.
地球の某所某会議室。
南雲 愁と南雲 菫の夫妻がその上座というべき場に座っており、その隣に陣取るのは腰にまで伸ばした青髪をポニーテールに結わい付けている少女――緒方祐希である。
今日はある意味で第二回目の家族会の日。
前回の家族会でユーキはユートの意識を喚び出して、トータスに召喚されたクラスメイトについての説明を行っている。
当然ながら荒れた荒れた。
何故なら召喚された生徒の十数名が死亡したと云うのだから、死んだ生徒の親からしたら巫座戯るなと叫びたいだろう。
実際、檜山某は怒鳴った。
尤も、檜山大介とその一派たる小悪党四人組がやらかした事を説明されたら途端に黙ったが……
勿論だが檜山某は台所のGでも視るかの如く、汚ならしいモノ扱いを受けてしまう。
小悪党四人組の他の三人の親共々。
そして天之河夫妻もやはり槍玉に挙げられてしまったのは当然の流れ。
天之河光輝が自分の一派を率いて戦争賛成の意を示してしまい、その結果が十数名の死亡に繋がったのだからこれも当然。
まだ生きている生徒もいつ死ぬか判らないときては、親としては生きた心地がしないというのが南雲夫妻も含めた意見である。
とはいえ、天之河夫妻を責めても仕方がないというのも確かであった。
尚、正確には前回の家族会に出席したのは奥さんだけだったりする。
ちらほらと入ってくる親~ズ。
何と、天之河家からは夫妻だけでなく勇者(笑)の妹である天之河美月も参加してきた。
兄ではなく『御姉様』たる雫の事が心配だったのと、何より雫が恋人を作ったとか聞いてしまったから【
天之河美月とは雫を悩ませる【ソウルシスター】の第一人者、即ち地球側に於ける最初の一人という事であった。
天之河美月は兄――天之河光輝と雫の婚姻を推奨しているのだが、その理由は飽く迄も自分が真なる雫の義妹となる為であるのだから筋金入り。
徐々に集まる家族会の面子だが、檜山某を始めとしてハジメを虐めていた小悪党四人組の親達は欠席の旨を聞いている。
当然だろう、吊し上げを喰らうと判りながらも既に死んだ息子の事を聞きたいとは思わない。
そして時間がきて南雲 愁による開会が宣言される事で第二回家族会が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
トータス。
フューレン支部の会議室ではユートがミュウを抱っこしつつ座り、香織と雫も神妙な面持ちにて隣に座って時間がくるのを待っている。
ユエ、シア、ティオ、ほむら、シュテル、更にはまだ居る月奈とアイリーンは外様みたいなものだから黙って座っていた。
第二回家族会の日時が決まったのでそれに合わせている形であり、イルワ支部長にはギルド内部の会議室を借りている状態だ。
ユートの腰には既にダブルドライバーが装着をされていて、右手には黒いUSBメモリに似ている【J】と書かれたガイアメモリ。
切札の記憶――ジョーカーメモリだ。
ユートが置いている時計の秒針がチックタックチックタックと刻一刻と刻まれ、残す処は一分も無い状態であるから雫も香織も緊張気味。
変身した状態ならテレパシーを介しての会話が可能かもと言われ、それなら他の皆には悪いけれど話したいと二人は頼んできた。
ユートは敵に対しては残虐で苛烈で冷酷でまるで悪魔というか魔王というか冥王ではあるけど、身内に対しては有り得ないくらいに優しく甘いという処があるのだ。
今回の事も雫と香織の願いに二つ返事だったのだからそれは窺える。
「そろそろ時間だね」
ダブルドライバーを装着しているから意思疎通は出来ており、ユートは立ち上がると黒いジョーカーメモリのスイッチを押す。
《JOKER!》
「変身!」
電子音声が鳴り響いたそれを左側のスロットへと装填すると、ジョーカーメモリがフッと内部から消失してしまった。
勿論、彼方側ではユーキがファングメモリにて同じ動作で右側のスロットに装填している。
ユートの身体が一瞬グラ付く。
「やれやれ、俺は留守番だな」
「……ユーガ」
ユエがその名を呼んだ。
「よう、久し振りだなお前ら」
ユートの意識が肉体を留守にする時には普段は内部に在る優雅が主導権を握るのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユーキは白亜のガジェットツール、ファングを手にして形を変えていきメモリモードにしてから
スイッチを押す。
《FANG!》
左側のスロットにジョーカーメモリが出現。
「変身!」
右側の空きスロットにファングメモリを装填してやると……
《FANG/JOKER!》
電子音声が再び響いて姿を変える。
右半身が白で左半身が黒に赤い複眼を持っている半分こ怪人――仮面ライダーWファング/ジョーカーの姿へ。
「さて、第二回目となる家族会だ」
先ずは単純な報告から始まる。
「では優斗君、トータスという世界で今現在はどうしているか報告を頼めるかい?」
「はい、愁さん。今の召喚された者達は三組に分かれて行動している」
「三組に?」
「王都からホルアドを拠点としてオルクス大迷宮での訓練をしてる勇者(笑)組。これは言わずもがな……勇者(笑)の天之河を中心に動いている」
言語理解を除く技能を喪い、レベルドレインを受けてレベルも1に下がって能力値が初期ハジメをも下回る体たらくだった天之河光輝だったが、それでも頑張ってレベルアップを果たした。
技能が無くても聖剣に宿る魔法は扱える為に、新たな聖剣とはいかないまでも宝剣を与えられて大迷宮探索を続けている。
女が寄り付かなくなったから暇だったし。
天之河光輝が使う天翔閃や神威などは剣に刻まれた魔法陣と詠唱で放つ魔法、技能とは無関係だから魔力と魔法陣さえ有れば使えるのだ。
宝剣クラスなら魔法陣も刻まれていた。
「これには腰巾着な脳筋を筆頭に永山重吾が率いている永山パーティ、南雲ハジメ、中村恵里といったメンバーが共に動いている」
「ハジメが……」
南雲 愁は瞑目して無事を祈るしかない。
「勇者:天之川光輝。拳士:坂上龍太郎。結界師:谷口 鈴。これが勇者(笑)パーティのメンバーとなる。重格闘家:永山重吾。土術師:野村健太郎。暗殺者:遠藤浩介。治癒師:辻 綾子。付与術士:吉野真央。これが永山パーティ。錬成師:南雲ハジメ。降霊術師:中村恵里。ハジメのコンビって感じだな」
生き残って且つオルクス大迷宮に挑む一〇名という訳だが、何しろ半数が死亡したから本来であればもっと休むべきだろう。
「次は畑山愛子先生が率いるチーム」
「愛子が!?」
教師とはいえファンタジーな世界で生徒を牽引している事に畑山昭子が仰天した。
「作農師:畑山愛子。曲刀師:玉井淳史。操鞭師:菅原妙子。氷術師:宮崎奈々。投術師:園部優花。これが第二のチームだね」
「あ、あの……」
「どちらさん?」
「清水と云います。ウチの幸利はどうしたのでしょうか? 前回は名前が挙がっていたのに」
「清水は愛子先生のチームだったんだけどねぇ……魔人族に勇者にしてやるとか言われてクラスメイトも先生も裏切った」
「そ、そんな……」
「先生に頼まれて生かしてはいる。だけどもう力も無いから城に軟禁かな?」
清水夫人はガクリと座り込む。
いつの間にか息子が人類の裏切者ではそうなるのも仕方がない。
「あの、やっぱり犯罪者として少年院行きになったりしますでしょうか?」
こう見えて清水幸利の両親はそれなりにオタクな次男を気に掛けていたが、本人にはそれも全く通じていなかったから歪みに歪んだ。
やはり兄弟とは仲違いしていたからか? 或いはそれ以前の問題かは判らない。
いずれにせよ、少年院に送られたらまともに後の人生を進む事は難しくなる。
「幸い誰も死なせていないからな。クラスメイトが口を噤めば誰にも咎められはしないだろうし、何より異世界召喚とかゴシップ記事の連中くらいしか相手にしないだろうよ」
「そ、そうですか……」
「無罪にはなるが無実じゃない。罪を数えないなら地球でも同じ事を繰り返すだろう。だからこそ敢えて貴女達に告げよう『さぁ、お前達の罪を数えろ!』……とな。清水が若し無事に帰って来たとしてどう向き合うか、よくよく考える事だね」
「は、はい」
生かしておいたからこその言葉。
正確には殺して蘇生したのだが……
「最後に僕の部隊。僕本人に治癒師:白崎香織。剣士:八重樫 雫の三名だけど、現地の者が数名ばかり一緒に部隊を組んでいる」
「ほう、現地の人とは」
興味があるらしい南雲 愁。
「人間族も居るが、ウサミミを持つ兎人族や吸血種族の元女王や竜人族のお姫様、海人族の少女と色んな種族が居るな」
「ほうほう!」
「それは……何とも!」
南雲 菫までが反応をし出した。
「それに関しては無事に帰ってからで良いだろ。今後についてだが、勇者(笑)組はオルクス大迷宮の表層域を百層までクリアする予定だ」
「百層域とは?」
勇者(笑)の父親、天之河聖治が訊ねてくる。
「オルクス大迷宮は全二百層から成る長大な迷宮なんだが、前半の百層までが現代に伝わっている状態なんだよ。勇者(笑)達も更に百層が有るなんて未だに知らない」
「そんな広さだと物資はどうするんだい? やはり現地調達とかが基本かな?」
「愁さん、水は兎も角として食材はあの大迷宮には殆んど有りませんよ」
「無い?」
「唯一、食べられるのがトレント擬きの赤い実くらいですかね」
林檎っぽい西瓜味の果実である。
「じゃあ、食糧はどうするんだい?」
「持ち込みが無くなれば御仕舞い」
「シ、シビア過ぎだろう!」
叫ぶ南雲 愁。
「オルクス大迷宮の百層以降は真オルクス大迷宮とも云える。一度でも降りれば上に上がる階段は無くなるんでね、だから毒と判りつつ魔物を食らって死ぬ……以前に魔物に殺されるか」
とはいえ、百層まで降りたなら流石に六五層から一気に落ちた雫と違いステイタス的にある程度は戦えるとも思うが……
「本来、真オルクス大迷宮は他の全ての大迷宮をクリアしてから総仕上げで入るべきなんじゃないかと思う。でないと幾ら何でも鬼畜仕様にも程があるからさ」
「と、言うと?」
「先程も言ったが食糧が無いに等しい。果実だってすぐに手に入る訳じゃないから。それから魔物がちょっと強くなり過ぎだ。百一層目はレベルが低かった雫が一撃で死に掛けたけど大した強さじゃなかった。だけどラスボスは鬼畜過ぎだろう……多頭蛇――ヒュドラは防御と回復と炎と氷と雷と、更には精神汚染系の力を持っていて、斃したかと思えば第二形態になるんだからな」
仮面ライダーだったから余裕すらあったけど、普通のステイタスなら間違いなく詰む。
ユートは識らないけど、仮面ライダークラスのステイタスだった原典のハジメでさえ苦戦するわ第二形態に殺され掛かるわ、天之河達が仮に最下層まで降りても果たして斃せたかどうか?
それだけ強かったのである。
能力の高さと再生力からして変成魔法と再生魔法と昇華魔法は確実に使っており、到達者を殺る気満々なラスボスであったと云う。
生成魔法と魂魄魔法と空間魔法と重力魔法は使われてなさそうだが、やはり凄まじいまでの魔物だったのは間違いあるまい。
「他の神代魔法を手に入れてから準備万端に挑むべき大迷宮だったよ」
「それならどうにか出来たと?」
「食糧問題は空間魔法で僕みたく亜空間ポケットを創れば良い。再生魔法が在れば内部時間を停止する事だって出来るし、昇華魔法で性能的に引き上げが可能なんだからね」
「そんな事が出来るのかい?」
「出来るよ。ミレディ――一〇世紀以上前に生きていた【解放者】って組織のリーダーだった少女なんだけど、ミレディ曰く仲間の一人たるナイズ・グリューエンが特殊な閉鎖空間を創って暮らしていたらしいからね」
「倉庫も創れる訳か」
「そういう事」
食糧問題はこれで解決。
尚、オルクス大迷宮で手に入る生成魔法を併用すれば【宝物庫】なんて魔導具が作製可能。
それはオスカー・オルクス本人が造り出しているから検証済みである。
「魔物の強さだけど、変成魔法で自身の強化とか可能みたいだ」
「ほう?」
武人一家な八重樫の爺様が反応した。
「ラウス・バーンも魂魄魔法でパワーアップする術を持っていたとか。というか、現代に残っている技能の『限界突破』やその究極派生技能である『限界突破・覇潰』は魂魄魔法の流れを汲むものらしいね。ラウス・バーンも魂魄魔法で三倍化や五倍化なんて強化をしていたみたいだし」
【限界突破】は三倍化、派生技能の【限界突破・覇潰】は五倍化という割と強い能力。
時間切れでパワーダウンしてしまうが、使っている間は相当な万能感に包まれる。
(まぁ、五〇倍にパワーアップする超闘士化からしたら大した事も無いけどな)
超サイヤ人への変身と同じだがユートはサイヤ人じゃないし、【ウルトラマン超闘士激伝】から超闘士の名前を流用している。
似た様なものだし。
「変成魔法と魂魄魔法を併用したら一時的にでもパワーアップが可能、ヒュドラでも斃せる可能性が見えてくるってもんだ。重力魔法で火力向上も見込めるだろうしね」
考えれば考える程にラストダンジョンというべき体なオルクス大迷宮。
「七つの神代魔法は地球に帰還する為にも必要な魔法らしいし、僕のチームは神代魔法獲得の為に七つの大迷宮を攻略しているんだ。僕だけなら帰るのは不可能じゃないんだけど……ね」
ボソリと呟くユートとて何も後先を考えずにいればの話だが……
「そんな魔法が有るのかい?」
「概念魔法。まぁ、概念を付与ってのは幾らか僕もやっているけどね。ミレディ達、【解放者】は概念魔法を生成魔法で魔導具化に成功しているって言っていたな」
「帰るには必須か……」
南雲 愁は溜息を吐く。
前進はしているにしても息子が帰ってくるにはまだまだ時間が掛かりそうだから。
「問題は概念魔法で帰還が可能になったとして、果たして帰れるかどうか……だな」
「どういう意味だい? 帰還が可能なのに帰れないって……頓知?」
「勇者(笑)は自分の力をトータスの為に使わないと気が済まないらしい。仮に僕やハジメ辺りが戦わないと言えば奴は『トータスの人々を見捨てるのか』とか阿呆な事をほざく。実際に魔人族との戦争も基本的に奴が主導したのは前回に話した通りだからね」
「つまり、トータスという異世界で人間族を救うまで帰らないと天之河光輝君が言うと?」
「帰るべきじゃないとさえ言いそうだ」
有り得そうだと考えたのは天之河聖治と天之河美弥と天之河美月の天之河ファミリー、勇者(笑)を知る八重樫家と白崎家の面々であった。
全員が頭を抱えてしまう。
「よくぞあれだけ歪んだものだ。しかも戦争ってのをまるで理解していない。多分、いざ魔人族にトドメを刺すまで追い詰めたら攻撃を止めるぞ。話し合おうとか捕虜にすればとか、莫迦な事ばかりほざいてね」
〔当たりだよ〕
ユートの予測を聞いたユーキが答える。
「因みに、トータスのヒト種族は魔人族も亜人族も竜人族も吸血族も全ては過去にエヒトが人間族を変成魔法で作り替えたものらしい」
「じゃあ、何でハジメ達を召喚したんだ?」
「楽しむ為に」
「……は?」
南雲 愁の瞳からハイライトが消えた。
艶消しの黒い瞳が語る……『言え』と。
「奴……エヒトルジュエは【到達者】だ」
「到達者?」
「人の限界に到達した者」
それは力無き者から視れば神の如く存在に映ってもおかしくはない。
「世に神と称されるには幾つか種類が在るんだ。真に神氣を持つ神である場合、古代に宇宙から飛来した異星人である場合、到達者や超越者である場合なんかだね。神氣を纏う神だと天威、顕象、神域という三種類が存在する」
「三種類?」
「天威は始めから神として誕生した者。顕象は自然界の一部が神の形を取った者。そして神域とは人間が神に神化した者を云う」
「人間が神にって有り得るのかい?」
「多少、意味合いは違うけど日本では死んだ人間の生前の偉業を讃えて奉る、或いは祟りを畏れて崇めるって感じになっているんじゃないかな? 平将門然り菅原道真然り豊臣秀吉然り徳川家康然りだろう?」
平将門と菅原道真は祟り神として畏れられ奉られた存在であり、豊臣秀吉や徳川家康はその功績を以て神号を与えられていた。
とはいえ死者は死者。
真に人間が神化した神人類はその力を振るう者の事を云うのだ。
そもそも、ユートを転生させた【純白の天魔王】日乃森なのはがそんな神の一柱。
日乃森フェイトや日乃森はやてと名乗っている親友と共に神化して、今は下級神として上位神に当たり夫でもある【朱翼の天陽神】の下で従属神の仕事に就いている。
尚、普段はユートも彼女の事を【高町なのは】……と旧姓で呼んでいた。
「エヒトルジュエは到達者として力を持っている訳だが、名乗る程に神という訳じゃないらしいから余り問題視はしていない。だけど戦争の決着も無しでは厄介なのが天之河だとか、本来は味方の筈の勇者(笑)って訳さね……困ったもんだ」
肩を竦めながら言う。
チラリとユートが視たのは天之河光輝に面影が見える中学生くらいの少女、とはいえキラキラな勇者(笑)たる天之河に似ているだけに顔は一級処ではなく特級、年齢的にも守備範囲なだけにアレに似た顔だからか澄ました表情を壊してやりたくなってしまう。
やはり
ユート自身は和魂と幸魂が強くて優雅は荒魂と奇魂が強い関係ではあるが、相互に干渉し合うからどちらも精神に影響を受けてしまう。
ユートが味方に甘いのは和魂が強いからだが、敵に苛烈なのは優雅の荒魂の影響であった。
逆に基本的に荒々しい優雅がツンデレか!? という具合な態度なのはユートの和魂から影響を受けているから。
総じて四魂のバランスが取れている。
(ふーん、天之河美月……だねぇ)
ユーキはニヤリと口角を吊り上げた。
「他にも強力な精神生命体が神を名乗る場合もあるかな。今現在で云えば到達者のエヒトルジュエはそれに近い」
「近い?」
「どうやら元人間の到達者たるエヒトルジュエは肉体を疾うに喪って精神だけの存在らしい」
〔流石に
真の名前を使うと切札の一つが強化されるし、隠しているのがあのエヒトとアルヴだ。
〔ま、所詮は単なる魔王に過ぎない。実力的にもドラクエⅥのムドー(偽)程度でしかないよ〕
「レイドック王が変質させられていたアレか? あの程度で魔王とか名乗ってんの? 魔王なんていうから身構えていたんだがな」
〔雑魚だよ雑・魚。後は一応の概念魔法くらいは扱えるけどね〕
大した存在ではない。
エヒトルジュエはアルヴヘイトを創った存在であるし、アルヴヘイトすら器には足りなかったと吹く程度には強力ではあるが……
「楽しむに関してだけど……奴にとっては世界というのはゲーム盤で、人間はゲームの駒に過ぎないという認識だ。万を越えて在り続けたエヒトルジュエは退屈したんだろうね。だから屍山血河を築くのを愉しいと感じたのかも知れない。途中までは上手く回せていたのに一気に不利になって敗れた人間の絶望を観て嘲笑うんだ」
「何と悪辣な……」
「奴こそ最低最悪な魔王だろう」
南雲 愁は嘆いてしまうが、ユートからしたならアレこそがオーマジオウに与えられていた称号に相応しいとすら思う。
〔兄貴は強い。強過ぎると判断されたらしいね。エヒトの使徒が襲って来るくらいには。イレギュラー扱いだから……さ〕
「ああ、リューンな」
〔リューン? アハトとかノイントとかゼクスとかじゃなくって?〕
「ああ、そう名乗ったがって……まさかエヒトの使徒って数の子だったのか?」
〔そうだよ。連中は量産品ながらいちいち名前が数字だったりする」
顔もスタイルも基本的に数打ちだけに変わりのない連中であり、唯一の違いたる名前すら数字に過ぎないというのが正に量産品たる所以か。
「じゃあ、リューンは……そういえば奴は半端者みたいな話だったか? エヒトの使徒の能力値って確か全12000らしいが、奴は半分くらいしか能力が至っていなかったからな」
〔成程、数字すら貰えなかったんだ。だから自ら名付けてリューン……ね〕
「こうして考えるとシェーラってまだマシな類いだったんだな……」
覇王将軍シェーラは覇王グラウ・シェラーから名前の一部を与えられた……と言えば聞こえは良さそうだが、実際には名付けが面倒だから自分の名前から付けただけだった。
因みに、獣王ゼラス・メタリオムもゼラスから自らの獣神官ゼロスの名を付けたが、此方は自らの名の一部を与えたのが正しい。
とはいえ名付けはされていた為にシェーラも、リューンに比べればマシであったとか。
「ま、斃した相手はどうでも良いか」
今や香織用の仮面ライダーの名前である。
その後も話は続いて、仮面ライダーのシステムをクラスメイトに渡さないのか? なんて話題も出たが、『拡散したくない』のと『身内以外には渡す心算は無い』というのに加え、『清水みたいな裏切りが無いとは限らないし、小悪党四人組みたく仲間を攻撃するかも知れない』など尤もらしい事を言われて閉口してしまった。
特に大きかったのが、例えば連中の中の一人がヘルシャー帝国にライダーシステムを手土産代わりで亡命した場合、手に入れたそれをガハルド・D・ヘルシャーは返還をしない。
そうなればユートはヘルシャー帝国を亡ぼしてでも取り返すし、システムを売った亡命者は間違いなく殺処分とする……と言われたのだから。
親からすれば強い力に護られて欲しいとは思うのだろうが、ユートにとってクラスメイトなんて同郷ですらないのである。
肉欲に塗れた関係であってもユートは身内扱いをするが、赤の他人は本当に他人にしか該当しないと割かし徹底していた。
それでも仲良くなれる人間は居るし金で売却をした事もある。
だが……裏切る可能性が高いクラスメイトになど渡せるものか! というのがユートの考え。
既に都合、五人が裏切りを働いている。
天之河光輝も怪しいし、腰巾着でイエスマンの坂上龍太郎なぞ語るにも値しない。
香織と雫も奈落での事が無ければ同じ扱いでしかなかったのである。
「香織と雫は僕に抱かれて、僕に付いてくるという選択をしたからライダーシステムを渡した」
そう言われては親バカな白崎智一も口を閉じるより他には無く、悔しそうに愛娘の貞操を食い散らかす男を睨むしか出来なかったという。
それでもユートを通して白崎家と八重樫家は、行方不明扱いの娘と話せたから落ち着く。
また、遠藤家はユートと知らない仲ではなかった事も手伝って、宜しく頼まれたので遠藤浩介には少し配慮を約束したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第二回家族会は終わる。
ユーキもダブルドライバーを解除してしまって元々の……一四〇cmにも満たない身長の姿に。
「天之河美月」
「……何?」
帰ろうとする天之河美月に話し掛けた。
「話があるんだけどちょっと良い?」
「構わないけど」
緊急避難的とはいえ最愛の御姉様を汚した男の義妹であるユーキ、個人に恨みは辛みは無いにしても良くは思えない相手だ。
「単刀直入に言うと、兄貴の女にならない?」
「ハァ? 誰が雫御姉様を汚した男になんか貞操を捧げるものですか!」
「
「当然でしょ!」
怒りを露わとする姿も美少女で、あの高校へと入学したら香織達が卒業した後に新たな【女神】と成りそうだ。
「ボクとしては
「ブフッ! 恋人や愛人ですらない!?」
まさかの
「まぁ、ジョークは置いといて」
ジト目を向けられる。
「君にもメリットは有るよ?」
「メリット? 貴女の兄の女に成るのが?」
「判らない?」
「判る訳が無いでしょ!」
「頭は悪く無さそうだけど、天之河光輝の妹なだけに細かい事は考えられないのかねぇ?」
「何かスッゴい侮辱をされた!?」
兄と同じとは侮辱らしい。
「よく考えてみな。兄貴が雫を抱くんだ」
「ぐっ!」
ムカつくだけだった。
「唇を重ね合わせて舌と舌が絡み合い唾液が交じるみたいなディープキス、肉体同士を絡ませ合って混じり合う汗、秘所を舐め合って兄貴の口内には雫の愛液が……更には雫の口内を秘所を菊門を貫く兄貴の分身には色々な液体に濡れる」
怒りしか湧いてこない天之河美月……というよりは最早、憎しみで人を殺せたら! 的な顔。
「雫の直後に抱かれるって事になればそれらの……某かの液体が間接的に君を濡らす」
「……え?」
「間接キスならぬ間接セ○クスだねぇ」
「え、え?」
先程の憎しみは何処へやら? ポーッと頬を朱に染め始める美月の頭には雫のあられもない姿と重なる自分。
「それだけじゃない」
「ま、まだ有るの?」
「兄貴は3P4P当たり前だけど、女の子を複数抱く時には
「そ、それは……まさか?」
「雫に抱かれたく無いかなぁ?」
鼻を押さえて踞る美月。
グルグルとその場面が妄想されていた。
(やっぱり肉欲は有るんだねぇ)
義妹とか名乗っても、寧ろ義理の関係だからこそなのか? プラトニック・ラヴとはいかないのかも知れない。
ユーキが義妹だからこそユートと愛し合うのと同じ……ではないが……百合だし。
天之河美月は雫の結婚相手に天之河光輝をと考えていたが、それはそうなれば誰憚る事も無く自らが義妹に成れるからに他ならない。
寛容にも他の義妹の台頭を赦せるのも将来的には自分こそ、“自分だけ”が唯一無二の義妹であるという矜持が有ったればこそである。
それが……抱かれる?
誰が誰に?
自分が雫御姉様に?
最早、天之河光輝と雫の結婚など吹き飛んだと云わんばかりの美月。
「勿論、兄貴とずっと一緒に居なけりゃならない上にちゃんと愛を持って接しないといけないよ。それに雫だけが対象にはならないしねぇ」
「理解しているわ」
雫と真なる家族に成れるなら別に天之河光輝である必要など美月には無く、ユートに愛情を持つのも厭う理由になどならない。
自分が他の女とヤるのも文句は無かった。
「初めては当然ながら兄貴と一対一だからね」
「判ってます」
天之河美月はルンルン気分で帰宅したとか。
「クスクス、兄貴にはもっと女の子を増やして貰わないとねぇ?」
ハルケギニアの時代から全く以てブレてはいないユーキの行動原理は、今もまた此処に新たなる犠牲者? を生み出したのであった。
.
無理矢理に惚れさせるより利点を与えて不利益を呑み込ませるとか。
勇者(笑)な天之河の最後について
-
原作通り全てが終わって覚醒
-
ラストバトル前に覚醒
-
いっそ死亡する
-
取って付けた適当なヒロインと結ばれる
-
性犯罪者となる