ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 存外と早く書けました。





第47話:シアの怒りでウッサウサ

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 一時間という短い時間で取り敢えず終わらせた二人……ユートとシアは、備え付けのユニットバスで身体を清めて臭いも散らしておく。

 

 年齢一桁の幼女に嗅がせる臭いではないのだから当然の処置だろう。

 

「うゆ?」

 

 目を覚ました幼女――ミュウ? がキョロキョロと辺りを見回している。

 

「目が覚めたみたいだな」

 

「良かったですぅ!」

 

「っ!」

 

 突然、声を掛けられてビクリと肩を震わせたが幼女――ミュウ? は危険が無さそうだと判断をしたらしい。

 

「あの、ミュウはミュウです。お兄ちゃんとお姉ちゃんはどなたですか?」

 

 存外とハッキリした喋りだが、まだ警戒心は解いていないらしく自らを抱き締める様な仕草。

 

「僕は優斗。人間族……かな?」

 

「私はシアといいます。兎人族ですよ」

 

 一応、カテゴリーとしては人間ではあるものの神殺しに転生したり、魔族と魂の契約をしていたりとしっちゃかめっちゃかな自覚はある。

 

「ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんなの? よろしくお願いしますなの」

 

 親の躾が良いのか、それともこの子が礼儀正しいのか? 或いはその両方かは定かではないが、ペコリと頭を下げるミュウにユートもシアもほんわかとした雰囲気となる。

 

(多分、母親似だろうし……レミアだったかな? 随分と美しいんだろうね)

 

 ユーキから聞いていた海人族の母娘という事でミュウを、二十歳半ばくらいに成長させた姿を夢想してみた。

 

 まぁ、幼女だからペタンコなだけに胸は可成り盛った想像だったが……

 

 尚、実際に逢ったら殆んど想像と変わらない姿に驚愕を禁じ得なかったり。

 

 胸も。

 

 ユートがレミアを妄想していると、ク~ッという音がミュウのお腹から響く。

 

「腹、減ってるみたいだな」

 

「……」

 

 ちょっと恥ずかしそうに頷いた。

 

 ユートはアイテム・ストレージ内から、お茶と串肉とお握りの三点セットを取り出してミュウに与える。

 

「ほら、これを食べると良い」

 

「ありがとうなの」

 

 ちゃんと御礼を言って受け取る辺りからやはり礼儀正しいミュウは、お茶で口の中を湿らせてから串肉にかぶり付いて咀嚼をする。

 

 パーッと表情が明るくなった。

 

「おいしいの!」

 

 これはトータス産ではなく日本で作られた軽食的な弁当であり、これと同じセットがまだ幾つかアイテム・ストレージに容れてある。

 

 因みにこの世界のではなく【リリカル】世界の日本で、作ったのは高町桃子だから美味しいのも当然の事だった。

 

 幾つか有るとはいえ、百も二百も有る訳ではないから目に見えて目減りをしたけど、美味しそうに頬張るミュウを見れたので悪くないと思う。

 

(ヴィヴィオの小さい頃を思い出すね)

 

 出逢った頃はまだミュウくらいの年齢だった事もあってか、ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトの幼い頃を脳裏に描いた。

 

 シアもミュウを見てニコニコしているのだが、彼女の場合はユートとの子を成した後を妄想しているのでベクトルが少し違う。

 

「それで、ユートさん。ミュウちゃんはどうする御心算ですか?」

 

「真っ当な手段としては保安署に預ける事だろうな……海人族ってのは亜人への差別が仕事をしていないレベルで、ハイリヒ王国では保護されているんだ。預ければ手厚く保護してくれるだろう」

 

「そ、それは……でも……」

 

 この世界……トータスでは広義では亜人にカテゴライズされる種族が、魔力を持つからと個別種族とされている場合もあった。

 

 今は亡びている吸血鬼族と竜人族がそうであったし、現在は人間族と戦争の真っ只中な魔人族も同様であろう。

 

 つまり、魔力が無い種族が亜人族として括られているという訳だ。

 

 勿論、遥か昔の【解放者】が一人たるメイル・メルジーネは兎も角として、海人族は魔力を持たない亜人族という括りである。

 

 事実としてミュウからは魔力を感じない。

 

 精神力を意味するMPは持っているにしても、魔力値はどうやら0であるらしかった。

 

「あの、私達で送るのはどうでしょう?」

 

「却下だ」

 

「何故ですか!?」

 

「阿呆、只でさえ誘拐されてこんな場所に居るんだろうに。下手に連れ歩いたら僕らも誘拐犯共の仲間入りだぞ!」

 

「うぐっ!」

 

 通常、西の海のエリセンに住まう海人族。

 

 それが東側のフューレンに独り切りで居る理由なんて、エリセンの親許から拐かされたに決まっているのだから。

 

 因みに、ミレディからの情報から赤の大砂漠が現代のグリューエン大砂漠で、赤竜大山が目的地のグリューエン火山、その先の無法都市アンディカの辺りがエリセンに当たるらしい。

 

 尚、ウル湖と神山とライセン大峡谷は当時と名前が変わらず、ハルツィナ大樹海は白の大樹海でハルツィナ共和国が存在していたと聞く。

 

 つまり、次の大迷宮が存在するグリューエン火山の先にエリセンが在り、そして其処にこそ別の大迷宮――メルジーネ海底遺跡が在る。

 

 エリセンは行き先と被っていた。

 

 だけど、だからといってミュウを連れて行くなど二重の意味で有り得ない。

 

 一つはシアに言った通り、誘拐されてこんな場所に居たミュウを連れ歩くと自分達まで誘拐犯扱いだという事。

 

 二つ目はユート達の旅が物見遊山ならば問題も無かったが、大迷宮の攻略をするのが目的なのに何ら力を持たない幼女を連れて行けないのだ。

 

 まぁ、一旦はエリセンまでミュウを送り届けてからメルジーネ海底遺跡を攻略後に改めてグリューエン火山の攻略をすれば良いとも云えるけど、少なくとも魔人族が既にシュネー雪原の大迷宮をクリアしている事実、後れを取るのは余り宜しくない事態を引き起こしかねない。

 

 例えば、大迷宮の入口を破壊する……とか。

 

 実際に真のオルクス大迷宮の第百層を丸ごと潰して出入り不能にしたユート、ライセン大峡谷側の隠し出口に入口を増設しているからハウリアが出入りしているが、本来の入口からは入れなくしている辺り懸念は当たり前だろう。

 

 ライセン大迷宮も入口を潰した。

 

 此方もミレディの部屋からの出口側に隠し入口を増設してあり、攻略は不可能な状態にしているから徹底をしている。

 

 だからこそ近場から順繰りに攻略したい。

 

 ハッキリ云ってしまえばミュウを連れて行くのにはデメリットばかりなのだ。

 

 シアは自らも似た境遇に成り得るから同情というより、自身に被せて考えてしまい自分で何とかしたいのかも知れないが……

 

 【閃姫】の一人と成ったからには多少の我侭は叶えてやるけど、破滅のロードを突き進むというのは多少とは云わない。

 

(そういえば、本来のハジメはミュウをどう扱ったんだろうな?)

 

 境遇は変わらない筈だからやはり保安署か? とも思うが、だとしたらレミアと共にヒロイン枠に納まる筈など無いであろう。

 

 この世界の主人公とはいえ、ユートより出来る事には限りがある南雲ハジメならばどうした?

 

 二人はヒロイン枠だから間違いなくエリセンへと一緒に行ったろうが、それはいったいどうやって納得させたのだろうか?

 

 ユーキなら答えを識っているだろうが……

 

(攻略本を読みながらRPGをしてもな)

 

 多少なら知識も欲しいが、答えを欲している訳ではないのだ。

 

「兎に角、ミュウは保安署に預ける。僕らはこれからグリューエン火山に行くんだからな」

 

「うう、はい……」

 

 ユートが完全に決定したからにはシアでは覆し様もなく、力無く頷く事しか出来ずに表情が沈んでウサミミもへにゃっと垂れてしまう。

 

「ミュウ、これから君を守ってくれる人達の所へ連れて行く。きっと多少の時間は掛かるだろう、でもいつかはエリセンにも帰れる筈だから」

 

「……ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんは?」

 

 ユートからの言葉にミュウは不安そうな声で、ユート達がどうするのかと訊いてきた。

 

「ゴメンな、着いたら今はお別れなんだ」

 

「やっ!」

 

「まぁ、そう言うわな」

 

 絶望的な状況下で垂れ下がる蜘蛛の糸の如くか細い希望、四歳という護られなければ生きてはいけない幼児からすればユートは正にヒーロー。

 

 そんな護り手の手を放せる筈もなかった。

 

「ユートお兄ちゃんとシアお姉ちゃんが良いの! ミュウは二人と居たいの!」

 

 殊の外に拒絶が返ってきたのは想定済み。

 

 ミュウが丸っきり駄々っ子の様にシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた為、シアは戸惑いを浮かべるばかりである。

 

 大人しい感じだったのはユートとシアの人柄を確認中だったからであり、信頼が出来る相手だとミュウは判断したのらしく駄々を捏ねてきた。

 

 本来はもっと明るい子なのだろう。

 

 可愛い女の子が信頼してくれるのは決して悪い気はしないのだが、公的機関への通報はどうしても必須な事ではあるし、旅先で【グリューエン大火山】という大迷宮の一つに挑まねばならないからには、ユートもミュウを連れて行く心算なんて更々無かった。

 

「仕方がない……な」

 

 全力で不満を露わにしていたミュウを、ヒョイッと抱きかかえ強制的に保安署に連れて行く。

 

 ミュウからすれば本当にか細い希望の糸だし、離れたくないから保安署へ行く道中、ユートの髪を盛大に引っ張って、頬を伸びてない爪で引っ掻いたりと抵抗を必死に試みた。

 

 端からは視れば寧ろユートこそ誘拐犯として、事案だと保安署に通報されていただろう。

 

 髪はボサボサで頬に引っ掻き傷や小さな紅葉を作り保安署に到着、保安員達が目を丸くする中でミュウに関する事情の説明をする。

 

 保安員が表情を険しくする辺りやはり問題しか無い事だったらしく、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要という事で、ミュウを手厚く保護する事を約束して署で預かると申し出た。

 

 本部からも応援が来るらしく、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとしたのだが……

 

「ユートお兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」

 

 潤んだ瞳で上目遣いに言われた。

 

 この侭別れてはどうにも宜しくないと判断したユートは、ちょっとばかり難しいかもとは思うものの説得する事に。

 

「ミュウ、僕らはこれから君と別れて行くべき道を進むだろう」

 

 ジワ~と涙が浮かぶ。

 

「僕は西の海のエリセンに行った事は無い」

 

「?」

 

 首を傾げるミュウ。

 

「グリューエン大砂漠を抜けたらエリセンに行く予定はあるんだが、若しミュウがエリセンに居てくれたら案内とかして貰えたら嬉しい」

 

「っ!」

 

 涙目ながら顔を上げたミュウの表情は吃驚したというものと喜色に似たもの、二つが綯い交ぜとなった不思議なものだったと云う。

 

「出逢いがあれば別れもまたある。だけどそれなら再会ものだったまたあるんだよミュウ」

 

「ユートお兄ちゃん……エリセンに来てくれるの? シアお姉ちゃんも?」

 

「勿論だ」

 

「絶対に行きますよ!」

 

 涙ぐむミュウ。

 

「だから今は笑顔で別れよう。ミュウを思い出す時の顔が笑顔である様に」

 

「ん、わかったの! ママと待ってるの!」

 

 先にミュウがエリセンに居る可能性は低いが、それでも約束だとこの世界には無い指切りをしてユートとシアは保安署を離れた。

 

 軈て保安署見えなくなるくらい離れた場所まで来た頃に、やはり後ろ髪を引かれているシアに対してユートが声を掛けるその瞬間……

 

 ドォガァァァアアアアアアアアアンッッ!

 

 背後でけたたましいまでの音で爆発が起きて、黒煙が上がっているのが見えた。

 

「ユートさん、あそこは!」

 

「保安署! まさかミュウ!?」

 

 未だに視線は感じたから狙いはシアかと思っていたが、やはりミュウにも狙いを付けていたのかとユートは拳を握り締める。

 

「行くぞ、シア!」

 

「合点ですぅ!」

 

 駆け出す二人。

 

 ユートはミュウに何かしらあったら必ず落とし前は付ける……と、深淵の闇より尚深い闇の底より怒りを露わとしていたのだと云う。

 

 保安署に着いてみれば表通りに署の窓硝子やら扉が吹き飛び、バラバラと散らばっている痛ましい光景が目に入ってくる。

 

 建物その物は余り破壊されてはいないらしく、即刻倒壊という様な心配が無さそうなのは正しく不幸中の幸いか? ユートとシアが中に入ってみると対応をしてくれた年嵩な保安員や若い保安員が俯せに倒れているのを見付けた。

 

「これは酷いな……両腕が折れている」

 

 気を失っているみたいだし、他の職員達も同じ様にダメージを受けて気絶している。

 

「命に関わる怪我をしている人は居ませんね」

 

 シアは魔力は有れど魔法が碌に使えないから、取り敢えずミュウを捜しに奥へ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、君はさっきの? ぐっ、痛みは激しいが、死ぬ程ではなさそうだよ」

 

「すぐに治してやる」

 

「君は治癒魔法を?」

 

「まぁね。えっと……彼の者らに優しき光と慈悲なる癒しを……ベホマラー」

 

 適当な詠唱とベルカ式魔法陣で誤魔化しつつも特定領域に回復の力を流すベホマラーの呪文を。

 

「おお!」

 

 他の気絶した職員も含めて癒された。

 

「ユートさん! 捜しましたが、ミュウちゃんが何処にも居ません! それとこんな物が!」

 

 手渡された紙……『海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族や黒髪と金髪の女共を連れて○○に来い』と書かれていた。

 

「ユートさん、これって……」

 

「欲張ったもんだな、愚かな。ミュウだけでは厭き足らず、僕のモノに手を出すだと? 木っ端な半端者共が、誰に喧嘩を売ったのか教えて欲しいみたいだなぁっ!」

 

 手にした手紙を握り潰すて焔で燃やし尽くし、他者が見たら悪夢に魘されてしまいそうな凶悪で邪悪な笑みを浮かべる。

 

「連中は保安署での僕らのやり取りを、何らかの手段で聞いていたんだろうね。ミュウが人質として役に立つと判断したから口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れようとでも考えたんだろうよ」

 

 シアはの表情は決意を露わとしていた。

 

「私は……ユートさん!」

 

「解っているか? これで関わるんなら中途半端は許されないぞ。雫から聞いたみたいな勇者(笑)の様に、期待を持たせるだけ持たせて捨て置くなんてのは絶対に……だ」

 

「は、はい! 勿論ですよ!」

 

「了解だ。最早、こいつ等は僕らにとっても完全に敵だからな……奴等の全て壊してミュウとの絆を繋ぐぞ!」

 

「はい、ですぅ!」

 

 これから先、危険であろう旅路に同行させる気は無かったユートとしては、エリセンにて再会をする約束だけで別れるのが良いと考えた。

 

 ちょっと助けただけでアレだったし、情が沸いては後で困った事態になりかねない。

 

 だけど再び誘拐されたとあっては放って置くという訳にはいかないし、自分には関係が無いと見捨ててしまう判断をしたらシアは確実に悲しむ。

 

 況してや、連中はシアや香織達――即ちユートの【閃姫】をも奪おうとしている訳だから、連中は既にユートの敵であった。

 

 情けも遠慮も容赦も一切合切微塵も無用。

 

 ユートの怒りに触れたからには連中は視る羽目に陥るだろう……悪夢の王の一欠片を。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、ユートさんはどうやってミュウちゃんを救い出す御心算ですか?」

 

「手紙に書かれた場所に素直に行って待ち構えてる連中の一番偉そうな奴、それから情報を抜き出してやるさ。他はどうせ邪魔なだけだからなぁ……皆殺しにしてやれば良いだろう」

 

「そ、そうですね……」

 

 完全にブチキレていらっしゃる!?

 

 シアはちょっとだけ粗相をしてしまう。

 

「手が足りないから皆を呼ぶか」

 

 戦力としては過剰でもこれは大都市に有りがちな闇だとすると、広域範囲に亘って組織の癌細胞が蔓延しているだろう。

 

 一つ二つ切除してもキリがない、であるならば一気呵成に全ての癌細胞を切除をするべき。

 

 ユートの呼び掛けに【閃姫】+αが集う。

 

 +αとはティオの事、彼女はまだ【閃姫】契約を交わしている訳でな無いのだ。

 

 だからデートも一応はしたけど唯一、褥を共にしていない相手でもある。

 

 まぁ、ティオ本人は今すぐに抱かれても構わない程度には思っていたみたいだが……

 

「ティオも来たのか?」

 

「ふむ、ユエ達とお茶をしておったら呼び出しが掛かったと言うたのでな。なれば妾も主殿の下へと馳せ参じねばと思うてな」

 

 長い黒髪を撫で付けながら言う様はとても似合っており、更には美貌と胸部装甲も相俟って余りにも美しい所作であったと云う。

 

「先ずは説明を。余り時間も掛けられないから、やるべき事を簡潔に言うぞ。尚、今回のミッションでは一〇〇%の殺しを行う事になる。抜けたいなら申し出てくれ」

 

 殺し……それを聞いて肩を震わせたのはやっぱり地球組となる雫と香織。

 

 元より戦争で慣れてるユエやミュウの為ならばエーンヤコリャなシア、【解放者】として教会の連中は殺していたミレディ、やはり慣れたものであるティオは普通にしていた。

 

 そして雫と香織も覚悟自体は決まっている。

 

 まだ怖い。

 

 だけど、ユートに付いていく事を自らが決めて【閃姫】契約をしたからには、いつか殺人も行うのだろうと考えてはいたのだ。

 

 罪無き人を害する訳ではないのが救いか。

 

 説明を受けた彼女らはミュウを救う事に否やは無いから作戦の遂行は確実にやる。

 

「雫、香織」

 

「な、何よ?」

 

「何かな?」

 

「別に外れても構わないぞ? 【閃姫】だからといって殺人に手を染める理由は無いからな。況してや慣れる必要性なんかもっと無い」

 

 嘗て、人を殺める事に慣れるなと恩師から言われた事があるユートだが、結局はもう慣れきってしまっているからこそ二人に言う。

 

「大丈夫よ。私は覚悟も決めていたし」

 

「ゆう君のそれは牙無き人の牙となる為、だから私も牙を振るうんだよ!」

 

 香織も伊達や酔狂でハジメへの好意を封印してまで、ユートの【閃姫】となった訳ではないという事である。

 

「判った、ならミッションスタート!」

 

 パチンと指を鳴らして作戦開始となった。

 

 最初の行き先は当然ながら手紙にあった場所だった訳だが、ミュウの姿は無かった上にチンピラがうじゃうじゃと居たから、そいつらはあっという間に潰滅させてやる。

 

「ほら、ミュウは何処だ? さっさと吐いたなら楽に殺してやるぞ」

 

「ふ、巫座戯んな! てめえ、俺らをフリートホーフと知ってやがんのか!?」

 

「フリートホーフだか何だか知らんが喧嘩を売られたからには言い値で買ってやる」

 

「くっ!」

 

「くっ! じゃねーよ、ミュウは何処だ?」

 

「知るか!」

 

 ザクッ!

 

「イギィィィッ!」

 

 ナイフで太股を刺されて悲鳴を上げる。

 

「ほら、痛い目見たくなかろ?」

 

「だ、れ……が……」

 

 要らない所で根性を見せるチンピラに対して、ユートはドリル状の針を刺す。

 

「ぐっ!?」

 

 ハンドルが付いた針、ハンドルをクルクルと回すと針が太股へ徐々に埋まっていき、チンピラは痛みから寧ろ声が出ない。

 

 半ばまで埋まった針をユートはニヤリと口角を釣り上げ……

 

「ま、まさか? やめっ!」

 

 強引に引き抜いた。

 

 グジュリと嫌な音と共に抜ける針。

 

「ギャァァァァァァァアアアアッッ!」

 

 チンピラの悲鳴と共に血が噴き出す。

 

 それでも吐かない辺り、面倒臭くなってしまったユートは霊力を手に集めていく。

 

「すぐに吐けばまだ人間の尊厳だけは保てたものを……愚かな奴」

 

「な、何をする気だ!」

 

「喋りたくないならもう喋るな。頭の中に直接訊いてやるまでだ」

 

「は?」

 

 ヌルリ……

 

「ヒッ!?」

 

 ユートの指先がチンピラの頭の中へ沈む。

 

 グチュリグチュリ……

 

 それはまるで脳味噌を掻き回すみたいな?

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 それは痛みこそ無いが酷く桿ましい感触であったのだろう、ビクンビクンと痙攣しながら涙から涎から鼻水から垂れ流しになっており、あまつさえ小便や糞まで垂らしていた。

 

 その間にもユートの指はチンピラの頭の中にて蠢いていて、その度にユートは某かの理解が出来たかの様な表情となっている。

 

 霊医学の一種であり、本来は霊具たる手袋を填めて行われる作業を素手でやっていた。

 

「よし、取り敢えずだがアジトの位置なんかは判ったぞ。ミュウが何処かまでは知らなかったみたいだけどな」

 

 ヌルッと指を引き抜くとチンピラは未だに痙攣しながら倒れ伏す。

 

 命こそ無事ではあるが人間としてこうは成りたくない、そう思わせるには充分過ぎるくらいであったと云う。

 

「さ~て、だいたいの情報は得られた」

 

「さ、さっきのって何なの?」

 

 悍ましい光景に身震いしながら雫が訊いてきたけど、それは他の皆も同様であったのか顔色が余り良いとはいえない。

 

「心霊医術と云ってね、あれは医術というよりは情報を得る為の外法かな? 気を確りと持っていれば発狂するだけで済むんだが、あのチンピラはそこまで確り持ってなかったみたいだ」

 

「そ、そう……私達には使わないでね」

 

「あれは基本的に敵から情報を得る為のものだ。味方に使う筈も無いだろうに」

 

「ええ……」

 

 まぁ、それは信じている。

 

「それより手分けしてフリートホーフのアジトや攫った者を閉じ込めておく場所、それらが判ったから手分けをして潰滅と攫われた者の救出だ」

 

 全員が頷く辺りからしてフリートホーフの遣り口にムカついていたらしい。

 

 ユートからの指示でシアが向かうのは商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れている場所だった。

 

 公的な機関の目が届かない完全に裏の世界であり大都市の闇、真っ昼間でも何故だか周囲は薄暗く歩く者も暗い雰囲気を放っている。

 

 七階建ての大きな建物が鎮座していて、其処は表向きには人材派遣業だが裏では人身売買の総元締をしている裏組織【フリートホーフ】の本拠地となっていた。

 

 此処は常なる日頃であれば静かで不気味な雰囲気を放っているが、現在はそれが嘘の様に騒然としていて激しく人が出入りをしている。

 

 普段から伝令などに使われている下っ端の男達の表情は、丸っきり訳が解らない事態に混乱して焦りを露わにしつつ恐怖に溢れていた。

 

 どさくさに紛れて肉体を透明化されいるシアとティオの二人が、このフリートホーフの本拠地に隙間を縫うが如くで侵入を試みる。

 

 透明化呪文(レムオル)

 

 DQⅢな世界観で賢者なユートは普通に修得済みな呪文で、気配も臭いも消えないから動物とか魔物には意味の無いにせよ人間社会では使えない訳でもなかった。

 

 尚、原典のゲームではエジンベアに入るそれだけの為の呪文でしかないからか、ナンバリングではⅢ以降は登場していなかったりする。

 

 気配が消せるハウリアなシアなら意味も有り、こうしてちょっと潜入するのに向く呪文だったりするが、ユートの初使用は風呂の覗き――不可抗力――だったりするから哀しい。

 

 けたたましいまでの怒号の中、慌ただしく走り回っている組織の連中をと避けながら進み往き、遂には最上階――きっと御偉いさんがふんぞり返るであろう部屋の前にまでやって来た

 

 扉の向こうから中年男の低くて野太い怒鳴り声が此方側まで漏れ出す。

 

 シアのウサミミがピクリと跳ねた。

 

「おい、巫座戯てんじゃねぇぞ! ゴラァ!? てんめぇ、もう一辺言ってみやがれや!」

 

「ひ、ひぃ! で、ですから、潰されたアジトは既に六〇軒を越えました。我々を襲撃してきているのはおかしな鎧兜に身を包んだ化物の一人だけと二人組が四組になります!」

 

「それじゃあ何か? たった九人のクソッタレ共に天下のフリートホーフが良い様に殺られてるってのかよ? あぁん?」

 

「そ、そうなります……げぶらっ!?」

 

 

 怒鳴り声が止んだかと思うと何かがぶつかる音がして中は一瞬だけだが静寂に包まれた事から、どうも報告をしていた下っ端だか中間管理職だかの男が怒鳴っていた幹部? 若しくは首領? らしき男に殴り倒されでもしたのであろう。

 

 現在は特に変わっていないが、鎧兜というのは仮面ライダーに変身をしていた為のもの。

 

 ユートが一人、香織と雫ペア、ユエとミレディのペア、シアとティオのペア、ほむらとシュテルのペアの合計九人によるフリートホーフのアジト急襲作戦。

 

 男が報告を受けた通り、六〇ものアジトが僅か九人程度に潰滅させられていたのである。

 

 其処に慈悲は無く、ユートは基本的に殺傷設定でアジトのトップ以外の連中を虐殺していた。

 

 主に破壊を中心とするからか、変身しているのは仮面ライダーディケイドであったと云う。

 

 言っていた通り、フリートホーフの破壊を行いミュウとの絆を繋ぐその為にも……だ。

 

「てめぇら、そのクソ共を何としてでも生かして俺の前まで連れて来いっ! 生きてさえいれば腕が無かろうが脚が無かろうが状態は問わねぇぞ。この侭じゃあ、フリートホーフの面子は丸潰れなんだからな。そいつらにゃ、生きた侭で地獄を味わわせて見せしめにする必要がある。見事に連れてきた奴にゃ、報酬として五百万ルタを即金で出してやらぁな! それも一人につき……だ! 組織全ての構成員に即伝えろっ!」

 

 

 幹部だか何だか知らないが偉そうな男の号令と共に室内が慌ただしくなり、組織の構成員全員に伝令するべく部屋から出ようと扉を開く。

 

 扉の外から透明な侭で聞き耳していた二人は互いにを見合わせ頷き合うと、シアが待機形態だったアイゼンⅡをサイレントモードで突撃形態――ラケーテンフォルムへ変換し大きく振り被った。

 

 その場でロケットの如くハンマーヘッド後部からエネルギーが放たれ、クルクルと回転をしながら室内の人間がドアノブに手を掛けたであろう、その瞬間を見計らって回転により得られた遠心力と重力魔法を乗せて振り抜いた。

 

 ドガアアアンッッ!

 

 激しいまでの轟音を響かせて木製の扉だったが木っ端微塵に粉砕され、ノブに手を掛けていた男は衝撃の余波だけで全身を破壊されてしまって、後ろに居た連中も破壊されて砕けた木片で全身を貫かれる、若しくは殴打されて満身創痍の有様で扉とは反対の壁に叩き付けられ死亡する。

 

「別に構成員へ伝えに行く必要はありませんよ。何しろ本人がこの場に居ますからね」

 

 シアは右手のアイゼンⅡを右肩に乗せてポンポンと動かしながら宣言をした。

 

「外の連中は妾で引き受けよう。シアよ、主殿も情報を捜しておる事じゃし成るだけ手っ取り早く済ますのじゃぞ?」

 

「はい、ティオさん。あの、の……ありがとうご御座います」

 

 ちょっと赤らめた顔で御礼を言うシア。

 

「くっ、てめぇらが例の襲撃者の一味か……って、その容姿はリストに上がっていた奴らじゃねぇかよ? 確かシアにティオだったか? 後はユエとカオリとシズクとミレディとホムラとシュテルとかが居たな。は、成程……確かに見た目は極上だ。だが人数と今の状況からすると襲撃してきているのがリストの女共か? まぁ良い、お前ら今すぐに投降するなら命だけは助けてやるぞ。な~に、すぐに天国に連れて行ってやる。フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思っていないだろう?」

 

「煩い、話が長いですぅ!」

 

 ズガンッ!

 

「アギャァァァァァァアアアッッ!?」

 

 好色な眼でシアとティオを見ながら下らない事を話し始めた男……ハンセンに対してシアは冷々とした眼差しを向けると最早、問答無用だと謂わんばかりに鉄鎚攻撃を撃ち放った。

 

 躱そうにも生憎とシアは素早くて右肩から受けて血飛沫を上げる。

 

「私が知りたい情報はミュウちゃんの居場所のみなんですよ、変身!」

 

 飛んできたザビーゼクターが左手首に填まったライダーブレスと合着……

 

《HENSHIN》

 

 オートでシアをザビーに変身させた。

 

「ふむ、では妾も」

 

 黒い龍のクレストが掘られたカードデッキを前へと掲げると、空中に行き成り出現したVバックルがティオの腰に装着される。

 

「変身!」

 

 Vバックルにカードデッキを装填すると内部でクルクル回り、仮面ライダーリュウガのシルエットがティオに合着して変身完了。

 

 騒ぎを聞きつけて本拠地にいた構成員達が一斉に駆け付けて来るが、それは正に地獄の一丁目へようこそ……という話でしかない。

 

《STRIKE VENT》

 

 黒いドラグブラッカーの頭を模したナックルがリュウガの拳に装着された。

 

「セイヤァァァアアアッ!」

 

 本来は火の玉を放つのが主流の攻撃だが、今回はまるで自らがブレスを吐くが如く漆黒の熱線を撃ち放ってやる。

 

『『『『『ウギャァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!?』』』』』

 

「生憎と妾は剣使いでは無くての、妾と相性が良いこの攻撃で退場して貰うとしようか」

 

 先の壁までが吹き飛び、フリートホーフ本拠地は風通しも見通しも良くなった。

 

《ADVENT!》

 

 更にはドラグブラッカーの召喚。

 

 先の攻撃で蜘蛛の子を散らすが如く逃げ出した構成員連中、それへの追撃としてティオが喚んだという訳である。

 

「さぁ、食事の時間じゃぞ」

 

 阿鼻叫喚。

 

 ドラグブラッカーが構成員を捕食していく様は地獄そのものかも知れない。

 

 この命が綿より軽いトータスという世界では、原典のハジメみたく喰われる人間も珍しい訳ではあるまいが、それでもだからといって喰われたい人間が居る筈も無いのだ。

 

 外が蹂躙中、シアは手にしたアイゼンⅡをビシッと前へ突き付けて……

 

「さぁ、アイゼンの頑固な汚れになりやがれ! ですぅ!」

 

 まだ部屋に残る構成員とハンセンに対して言い放つのであった。

 

 

.




 ミュウの一件が一息吐けば彼方側と家族会をする事になりそうです。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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