ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 まさかの前中後編の三話体制……





第53話:因果の交叉路が交わる瞬間〔後編〕

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 暫くは苗字呼びが続いていた浩介との仲が進んで親友とまではいかないが、友人枠としてはそれなりな関係となったユートは機嫌良くオルクス大迷宮へと向かう。

 

「そういえば訊いていなかったな」

 

「何がだ?」

 

「ハジメと中村が居て何で敗けた?」

 

 それは微かな疑念である。

 

「僕が一旦戻った際に使っていたG3をハジメは強化していた筈。中村もマイナーチェンジ品であるG3マイルドを使ってなかったか?」

 

「G3ーXとG3マイルドなら使っていたさ」

 

「だろうな。強化用にアザンチウム鉱やシュタル鉱や燃焼石やフラム鉱石、必要になりそうな鉱石を色々と渡しておいたんだからな」

 

 トータス最硬を誇るアザンチウム鉱石。

 

 魔力を籠めると硬くなるシュタル鉱石。

 

 現代兵器を造るのに使えそうな燃焼石やフラム鉱石、序でに硬度8だが冷やすと脆くなって熱すると再び硬化するタウル鉱石や緑光石など。

 

 使い途が解り易い物から与えた上にインストール・カードを渡して、神代魔法たる【生成魔法】も修得させたのだからアーティファクトを造るのに何も問題は無い筈だろう。

 

 本物程に強化されずともそれなりには強くなれたと思うから、ちょっとくらい強力な魔物を嗾けられても大丈夫と考えていた。

 

「強いわ硬いわ石化は使うわ、オマケに回復までされたら二人だけじゃ対処が難しかった」

 

 どうやらそうは問屋が卸さないらしい。

 

「それで中村が力尽きて倒されたんだが……南雲がキレて、何故かギルスに成ったんだ」

 

「そうか、で?」

 

「驚かないのか!?」

 

「何処か驚く要素が有ったのか? ああ、中村がたおれたのは単純に体力が尽きたって事だろう。一応は()()で強化したけどねぇ……」

 

「え、だって……南雲がギルスに成って……」

 

「ハジメにはプロメスの因子を埋め込んであるし変身しても別に驚かんよ。意外なのは不完全変身でギルスに成った事だ。アギトに成ると思っていたからな」

 

「なっ!?」

 

 プロメスとは仮面ライダーアギトの力を死に際に散布した火のエル、オーヴァーロード……闇の力たるテオスに反逆を試みた神の使徒の一柱であった存在。

 

 七柱のエルロードの中で唯一、人間側に味方をしたという火のエルはテオスとの闘いに敗れてしまい消滅、自らの因子を散布して更に沢木哲也の中の因子を喚起させていた。

 

 ユートはそんな火のエルの因子をハジメに仕込んでおいた為、ハジメがアギトかギルスに変身をするのは規定事項に過ぎない。

 

 正確にはアギトライドウォッチから力を採取してあっただけだが兎に角、プロメスの因子による変身はどうやら出来た様だと安堵する。

 

「それで変身した直後に天之河が『南雲が化け物になった。彼奴は魔人族のスパイだったんだ!』とか言って行き成り【天翔閃】を背中から叩き込んだんだ」

 

「……殺すか、莫迦之河勇者(笑)!」

 

「いや、天之河の名前は勇者じゃないんだが」

 

 ユートからしたら勇者なんてレッテルに等しいのだから当然だが罵る言葉として使う。

 

「……若しかして中村にも何かを? 俺にシノビを渡して南雲にはアギト、なら中村もと考えるのは自然だよな?」

 

「まぁね。知らないならまだ使ってないのか」

 

 彼女――中村恵里にはハジメの恋人だからという事で、準身内扱いにより王蛇カードデッキを与えていたのだが……

 

 ハジメのステータスプレートに『???』と書かれていたのが、『光之力』という火のエルを表す技能だったりするが、カードデッキは技能とは無関係だからステータスプレートに表示される事は当然ながら無い。

 

 王蛇だったのは元来ならば中村恵里が裏切りを働く筈……つまりは敵になる予定だったと聞いていたから皮肉な感じにだ。

 

「ああ、中村が何かしようとはしていたんだ」

 

「で?」

 

「天之河が気付いて――『恵里、不意討ちなんていう勇者の仲間として恥ずべき行為はやめるんだ』とか叫んで、逆に魔物に襲われて大ダメージを受けてしまって」

 

「莫迦之河勇者(笑)、役立たずなだけじゃ厭き足らず足を引っ張っているのかよ! 何か助けに行きたく無くなってきたんだが……」

 

 アレを助ける事になると考えたらやる気メーターが急速に下がってしまう。

 

「ちょ、助けるのは天之河じゃなく南雲や中村や重吾達なんだろ!? そうだよな?」

 

「そうだけど……なぁ……ぶっちゃけ、仮面ライダーが一人居れば良くないか?」

 

「俺に一人で逝けと!?」

 

 若干、走る速さが落ちているのを気にしている浩介、しかも仮面ライダーシノビに変身したばかりの自分だけに()()とか鬼畜な。

 

「優斗、後で沢山サービスするからお願い」

 

「わ、私も! 南雲君を助けたいし……」

 

 雫と香織は流石にやり方を心得ていた。

 

 とはいっても、幼馴染みの奇行に雫は頭が痛いとばかりに首を横に振っていたりする。

 

 最早、天之河光輝とは縁切りしたい程に。

 

 香織も快楽に負けユートに走りはしたものの、南雲ハジメを好きだった過去を忘れた訳ではないのだからやはり心配なものは心配だったし、彼女

たる中村恵里はハジメを盗られたとはいえ友達だったのだから助けたい。

 

「な、なぁ」

 

「どうした? 声を潜めて」

 

「八重樫だけじゃなく白崎とも?」

 

「そうだが?」

 

「……金髪ロングや金髪ポニテやウサミミやギルドに置いてきた黒髪ロングのお姉さんも?」

 

「ユエとミレディとシアはそうだ。ティオとはまだ関係はしていない」

 

()()……な」

 

 浩介はいずれヤるんだなと理解したと同時に、真実も相当に苦労するなと、お兄ちゃんとしては同情をするしかない。

 

 確か、優花とも仲が良かったからひょっとしたら他にも複数人が居そうだ……とも。

 

 実に正解である。

 

 よもやハイリヒ王国のお姫様やその侍女すらも喰っちゃったとは思うまい。

 

「取り敢えず莫迦之河がクソ役立たずだっていうのだけは理解した。ならチンタラと走って階層を降りている場合じゃなさそうだな」

 

 ユートは左腰に佩いたライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出してネオディケイドライバーを開いて装填。

 

「変身!」

 

《KAMEN RIDE FOURZE!》

 

 全身が殆んど白で埋め尽くされ、シャトルにも似ている頭部に橙色の複眼を持った仮面ライダーフォーゼに変身する。

 

「うぇ? ディケイド!?」

 

 驚く浩介を他所に更なるカードを装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE FO FO FO FOURZE!》

 

「丁度、この下が戦場みたいだしな!」

 

《ROCKET ON》

 

《DRILL ON》

 

 電子音声というより機械音とも云うべき音が鳴り響くと、ディケイドフォーゼの右腕にロケットモジュールが装着され、更には左脚にドリルモジュールが装着される。

 

「ライダーロケットドリルキィィック!」

 

 天井ギリギリまで飛び上がり、床をくり貫く勢いにて左脚のドリルモジュールを叩き付けた。

 

 床にはポッカリと孔が穿たれ、ユートは下へ下へ突き進んで行くと数秒後には終着点に。

 

 ドガンッ!

 

 凄まじいまでの爆音と共に彼方から見れば天井をぶち抜いて着地、其処にはちょっとばかり大きめな魔物が下敷きにされて死んでいた。

 

 まぁ、稼働するドリルに貫かれた上に仮面ライダーの必殺技として十数tの衝撃を受けるとか、生きていられる生物などそうは居まい。

 

 孔を通じて仲間が雪崩れ込む。

 

「香織はハジメと中村の回復を、然る後に倒れているのは確かクゼリー団長だったか? 彼女の方も回復をしてやってくれ!」

 

「はい!」

 

「ユエとミレディは勇者(笑)一味と永山パーティの護衛を頼んだぞ」

 

「……ん、任せて」

 

「了解だよ!」

 

「シアは石化解除役で谷口を治療」

 

「了解ですぅ!」

 

「雫は僕と敵の迎撃」

 

「判ったわ!」

 

 【閃姫】全員に指示を飛ばすユート。

 

 茫然自失となる勇者(笑)一味と永山パーティ、何が何やら頭がパニックで口を出せない。

 

 【閃姫】達はユートの指令を忠実に守る。

 

「南雲君、恵里ちゃん!」

 

 すぐに香織は手を翳して治療系魔法を発動。

 

 シアも持たされた石化解除薬を谷口 鈴に。

 

 ユエは攻撃魔法の準備、ミレディは結界系魔法を発動させる事で後ろの連中を護る。

 

「重吾、健太郎!」

 

「うおっ?」

 

「だ、誰だよお前は!?」

 

「は? 俺だよ、俺!」

 

「「俺俺詐欺!?」」

 

「何でだぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 気付かれていないステルス状態ではないけど、何故か二人が浩介を認識してくれない。

 

「落ち着け、浩介。今のお前はシノビだ!」

 

「……あ!」

 

 ユートから受けた指摘に漸く自分の今現在の姿を思い出す浩介。

 

「こ、浩介?」

 

「お前、つまり遠藤浩介なのか?」

 

 永山重吾と野村健太郎が驚きを露わとしながら仮面ライダーシノビな浩介に訊ねる。

 

「そうだよ! 援軍を連れて来たんだ」

 

「援軍って……白崎と八重樫はまぁ、判るとして。他のは誰なんだよ? しかも一人は仮面ライダーフォーゼ? いつから宇宙キターと友達に?」

 

 仮面ライダーフォーゼと云えば『友達』だ。

 

「あ、いや……あいつ、優斗だから」

 

「緒方ぁ?」

 

 頭が付いていかない永山重吾。

 

「その姿……お前はいったい何者だ!?」

 

 ユートはフォーゼのカメンライドカードをバックルから取り出して……

 

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ」

 

 ディケイドの姿に成りつつ答えた。

 

「って、ディケイドかよ!?」

 

「しかもバックルの色がマゼンタ?」

 

 ツッコミを入れる永山重吾と野村健太郎。

 

「な、何で緒方が……」

 

 未だにボロボロな勇者(笑)が目を見開く。

 

「ゆう君! 南雲君と恵里ちゃんの回復完了! すぐにクゼリー団長さんも回復するよ!」

 

「此方も石化解除完了ですぅ!」

 

 どうやら回復はクゼリー騎士団長を除き恙無く終わったらしい、因みに勇者(笑)と坂上龍太郎の回復は後回しで良いと考えていた。

 

「さて、魔人族。此方も立て込んでいるからな。大人しく帰るなら今回だけは見逃してやるけど、どうする?」

 

「……な、何だって?」

 

 こんな魔物に囲まれた状態で普通の人間のする発言とは思えず、驚愕をしながら魔人族の女は聞き返してくる。

 

戦場(いくさば)での判断は迅速にした方が良いと思うがな。端的に僕は死にたくなければこの場から消えろと言ったんだ。理解したか?」

 

 どうやら自分の聞き違いではないと判断をし、表情を消した魔人族の女は唯の一言『殺れ』……とユートを指差しながら魔物に命令を下す。

 

 魔人族の女はこの突然の事態、しかも虎の子となるだろう【アハトド】が理解の及ばぬ攻撃にて一撃で死んだ事、それにより冷静さを欠いていたからか致命的な判断ミスをした。

 

 アハトドは敬愛する上司からの賜り物の魔物であり、決して失いたくないという思いを持っていたというのに、それを穴を空けて踏み付けにしているユートへと怒りを懐いていたのが原因。

 

 本来の彼女は死の間際にさえ冷静さを欠かない所謂、本物の女戦士といえる存在ではあったのだろうが、感情を持つ生き物であるからには沈着冷静な侭で居られない時もある。

 

「そうか、敵って事で構わないんだな?」

 

 仮面の奥で瞑目しつつ訊ねるが既に攻撃に対する反撃を行う準備は万端。

 

《ATTACK RIDE MACH!》

 

 仮面ライダーブレイドが使うラウズカードと同じ効果を持ったアタックライド、描かれている絵は当然ながら素早く動くブレイドの姿。

 

《ATTACK RIDE SLASH!》

 

 ライドブッカーのソードモード、それの威力を引き上げるアタックライドをすぐに装填。

 

 斬っ! 斬斬斬斬斬っっ!

 

 向かってくるのだけでなく姿を消していた魔物まで、ユートはマッハの効果で忙しなく動き回りながら斬り捨てていく。

 

「なっ!? 莫迦な……」

 

 やはり驚愕を禁じ得ないらしい。

 

「姿だけを消しても気配や魔力なんかが駄々漏れじゃ意味が無いだろうに」

 

 中途半端が過ぎるという事だ。

 

 尤も、武の達人なら単に気配を消しただけなら気配の空白を違和感として感じる為、本当に姿を隠す心算であるなら気配は周囲に溶け込ませる事こそが肝要。

 

「くっ!」

 

 女魔人族は悔しげな表情となる。

 

 そもそも、あれは気配や姿を消す固有魔法だろうに動いたら空間が揺らめいてしまうなどとは、これでは意味がないにも程があるだろう。

 

 奈落の魔物の中にも気配や姿を消せる魔物は居たが、どの魔物も余りに厄介極まりない隠蔽能力を持っていたのだ。

 

 それらに比べれば動くだけで崩れる隠蔽など、ユートから視たら正しく稚拙なものである。

 

「ならば!」

 

 蝙蝠の身体に猫の頭が付いた魔物が大量に迫り来るのを受けて……

 

「シア!」

 

「はい、ですぅ! 変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 以心伝心と云わんばかりにユートの言いたい事を汲み取り、シアは予め手にしたザビーゼクターをライダーブレスに填め込みザビーに変身。

 

「キャストオフ!」

 

 すぐにザビーゼクターを半回転させる

 

《CAST OFF CHANGE WASP」

 

 弾け飛ぶマスクドアーマー、その下からライダーフォームの仮面ライダーザビーが現れた。

 

《FINAL FORM RIDE THE THE THE THEBEE!》

 

 そのカードはザビー用のファイナルフォームライドのカード、主役ライダーのみが取り上げられる番組故に原典には存在しないカード。

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

 シアの背後へと廻って何かを開く様に腕を広げると、何やらパーツが付いて曲がってはいけない方角に首やら腕やら腰やらが曲がりながら変形、その姿はまるで巨大なザビーゼクター。

 

「ザビー・ザ・ビーだ!」

 

 更にカードを装填。

 

《FINAL ATTACK RIDE THE THE THE THEBEE!》

 

 尻尾的な部位を曲げて敵に向ける。

 

「ザビー・スティンガー!》

 

 ドパパパパパパパパパパパパパパンッッ!

 

 連続で放たれる蜂の針が猫蝙蝠を貫いた。

 

「わ、私もあんな変形をしたんだ……」

 

 以前、サソード・ソードにファイナルフォームをした雫なだけに青褪めてしまう。

 

 キメラと云える合成獣っぽい魔物が地を駆けてユートへと迫るも、ユートは普通にカードを取り出してサイドハンドルを開きバックルを九〇度で回転、ラウズリーダーへとカードを読み込ませてやると電子音声が鳴り響く。

 

《ATTACK RIDE GIGANT!》

 

 それは低空対地用の四連装ミサイルランチャーを喚び出すカード、仮面ライダーG4が使う兵器で威力も凄まじい火気だった。

 

「発射」

 

 トリガーが引かれて放たれるミサイルがキメラへ向かって飛翔、けたたましい爆音と震動を起こしながら地面にクレーターを作りキメラが粉砕されてしまう。

 

 序でにと云わんばかりにライドブッカーをガンモードに換えると、サイドハンドルを引きライドリーダーに金色でディケイドのライダークレストが描かれたカードを装填。

 

「だから、それで隠れた心算か?」

 

 ユートは何も無い場所に銃口を向ける。

 

《FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE!》

 

 トリガーを引けばディケイドのクレストを描かれているエネルギーのカード一〇枚が出現して、銃口から放たれた攻撃は一枚を潜る毎に増幅をされていき破壊力を増していった。

 

 攻撃そのものはディエンドのファイナルアタックライドと大して変わらない。

 

「なにぃ!?」

 

 ブルタールに似て非なる、恐らくはブルタールを基型に変成魔法で強化したブルタールモドキの魔物が纏めて数匹が貫かれた。

 

「例え動かずとも風の流れに大気や地面なんかの震動に視線や殺意に闘氣に魔力の流れに体温等、これらを誤魔化せていない時点で単なる射的の的でしかないな」

 

 最早、斃してしまった魔物には目も向けないでユートは新たな殺戮劇を演じるべく動く。

 

 唖然となる女魔人族に仮面ライダーという一応は城で一回くらい見たにせよ、その力には度肝を抜かれて立ち尽くしている勇者(笑)達。

 

「チィッ、行け!」

 

 だが女魔人族もぼうっと視ている心算などある筈も無いらしく、すぐに多数の狼モドキな魔物を

ユートへと嗾かけてきた。

 

「させないわよ! 変身っ!」

 

《HENSHIN!》

 

 雫は仮面ライダーサソードに変身。

 

「コ、コイツもか!」

 

 女魔人族は忌々しげに呟く。

 

 斬! 斬! 斬っ!

 

 雫はマスクドフォームの侭でサソードヤイバーを揮って縦横無尽に斬り捨てていった。

 

「くっ、鈴も皆を護らなきゃ……」

 

「鈴ちゃん、無理をしないで」

 

「だけど、護りが……結界師である鈴の、仕事」

 

 クゼリー騎士団長の治療も済んだ香織に石化から戻ったばかりの谷口 鈴が宥められるが、自らの仕事として結界を張る事をやろうとフラフラしながらも動く。

 

「……心配は要らない」

 

 其処に立つはミニマムながらも何処か立ち上る

淫靡な雰囲気を持つ吸血姫、ミレディ・ライセンの魔法を正しく受け継ぐ大魔術師である。

 

「……黒天窮」

 

 迸るスパークの中心に小さな闇の球体が出現、そいつは一種のブラックホールにも等しい魔法であり、回転しているかの如く渦巻いた漆黒の球体は直径数m程のの大きさに膨れ上がり、超絶的な勢いで周囲の一切を空間ごと捩じ切りながら中心部へと圧縮をして魔物を吸い込み、その存在ごと消し去ってしまうのだった。

 

「うんうん、とっても素晴らしい威力だよ。流石は我が愛弟子だねぇ」

 

 規模も威力も申し分の無い黒天窮にミレディはどうやら御満悦だったらしく、うんうんと頷きながらドヤ顔でお誉めの言葉を口にする。

 

「……ウザい」

 

 そのドヤ顔にイラっとしたが……

 

「そ、そんな莫迦な事が?」

 

 自慢の魔物が尽く屠られていく。

 

「あ、あの御方に賜った魔物が次々と!」

 

 信じられないという思いが強い女魔人族に対して質問を投げ掛けるユート。

 

「お前の目的は何だ?」

 

「は、話すと思うのかい? 人間族に有利になる様な事をこの私が」

 

「いや、一応の質問さ。それと人間族とか魔人族とかは僕には関係無い。見たら判る通り亜人族が普通に仲間に居るんだぞ?」

 

「くっ、化け物め……」

 

「天才、化け物。思考停止した奴が越えられない存在を揶揄する言葉だ。底が浅いからそんな科白が出てくる」

 

「ぐぅ……」

 

 最早、ぐぅの音しか出ない。

 

「ゆ、優斗……」

 

「無事で何よりだ、ハジメ」

 

「う、うん」

 

 ユートの隣に立つハジメ。

 

 背中に斬り裂いた痕があるものの、傷に関しては確りど治癒している様で胸を撫で下ろす。

 

「仮面ライダーG3から仮面ライダーギルスに……ならば次は判るな?」

 

「僕は芦河ショウイチ枠?」

 

「それもアリだろ? 津上翔一には成れなかったかも知れないが、それでもお前ならきっと成れると思ったからプロメスの因子を与えたんだ」

 

「やっぱり優斗が原因だったんだね」

 

「でなけりゃ、ギルスに成る訳も無いだろ」

 

「ふふ、そうだね」

 

 ハジメは取り敢えず自分に起きた変化に気付いていたからか、起きても特に混乱をしている様子は見受けられなかった。

 

「ま、待て! 南雲は怪物で魔人族の仲間だ! それなのに……緒方も魔人族の仲間なんだな?」

 

「もう黙れよ勇者(笑)。お前の御託は疾うに聞き飽きたんだからな」

 

「なっ!?」

 

 動こうとする天之河光輝だったが、ドスン! という轟音に阻まれた。

 

「君は!?」

 

「邪魔するなら私が容赦しませんよ」

 

 仮面ライダーザビーたるシア・ハウリアが手にしている鉄鎚、アイゼンⅡが轟天モードで天之河の目の前に落とされたのだ。

 

「ふっ、はっ!」

 

 キィン! 甲高い音を鳴らしながらハジメの腰に装着されるのはギルスのメタファクターではなくて、正しく仮面ライダーアギトのオルタリングであったと云う。

 

「変身っ!」

 

 烈帛の気合いを籠めて叫びつつベルトの両サイドに有るスイッチを押した。

 

 ベルト中心部の【賢者の石】からオルタフォースと呼ばれるエネルギーが噴出、ハジメの全身を包み込んで筋肉や器官を超人の如く強化。

 

 ワイズマンモノリスを胸部中央に持ち、黒色のインナースーツに金色のパワーシェルアーマー、赤い複眼を持つ仮面ライダーアギトに成る。

 

「アギトに……成れた!」

 

 ギルスは怪物感が高い姿をしているが、やはりアギトは同じ怪物感でもヒーローと呼ぶに相応しい姿であると云えた。

 

「動き出してる未来は誰にも止められないんだ。この先のPOSSIBILITYは僕達だけのモノ!」

 

「ああ、そうだ。誰の為でなく挑む事を恐れない事こそが未来への進化だ!」

 

 ユートが一枚のカードを取り出す。

 

《FINAL FORM RIDE A A A AGITΩ!》

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

「げっ、本格的に芦河ショウイチ!?」

 

 何だか曲がってはいけない方角に曲がりながら変形をするアギト、それは本人が乗るバイクが変形した様な姿――アギトトルネイダー。

 

「中村、来い!」

 

「オッケー」

 

 未だにG3マイルドな中村恵里がアギトトルネイダーに乗り、ユート自身も乗り込んで空中を往くサーフボードの様に浮遊しながら動く。

 

 狙いは六本脚の亀モドキのアブソド。

 

 口を開いて白いエネルギーを吐き出さんとしているのが見えるが、これは自爆しようとクゼリー騎士団長が【最後の忠誠】なるアーティファクトから吸収した魔力だ。

 

《FINAL ATTACK RIDE A A A AGITΩ!》

 

 必殺技のディケイドトルネード。

 

 端から視れば【仮面ライダーディケイド】放映版での再現とも云え、アギトトルネイダーに乗るディケイドとG3の姿。

 

 まぁ、G3マイルドだけど。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 放たれた純白の光線を斬り裂く様に突き進み、ユートはライドブッカーソードモードでアブソドを斬り、恵里は背後からGGー02サラマンダーというグレネードランチャーを放つ。

 

 斬っっ! 轟っっ!

 

 二つの必殺攻撃に加えて更にアギトトルネイダー自身の突撃をも喰らい、硬い甲羅に覆われていたアブソドは堪らず爆発してしまった。

 

「あ、嗚呼……」

 

 アハトドだけでなくアブソドまで喪う、女魔人族にとっては悪夢の連続としか思えない出来事に呆然となる。

 

「今一度訊ねよう。此処で何を企んだ?」

 

「う……」

 

「話せば命だけは助けるが……」

 

「それで私は肉奴隷かい? 冗談じゃない」

 

「捕虜にする気は無いんだけどね」

 

 捕まれば肉奴隷は特に否定していない。

 

「ま、話さなくても理解はしている」

 

「な、なにぃ!?」

 

 わざわざ魔人族が大迷宮に居る理由なぞそんなに多くはないし、そもそもにして既にやっている事も鑑みれば想像はつく。

 

「このオルクス大迷宮には真の大迷宮を目当てに来たんだろう? つまりは神代魔法を獲る為」

 

「なっ!?」

 

「お前達、魔人族の誰かが魔国ガーランド領内の大迷宮で変成魔法を入手。それにより魔物の強化と従属化が可能となり、お前みたいな魔物使いが出てきた訳だからな。処が他の大迷宮は人間族の領地が殆んどな上に後は亜人族の国だ。だからこそ準備に時間が掛かったんだろうね」

 

「魔法の名前まで?」

 

「フッ、此方は神代魔法の担い手だった本人からの情報があったからな。何処に誰の何の神代魔法が有るか全てが判っているのさ」

 

「っ!? そうか、お前も攻略者という訳か! ならばその化け物染みた力も頷ける よもやあの御方と同様の者が居たとはねぇ」

 

 どうやら神代魔法の担い手たる人物を崇拝しているらしい女魔人族、左手首に巻いていた白い包帯らしき物を解き始める。

 

「こうなれば……私に力を貸しな! 仮令、資格が無くても今この時しか無いんだからね!」

 

 高らかに右腕を掲げて叫ぶ。

 

「その左手首のは!」

 

「わ、私のブレスと似てるですぅ」

 

 ユートもシアも驚く。

 

「しまった!」

 

 気付いた時には遅かった。

 

 空間を破って顕れた何かが女魔人族の右手の中へ納まっており、それを左手首に装着されている機械的なブレスレットに填め込んだ。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 銅色のそれを中心にインナーとアーマーが形成され、女魔人族の姿を全く別のナニかへと徐々に変えていく。

 

《CHANGE BEETLE!》

 

「仮面ライダーケタロス……だと!?」

 

 それは【仮面ライダーカブト】の劇場版に登場をする仮面ライダー、金銀銅の三色のライダーが存在していてケタロスは銅ライダーだ。

 

 ケンタウロスオカブトをモチーフとしており、マスクドフォームは三ライダー共に無い。

 

「カメンライダー? 貴様が名乗った?」

 

「誰から手に入れた?」

 

「何?」

 

「そいつを誰から手に入れた?」

 

 目的云々より遥かに殺気立っていた。

 

「知らないわね。私はあの御方から授かっただけだし、これがカメンライダーとやらだとは知らなかったわ」

 

「そうか、ならばそれは此方が戴こう」

 

「何を?」

 

「カブティックゼクターを戴かせて貰う」

 

「授かりながら今まで使えずにいたこれを使えたからには最早、お前達に勝ち目は無い!」

 

「それはどうかな?」

 

 仮面ライダーディケイドと仮面ライダーケタロスが互いに向き合い、そして武器をその手に持って動き出す。

 

「クロックアップ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 どうやら使い方は識っているらしい。

 

 ガキィッ!

 

「なにぃ!?」

 

 超絶スピードに加えて死角からの攻撃にも拘わらず、ユートは女魔人族――仮面ライダーケタロスの攻撃を防いで見せた。

 

 マグレではないとばかりにユートは攻撃を幾度も受けながら防ぐ。

 

「莫迦な!? 見えているのか?」

 

 仮に違う時間軸に身を置くにしても物理的に此方へと干渉するという事は即ち、逆説的に此方も彼方へと干渉が可能であるという事だ。

 

「只、迅いだけの攻撃など通じんよ」

 

 干渉が出来るならユートは攻撃も防御も可能、視るに特化した【神秘の瞳】は伊達ではない。

 

「とはいえ面倒は面倒か」

 

 楽に闘えるならそうしたいのだ。

 

 ヴーン! ライドブッカーからカードを引き抜くと、サイドハンドルを引いてライドリーダーを回転させてカードを装填すると……

 

《KAMEN RIDE KABUTO!》

 

 ディケイドカブトへと変身した。

 

「な、何だと!?」

 

「仮面ライダーカブト。ケタロスとは同型でね、それがどういう意味か解るか?」

 

「同型?」

 

《ATTACK RIDE CLOCKUP!》

 

「なっ!?」

 

 思わずクロックアップする。

 

《CLOCK UP!》

 

 互いにクロックアップをしているからには周りの人間には見えてないが、互いに互いを認識する事が出来ているという事である為、ライドブッカーソードモードとゼクトクナイガンがぶつかり合って火花を散らしている。

 

 とはいえ、女魔人族は近接戦闘が得意なタイプでは無いらしくケタロスの能力と合致していないみたいで、そもそもが近接戦闘を得意としているユートには圧され気味であった。

 

「くっ!」

 

《CLOCK OVER!》

 

 制限時間によりクロックアップ終了し、二人の姿が再び現れた。

 

「クソ、何て事だい!」

 

 どうやら元々はカブティックゼクターに認められてはいなかったらしく、変身そのものが初めてだった女魔人族は同じ仮面ライダーと闘った経験処かまともに使ってすらいない様だ。

 

(カブティックゼクターは三つ、ケタロスカブティックゼクター以外にヘラクスカブティックゼクターとコーカサスカブティックゼクターが在る。恐らくは彼女以外に最低限、二人の劇場版仮面ライダーが魔人族側に居るんだろうな)

 

 金のコーカサスに銀のヘラクス……残りの二人が誰なのかまでは判らないが……

 

「そろそろ終わりだ」

 

 サイドハンドルを引いてライドリーダーにカードを読み込ませる。

 

《FINAL FORM RIDE SA SA SA SASWORD!》

 

「ちょっと擽ったいぞ」

 

「また!?」

 

 変形していくサソードな雫、巨大なサソードヤイバーへと変わりユートの手に納まると、カード

を新たに装填した。

 

 サソード・ザ・ソードである。

 

《FINAL ATTACK RIDE SA SA SA SASWORD!》

 

 黒く粘つく液体が刃から滴り落ちた。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 我が魂はガーランドと共に在りぃぃぃぃっ!」

 

 逃げる間も与えられずに吹き飛ぶ女魔人族から離れていくカブティックゼクター、ユートは素早く飛翔していたそれを確保してしまう。

 

「くっ、上級防御魔法が素通り?」

 

「僕のスキルに【不撓不屈】ってのが有ってね、如何なるレベル差も防御も最低でも一〇%の確率で貫くものだ」

 

「ば、莫迦な……そんな技能、聞いた事も」

 

 それは無いだろう、異世界の少女を抱いた際にコピーをしたスキルなのだから。

 

 ギリギリ、本当にギリギリの数えで一二歳だったから幸いしたというべきか。

 

 本来ならコピーだと劣化するけどこのスキルは特に劣化する事も無く、フルスペックでの使用が出来ているけど実は回数が二回になっている。

 

 元の持ち主な本人は三回まで使えるけど。

 

「遺言を聞く心算は無い。捕虜にして辛い思いをさせようとも思わない。トドメを刺すのがせめてもの慈悲だと思え」

 

「感謝しよう。だけど心しな、私の恋人が、ミハイルがあんたをいつかは殺すよ」

 

 女魔人族は敗北した時点で覚悟を決めたらしく瞑目をしており、その時をジッと待っているといった風情であったと云う。

 

「無駄だね。僕は神殺し、カンピオーネでもあるんだ。神を名乗る奴に踊らされている程度じゃ、僕には敵わないさ。逆に殺してやるから地獄で添い遂げるが良い。だがその覚悟は敵ながら見事、訊いておこう……貴公の名は?」

 

「……カトレア」

 

「っ! そうか、ならば御免!」

 

《FINAL ATTACK RIDE KA KA KA KABUTO!》

 

「ま、待て、緒方! 彼女はもう戦えないんだから何も殺す必要は無いだろう!」

 

「あ? 何を言ってんだあの脳味噌があっぱらぱーな御花畑勇者(笑)は……」

 

 ユートは無視を決め込む。

 

「そうだ! 捕虜にすれば良い。無抵抗の人を殺すなんてのは絶対に駄目だ。俺は勇者だぞ、緒方も仲間なんだから、この場は勇者たる俺に免じて引いてくれ!」

 

 既に知った事かとカブトの必殺技のライダーキックの体勢へと移行している。

 

「くそ、ならば!」

 

 天之河光輝は表と裏で緑と茶の違う色を持った機器を手にすると、それをいつの間にか着けていたベルトのバックルに填め込む。

 

「確かこいつには殺さないシステムが!」

 

《HENSHIN!》

 

 緑を主体にしたアーマーに赤い複眼を持つ異形な姿へと変わる天之河光輝。

 

《CHANGE KICK HOPPER!》

 

 それはマスクドライダーシステムで番外に位置しているホッパーゼクター、変身を完了してすぐにベルトのスイッチを操作する。

 

《CLOCK UP!》

 

 高速移動からホッパーゼクターの脚の部位を引き上げて……

 

《RIDER JUMP!》

 

 ジャンプ後に再び元の位置に脚を戻した。

 

《RIDER KICK!》

 

「オォォォリャァァァァァッ!」

 

 クロックアップ無しのユートでは流石に追い付かず、勇者(笑)天之河光輝の愚行を止める事すらも出来ずにカトレアはキックを喰らう。

 

 右脚のアンカージャッキが弾かれ……

 

「嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 カトレアがその勢いでド派手に吹き飛ばされた後に爆発を起こした。

 

「これで捕虜に出来る。龍太郎、彼女を連れて来てくれないか?」

 

「え゛……俺がか?」

 

 凄く嫌そうな顔でノロノロと立ち上がると、仕方がないとカトレアが吹き飛ばされた方向へと歩いて向かう。

 

 ホッパーゼクターを解除した天之河光輝は鼻で

嗤いつつユートに対してドヤ顔を向けてきた。

 

 『どうだ』と言わんばかりに。

 

「童貞卒業、おめでとう」

 

 そんな勇者(笑)にユートは冷めた表情で……とはいえ仮面で見えないが、蔑む口調となり祝福の言葉を紡ぐのだった。

 

 

.




 もうすぐアニメ版のラストに……


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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