ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 出発まで往けなかった……





第57話:永山パーティ+αと話し合おう

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「な、何がどうなってるんだよ?」

 

 ベッドの上に仰向けで寝転がる下半身に何も身に付けない香織、そしてやはり下半身を諸出しにして転げ回る天之河光輝の図は坂上龍太郎の頭を混乱させている。

 

「天之河が香織を襲ったんだよ」

 

「なっ! 光輝が?」

 

「僕はハーレムを築く癖に独占欲が強いんだよ。だからか、僕が抱いた女性は基本的に他の男が抱く事が出来なくなる。無理にヤろうとすればこの通りな訳だ。汚ならしいポークビッツがピチュンをしてしまう」

 

 三〇cmを越すユートからしたら平均的なサイズはポークビッツと変わらない。

 

 一応だが某・超絶美形主人公やネクロロリコン並にはデカイ為、天之河光輝が仮に挿入出来たとしても感じたりしないだろう。

 

 とはいえ、そんな巨根となった背景が背景なだけに余り喜ばしくはなかったりする。

 

 まぁ、図らずも女性を悦ばせる事が出来ているのだからもう文句は言わないが……

 

「か、香織! 光輝の治療を!」

 

「イヤ! それって光輝君のアレに手を翳せって事なんだよ? だから絶対にイヤ!」

 

「けどよ!」

 

「龍太郎君、レ○プ犯に同情は禁物だよ」

 

「うっ!」

 

 香織の口から天之河光輝が仕出かした事を語られて、息を呑んで当人を見つめるとギャーギャーと股間を押さえつつゴロゴロとのた打ち回っているのが余りにも憐れだ。

 

「坂上、これを飲ませろ」

 

「これは?」

 

「ハイポーション。ピチュンしたモノは治らないだろうが、それでも血止めや傷の治療くらいにはなるだろうさ」

 

「す、済まねぇ」

 

 ハイポーションを受け取り、天之河光輝に飲ませてやると漸く落ち着きを取り戻して意識を失ってしまう。

 

「大丈夫だったか?」

 

 新しい毛布を掛けてやって香織の全身が隠される事で、何とか震えていたのが止まったらしくてユートに肢体を預けた。

 

「有り難う、ゆう君。恐かったよ」

 

 幼馴染みの豹変と襲撃は心臓に悪い出来事だったのは間違いがない。

 

「にしても、光輝……遂にやらかしたわね」

 

 自分達が離れて情緒不安定だったのは見て取れたが、よもやこんな浅慮で短絡的な行動な出るとは思わなかった雫。

 

「坂上、次は本当に無いぞ」

 

「わ、判った」

 

 ふと視ればアベルグリッサーが聖剣モードにて転がっており、恐らくは天之河光輝もアレが謂わば男の娘だと理解した筈である。

 

「ねぇ、今夜のゆう君の御相手はユエさんだったよね?」

 

「……ん、そう」

 

「順番を変わってくれないかな? 勿論、今度の私の番はユエさんに譲るから」

 

「……了解した」

 

「ゴメンね」

 

「……構わない。ユートに甘えると良い」

 

「うん」

 

 原典ではハジメを巡るライバルであるが故にか呼び捨てだし、寧ろ順番があるなら奪い取るくらいはしていたろうが、この世界線では割と仲好しだからかこんな感じであったと云う。

 

 食堂に戻った一同。

 

 永山重吾は苦悩をしていた。

 

 十数人が最初に死んでしまい、数人が畑山愛子先生に付いて行って、只でさえメンバーに不安が残っていたというこの状況下。

 

 ユートと香織と雫が戻らないのは既定事項だとして、ハジメが抜ける可能性が濃厚になってしまっているからだ。

 

 当初、ハジメは【ありふれた職業で世界最弱】と思われていたが、実際はG3システム的に現代兵器すら造り上げてしまった。

 

 しかも今は仮面ライダーアギトである。

 

 更には中村恵里とは恋人という関係を築いている為、ハジメが出て行けば普通に彼女も一緒に出て行くであろう。

 

 そうなれば永山パーティ+坂上龍太郎と谷口 鈴+勇者(笑)という余りにも余りな構成になる。

 

 だからといってハジメや恵里に残れと言うには自分達の態度が悪かった。

 

 永山重吾自身は特にハジメを虐めたり、或いはそれに類する様な真似はしていないにしても例えば檜山一味による虐めを看過していたし、自分達の仲間に入れたりもしていない。

 

 謂わば無関心だったのに実は有能であったから仲間入りしろ……など、恥知らずにも程があるからとても言えなかった。

 

 勇者の名の下にクラスメイトが一丸となって戦うなど最早、夢のまた夢でしかない事は永山重吾ならずとも理解をしている。

 

 それが理解出来ないのは天之河光輝、即ち勇者(笑)のみだったりするから笑えない事実。

 

 取り敢えずこの場に居るクラスメイトが勇者(笑)を除き一堂に介した。

 

「御茶です」

 

 メイド――ニアという雫の御付きとなっていた少女が御茶を全員に行き渡らせる。

 

 永山重吾は御茶で喉を湿らせ口を開いた。

 

「さて現在、集まれるだけのクラスメイトが集まった訳だが……」

 

 永山重吾。

 

 野村健太郎。

 

 辻 綾子。

 

 吉野真央。

 

 谷口 鈴。

 

 坂上龍太郎。

 

 南雲ハジメ。

 

 中村恵里。

 

 八重樫 雫。

 

 白崎香織。

 

 緒方優斗。

 

 おっと、遠藤浩介も居た。

 

 そして永山重吾達からしたら謎の美女美少女に加えて美幼女、ユートに黙って従っている様に見える辺り仲間なのは間違いがないのだと考え敢えてツッコミは入れていない。

 

 金髪美少女が二人、黒髪に着物っぽいのを着ている美女、兎人族らしき美少女、そして多分に視た事はないが恐らく海人族の美幼女。

 

 女性ばかりである。

 

「えっと、取り敢えず自己紹介くらいはして貰って構わないか?」

 

「そうだな。仲間になった順に自己紹介を」

 

 ユエ達が頷いて立ち上がる。

 

「……ユエ。本来の名前は捨てた」

 

「シア・ハウリアですぅ。見ての通り兎人族として産まれました」

 

「ミレディたんはミレディ・ライセン。ユー君には色々な彼是があって付いてきているんだ」

 

「妾の名前はティオ・クラルスじゃ。宜しく頼むぞよ」

 

「ミュウはミュウなの!」

 

 言われた通り仲間になった順で名乗る。

 

「因みに、ミレディ以外は人間族じゃない。見るからに兎人族や海人族な二人は判ると思うけど、ユエは吸血鬼族でティオは竜人族だ」

 

「吸血鬼族に竜人族? 確か調べたらどちらも既に亡びてなかったか?」

 

「ああ、ユエは唯一の生き残りだ。ティオはどうにかクラルス一族だけが僅かながら隠れ里的な場所で暮らしているらしいな。言っておくが教会には言うなよ。吸血鬼族も竜人族も三百年前と五百年前に教会主導で亡ぼしたんだ。間違いなく厄介な事になるし、そうなったら魔人族の前に人間族が滅亡する事になるぞ」

 

「わ、判った」

 

 ()()滅亡させるのか、永山重吾は理解をして頷いた。

 

「それで、今回は何の集まりだ?」

 

「知っての通り、俺達は色々とガタガタになってしまっている」

 

「そうだな。契機は小悪党による愚かな攻撃により香織を始めとする僕ら四人が奈落に落ちた事。それに伴いクラスメイトの半数がベヒモスにより轢死させられるか、頭部の赤熱に生きながら焼かれるかして死んだ訳だからな。しかも小悪党供も纏めて……ね」

 

 無様に過ぎる死であったと云う。

 

 尤も、死んだのは小悪党四人組とハジメを蔑む男子女子ばかりだったからユートとしては正しくザマァとしか思えない。

 

「緒方、俺達の所に戻って来ないか?」

 

「御断りだ」

 

「あっさりと言うんだな」

 

「僕はそもそもエヒトの名に於いての魔人族との戦争に賛成した心算は無い。戦線離脱は此方としては好都合だった訳だね」

 

「仲間を助けようとは思わないのか?」

 

「クックッ」

 

「何が可笑しいんだ?」

 

 ユートが笑う……というか嗤っているのを眉根を攣める。

 

「その物言い、天之河みたいだぞ」

 

「っ!?」

 

 確かにレ○プ魔と成り果てた天之河光輝ならば今の科白を言いそうで、言った本人だけではなく周囲のクラスメイトもちょっと不愉快そう。

 

「だいたい、お前らは国や教会の言いなりになってまで何の為に戦う?」

 

「勿論、元の世界へ……地球に帰る為だ!」

 

「どうやって?」

 

「それは……イシュタル教皇が言っていただろう。俺達が戦争に参加して人間族が勝利すれば勇者の一行たる俺達を無碍にはしないと」

 

「それは前に雫達とも話したんだが……エヒトがそれを保証した訳じゃなく、イシュタルが無碍にはしない()()()()()()と言っただけだぞ。必ずや帰すとエヒト自身が保証したなら兎も角、僕はそんな話を信用してはいない」

 

 全員が――それこそ永山重吾を含めて()()が目を見開いていた。

 

「それにエヒトの目論見やら何やらを教えて貰う機会もあってな。それを加味して考えると絶対に帰れないな」

 

「そんな!?」

 

 谷口 鈴が泣きたくなる表情で口を開く。

 

「どういう事だ? 目論見とは?」

 

「トータスの神エヒト、真名はエヒトルジュエというらしいが……奴は永く在り続けた結果として思ったんだ。退屈だとな」

 

「た、退屈?」

 

「だから自らの無聊を慰めるべく地上に干渉をして戦争を起こさせた」

 

「……は?」

 

「方法は簡単。自らの使徒、銀髪の女を使い教会から命令を出す。場合によっては洗脳も辞さないらしいな」

 

「マ、マジかよ?」

 

 信じられないのか呆然と訊ねてきた。

 

「数百年前の竜人族、三百年前の吸血鬼族の滅亡も奴が干渉をした結果だ。竜人族は融和政策により人間族も魔人族も亜人族も竜人族も吸血鬼族も無い、垣根を取り払って行こうと数百年間を頑張ってきたが一瞬で台無しにされた。エヒトルジュエは地上が融和して平穏になるのが赦せなかったらしいな。そもそもこれは当時を生きたティオから聞いた話だから間違いはない」

 

 全員がティオを見ると静かに頷く。

 

「ああ、間違ってはおらぬよ。我らは仲良く暮らせればと思ったのじゃが、いつの間にか我々が悪しき思想で動いておる事にされておっての……父上も母上も殺されてしもうたのじゃよ」

 

 その沈痛な面持ちに皆が俯いた。

 

「じゃからこそじゃ、小さな集団ではあっても妾は主殿と共に()きたいと思うた。主殿に集うは正しく奇跡のパーティよ!」

 

「き、奇跡?」

 

 大言壮語ともいえるティオの言葉にキョトンとなる辻 綾子はその科白を鸚鵡返しに呟いた。

 

「御主はそうは思わぬか? 嘗て我らは他種族との融和を目指しておったが神により望みは潰え、一族も緩やかな亡びに向かっておる。主殿は小さいとはいえそれを体現しておる。吸血鬼族からは嘗ての吸血姫ユエ。亜人族からはハウリアの姫であるシアに海人族のミュウ。そして憚りながらも竜人族の妾。魔人族は居らぬがホンに奇跡の集団であろうよ」

 

「それは……確かに……」

 

 戦争真っ只中な魔人族が居ないのは仕方がないにせよ、ティオの言葉には力が籠められているのだと辻 綾子は感じていた。

 

 数百年を懸けた悲願に数百年の雌伏、それはつまり千年の想いが籠められた言葉なのだから当然と云えば当然かも知れない。

 

 それにトータスの人間と地球の人間を別種族に括れば更に増える形となる。

 

「むう、ならば緒方は俺達とは別に行動するからには何かしら指針が有るのか?」

 

「勿論、帰る為さ」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ユートとしては何故に其処まで驚かれたのかが解らず寧ろ驚いた。

 

「この世界の魔法が神代魔法と呼ばれる魔法の謂わば劣化版……否、神代魔法を源流として幾つにも支流を持つというべきかな? そんなモノだとは理解しているか?」

 

「あ、ああ。座学で学んだからな」

 

「その源流たる神代魔法を集めれば最源流とも云える概念魔法に至れるそうだ」

 

「が、概念魔法……」

 

 ユートは敢えて概念魔法を神代魔法の最源流として扱い、神代魔法を獲る事への意味合いを強く推していった。

 

 因みに此処は現在、特殊な認識阻害結界が展開されていて話し合いを覗き見出来ない。

 

「神代魔法……か。それを獲る為に緒方は俺達と違う道を行くというのか?」

 

「そうだ。未だに獲た神代魔法は二つだけだから成るべく急ぎたいのさ」

 

「どんな魔法なんだ?」

 

「生成魔法と重力魔法。生成魔法は特定金属への魔法付与が可能。重力魔法は言うまでもないと思うんだけどな」

 

「そ、そうか……」」

 

 生成魔法はアーティファクトさえ造れる魔法だと永山重吾も理解をする。

 

「他にどんな魔法が?」

 

「バーン大迷宮に魂魄魔法。メルジーネ海底遺跡に再生魔法。ハルツィナ樹海に昇華魔法。グリューエン大火山に空間魔法。シュネー雪原の氷雪洞窟に変成魔法だ」

 

「い、いや……殆んどさっぱり判らんが?」

 

「勉強不足だな? 帰る術を獲られる最重要施設をまるで理解が出来ないとか」

 

「む、無茶を言うな! この世界の事に其処まで堪能になれるか!」

 

 キレて怒鳴る永山重吾をユートは冷やかな目で見つめ、イラッとする彼に対して溜息を吐きながらハジメへと目を向けた。

 

「ハジメ、説明を」

 

「わ、判った。バーン大迷宮は教会総本山に当たる神山の内部に在ると見られてる。メルジーネ海底遺跡はエリセンに。ハルツィナ樹海は亜人族の国のフェアベルゲンに。グリューエン大火山というのはグリューエン大砂漠の先に。シュネー雪原は魔国ガーランド内だね」

 

 ずっと勉強をしていたからか原典よりも多くの発見をしていたらしい。

 

「お前らが無能の無駄な足掻きと白眼視していた事が結実した訳だ」

 

 言われて全員が目を逸らす。

 

 永山パーティは特段、ハジメを虐めたりしていないとはいえやはり内心は役に立たないと考えた事があったのだから。

 

 知識もまた力だと理解をしていなかった。

 

 判った心算で解っていなかったのである。

 

「……オルクス大迷宮を含むなら謂わば七大迷宮の事か。それなら俺達が迷宮をクリアしたら?」

 

「七大迷宮の神代魔法は正しくクリアをした者ならば、種族に関係無く修得をする事が可能となっているからな。クリアすれば修得するだろ」

 

「クリアすればか……若しかして不可能と思われているのか?」

 

「思われているも何も()()()だ」

 

「な、何故だ?」

 

 永山重吾が少し不快気な表情で問う。

 

 第九〇階層にまで降りた実績に多少ながら自信を持ったのだろうが、それは単なる勘違いでしかない事をユートはよく知っている。

 

「俺達はこれでも九〇階層まで降りたんだぞ? それでも不可能だと云うのか!」

 

「理由は二つ」

 

「ふ、二つだと!?」

 

 ピースサインを出すユートに驚愕する。

 

「一つは言わずもがな、実力不足という問題だ。オルクス大迷宮は特別に大変な場所だというのを加味しても、他の大迷宮でさえ永山達ではクリアが覚束無いだろうよ」

 

「っ!」

 

「信じられないか?」

 

「あ、当たり前だ!」

 

 やはりというべきか、永山重吾だけの話ではなく辻 綾子や野村健太郎も不愉快そうだ。

 

 永山パーティの中では唯一、遠藤浩介だけはそれを真摯に受け止めている。

 

「ならば問おう。()()オルクス大迷宮に於いての第一階層……即ち第百一階層以降は上に上がる為の階段が無いから一気に第二百階層まで行く必要があり、水は兎も角として食糧はある場所でちょっとした強敵から獲る以外に無い状況で、しかも魔物は強さだけでなくデバフ系も使い出してくる。毒、麻痺、石化、操作など遠慮は無い。更には一階層が丸々で火気厳禁だったり毒霧が覆う部屋なんて階層その物がトラップなんてのも在る。命辛々で抜けても第二百階層のラスボスは多頭蛇(ヒュドラ)でな、六つの頭のそれぞれに炎、氷、防御、精神攻撃、治療、雷という役割が在り、それらを仮に潰せても第二形態に移行して真なる第七の頭を持つ怪物に変態するらしいが、果たしてそれを聞いて尚も自分達ならばクリアが出来ると自信を持てるか?」

 

 シンとなる一同。

 

 余りにも余りな内容に青褪める女子。

 

 尚、第二形態に関してはミレディから教えて貰ったものである。

 

「えっと、マジにか……それは?」

 

「当たり前だろ、僕は無用な嘘は吐かん」

 

「じゃあ、緒方はどうやって真? のオルクス大迷宮をクリア出来たんだよ!」

 

 永山重吾の常識では有り得ない。

 

「元々ね、オー君のオルクス大迷宮は他の六つの大迷宮をクリアしてから臨む総仕上げ的な場所として造られたんだ」

 

「……え?」

 

 口を開いたのはユートではなく金髪ポニーテールな少女、ミレディと名乗った娘だった。

 

「実際、オー君の大迷宮に入る前に()()()()()()()()()大迷宮で神代魔法を獲ていたら間違いなく有利になったよ!」

 

「え、と……貴女はいったい?」

 

「ミレディ・ライセン。ライセン大峡谷の大迷宮を管理していた本人さ!」

 

 再びシンとなり……

 

『『『『ハァァァァッ!?』』』』

 

 訳を知る者以外が絶叫したと云う。

 

「ミレディは千年以上というか数千年も前に神――エヒトと戦った反逆者だ。とはいえ、それは勝てば官軍なだけだがね」

 

「つまり、本当は違う?」

 

「人が自由な意志の許に暮らせる事を願って戦った【解放者】、決して正義の味方では無かったのだろうが……仮面ライダーみたいな存在だな」

 

 今ではミレディ本人も仮面ライダー。

 

「だが、数千年も前の人間がどうして?」

 

「神代魔法の一つに魂魄を操るモノが在るのさ。それでミレディの魂をゴーレムに移し変えていたから、僕は彼女のアストラル・マトリックスから生前の情報を得て創り出した。新しい肉体に魂を移し変えれば完成だ」

 

「待て、それはつまり……緒方なら死者すら生き返らせる事が可能なのか?」

 

「魂が在ればな。若し他の【解放者】の魂が残っていれば蘇生も叶ったんだが……」

 

 性格的には一癖も二癖もありそうな連中ではあるのだが、各々が生まれ持った神代魔法の扱いにはついては中々に巧く、仲間に加えるのも悪くはないとすら思っていたから。

 

 まぁ、ミレディが抱かれた後に不意に見せる寂しそうな顔……やはり嘗ての仲間に想いを馳せる事があるからというのもあった。

 

 因みに、そんなミレディは余りにも美しく見えるからムクムクとユートのユートが屹立してしまうが故に、再び未成熟に見えて艶かしい肢体へと襲い掛かり貪ってしまう訳だが……

 

「だったらクラスの連中だって!」

 

 ハッとなる辻 綾子や谷口 鈴。

 

「この世界にはあの世……冥界なり何なりが存在していない。そしてあの世が存在しない場合は魂というのは一〇分か其処らで霧消霧散してしまう。余程に強靭な魂なら霧散せず何百万年と掛かって転生もするらしいがね」

 

 実際にそうやって転生した連中が居る地球にも関わった事がある。

 

「そ、そうなのか?」

 

「ああ、神が居ればあの世を創造もしたんだろうがな。この世界のエヒトは所詮は偽神に過ぎないから自分の魂が霧散しない様に、神域を創って引き隠るのが精々だったらしいからね。この世界の地球に神は存在していないし」

 

 冥王ハーデスみたいな存在は無かった。

 

「とはいえ、僕は冥界の創造が出来るから持っていてね。恐らく死んだクラスの連中はそっちに逝ってるだろうな」

 

「ど、どうしてそんなもんを創れるかは置いとくとして……じゃ、じゃあ?」

 

「言っておくが、何のメリットも提示せず死者の蘇生なんてしないぞ」

 

「っ! クラスメイトだぞ!?」

 

「知った事か。そもそも人間の命は基本的に一つだろうに。死んだらそれまで、死者蘇生を行うってのは命の価値を軽くする。DBだって『ドラゴンボールが有れば死んだ地球人は生き返れる』とか言われて殺されるのを是とされたろうに」

 

「……だが!」

 

「一人につき一〇億$を支払え」

 

「¥じゃなく$かよ!? つーか、高い!」

 

「二束三文な安物なら態々、生き返らせる程ではないんじゃないか?」

 

「ぐっ!」

 

 命の価値を論じるなら高値でも支払うべきであろうが、二束三文の金銭で買える安物なら生き返らせる価値が有るのか?

 

 そう言われてしまっては永山重吾も二の句を継げないでいた。

 

 ユートは天の道を往き総てを司る男の如く右腕を掲げて人指し指を伸ばし……

 

「ヒイロ・ユイは言っていた、『命なんて安い物だ……特に俺のは』……と。だから彼は容易く自爆を選べるんだろうしな」

 

「それはそうだろうが……」

 

 ちょっと頷けない。

 

「扨置き、二つ目。それは既に僕がクリアしている大迷宮――オルクス大迷宮は総合第一五〇階層、ライセン大迷宮は入口と最深部の扉を封鎖してしまっているからだ」

 

「な、何だと!?」

 

 確かにそれではクリアは強さ云々の問題では無くなってしまう。

 

「基本的に大迷宮はきっちりクリアしないと神代魔法を獲られない、つまり出口側からゴールまで行っても意味が無いんだ」

 

「大迷宮にはそれぞれにコンセプトが有ってね、そのコンセプトに沿ったトラップなんかを突破するのが修得方法なのさ!」

 

 造った張本人が言うと説得力がある。

 

「封鎖とやらはどうすれば解ける?」

 

「普通の人間じゃ無理だな」

 

「無理?」

 

「そうだ。仮に天秤座の武器の複数を一度にぶつけても傷一つ付かないし、何なら黄金聖闘士達が数人でも不可能。というか、弱点的な問題があるから黄金聖闘士一二人が全力全開手加減抜きでの一撃に懸ければ、命と引き換えになるが破壊する事も出来たりするんだよな」

 

「な、【嘆きの壁】じゃねーか!」

 

「其処までやっても更に超次元により神の加護が無いと粉微塵に成るけどね」

 

「どんだけ容赦が無いんだ!?」

 

 ユートが置いたのは【嘆きの壁】。

 

 聖闘士星矢の冥王ハーデス篇、地獄の最下層たるジュデッカの更に奥に聳える壁である。

 

 砕くには太陽の光を以てせねばならない。

 

 本格的に誰も寄せ付けない心算だとしか思えないレベルであったと云う。

 

「で、何とかなりそうか?」

 

 なる筈もなかった。

 

 あの世を創造したとか何とか言っていたから、嘆きの壁も創れたりするのだろうし。

 

「緒方はどうしてそんな色々な力が有る?」

 

「僕は転生者だ」

 

「は? まさか莫迦にされてるのか?」

 

「もう一度言う、僕は転生者だ。神から転生特典(ギフト)を与えられてラノベやアニメや漫画の世界に生まれ変わった者。最初に生まれ変わった世界は【ゼロの使い魔】、識っている者も居るとは思うがね。次に生まれ変わったのが【魔法先生ネギま!】や【聖闘士星矢】なんかが複雑に交じり合った習合世界。他にもハルケギニア時代に於ける最終決戦後に世界を越えて様々な世界を旅していた。その時にネオディケイドライバーを顕現させたんだよ」

 

「顕現させた?」

 

「最終決戦……這い寄る混沌ナイアルラトホテップと闘ったあの決戦で僕は切札として【輝くトラペゾヘドロン】を使った。その副作用だったのか、僕は使えていた力を丸っと使えなくなってしまったのさ。だけど唯一、あの最終決戦で知った自分の正体から持っていた這い寄る混沌としての神力を喚起すれば取り敢えず力は使えるから。とはいえそんな事をすれば、僕は人格を這い寄る混沌に塗り潰されていたろうけどな。それを防ぐ為に拾われた家に居た二柱の女神に力を喚起して貰い、人格を塗り潰されるのはフィルタリングした結果がネオディケイドライバー」

 

「いや、なんで這い寄る混沌の力からネオディケイドライバーとやらが?」

 

 どうやら永山重吾は識らないらしい。

 

「僕も識らなかったんだが、【這い寄れ!ニャル子さん】という作品の最終巻で現在過去未来世界をも越えて這い寄る混沌が集った。その中には居たそうだ……仮面ライダーディケイドが」

 

「マジか?」

 

「言ったろ、僕も識らなかったと。情報は確かだからマジだろうね」

 

 まだ識らなかった全員が息を呑む。

 

 何度か説明もしていたから知る者は知る情報であるが、永山パーティらには話していないだけに当然の如く衝撃的な事実であろう。

 

「っていうかさ、這い寄る混沌って邪神とはいえ神様ってやつだろう? 緒方が神様?」

 

「這い寄る混沌はその欠片が無数に存在しているからな。特定の顔を持たぬ【無貌】故に逆説的には【千の貌】を持つ者。さっき言ったディケイドが這い寄る混沌の一つとして描かれた作中にも、それこそ様々なる媒体やら何やらで描かれた這い寄る混沌が無数に存在していたんだ。デモンベインのナイアもそうだし、邪神シリーズのケイン・ムラサメもそうだったしな」

 

「ああ、成程……ペルソナにも出てくるな」

 

 ユートは千在る貌の一つに過ぎない。

 

「それに這い寄る混沌ってのは人間に化けている間は飽く迄も人間。神の力は持ち合わせていないから僕が神というのもまた違う。市乃や夏那からフィルタリングして貰ったから這い寄る混沌化は避けられたしね」

 

「市乃とか夏那って誰だ?」

 

「元水の神と夏の神。市乃は力を使い果たしてしまって人間に転生したからな。夏那は神の侭だけど人間の世界に……俗世間に住まうに辺り市乃に合わせて改名したんだよな」

 

 尚、立場的には水杜神社の宮司とその妻の養女という事にして戸籍を得ている。

 

 市乃は両親から生まれ直して女子高生になった頃に、天神神社に訪れていたユートとある意味に於いて再会をして記憶と力を取り戻した。

 

 肉体的には人間であるが神力も持ち合わせる……とはいえ、元々が戦闘力は皆無だっただけに強くはないのだけど。

 

「ま、便利な力だよ。忌々しいナイアルラトホテップの力って事を除けば……な」

 

 ユートは自嘲しながら言ったものだった。

 

「なぁ、緒方。頼みがあるんだが……」

 

 永山重吾の科白の先はだいたい判る。

 

「俺達に仮面ライダーのツールを貰えないか?」

 

 思った通りの内容。

 

「駄目に決まっているだろう。況してや貸して欲しいを通り越してくれとか、どんだけ図々しい事を言ってるんだ?」

 

「そ、それは……」

 

「さっきも言ったが御断りだ。ライダーにせよ何にせよ、僕が力を与えるのは身内か準身内のみ。少なくともこの場に居る身内は全員がライダーの力を持っているし準身内にも渡しているからな、他に渡すべき相手は存在しない」

 

 リリアーナとヘリーナは身内扱いだがこの場に居ないし、ライダーシステムなどを渡している訳でも無かった。

 

「この場の身内?」

 

「僕にとって身内とは男の場合は親友くらいにはなっている必要がある。女の子の場合は【閃姫】と言っても判らんか……早い話が夜中にベッドの中でプロレスごっこに励む仲だな」

 

 直接的な表現を避けてみたが谷口 鈴も辻 綾子も吉野真央も意味を理解したか、ほんのりと頬を朱に染めてユートをチラ見してきた。

 

「じゅ、準身内とは?」

 

「身内の身内だな」

 

「身内の身内?」

 

「例えば親友の恋人……とかな」

 

 ユートが見たのはハジメの隣に座る恵里、それに気が付いたのか少し恐縮しているらしい。

 

「或いは身内の家族がそうだ」

 

 見たのはシア。

 

 シアの一族は基本的に一族全体を家族と扱うと聞くし、だからかシアやカムだけではなく全員がハウリアを名乗っている。

 

 森人族ならハイピストなのは長老にして森人族の長たるアルフレリックとその血族、それだけしか名乗ってはいないであろう。

 

「ハジメと浩介は親友枠だから仮面ライダーの力を与えたし、中村はハジメの恋人だから渡した訳だが……永山達は違うよな? 因みに親友の友達は単なる他人扱いだからな」

 

 世知辛い話である。

 

「だから、浩介が見慣れない仮面ライダーに成っていたのか?」

 

「仮面ライダーシノビ。【仮面ライダージオウ】に登場するミライダーの一人だな」

 

「ジオウ? それは天之河が言っていた」

 

「あれはアナザージオウ。仮面ライダージオウの敵役で中ボスだな」

 

「中ボスって、じゃあラスボスは?」

 

「アナザーディケイドだとか」

 

「マジにか……」

 

 話も終わりとばかりにユートは立ち上がると、吉野真央、谷口 鈴、辻 綾子の三人をそれぞれに見回しながら言う。

 

「ライダーシステムが欲しいなら僕の寝室にでも来るんだな」

 

 ギョッとなる三人。

 

「たっぷりと可愛がってやるからさ」

 

 内心では誰も来ないと確信しながらも一応だが言っておくのは、万が一にも三人の中の誰か一人でもその気になればラッキーだから。

 

 ユートは手をヒラヒラと動かしながら退室してしまい、それに雫やユエ達の【閃姫】組も揃って退室していく。

 

 今宵の御相手は香織に譲ったユエは仕方がないからシアと寝る予定だ。

 

 そして香織は紅い顔でユートの腕に組み付き、今宵に起きるであろう快楽を思うのだった。

 

 

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 次は確実に出発の筈。


勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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