ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 休みで書いていたら興がノって早めに書き終えてしまいました。





第66話:娘をママへ会わせよう

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 ユートの許に携帯魔伝話が鳴り響く。

 

「もしもし、ハジメか。どうした?」

 

〔あのさ、今は大迷宮が有るライセン大峡谷に居るんだけど〕

 

「封鎖の事か?」

 

〔そうだよ〕

 

 御出でませ的な看板は見付けたが入れない様にされた意味不明な壁。

 

〔あの壁って何だっけ?〕

 

「【嘆きの壁】だな」

 

〔【聖闘士星矢】に出てくる冥界は地獄、それも最終地獄ジュデッカの深奥に在る壁。地獄とエリシオンを繋げる【超空間】を隠すモノ……か〕

 

「その通りだ」

 

〔魔人族がこれ以上に力を付けない様に閉鎖したんだっけ? まったく、何処の冥界だよ」

 

 意味が判らないよとばかりなハジメ。

 

「僕は【カンピオーネ!】な世界に行ったから、神の権能を使える様になった。冥界の王ハーデスから得た権能で僕は冥王として振る舞える程度の力は持っているのさ。因みに、仮に【嘆きの壁】を突発しても【超空間】に阻まれているからね、それも突発するには神の与えた加護や神器が必要となるな」

 

〔それだと僕らも駄目じゃん!?〕

 

「神の血を塗り込んだ装備品とか」

 

〔有る訳がないだろ!〕

 

 その呆れが籠ったハジメの科白は至極尤もであったと云う。

 

「判ったよ、取り敢えずブルックの町に行って待っていてくれ」

 

〔ブルックの町?〕

 

「ああ、僕がエリセンの方のメルジーナ海底遺跡をクリアしたら合流するから」

 

〔メルジーナ海底遺跡? まさか、遺跡荒らしに転職でもしたの?〕

 

「否、大迷宮の攻略なんだがな」

 

〔……え?〕

 

「ああ、そういえば大迷宮に関しては今やしられてるのはオルクス大迷宮とライセン大迷宮とハルツィナ樹海くらいだったか」

 

〔そうだけど……〕

 

 【解放者】が反逆者に仕立て上げられてから既に千の位が使われるくらいに経ち、大迷宮に関するデータは散逸して【オルクス大迷宮】と【ライセン大迷宮】と【ハルツィナ樹海】の三ヶ所しか最早、人間族には知られていないらしい。

 

 グリューエン大火山が大迷宮の一つだというのも忘れ去られた知識だとか。

 

 況んや、シュネー雪原の大迷宮なんて知識的に残っている筈もなかった。

 

「近場がブルックの町になるからライセン大峡谷で野宿も辛かろ?」

 

〔まぁね。ちゃんとベッドでヤりたいし〕

 

 小声だったがユートには聴こえていた。

 

「避妊は確りな?」

 

〔ユートがくれた魔導器を着けて貰った上だから大丈夫だよ〕

 

 聴こえていたのに気付き、多少ながら声が上擦りつつもそう答えるハジメだが……

 

「近藤さんに穴を空けて妊娠しようとする女性も居るからな、実は偽物を身に付けて気付けば中村のお腹が脹れてました……なんてならない様に気を付けろよ?」

 

〔りょ、了解……〕

 

 昔から知る中村恵里なら『まさか、そんな事をする訳が無いよ』と返したであろうハジメだが、猫かぶりをやめてしまった彼女の本性を知る今なら『ヤりかねない』と考えてしまう辺り、ハジメも中村恵里をよく見ているらしい。

 

 魔導器に宿る魔力の波長から、ちゃんと視ていればきちんと判る筈だから性欲に溺れ切らなければ大丈夫だろう。

 

「ブルックの町に着いたら【マサカの宿】がお奨めだ。それからギルドではキャサリンという受付のオバチャンを頼れ」

 

〔オバチャン? その、若い受付嬢じゃなくって年嵩なオバチャンなのかな?〕

 

「ハジメ……お前、ホルアドの受付嬢が若さ全開だったからって余り夢見るなよ? 場合によってはオバチャン処かガチムチなオッチャンだという事も有り得るんだからな」

 

〔グフッ!〕

 

 中二病は卒業した筈なハジメだったが、やはりというか未だに芽は残っていたらしくてギルドの受付嬢は美女とか、行き成り凄い何かをやる事でギルド長の許へと呼ばれて、更には初めから高いランクを与えられる……みたいな。

 

 昔、アリサが迷宮都市セリビーラで言っていた事をハジメも夢見ていた気があった。

 

 ホルアドの受付嬢は鈴鳴――スールードだ。

 

 実際は何万年も今の姿の侭で在り続けた所謂、【永遠存在(エターナル)】という者の一人である。

 

 まぁ、普段は第四位の永遠神剣を持って行動をしているから気付き難いのだが、そもそもそれは幾つにも分けられた分体に過ぎない。

 

 仮に死んでも本体ではないから問題も無いと云う訳で、ユートと何度か敵対する事もあったりするが逆に味方になる事もあった。

 

 勿論、その時は分体とはいえそのどちらと云えば幼さのある肢体を愉しませて貰っている。

 

 敵対した場合は血湧き肉躍る本気の殺し合いをしているが、これは寧ろ殺し愛にも等しいというべきなのか? 決着をしたら遺恨も忘れて求め合い【御突き愛】をしていたりする辺り、明らかにこの二人は普通で無い関係だろう。

 

 だから見た目だけならホルアドの受付嬢である鈴鳴は【美少女受付嬢】だった。

 

 ハジメが夢見るのも已む無しである。

 

 とはいえ、ユートの見立てではキャサリンとて痩せればまだまだイケる美女だと思われた。

 

 それこそフューレン支部長イルワ・チャングから見せられた当時の写真のキャサリン並に。

 

〔兎に角、待っていれば良いんだね?〕

 

「ああ。あ、宿ではソーナ・マサカって娘が客の相手をしてるけど目は付けられるなよ」

 

〔な、何で?〕

 

「覗かれるぞ、情事を」

 

〔……了解したよ〕

 

 色々と普通では無いらしい事だけは。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 リリアーナの自室。

 

『どうにもおかしな雰囲気だな』

 

「雰囲気……ですか?」

 

『ああ。私が退化しチコモンの状態で認識阻害を掛けてまで行なった城内の探査だったが、国王にしても大臣にしても高位の者らが虚ろな瞳でブツブツと呟いていた』

 

「御父様までも!?」

 

 リリアーナは最近だと母親であるルルアリア・S・B・ハイリヒ王妃とは歓談も交え食事を摂ったりもするが、父王とは御無沙汰気味であったのを思い出しはしてもまさか……という思いがどうしても抜けない。

 

『異端という言葉を紡いでは苦しむのを繰り返していたな』

 

「異端……それではユートさんを異端に?」

 

『恐らくはな。前に銀髪のシスターが会いに来たのを覚えているか?』

 

「確か、シスターエーアストですわね」

 

『クックッ、エーアスト……な』

 

「どうしたのです?」

 

 マグナモンの失笑が気に掛かる。

 

『我が主から聞いた話によるとその昔、反逆者と現代で呼ばれる組織【解放者】が戦ったとされるエヒトルジュエの使徒の名にエーアストが有ったと記憶している』

 

「っ! そんな大昔の人物が?」

 

『人間ではあるまいよ。我らが主により生み出されたのと同じ、エヒトルジュエが神代魔法か何かで造り出した神造人間といった処か』

 

「貴方も神代魔法で?」

 

『否、神の力が関わるのは確かだがな。神器だと前にも説明したろう? 我らが主ユートは強力な神器を幾つか所持する。平行異世界の地球の神の一柱……【聖書の神】と俗称で呼ばれる存在が造った神器システム。そのバグにより発生した神滅具の一つ、【魔獣創造】の禁手たる【至高と究極の聖魔獣】にて生み出されたのが我々――ロイヤルナイツと称されるデジモン、その紛い物とでも云う聖魔獣なのだ』

 

「紛い物……ですか……」

 

『基本的には本物と変わらない。違うのは真なるデジタルワールドに自然発生をしたのではなく、主により創り出された存在だと云う事だな』

 

「そうですか」

 

『そんな事より姫の父君だがな』

 

「! そうですわ!」

 

 ちょっとおセンチな気分になったが、これからの話は家族の事だから放っては置けない。

 

『この侭では魂を押し潰されながら主を異端扱いするかも知れんし、向こうから受けた情報によるとエーアストの同類であるノイントが動いていたらしいのだ』

 

「神の使徒がですか?」

 

『ああ。教会ではなくエヒトルジュエ本人に仕える身だからイシュタルは苦しまん。しかも下手に王の身に何かあれば姫が一時的に女王になるしかならなくなり、こうなってくると姫の身にも危険が及びそうだ』

 

「確かにランデルの年齢を考えますと最低限でも五年は即位が出来ませんわね。ランデルしか居ないなら兎も角、成人に近い私が居るからには王国の舵取りは私の仕事になりますわ」

 

 ランデルは王太子に当たるだろうが、年齢的にはまだ一〇歳の小僧に過ぎない。

 

 ならば王女ではあるが四歳は上のリリアーナが

中継ぎの女王になるのが真っ当、というより寧ろ母親である王妃のルルアリアが一時的に国政を司っても良さそうな話だ。

 

 問題があるとしたら彼女がハイリヒ元王女で、現国王が婿養子ならば……と註釈が付く。

 

 流石にそうでないなら一時的にもハイリヒ王権を揺るがす人事は出来ないだろう。

 

 ユートのハルケギニア時代、本来の世界線では王女のアンリエッタが王権を継いだが本当ならば元王女の王妃が中継ぎをするべきだった。

 

 喪に服すとか言ってサボったから王権が揺らいでいたし、本来は教皇にもなれたマザリーニ枢機卿がいつまでも宰相の真似事を貴族から疎まれながらやっていたり、本来なら有り得ない状態だったのは間違いないだろう。

 

 因みに、ユートが居た世界線ではアンリエッタがアルビオン王国の王妃に、トリステイン王国にはルイズが女王に即位した上で使い魔の平賀才人が王配となった。

 

 勿論、平民で使い魔なんて身分では王配になぞ普通は成れないのだろうが、先ずは平賀才人とはアルビオン戦役や邪神戦役の【英雄】の一人として名を上げており、その上で高位貴族の養子という立場を得てから婚姻に至っている。

 

 解り易く、ド・オルニエール侯爵の義息子にしてラ・フォンティーヌ大公の義弟という形だ。

 

 大公なんて某大公家くらいしか最早、無くなっていた――何処ぞの大公家は公爵に落ちた――から

表立って文句を言える貴族は居なかった。

 

 リリアーナとしては家族を助けたいとは思うのだが、自分を守る事すらやっとな現状ではどうしようもない。

 

 護ってくれるのはマグナモンだったり近衛騎士だったりだが……

 

 マグナモンは当然ながら超絶的な強さだろう、だけど飽く迄もユートが厚意で付けてくれた護衛な上に、亜人差別が蔓延るこの世界では大っぴらには出せない切札であるからには、表に出して戦わせるのは本当に最後の手段だった。

 

 であるからには、通常の護衛は近衛騎士であるメルド達に任せるしか無いだろう。

 

(不謹慎ですが暫く御無沙汰でしたしユートさんに御会いして淋しさを慰めて貰いたいですわね。ならば、マグナモンとメルド……正確には表向きはメルドだけですけど。愛子殿の御仕事の視察という名目で城から出ましょうか)

 

 リリアーナは皮算用にならない様にマグナモンと内容を詰める。

 

「マグナモン、愛子殿の作農師としての御仕事はいつ頃か判りますか?」

 

『それなら来週から入っている。アンカジ公国の方だった筈だ』

 

「あら、他国ですの?」

 

『彼処は食糧関係が農業で成り立つからな』

 

「ユートさんは?」

 

『主ならアンカジを出てエリセンに行った筈』

 

「割と近いですわね」

 

 ならば丁度良いかも知れない。

 

『私は愛子殿の仕事の視察という名目で城を一時的に出て避難をしますわ』

 

 考えを口にすると……

 

『悪くないな。【愛ちゃん護衛隊】の園部優花と宮崎奈々と菅原妙子は主の身内である【閃姫】と

準身内に当たる。つまり愛子と共にアキレス腱になりかねないのだ。序でにヘリーナとニアを世話役として連れ出してしまえ』

 

 何だか+αを付けて賛成された。

 

「……ヘリーナは兎も角、ニアというと雫の部屋付きを任されていた? ユートさんったらいつの間にニアにまで手を出してたのかしら?」

 

『ヘリーナだけでは手が届かない部分を任せる為の協力者らしいな』

 

「そうですか」

 

 仕込みとしては可愛い容姿のメイドを身繕い、変わった甘い御菓子で釣りながら仲良くして謂わば好感度を稼ぎ、少しずつ相手の警戒心を解きほぐしていって誰も見てない場所に誘導しつつ甘い言葉を掛けて気分を盛り上げ、ちょっとした隙を見せて絆されたのを確認してからキスまで持っていき、様々な経験に裏打ちされた技術で蕩けさせてイケそうなら最後までパックリと。

 

 ニアは雫の話をすると嬉しそうに話を聞いてくるし、『雫も望んでる』と耳打ちをしたらキスで蕩けて判断力が曖昧になっていたのもあってか、割とすんなりと堕ちてくれたのである。

 

「もう、ユートさんったら。私なんていつでも諸手を挙げて待ってますのに……って、ヘリーナも知っていましたわね!」

 

『当然だな』

 

 何はともあれ、計画をマグナモンと立ててからメルドを巻き込んだ脱出劇が始まりそうだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 エリセンは海の町。

 

 海人族が王国から保護を受けている土地だ。

 

 砂漠の端の港からエリセンへ船で向かう必要性がある訳だけど、そこはそれとばかりにキャンピングバス――オプティマスプライムが強化パーツを装着してキャンピングヨット化して海を往く。

 

 キャンピングヨット化したオプティマスプライムが進んで二時間、エリセンの町の可成り近くで停まる羽目に陥っていた。

 

 周囲を海人族と思われる男に囲まれたから。

 

 揺蕩う波を観ながらシアと雫のおっぱいを揉んでいたら、穂先が三股の槍――トライデントを突き出した複数の男共が激しい音を立てながら一斉に海の中より現れたのだ。

 

 その数は約二〇人くらい、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレの如く耳を持った海人族であると判る集団である。

 

 どいつもこいつも皆が皆、警戒心に溢れ剣呑に目を細めているのは恐らくミュウが攫われたからであろうが、だからといって敵意を丸出しにして囲むなどユートからしたら『どうか殺して下さい』と頼む行為でしかない。

 

 況してや、ミュウが御昼寝中だから女の子との御愉しみの真っ最中だったと云うのに邪魔をされた形だからイライラする。

 

 シアと雫も外で波の揺らぎと潮風を浴びながら雰囲気が盛り上がり、紅い顔でキスをしたり更にはユートの下半身をズボン越しに触れたりなど、赤の他人な誰かに視られるには余りにも恥ずかしい場面だったから完全に真っ赤だ。

 

 そんな痴態に眉根を顰めつつもユートから視て正面に位置する海人族の男が、右手に持つトライデントを突き出しながらも問い掛けて来た。

 

「お前達はいったい何者だ? そして、どうして此処に居る? その乗っている物は何だ?」

 

 

 ユートは二人にキスをして揺ったりたちあがるのだが、三又の槍を突きつけられて包囲されている状況で態々、色ボケに走るのが余裕をかましたふてぶてしい人間としか映らなかったらしい。

 

 尋問した男の額に青筋が浮かぶ。

 

「貴様!」

 

 実際に余裕なのだから仕方がないのかも知れないけど、シアも雫もちょっとは空気を読んで欲しいと考えたのは贅沢なのだろうか?

 

 取り敢えずは今の一触即発の状況を打開したいと考え、ユートに代わってウサミミを揺らしながらシアが海人族へ答えようとした。

 

「あの、その……少し落ち着いて下さい。えっと、私達はですね……」

 

「黙れっ! 高が兎人族如きが勝手に口を開くなど何様の心算だ!?」

 

 兎人族の地位は樹海の外の亜人族の中でも低いらしく、海人族の男は答えたシアに対して怒鳴り散らしてくる。

 

 海人族から見れば舐めた態度でしかないが故に意地があり、他の亜人と違い差別対象として視られていない矜持からか槍の矛先はシアへと向き、凄まじいまでの勢いで突き出された。

 

 仮面ライダーに成らずとも身体的に強化をされただけでも、シアの身体に海人族の攻撃など通ったりしないのだが、槍の軌道は頬に当たっている位置だったのは浅めに攻撃を入れ少し傷を付けて警告しようとしたのだと思われる。

 

 警告に過ぎなかったにせよ、シアに攻撃が通ったりしないにせよ、その行為は仮令ミュウを攫われて気が立っていたとしても許されざる行為で、ユートは静かにエボルトラスターを鞘から抜き放つとキラリ……光を放った。

 

 銀色のウルトラマンネクサス・アンファンスがグングンアップで約四九mの巨体を顕す。

 

『デュワッ!』

 

『『『『ハァ!?』』』』

 

 海人族の全員が目を見開いて、光の巨人化をしたユートの姿にあんぐり口を開いていた。

 

『フン!』

 

 超能力で船から吹き飛ばしたら……

 

『ハァァッ!』

 

 居合いの様な構えから右腕を縦に左腕を横にしてクロスさせる。

 

『クロスレイ・シュトローム!』

 

 放たれた光線だったが、海人族を直撃する訳ではなく少し離れた位置へのコース。

 

『『『『ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!?』』』』

 

 だからといって被害を受けない訳では無い。

 

 吹き飛んでいった男共、海人族だから海で溺れたりはしないだろうにせよ衝撃で気絶した。

 

『オプティマスプライム、強化パーツパージ』

 

 ヨットのパーツをパージしたオプティマスプライムはバス型に戻り、ウルトラマンネクサスはそれを両手で持って空を仰ぎ飛ぶ。

 

『ダァァァッ!』

 

 あっという間にエリセンの真上。

 

『ミュウ、起きてるか?』

 

「パパ?」

 

『自分の家がどの辺りか判るか?』

 

「えっと……」

 

 ミュウの前にはディスプレイが幾つか浮かんでおり、パッパッと画面がだいたい一〇秒毎に切り替わっていく。

 

「あ、これなの!」

 

 ミュウの視点を第三視点から捉えたユートは、エリセンはミュウの家の前まで行って降りる。

 

 ズンッ! 小さいながら地響きを鳴らしながら着々をしたウルトラマンネクサス。

 

『レミアという女性は在宅か?』

 

 海人族も王国兵士も何事かとわらわら集まってきたが、五〇m近い銀色の巨体を見て驚愕と恐怖に戦慄をするしかない。

 

 ヨロヨロと別の海人族の女性に肩を借りながら出てきた美女、それはミュウを大人にしたらそうなるという典型的な姿をしていた。

 

「私がレミアです!」

 

 巨人を前にしながらも気丈な態度で名乗る辺りは好感が持てる。

 

『脚に怪我をしているのか』

 

 肩を借りないと歩けないくらい酷いダメージを受けているらしく、肩を支えてくれていた女性が腰を抜かしていたからフラフラ足取りが怪しく、明らかに怪我を負っているのが判った。

 

 ウルトラマンネクサスは二mくらいに小型化をすると、キャンピングバスを置いてレミアをスッとお姫様抱っこで抱えてやった。

 

「あ、あの……?」

 

 行き成り人外な存在に触られてビクッと肩を震わせるものの、それでも自分を指名した銀色の人に何かを言い掛けるが……

 

「レミアさんから離れろ!」

 

 小型化したならイケると践んだか、海人族の男の誰かが槍を構えて飛び掛かって来る。

 

『パーティクル・フェザー!』

 

「うわっ!?」

 

 小さな光線の塊を放って槍にぶつけてやると、海人族の男も勢いに引かれて吹っ飛んだ。

 

「詠唱も無しに魔法だと!?」

 

 魔法ではないのだが、何も知らない王国兵士はウルトラマンネクサスの攻撃に驚く。

 

『メタ・フィールド!』

 

 ウルトラマンネクサス・ジュネッスに変身しながら、メタ・フィールドと呼ばれる異相空間を造り出したユート。

 

 完全隔離されたメタ・フィールド内に入ったのはウルトラマンネクサスとレミア、キャンピングバスとその中に居るメンバーだけであった。

 

 外では行き成り消えた事に全員が驚愕する。

 

 ユートはメタ・フィールドに余剰エネルギーを与えると元の姿に戻った。

 

「に、人間族!?」

 

「まぁ、間違いじゃない」

 

 キャンピングバスの入口たる扉を開いて中へと入ると、其処には涙を浮かべながらティオに抱っこされたミュウが居る。

 

「ミュ、ミュウ……?」

 

「ママァッ!」

 

 ティオから降りてミュウが駆け出す。

 

 ユートはそんなミュウがすぐに抱き付ける様にレミアを降ろしてやった。

 

「ママ、ママ、ママァァァッ!」

 

「嗚呼、ミュウ……ミュウなの? 本当にミュウなのね!?」

 

 抱き付いてきたミュウを座った侭に抱き締めてやるレミアだが、脚に負った怪我の痛みが響いてきて……

 

「っ!」

 

 小さく呻いた。

 

「ママ? ママ、あしがいたいの?」

 

 顔を顰めるレミアに不安気なミュウはユートを見て叫ぶ。

 

「パパ! ママのあしをなおして!」

 

 吃驚して顔を上げるレミア。

 

「……へ? ミュウ、貴女……今何て言って……? パパ!? パパって言ったの?」

 

 バス内にはそこそこの人数が居るが、ミュウと自分を含めて全てが女性ばかりの中に在って一人だけ男なのは、先程まで銀色の巨人だった人物しか居なかったりする訳でレミアは振り向く。

 

 そのパパと呼ばれた男性はミュウを優しそうな視線で見つめていた。

 

「心配するな、ミュウ。パパがすぐに治す」

 

「うん!」

 

 その瞳にはパパに対する信頼感が溢れていて、微塵にも失敗とか不可能など考えてない。

 

「レミア……さん、ちょっと恥ずかしいとは思うが脚を見せて貰うぞ」

 

「……え? あ……っ!」

 

 M字開脚させられて下衣が丸見えになる体勢にさせられ、生足を異性にジロジロと視られているシチュエーションに頬を朱に染める。

 

 生娘ではないにせよまだ二四歳の若い女性であるレミアは、見知らぬ男にこんな事をされて何も感じない程に達観はしていない。

 

 というか、場合によっては下衣を着けていない事もあるから恥ずかしくなった。

 

 【再成】と呼ばれる力が在る。

 

 エイドスの履歴を最長二四時間まで遡り外的な要因により損傷を受ける前のエイドスをフルコピーして、それを魔法式に変換し上書きをしてしまう事で損傷を無かった事にする魔法。

 

 刻に干渉するという程ではないが、そういった能力なら権能の中にあるが故にユートはレミアにそれを使った。

 

 回復系の魔法ではなく刻を溯行させる事により傷を無かった事にする、刻の神カイロスから簒奪をした権能の派生型の一つ。

 

「嘗ての栄光は今此処に……【美しきあの頃へ(リワインド・バインド)】」

 

 本来の使い方としては相手を胎児にまで戻して存在を消滅させるのだが、可成り加減をして傷を追う前にまで戻してやれば良い。

 

「ぬ、う……難しい……」

 

 ユートは別の権能に切り換える。

 

「在りし姿を取り戻せ……」

 

 この侭では戻し過ぎてしまうと考えてか更なる派生させた権能を。

 

「【輝ける刻の追想(リターン・オブ・タイム)】」

 

 何とか上手く権能を制御したユート。

 

「ハァハァ……上手く……いったか?」

 

 目の前には茫然自失でミュウを抱いたレミアの姿が在り、確かにユートの権能は上手く働いたらしいと口角を吊り上げ……愕然とした。

 

「あれ?」

 

 ついさっきまでは妙齢の美女が立っていた筈なのに、ミュウを抱く海人族の女性……は何故だか雫や香織くらいの少女に成っている。

 

 顔立ちからレミアなのは間違いない筈なのに、見た目が明らかに若返っているのだ。

 

「えっと、レミア……さん?」

 

「え、はい。そうですけど……あの、どうかなさいましたか?」

 

 まぁ、姿見とかで自分を見ていないと客観的には判らないのだろう。

 

「ママ……なの?」

 

「ミュウ?」

 

 首を傾げるミュウにレミアも首を傾げる。

 

 ユートは『やっちまったぜ』とか思いながらも姿見を出してレミアの前に。

 

「あら、あらあら? まぁ、これは若い頃の私でしょうか?」

 

 ミュウを抱いている少女が自分だとすぐに気付いたらしく、ほんわかした雰囲気で頬に手を当てながら呟いた。

 

「ちょっとおかしな方向性になったな。取り敢えず元に戻さないと……」

 

 ジリッと後退るレミア。

 

「えーっと、戻さないと駄目……ですか?」

 

「……気に入ったなら構わないけどね」

 

 あからさまにホッと胸を撫で下ろす辺り()()なのだと理解が出来る。

 

 今はだいたい一六歳くらいの姿らしく、本来の二四歳だった頃に比べて肌の張りやノリが格段に違い、二十歳中盤となれば曲がり角に差し掛かる訳だから小皺を気にする年代まで後少しとなり、折角若返っているなら女性であれば今の侭で居たいのだろう。

 

 単純にスキンケアで若返って見えているのでは無く、肉体そのものを過去へと溯行させた結果だから今のレミアは旦那と子作りする前にまで戻っている状態だ。

 

 だからといって過去を歪めて変えた訳ではないから、ミュウがタイムパラドックスによって消えたりもしない。

 

 レミアが結婚して初夜で初めて生娘を卒業したのなら、ミュウの年齢からして六年前に処女を今は亡き旦那に捧げた訳で、一八歳の時に仕込んで一九歳の時にミュウが産まれた計算だ。

 

 レミア自身は遊んでる感じじゃなくて、旦那とも結婚までは清い関係だった可能性もあったし、何よりこの世界の避妊方法は寸前に抜くぐらいしか無いみたいだから、下手にヤったらそれより前に妊娠をしていた可能性もあるのだ。

 

 尚、雫に調べて貰ったら確かにレミアは処女だったらしい。

 

 本人が気に入ったなら戻す理由も無いからと、ユートはその侭にしておく事にした。

 

「本当に皆様、有り難う御座います。ミュウを救い出して戴いた上に私の怪我も治して貰って更に若返らせて戴けるなんて」

 

「そっちは間違ってやったんだけどな」

 

 余波というか、力加減を間違っただけ。

 

「あの権能は刻の神カイロスをぶっぱした時に、神氣を喰らっていたから獲られたもんだからな。そもそも奴が使った際も単純に時間を溯行させて胎児より前に戻す力だったし」

 

「た、胎児より前にって……」

 

「前世持ちで前世が強力且つ凶悪だと返り討ちにされたり……とか」

 

「裏浦島か!」

 

 雫のナイスなツッコミ。

 

 因みにユートは前世持ちと云えなくはないが、今より強いかといえばそうではない。

 

 最初の頃ならいざ知らず、今現在なら間違いなく現状のユートの方が強いであろう。

 

 当たり前だ。

 

 肉体的に未熟だった時ならば単純に肉体性能が勝っていたが、今は数々の世界を経験しただけでなく前世の知識も持ち合わせている上、神殺しを成した魔王にも列せられて神の持つ権能を幾つも手に入れている。

 

 それに本来なら一つ有るだけでも破格と云える神器(セイクリッド・ギア)神滅具(ロンギヌス)を、元々の持ち主から剥ぎ取ったり転生者が獲たのを剥ぎ取ったりして一人で幾つも保有していた。

 

 まぁ、その内の二つは同時に扱うものでは無かったりするし、とある権能を使ったらそもそもが扱えなくなる欠点もある。

 

 それに有効活用しているのは精々が三つだけ、神器が存在した世界で敵対した少年から剥ぎ取った【魔獣創造】、【闘神都市】世界でユーキが見付けた転生者から剥ぎ取った【白龍皇の光翼】、同じく【闘神都市】世界に転生をしていた嘗ての分家筋の長男たる狼摩優世が持っていた【赤龍帝の籠手】くらいだろう。

 

 特に【魔獣創造】は宿した瞬間に禁手に至り、【至高と究極の聖魔獣】という亜種として顕現をしていて、デジモンのロイヤルナイツを皮切りに様々な部分で活用をしまくっていた。

 

 まぁ、宿した瞬間に禁手というのは他の神器も同じな訳だが……

 

「さて……それじゃ、そろそろメタ・フィールドも切れる頃だから御仕事を開始するかね」

 

「御仕事……ですか?」

 

「ミュウをエリセンまで連れて来たのは人情的な意味合いも勿論あるが、仕事としての側面もあったからそこら辺の報告やら何やらをやっておかないといけないし、やらないと無闇矢鱈と海人族やエリセン常駐の王国兵士と敵対する事になる」

 

「まぁ、そんな事が……」

 

 レミアからしたらユートは娘を送り届けてくれた上に怪我まで治療して貰い、剰え若返らせてもくれた大恩人だと云っても過言ではない。

 

「では私も口添えさせて貰いますね」

 

「そうしてくれると有り難いな」

 

「ではでは」

 

 そうしてレミアにより行われたのは……

 

「ええっと、つまり彼らはミュウちゃんを貴女の許へ送り届けた冒険者であり、しかも【金】ランクだと云う事ですか?」

 

「はい、相違ありませんわ」

 

 レミアがユートと腕を組み、ミュウは肩車をされて大喜びという【閃姫】から見たら絶叫したくなる光景だったと云う。

 

 実際、レミアが怪我も治って歩いているのやらミュウが懐いた状況を見て尚、ユートを海人族の子供を攫いに来た野郎だと叫べる連中など居る筈もなかった。

 

 別の意味で睨んでいるし、女性陣はレミアに新しい春が来たとか喜んでいるしで中々に騒がしかったりするけど。

 

 光の巨人に成ったのや攻撃したのはそういった技能と、謂わばあちらが行き成りシアの額を槍で刺して殺そうとした事への正当防衛と称した。

 

 それはサーチャーで録画されていたから真っ先に潰され、シアを攻撃した海人族の男は牢にぶち込まれる羽目に陥る。

 

 【金】ランク冒険者であり、フューレンの町のギルド支部長イルワ・チャングがその身分を保証しており、更には雫と香織は未だに神の使徒へと数えられていた為にか、レミアとミュウを救った

大恩人を貶めたとしては如何な王国が庇護をしている海人族とはいえ、軽い罰則くらいは喰らってしまうだろう。

 

 何より堪えたのがレミアの虫を視る目に加えてユートに御礼という頬へのキス、しかも何故だか若返っているのだから可憐な乙女だった頃を思い出させられ地獄に沈む。

 

 憐れな。

 

 ユート達への疑いは晴れ、レミアには新しい春がきたと囃し立てられた上でミュウが単なる慕うを通り越しパパ呼び、しかもユートがレミアの家に宿泊とか海人族の【レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会】とやらは議会が紛糾して荒れに荒れたらしい。

 

 哀れな。

 

 暫くの日数はレミアの家に宿泊をし骨休めをしていたが、全員が充分な休息を取った後はミュウを説得して【メルジーネ海底遺跡】へと向かうのだった。

 

 

.




 ミレディにとってもうすぐ運命の刻……



勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる

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