ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 フューレンの一件は完全に終了……





第49話:“血”祭りの後のお片付け

.

 全てを終えた。

 

 殺るべき人間は皆殺しにしたし、破壊するべき施設は皆破壊をしているし、捕まえるべき人間はきちんと捕らえている。

 

 首魁たるハンセンはシアが殺してしまったのだけど、副首魁みたいな男や参謀役の男はちゃんとユエや雫が捕らえてくれていた。

 

 取り敢えず一旦集まっておく。

 

 異世界人の水森月奈とアイリーン・ホルトンの二人の処遇を考えねばならないから。

 

「ぶっちゃけるとアイリーンは【ありふれた職業で世界最強】世界の地球で米国はニューヨークに生まれた人間、水森さんは平行異世界の地球に於ける日本人という事になるな」

 

「あの、私がこの世界の地球の生まれじゃないとはどうして考えたんですか?」

 

「僕がディケイドに変身した際、水森さんはそれが仮面ライダーだと判らなかったろ?」

 

「仮面ライダー?」

 

「日本人が仮面ライダーを、幾ら女性であっても全く名前すら識らないのは有り得ないよ」

 

 仮に全く興味無しだったとしてもコマーシャルなどで名前くらいは出るし、外には仮面ライダーの名前を出す子供だって居るくらいだ。

 

 つまり、全く識らないのは存在しない世界に住まう人間だからに他ならない。

 

 勿論、極論が過ぎるのは理解してる。

 

 ひょっとしたら仮面ライダーが特撮として存在する世界でも、本当に知識を持たない人間が居ないとは限らないからだ。

 

 それでも名前を聞いた事すら無いのはやっぱりユート的には考え難かった。

 

「そんな訳で判断をした。アイリーンは仮面ライダーを『マスク・ド・ライダー』と認識した」

 

「私はドラゴンナイトなら識っています」

 

「仮面ライダー龍騎の海外版だね」

 

 仮面ライダー龍騎は多少の設定変更をした上で【KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT 】という形で,二〇〇九年の一月に全米ネット局CWにて放映をされた。

 

 龍騎がドラゴンナイトでリュウガがオニキスと名前も変更をされている。

 

 勿論、人物は役者や設定から全てが別物。

 

 主人公も城戸真司では決して無い……キットって踏まえた名前ではあるけど。

 

「さて、君らの処遇が問題と云えば問題だ」

 

「処遇……ですか?」

 

「水森さんはこれからどうする? はっきり言って一番困るのは貴女だよ」

 

「わ、私が!?」

 

「僕らが地球に帰るのにアイリーンは付いて来れば後は実家、ホルトン家から迎えを貰えば国許に帰れるだろうからこの際の問題は無いんだけど、水森さんは平行異世界の地球人だから座標も判らない以上は帰せない」

 

「あ、そっか……」

 

「しかも帰れたら帰れたで、今度は救世主として別の異世界に跳ばされる訳だからね」

 

「あうっ!」

 

 それがあったか! と、月奈は頭を抱えたくなってしまう。

 

「光る球体……仮に神だとして、恐らく管轄違いの【ありふれた職業で世界最強】世界には手出しが出来ないけど、戻ればやっぱり普通に干渉をされて異世界に向かわされるだろうね」

 

「そう、ですよね……」

 

 チートは前払いで既に受け取り済みであるからには、行かないなんてのは我侭に他ならないというのは理解していた。

 

「だから水森さんが取れる選択肢としてはだ……帰れない事を前提条件に考えた場合」

 

「は、はい!」

 

「勇者(笑)な天之河に合流して聖教教会から保護を受けるのが一つ目だね」

 

 ユート本人からしたら実はこれが一番有り得ない選択肢だった。

 

 それを理解しているからか、周りが『うわぁ』とか声を上げているので頭の良い月奈は『ああ、これはダメなやつね』と正答に辿り着く。

 

「次が教会ではなくハイリヒ王国の保護を受けるべく……」

 

「また勇者様に合流ですか?」

 

「まぁ、天之河はハイリヒ王国を拠点に活動をしているからな。尚、ヘルシャー帝国は余りお奨めはしない。弱肉強食で強さが正義とか抜かすのがガハルド皇帝だしな」

 

「確かに嫌ですね……」

 

 スローライフをしたい月奈としては戦い上等な帝国はダメダメであろう。

 

「第三の選択肢は一切合切の保護を受けずにこのトータスで生きていく」

 

「今まで通りですね……でも……」

 

「そうなると、フリートホーフ以外の連中からもいずれは狙われる羽目になるな」

 

「ですよねぇ」

 

 これも前までなら兎も角、月奈としても今現在では取りたくない選択肢だと云えよう。

 

 攫われる可能性が高い上に今度は助けが来ないだろうし、そんな事になったら果ては性奴隷すら有り得るからだ。

 

(まぁ、アラサーで性奴隷なんて誰得な気がしないでもないけどね)

 

 実際に性的な目で視られていたのはアイリーンの方であり、月奈は特にそういった目を向けられてはいなかった。

 

 いなかった……筈だが、肢体のメリハリや美貌では確かにアイリーンには劣る月奈だけど、決して醜女という訳ではなく普通に三三歳としては可愛らしい容姿であり、気付いてないだけで実は性的な目で確りと視られていたりする。

 

「第四の選択肢はシアの家族が居る真オルクス大迷宮の百層目で人目を忍んで暮らす」

 

「シア……さん?」

 

「其処の兎人族だよ」

 

「初めましてですぅ」

 

「あ、初めまして」

 

 兎人族というか亜人に偏見が有る訳でもないからか普通に挨拶を返す月奈。

 

「取り敢えず暮らすのは問題無さそうだね」

 

 皆も頷く。

 

「さて、次は帰れる事を前提条件に考えた場合だ」

 

「はい」

 

「その前に訊くけど、水森さんの男性経験は?」

 

「は? え、それって関係あるをですか?」

 

「勿論。こんな時に無関係なセクハラ発言はしないよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 月奈はユートを信用している為に、顔を林檎の如く真っ赤に染めながらも耳打ちをしてきた。

 

「しょ、処女……です……」

 

 本好きで本さえ読めれば幸せだった水森月奈は三三歳になるまでに男との付き合いは殆んど無く、学生の頃に遊び半分なごっこ付き合いは有ったかも知れないが続く筈もない。

 

 手さえ握らずに終わった。

 

 恋愛でさえない自然消滅と呼ぶのすらも烏滸がましいものだし、其処に肉体関係なんて有る訳がないのである。

 

「こ、答えましたよ! それで?」

 

 早口に訊ねて来たのが照れ隠しだと理解も出来るから苦笑いをしながら月奈に教えた。

 

「僕の特殊な能力に『願望実現』というのがある。昔は使えなかったけどね、カンピオーネに成ってから今まで持ちながら出力が出来なかった力を具現化出来た賜物だ」

 

「願望実現って、アラジンと魔神のランプの魔神みたいな?」

 

「そうだね。水森さんは識らないかもなんだけど、第四次聖杯戦争や第五次聖杯戦争で獲た聖杯の機能が願望実現器というモノでね。その機能の是非は兎も角として、僕はカンピオーネというのに成ってから使えなかったモノを出力可能になって獲た能力、【万能の杯より溢れ出る(グレイテスト・ジ・ホーリーグラール)】により割と広く願いを叶えてやれるんだ。何しろ死者蘇生すら出来るからね。神の権能と一括りにしてはいるけど、元が神と無関係でも神懸かった力は権能として扱える様になったから」

 

 まぁ、死者蘇生は権能無しでも可能だが……

 

「話だけ聞くとドラゴンボールの神龍よね」

 

「ドラゴンボール……ですか」

 

 どうやらドラゴンボールは知っているらしく、すぐに内容の理解を示してくれた。

 

「お金は掛かるんだけどね」

 

「お金を取るの!?」

 

「僕は『願い叶えまっすぃーん』になる気は全くこれっぽっちも無いからな」

 

「ああ、そういう……」

 

 やはり賢い月奈は理解した。

 

「つっても、次元移動と次元世界座標の取得とかお金だと数億円でも足りない」

 

「億単位なのね……」

 

 リリカル世界は次元の海を航る艦船が存在しているが、それでも時空の壁を破る術など持ち合わせてはいない。

 

 それをやるのだから端した金でやってやれる事では無かった。

 

「それと私が……しょ、処女とかどうとかにいったいどんな関係が?」

 

 アラサーでも恥ずかしいものは恥ずかしいのか吃るわ頬を赤らめるわ、何とも愛子先生と変わらないくらいに可愛らしい女性である。

 

「さっき、僕はお金だと数億円でも足りないと言ったよね?」

 

「ええ、確かに言ったわ」

 

「それが美女美少女の処女だと解決する」

 

「……はい?」

 

「例えば娼婦って初めてはどうしてるんだか知らないけど、売ればそれはそれで高値が付くとは思わないかな?」

 

「それは……」

 

 処女を、女性の初めての奪うという行為は男のつまらない自尊心を満たす。

 

 所謂、征服欲みたいなモノを……だ。

 

 まぁ、泣かれたり逃げたりと面倒臭い一面とかもあるから必ずしもではないが……

 

「人にもよるけど初めてってやっぱり大切にしたいとか思うだろ?」

 

「まぁ、確かに……大切にし過ぎてアラサーまで拗れたりするけどね」

 

 恋人が居なければ行きずりにヤらない限り処女の侭で歳を喰う、月奈はアラサーになっても未だに処女である訳だから拗らせつつあった。

 

 だからといって犬にでも喰わせる勢いで捨てるモノでも無いだろう。

 

「そして価値は僕が決める。お金と違って存外とフワリとした価値観だから、本来なら一〇億は貰う案件でも生涯に一度の処女である意味無料化をする訳だよ」

 

「つまり、緒方君に抱かれれば私は元の世界へと帰して貰える……と?」

 

「そういう事」

 

 処女だ何だと云っても要は男を受け容れた事が無い証拠みたいなモノで、単純な肉体の一部として視た場合は襞状の器官でしかない。

 

 それをユートの分身で貫かせるだけで一〇億円を失わずに済むという寸法、処女膜を喪うか大金を失うのどちらがマシかは判らないけど。

 

 即金を出せないけど処女だからと散らして願いを叶えて貰う……そういう事も割とあった。

 

「その、妊娠とかしたら?」

 

「まずしない。一度で妊娠なんて一回だけしか無かったし、基本的には一ヶ月くらい飲まず食わずで休みもしないでヤり続けてやっとくらいだ」

 

「一回はしたの!?」

 

「僕も意外だったんだけどね。まぁ、大丈夫」

 

「何処ら辺が大丈夫なのやら」

 

「大丈夫だよ。星華……ああ、僕が文字通り一発で孕ませた相手だけどね、彼女ともそれ以降はヤっていたけど孕まなかったから」

 

 某かの条件が揃ったか何かしたのだろう。

 

「それに万が一にも妊娠したら産めば良い」

 

「だ、誰が育てるの?」

 

「僕の【閃姫】でもメイドでも。育てられる者は幾らでも居る。何なら水森さんが【閃姫】に成って自ら育てても構わない」

 

「せんき?」

 

「愛人、妾、側室、側女……好きに呼べば良いが、早い話が恋人以上で正室未満的な立場。とはいってみても、正室と側室の違いは殆んど無い」

 

「要は貴方の女……みたいな感じに?」

 

「そうなるね」

 

 やはり聡いだけある。

 

 香織や雫には無かった賢明さが水森月奈には備わっており、流石は異世界行きになったとかいう中でも光る球体から多くのチートを上手く要求しただけはあった。

 

 アラサーなら女盛りの年齢であり、見た目にも中々に可愛らしい容姿でユートから視ても決して悪くないと思う。

 

 折角の出逢いだから欲しいと考えられる程度には魅力的な月奈、一期一会のこれを逃すのは如何にも惜しいと感じるユート。

 

 アイリーン・ホルトンも見た目は相当な美女であり、月奈とはまた違った魅力を醸し出しているけど……此方は自分達の帰りに同席させるだけだから機会は無いかも知れない。

 

「ま、すぐに決める必要は無いさ。君らが勇者(笑)の所に行きたいならハイリヒ王国の王宮に送って上げる。教会か王室の保護を受けたいなら話も通して上げるよ」

 

「あの……」

 

「どうした? アイリーン」

 

 挙手してきたアイリーン、【ありふれた職業で世界最強】世界の人間だから月奈みたいな話し合いは要らないからと、参加をしていなかっただけにちょっと驚く。

 

「この侭、ユートの御世話になるのはアリ?」

 

「それも選択肢の一つだな。とはいえ僕らの旅は基本的に危険だから付いて来るのはお奨め出来ないんだよね。だから真オルクス大迷宮でさっきも言ったが、ハウリア族と共に暮らしながら帰れる日を待って貰う事になる。付いて来る心算があるなら戦闘訓練をした上で仮面ライダーに成って貰う必要がある」

 

「庇護を受けるのは良いのね?」

 

「構わない」

 

「だったら私は御願いするわ」

 

 アイリーンはそう言い晴れやかに破顔する。

 

 やはり女性としては魅力的に映るアイリーン、米国人だけにスタイルが良くて長い金髪も手入れがよくサラサラ、枝毛も無い完璧に近い美貌の持ち主なのは間違いない。

 

 ユートは密かにダブルドライバーでユーキとの交信を行い、アイリーン・ホルトンと水森月奈について何か識らないかを訊いてみた。

 

 結果は識らない。

 

 どうやら二人の存在を示す原典は大本の世界でユーキが死んだ後に出たものみたいだ。

 

 残念だがそれは別に良い。

 

「水森さんはどうする? アイリーンは帰る時に一緒する事で後は米国に戻るだけで済むけれど、貴女は時空の壁を突破して座標を捜し出した上で次元の海を越えて、更には別の時空樹すら到達をしないと帰り様が無い。しかも帰れたら帰れたで別の異世界行きが決まっている訳だが?」

 

「ぐふっ!」

 

 地味にダメージを受ける月奈。

 

 月奈の持っているペンダントは光る球体謹製、細か過ぎる彼女の要求に『面倒だからこれで何とかしろ』と渡された物で、握ると検索画面が脳内に浮かび、食べ物もお金――飽く迄も行く筈だった世界の――も出したい放題らしい。

 

 月奈の要求で無くしても自動で戻る機能付きと可成り破格のチートアイテムだ。

 

 そんなのを貰いながらやはり行きたくないとか通用する訳も無く、この世界に引っ張られて来たから干渉されていないに過ぎなかった。

 

 また、本来の救世主は魔力値も莫迦みたいに高くてMPも最大値だが、魔法は現地で覚えねばならない処を救世主だけが使える防御系大魔法も扱える様にして貰っている。

 

 はっきり云うと、月奈は一人だけだったらそもそもフリートホーフに捕まらなかった。

 

 世話になった人達を人質にされなければ。

 

 しかもその気になればペンダントから飲食物は出し放題であり、趣味の読書にしても本だって出せるから一生涯を引き隠って暮らすのも可能。

 

 何しろ出すのにお金も何もリスクは一切無いという正にチートアイテムなのだから。

 

(正直、これを渡してしまうと私も困るけど……地球の日本に暮らすなら戸籍とかも居るしなぁ)

 

 処女ではなくペンダントを対価にとかも考えたのだが、よくよく思えば専用化されていた場合は他人には無価値でしかない。

 

 ペンダントを対価に元の世界へと帰るにせよ、また光る球体に頂戴と言って貰えるとは流石に思えなかったし、やはりアラサーの処女を散らされるしかないかな? とかユートの顔を観ながら、二人切りでの閨事を妄想してみたり。

 

 ユートは経験豊富っぽいし優しくしてくれそうなのは、ユートのこれまでの自分やアイリーンへの態度から何と無く想像が出来ていたし、何よりもミュウがあれだけ懐いているのがその証左となるのではないか?

 

(戦いでは相手を殺していて凄く恐かったけど、それだって向こうの自業自得だものね)

 

 意外と恐怖を感じていない事に驚く月奈。

 

「取り敢えず、僕らがグリューエン大火山に向かうまでに決めれば良いよ。イルワ・チャングとの話し合いや物資を買ったりすれば、数日間はこのフューレンの町に滞在をするからね」

 

「判ったわ」

 

 月奈が返事をして、アイリーンも頷いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「倒壊した建物が三〇棟、半壊した建物が五四棟に、あろう事か消滅した建物は八棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員は幹部やハンセンも含めるとニ九〇名、重傷で運び込まれた者が僅か数名 それで、何か言い訳はあるかい?」

 

「ムカっ腹が立ったから殺った。其処には後悔も反省も全くこれっぽっちも無い」

 

「はぁぁぁぁっ……」

 

 冒険者ギルドの応接室へとやって来たユートを相手に、持ち込まれた報告書を片手にジト目になりながら睨んでくるイルワ・チャング。

 

 膝にはミュウを乗せて出された茶菓子をたべさせる姿、そして反省など欠片も無い科白を聞いて激しく脱力してしまう。

 

 微笑ましい光景だとは思うが、ユートのやらかしを鑑みれば精神的なダメージを負っていた。

 

「正直、やり過ぎ……というか殺り過ぎだとは思わなかったのかね?」

 

「人の女を攫おうとしていたんだ、殺されて文句なんぞ言わさないさ。一般には決して手は出していないし、生かしてギルドに何人か寄越してやっただろうに」

 

「まぁ、確かに私達も裏組織に関しては手を焼いていたからなぁ……今回の一件は助かったといえば助かったとも言えるよ確かにね。フリートホーフは明確な証拠を残さず、表向きは真っ当な商売をしていたし、違法な現場を検挙しても結局の処は蜥蜴の尻尾切りさ。彼等の根絶なんてはっきり言えば夢物語というのが現状だった。だったんだが……これで裏の世界の均衡が大きく崩れたから、保安局と連携して我々の所の冒険者も色々と大変になりそうだよ」

 

「本来はフューレンの行政部とかが何とかするのが普通だったのが、僕の身内にまで手を出そうとしてから潰して殺った訳だよ」

 

「フューレンに於ける裏世界三大闇組織の一つ、それをちょっとした切っ掛けで殲滅かぁ……洒落になっていないよね本当にさ」

 

 苦笑いなイルワ・チャング。

 

 アラフォーっぽい彼が一気にアラフィフとかになったみたいで少し哀れを誘う、流石に可哀想になってユートはイルワへと提案をしてみた。

 

「ああいった類いの犯罪者共が二度と僕らに手を出したくなるなる様に、謂わば見せしめを兼ねて盛大にキタネー花火を上げてやったんだ。イルワ支部長も僕らの名前使ってくれて構わないぞ? 例えばイルワ支部長お抱えの【金ランク】って、秘密兵器だという事にしたらフューレンで相当な抑止力になるだろう」

 

「おや、そんな事をしてしまって良いのかい? はっきりと言えば、それはもの凄く助かるのだけれどね。君はそんな利用のされ方は嫌うタイプだと思っていたんだがな」

 

 イルワはユートの提案に意外そうに驚くけど、その瞳は『是非とも!』と雄弁に物語っているのが判り、肩を竦めて思わず苦笑いとなるユートであったと云う。

 

「持ちつ持たれつ、後ろ楯にもなって貰っている訳だからね。このくらい構わない。イルワ支部長なら匙加減も心得てるだろうしな、僕らの動きでフューレンの裏組織が真っ二つに割れての大抗争が起きた……とか、それに一般人が巻き込まれたなんてのはやっぱり後味が悪いからさ」

 

「……ふむ、助かるかな。君は基本的に自分の身内以外は知らないと言い放つ方だと思っていたよ」

 

「基本スタンスはね。だけど社会に出て活動をするからには、あれこれと配慮だって必要になってくるもんだからな」

 

「ハハ、確かにね」

 

 原典の月奈みたく引き隠っているなら構わない事だって、社会に出ているからには社交性というものはやはり大事なのである。

 

 況してや、ユートは【リリカルなのは】主体の世界ではアシュリアーナ真皇国の真皇だ。

 

 基本的な処は若くて美しい真皇妃リルベルトがやってくれているが、やはり真皇本人たるユートがやらねばならない事も幾らかは有る。

 

 尚、若いとは見た目の話で実際には数百年間をユートと共に生きていた。

 

 とはいえ、ユートの【閃姫】は肉体だけではなく精神も老いないから今も若々しい。

 

 ポスト・フリートホーフとなる残りの二大組織ではあるが、勢力を伸ばそうと画策したがイルワの効果的なユートの名前の使い方により、町規模での大きな混乱が起こるなどといった事は特に無かったのだとか。

 

 こんな事態もあったからであろうか? ユートは『フューレン支部長の懐刀』とか『悪夢の王(ロード・オブ・ナイトメア)』とかの二つ名が付く事になったのである。

 

 ユートは暴れに暴れた訳だが、イルワ支部長が関係各所を奔走してくれたお陰と意外にも治安を預かる保安局が正当防衛だという理由で不問としてくれたので、問題も無く普通に開放をされておさまっていた。

 

 保安局的に、一度預かった子供を保安署を爆破されて奪われたというのが堪えていて、その解決を屍山血河を築いたとはいえ溜飲が下がったというのも手伝い、正当防衛処か下手したら過剰防衛に当たりそうな行為に目を瞑ったらしい。

 

 何よりも日頃、自分達……保安局を莫迦にするかの如く違法行為を重ねる裏組織には御立腹だったらしく、先日に挨拶だと訪ねて来た還暦を越えた保安局長は実に男臭い笑みを浮かべてながらも、ユート達に向け五代雄介張りのサムズアップをして帰って行ったものだった。

 

 局長の足取りが妙に軽かったのが彼のその心情を如実に表しているのだろう。

 

「それで、ミュウ君についてだが」

 

 ミュウはクッキーを両手で持ち、まるでリスの様に美味しそうな表情でパクついていたのだが、イルワ支部長からの視線に肩を震わせた。

 

 ユート達と引き離されるのは嫌、幼女ながらもミュウは見事な上目遣い+涙を瞳一杯に浮かべると言う高等テクニックを披露する。

 

「ああ、こちらで預かって正規の手続きを経てからエリセンに送還するのか、或いは君達に預けて依頼という形で送還をして貰うかという二通りの方法がある。君達はどちらが良いかな?」

 

「……何? 後者は構わないのか? 国に保護を受ける海人族の子供だぞ、公的な機関に預けるのが普通だろうに」

 

「先ず、君のランクが【金】というのが活きた形になっているよ。それから君が暴れた原因というのがミュウ君の為だった。ならば信用して任せても構わないだろうという話になってね」

 

 イルワ支部長の説明を聞いたシアはユートの方を見つめ……

 

「ユートさん……私、絶対にこの子を護ってみせますから。一緒に……御願いします!」

 

 ガバッと頭を下げた。

 

 シアはせめてミュウが家に帰り着くまで一緒に居たい様で、他の面々はパーティリーダーとなるユートの判断に任せるらしい。

 

「ユートお兄ちゃん……一緒……め?」

 

 中々に高等テクニックを極自然と遣い熟してくるミュウに戦慄を覚えつつ、そもそも取り返すと決めた時にはミュウ自身が望むのなら連れて行って構わないと考えていた。

 

「理解してるな? 護るという行為とは云う程に簡単な話じゃない。雫から聞いた勇者(笑)みたいに『俺が君を護る』とか言いつつ、結局は役立たずだった……何て例もある。シア、勇者(笑)みたいにならないと誓えるか?」

 

「うっ、確かにそうですが……私はミュウちゃんを護りたいんですぅ! だから敢えて誓います」

 

「そうか……まぁ、僕も情を懐かせ過ぎたからな。これで放っぽり出したらそれこそ天之河並だし、勇者(笑)と同じとか寒気しか感じんからね」

 

「ユートさん!」

 

「ユートお兄ちゃん!」

 

 喜色満面なシアとミュウ。

 

 【海上都市エリセン】に行く前に【グリューエン大火山】の大迷宮攻略があるけど、護ると決めたからにはユートも既に覚悟完了をしていた。

 

 キラキラとした笑顔で喜びを露わにして抱き付いてくるのだが、そんなミュウだったけど行き成りとんでもない事を口走る。

 

「……パパ」

 

「………………はい? ミュウちゃんや、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれるか」

 

「パパ」

 

「それは海人族の独特な言語で『お兄ちゃん』っていう意味かな……かな?」

 

 思わず香織みたいな話し方に。

 

「違うの、パパはパパなの」

 

「いや、ちょ~っと待ってくれないか」

 

 嘗て、ヴィヴィオにも似た呼び方をされそうになったのを何とか『ユート兄ちゃん』に矯正した過去があったが、あの時と今回ではユート的に考えて異なっている気がする。

 

「あの、ミュウちゃん? どうしてユートさんがパパなんでしょうか」

 

 シアが問い掛けた。

 

「ミュウね、パパ居ないの。ミュウが生まれる前に神様の所に行っちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにも居るのにミュウには居ないの。だからユートお兄ちゃんがパパなの」

 

「!?」

 

 中々に重たい話である。

 

「ヴィヴィオの時は求めたのが母性だったから、何とか矯正したんだがな。ミュウが求めるものは父性……父親ってか。こりゃ矯正はムズいな」

 

 ヴィヴィオ・ゼーゲブレヒトは【最後の聖王】と名高きオリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローンであり、求めていたのは原典と同様に『ママ』であったが故にユートは『ユート兄ちゃん』に落ち着かせた訳で、ミュウ的に父親が欲しいなら仕方がないと諦める事にした。

 

「判ったよ、パパで構わない」

 

「ホント? ミュウのパパなの?」

 

「ああ、エリセンに着くまでだけどな」

 

「……うん」

 

 聡い子故に理解はしていた。

 

 ユートとの関係はエリセン……故郷に着いたら終わりを迎える儚いものである事を。

 

「まぁ、そうだな。折角の関係をすぐに解消しても面白くないか……エリセンではミュウのママとも()()()したいしね」

 

「う、うん! パパなんだからミュウのママとも仲良くするのは当然なの!」

 

 四歳児だから意味は理解していないのだろう、ユートの仲好くとミュウの仲良くは意味合いが似ている様で違う。

 

「ちょっと、優斗? まさか人妻にまで手を出す心算じゃないわよね?」

 

 心配したのか雫が訊ねてきた。

 

「人妻じゃない、独身女性だよ。シングルマザーではあるんだろうけどね」

 

「……あ!」

 

 ミュウのパパはミュウをママに仕込んだまでは良かったが、まだ妊娠をしている時期に事故により帰らぬ人として空の星となっている……とか。

 

 つまりは未亡人。

 

 しかもミュウはまだ四歳だから産んだのは四年くらい前、仕込んだのはその一年前だとして異世界の婚姻事情的に視ればミュウのママは下手をしたら愛子先生くらいの年齢である。

 

 異世界だと三〇歳なんて完全なる嫁き遅れで、王候貴族なら一桁台で婚約して十代で結婚も割かし当たり前な世界。

 

 況してや、ユーキからの情報でミュウの母親であるレミアは原典ハジメのヒロインの一人だと云われており、ならば若く美しい海人族の女性としてミュウと共に立っていた筈。

 

 ユート的にはミュウの愛らしさからレミアの美しさに期待大、別にだからミュウを可愛がるとかの打算は全く無いユートだが、レミアの事を考えるくらいは罪にはなるまい……雫達の心情を扨置いた場合は。

 

 尚、ミュウの『パパ』呼びを盾にレミアに迫るとか外道な遣り方はしない。

 

「あの、でしたら私がミュウちゃんのママって呼んでくれても良いですよ?」

 

「あ、シアさんが抜け駆けを!?」

 

『『『!?』』』

 

 シアの発言に雫が反応、香織やユエやミレディやほむらにシュテル、何故かティオまでもがその科白に『まさか!?』という無言の反応。

 

 ティオには未だコナを掛けた覚えなど全く無いユートとしては首を傾げる。

 

「や、ママはミュウのママだけなの」

 

 然しながら、ミュウは冷たく『ママ』と呼ぶのは飽く迄も実母(レミア)のみだと言い放ってくれた為に、シアはガックリと項垂れてウサミミも悄々と沈んでしまったと云う。

 

 結局はシア達の事は普通に『お姉ちゃん』呼びをする事と相成るのであった。

 

 

.




 次回は家族会を挟みます。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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