ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 遂に遠藤浩介のあのシーンが!





第52話:因果の交叉路が交わる瞬間〔中編〕

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 冒険者ギルドホルアド支部の内装や雰囲気は、ハジメ辺りが思い描くであろうその侭だ。

 

 壁や床は所々が壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥やら何やらの染みがあっちこっちに付着して不衛生な印象がある。

 

 内部の作りは他のーーフューレン支部やブルック支部などと同じで、入って正面がカウンターとなって左手側には食事処があった。

 

 他の支部とは違い酒も出しているらしく、昼間から飲んだくれたおっさん達が屯している。

 

 どうやら二階にも座席が有るらしく、手摺越しに階下である此方を見下ろしている冒険者らしき者達も居り、しかも二階に居る者らは総じて強者の雰囲気を醸し出していて、ローカルルールでもあるのか暗黙の了解かは兎も角、高ランク冒険者は基本的に二階に行くのかも知れなかった。

 

 更には冒険者自体の雰囲気も他の町とは異なるものらしく、誰も目がギラついていてブルックの冒険者ギルドみたいなスローライフ的な雰囲気は皆無と云える。

 

 まぁ、そもそもが冒険者や傭兵などは魔物との戦闘を専門とする戦闘職が望んで迷宮に潜りに来ているのだから、気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろうが……

 

(とはいっても、そいつを差し引いてもギルドの雰囲気がピリピリしてるな?)

 

 明らかに尋常ではない様子だった。

 

 どうやらホルアドの町に歴戦の冒険者をして、深刻な表情にさせる某かが起きているらしい。

 

 ユート達がこのギルドに足を踏み入れた瞬間、管を巻く冒険者達の鋭い視線が一斉にユート達を捉えて睨み付けると、彼らの視線の余りにも余りな剣呑さに右肩に乗っていたミュウが悲鳴を上げるとユートの頭にしがみ付く。

 

 考えてみるが良い。

 

 中には非モテで自家発電か、若しくは金が有るなら娼館の娼婦で性欲を満たすばかりの荒くれ共が冒険者な訳で、はっきり云うと山賊盗賊海賊とかと変わらない連中も少なくないのである。

 

 下手すればゴブリンやオーク並。

 

 そんな中に美女美少女を沢山侍らした小僧が、可愛らしい幼女を肩に乗せて現れた。

 

 モテない輩からしたら巫座戯た話でしかない。

 

 殺気を飛ばして睨み付けるのは寧ろ当然でしかなく、血走った眼光がユートだけではなく囲われた美女ーーティオや美少女ーー香織達やミュウにも向くのは必然であろう。

 

「ひうっ!」

 

 ミュウは涙ぐんでしまう。

 

 怯えて震えるミュウを肩から降ろしたユートが片腕抱っこに切り替えると、ミュウはその胸元に顔を埋め外界の情報を完全にシャットアウト。

 

 下手をしたらトラウマにすらなり兼ねない連中の態度に対してユートは、プチリとキレてはいけないナニかがキレる感覚を覚えた。

 

 血気盛んに酔った勢いで席を立ち始める一部の冒険者達、彼等の視線はーー『巫座戯た餓鬼をぶちのめす!』と雄弁に物語っていて、このギルドを包み込む妙な雰囲気からくる鬱憤を晴らす為の八つ当たりと、女日照りな連中からはやっかみの混じった嫌がらせである事は火を見るよりも明らかであろう。

 

 単なる依頼者であるという可能性など微塵にも捨てて、取り敢えずぶちのめしてから考えようという荒くれ者そのものな思考回路にてユートの方へ一歩を踏み出そうとして……

 

 ドパンッ!

 

 鈍いながらも軽快な音に停まる。

 

 いつの間にかユートが手にした金属の筒から、何やら大きな音を響かせて放たれたのだと筒の口から煙を上げる事で気付く冒険者達。

 

 ドンッ!

 

 指向性の殺意の波動に魔力を乗せて放たれてくるとんでもないプレッシャー、それは物理的なる威圧感とでも云おうか? 彼らが感じているその感覚の名前は即ち【恐怖】である。

 

 まるで神に睨まれたかの如く恐怖は雑魚ならば意識を刈られ、辛うじて気を失っていない連中にしても大瀑布の様な汗をダラダラと流しながら、顔色は幽鬼みたいに青褪めてガクガクと震えてしまっていた。

 

 股間からは生温かい液体を零している者まで出る始末であり、中には呼吸困難に陥っている輩も居る有り様だったと云う。

 

 そんな永遠に続くかと思われた威圧が圧力を弱めたお陰で、何とか持ち直し始めた冒険者達ではあったのだが……

 

「今、こっちを睨んだ奴ら」

 

「「「「「「「っ!?」」」」」」」

 

 畏怖すら感じる声に肩を震わせた。

 

 何処か怪物でも見た様な恐怖が張り付いていた彼らだったが、そんな事など知った事では無いのだと言わんばかりにユートは要求……というよりも命令を発する。

 

「踊れ」

 

「「「「「「「え、へ?」」」」」」」

 

 余りにも突然に状況を無視した命令に戸惑いを見せる冒険者達、そんな彼らへユートは更に言葉を続けてやる。

 

「何だ、聞こえなかったか? 今時、難聴なんてのは流行らないぞ。僕はお前らに踊れと言った。当然ながら笑顔を浮かべて怖くないってアピールをしながら、モノの序でで手も振って無害であると自己主張をしろ。お前らの所為でウチの子が怯えているだろう? トラウマになって恐怖症を患ったらどうする心算だよ……なぁ?」

 

 それなら、そもそもこんな場所に幼子を連れてこなけりゃ良いだろう! と全力でツッコミたい冒険者達だったが、ドラゴンか魔王かといった感じの怪物に口答えは出来ない。

 

「……早く踊れ」

 

「お、踊れと言われても……」

 

 ドパンッ!

 

「ヒッ!?」

 

 足下に何かを放たれて腰を抜かす。

 

「ならば強制ダンスだ」

 

 ドパパパパパパンッ!

 

「ウギャァァァァァァァアアアッ!」

 

 口答えをした冒険者に放たれる非致死性弾。

 

 それにより当たった身体の部位が跳ねる様に動いており、連続でやるとまるで舞踊をしているかの如くであったと云う。

 

 ゾッとなる他の冒険者達は同じ目には遭いたくないからと、見様見真似で手足を動かして自主的に地球で云う【白鳥の湖】を舞い始めた。

 

 基本的にはガチムチなオッサン連中が多い中で舞が舞われる異様な場、それの直視をしてしまったミュウは口元を押さえて宣う。

 

「う、気持ち悪いの……」

 

 至極尤もな意見であろう。

 

 ガチムチのオッサンが無理矢理に貼り付けた様な笑顔で『あらえっささ~』と謂わんばかりに、【白鳥の湖】を踊っているシーンを想像してみるが良い、それは正しく精神を殺す気満々な悍ましい場面でしか有り得ない。

 

 幼女の素直でドストレートな感想にオッサンな冒険者達は心をへし折られ、更にはユート御怒りの銃撃で非致死性弾を額にドパンッ! されてしまって気絶を余儀無くされた。

 

「チッ、役立たず共が!」

 

 舌打ちした挙げ句の罵倒とか随分と非道な扱いではあるが、そもそもが身勝手な妬心に駆られての睨みとか明らかに喧嘩を売っていたのは彼方、文句を言える立場でも無いであろう。

 

 一階の冒険者の全員が気絶して、二階の冒険者は我関せずと目を逸らした事を受けてユートは再びミュウを右肩に乗せ、引き攣った笑みを浮かべている受付嬢が居るカウンターへ向かった。

 

 ブルックの町のキャサリンさんと違いテンプレで可愛らしく年齢も恐らく十代後半な受付嬢が、逃げたいと頭の中に警鐘を鳴らしながらも一応はプロとして口を開く。

 

「い、いらっしゃいませ。本日は当ギルドへようこそ……どの様な御用向きでしょうか?」

 

 依頼を受ける冒険者なら先ずは貼られた依頼状を持って来る筈で、ならば受付嬢に用が有るとするならば依頼を出す客か依頼を熟した冒険者。

 

 とはいえ、あれだけのアーティファクトを持つ依頼人というのも考え難い。

 

 右肩の海人族らしき少女が居なければ間違いなく冒険者と断じていた。

 

「受付嬢さん、支部長は居るかな? フューレンのギルド支部長イルワ・チャングから手紙を預かっているんだけど、こいつは本人に直接渡してくれと言われているんだよ」

 

 そう言いつつ自分のーー但し勝手気儘に改造をしているステータスプレートを、カウンターの上に置いて受付嬢へと差し出す。

 

 受付嬢は緊張に喉がヒリヒリしながらもプロらしく居住まいを正し、ステータスプレートを受け取って書かれた内容の確認をした。

 

「は、はい。お預かりします。え、金のマーク……金ランクの冒険者!? フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですかぁ?」

 

 普通は一介の冒険者がギルド支部長から直接の依頼を受けるなど有り得ない話ではあるのだが、渡されたステータスプレートに表示がされている情報は最高ランクの証。

 

 冒険者に【金】のランクを持つ者は全体の一割に満たないとされるが、理由の一つに戦闘系天職を持たない者は原則として最高位が【黒】まで、【銀】と【金】の認証は成されないから……というのがあった。

 

 メルド・ロギンスが嘗て召喚された勇者達へと説明をしたけど、そもそも天職を持つ人間の方が珍しいとされていた上に戦闘系天職は非戦系よりも更に珍しいのだとか。

 

 ハジメの【錬成師】は取り分けありふれた職業だったりするが、それ以外は持っている方が少ないレアケースだったりする。

 

 きっとエヒトは錬成師が嫌いなのだろう。

 

 受付嬢が驚いたのは【金】ランクがSSRだからというだけでなく、このランクの認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然だが彼女も全ての【金ランク】冒険者を把握しており、ユートの事を知らなかったから思わず驚愕の声を漏らしてしまったという訳だ。

 

「受付嬢さん、個人情報の流出ってのは宜しく無いんじゃないかな?」

 

 受付嬢がハッとして周りを見れば、ギルド二階に居る冒険者と職員も含めた全ての人が受付嬢と同じく驚愕に目を見開き、ユートを凝視していて建物内が俄に騒がしくなっていた。

 

 ユートの指摘に自分が個人情報を大声で晒してしまった事に気付き、タラリと冷や汗を流しつつもその表情を青褪めさせると凄まじいまでの勢いで頭を下げ始める。

 

 服装こそ間違いなく受付嬢な少女ではあるが、見覚えのある()()()()()()()()を頭に着けた少女が……だ。

 

「ももも、申し訳ありません! 本当に、本っ当に申し訳ありませ~んっ!」

 

「別に構わない……とは言わないけど取り敢えず、こんな所で受付嬢ごっこか? スールード」

 

「いけずですねぇ、ユートさん。正装ではありませんし、今は()()と呼んで下さいよ」

 

 ニコリと誰もを魅了出来そうな笑顔を浮かべながら、鈴鳴ーー永遠神剣第四位【空隙】の担い手であるスールードはまるでユートに媚びるみたいな口調で言い放った。

 

「まぁ、良いか。受付嬢ってんなら受付嬢らしくギルド支部長に取り次いでくれ」

 

「本当につれませんね。判りました」

 

 スールードというか鈴鳴はコロコロと笑いながら仕事を熟すべく引っ込んだ。

 

「本当にトータスに何をしに来たんだ?」

 

 煌玉の世界とされる世界を自らの永遠神剣を用いて滅ぼした張本人、今の鈴鳴は本体から僅かば

かりの力を分けられた分体に過ぎない。

 

 それ以降も偶にこんな感じでユートと関わるのだが、特に悪意などは持たず流しの仕事人をしている節があった。

 

 実際、様々な仕事人をしているから鍛冶師からメイドさんまで色々とやれるみたいだ。

 

 本体は知らないけど煌玉の世界以降にて分体がユートの前に現れて世界を滅した事は無い。

 

 気を遣っているというより、本人が曰く『嫌われたくないじゃありませんか』だそうな。

 

 這い寄る混沌もちったー見習えと云いたい。

 

 数分も経った頃、ギルドの奥からけたたましく足音を鳴らしながら何者かが現れた。

 

 勿論、鈴鳴ではないだろうから何事かと音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身に黒装束を纏う黒髪の少年が凄い勢いで飛び出てユートの方へと向かって来る。

 

「緒方!」

 

 それは思い切り見覚えのある少年。

 

「は? 遠藤……か?」

 

 遠藤浩介であったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ホルアドギルド支部長室。

 

 支部長室まで通されたユートは取り敢えずだが自己紹介をして、ミュウに菓子を与え膝に乗せた状態でソファーに座る。

 

 一緒に来てた香織、雫、ユエ、シア、ティオ、ミレディも同じく座って此処に招いた張本人であるホルアドギルド支部長ロア・バワビスが対面側に陣取り、隣に遠藤浩介が座っていた。

 

「お茶です」

 

 人数分のお茶を持ってきたのは鈴鳴、人数分には一つ多い気はしないでもない。

 

 ガタイが良くて左目に大きな傷が入った迫力のある男、年齢は月奈の倍近いのではなかろうかという年輪が顔に刻まれている。

 

 その眼からは長い年月を経て磨かれたであろう深みがあり、全身から覇気が溢れていて見るからに偉いさんだと解るだけのカリスマがあった。

 

 天之河のそれがチャチに見える程に。

 

 何故か受付嬢の仕事に戻らず座る鈴鳴だったりするのだが、これまた何故か注意をしない支部長に首を傾げてしまうユート。

 

 だけど分体とはいえ基本的にはユートより実力自体は高いーー但しそれはエターナルであろう真の本体ーー永遠神剣の担い手たるスールード故、下手に騒ぐのは悪手であると考えてスルーをしておくしかない。

 

 ちゃっかり()()()()()も用意済みだし。

 

 ロア・バワビスが現れるまでに遠藤が騒ぎ立てたが、既に同じ様に騒いで勇者(笑)や騎士団に何かがあったことを晒してしまったのだろう。

 

 道理でギルドに入った時に一種異様な雰囲気が辺りに蔓延をしていた訳である。

 

 遠藤浩介から話を聞いたユート達。

 

 早い話が九〇層にまで進出に成功をしたけど、其処で魔人族の女が待ち伏せしていたらしい。

 

 女の繰り出す魔物に翻弄され、しかも谷口 鈴が石化されてしまったりと確実に不利な状況。

 

 遠藤浩介はステルス性を見込まれて騎士団が居る場所に戻り、クゼリー団長に報せるという役割を与えられたのだと云う。

 

 その後はクゼリー団長から援軍を……という名目で地上に戻されたのだが、女魔人族が何故か仲間をスルーして転移魔法陣がある層までやって来て騎士団が迎撃を始めた。

 

 遠藤浩介を一人だけ逃がして。

 

「お、俺を逃がす為に、団長や皆が……」

 

 悲壮感を漂わせるのは一人だけ逃げた罪悪感もあるのだろうが……

 

 取り敢えず遠藤浩介から一通りを聞き終わった訳で、ユートは初めて魔人族に接触したウルの町での事を思い出す。

 

「やっぱり大規模な作戦を始めたんだな」

 

 それは予測されていた事で、ミレディ辺りからしたら勇者パーティだろうが魔人族だろうが亜人族だろうが関係は無く、『あのクソ野郎』を斃してくれるなら誰でも良いと考えている筈。

 

 実際に【解放者】は組織の人員が神代魔法の使い手からしてちゃんぽんで、人間族なミレディとラウスとオスカーとナイズに魔人族と氷竜人族のハーフなヴァンドゥル、海人族と吸血鬼族のハーフなメイル、森人族なリューティリスと云う具合に基本的な全種族が揃っていたのだから。

 

 流石に多種多様な亜人族が全てではないけど、類い稀に見る多様性のある集まりだった。

 

 だからこそ大迷宮はそれぞれの所縁の地に造ったのであろう、ミレディがライセン大迷宮をライセン大峡谷に造ったみたいに。

 

 藁にも縋るというか、種族は疎か世界すら関係無く願ったのだろうから。

 

(ああ、そうだな。お前の願いを叶えられるのは唯一人……僕だ!)

 

 既に何度も抱いて情を交わしたからには相応に愛しさを感じるミレディ、ならば彼女の願いである『あのクソ野郎』くらいは殺してやる心算だ。

 

 ハジメや恵里が居て窮地に陥るというのも考え難くてユートは首を傾げてしまうが、遠藤浩介もロアも深刻な表情をしていて室内は可成り重苦しい雰囲気で満たされている。

 

 それを他所に膝の上で幼女(ミュウ)が御菓子を頬張っている為に、どうにも深刻になり切れてはいなかった。

 

 どの道、ミュウには難しい内容の話。

 

 ならば御菓子を与えて食べさせて意識を話から逸らしたい、それが効を奏している形ではあったのだが……

 

「ってか、何なんだよ! その子は! どうして菓子なんて食わしてんの!? 今の状況を理解してんのか!? 重吾も健太郎も……天之河達だって死ぬかも知れないんだぞ!?」

 

「ひぅ!? パ、パパ~!」

 

 この場の重たい雰囲気を打ち壊す様なミュウの存在に、耐え切れなくなった遠藤浩介が苛立ち紛れに指を差しながら怒声を上げる。

 

 そんな剣幕に驚いたミュウが小さく悲鳴を上げながらユートに抱き付いた。

 

 遠藤浩介は遠藤真実の繋がりから仲良くしている友人枠ではあるが、当然ながら義理とはいえ娘を罵倒して怖がらせるなど許されない。

 

「遠藤……ミュウに八つ当たるとか死にたいか? 今すぐにでも小悪党四人組や他のクラスメイトーー名前は殆んど識らないーーの居る冥界に旅立たせようか? 冥界の王……冥王ユートの名に於いて無間地獄に招待するぞ?」

 

「ひぅ!?」

 

 先程のミュウと同じ悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤浩介、殺意の波動と謂わんばかりの殺気に中られてしまいソファへと倒れ込んで、生まれたての小鹿の如くプルプルと震える両脚で誰得な涙目となっていた。

 

 ユートの背後に豪鬼すら霞むナニかを幻視してしまった為にか、耐えてはいたものの股間を生温かい液体が少しだけ濡らしてしまう。

 

 そんな遠藤浩介を尻目にミュウを優しい笑顔で宥めているユート、ロアはちょっと呆れた表情をしつつ埒が明かないと二人の話に割り込んだ。

 

「ああ、何だな。イルワからの手紙でお前の事は大体を判っている心算だ。随分と大暴れをした様じゃないか?」

 

「まぁ、成り行き任せだけどね」

 

「成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態では決して無いがな」

 

 ロアは如何にも愉しいと謂わんばかりの笑みを浮かべながら唇の端を吊り上げる。

 

「あの手紙にはお前さんの【金ランク】への昇格に対する賛同の要請と、出来得る限りの便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていたぞ。一応は事の概要を俺も掴んではいるんだけどな……僅か一〇人足らずで六万にも近い魔物を殲滅し、半日と掛からずフューレンに巣食う癌とも云える闇組織の壊滅とか、俄には信じられん事ばかりをやらかしている訳だが……な。まさかイルワの奴が適当な事をわざわざ手紙まで認めて伝えて来るとは思えん。お前が実は魔王だとか言われても俺は最早不思議に思わんぞ」

 

 魔王はトータスにとって魔人族の王を指す。

 

 魔国ガーランドの魔王アルヴは相当な実力者らしく、魔王とは畏怖と共にジョークでロアが口にしたものである。

 

 まぁ、魔王が強いのはアルヴがエヒトの眷属として創られた存在だからだとユートは聞かされていたし、エヒトがエヒトルジュエであるのと同様にアルヴはアルヴヘイトが真の名前だ。

 

 連中が真の名を隠すのは情報通りなら概念魔法に名前を使うものがあり、それの効果を二段階にする為という理由が一つにあるらしい。

 

 事実、エヒトの名前よりエヒトルジュエの名前に於いて使った方がより強力だったとか。

 

 然しユートはそんな魔王にも劣るなどと露にすら考えてはいかなった。

 

「魔王、魔王……ねぇ。ハドラー? バラモス? それともムドーかな? いずれにせよ敗けるとは思えないんだけどな」

 

 どれも大魔王の前座でしかないし。

 

「直に戦った事でもあるのか?」

 

「ハドラーは転移直後が丁度、アバンとマトリフとブロキーナが魔王軍と戦う直前だったのに巻き込まれる形で一回な。【凍れる時の秘宝】を使った一年後の戦いは参戦拒否された。見た目が縮んで五歳児だったからな。マァムの世話に始終していたよ」

 

 結果、マァムから慕われて大切なモノを戴いてしまった訳なのだが、レイラはニコニコと受け容れてしまっていた辺り望んでいたみたいだ。

 

「バラモスは戦ってない。勇者アレルと後の初代サンケンオウのみで戦ったからな。大魔王ゾーマとの戦いは参加したが……百年以上経ってから再び戦う事になるとはなぁ」

 

 大魔王ゾーマや側近との戦いにアレルはジパングに来てユートに増援要請をしてきた。

 

 フォンの事もあるから手伝ってやる。

 

「ムドーは戦って斃したよ。大して強くはなかったけどな」

 

 イザと共に暮らしていた事もあり、ライフコッドからの旅立ちも二人でだという縁もあった。

 

 真ムドーはレイドック王の変異体よりは強かったのは間違いないが、所詮は『四天王最弱』みたいな序盤の魔王でしかない。

 

「ってか、何でドラクエの魔王と戦ってるとかをマジに言えてる訳?」

 

「ドラクエ世界に行ったから」

 

「さいですか」

 

 ハルケギニア時代の最終決戦直後、フルパフォーマンスで【黒の王】と【白の王】が嘗て振るった最終兵装ーー【シャイニング・トラペゾヘドロン】を放ち、時空間を破砕して放浪をする羽目に陥った際に様々な世界を渡り歩いた。

 

 最初の世界が【ありふれた職業で世界最強】な世界に来る前の【魔法少女リリカルなのは】の世界だったが、一六年以上前だから高町恭也でさえ当時だと不破恭也という三歳児くらいだった為、其処がリリカル世界とは気付けなかったのだ。

 

 混じって習合された【神楽シリーズ】の一つである処の【鬼神楽】、その世界観で神様の一柱であるイチ様に拾われたのである。

 

 力を喪って小宇宙は疎か魔力すら使えなくなっていたユートは、イチ様とナツ様の二柱に残されていた力ーー這い寄る混沌の神力を喚起して貰う事により【ネオディケイドライバー】化されて、今現在みたいな仮面ライダーディケイドへの変身能力を手に入れた。

 

 何故にディケイド? とは思ったが後に判明というかユーキから聞いて理解をする。

 

 実質は兎も角、『終わりなき旅の途中の、全てを破壊し全てを繋ぐニャルラトホテプ』が居たのだと云うのだから。

 

 つまりは問題ナッシング。

 

 尤も、最初はディケイドのカメンライドとアタックライドとファイナルアタックライドのカードしか無くて、旅をしていたら唐突に増えていく形だったのは首を傾げてしまうけど。

 

 因みに、ユートのカードは平成・昭和仮面ライダーの()()に及ぶがまだ令和ライダーは無い。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 遠藤浩介が冒険者ギルドに居たのは高ランクの冒険者に勇者(笑)達の救援を手伝って貰いたかったから、当然ながらステータス的に低いから深層まで連れて行くことは出来ないのだが、それにしても転移陣の護りくらいは任せたかった。

 

 其処に駐屯をしている騎士団員も勿論居るが、王国への報告などやらなければならない事が多々有るし、そもそもにして騎士団長クラスでもないとレベルが低過ぎ、精々が三〇層の転移陣を護るくらいしか出来やしない。

 

 七〇層の転移陣を護るなら【銀ランク】以上の冒険者の力が必須であった。

 

 そんな訳で二階に居た高位ランク冒険者に対する大暴露を晒し、しかも任務となるのがまさかの第七〇層に在る転移陣の守護だとか。

 

 幾ら何でも尻込みをするだろう。

 

 あの冒険者ギルド内のピリピリギスギスとした雰囲気はその所為だった。

 

「魔王ってトータスではガーランドの王だよな、僕はそんなに弱そうに見えるのか?」

 

「魔国ガーランドの魔王は相当な実力者と聞く、それを雑魚の如く言うとは随分な大言壮語を吐くものだな……お前さんが言う程の実力者だというなら冒険者ギルド・ホルアド支部長である俺からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者(笑)共の救出か?」

 

 『救出』という言葉を聞いて意識を此方に戻した遠藤浩介はその身を乗り出して叫んだ。

 

「頼む、緒方! 頼れる人間が余りにも少ない。緒方ならやれるんだよな? この際だから天之河を助けろなんて事は言わないから、重吾や健太郎を! 辻や吉野を助けてくれ!」

 

 永山パーティのメンバーである。

 

 そもそもにして遠藤浩介も永山パーティの一員として動いており、永山重吾と野村健太郎は親友と呼べるだけの間柄だった。

 

 ユートと遠藤浩介は互いに苗字呼びをしてるが、その理由は実は親友とまではいかないからだ。

 

 何故なら遠藤浩介とはその妹の遠藤真実(まなみ)を介した友人であったから。

 

 まだ小学生でしかなかった遠藤真実が大学生のナンパ紛いを受けて困っていた際、ユートが助けたのが切っ掛けとなって随分と懐かれた。

 

 この世界では小学五年生を性の対象にしようとして、暗殺された莫迦が居るくらいだからおかしくはないのだろうが……

 

 尚、それは天之河率いる四人組が見ていたらしいのだが、本来の歴史では雫が救出して遠藤真実は【義妹(ソウルシスター)】と化してしまったのだと思われる。

 

 少なくともこの世界線では。

 

 どうやら彼女は天之河美月、始まりの義妹とはクラスメイトらしいから話も聞けたろうし。

 

 処がユートの介入で義妹化は防がれた。

 

 今を以て遠藤真実が雫のソウルシスターといった事実は存在していないし、寧ろユートへ積極的なアタックを繰り返しているくらい。

 

 尚、この際に天之河が『暴力で解決をしようだなんて野蛮だとは思わないのか?』と、自分も同じやり方しか出来ない癖に宣った。

 

 その時点で合わないと確信する。

 

 コイツの場合は自分が『正義』の執行が叶わなかったから議論を摩り替え、此方を罵る事で自らの『正義』を示したいだけだからだ。

 

 天之河云々は兎も角として、真実を助けてからは彼女に家へ連れて行かれ家族である両親と二人の兄を紹介されていた。

 

 遠藤浩介とはそれで出会ったのである。

 

 遊びに行くのも基本的にユートと遠藤浩介へとくっつく形で遠藤真実がというか、遠藤浩介の方が遠藤真実のオマケな扱いだった。

 

 遠藤真実の心の中では。

 

 コブ付きだから……というか本人がコブ扱いだからか、遠藤浩介とはハジメの様な親友枠にまで昇り切らなかった要因だ。

 

「両親だけでなく真実からも頼まれてるしな」

 

「……え? 真実?」

 

「こうにぃを宜しくってさ」

 

「あの真実が……マジに?」

 

「普段は小生意気でも兄妹仲は良好な訳だから、そりゃ心配だってするだろうさ。僕の妹もそんな感じだぞ?」

 

 というよりLOVEだった。

 

「そ、そっか……」

 

 ユートは【神秘の瞳】を持つが故に遠藤浩介を見失わない、それが嬉しかったから友人となった経緯を持っている。

 

 何しろステルス性能は機械すら誤魔化すから、如何な親友たる永山重吾や野村健太郎とはいっても見失うし、果ては親兄妹に至っても見失うのだだからこんな嬉しい事はない。

 

「だから遠藤……否、いい加減で浩介と呼ぼうか。天之河や坂上は兎も角、僕もハジメや中村は心配なんでね。序でにで良ければ助けよう」

 

「本当か! 緒方……否、優斗!」

 

「ああ。ロア支部長、悪いが指名依頼の依頼状を発行してくれないか?」

 

「無償で動くと思われたくないからだな?」

 

「正解」

 

 流石はギルド支部長。

 

「浩介、僕は割と気が合うお前を死なせる心算は無いんでな。それに漸く名前呼びになった途端に死なれてもね」

 

「優斗……」

 

「だから、コイツをやるよ」

 

 それは瓢箪にも見えるガジェット。

 

「これは?」

 

「シノビヒョウタンっていう名前で、シノビドライバーを出せるガジェットツールだ」

 

「シ、シノビ……只でさえ影が薄い俺が暗殺者なんて天職で、今度は影の存在である忍者かよ」

 

 ガクリと四つん這いとなって項垂れる浩介。

 

 そもそもの天職は暗殺者である上に、元の地球でも影の薄さならナンバーワン、自動ドアですら三回に一回しか反応しない程だから相当だ。

 

 まぁ、親友枠にまで超進化して欲しいし勿体無い人材であると考えたし、遠藤真実は将来的には【閃姫】契約も有り得るから準身内扱いで良いと思い仮面ライダーの力を渡す事にした。

 

「取り敢えずは使ってみろよ」

 

「お、応」

 

 シノビヒョウタンを腰に傾けると、リキッドみたいな物が腰に巻き付いた。

 

 即ち【シノビドライバー】と呼ばれるベルトであり、ミライダーとされる仮面ライダーの一角の仮面ライダーシノビに変身が可能なツール。

 

 浩介は【メンキョカイデンプレート】を手に持って、右脚をバッと上げると腰を落として片手を地面に付いたら……

 

「変身っ!」

 

 メンキョカイデンプレートをドライバーにセットし、【シュリケンスターター】を時計回しで回す事で五行を収集。

 

《DAREJA OREJA NINJA……SHINOoooBE…… KENZAN!》

 

 背後に顕れたガマエレメントが口から装備を吐き出すと、遠藤浩介の身体へとそれらが装着されていく。

 

 紫を基調とした忍者っぽい姿、顔には手裏剣を模したアンテナを持ち、センリゴーグルは黄色をしている仮面ライダーシノビ見参!

 

「【忍】と書いて刃の心! 仮面ライダーシノビ!」

 

 何処か香ばしいポーズを決めながら、浩介は高らかに自らの仮面ライダーとしての名前を告げた。

 

 存外とノリノリに。

 

 どうやらこの世界線では深淵卿ではなく、仮面ライダーシノビが活躍する事になりそうだった。

 

 

 

.




 本当は一気に大迷宮といきたかったけど……


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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