ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 九番目……原典ではみんな大好きノ○リさん。

 アイリーが直に出てくる場面が何処なのか判らない……



第63話:真なるエヒトルジュエの使徒の名は九番目

.

 其処は部屋……だろう。

 

 黒く静謐な雰囲気の小部屋に魔法陣が在る。

 

 恐らく晩年のナイズ・グリューエンが没しただろう場所か、若しくは本当に魔法陣を設置する為だけに用意をしたのか?

 

「何だろうな()()

 

「何かしらね……」

 

「ちょっと判らないかな」

 

「鈴にはさっぱりだよ」

 

「……ん、意味不明」

 

「私には判りません」

 

「右に同じくじゃ」

 

 この場に居た誰もが理解し得ない()()

 

 『汝の名を呼べ』というメッセージ。

 

「汝の名を呼べって事は、少なくともメッセージを遺したであろうナイズ・グリューエンの名前を呼んでも意味は無いか」

 

「なら、試しに私の名前を。八重樫 雫」

 

 シン……

 

「ま、まぁ、何も起きる訳無いか……ハハハ」

 

 恥ずかしかったのか苦笑いをする雫。

 

「昔に行った世界で似たメッセージが在った」

 

「どんな?」

 

「『四郎の名を呼べ』だったか」

 

「四郎?」

 

「天草四郎時貞」

 

「……あ! それ【AMAKUSA1637】?」

 

 雫は気付いた。

 

 主人公の少女が1637年へ旅行中に仲間達と跳ばされた物語で、徳川家光が将軍であった時代の天草四郎時貞の故郷で目覚めた噺。

 

 ざっくり云うと、主人公は天草四郎時貞のTS的なそっくりさんだった事から()()()彼の代わりを努める事になる。

 

 紆余曲折、コミック12巻分の物語が終わって最終話に一人だけ現代に……しかも【天草の乱】ではなく【天草の変】として分岐した歴史の先で、自分以外の人間は居なかった事になっているという世界、少女は大人になって天草四郎時貞が遺したと思われる遺産の謎に挑戦する。

 

『四郎の名を呼べ』

 

 誰がどう呼ぼうと動かない遺産……彼女――春日野英理は最早、自分しか識らない天草四郎時貞の真の名を呼んだ。

 

『夏月! 早弓夏月!』

 

 遺産は開かれ、中から出てきたのは仲間達が使っていた携帯電話であったと云う。

 

 その内容は先の世界に行ったであろう見届け人たる春日野英理に向けたメッセージ。

 

「確かに似てるけど……完全に偶然よね」

 

「ナイズ・グリューエンが早弓夏月や英理を識ってるとは思えないしな」

 

「英理……ねぇ……」

 

 ジト目を向けられるが嘗ての義弟(ミナト)じゃあるまいし別にジト目は好物ではない。

 

「名前っつってもな、そもそも汝のってのが早速だけど意味不明だから。この遺跡そのものがいつか来る大多数に向けて遺された物なのに、誰かしら特定の人間が来ると予測していたのか?」

 

「だとしたら、鈴達には関係無し?」

 

「どうだろうな。その名前が判れば何らかの良さそうなアーテァファクトが貰えるのかもな」

 

「それなら損は無いのかな?」

 

「時間の無駄かも知れないが……試してみるか」

 

 ユートはダブルドライバーを装着する。

 

「へ? 仮面ライダーWにでも成るの?」

 

「成ってどうする。ユーキ、今は良いか?」

 

 ユートはユーキとの簡易ホットラインとも云えるダブルドライバーを通じて連絡した。

 

〔構わないよ。次の家族会の予定?〕

 

「違う。ああ、天之河に最後通牒を叩き付けたのは言っておく」

 

〔……やらかしたか〕

 

「やらかしたよ」

 

〔美月を勧誘してるんだけどなぁ〕

 

「誰だ、美月って?」

 

 ユートが美月で思い出すのは柴田美月だが――よもや別の世界の人間は関係あるまい。

 

〔天之河美月。勇者(笑)の妹だよ。あの面だけは恵まれた勇者(笑)の妹だけに可愛いんだ〕

 

「天之河を殺ったら怨まれそうだな」

 

〔どうだろうねぇ〕

 

 そればかりは訊いてみるしかないだろう。

 

〔で、用件は?〕

 

「ナイズ・グリューエンのグリューエン大火山を攻略したんだが、魔法陣の部屋に『汝の名を呼べ』ってメッセージが有るんだが、原典にも有るメッセージか?」

 

〔……無いよ。オスカー・オルクスみたいなメッセージを簡単に遺しただけだ〕

 

「成程、だとしたらその違いは僕の介入にあるって事になりそうだな」

 

〔よく判らないけど何か判明した?〕

 

「ああ、助かったよ」

 

〔うん、なら切るね〕

 

 電話みたいな会話をした二人はダブルドライバーを外して……

 

「ゼロワン!」

 

 ユートはその名を呼びつつ魔法陣に入る。

 

「え、それで良いの?」

 

「いつになるとも知れない最初の一人、それなら誰かに向けたメッセージは有り得ない。だけど、あの時代の人間と若し何らかの接点があるとしたらミレディが過去に会った僕、仮面ライダーゼロワンだけだろう」

 

「あ、確かに」

 

 未だに過去のミレディと逢ってはいないけど、それでも今のミレディが言う限り間違いなく逢っているのだろう。

 

 魔法陣に乗ったからかユートを走査する何かが頭の中に干渉する為、態と無防備に近い状態にして走査を受け付けてやった。

 

 どうやら試練はクリアらしくて、空間魔法が焼き付けられていく。

 

 ガコンと壁の一部が開いた。

 

『人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う』

 

『ナイズ・グリューエン』

 

 簡易なメッセージである。

 

 そして更に床の一部が開いてせり上がる台座とそれに載る宝箱らしき物、そして恐らく攻略の証となるであろうペンダントが置かれていた。

 

「何だ?」

 

 罠は無さそうだから開いてみる。

 

「罠処か鍵も掛かってない? つまりゼロワンにしか渡されない何か……か」

 

 開けた宝箱の中身は手紙と……

 

「プログライズキーだと?」

 

 見た事も無い赤いプログライズキーだった。

 

 封蝋を外して中身を取り出す。

 

「読めるな」

 

 その文字は現代と変わり無いが故にユートにも普通に読める文章った。

 

『其処に居るのがゼロワンであると仮定して私はこの手紙を遺そう。私達は殆んど覚えていなかったのだが、ミレディの記憶に君の名前と愛情が残されていた。更にオスカー、我々の錬成師である彼のポケットに入っていた簡単な文の手紙と私の手紙と同梱した物と同じ形のアーテァファクトらしき物。我々はそれを使ってある計画を進めた。詳しくはそのプログライズキーというアーテァファクトを使ってくれ。とはいえ全ては君に任せるものとする。君の自由な意志の下に』

 

 手紙を読んだユートは赤いプログライズキーを手にして視てみる。

 

「僕のプログライズキーと外観に変わりは無いみたいだね」

 

《SPACE!》

 

 ライズスターターを押してやると空間を意味する単語が鳴り響いたが、恐らく本来はこの世界の言葉だったものが言語理解で翻訳されたのだろうと推測をしていた。

 

《AUTHORIZE》

 

 オーソライザーに認証させプログライズキーを展開しライズスロットへと装填をする。

 

《PROGRIZE! NAIZ GRUEN!》

 

 『変身』と言わなかったのはこれが変身の為の

プログライズキーではないからだ。

 

「成程、そういう事か」

 

 ユートは理解をする、彼ら【解放者】の目論見がいったい何処に有るのかを。

 

「どうだったの?」

 

「このプログライズキーには解放者の魂が封入をされている」

 

「魂が?」

 

「魂魄魔法を使ったんだろうな。しかも安全の為に全てではなく、ナイズ・グリューエンプログライズキーにはナイズ本人の魂が五割、他が一割程度の魂だ」

 

「どういう事よ?」

 

「つまり、解放者のプログライズキーを全て集めれば全員の魂が手に入る。其処から蘇生をすれば

ミレディ以外の【解放者】も復活する」

 

「っ! 本当に?」

 

「ああ、神山にラウス・バーンプログライズキーが有るし、海底遺跡にはメイル・メルジーナプログライズキーが有る。但し、ゴーレム化していたミレディは別だし、オスカー・オルクスの場合はどうやらハルツィナ樹海に有るみたいだね」

 

「復活させるの?」

 

「クラスメイトの連中と違って充分に役立ってくれる人材だ。させない理由が無いだろう」

 

 雫はクラスメイトがディスられて眉を顰めてしまうが連中は十把一絡げでしかなく、僅か七人でも神代魔法の担い手たる【解放者】の中核達は使える生え抜きな人材ばかりである。

 

 ウザかったミレディの事を鑑みると人格面までは保証されないが……

 

「人格的には問題もあるけど、それを補って余りあるくらい有益な存在だろうね」

 

「人格的にって?」

 

「メイル・メルジーナはS、逆にリューテュリス・ハルツィナはMらしいぞ」

 

「うわぁ……」

 

 ミレディ情報だから間違いない。

 

 とはいえ、この二人は同性のミレディですら見惚れる美女であると云うし、ユートとしてはこの二人に会うのが楽しみな事だ。

 

 翻ってクラスメイトは人格的に褒められない上に役立たず、生き返らせても恐らく邪魔にしかならないと践んでいた。

 

 女子も容姿は十人並みだから目の保養にすらもならないだろう。

 

 自分の女ならまだしも、そんな連中を生き返らせてやる義理や義務など何処にも無い。

 

 ユートは部屋から出ると【嘆きの壁】と【超空間】によって隔てた。

 

 【嘆きの壁】は冥界の奥深くジュデッカの更に先の奥深く、ジュデッカとエリシオンを隔てる壁として存在をしている。

 

 【超空間】も同じくで、これは神か神器を身に着けた者以外が入ると塵になり消えてしまう。

 

 例えばアテナの血を受けた聖衣、例えばハーデスの許可証となる腕輪などがそれに当たった。

 

 ユートは神ではないが神氣を纏えるからこの手の【超空間】にも、神聖衣や覚醒前の聖衣無しで普通に入れたりする。

 

「これで魔人族が後から来ても【嘆きの壁】と【超空間】に阻まれて入れまい」

 

「え、えげつないわね」

 

 この二つを知るが故に雫は冷や汗を流す。

 

 だけど其処へまさかの来訪者が……

 

「なにぃ!? 人間族だと!」

 

 それは竜らしきに乗った……即ちドラゴンライダーというべき男、しかも赤毛に浅黒い肌に尖っている耳というその風体は何処か死んだカトレアを思い起こされる。

 

「魔人族……か」

 

 つまりは魔人族である。

 

「貴様ら、神代魔法を得る為に来たか!」

 

「何か問題でも? 少なくとも此処は人間族による支配地域、魔人族が来るよりは自然な話だと思うけどな?」

 

「チッ、厄介な!」

 

 舌打ちする魔人族の男、そう……男だ。

 

 カトレアみたいに女なら愉しいかも知れないのだろうが、男では目の保養にすらなりやしないのだから当然だし、寧ろ此処で舌打ちをしたいのはユートの方であっただろう。

 

「神代魔法を得た人間族、危険な存在だ。此処で排除させて貰うぞ!」

 

「ふん、逆もまた真なりだと思うがね、察するにお前が変成魔法の使い手って訳か」

 

「何だと?」

 

「カトレアという女魔人族、愛子先生共々ウルの町を亡ぼそうとした名前も知らん魔人族。どちらも変成魔法を使える様に思えなかったからな」

 

「っ! そうか、連絡を断ったからおかしいとは思っていたが……貴様がカトレアとレイスを!」

 

 今一人は全く知らない名前だったが、恐らくはウルの町を攻めるべく清水利幸を利用しようとしていた魔人族、攻撃を跳ね返したら直撃をして死んでしまった訳だが……

 

「許さん!」

 

「此方の科白だ。貴様はゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 

「余裕あるよね、ゆう君って……」

 

 てつをな『ゆ゛る゛さ゛ん゛』を言える程度に

は余裕なユートに、鈴は魔人族が乗る白竜やその後ろの夥しいまでの灰色の竜を見ながらも、逆に冷静になりツッコミを入れる事が出来ていた。

 

「そもそもお前は勝てんよ」

 

「何だと!?」

 

 ユートはニヤリと口角を吊り上げたと同時に、権能を発動する為の聖句を詠み上げていく。

 

「呪え、呪われよ我が怒り以て竜蛇を呪え赤き堕天使……神の毒。我が悪意にて全ての竜蛇を呪え呪え呪え呪え呪え……呪い在れ!」

 

「ぬあ! それは……」

 

 ティオが叫ぶ。

 

「【神の毒より呪い在れ(ドラゴン・イーター)】」

 

 ユートが権能を発動するとドロリとした空気に変化し、辺りが血を連想させるくらいに真っ赤な空間で満たされてしまう

 

 瞬間、夥しい数の灰竜共がまるで蚊取り線香に煙られた蚊の如くボトリボトリと落ちた。

 

「な、何が起きたぁぁああっ!?」

 

 魔人族の男は絶叫を上げる。

 

「うおっ!?」

 

 だが、すぐに足場がグラついて黙った。

 

 何事かと目を見開いたら騎乗をしていた白竜までもが落ちているではないか。

 

「莫迦な、ウラノス!?」

 

 どうやらあの白竜の名前らしいが地球で云うとギリシア神話の天空神とか、随分と大仰な名前を与えられている()()()である。

 

「くっ、貴様! いったい何をした!?」

 

「言ったろう、お前は勝てんよ……と。ドラゴンを連れてれば最強とか思ったか? 甘いな、甘過ぎる認識だ。世の中には相克というものが存在しているのさ。その存在そのものに対する強力無比なカウンターってやつがな」

 

 竜蛇に対する竜殺し。

 

 神に対する神殺し。

 

 どれだけ強力な存在であろうが相克の前には膝を折るしかないのである。

 

 例えば三頂の女神ですら相克が相手ともなれば痛い目を見る、津名魅だろうが鷲羽だろうが訪希深だろうが相克たる反作用体に対抗をするのは難しいのだから。

 

 ユートの使った力はサマエルという堕天使から獲た権能で、サマエル自身がその世界で龍喰者(ドラゴン・イーター)と呼ばれる龍や蛇などに対する絶対的な相克。

 

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスにすら通用してしまう程に強力なモノだった。

 

 ユートはそれを文字通り喰らう事で自らへと取り込み権能と成したのである。

 

「そ、相克……だと!?」

 

「この赤い結界は【神の毒より呪い在れ(ドラゴン・イーター)】、本来は敵意など持たないとされる聖書の神がドラゴンに対して呪いとも呼べる程の敵意を懐き、堕天使サマエルを変質させてしまった力を僕が取り込み使える様にしたものだ」

 

 【聖書の神】とやらは識らない魔人族の男ではあるが、どうやら可成りのレアケースによるものらしいのは理解をする。

 

「ドラゴンに自信アリだったのかも知れないが、僕にとってドラゴンは獲物でしかないのさ!」

 

「くっ、灰竜よ!」

 

 空中から落ちて喘ぐ灰竜に魔人族の男が命令を下したが何もしない……否、出来ないのだと気付かされてしまった。

 

「まさか!」

 

「気付いたみたいだな。そう、その通り。灰竜とやらも白竜もステータスは軒並み百分の一にまで下がっているし、魔法や技能なんかも行使不可能に陥る上に結界内で受けた傷は此処を出ない限り治療される事も無い。最強ドラゴン軍団とかやりたかったのかは知らんが、今やお前のドラゴンはちょっと訓練した人間族以下だよ」

 

「莫迦な!?」

 

 例えば筋力が5000だったとして百分の一も減れば僅か50、一般人がレベル1で平均値にして10らしいから鍛えた人間なら充分勝てる。

 

 尚、ドラゴンに由来するモノは軒並み弱体化をされるからドラクエのドラゴンは鋼鉄並とも云う竜鱗でさえ、激しく弱体化の煽りを喰らってしまい軟らかくなってしまうので刃が通らないなんて間抜けな事にもならない。

 

「魔人族の男。お前の最強ドラゴン軍団は最早、最強ドラゴン軍団(笑)となった。硬い強い迅いがウリのドラゴンも今や柔い弱い遅い御荷物よ」

 

「ば、莫迦な莫迦な莫迦な莫迦なっ!?」

 

 だが、魔人族の男が白竜や灰竜を見遣ると確かにグデっとした様子で明らかに弱っていた。

 

 肌の色からは判り難いが青褪めた顔で語彙力の欠如した言葉を垂れ流す。

 

「だからこんな事も可能だ」

 

 ユートが右腕を左側に横曲げにして右側へと薙ぐ様に一閃をさせると……

 

『『『『『グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアッ!』』』』』

 

 灰竜が爆炎を上げながら墜ちて逝く。

 

「なっ!?」

 

「くっく、アニメで観て一度はやってみたかったってやつだよな。まぁ、前にも何度かやった事はあるんだけどね」

 

 驚愕の魔人族の男を前に笑うユート。

 

 アニメ【スレイヤーズNEXT】だったろうか? 獣神官ゼロスが飛翔する黄金竜の群れに対して行ったのがこれ、黄金竜を相手に高位魔族としての強さを見せ付ける仕草として覚えていた。

 

「灰竜は全滅だ、残りはやはり弱体化した白竜――ウラノスだったか? それに貴様だ魔人族の男」

 

「グ、バ……」

 

「フッ、バケモノめ……か?」

 

「うっ!?」

 

「大抵が二言目にはそれだ。だがそれは罵倒にはならない、寧ろ称賛と呼んでも良い」

 

「称賛……だと!?」

 

()()()()()()()僕も一度だけ使った言葉だ」

 

 掛けられた方は称賛となるのだが、掛けた者は謂わば恥の上塗りをしたに等しいのである。

 

 ユートがその莫迦な事を仕出かしたのは最初の

緒方優斗としての人生、自分より五歳も年齢が下なのにも拘わらず自分よりも強い刀舞士であった緒方白亜、妹に対して『お前は天才だから!』と詰る様に言い放ってしまった。

 

 祖父にはぶん殴られるし白亜には泣かれてしまうし、母である蓉子の作った夕飯はその所為でか不味く感じるわ散々だったのは確か。

 

「バケモノ、天才……良い言葉だよな? 努力が足りず実力も伴わず相手がバケモノだから天才だからと言って傷を舐めてりゃ良いんだからさ」

 

「っ!?」

 

「こちとら様々な世界に跳んで、時には死に掛ける事すらあって手にした力だってのにお前らは単に一言を言えば良い……楽だよな本当に」

 

 ユートの言葉を戯れ言と吐く程には落ちぶれていなかったのか、羞恥心に身悶えながらも目を逸らすという行動に出る。

 

「……フリードだ」

 

「何?」

 

「我が名はフリード・バグアー! 忌々しきなれど貴様の言は間違いではない。故にいつの日にか貴様を殺す我が名を知りおけ!」

 

 魔人族の男――フリード・バグアーはウラノスと共に去って行く。

 

「逃がして良かったの?」

 

「此処での目的は達したし、後は余禄に過ぎないから構わんさ」

 

 別にユートは殺戮者ではない。

 

「それに遅くなったらミュウが怒る」

 

「そうね、早く帰りましょうか」

 

 頷く雫。

 

 封鎖前に雫やユエらも空間魔法を修得したのだけど、やはりユエの適性はユートと変わらないくらいに高かった。

 

 そしてやはりシアは驚く程に低い。

 

「にしても、ユエさんは何と無く判るんだけど。優斗は何でこんなに適性が高いのよ?」

 

「それは僕の転生特典(ギフト)としか言い様が無い」

 

「神様転生で貰った能力……確か、『魔法に関する親和性』だっけ? 精霊術が使えたり詠唱が楽に唱えられたり、ファジー過ぎないかしら?」

 

「僕もそう思うよ」

 

 余りにも曖昧な表現だったからなのか、それとも態とこんな仕様にしたのか……ユートとしてみれば後者な気がしてならない。

 

 【ハイスクールD×D】世界で暴発してしまって消滅し掛かった際、【カンピオーネ!】世界まで連れて行きカンピオーネに転生させる事で消滅を免れさせ、更にはパワーアップまでさせてくれた【朱翼の天陽神】日乃森シオンの目的はいまいち判らない。

 

 同じ星神(ワールド・オーダー)ガイナスティアの星騎士(ワールド・ガーディアン)という立場らしいのは聞かされたし、【風の聖痕】の世界観を同じく往き来――ユートの場合は【カンピオーネ!】世界の習合だが――した身として同じ女性を抱いた感想を言い合う酒の席でも笑いながら話したものではある。

 

 因みにその女性とは大神 操だった。

 

「ま、便利ではあるよ。チートに胡座を掻くよりはマシに使えるから……ね」

 

 貰い物でも力は力だったから有り難く使わせて貰うが、それに胡座を掻いたら踏み台の完成だと理解しているからこそハルケギニア時代、格上とばかり闘って傷だらけになりユーキを泣かせてきたのは最早、良い想い出にしても構わない案件であるとユートは考えている。

 

 今では好物――世界によっては不味くて食えない場合もあるが――なドラゴン、ハルケギニア時代では火竜山脈の火竜を初めて殺して食った上に骨を使って魔導具のアンドロメダ【聖衣】を作製し、正しく竜三昧を尽くしたけど当時のユートはまだ大して強くないから相当に傷付いた。

 

 尚、アンドロメダ【聖衣】は聖衣製作に必要な神秘金属を獲られた為に造り直されてシエスタに一時期は渡していたが、現在は【ハイスクールD×D】世界の【白銀の聖女】アーシア・アルジェントが使用をしている。

 

 シエスタ本人は牡羊座の黄金聖衣をハルケギニア時代に与えられており、再誕世界の地球に於いて牡羊座の貴鬼と共に聖衣修復師となった。

 

 一度は第二次邪神大戦で破壊の限りをされ尽くしたペガサス聖衣、それを修復したのも貴鬼ではなく三日月島に訪れたシエスタである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 迷宮脱出呪文のリレミトを使えば元の入口に戻れるのはある意味で有り難く、ユート達はあっという間にキャンピングバス――オプティマスプライムの場所まで戻って来れた。

 

 とはいえ、本来の仕様ではユート本人を含めて六人までしか運べない。

 

 六人はウィザードリィのパーティ仕様だろうと思うが、七人を越しているからには一度で帰還をするのは本当なら無理だ。

 

 だけど其処は少し前の世界で、とある少女を抱いて簒奪+インストール・カードで相手に戻すというコンボで手にしたユニークスキルが有る。

 

 【全力全開(オーバー・ブースト)】というそのスキルは、魔力とスタミナを全消費して一撃の威力を何倍にも引き上げてくれる為、今回の呪文でも威力というより巻き込める人数を増やしてくれていた。

 

(結界が有ったから【赤龍帝の籠手】は使えなかったし、偶には使わないと『何の為に私から持ってったのよ!』とか言われそうだしな)

 

 【神の毒に呪い在れ】はユートが龍系の能力を使えなくなる制約が有るし、あのスキルを簒奪するのに必要な行為まで及びながら死蔵させていたら今頃はのんびり暮らしている彼女に会ったら、絶対に文句を言われてしまうだろう。

 

 そんな訳で今回は使ったのだ。

 

「帰ったぞ……ミュウ、ミレディ」

 

「パパ~!」

 

「ユー君!」

 

 ミュウが胸に抱き付いて来て、ミレディまでもが思い切り右腕へと抱き付いて来る。

 

 その様はまるで若奥様と子供の如くだ。

 

「心配はしてなかったけどさ、魔人族が白竜に乗って灰色の竜を大量に引き連れて大火山に潜ったから、どんな塩梅だったのか気になったよ」

 

「魔人族――フリード・バグアーとか名乗ったんだったか、そいつは空間魔法を獲られずに撤退して行ったよ。此方は適性云々もあったけど全員修得に成功をした」

 

「そっかそっか! うんうん、ミレディちゃんは信じていたよ」

 

 その割には未だ放さないし離れない。

 

 ミュウも離れない心算なのか、ガシッとしがみ付いて顔をユートの胸板に押し付けながらスリスリと擦り付けていた。

 

 二人して寂しかったらしいのは理解する。

 

「攻略の証のペンダントも手に入れたしな」

 

 サークル内に女性がランタンを掲げている姿が刻印され、ランタンの部分だけはくり抜かれており穴がぽっかりと空いているペンダント。

 

「うん、後はこれを持って月に導かれるだけだ。早い話がグリューエン大火山をクリアしてないとメル姉のメルジーネ海底遺跡には入れない」

 

 この話は寝物語にミレディから聞かされたのでミュウをエリセンに送り、先にメルジーネ海底遺跡に行く案は却下するしかなかったと云う。

 

「そうか……」

 

 ちっとも離れないミュウに目を向ける。 

 

「ったく、ミュウは今夜くらい添い寝してやるから離れてくれないか?」

 

「うゆ?」

 

「腹減ったし御飯を食べたい」

 

 作り置きの晩御飯がちゃんと用意をされているので、先ずは何はなくとも夕飯を食べて腹を満たしておきたかった。

 

 取り敢えず今夜の予約はミュウとなり性欲の方は満たせないが、我慢をしてくれたミュウの為の御褒美なので問題など無い。

 

「あれ? ミレディさんの御褒美は?」

 

「良い大人が御褒美をねだるな」

 

「うう……」

 

 流石に幼いミュウを相手に『ズッコイ!』とは言えないミレディであったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「おお、存外と早いお帰りでしたな」

 

 ランズィ公と奥さんとビィズ公子ともう一人は金髪美少女、何処と無くビィズ公子と似ている気がするしランズィ公の奥さんとは姉妹みたいに見える辺りビィズ公子の妹さん、名前はアイリー・フォウワード・ゼンゲンだと聞かされていた。

 

 アイリー公女はどうやら亜人族に隔意は無いみたいで、ミュウやシアといったあからさまな部位を持つ者にも笑顔を見せる。

 

 そしてユートを見て……

 

「ほぅ」

 

 頬を朱に染めた。

 

 ユートが命の危機を救ってくれたのを教えられたのかも知れない、貴族の女の子だけにそういうのに憧れは有りそうだし。

 

 何よりアンカジ公国は正に滅亡の危機だったのを鑑みれば、ユートとの繋がりを保つ為に後継ではないアイリーをユートに差し出すとか高位貴族の家なら普通にやる。

 

 そんな話も前以てされていたのかも知れない、そんな雰囲気が感じられてならない。

 

 確か歳は一四歳らしいから成人まで一年足らずという事だし、そもそもリリィと同い歳であるならばユートも喰うのに問題は無いのだから。

 

 そもそもユートの場合は上は四十代から下は数えで一二歳が守備範囲、つまり年さえ明けていれば一一歳でも範囲内という事になる。

 

 事実、【全力全開(オーバー・ブースト)】や【不撓不屈(ネバー・ギブアップ)】をユートに託した少女も年明け前の一一歳時で既に喰われているくらいだ。

 

 別にユートは幼女愛好家(ロリコン)という訳では決して無く、合法ロリは好きだがガチロリに手出しする事は無かった……のだが、ハルケギニア時代は貴族でしかもトリステイン王国の貴族など基本的に貧乏、借金持ちも珍しくないとか莫迦な連中が多い国だった。

 

 結果、ユートから娘を借金の形に差し出すのが通例の如く罷り通る。

 

 前例が無いと貴族は二の脚を踏むが、生憎というか前例が存在していたから問題無く差し出して来たのだ。

 

 他ならない、ユートがモンモランシ伯爵家への借金に対してモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシを要求、それを通した上で彼女を一般から視たならば明らかな側室的な立ち位置に置いていた。

 

 【魔法少女リリカルなのは】主体世界に於ける聖域は一二宮、双魚宮の黄金星闘士として魚座の黄金聖衣を与えられているのがモンモランシーであり、彼女が【閃姫】としてユートに抱かれているからこそ現在も傍に居る。

 

 故にこそ貧乏貴族は娘を差し出すが、モンモランシーが借金の形になった際は確かにまだ幼女の域だったろう、然しその時のユートも似たり寄ったりの年齢だったのを考慮に入れてはおらずに、何故か八歳~一二歳くらいの少女を差し出してきていたのだ。

 

 流石に一桁歳は無かったにせよ、一二歳ならば本当にギリギリ考えられる年齢として受け容れたのだが、今現在は数えで一二歳だから一一歳でもイケるのが罪深さを痛感させる。

 

 子供がデキ難いから、この年齢でも出産という負担が掛かり難いのもあった。

 

 因みにだが、ハルケギニア貴族の莫迦連中なら平民で八歳とか平然とヤり棄てる者も多少ながら居て、ユートと初めて出逢った際のシエスタが性の知識を持っていたのは、()()()()()も有り得ると母親が教えていたのが原因らしい。

 

 ユートの予測は当たりだったのか、アイリーによる攻勢は香織達が唖然となるくらいだった。

 

 しかも『将を射んとするなら先ずは馬を射よ』とばかりに、ミュウのお姉ちゃん的な立ち位置を確保しているのに戦慄すら覚える。

 

『……アイリー、おそろしい子!』

 

 ユエがネタに走りながら呟いたのを聞いていた雫と香織と鈴、ユートに睨まれてブンブンと首を横に振ったものだった。

 

 尚、この場面は主役の娘がずぶの素人ながらも三時間半にもなる演劇の全てを記憶、丸暗記をしていた事実を知り高笑いをしながら『おそろしい子!』と言うのであり、名前を呟いたりは決してしていない。

 

 『○○、おそろしい子!』というのは謂わば、後世での創作に過ぎなかった。

 

 一週間をアンカジの公都にある宮殿で過ごしたユート達、観光デートを全員とした上にアイリーともデートをしている辺りがユートらしいか。

 

 そのアイリーが朝、ユートの寝室で裸になって眠っているのも()()()と云えばらしい。

 

 そして遂にエリセンの町に向かう為に動き出したユート一行を、アンカジ公国の領主一家総出で送り出しに出てきている。

 

 そんなユート達の前にザッザッと砂を踏み締め現れたのは所謂、修道女の服を来た女性達であったがその顔はまるでお人形、プラチナブロンドに蒼い瞳を持つ作り物めいた表情の修道女。

 

「これはノイント殿、如何された?」

 

九番目(ノイント)……へぇ」

 

 ランズィ公が名前を呼ぶまでもなく顔立ちから察していたけど、どうやら間違いないとユートは

判断をしてニヤリと口角を吊り上げる。

 

 そもそも、修道女達の顔立ちは隠れてはいるが明らかにノイントと判を捺したみたいに同じ。

 

 恐らく一〇番目以降の量産品だろう。

 

「遂に動きますか、イレギュラー」

 

「その物言い、リューンと同じだな神の木偶」

 

「あの様な半端者と同じにしない事です」

 

「変わらんさ、所詮はリューンより性能が上なだけの木偶人形だからな」

 

 挑発の心算は特に無いが、ピクリとも表情が動かない辺りがリューンとは確かに違う。

 

 ふと見ればミレディの顔から表情が抜け落ち、殺意の波動を噴き出している。

 

「ランズィ公は下がった方が良い」

 

「ま、まさか……教会と確執があるのは理解していたが?」

 

「あれは教会とはまた別だよ。そもそも教会は動けないからね」

 

「な、何と?」

 

 教会とハイリヒ王国とヘルシャー帝国は魂にまで及ぶ絶対遵守の契約を、教皇と国王と皇帝の名に於いて結んでいるから決してユートを異端とは扱えないのだ。

 

 無理にそれをしても周りにユートへの畏怖を植え付けるだけでしかない、ならばと真のエヒトルジュエの使徒が攻勢の為に出てきたのだろう。

 

「御託は要らない。さぁ、始めようか」

 

 ユートはその手に()()()()()()()()()()()言い放つのだった。

 

 

.




 教皇が動けないこの噺に異端者呼ばわりしてくる司教だか何だかは出ない為、メルジーネ海底遺跡に行ってアンカジに帰ってくるというプロセスの前にイベント戦闘に突入します。

勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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