ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 本作はありふれ世界で起きてもおかしくない事を別作品から登場人物を出して起こします。

 例1――地球で政治犯やテロリストが頻繁していて小学生暗殺者が殺して回る。作品は【CANDY&CIGARETTES】

 例2――地球から異世界人が教会と無関係に顕れた場合のトータス人の対処。作品は【盗掘王】と【異世界に救世主として喚ばれましたが、アラサーには無理なので、ひっそりブックカフェ始めました】

 例3――強力な技能だけどマイナスも有って奴隷になりそうな少女。作品は【商人勇者は異世界を牛耳る!~栽培スキルでなんでも増やしちゃいます~】

 まぁ、出すのはヒロイン枠だけですが……





第54話:勇者(笑)と勇者は似ている様で違う

.

「童貞卒業って、確かに俺は童貞じゃないけど、今は関係が無いだろう」

 

「童貞卒業は隠語だよ」

 

「は?」

 

 理解していないらしい勇者(笑)。

 

 ユートは変身を解除して仲間達の方へ。

 

「皆、御苦労様だったな」

 

「また変形させられたしね」

 

 雫はサソードの変身を解除しながら何だか遠い目をして呟いた。

 

「私は南雲君の役に立てたから」

 

 もう互いに違う相手とヤっちゃってるから香織も既に、ハジメとは添い遂げられない事は理解もしているのだがやはり後悔もあるらしい。

 

「ん、御褒美待ってる」

 

「私としては一晩中愛して戴ければと」

 

 ユエとシアは欲望丸出し、朗らかな笑顔になって言う。

 

「やぁやぁ、ミレディちゃんの活躍が魅せられなかったのは残念だったかな?」

 

「然り気無く重力魔法で皆を援護してたろ」

 

「あり? バレてたか」

 

 巧みに重力魔法を使ってのサポート、派手さには欠けるがミレディの働きは大きかった。

 

「ティオにも帰ったら褒美を考えないとな」

 

 ミュウの面倒をみてくれているのだから正しく内助の功というやつであろう。

 

「おい、緒方!」

 

 納得のいかない勇者(笑)が話し掛けるタイミングで……

 

「持ってきたぞ、光輝」

 

 坂上龍太郎が戻ってきた。

 

 気持ちの悪い遺骸を、ポタポタと流れる血に汚れながらそれを手にして。

 

「ああ、待っていた……ぞって、龍太郎? 俺はあの女魔人族を連れてきてくれって言ったんだぞ。何で魔物の死骸を持ってきたんだよ?」

 

「何を言ってる。だからこれがさっきの女魔人族の()()なんじゃないか」

 

「……は? 遺体って、そんな筈があるものか! 仮面ライダーってのは殺さない機能が付いているんだろう?」

 

「お前、何を莫迦な……仮面ライダーって怪人を斃すのが目的に造られるんだぜ? 殺さない機能なんて有る筈が無いだろうに」

 

「なっ!? だって緒方や雫のは!」

 

 何を勘違いしているのか理解はしたが、女々しいにも程がある科白を宣う天之河光輝。

 

「非殺傷設定の事を言っているなら勘違いも甚だしい。僕の製作したライダーシステムには手加減用に非殺傷設定を付けてるが、それ以外にそんなもんは付いていない。カトレアのヘラクスにも、天之河のキックホッパーにも……な」

 

「な、んだと……」

 

 よろける天之河光輝を支える者は居ない。

 

「言った筈さ、童貞卒業おめでとうと。この場合の童貞ってのは性経験の無い男って意味じゃなく殺人経験の有無を指す」

 

「さ、殺人!?」

 

「因みに、一応は女の子の場合は処女扱いされるものではあるが、一般的に童貞と称される場合もあるな」

 

 どうでも良い話だが……

 

「ち、違う……俺は殺人なんてしてない……」

 

「カトレアを殺害したのはお前だろ天之河」

 

「殺人は悪しき行いだぞ! やって良い事じゃないんだ。俺は殺ってない!」

 

「確かに殺人は忌避されるべきだ。だけどそれが許される事態もある」

 

「莫迦な! 有り得ない!」

 

「あるさ。それが戦時中に敵兵を殺害する事」

 

「っ!?」

 

 ビクリと肩を震わせる。

 

「戦時中、敵兵を殺すのに忌避感を感じたり罪に問うたりしていたら戦えないだろうに」

 

 それは至極尤もな話。

 

 そもそも、戦争の最中に敵兵を殺す度に罪になるなら誰も兵士になんてならない。

 

「だ、だが!」

 

「戦時中は寧ろ殺さない方が非国民とか言われて罵られ、更には村八分にだってされてしまう案件なんだよ。良かったな、魔人族と戦争の真っ最中だから誰も天之河を責めんよ」

 

 ニコリと笑いながら言うユートに混乱をしている天之河、『違う違う』とブツブツ呟いているのが些か鬱陶しい。

 

 まぁ、ユートからしたら天之河光輝なんてどうでも良い存在でしかないのだし、いつまでもこのオルクス大迷宮に居る心算は無かった。

 

「そろそろ戻るぞ。ああ、坂上」

 

「な、何だよ?」

 

「カトレアの遺体は此方で引き取る」

 

「え、ああ……」

 

 いつまでもヒトの遺体を抱いていたく無いのか異論は挟まず渡してきた。

 

 ユートはその遺体をアイテムストレージに仕舞ってハジメ達を促し地上へ向かい、そんなユートらを追う形で勇者(笑)一味や永山パーティも動き始める。

 

 変身は解除をしてしまっているが、既に全員が回復も済ませているから上層の魔物なんて相手にはならない。

 

 上澄みとはいえ、仮にも九〇層まで降りたのは伊達ではないという事であろう。

 

「ねぇ、緒方君」

 

「どうした、辻?」

 

 香織以外でもう一人の治癒師である辻 綾子が話し掛けてきた。

 

「クゼリー団長は大丈夫なの?」

 

 今はまだ絶賛気絶中のクゼリー騎士団長、それはメルド・ロギンスの代わりに騎士団長を任された女性騎士、普通なら副団長が繰り上がりで任命されるのだろうが、ホセ副団長は自分には荷が重いと拒否していたのが理由らしい。

 

 実力的には問題無いクゼリー団長だったが、如何せん相手は神代魔法の強化を受けた魔物に基本的には人間族より強い魔人族、経験不足が否めなかったという処だ。

 

「危なかったが大丈夫。香織の治療系魔法は可成り高いからな。それにエリキシル剤も飲ませてあるから傷痕も残らんよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ホッとした様な悔しい様な複雑な表情をしている辻 綾子ではあるが、それはクゼリー団長が助かったのと香織の能力の高さによるものだろう。

 

 途中に騎士団が確保していた転移陣を使っての大幅なショートカットが出来るから、思っていた以上に時間が短縮出来たのは少し嬉しい。

 

 クゼリー団長も助かったとはいえおかしなアーティファクトを使って、身体も精神も疲弊し切ってしまっているから早く休ませたいし。

 

 程無くして入口まで戻ってきていた。

 

「おや?」

 

 オルクス大迷宮を出たら何故か凄まじい人数の戦力が並んでおり、その先頭にはロア支部長の姿が在った上にスールード――鈴鳴も受付嬢スタイルの侭で立っていた。

 

「ロア支部長、何なんだこの騒ぎは」

 

「何って、お前達の援護の為に人手を集めたんじゃないか! まさか終わったのか?」

 

「ああ、勇者(笑)とその一行は無事だ」

 

「そ、そうか」

 

 勇者(笑)が無事と聞いたロア支部長は集めていた戦力を解散させる。

 

「パパ~!」

 

『『『パパァァッ!?』』』

 

 ミュウを知らない者達が叫んだ。

 

 パタパタと小さな足音を立てながら駆け寄ってくるのは、翠石色のふわっとした髪の毛を揺らす海人族の幼女たるミュウ。

 

「おっと」

 

 抱き付いて来たミュウを優しく受け止めてやり抱き上げると、キョロキョロとミュウの保護者役を任せていた人物を捜す。

 

「ミュウ、迎えに来たのか? 近くに居ないみたいだがティオはどうした?」

 

「うん、あのね……ティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰って来るかもって言ってたの。だから御迎えに来たの。それでティオお姉ちゃんは……」

 

「主殿よ、妾は此処じゃよ」

 

 人混みを掻き分けて腰まで伸ばした黒髪に金瞳の美女――ティオが現れた。

 

「ティオ、こんな場所でミュウから離れるというのは迂闊だろ」

 

「きちんと目の届く所に居ったよ。ちょっと不埒な輩が居ての、幼子に凄惨な光景なんぞ見せられんじゃろう?」

 

「オッケーオッケー、それならしょうがないかも知れんな。それで? その自殺志願の愚者は何処に居るんだ?」

 

「主殿、それなら妾がきっちり〆ておいたから落ち着くのじゃよ」

 

「何だつまらん。まぁ、良いか」

 

「ホンに、主殿は子離れが出来るのかの?」

 

「案外とする必要は無いかも……な」

 

「うん?」

 

 意味が判らないと首を傾げるティオ。

 

 ユートが教えられた限り、ミュウの母親であるレミアは未亡人の侭で数年間を暮らしている。

 

 夫はミュウがまだお腹の中に居た頃に事故死をした様で、当然ながら行き成り再婚なんて出来る筈もなくてミュウを産んでからも独り身。

 

 とはいえ、ミュウが産まれてから早四年。

 

 周りに支えられてもいるし、再婚相手を目指す男共が下心込みとはいえ色々と面倒も見てくれているから取り敢えず生活はどうとでもなるけど、ミュウが父親の存在を求めているのも理解しているからこそいずれは……とも考える頃合い。

 

 其処に『パパ』と呼ばれる男が登場。

 

 原典ではレミアはミュウの科白に合わせる様にしてハジメを『アナタ』と呼んでいたとか。

 

 恐らく同じ事になるだろう。

 

 ユートは契約上で処女を求めるが別に処女厨という訳ではないし、寧ろ美しい未亡人なら問題無いとばかりに喰ってしまうタイプだ。

 

 まだレミアの容姿は知らないが、ミュウの容姿を究極進化させればだいたいの容姿は判る。

 

 尚、進化したら中学生、超進化で高校生くらいの年齢を想像した感じになり、究極進化で大学生~新婚さんくらい……二十代半だろうか?

 

 美女な未亡人なんて美味しいだけだから今から楽しみだとユートは思っていた。

 

 しかも夫はレミアが妊娠中に死んだ訳だから、実はそれ程に抱かれていた訳でもない。

 

 初夜から数えても三ヶ月くらいで妊娠が発覚をしていて、其処から抱いていないなら正に百夜もヤれていない可能性が高かった。

 

 ならばワンチャンあるだろう。

 

「兎に角、用事は済んだ」

 

「その様じゃの」

 

 後ろに見慣れぬ集団が居るのはティオからも見えていたし、それが謂わば勇者(笑)の集団なのも理解をしている。

 

 青い顔で何やらぶつくさと呟いている顔だけは良さげな男、偶にユートがキラキラ勇者(笑)とか言っているからアレが勇者(笑)だと判断。

 

(主殿に比べるのも烏滸がましいのぉ)

 

 そして早々に見切りを付けた。

 

 実力的にも精神的にも勝る処か拮抗に辿り着ける部分すら無く、恐らく座学やスポーツ辺りならカリスマ性を発揮する所謂、優等生タイプでしかないと考える。

 

 恐らくまともに誰かを殺した事も無かったのだろうが、眼の濁り具合からどうも初めて誰かしら殺害したらしい。

 

 しかも何だか呟きは否定的なものばかり。

 

(いかんのぉ、アレはいずれ堕ちる。まぁ、主殿が気に掛けぬ相手なればどうでも良いか)

 

 ティオとしては未だに抱かれてもいない内から嫌われたくはなかったし、ユートの考えを最優先に考えた結果として勇者(笑)は放置。

 

 無論、単なるイエスマンになる心算は無い。

 

 これでも数百年を越えて生きてきたのだから、多少なり他より知識の上で役に立てる。

 

 嘗ての吸血姫も知識的には二〇年くらいで止まっているし、十代なシア達は及ぶべきもないのはティオも理解していた。

 

 ならば参謀的な立ち位置に成れるだろう。

 

 ティオがユートを『主殿』と呼び、肉体関係を結ぶ事すらも厭わないのは理由があった。

 

 今はユートにも言えない理由、それは理知的だと云われている竜人族にあるまじきもの。

 

 とはいえ、ユートを慕うのは本当だ。

 

 元よりティオは自らを打ち負かせるだけの男に嫁ぐと考えていたし、集落で近い年頃の男は誰もティオには敵わなかったのもある。

 

 そんなティオにユートは一対一で勝った。

 

 これ程の戦士ならば種族の違いなど問題では無いと、敗けたその時からティオはユートと添い遂げる意志を固めていたのである。

 

 優れた雄には雌が群がるものだとティオ的には他の娘達の存在を認めてもいたし。

 

 ミュウを任されるのも信頼の証しだと受け取っており、取り敢えずは早めに閨に呼ばれたいというのがティオの差し当たりな目的。

 

 そんな中で小柄且つ水色の髪の毛を動き易い様に肩口で揃えた革鎧に金棒を持つ少女が、何故かオロオロとしながら辺りを見回していた。

 

「あの娘御は何をオロオロしとるのかの」

 

 恐らくは彼女も勇者(笑)救助隊の一員として雇われていた一人、いったい何故にあんなに困り果てているのだろうか?

 

「どうしたのかの?」

 

「あ、う……御仕事がぁ……」

 

「うん? 仕事とな?」

 

「今回の御仕事はランクフリーで役割さえ果たせば依頼料もそれだけ増える歩合制でしたのに! 入る前に終わっちゃいました~!」

 

「何とまぁ、美味しい仕事だったのじゃな」

 

「はい」

 

 勇者の救助隊は可成り重要――少なくともトータスでは――な事だけに、ロア支部長も相当に報酬面で奮発をしたらしい。

 

「それなのに~、これじゃ借金の利息すら返せなくて奴隷にされちゃいますよ~!」

 

「それはまた、難儀じゃな」

 

 ユートが仕事の始まる前に終わらせたから一人の少女が奴隷堕ちというのは、ティオとしてみればちょっと看過が出来ない事柄である。

 

 一応、参加しただけで獲られる報酬も有るのだかそれではやはり足りないという事らしい。

 

「ふむ、なれば仕事を無くした我が主殿に()うてみるかの?」

 

「……へ?」

 

 水色髪な少女は目を真ん丸にして驚いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで連れて来た……と?」

 

「うむ」

 

「とはいえ、それを然も僕の所為みたいにいわれてもな。急がないとハジメが死んだら目も当てられないし」

 

「確かに。まぁ、この娘も色々とあるのじゃよ。それに借金奴隷となっては不幸じゃろ?」

 

「不幸ではあるが、トータスでは普通だろ」

 

「日常茶飯事じゃな」

 

 何処かで大抵が起きる出来事なのはフューレンで確認済み。

 

 そもそも、今はユートの腕の中で眠るミュウがその犠牲者の一人ではなかったか?

 

「それで、ティオはこの子にどうしろと? 報酬が減った分の補填か? だけど歩合制ならつまり彼女……えっと……僕は優斗。君の名前は?」

 

「あ、申し遅れました。私はメーネです」

 

「妾はティオじゃ」

 

 序でにティオも名乗る。

 

「勇者(笑)の救助隊として仕事をする筈が当てが外れたとか聞くが」

 

「はい……」

 

「借金持ちですぐにお金が要ると?」

 

「はい、今月の利子を支払えないと奴隷に」

 

 ブルリと震えながら言うメーネ。

 

「因みに幾らくらい借金を?」

 

「ざっと一千万ルタ程……」

 

「莫迦なんじゃないか?」

 

「酷っ!?」

 

 何をどうしたら一千万ルタなんて借りるのかを微に細に訊ねたいくらいであったと云う。

 

「うう、最初は五〇万ルタだったんですが……」

 

 何でも武器が壊れては買い直すのを繰り返して結果、今や返せる当てがない一千万ルタにまで膨れ上がったらしい。

 

「武器をそんなに買い替えるのか?」

 

「実は技能に凄いデメリットが有りまして」

 

「技能……ね。メーネのステータスプレートを見せて貰っても構わないか?」

 

「あ、はい。これです」

 

 

 

メーネ

 

レベル:24

 

16歳 女

 

天職:剣士

 

職業:冒険者【青】

 

筋力:570

 

体力:143

 

耐性:74

 

敏捷:121

 

魔力:32

 

魔耐:24

 

技能:超人

 

『超人』……持ち主の筋力を戦闘中に二〇倍化する

 非戦闘時は常時数倍化される 不壊でない武器は高確率で破壊される

 

 

 

 筋力が下手な勇者組より強い、というかこの世界の人間族の枠組みに於いて最強クラス。。

 

 技能の『超人』が凄まじいメリットを持っている反面、凄まじいまでに恐るべきデメリットにより完全に相殺されてしまっていた。

 

「素手で闘ったらどうだ? それとも拳も壊れてしまうとかか?」

 

「あ、いえ……斬られたり殴られたら痛いじゃないですか」

 

「上がるのは本当に筋力だけか。確かに武器持ちのリーチは欲しいな」

 

 防御や俊敏は上がらないらしい。

 

「あのクソ野郎の悪ふざけとしか思えない技能だよね。可哀想に」

 

 同情をするミレディ。

 

 確かに悪ふざけな技能ではあるだろう。

 

「君に必要なのは絶対的に壊れない武器か技能を無くす、このどちらかになるんだろうな」

 

「壊れない武器……確かに理想的ですね。だけど、技能の為に戦いばかりをしてきましたから今更、技能無しでは生きられませんよ。それなら幼い頃から無くなれば……」

 

 土台、無理な話だと薄ら笑いを浮かべる。

 

「緒方、何故助けてやらない? 可哀想だとは思わないのか!」

 

「あ、何か復活した」

 

 メーネという美少女に良い処でも見せたいのかどうか知らないが、何故か復活をした天之河光輝が詰め寄ってきて何だかがなる。

 

「大丈夫だ、きっと俺が守ってやるから」

 

 キラキラ勇者(笑)がキラキラ笑顔を振り撒きながら、キラキラ言葉でメーネに白く並びの良い歯をキラキラさせつついつもの科白を宣う。

 

 正しくキラキラ勇者(笑)の真骨頂。

 

「出来もしない約束はしない事だ」

 

「何だと?」

 

「オルクス大迷宮でもカトレアとの闘いを真っ先に始めた癖して、斃すのを――殺すのを躊躇ったから潰滅し掛けたろうが」

 

「人殺しが肯定されて良い訳があるか!」

 

「言った筈だ。戦時中の敵兵殺しは寧ろ称賛されるべき事。当たり前だが、無辜の民を殺害したら普通に犯罪だろうけどな」

 

「くっ、だが……」

 

「所詮は平行線。僕は天之河と戦闘談義をする気は無いんだ」

 

 何かを言おうとする勇者(笑)を遮った。

 

「それで、出来もしない口先だけの約束じゃないならきちんとしたプランは有るのか?」

 

「そんなの、借りたお金を返せば良い」

 

「お前、頭は大丈夫か? キラキラ勇者(笑)は勉強が出来る筈だろうに」

 

「どういう意味だ! というより、キラキラ勇者とか呼ぶのはやめろ!」

 

「(笑)が抜けてるぞ」

 

「は?」

 

 口にしないから解り難いが、ユートは天之河を勇者と呼ぶ際には必ず“(笑)”を付けていた。

 

 こう見えてユートは【勇者】という存在を高く評価しており、故にどう考えても似非勇者としか思えない天之河には勇者(笑)呼びしかない。

 

 勇者アレル――Ⅲ。

 

 勇者アルス――ロト紋。

 

 勇者アロス――紋継ぐ。

 

 勇者アレフ――Ⅰ。

 

 勇者アレン――Ⅱ。

 

 勇者ユウリ――Ⅳ。

 

 勇者ティミー――Ⅴ。

 

 勇者イザ――Ⅵ。

 

 勇者アバン――ダイ大。

 

 勇者ダイ――ダイ大。

 

 ドラクエ系の勇者達と直に関わった身としては勇者(笑)天之河など似非も似非、最終的には自分も勇者にされてしまった訳だがあんな似非と同じにだけはされなくなかった。

 

 まぁ、半ばまで『悪魔の子』だったけど。

 

 尚、アレンはローレシアの王子として勇者の子孫という立場ではあるが、ユート的にはやっぱり勇者という括りにしてしまいたい。

 

「コホン、何で行き成り頭の心配をする?」

 

「そもそも、何で借金をしたのか理解していないからだよ。金を用意すれば済む話じゃない」

 

「借金さえ返せば奴隷になんてならなくて済むじゃないか! 君、借金の額は?」

 

「い、一千万ルタですが……」

 

 胡散臭げに答えるメーネ。

 

「よし、リリィに頼んで用意して貰おう」

 

「それすら他人任せかよ!」

 

 天之河が用意出来る額ではないと思ったが、まさかの国頼みだとか莫迦過ぎて話にならない。

 

 因みにユートなら用意が可能。

 

 何しろ、モットー・ユンケル氏に魔法の鞄を売った利益だけで億越えをしたのだから。

 

「借金を返済してもまた借金塗れになるぞ」

 

「何故だ?」

 

「メーネは冒険者を職業としていて、技能の所為で武器を常に破壊してしまう。武器の買い替えに生活費、それだけで何十万ルタが飛ぶか知れたものだろうに」

 

「なら、冒険者を辞めれば良いじゃないか」

 

「それは天職:勇者に今すぐ勇者を辞めて花売りでもやれと言うに等しいと理解してるか?」

 

「どうしてそうなる!」

 

「お前は天職が勇者だから勇者(笑)として見られているが、花売りをしろと言われてやれるか? メーネの天職は剣士で技能は超人、闘う事を前提としながら闘う職業を辞めろとお前は言っている訳なんだがな?」

 

 別に花売りに限らないが、今まで戦闘関連ばかりだったのが違う職業など簡単にはいかない。

 

 慣れない内はこんな世界では誰も雇わないであろうし、そもそも果たして闘う以外の事を器用にやれるのか? という疑問もある。

 

 事実としてご飯を作れるか訊いてみたら『出来ません』と答えられたし、食事は宿屋で出されるものを食べるか干し肉など保存食だと云う。

 

 確かに宿屋は一種のレストランを兼ねる為に、泊まり客以外が食堂に居るのも珍しくない光景であるし、それは地球やトータスに限らず調理が出来る人間さえ居れば何処でもそうだ。

 

 まぁ、当たり外れは有るだろうが……

 

「坂上が曰く努力しないからだとかだったか? ならば坂上がいますぐ調理師をやれといわれてやれるかね?」

 

「む、無理だぜ」

 

「努力不足なんじゃないか?」

 

「いや、けどよ……」

 

「少なくともハジメは将来の夢とまではいかないにせよ、手に職を持ってアルバイトもしているから努力不足ではないんだがな? ああ、職に貴賤無しと考えればお前らの基準で『そんな職業なんて』と言うのはそもそも、その職業の人間達を貶す行為に他ならないぞ」

 

 坂上龍太郎は努力と根性さえ有ればとか言ってしまうタイプで、ハジメが居眠りや遅刻寸前などをするのは努力しないからだと扱き下ろした。

 

 実際に『何を言っても無駄』と断言もしたくらいで、確かに居眠りは宜しくないしアルバイトが原因なら控えるべきではあるが、まるで何もしていない様に視られるのも不愉快な話である。

 

 実際に割と有能な息子に無茶振りをしているのは南雲 愁に南雲 菫、本来なら学業を疎かにさせてはならない立場の両親なのだから。

 

「天之河、お前がリリィに金を用意させるなんて莫迦な案しか出ないなら僕が動く。だけどそうなった場合はお前に何かを言う資格は一切無くなるからそう思え」

 

「飽く迄も駄目だと言うのか?」

 

「言ったろう、返済してもまた借金塗れになるをだと。時間稼ぎ以上の意味が無いんだよ」

 

「くっ!?」

 

「雫から聞いてるぞ。子供の頃、虐められていた雫に対して虐めをしていた連中に『虐め駄目、格好悪い』と言うだけに留まったと」

 

「それで充分じゃないか。実際に虐めはなくなったんだ」

 

「お前の見ている場所でやらないし、より陰湿な虐めに切り替わっただけ。そう雫に言われて相手にしなかった……そうだな、雫?」

 

 ユートが天之河光輝でなく雫に訊ねると……

 

「ええ、間違いないわ」

 

 頷いて肯定した。

 

「っ! 雫に何をした!?」

 

「お前、御都合解釈にしても莫迦過ぎるだろ。実際に言われた記憶も捏造し始めたか? お前自身――『ちゃんと俺が言ったんだからそんな筈無い。若しそう感じるなら雫に問題があるんじゃないか』――そう言ったそうだが?」

 

 目を見開く天之河光輝。

 

 実際の科白は違うが、大まかには間違いの無い科白であったからである。

 

「それとも言った覚えが無いと、雫が僕に洗脳でもされて言わされた偽りだと……雫の目の前で本当に宣う心算か!? 『アンタ、女だったの?』とか言われた髪が短かった頃の雫の心の傷に塩を塗りたくって踏み躙る行為をするのか?」

 

「……」

 

 遂には黙り込む。

 

 訴えられた事は確かにあったからだし、確かにそれからは特に何かした訳ではないから。

 

 自分が言ったからもう問題など無い筈なのだと

雫本人の訴えを切り捨てた。

 

「だからコイツで宣誓しろ」

 

「それは?」

 

 天之河は首を傾げてくる。

 

「ああ、確かお前は気絶していたんだったか? 単純に忘れたかは知らんが、これに宣誓をしたら呪いのレベルで絶対遵守を強いられる」

 

「なっ!?」

 

「因みに、ウルの町で神殿騎士が僕を異端者と呼んだからな。教皇は魂を潰される苦しみを受けた事だろうよ、クックッ」

 

 邪悪な笑みを浮かべるユートにドン引きだ。

 

 事実、あの日にイシュタル教皇は死ぬかと思う苦しみに喘いでいたらしい。

 

「【魔法先生ネギま!】に登場する封印級魔導具――『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』だ。勿論、本物の……な。効果は言った通り絶対遵守の封印級魔導具。どうする? 約束しないなら邪魔をすると見なして此処で話しはしないだけだがな」

 

「わ、判った……」

 

 天之河光輝は苦虫を噛み潰したかの如く表情で宣誓する。

 

「天之河光輝の名に於いて、緒方優斗とメーネの話し合いに以後を含め干渉しないと誓う」

 

 鵬法璽から光が放たれて一瞬、天之河光輝の表情が歪んでいた。

 

 魂にまで干渉するが故のものだろう。

 

「じゃあ、話を始めようか」

 

「は、はぁ……」

 

「君に提示するのは二つ」

 

「若しや、先程仰有った壊れない武器の提供と技能の削除という?」

 

「そうだ。僕にはどちらも可能だからね」

 

 ゴクリと喉を鳴らすメーネ。

 

「但し、どちらにせよ対価が大きい」

 

「う、ですよねぇ!?」

 

「壊れない武器は百億ルタ」

 

「グアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 値段を言った途端に苦しみ出す天之河光輝。

 

「お、おい? 光輝!?」

 

 心配する坂上龍太郎だったが、香織も雫もしらーっとした表情で見つめるだけだ。

 

「光輝、貴方は御勉強が出来るのに物分かりが悪いわね。干渉しないと誓ったばかりでしょ」

 

 理解する天之河光輝、これが鵬法璽の効果であり誓いを破った場合のリスクであると。

 

 確かにさっきは百億ルタと聞いて思わず文句を言いそうになり、そして魂を圧し潰さんとする苦しみに悶え苦しまされた。

 

 恐るべき魔導具である。

 

 そしてそんな物を持っているユートに対しては戦慄を覚え、同時に嫉妬心が心に巣食うのだけど本人は気付いてもいない。

 

 天之河光輝の服のポケットでナニかが蠢いたのだがそれすらも本人は気付かない侭。

 

「技能の削除とは?」

 

「僕の念能力という魔法とは異なる力によるモノでね、僕自身が相手を殺すか性的に絶頂させるかして魂を掌握すると、相手の能力を閲覧し盗み出す事が可能となるんだ」

 

「ギャァァァァァァアアアアアッ!?」

 

 絶叫を上げてのた打つ天之河光輝。

 

「懲りないな勇者(笑)は」

 

 今の科白に自分の技能が喪われた理由を察したのか、話に入り込もうと考えて再び魂を圧し潰すダメージを負ったらしい。

 

 やはり莫迦であったし、鵬法璽を使って正解であったとユートは自分の正しさを実感する。

 

「盗み出す……って、ええ? こ、殺すか絶頂……絶頂? それってつまり私がユートさんと?」

 

「流石に死にたくは無いだろ?」

 

「それはそうですけど……」

 

 真っ赤な顔でアワアワと頬を両手で挟みながらユートを見つめる。

 

「まぁ、百億ルタなんて払える筈も無いんだから壊れない武器を求めても肢体で支払う事になりそうだけど……ね」

 

「うっ!」

 

 怯むメーネ……

 

「グガァァァァァァァァアアアアアッ!?」

 

 とのた打ち回る勇者(笑)。

 

「いい加減に学習をしろよ勇者(笑)」

 

 呆れてしまうユートは最早、勇者(笑)など見向きもしないで呟いていた。

 

 メーネは見るからに美少女だから文句を言いたかったのだろうが、鵬法璽による宣誓に抗える筈も無くて苦しみに悶え喘ぐのみである。

 

「どうしたいかはメーネに任せるが?」

 

「あう、それは……」

 

「取り敢えず現物を出して見せようか」

 

 ユートはアイテムストレージ内に()()している剣を幾つか取り出す。

 

「こ、こんなに?」

 

「これは渡せないけど一応だね」

 

 それは鳥が翼を開いた様なデザインの鍔を持つ両手剣、美しい銀色が悠久の凱を越えて尚もくすまない永遠不滅を醸し出す。

 

 銘は【勇者の剣】だが、ゲーム的には【勇者の剣改+3】となり見た目は【ロトの剣】の柄と鍔に【天空の剣】の刃を足した感じだ。

 

 有り体に【真・勇者の剣】であろう。

 

 鍔のデザインは【ロトの剣】と多少の差違があるし、刃も【天空の剣】は上半分で下半分は【ロトの剣】だったりする。

 

 流石にロト紋の世界から【王者の剣】や【ロトの剣】を持ち出しはしなかったが、ユート本人が勇者を務めた世界からは【真・勇者の剣】を持ち出していたのだ。

 

 尚、通常の【勇者の剣】は鍛ち直して置いてきたからそれが【王者の剣】となっている。

 

神鍛鋼(オリハルコン)と呼ばれる神秘金属を鍛えた逸品でね。僕が嘗て揮った【真・勇者の剣】という」

 

「勇者ですか?」

 

「天之河と一緒にされたくない。彼奴は勇者(笑)であって勇者じゃないんでね」

 

 違いがよく判らない。

 

「君に渡すのは【覇者の剣】だよ」

 

「これも同じ素材?」

 

「一応は神鍛鋼製だね」

 

 ユートが当時の全てを懸けて鍛えた【真・勇者の剣】に比べると三段くらい劣るが、それでさえ凄まじい切れ味と強度と耐久性を持つ。

 

 正確には超魔生物ハドラーが手にした物ではなくて、ユートが当時に同じ材質で実験的に鍛えた剣でしかない。

 

 ハドラーが持っていたのは消滅してるし。

 

 メーネは気に入ったのか【覇者の剣】を掲げた侭に、キラキラとした瞳で刀身の美しさに見惚れているのであった。

 

 

.

 




 勇者(笑)との確執は確実です。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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