ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 少しだけ早めに書けました。




第45話:裏切者へ哀しい結末を

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ユートは風の精霊に頼んで清水を捜すが、何故かこの世界では精霊とのアクセスが困難で恣意的に接続する必要がある。

 

 とはいえ、接続さえ出来れば捜す事は其処まで難しくはない。

 

I found it(見ぃ付けた~)

 

 遥か古のカセットブックという遺品も同然な代物が存在してて、フクロボなる英語勉強カセットのキャラクターが存在する。

 

 昭和もまだ五十年代だ。

 

 因みにフクロボはフクロウをパロった水色のロボット、造られた際に英語ではなく日本語しか喋れず放逐され、女神だか何だかから【困ったボタン】を与えられ旅立っている。

 

 ユートの科白はかくれんぼをしていたフクロボと少女が、隠れていたオッサン? を見付けた際のものである。

 

 I found it.……は少女の方が言った科白だけど。

 

 尚、ユートがこんなのを知っていたのは昭和四十年代に生まれた叔母の一人が、中学生時代に購入したのを大事に保管していて幼い頃に聴かされたから。

 

 英語が出来ればある程度は海外で会話に困らないと言われて。

 

 ユートがフクロボを知ってから興味を懐いたのは、ロボットという科学の産物ではなく【困ったボタン】という不思議アイテム。

 

 趣味の魔導具造りはこのアイテムから来ていた。

 

 それは兎も角、虚空瞬動の様な感じで瞬時に清水幸利の乗る空中を浮遊する魔物の背後に着地。

 

《READY》

 

「え?」

 

 突然の電子音声に振り返るも、時は既に遅くファイズフォンを開いて【Enter】キーを押す。

 

 手にはファイズショット。

 

《EXCEED CHARGE!》

 

 ピピピピピと警戒な音を響かせながら、赤いフォトンブラッドがフォトンストリームを通って右手の甲に填まるファイズショットへとチャージされていく。

 

「せあ! グランインパクト!」

 

 

 振り向き様に、清水幸利の頬へとグランインパクトが極る。

 

「ギャァァァァァァアアッ!?」

 

 本来なら5.2tという破壊力な上に、ユート自身の腕力が加わった凶悪な一撃だから清水幸利の上半身乃至、首から上が吹き飛んでもおかしくなかったろうけど、非殺傷設定の“所為”で痛いという“だけ”で死なずに終わる。

 

 まぁ、魔物から落ちたから地面の染みになってしまうかも?

 

 ユートは殺傷設定にて魔物にもグランインパクトを喰らわして、面倒臭そうな表情になりながらも清水幸利を追い掛け、ギリギリで地面にぶつかる前に回収に成功をすると、右足首を握って引き摺りつつウルの町へと戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 清水幸利……真性のオタク。

 

 クラスメイトは彼自身が徹底的に隠したから知らない事実だが、それこそハジメに小悪党四人組が虐めで言った『キモオタ』という言葉に当て嵌まるレベルだ。

 

 家の部屋にはエロゲが積まれ、薄い本が厚いタワーになるくらいに積み上げられていて、それこそ清水幸利のリビドーを鎮めるのに一役も二役も買っている。

 

 御気に入りな美少女フィギアもあられもない姿で所狭しと列べられていたし、何なら清水幸利の眠るベッドに可動式の美少女フィギアがキャストオフ状態で置かれ、変な染みが股間や顔などに染み付いてしまっていた。

 

 尚、オ○ホが合着されてある辺りからして、果たしてどんな理由からベッドの上に置かれているのかは知れようというもの。

 勿論、普通のフィギアも硝子製ラックに並んでいる。

 

 壁一面に美少女ポスターが貼られていて、やはり幾つかは股間部や顔や胸に変な染みが……

 

 本棚には漫画やラノベが並んでいたし、エロ漫画やAVなど歳を誤魔化してネット通販して手に入れており、擦り切れるまで読んでいたしAVの喘ぎ声を聴きながらフィギア遊びもしていた。

 

 シチュエーションも勇者として異世界に召喚され、国のお姫様やメイドや助けられた町娘と和姦、或いは敵将を強姦なんてのも頭の中で試したし、寧ろ魔王軍で国を落としてお姫様を嬲りモノにするなんてのも考えた程。

 

 当然ながら召喚をされた当初、リリアーナが紹介されたその夜に彼女のあられもない姿を夢想しながら耽ったものだ。

 

 何しろリアル・プリンセス。

 

 妄想もリビドーも全力全開手加減無しで働き、一日に数発も壁を汚してしまうくらい。

 

 当然ながら家族には知られていたし、兄や弟から煩わしいと思われていて態度で表したり言葉が飛んでくる事すらある。

 

 流石に親は心配をしてくれていた様だが、清水幸利からしたなら寧ろそれこそが煩わしい。

 

 中学生時代は虐めに遭った経験から、高校生に上がってからそれをひた隠しにしていた。

 

 南雲ハジメという羊が居たし、何よりそれを視る限り知られたりしたら、自分も同じ目に遭うのは火を見るより明らか。

 

 そんな清水幸利にも転機が訪れる……と、勝手に思った出来事こそトータスへの勇者召喚。

 

 はっきり云って『異世界キタァァァァァァアアッ!』と、何処ぞの仮面ライダーの如くリアクションを取りたくなる程に。

 

 ラノベや漫画やアニメで夢想はしていたが、有り得ないと捨てていた勇者召喚による異世界転移、しかもチート持ちとなればま浮わつくのも無理はない。

 

 実際にチートだった。

 

 少なくとも能力はトータス人の一般人の数倍、闇術師という天職と闇魔法という技能。

 

 他にも程々な技能が二~有り、ニヤつくのを止められない。

 

 だけどすぐに現実へ引き戻されてしまったのは、地球でイケメンな文武両道チート野郎とも云える天乃河光輝の天職が【勇者】で、全ての能力が100という清水幸利の倍は有るのだ。

 

 技能も一杯みたいで、メルド・ロギンス騎士団長からして『規格外な奴』と誉め称える程。

 

 メルド・ロギンスはレベル60越えで能力は300くらいだが、レベル1で三分の一に達しているならば、天乃河光輝が同じレベルになればメルドの倍以上となるのは最早、約束されている様なものであろう。

 

 自分も或いはメルドを越えるかも知れないが、天乃河光輝には決して並ぶ事すら叶わない。

 

 何の事は無い結局、清水幸利は勇者のオマケでしかなかった。

 

 勇者を彩る賑やかし、即ち単なるモブというやつである。

 

 清水モブ夫という訳だ。

 

 しかも【二大女神】や愛子先生やもう一人が奈落の底に落ちて、否が応でも死という事象を頭に焼き付けられてしまい、清水幸利は部屋に引き篭る様になった。

 

 幸いにももう一人が愛子先生を連れて戻り、清水幸利の引き篭りが誰かに文句を言われる事も無くなり、そしてその間に読み続けていた闇術に関する本。

 

 結果として闇術に大きな適性を持っていた清水幸利は、洗脳という極めつけな魔法を手にした。

 

 とはいっても、簡単に使える程に御都合的なモノでもなかった。

 

 例えば城のメイドさんに使いたくても、自我が有る存在に対しては相当な時間が掛かると判明し、その間に気付かれてしまえばどうなるかは知れたもの。

 

 肩を落とした清水幸利だったがふと気付き、魔人族がやっているという魔物の支配とかならばどうか? と考えた。

 

 魔物は自我が薄く多分に本能的な存在、これなら自分でも支配してしまえるのでは?

 

 実験的に王都から抜け出しては雑魚を相手に洗脳を試してみて、人間に比べると容易く支配が可能だと判明した。

 

 その後、勇者(笑)に付いていくのではなく愛子先生が作農師として動くと聞き、優花が結成をした【愛ちゃん護衛隊】に交じり北の山脈で魔物を支配する事にする。

 

 まぁ、ウルの町に来たのは彼からすれば北の山脈という狩場として丁度良かったから。

 

 清水幸利が闇系統に特化しているとはいえ、僅かな時間では群れのリーダーを支配するという効率的な手法でも、精々が千に届けば御の字でしかも二つ目の山脈に棲むブルタール級がやっと。

 

 再会した時には皆が偉業に畏怖と畏敬の念を懐き、特別扱いをするのを夢想してやってきたけど、限界は早々と訪れたのである。

 

 だけど幸運? にもとある存在の助力と全くの偶然にも支配が出来たティオの存在が、何と四つ目の山脈の魔物すらも支配する力を清水幸利に与えた。

 

 こうして得た力に、清水幸利の精神的なタガは完全に外れてしまったのである。

 

 満を持して自らの“特別性”へ悦に入りながら、ウルの町へと魔物の大群を差し向けた。

 

 契約に基づき恩師たる愛子先生を殺す為、魔人族の勇者として迎え入れられる為に。

 

 自身の身体能力が高くないのは自覚しており、空飛ぶ魔物に乗って最後方で見物をしていた。

 

 刹那、目を焼く凄まじいまでの極光が魔物の軍勢を消し飛ばす。

 

「……は?」

 

 完全に意味不明だ。

 

 確かに勇者(笑)辺りが聖剣へと付与された魔法で、極光? っぽい光線を出せていたのは覚えているのだが、勇者(笑)はホルアドのオルクス大迷宮に挑戦中であり、況してやあそこまで凄い威力では有り得なかった。

 

 寧ろあれは【Fate/】シリーズのセイバー、アルトリア・ペンドラゴンが使う【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】を思わせるくらいの……それすら越える威力ではなかったか?

 

 そう思ったら今度もまた凄まじい威力の光線が放たれた。

 

 まるで【バスタード】の古代語魔法……【七鍵守護神】である。

 

 又もや凄まじいばかりの熱波が拡がり、魔物の軍勢を焼き滅ぼしていくのが見えた。

 

 まるで【聖戦記エルナサーガ】の最強魔法【熱核雷弾】の如く。

 

 又もや放たれる赫い極光はまるで【スレイヤーズ】の竜破斬。

 

 そして極めつけとして放れたのは虹色の極光、まるでパーフェクトゼクターでマキシマムハイパーサイクロンを放ったかの如く。

 

 その後は次々と減っていく魔物だったが、再び凄まじいばかりの攻撃が放たれ魔物が壊滅したかと思ったら、後ろから《READY》という音声が響いて、振り向いたらファイズが後ろに立っていた。

 

 直後の衝撃と凄い痛みに意識は混濁し、気付けば周りには見覚えのある連中や仮面ライダー達に囲まれ、目前には殺す予定だった筈の愛子先生の姿が在ったのだ。

 

 本当に意味不明で理解が追い付かないが、あの六万にも届く魔物の軍勢が僅か一時間足らずで溶けて消えたのは解る。

 

 余りにも理不尽。

 

 いつだって世界はこんな筈じゃなかった事ばっかりだ……とか何とか思いながら、茫然自失となって愛子先生の顔を視ているしかない清水幸利であったと云う。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 愛子先生は顔を引き攣らせながらそれを見つめる。

 

 契約通りにユートが清水幸利を連れてきたのは良い、良いのだが足首を持って頭がガンガンと地面に打ち据えられながら、狩りで獲た獲物を引き摺るかの様に連れてきたのだから仕方がないだろう。

 

「あの、緒方君?」

 

「何かな、先生?」

 

「し、清水君が何だか大変な事になってるんですけど……」

 

 そのド頭をしこたま打ち付けられた所為か、タンコブだらけになっている清水幸利。

 

「特に気にしない事だね。尚、僕は一切合切気にしていない」

 

「気にして下さい! 嗚呼、何て事に……清水君! しっかりして下さい清水君!」

 

 ガックンガックンと揺さぶりながら叫ぶ愛子先生だが、清水幸利は余計に酷い感じになってた。

 

「う、ううん?」

 

 だが、その甲斐もあってか上手く清水幸利は気が付く。

 

「な、何が……ハッ! 俺は……確か……ファイズに殴られて?」

 

 自分でも何を言っているのかが理解出来ていない。

 

 ファイズに殴られたとかいったい何を血迷ったかと、清水幸利はブンブンと首を横に振った。

 

 だけど今一度、顔を上げてみたら確かに仮面ライダーファイズの姿が其処に在る。

 

「うおわぁぁぁっ!?」

 

 トータスへの異世界召喚自体が非現実的だが、仮面ライダーが居るのもまた非現実的である。

 

 だけど、ユートが仮面ライダーWに変身したのは見ていたからか漸く気が付いた。

 

「お、お前は……緒方か!?」

 

 目の前のファイズがユートであるという純然たる事実に。

 

「ああ、そうだ」

 

 ユートはファイズフォンを操作して変身を解除する。

 

 ファイズギア一式を装備している以外は、特に変わりない姿の侭に本来のユートに戻った。

 

 やはり吃驚する清水幸利ではあるが、愛子先生も余裕がある訳ではないからか話を始める。

 

「清水君、貴方がこんな事をした理由は魔人族と契約して私を殺す為ですか?」

 

「へぇ、莫迦ばっかりだと思っていたけど意外と冷静に答えに辿り着いたんだな」

 

 それは肯定の意。

 

「特別でありたい……そういう意図で勇者として迎えてくれる。魔人族から持ち掛けられたのですね」

 

「もう何もかも解ってるんだな。そうさ、あの日に俺は魔物を集める為に町を出た。その時に魔人族に会ったのさ。俺のこの力は勇者に相応しいものだって、畑山先生を殺せば魔人族の勇者に迎え入れるって契約をしたんだ!」

 

 初めて肯定された気分だったのかも知れない、清水幸利は恍惚とした表情で語ってきた。

 

 正直、気持ち悪い。

 

「清水君はそれで本当に良いと、そう考えていたのですね?」

 

「当たり前だろ。赤の他人な先生と俺……どっちを選ぶかなんて決まってんじゃねーか!」

 

 哀しそうな瞳の愛子先生だったけど、それでも予め聞かされていたからショックは小さい。

 

「貴方がしたい事は理解をしました……ですけど、私一人を殺す為にウルの町の全体を危機に陥れる様な必用はありましたか?」

 

「そのウルの町も標的なのさ」

 

「え?」

 

 これにはユートを除いた全員が唖然となってしまう、一応は似た事を言われていたがまさか……といのが本当の思い。

 

「魔人族からしたら人間の町なんか無くなった方が良いんだろう、序でに町を滅ぼす為に魔物を貰ったんだからな」

 

「清水君……」

 

 まさか、此処まで歪んだ事を考えていたとは流石に思ってはいなかった愛子先生、自分が清水幸利を上手く導けなかったのが原因なのかと拳を握り締めた。

 

「そうまでして勇者(笑)になりたかったのか?」

 

 凄くニュアンスが違う気がする優花や雫達。

 

「当たり前だろう! 俺が勇者になるべきだった! 天之河じゃなく誰でもなく、この俺が!」

 

「勇者がそんなに良いもんかね。嘗てロトゼタシアで勇者をやった経験があるけど、『悪魔の子』とか言われて国を挙げて追い回されたし祖国は魔物に亡ぼされるし、身勝手に使命を押し付けられる……いったい勇者なんかの何処が愉しいんだろうな?」

 

 ハルケギニア時代の放浪期の事だったが、ユートはDQ世界へと精霊神ルビスからの頼みで向かったのを切っ掛けに、ナンバリングを中心に疑似転生や転移などにて渡り歩いた。

 

 ルビスからの依頼だという事でも判るだろうが、最初に向かったのDQⅢの世界だけど勇者という訳ではなく、勇者アレルの双子の弟という立場であったと云う。

 

 Ⅲ→ロト紋→紋継ぐ→DQⅠ→DQⅡ→DQⅥ→DQⅣ→DQⅤ→ダイ大→DQⅦ→DQⅧ→DQⅨ→DQⅩⅠ……が基本の流れ。

 

 但しⅩは行ってすらいないし、DQⅣは逆に派生作品とも云える【トルネコの冒険】も関わった。

 

 まだ二十代後半という人妻との付き合いからだが……

 

 それは兎も角、まだユート自身も気付いていないがDQⅩⅠに当たる世界、遂に勇者として疑似転生を果たした訳だが、生まれたばかりの時に故郷が亡ぼされてしまったし、成人して城に行けば何故か【悪魔の子】呼ばわりされるし、碌な目に遭わなかったのだ。

 

 だから今回も勇者(笑)の気が知れないとしか思わない。

 

 そして清水幸利の気も知れないといのが正しかった。

 

 ユートは二度と勇者なんて立場に成る心算は無いのだから。

 

 まぁ、似た様な立場には幾らか成ってしまったりするけど。

 

「俺なら上手くやれるんだよ! 俺が! 俺が勇者だったら!」

 

「たった今、目論見を僅か数人に潰された程度のお前がか?」

 

「なっ、なっ!?」

 

 屈辱からか悔しさからか顔を真っ赤しながら表情を歪ませる。

 

「自分の計画すら上手く出来ずにいた癖に、自分が勇者なら上手く出来たとか烏滸がましいにも程ってもんがあるだろうに」

 

「う、うるさい! うるさい! うるさい! 俺が勇者なら全てが上手くいったんだ! それなのに仮面ライダー? それになんなんだよあの魔物を殲滅した攻撃! 意味が解んねーよ! クソッタレがぁぁぁっ!」

 

 ユートに煽られた清水幸利は、暴れ出して愛子先生の背後に回ると長い針を手に、彼女の首筋へとその針を構えて見せる。

 

「動くな! 勝手に動いたりしたら刺すぞ! こいつは北の山脈の魔物から手に入れた猛毒の針だ。刺されば藻掻き苦しんで死ぬ事になるんだからなぁっ!」

 

 迂闊に動けなくなる香織達だったけど、ユートは意にも介さないで一歩を進める。

 

 

「緒方ぁ! テメエ、出来ないとか高を括ってんな? いつだって刺せるんだぞ!」

 

「なら、やってみろ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「だけど心しろよ、やればお前は人質を失う。そうなれば此方に躊躇う理由自体が無くなるからな」

 

 ゾワリとしたナニかが清水幸利の背筋を通った。

 

「どうした、やらないのか?」

 

「ううっ!?」

 

「やれば精々、苦しめて嬲り殺しにしてやるがな!」

 

 凄惨な笑みが本気を思わせた。

 

「ぐっ!」

 

 清水幸利が人質を取って有利な筈なのに、会話の主導権は変わらずユートにあったのだ。

 

 かといって、清水幸利は闇系統の魔法は天才的だったとしても、肉体的には一般人よりは上であれ術師なだけに、メルド・ロギンス辺りには敵わない程度である。

 

 勇者(笑)みたく満遍なく上がる訳ではないのだから。

 

 ハァハァ荒い息を吐く所為で、見た目には中学生っぽい愛子先生を後ろから抱き締めた状態な為、清水幸利は端から視たなら単なる変質者にしか思えない。

 

 他所から視れば膠着している、実際にはユートが主導権をひん握った状況下、ユートが行き成り手の中に四角いボックス状の機械を手品みたいに出した。

 

「なっ!?」

 

 すわ、反撃か!? 清水幸利が警戒心を露わとするが、ユートは機器に白い龍のクレストが描かれたカードを装填、腰にその機器据えると伸長されたシャッフルスラップで装着が成される。

 

 ターンアップハンドルを引きながら……

 

「変身!」

 

 叫ぶユート。

 

《TURN UP!》

 

 ベルトとなった機器……アルビオンバックルから、カードのクレストと同じクレストが描かれているオリハルコンエレメントが顕れ、ユートがそれを潜ると更に電子音声が鳴り響く。

 

《Vanishing Dragon Balance breaker!!!》

 

 【白龍皇の光翼】の禁手である【白龍皇の鎧】だが、本来であれば仮面ライダー剣系の変身をしなくても直に禁手化が出来る。

 

 これは偏に癖である。

 

 反応が一拍くらい遅れたが問題は無い、ユートは【白龍皇の光翼】の力を展開した。

 

《Reflect!》

 

 原典【ハイスクールD×D】に於いては、兵藤一誠が【赤龍帝の籠手】から発動した能力だけど、本来のReflectは【白龍皇の光翼】の能力だったりする。

 

 キンッ! 放たれた貫通性の高い魔法が反射され、撃った存在へとその侭返してしまう。

 

「ギャァァアアッ!」

 

 丁度、心の臓へと命中したらしく魔人族らしき男が落ちた。

 

「ふん、愛子先生を殺る心算だったみたいだな」

 

 射線からしてユートも清水幸利も巻き込んでいたらしい。

 

「あ、痛い!」

 

「っ!」

 

 可愛らしい声で悲鳴を上げたのは愛子先生、振り返れば清水幸利の持った針が愛子先生の細い首に刺さっていた。

 

「清水……」

 

「ち、ちがっ!」

 

「死ね」

 

 ドパン!

 

 瞬時に手にしたのは黒と紅が彩る重苦しい雰囲気なオートマチック拳銃、モーゼルの架空銃ではあるがユートは普通に再現した。

 

 イタクァと共に。

 

 五〇口径という凶悪さで火を噴いたクトゥグア、清水幸利の頭は風穴処の話ではなく即死した。

 

「嬲る心算だったが、意外と腹に据えかねたらしいね」

 

 愛子先生を傷付けられたというのが、ユートにとっては許し難い行為に映ったのであろう。

 

 幾度も情を交わせば絆されるのも有り得るし、愛子先生を割かし大切に思っていたのだろう。

 

「あ、愛ちゃん先生! 毒は? 大丈夫なの?」

 

「え、ええ。私は別に。ですが、清水君が……嗚呼っ! 頭がこんな事に? ゆ、緒方君! どうしてですか!? 私が大丈夫なのって知っていますよね? 私の首に着いてるチョーカーを用意したのは貴方なんですから!」

 

「ど、どういう事?」

 

 優花は意味が判らなかったのか小首を傾げてしまう。

 

「先生のチョーカーは優花に上げたバレッタと同じ、対デバフ効果が付与された魔導具なんだよ」

 

「それって、対毒や対麻痺なんかの効果が付いてる?」

 

「まぁね。因みに対妊娠な効果も有るから万が一も無いな」

 

 なんて言うと、優花を始めとする女性陣がほんのり赤くなる。

 

 対妊娠というか、【異物排除】の効果で男のアレも排除対象となっている訳だ。

 

 見渡せば半分以上が困惑中。

 

 まぁ、行き成りクラスメイトがド頭を五〇口径の弾丸で破裂させられて死ねば、流石に精神的なキツさがあるのだろう。

 

 香織など真っ青だし。

 

「さて、先生には朗報がある」

 

「朗報?」

 

「実は真のオルクス大迷宮で先生は僕に処女を捧げなくても、帰す事は出来たって話なんだ」

 

「それって、悲報の間違いじゃないですか?」

 

「でも、随分と気持ち良さそうだったよね?」

 

「うぐっ!」

 

「それは扨置き、本来なら迷宮脱出呪文のリレミトで先生を連れ出す事は出来た。だけど残念ながら【始まりの四人】だった香織と雫は不可能。パーティに入れられなかったからね」

 

 愛子先生は兎も角として、これは香織も雫も既に聞いた事。

 

 ユートのリレミトはパーティを組んだ人間でないと効果を発さない為、無意識でパーティインを拒んだユートは二人をリレミトで帰す事が出来なかった。

 

「今は可能だけどね」

 

 ライセン大迷宮を脱出するのにリレミトを使い、二人もそれにより大迷宮を脱出したのだから。

 

「だから先生には【願い】を叶える権利がある。どんな願いも可能な限り一つだけ叶えて上げる」

 

 何処の神龍かと云わんばかりの科白に、愛子先生は清水幸利の死のショックも吹き飛び目を見開いてユートを見つめるのだった。

 

 

.




 次で決着かな?


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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