか、私はよく知っているから……」
今にして思えば三百年前のユエの周囲には、嘘が溢れ返っていたのであろう。
最も身近な嘘に目を逸らし続けた結果が、あの裏切りに繋がっていたのだからユエは痛い授業料を支払わされたものだった。
そんな痛くて苦い経験をしながらユートに懐いているのは、
ユートとて全く嘘を吐かない訳ではないが、悪意のある嘘を吐いて誰かを故意に傷付けたりしないから。
それを感じるからこそ、図らずも三百年間守り続けた処女を捧げたし今も尚、愛人として御奉仕するのに躊躇いがない。
「ふむ、我らが表舞台から消えて数百年。この時代にも竜人族の在り方を知る者が未だに居たとは……否、“昔”と言ったかの?」
既に数百年前のしくじりにより、歴史の表舞台から姿を消す事を余儀無くされた竜人族、そんな自分達の在り方を未だに語り継ぐ者が居る、だからか若干嬉しそうな声音のティオ。
「……ん、私は吸血鬼族の生き残り。私が本来生きてた三百年前は、よく王族の在り方の見本に竜人族の話を聞かされた」
「何と吸血鬼族の……しかも三百年前とは……成程、死んだと聞いていたのだが……主が嘗ての吸血姫か。確か名は……アレ」
「……ユエ」
「ふむ?」
本当の名前を呼ばれ掛けたユエは、ティオの科白に被せて今の名を告げた。
「……今の私の名前。大切な人に貰った大切な名前。だからそう呼んで欲しい」
それはまるで宝物であるかの如く、ユエの心に暖かなナニかを感じさせた。
「くっ、それでも! それでも殺した事に変わりないじゃないですか! それはどうしようもなかったってのは判ってはいますけど、それでもっ! ゲイルさんはこの仕事が終わったら、その時はプロポーズをするんだって……彼らの無念はどうすれば……」
「実はホントに花恋姉さんが居たりするのか? この世界には……」
原作が違うし習合もされていないから居ません。
「だから殺すべきだと?」
「そうです! それにまた洗脳されたりしたら!」
「いや、丸一日も掛かる訳だから流石に二度も同じ手に掛からんだろう」
「今の内に処分を!」
「まぁ、そこまで言うなら仕方がない。ほれ」
ウィル・クデタはユートから手渡された片手剣に、戸惑いを覚えながらユートの顔と剣を交互に見る。
「それはレプリカに過ぎないんだが……」
「な、何じゃ? 妾を殺す気満々な嫌な気配じゃの」
「竜殺しの聖剣アスカロンという」
「あ、アスカロン?」
「竜殺しとはのぅ」
ミレディが思い出す。
「オー君が造った【ドラゴン殺せる剣】みたいな?」
「そういや有ったな、彼の工房ん中に」
効力の程は窺い知れないのだが、オルクス大迷宮の邸に存在したオスカー・オルクスの工房内に、試験的に造ったらしい竜殺しの剣――【ドラゴン殺せる剣】という“銘”の剣が無造作に置いてあった。
そう、銘が【ドラゴン殺せる剣】だった訳であり、思わず『電車斬り』とかを思い浮かべてしまう。
「そのアスカロン・レプリカは嘗て、僕の知り合いが天使長から授かった剣を視て【創成】で創った物だ。レプリカとはいえきちんと竜殺しの概念が付与され、普通に竜への特効が付いているから、結界で弱体化して人型に戻っている上に、ダメージも効いている今ならお前みたいなボンクラでも殺せる。だからティオ・クラルスを斬って遠慮無く殺すと良い」
「え、あ……う……」
「刃を寝かせて押し当てるだけでも焼け爛れ、醜く酷い傷が残せる聖剣だから、復讐をしたいなら幾らでも殺れば良い」
「で、ですが……その……貴方は止めようとか思わないのですか?」
「止めて欲しいのか?」
「いえ、例えばですが」
「復讐を止める気は無い。虐げられた者が仕返しをするのは権利みたいなもの。復讐は何も生まないとか、連鎖がどうのとか、復讐をした後は虚無感しか残らないとか、訳知り顔で綺麗事を言う心算は更々無いな。だから殺せば良いさ、尤も……ティオ・クラルスってクラルス一族だと言っていたから、つまりはクラルスの族長とか姫君って身分。今度は人間族が竜人族から復讐されるかも知れんが。魔人族との戦争中に他と殺り合う余裕が有ると良いんだけど……な」
「なっ!?」
「さっき連鎖がどうのとか言ったろ? 綺麗事じゃなく事実として理由の如何に拘わらず、復讐された者の親族が復讐した者に復讐をする。有り得るとは思うんだけどな」
「それは。でしたら何故、私を止めないのですか?」
「それも含めて好きに考えて好きに行動しろ。その昔に【解放者】って連中だって言ってる。『人の未来が自由な意思の元にあらん事を切に願う』ってさ」
尚、文句を言いたいであろうクラルスの姫と【解放者】のリーダーだった少女は今現在、口を動かせない様にされている。
(竜人族はその様な事などせぬわ!)
やらかしそうな若者とか居るけど。
(自由の意味が違うし!)
それは自由というよりは横暴であろうか?
「で、ですが!」
「結局、お前は殺せない。そういう事だな」
「っ!」
ビクリと肩が震えた。
「お前、僕が賛同して殺してくれるのを期待したか? 流石はボンクラ貴族だ。貴族が肌に合わないって、いったいどんなジョークかよって話だな」
「う……」
「寧ろ、イルワが言っていた通り冒険者にこそ向かないな。人間を殺せなかったら仲間諸共に殺されるしかないのに」
盗賊が敵対者で仲間が女なら、目の前で犯される可能性だってある。
「イ、イルワさんがそんな事を?」
ガクリと座り込んでしまうウィル・クデタ、その様は黄昏ているというべきではあるが、ユートはそんなボンクラ貴族など最早どうでも良いと見切りを付け、ティオ・クラルスの方へと向き直り……
「さて、ティオ・クラルス……君には訊いておきたい事がある」
「ふむ、迷惑を掛けた事だしの。訊かれた事には偽り無く答えよう」
改めて口を動かせる様になったティオと、話し合いを始めるのであった。
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変態化は免れました。
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる