ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 グリューエン大火山はまだです。





第55話:ユートVS天之河……再び

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「気に入ったみたいだな、覇者の剣」

 

「う、綺麗で見惚れてしまうんですよ」

 

 ユートからしたら流石にロン・ベルクが曰く、『居眠りしながら鍛った様な手抜きの武器』という程ではないが、それでも【真・勇者の剣】に比べれば三段は劣る物でしかない。

 

 覇者の剣の謂わばレプリカ。

 

 本物と同じく神の金属、永遠不滅の金属などと呼ばれる神鍛鋼(オリハルコン)製であるが故に仮令、メーネが全力全開手加減無しで振り回しても壊れない筈だ。

 

 勿論、同じ材質の武器で高位レベルが同格同士で全力にて必殺技をぶつけ合ったら壊れてしまうだろう事は、真魔剛竜剣が鎧の魔剣を相手に折れた事からも判るだろう。

 

 とはいえ、超人の技能で揮うだけなら問題無く使えるとユートは考えていた。

 

「欲しいならそれを上げるけど、対価は百億ルタかメーネの肢体になるぞ」

 

「グギャァァァァァァァァアアアッ!」

 

「いい加減で煩いな勇者(笑)は」

 

 そろそろ死ぬんじゃなかろうか?

 

「うわぁぁっ! 光輝が泡吹いて気絶した!」

 

 坂上龍太郎が大慌てだったが……

 

「これで静かになるな」

 

 ユートは絶叫が無くなると安堵していた。

 

「それで、どうする?」

 

「か、肢体で……あうう……」

 

 恥ずかしくて仕方がないのか真っ赤になりながら呻いている。

 

 お金は当然ながら無くて、支払いに使えるのがメーネ本人の肢体だけならそもそも選択の余地が全く無かった。

 

 だからこそ天之河光輝も騒ごうとしてダメージを負ったという訳だ。

 

 瞳を潤ませ、頬は真っ赤っか、モジモジとして内股気味なメーネは確かに可愛らしくて、雫にしても自分が男なら欲しいのかな? とか思ってしまう程度には思えてしまう。

 

「なら、覇者の剣はメーネの物だ」

 

「は、はい! おりはるこんがどんな金属かは知りませんが、壊れない剣! 素晴らしいです」

 

 鞘に仕舞って腰に佩くと少し剣の方が大きいのはメーネが小柄故、ちょっと不恰好な気もするが本人は気にしていなかった。

 

「序でに軽装だが、青鍛鋼(ブルーメタル)の防具も渡すから装備をすると良い」

 

「ぶるーめたる……ですか?」

 

「神鍛鋼みたいな神秘金属じゃなく、魔法金属と呼ばれる金属の一つが青鍛鋼だ。とある世界では最強クラスの防具がコイツで造られてるな」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 【光の鎧】と呼ばれる鎧、勇者アレルが地下世界アレフガルドで大魔王ゾーマと戦うべく旅をしていて手にしたラダトーム三神器の一つであり、後の世に【ロトの鎧】と呼ばれた物。

 

 三神器の他は流白銀(ミスリル)製の【勇者の盾】と神鍛鋼製の【王者の剣】である。

 

 因みに、【ロトの兜】は後に鎧に合わせて造られた代物であり、勇者アレルは兜を装備をしてはいなかった。

 

 ユートが出したのは革鎧に青鍛鋼を張り付けた軽装型鎧で、サイズ調整も可能だから剣みたいな不恰好にはならない。

 

 籠手、脚当て、ベルト、胸当て、ヘッドギアが一セットとなった装備品だ。

 

 ドラクエⅢ的には防御力+45、呪文の威力を軽減、HPを微回復といった処である。

 

「うわぁ! 何だか一人前の気分ですよ」

 

「実際は半人前だけどな」

 

「うい、現実に戻さないで下さい~」

 

 盛り上がっていたのに水を差されてへちゃ顔となり、メーネはうじうじとユートを恨みがましい目で睨む。

 

「勘違いは正さないとな」

 

「はう~」

 

 メーネ撃沈。

 

「とはいえ、存外と可愛らしくコーディネート出来たみたいじゃないか」

 

「え、えへへ。そうですか?」

 

 やはり誉められたら嬉しいのか笑顔で返してくるメーネ。

 

「さて、実験をしておきたいな。坂上」

 

「あ? 何だよ」

 

「このデカイ盾を持てるか?」

 

「確かにデケーな」

 

 二つの大きな銀色の盾を坂上龍太郎が試しにと手に持ってみた。

 

「がっしりしてるが持てねーこたねーな」

 

「なら、そこで確り構えていてくれ」

 

「あん? まぁ、良いけどよ。光輝が気絶しちまってるから宿屋に行きてーんだが?」

 

「放っておいても大丈夫だと思うけど……坂上が気にするなら仕方ない」

 

 ユートはアイテムストレージから更に一振りの両手剣を取り出す、そんな剣を見た覚えがあった坂上龍太郎は吃驚した顔で見つめる。

 

「それ、確か光輝の聖剣か? 緒方に折られちまった筈だが……直ってやがるな」

 

「そう、天之河の聖剣だ。修復しといた」

 

 そう言って聖剣を地面に刺す。

 

「ほら、お前の主が彼処に倒れているから宿屋に連れて行ってやれ」

 

 ユートが言うと光を放つ聖剣が()()()()()()()に変化をしてしまった。

 

「マ、マジかよ」

 

「光輝の聖剣が美少女に?」

 

 驚く坂上龍太郎と雫だったが、ユートは呆れながらそれを否定する。

 

「あ、それ男の娘だから。普通に股間にはアレがぶら下がっているし胸も絶壁だから」

 

「「ブフッ!」」

 

 だから噴き出してしまう。

 

「聖剣には銘が無いみたいだからアベルグリッサーと名付けた。ソイツの名前もアベルになる」

 

 確かに男の名前であったと云う。

 

「何で男にしたんだ? 光輝が男なんだから相棒たる聖剣はラノベとかなら女だろう?」

 

 意外と識っていた坂上龍太郎にユートは呆れた表情で言い放つ。

 

「何で天之河が喜ぶ事をせにゃならん」

 

 理由は嫌がらせ以外の何物でもなかった。

 

「という訳でアベルグリッサー、お前の主人を宿屋に連れ込んでやれ」

 

「……」

 

 コクリと頷いて絶賛気絶中の天之河光輝をヒョイッと持ち上げその侭、軽い足取りでホルアドの宿屋へと向かって歩く。

 

 元々、この聖剣は天之河光輝を主と定めて折られるまでは常に傍に在った。

 

 それだけ天之河光輝が好きな聖剣、アベルグリッサーは人の姿を得てとても嬉しそうである。

 

「フッ、後で部屋を覗いたら天之河とアベルグリッサーの精液塗れな痴態が観れそうだな」

 

「うぉい!?」

 

 股間を見なければ貧乳美少女にしか見えないのだし、下手に襲ったりすれば間違いなく事に及んでしまうだろう……アベルグリッサーが。

 

 それは最早、強姦にも等しい。

 

「そうなると、アベルグリッサー攻めで天之河が受けか? BL的には」

 

 

「ギャァァァアアッ! 光輝ぃぃ! 光輝が危ねー! ゴフッ?」

 

 襟を掴まれ噎せる坂上龍太郎。

 

「何処に行く? 実験したいから早く構えろ」

 

「光輝がBLとかいかがわしい事になっちまうじゃねーか!」

 

「アベルグリッサーを襲わなけりゃ、そんな事にはならん。襲ったらそれは自業自得だ」

 

「うぐっ!」

 

 坂上龍太郎は親友がせめて目を覚まさないか或いは、目を覚ましても決して血迷わないのを祈る事しか出来なかったと云う。

 

「で、実験って何をやるんだよ?」

 

「何、簡単だ。覇者の剣が実際に超人の技能により破壊されないかを調べたい」

 

「つまり、盾で防いでろと?」

 

「ああ、多少なり危険はあるけどな」

 

「判ったよ」

 

 やれやれと頭を掻きながら坂上龍太郎は二枚の盾をそれぞれの手に持ち、腰を落としてがっちりと構えて前を向いた。

 

「良いぜ」

 

「じゃあ、メーネ。覇者の剣であの盾を攻撃してみてくれ」

 

「わ、判りました」

 

 言われるが侭にメーネは覇者の剣を構える。

 

「往きます! とあぁあ!」

 

 駆けるメーネはその膂力を以て覇者の剣を振り回して、坂上龍太郎が手にする二枚の盾へと攻撃を幾度も繰り出す。

 

 ガキャン! ガギィンッ!

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、かと思えば坂上龍太郎が吹き飛んでしまう。

 

「どわぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「りゅ、龍太郎君!?」

 

 驚いた香織が駆け寄るも特に怪我は無い。

 

「いつつ、何つー馬鹿力だよ?」

 

 ふと盾を見ると……

 

「げっ!」

 

 横薙ぎに真っ二つだった。

 

「お、俺……よく生きていたな」

 

 恐るべし結果に流石の脳筋……坂上龍太郎も青褪めてしまう出来事である。

 

「うわっ! 剣が壊れていませんよ!」

 

 今までは僅か一振りで破壊をされていた為にか感動しつつ、メーネは覇者の剣を天高く掲げる事で無事をアピールしていた。

 

「流石はオリハルコンかぁ」

 

 雫の知識的にオリハルコンというのは最強クラスの金属、神により与えられた特別なマテリアルという認識を持っている。

 

「神鍛鋼で駄目なら神金剛(アダマンタイト)を使った武器を渡すしかなかったからな」

 

「アダマンタイトってオリハルコンより硬いって事になるの?」

 

「通常のアダマンタイトはオリハルコンより劣るとされてるが、僕の言う神金剛は神鍛鋼と同じく神の金属……神秘金属の一種でね。ギガース共が纏う金剛衣(アダマース)の素材でもあるな」

 

 正しく侵されざる物だ。

 

「な、なぁ」

 

「どうした坂上?」

 

「ひょっとしたらこれ、俺って万が一にも死んでいた可能性がないか?」

 

「斬り所が悪ければ坂上が真っ二つだったな」

 

「うぉい!?」

 

 本当に死んでいた可能性があると聞いて青褪めてしまう坂上、然しながらユートは特に気にした風でもなく言い放つ。

 

「大丈夫、おキヌちゃんは言っていた」

 

 まるで天の道を往き総てを司る男の如く人指し指を伸ばした右腕を天に掲げて言う。

 

「死んでも生きられます」

 

 お婆ちゃんは言いそうに無い科白である。

 

「いや、俺は別に幽霊に成りたい訳じゃ無いんだけどな?」

 

「よくおキヌちゃんが幽霊の事だと判ったな? 坂上って【GS美神】の世界に行った事でもあったのか?」

 

「何でだよ? 其処は普通なら漫画で知ったとかだろ! 異世界に行く発想はどっから来た?」

 

「実体験」

 

「何でだぁぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

 理不尽な科白に坂上の絶叫が木霊した。

 

「序でに言えば死んでも幽霊となって【眼魂】を一六個集めれば生き返れるぞ?」

 

「あいこん……って、何じゃそりゃ?」

 

「【仮面ライダーゴースト】の主要アイテム」

 

「ゴースト? んな仮面ライダー居たか?」

 

「【仮面ライダー鎧武】の後番の【仮面ライダードライブ】、更に翌年の後番が【仮面ライダーゴースト】だよ」

 

「鎧武は知ってるが、ドライブ?」

 

「今、地球で放映してる」

 

「ああ、そういやもう終わった頃か」

 

 坂上龍太郎は別に毎週、特撮を観ている訳では無いが情報くらいは得ていたらしい。

 

「まぁ、それは兎も角。メーネ、覇者の剣の頑丈さは理解が出来たな?」

 

「は、はい! 私の技能でも壊れない剣! とってもとっても素晴らしいです!」

 

「なら、契約通りで構わないな?」

 

「け、契約……私って余りメリハリが利いた肢体じゃありませんけど?」

 

「充分に魅力的だと思うがね」

 

「そ、そうですか……」

 

 魅力的だと言われた歓喜と羞恥心が綯い交ぜとなった表情、内股となりモジモジと擦り合わせながらユートを見つめる。

 

「取り敢えず、まだ覚悟は決まらないだろうから君には依頼をしよう」

 

「は?」

 

「ある場所で匿っている地球人、つまりは僕らの同郷の者を護衛して貰いたい」

 

「護衛……ですか?」

 

「衣食住は不自由しないぞ」

 

「う、悪くないかも」

 

 これまでは武器を買い替えるだけで借金浸けの毎日で、まともに衣食住を賄うのはメーネにとって可成り要求度が高かった。

 

「受けるなら其処へ送る。彼女らには僕が説明をするからね。依頼内容は基本的に彼女らと同じ場所で生活をしつつ、彼女らがストレス発散の為の御出掛けで護衛をする形だな」

 

「な、成程」

 

 ユートとしては月奈とアイリーンを住み心地が良いとはいえ、洞窟内でのみ何ヵ月も過ごさせようとは思っていない。

 

 メーネの件は渡りに舟であったと云う。

 

「っと、そうだ。坂上」

 

「何だよ?」

 

「これはさっきの件の対価だ」

 

「へ?」

 

 投げ渡された物を受け取り、それを見て首を傾げてしまう。

 

「何だこりゃ?」

 

 それは水色を主体とした機器で金色のレンチが右側にくっ付いた代物と、ハジメが昼食代わりにしている飲むゼリーに似た何か。

 

「スクラッシュドライバーとドラゴンスクラッシュゼリー。仮面ライダークローズチャージに変身をする為のツールだよ」

 

「か、仮面ライダー? ってか、クローズチャージって何だ?」

 

「ゴーストの後番の【仮面ライダーエグゼイド】の更に後番、【仮面ライダービルド】に登場する二号ライダーだよ」

 

 正確には仮面ライダークローズの万丈龍我が、ビルドドライバーではなくスクラッシュドライバーを用いて変身した強化版。

 

 仮面ライダークローズの中間フォームだ。

 

 勿論、ユートが造った物で聖魔獣クローズチャージを着込むタイプであり、ハザードレベルなど別に必用は無いし、オリジナルに有った好戦的になるというデメリットも有りはしない。

 

 因みに、ロボットスクラッシュゼリーを使って仮面ライダーグリスに変身をした際に使っていた試験済みなスクラッシュドライバーだ。

 

「坂上、お前に期待するのは天之河の抑えだ」

 

「光輝の抑え?」

 

「奴が暴発したらお前が止めろ。然も無くば僕は容赦無く天之河を殺す!」

 

「っ! 殺すって、お前……」

 

「奴はそれだけ有害化している。キックホッパーに変身出来るにも拘わらず変身しなかったのも、いざという時に自分を高く魅せる為だろう」

 

「そんな事は……」

 

 無いとは言えない。

 

 ホッパーゼクターなんて坂上龍太郎も教えられておらず、知らないが故に天之河光輝を責めたりも出来なかった。

 

 即ち、『どうして使わない?』……と。

 

 だけど若しかしたら天之河光輝は酷くピンチに陥って初めて、アレを使って仮面ライダーとしての戦いをしていたのかも知れない。

 

 つまり、ユートが言う通りに……だ。

 

 坂上龍太郎はブルッと震えてしまう。

 

 親友がナニか違うモノにでも成ってしまったか成り変わられたのではないか? 自分でさえ理解が及ばない天之河光輝が空恐ろしい。

 

「仮面ライダークローズチャージはスペックだけなら仮面ライダーキックホッパーより上だけど、如何せんカブト系ライダーにはクロックアップが在るからな」

 

 はっきり云うと仮面ライダーのスペックなんてMSの脚である、つまりは飾りでしかないとさえ暴言を吐けるレベルだったりする。

 

 仮令、クローズチャージのパンチ力が三〇tを越えていようと、何故か十分の一以下でしかない三tのキックホッパーが圧勝しても決して不思議ではないくらいに。

 

 特に他の作品の仮面ライダーが戦う場合はこれが顕著と成り易い。

 

 それは兎も角……

 

 ユートが坂上龍太郎にクローズチャージを渡したのは、以前にスクラッシュドライバーを使って仮面ライダーグリスに成った際に考えていた事を実行した形だが、それがわざわざ【仮面ライダークローズ】だった理由は脳筋で【龍】の名前を持つ万丈龍我が変身をするから。

 

 一段階上の中間フォームにしたのはユートが未だビルドドライバーを造ってない為、最初に造ったスクラッシュドライバーとドラゴンスクラッシュゼリーを渡したのである。

 

 坂上龍太郎が信頼に足るならいずれクローズマグマにするのもアリだろう。

 

「天之河を殺されたくないなら気張れ」

 

「わ、別ったよ。キバッて往くぜ!」

 

 キバットみたいな返事である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートはメーネを連れてライセン大峡谷側からの出入口を使い、オルクス大迷宮の最奥に位置している第百階層――オスカー・オルクスの隠れ家たる邸へと向かった。

 

 そもそもホルアド側からは一から降りねばならないし、ユートが第五〇階層……ユエが封印をされていた部屋を境に完全封鎖をしている。

 

 そう、今回みたいに魔人族が入り込み神代魔法を奪われたりしない様に。

 

 それに第五〇階層はユエとの出逢いの場所でもあるし、雫達の初めてを『戴きます』した場所でもあったから余人を踏み込ませたくない。

 

 故にこそライセン大峡谷側からだ。

 

「という訳で、君ら二人の護衛としてメーネが来る事になった」

 

「は、はぁ……」

 

 ユートから借りた本を読んでいて呼び出されてしまった月奈は困惑、アイリーンはニコニコしながらもそれを受け容れているみたいだ。

 

「御買い物とかには頼めるの?」

 

「勿論、というよりそれが目的だ。カム達はちょっと護衛に向かないからな」

 

「確かにそうね。ハウリア族は端から視れば愛玩奴隷な兎人族だもの、これだとトラブルしか呼ばないでしょうからね」

 

「そっか……」

 

 アイリーンの説明に納得の月奈。

 

「ストレスも溜まるだろうから買い物くらいしたいだろ? 本だってトータスの物を読みたくはないか月奈?」

 

「読みたくても読めません」

 

「文字なら心配するな。翻訳(リード・ランゲージ)の魔法をインストール・カードで覚えさせてやるから」

 

「それは有り難いですけど……」

 

 未だに覚悟完了していない身で良いのだろうか……と考える。

 

「言語理解の技能と同じくサービスだよ。言葉と文字は異世界での胆の一つだからね」

 

「そっか……」

 

 頬を朱に染めて少し嬉しそうな月奈を見て、アイリーンは『誑し込む男ね』と納得していた。

 

 とはいえインストール・カードは男なら多少の熱を感じる程度だが、女性の場合は何故か性的な快感を感じてしまうのは【言語理解】の技能を貰った際に体感をしていた為、アイリーンは兎も角としても月奈は少しばかり躊躇いを覚える。

 

 それでも異世界の本を読む魅力には抗えなかったのか、思い切って目を固く閉ざしながら胸元を開いてユートから渡されたインストール・カードを押し付けた。

 

「ん、嗚呼……ハァン!」

 

 やっぱりキたと思いながらも快楽に酔い痴れて周りが見えず、喘ぎ声を出しながら熱い胸を押さえつつ股間にじんわり伝わる熱に戸惑う。

 

 以前にも感じた快感が胸を中心に拡がりを見せており、ゆっくりと脳髄を蕩けさせる悦楽はお酒では味わえない極上の酔いを感じさせ、徐々に下へ下へと移動する感覚が遂に股間に達した。

 

「ひうっ!」

 

 この時の感触が癖になりそうで怖い。

 

 脚が震えて立っていられなくなり膝を付いてしまい、恥ずかしくて手を股間は疎か胸にも伸ばせないもどかしさを思いつつ熱が過ぎ去るのを待っているしか無かった。

 

 問題点はそれが故にイク事が出来ないで自慰にて感じるだけ放置したみたいな不満、此処まで来たらちゃんと絶頂までイキたいのに止められてしまうのが戴けないのである。

 

 倒れて肩で息を吐きながら熱く滾る頬を地面で冷ます月奈。

 

「ユート、ツキナの痴態に興奮した?」

 

「まぁね。アラサーとか三三歳だから何とか言ってるけどやっぱり女盛りな年頃だよ。自慰をしてるみたいでちょっと興奮してる」

 

「なら、私でも興奮してくれるかしら?」

 

「アイリーンはアイリーンで月奈には無い魅力が有るからね。あんな風に乱れられて興奮しなかったら男が廃るさ。だろ、カム?」

 

「いやぁ、ハハハ……シアには内緒で御願いしたい処ですな」

 

 ウサミミで糸目ながらも顔は普通に整っている兎人族のオッサンは、股間を脹らませているのを恥じ入りながら隠してしまう。

 

 死別しているとはいえ愛するモナに申し訳が立たないし、下手してシアに知られたりしたら軽蔑の目を向けられてしまいかねない。

 

 ユートのハーレムを容認するのと父親の浮気や不倫――妻は先立っているから本来だとそれには当たらないが――を認めるのとはまた別だ。

 

「フフ、私に魅力を感じてくれるなら今日、私の初めての経験を貴方に貰って欲しいわ」

 

 割ととんでもない事を言う。

 

「良いのか? 月奈と違ってアイリーンは地球に戻るだけで済む。態々、僕に初めてを捧げずとも帰れるんだぞ?」

 

「貴方に助けられて好意は持ってたわ。こうして衣食住の面倒を見て貰い、更に気まで遣って外へ出る護衛まで用意してくれてる。オマケに貴方にバージンを捧げれば私はユートの身内扱いで色々と手伝ってくれるのよね?」

 

「まぁ、それは間違いない」

 

「ホルトン家は兄が嗣ぐから私は何処かホルトン家に有益な家に嫁ぐわ」

 

「それも間違いないな。実家の世話になっていたからには実家の役に立つのは当たり前だしね」

 

「随分と貴族的な言い方ね」

 

「前世は子爵子弟から始めて末は大公だった訳だからね。貴族風にノブレス・オブリージュも理解はしているさ」

 

「前世……ね」

 

 一応、月奈からもそんな概念は聞いている。

 

 趣味の範疇外だったから詳しくなかったけど、そもそもにして神様を名乗る光る球体に喚ばれて異世界に向かうのも、ジャンルとしては大まかに異世界モノの一種であるから。

 

 とはいえアイリーンにはどうでも良かったし、今はユートの寵愛が欲しかった。

 

「私、出来たら自分で商売みたいな事をしてみたいと思うわ。ユートにそれを手伝って欲しい」

 

「成程ね。その対価に契約を?」

 

「わ、私の肢体で契約の価値が有るなら」

 

 恥ずかしくない訳ではないからやはり頬を染めてしまうが、それでも目的の為に躊躇いは無いと云わんばかりに見つめてくる。

 

「オッケーだ。アイリーンをたっぷりと味わわせて貰うから覚悟はする様に」

 

「ええ」

 

 頷くアイリーンの肩を抱き、彼女に宛がわれた部屋へと二人で向かう。

 

 尚、倒れた月奈はメーネが部屋へ運んだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、朝食を摂る月奈とメーネはユートとアイリーンを交互に見ながら紅くなってしまう。

 

「何、二人共?」

 

「な、何でもないの!」

 

「はい、何でもありませんよ!」

 

 アイリーンに声を掛けられて慌てる二人。

 

「僕らはグリューエン大砂漠に向かう。次に来るのはメルジーネ海底遺跡をクリアしてからになるんじゃないかな」

 

「そうなんだ……」

 

「そうですか」

 

 また少し間が空くと聞いて何故か少し落ち込み気味な月奈とメーネだが、アイリーンはニコニコと笑顔を浮かべて時折に手を子宮の有る辺りを撫でて嬉しそうに、笑顔とは違う穏やかな表情へと変わっているのに二人は気付く。

 

(ちょっと羨ましいかも)

 

(もっと早く覚悟を決めてたら今頃は……」

 

 二人が思う事は一様にユートとアイリーンの昨晩の行為、知識だけは豊富で実践経験は皆無である月奈はそれを考えてしまうし、知識も碌に無いメーネの場合はキスより先が思い付かない……振りをしていた。

 

 こうしてオルクス大迷宮を後にしたユート。

 

 王宮に舞い戻りリリアーナや侍女のヘリーナとの交流後、グリューエン大砂漠へパーティを率いて向かって行った。

 

 再び天之河光輝が絡んで来たが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「俺と決闘をしろ、緒方ぁぁっ!」

 

「またか、懲りないな」

 

 呆れを含む声に更なる声を上げる。

 

「今度は俺が勝つ! 俺が勝ったら香織と雫、それにユエとシアとティオとミレディとミュウを……皆を解放して貰うからな!」

 

 ユートの額に血管が浮く。

 

 誰に断って呼び捨てているのか? 現によく解ってないミュウは兎も角、他は不快感を表情にまで出していた。

 

 流石にいつもの事だから香織と雫は苦笑いを浮かべるだけだが、ティオなど()()()()が立つと云わんばかりに腕を擦っているではないか。

 

「解放も何も、ミレディ達は自由な意志の許に生きている。僕が束縛をした覚えはないんだが……それで? その代わりにお前は何を差し出す?」

 

「うっ!?」

 

「まさか、以前と同じく自分だけがノーリスク・ハイリターンな賭けをしたい……と?」

 

「くっ!」

 

「とはいえ、もうお前に視るべきは特に無いか。それならホッパーゼクターとゼクトバックルを渡して貰おうかな」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ユートが言ったそれが衝撃的だったのか天之河光輝が絶叫を上げた。

 

 技能を喪い自信から喪っていた天之河光輝が、再び立ち上がれた原動力とでも云うべき代物こそホッパーゼクターと、それを使う為のツールであるゼクトバックルである。

 

 それを渡せと言われてはそうなろう。

 

「どうした? やはり相手にだけリスクを負わせる卑怯者か?」

 

「い、良いだろう! どうせ俺が勝つ!」

 

 卑怯者呼ばわりに鼻白みながら、何処からくる自信かは判らないが取り敢えずは賭けが成立したらしい。

 

 天之河光輝の腰にはゼクトバックル。

 

 そしてピョンピョンと跳びながらその手の内に納まるはホッパーゼクター、ZECTの計画から――ネイティブの計画からは外れた番外的な機体として加賀美 陸が造らせたゼクターだ。

 

 まぁ、このホッパーゼクターが何処の世界から持ち出された物かは知らないけど。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 ホッパーゼクターを便宜上、表側の緑色主体となる方を前してゼクトバックルにセット。

 

 ベルトを中心としインナースーツとアーマーが形成されていく。

 

《CHANGE KICK HOPPER!》

 

 蛹をモチーフとするマスクド・アーマーを持たず初めからライダーフォームとなった。

 

 ユートが変身しようとしたその時……

 

「クロックアップ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 行き成り右側に有るスイッチ操作でクロックアップをした。

 

『『『『なっ!?』』』』

 

 これには審判役のクゼリー団長を始めとし、雫や香織は勿論だが坂上龍太郎も驚愕をする。

 

「へぇ?」

 

 ユートからしたら感心ものだ。

 

 偽善者としての顔をかなぐり捨ててまで不意討ち気味に行動したのだから。

 

《RIDER JUMP》

 

「ウオオオオオオッ! 喰らえぇぇぇっ!」

 

《RIDER KICK!》

 

 正しく天之河光輝にとって乾坤一擲とも云えるライダーキック。

 

 ガシッ!

 

「……は?」

 

 だけどその一撃は、クロックアップで違う刻の流れに居て見えない程の迅さの筈の天之河光輝による攻撃は、割かしあっさりとユートの手によって防がれてしまっていた。

 

 動きが止まって仮面ライダーキックホッパーの姿が顕れ、それは利き脚の足首を持たれてブランと垂れ下がる情けない姿。

 

「くっ、放せ!」

 

「『くっころ』じゃないのか。まぁ、僕はオークじゃないしこいつも女騎士じゃないしな」

 

 ポイッと投げ捨てる。

 

「うわっ!?」

 

 それは可成り格好悪い姿であったと云う。

 

「くそ、何故だ!」

 

「クロックアップで不意討ちした心算だったんだろうが僕には通用しない手だったな」

 

 違う刻の流れ?

 

 ユートの目――【神秘の瞳】に見切れない程ではないし、これでも再誕世界では刻をある程度なら操れる刻闘士だとか時貞だとかとも闘った。

 

 クロックアップを見切るくらい容易い。

 

「来い、ホッパーゼクター!」

 

「な、何だと!?」

 

 ピョンピョンと跳ねるそれは確かにホッパーゼクター、それがユートの手の内に納まってすぐにゼクトバックルへとセット。

 

「変身!」

 

《HENSHIN!》

 

 但し、それは裏側を正面にしたもの。

 

《CHANGE PUNCH HOPPER!》

 

 姿形は殆んど変わらない色違いな姿と、明らかな差違としてキックホッパーが脚にアンカージャッキを持つのに対し、仮面ライダーパンチホッパーは肘にアンカージャッキを持つ。

 

 このアンカージャッキこそが必殺技を放つ際に稼働し、キックなりパンチなりの威力を高めるのに使われるモノだ。

 

「フッ、征くぞ!」

 

 攻撃法もパンチホッパーは拳、キックホッパーが蹴りを主体として攻撃を繰り出す。

 

「ガハッ!」

 

「だけど、パンチホッパーが蹴りを使えないって訳じゃないんだけどな!」

 

 ユートに蹴り飛ばされる天之河光輝。

 

「畜生が!」

 

「おっと、何とぉぉ! まだまだ! 当たらなければどうと云う事はない!」

 

 連続蹴りを放ってくるキックホッパーの猛攻を容易く躱す。

 

 互いにクロックアップが使えるからには優位性は損なわれ、どちらもクロックアップは使わずに通常の戦闘に終始していた。

 

「当たれ、当たれ、当たれよ!」

 

「いっそ憐れだな」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

《CLOCK UP!》

 

 又もや不意討ち気味なクロックアップ。

 

「今度……こ……そ……?」

 

 何故かクロックアップした様子の無いパンチホッパーの姿が消えていた。

 

「何処に行った?」

 

 姿は疎か気配も音も無く臭いもせず……

 

「クルダ流交殺法・最源流移動技【神移】」

 

 ユートが転生したアシュリアーナ公国の公女と婚姻を結んでアシュリアーナ真王国を興した訳だけど、彼女の転生前の世界にも当然ながら行った事がある。

 

 クルダ流交殺法とは其処で覚えた闘技。

 

 中でも最源流と呼ばれる云わば初代クルダ王であるカイ・シンクに創られた技、それはどれもがとんでもないレベルのものばかりだ。

 

 【神移】もその一つ。

 

 使う際には凄まじいまでの負担を脚へと掛けてしまうが、完全に相手から見えなくなってしまう程に姿が消える移動技。

 

「クルダ流交殺法影門死殺技【裂破(レイピア)】!」

 

 いつの間にかというしかない。

 

 キックホッパーの胸元にはパンチホッパーの蹴りが突き刺さる。

 

「なっ!?」

 

「クルダ流交殺法影門最源流死殺技【神音(カノン)】!」

 

 ドンッ! という衝撃が伝わりキックホッパーのアーマーやインナーが塵と化した。

 

「う、あ……?」

 

 元の姿で尻餅を付く天之河光輝。

 

「お前の敗けだ、天之河」

 

「ゴフッ!」

 

 殺さない様に仮面ライダーのアーマーのみへとダメージを与えたけど、多少なりとも本体である天之河光輝にも入っていたらしく吐血する。

 

「勝者、緒方優斗!」

 

 それを見たクゼリー団長が高らかにユートの勝ちを宣言するのであった。

 

 

.




 今回は暴発ではありませんでした。

 尚、尻の初めては奪われていません。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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