ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 モバスペ消滅の為のゴタゴタから一ヶ月半が過ぎて漸く先に進めました。

 取り敢えず読者様からの御厚意で【ネギま!】と【聖闘士星矢Ω】は目処が立ちました。

 【ハイスクールD×D】は現状、どうにもなりませんけど。

 ハーメルンに転載した分の一話を三分割してから聖剣までの話は戻せますが……





第69話:メルジーネ海底遺跡を征服!

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「全ては我らが神の御為にぃぃぃっ!」

 

「嗚呼、エヒト様ぁ! 万っ歳ぃぃぃぃっ!」

 

「己れ異教徒めぇ! 我らが神の為にこの場で死んでしまえぇぇぇぇっっ!」

 

 何だか目茶苦茶に酷い狂信的な場面を見せられているユート達。

 

「何つーか、気持ち悪いな」

 

「な、何なのこれぇ……」

 

 始まった立体映像みたいなそれは生々しくて、目を覆いたくなる宗教戦争だった。

 

 御互いが信じる神の為にと刃を揮い魔法を撃ち放つ姿と其処に浮かぶ狂気の笑みは、トータスに来たばかりの時に見たイシュタル・ランゴバルトが浮かべた笑みに近しい。

 

「まったく、船の墓場っぽい所に出たかと思えば行き成り船上ならぬ戦場かよ」

 

「面白くないわよ!?」

 

「判ってるさ雫、愚痴るくらい構わないだろ」

 

「や、アン! 何で行き成り盛るのよ? 此処は戦場なのよ!?」

 

「幻覚みたいなもんだ。ほらあそこでも盛っているじゃないか」

 

「……へ?」

 

 言われてふと皆が見遣れば……

 

「いやぁぁぁぁ!? 異教徒め、放せ! 今すぐに放しなさい!」

 

「うるせー! 異教徒を俺の性水で浄化して犯ろうってんだろうが!」

 

「嗚呼っ!?」

 

 確かに盛っていた。

 

 戦場では有りがちというか、斃された女騎士をバーバリアンみたいなガチ男が鎧や服を剥ぎ取りつつ、自分の下半身を露わにして醜いブツを挿入する場面であったと云う。

 

「うわぁ……」

 

 正しく美女と野獣の体である。

 

「どうせ幻覚ならそれを観ながら盛るのもオツなもんだと思うが?」

 

「んな訳がないでしょ! ちょっ、まだ盛るの? 駄目だってば! ヤりたいならせめて大迷宮探査が終わってベッドの上でぇぇっ!」

 

 尚、必死の食い下がりにもめげないユートにより三発くらいイカされた雫はげっそりと窶れてしまっており、序でに盛った他の娘までヤり抜いてある程度は満足したから探索を再開。

 

 解放者たるメイル・メルジーネが造り上げたであろう映像だったが、ユートの性欲により見なかった事にされてしまうのであった。

 

 メイル・メルジーネは泣いても良い。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 全員が見上げているそれは地球でも中々無いであろう巨大な帆船、全長は雄に三〇〇m以上はありそうで地上に見えている部分だけで一〇階建て構造になっている。

 

 船にはそこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちていても見ている者に感動を与えた。

 

 しかも木造で何百、下手をしたら何千年も前に造られたのだとしたらトータス世界も大した技術を保有していたもの。

 

「飛ぶぞ」

 

 ユートが全員を大気の結界に包んで豪華客船の最上部にあるテラスに降り立つと、やはりというべきか周囲の空間が歪みを見せ始める。

 

「ああ、またか……碌な光景じゃないだろうから、全員気を確り持つんだぞ」

 

『『『『……了解』』』』

 

 全員の重たい返事、周囲の景色は完全に変わって今度は海上に浮かぶ豪華客船の上だった。

 

 夜空に満月がキラキラと優しく輝いている。

 

 月下の豪華客船は船自体が光に溢れて甲板には豪奢な飾り付け、更には立食式の料理が所狭しと並んで人種すら違う多くの人々が豪華に過ぎている料理を口にしちつ楽しそうに談笑していた。

 

「これはパーティー?」

 

「そうみたいだね香織。煌びやかなもんだけど、此処からどう動くものやら……な」

 

 ホッと胸を撫で下ろす香織、雫や鈴も予想したいた凄惨な光景というのとは程遠いだろう賑やかな船上パーティーにほっこりし、ユエやティオは未だに厳しい表情をしていたがシアも雫達みたいに煌びやかな光景を穏やかに見つめている。

 

 幾らかの話をしているのが聴こえてきた結果、どうやらこの船上パーティーは終戦記念らしい事が判り、しかも他者殲滅とか他国侵略なんてのではなくて和平条約を結ぶものだとか。

 

「成程、だから船上で亜人族や魔人族まで笑いながらパーティーを愉しんでるって訳か」

 

「こんな時代があったんだね」

 

 香織の表情は綻んでいた。

 

「果たしてそうかの?」

 

「……ん、絶対に油断は出来ない」

 

 何も言わずパーティーを見つめていた雫と鈴とシア、そんな中でティオとユエの二人は未だに厳しい顔の侭で視ている。

 

「ティオからしたらこの場面の後が怖いか?」

 

「フフ、主殿は流石の御賢察よの。妾からすれば確かに怖い」

 

 嘗ては種族を越えた里を目指した竜人族ではあったが、いつの間にか竜人族は世界の敵にされて滅亡の一途を辿ってしまった。

 

 ティオの父母もそれで死んだ。

 

 だからこそあのパーティーみたく他種族で喜びを分かち合う姿は、ティオからしたらある意味でのトラウマを刺激してくれる。

 

「ユエはやはり戦争を経験してるからか?」

 

「……ん、私は戦争の道具として王の座に就いてたから。叔父様……は、気遣ってくれていたけど結局は私を封じてまで玉座を欲したし……」

 

 ユエはアレーティア時代に所謂、移動砲台みたいな感じで強大な最上級魔法を詠唱も無しでバカスカ撃ち放っていたらしい。

 

 敵軍からしたら恐怖しかなかっただろう。

 

 それが故にあの光景が続くなどとはとても思えずに顰めっ面となっていた。

 

「優斗も二人みたいに思ってる?」

 

「これは神代魔法を獲る試練だ。このほのぼのなパーティーを見せて何を試練とする?」

 

「ああ、そうよね」

 

「況してや、此処の担当はメイル・メルジーネだからね。ミレディ曰く――『メル姉はSっ気タップリだから気を付けてね』だそうだしな」

 

「ミレディさんの御墨付き……かぁ」

 

 嫌な御墨付きもあったものである。

 

「あれは……」

 

「どうしました、ユートさん?」

 

「シア、あのフードを見ろ」

 

「? チラッと銀髪が見えましたね……銀髪?」

 

 どうにも最近になって銀髪に余り良い想い出が無かった様な気がして、シアはパーティーの最中だというのにフードを被った人物を凝視する。

 

「な、何でしょうか? 途徹もなく嫌な予感がしてきたですぅ……」

 

「終戦の為にどれだけの人間が奔走をした事か、正しくこれは全てのヒトの偉業だろうにな。果たしてあれは終戦からどれくらい経っているのかまでは判断が出来ないが、蟠りの全部が全部消えた訳は無い。それでもあれだけ笑い合えるなんてのはこんな平和を望んだ者がそれだけ多かったんだろうに。それを汚すのがエヒトルジュエ、僕らを新たな駒として喚んだクソ神って訳だよ」

 

「あそこに居るのはその頑張った人達であろう、エヒト……否さエヒトルジュエはそんな頑張りを無にしよる」

 

「……許せない」

 

 戦争の悲惨さをよく知ってるユートとティオとユエは自然と呟いていた。

 

 暫くは晴れ晴れと平和を享受する人々を見ていたユート一行、少し経つと甲板に用意されていた壇上に初老の男が登って手を振り始める。

 

 そんな男の様子に気付き喋り合っていたヒトらはそれを止めて注目、皆の目には彼に対し一様に敬意のらしきものが見て取れた。

 

 彼の男の傍には側仕えらしき男と先程からちらほらと見られるフードを被った人物、普通にならそれは可成り失礼に当たると思うが然しながら、フードを被るその誰かについてはいずれも注意をしていないらしい。

 

 パーティーの喧騒静まり返り注目が集まると、壇上へと立つ初老の男による演説が始まった。

 

「この場に居る諸君! 平和を願って、その為に身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君よ、平和の使者達よ! この佳き日に一同に会する事が出来たのを私は誠に嬉しく思う。この長きに亘る戦争を私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来た。そして悪夢としか思えぬ戦争から今のこの光景を目に出来た事、私の心は震えるばかりだ!」

 

 人間族らしきこの王が始めた演説であったが、誰しも身動ぎ一つしないで聞き入っている。

 

「成程。和平の足掛かりとなった事件にすれ違いや疑心暗鬼、それを覆す為の無茶、道半ばで散っていった友の事もねぇ」

 

 演説には皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を押さえ涙を堪えたりと様々な反応。

 

 蟠りが無いとは云わないがやはりそんな犠牲を払ってまで漸く手にした平和、だけれどユートはこれが試練であるからには胸糞も後味も悪い展開だと気付いていた。

 

「どうやらこの男は相当初期の頃から和平の為に裏工作していたみたいだな、こうして人々が敬意を示すのも頷ける話だが……それだけにヤバい」

 

「え、どういう意味よ?」

 

 ふと言う科白に雫は驚く。

 

「すぐに判るさ……すぐにな」

 

 ユートの目はフードの誰かさんに向いた。

 

 演説も終盤に差し掛かり熱に浮かされたが如く盛り上がる国王、その場の雰囲気とて否が応でも聴いていた者らが盛り上がっていく。

 

「――こうして和平条約を結び終え一年が経って私は思うのだ…………そう、実に愚かだったとな」

 

 ユートは呟やいた。

 

「どうやら始まったな」

 

 先程まではカリスマ溢れる善王の体で話していた筈の人間族の王、然し今の彼は何やら熱に浮かされたかの如く瞳で辺りを見回す。

 

「実に実に愚かだったよ。高が獣風情と杯を交わす事も、異教徒共と未来を語る事も……正しけ愚かの極みだった。私の話を理解が出来ているのかね諸君? そう、君達の事を言っているのだよ」

 

「何を言っている、アレイストよ! いったい何がどうしたと言っ……がはぁっ!?」

 

 人間族の国王――アレイスト王の突然な豹変に、魔人族らしき男が動揺した表情で前に進み出たとおもったら胸を剣に貫かれてしまう。

 

 刺された魔人族の男は肩越しに振り返り……

 

「ば、かな……」

 

 刺したであろう人間族を見ると驚愕し表情を歪めた侭で崩れ落ちた。

 

 どうやらその人物とは因縁浅はかならぬ関係であったらしく、信じられないといった顔で逝く事になってしまったのである。

 

「へ、陛下ぁぁぁああっ!」

 

 つまりは彼も魔人族の国王だったのだろうが、先程の刺した男は気の置けない酒友か何かか。

 

 騒然となりながらも倒れた魔人族の王? らしき男に数人の男女が駆け寄った。

 

「さて諸君、私が最初に言った通り諸君が一同に会してくれた事は素直な気持ちで本当に嬉しい。我らが神から見放された悪しき種族の如きが国を作り、我ら人間と対等の心算で居るという耐え難い現状も、創世神にして唯一神たる“エヒト様”に背を向けた上に下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この佳き日に終わる! 諸君ら全てを滅ぼす以外に平和など有り得んのだからな! それ故に各国の重鎮を一時に葬り去れる今日が私は堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実なる下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ……エヒト様ぁ! エヒト様ぁぁぁぁ! この瞬間を見ておられますかぁぁぁぁっ!?」

 

 膝を付き天を仰いで涙を流しながら哄笑を上げるアレイスト王、その合図同時にパーティー会場の甲板を完全に包囲するのは見るからにザ・船員という風体から変わる兵士達であった。

 

 その後は凄惨極まりない虐殺。

 

 碌な抵抗も侭ならず斬られ抉られ焼かれていく各国の重鎮達、首を落とされたり捻られたり更には上半身と下半身が泣き別れさせられたり。

 

「うっ、げぇぇぇぇぇっ!」

 

「鈴、余り視るな」

 

 エレエレと嘔吐く鈴の顔を腹の辺りに押さえ込んで見えない様に目隠しする。

 

「ゆう君? あの、鈴……吐いちゃったからばっちいよ……?」

 

「構わん。【閃姫】は僕と共に歩む使徒であり、謂わば恋人や妻や言い方は悪いが側室や愛人や何なら妾とか兎に角、自分の女だからな。吐いたくらいで手放す心算は無い!」

 

「……あ、りがと」

 

 これを見ていたユートの【閃姫】達は一様に思った――『堕ちた』……と。

 

 実際に真っ赤な林檎みたいな頬で縋り付いている鈴、試練の真っ最中なのも忘れて温もりを感じて目を閉じてしまう。

 

 えちぃけど折りに魅せる優しさに堕ちるというのが【閃姫】達だった。

 

 事実として紛り形にも香織はハジメが好きだった筈だが、今はユートに想いを寄せてきちんと愛を育んでいる。

 

 尻軽と言う勿れ、処女の痛みを刻み付けられて何度も何度もユートの分身を胎内に覚えさせられセ○クスの快感を教え込まれて、遂にはハジメの名前を言わなくなってユートの名前でイクばかりになっていった。

 

 最初の頃は『ハジメ君ハジメ君!』と叫んでいたものだが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アレイスト王は数人の部下を伴って船内へと戻っていったが、幾人かが慌てて船内へと逃げ込んだらしいからヒト狩りでも愉しむ気なのかも。

 

 フードの人物も船内に消えた。

 

 同時に周囲の景色がぐにゃりと歪む。

 

「あの映像はさっきの狂信者染みたのを見せたかったんだろうな」

 

 頷くユート一行の【閃姫】達。

 

「取り敢えずは休もうか。魔物が出そうな気配も無いみたいだし、鈴も流石に今の侭だと気持ち悪いだろ?」

 

「うん、確かに……」

 

 ユートに受け容れられたとはいえ、吐瀉物塗れなんてのは鈴としては是が非でも遠慮をしたい処であろう。

 

「じゃあ、脱ぐね」

 

「いやいや、脱ぐって鈴は露出狂なのか?」

 

「ちょっ、何て事を言うの!?」

 

「じゃあ、何故に脱ぐ?」

 

「脱がなきゃ着替えらんないよ!」

 

 至極真っ当な事を言った鈴ではあるのだけど、ユートは困った表情てなって首を傾げた。

 

 男がやっても可愛いげは無い。

 

「そもそも着替えなんて持ってるのか?」

 

「あ゛っ!」

 

 鈴はオスカー・オルクスが仲間の魔法を用いて開発した【宝物庫】という、アイテムボックス的な便利アイテムを持ってはいないのだ。

 

 当然ながら背中に背負ったリュックサックっぽい物に入り切らず、余計な物は持っては来れない悲哀があったのは想像に難くない。

 

「どどど、どうしよう?」

 

「心配せずともちゃんと綺麗にしてやるからさ、鈴はほら……此方を向いてろ」

 

「う、うん」

 

 言われた通りにするとユートは詠唱らしきを唱えて両手を翳す。

 

「唄?」

 

 それは短いながら唄の様であったと云う。

 

柔洗浄(ソフト・ウォッシュ)

 

 水浸しだが汚れは確かに落ちた。

 

「次だ」

 

 再びの詠唱。

 

乾燥(ドライ)

 

 名前の通りに乾いていく鈴の服や下着。

 

「序でに」

 

 三度の詠唱が唄われる。

 

消臭(デオドラント)

 

 洗浄→乾燥→消臭の三段構えで鈴の吐瀉物による汚れと臭いを洗い流した。

 

 ドラクエやFFやテイルズやウィザードリィやメガテンなど、よく識る魔法の類いとは全く別の魔法に全員が驚いてしまう。

 

「優斗、さっき鈴に使った魔法は?」

 

「別の世界で覚えた生活魔法」

 

「生活魔法……確かにゲームの魔法に普通は無いわよね。ラノベ関係になら割とよく有るかしら?」

 

 強力な火力を伴う攻撃的な魔法や癒しの魔法などとは異なり、洗い物をしたり乾かしたり臭いを消したりといった生活に役立つのが生活魔法で、ユートも普通に暮らしていく上で割かし重宝していたりする。

 

 ゲームでは汚れたからと軽く水を出す魔法なんて無駄なメモリは使えないし、何よりプレイヤーが面倒臭いだけで恐らく投げ棄てるだろう。

 

 そしてクソゲー認定待った無し。

 

「今は休憩中なら訊いて良い? どんな世界で、どういう女の子達を堕としていったの?」

 

 ニッコリと微笑む雫。

 

(目が笑ってないけどな!)

 

 見れば興味津々なのか香織も鈴もユエもシアもティオも、何故か黙って聞く体勢に入っている辺り話すしか無さそうだ。

 

「簡単に言えばソシャゲのプログラマーをしている三十路男と異世界に跳ばされた。とはいえ僕と彼は別の経路で跳んだから同じ世界線で同じ時間軸の存在ながら、全く違う場所と違う時間軸へと跳ばされたからな」

 

 どちらも見た目に幼い女神が異世界に召喚をしたのは変わらないが、ユートは勇者召喚を地上に伝えた幼女神が予知にて召喚しておけば自分自身の利益に叶うと知り喚んだのに対し、彼は彼自身の前世から関わるらしい竜女神が世界線の違う彼を縒り纏めて召喚をしたのだと云う。

 

 幼女神はユートが地球で知り合った彼の幼馴染みの異時空同位体を勇者召喚していて、それ故に彼を巡る一悶着も多分にあった。

 

 ユートは元より“勇者”に余り良い想いを持たなかった為に、余計と勇者を好かない気分になるのも仕方がない話。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 一通りに語り終えて再び動き出す一行。

 

「ゆう君、あれで終わりなのかな? 私達、何もしてないんだけど……」

 

「この船の墓場が終着点だろうね。勿論、結界を超えて海中を探索も可能だろうが……深部に進むなら船内を進めさせると思う。幾らSっ気があるとはいっても意味も無く船外作業をさせんだろう。あの幻影は見せる事自体が目的だったのかもな。エヒトの狂信者を見せ付けたその上で、この船を探索させるとか中々なSらしい趣向だったよね。特にこのトータス世界の連中にとっては」

 

 聞いた話ではこの世界では人口の実に八割もの存在がエヒト教信者、残りは神の加護無き亜人族と異教の魔人族という括りらしい。

 

 因みに吸血鬼族と竜人族は亡んだ扱いであり、カウントはされていなかったりする。

 

 そして人間族に限れば九割が信仰者という頭がおかしい状態で、この世界の人々はその殆んどが高い信仰心を持っていた。

 

 本当に一般的な日本人からしたらおかしい。

 

 若しメルド・ロギンス元騎士団長辺りがこんな惨たらしい迄の、信仰心の行き着く果てを見せつけられたなら精神を相当に苛むであろう。

 

 しかもこの大迷宮は魔法が使えない状況下での試練だった【ライセン大迷宮】とある意味で真逆であり、攻略者の精神状態に作用されやすい魔法の力こそが攻略の要となる。

 

 信仰心が低い一般的な日本人だからこそ精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。

 

「私達にも問題よ。ある程度は割り切りも出来ているけど、流石にあれは鈴程じゃなくともキツい内容だったもの」

 

 雫も吐かなかったとはいえ気分は悪い。

 

「ゆう君は平気なのかな?」

 

「僕が何千年を在り続けていると思っている? あんな程度でいちいち動揺なんてしていたらすぐに殺される環境だってざらにあったよ。だからと言って平気って訳でも無いがな」

 

 ユートだって気分爽快とはいかなかった。

 

 ユート一行はアレイスター王らが進んだ道を、追い掛けるが如く進んでいく。

 

「キモいな。あれがそうなのか」

 

「さっきの光景って……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていう事なのかな?」

 

「否、あれはあのフードを被った奴が少しずつ少しずつ洗脳をした結果だろうね」

 

「へ? せ、洗脳?」

 

「ああ、リューンやノイントと闘って勝った後のお楽しみタイムで聞き出した奴らエヒトルジュエの使徒の固有技能に分解と洗脳が有るんだよ」

 

 事実としてユートには効かなかっただけで確りと分解を使っていたらしい。

 

「ティオの時……竜人族が神敵として急襲された時にも奴らエヒトルジュエの使徒は暗躍してたって話だし、節目節目で他種族で仲良くしようとする連中は数千年の中でも現れていたらしいんだが、そういうのを希望を持たせながらギリギリで絶望に落とすのを、エヒトルジュエが愉しい余興として観ているんだそうだ」

 

「何じゃと? 父上から全ては神の仕業であるとは聞いておったが!」

 

 そのやり方が陰湿に過ぎる。

 

「まぁ、神を自称する連中なんて大概がそういったものだろうさ」

 

「……実感が籠ってる?」

 

 ユエが首を傾げた。

 

「幾つか例を識っている。例えば【泡の中央界】を創ったとされる【初めに立ちし者】は支配を好みヒトの嘆きを喰らった」

 

 創った世界でヒトを虐げて負の精神エナジーを

喰らい、支配欲と食欲を同時に満たしていたというのが予測されていたのだが、【初めに立ちし者】本人がその行為について肯定をしたから間違いはなかった。

 

「また別の世界では超聖神が創造した世界に態と不和の種をバラ撒き、決して争いが絶えない様に二重三重に仕掛けを施していた。それでも人々は聖魔和合や大層の統一と平和を望んだのが癪に障ったらしく、自らが全てを無に帰して世界を創り直そうとしたらしい」

 

 争いを拒むなら用は無いと言い放った程。

 

 尤も、【初めに立ちし者】とは違ってその争いで獲られた力を自らに還元をしてその先の闘いに備えていた辺り、無意味に世界を玩具箱や遊戯盤みたいには考えていなかったのだろう。

 

「世界によってはヒトの信仰を獲るべく文明開化を赦さない神々なんてのも居たな」

 

「どういう事ですぅ?」

 

「簡単に言えばシア、僕みたいなのが大量輸送やら何やらを世界に齎らせると神罰とか言って理由も報せず一方的に亡ぼし破壊するんだ」

 

「そ、それは……」

 

 余りにも余りな話に閉口するシア。

 

「僕の生まれた世界でも神々は自らの行いを棚に上げて人間の争いを生まれた星を蝕み、宇宙すら汚す忌むべき者として『愚かだ』『哀しい』とか言い放って人類の粛清をしようと企んだよ」

 

 そもそもが神々からして自分勝手に神同士による争いを繰り返し、その争いはそれこそ宇宙に在る違う星々にまで波及をしていた筈である。

 

 単にそれを人間が真似たに過ぎない。

 

「実際にアレイスター王の事もエヒトルジュエ絡みなのは間違いない。何だか危ない感じで色々とキモい事を叫んでいたから」

 

「うん、あれはまるでイシュタルさんみたいだったよね、トリップしている真っ最中の。凄く痛々しいかったよねアレ」

 

 聖教教会の教皇サマは女子高生からイタイ人だと思われていたらしい、ユートは彼の痛々しいばかりの老人に『ざまぁ』と思ったのだと云う。

 

 ユート一行が先程の光景を考察しながら進んでいると、前方に白くヒラヒラしたものが見えたので足を止めて光を照らす。

 

 正体は白いドレスを着た女の子だったのだが、こんな場所に普通の女の子なんて居る筈が無いのだから撃ち殺すべく、暴君の魔獣でクトゥグアの弾を撃ち放ってやった。

 

 BANG!

 

 額にヒットしたその瞬間、女の子が廊下に倒れ込んだかと思えば手足の関節を有り得ない角度で曲げて、蜘蛛かと云いたくなる感じに手足を動かして真っ直ぐに突っ込んで来る。

 

『ケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』

 

 奇妙で奇天烈な笑い声が廊下に響き渡り前髪の隙間から炯々と光る眼が、まるでどっかの都市伝説みたくユート達を射抜きながら迫って来た。

 

「嫌だあああああああああああっっ!」

 

 キモく恐ろしいという光景を見た鈴が絶叫を上げて頭を抱える。

 

「死んどけ、メラ!」

 

 ユートが小さな火球を指先から放つとキモいだけの存在にあたり……

 

 轟っ!

 

『ギエエエエエエエエエエエエッ!?』

 

 全身を巻き込み天井にすら至る火柱となって、ソレを一気呵成に焼き尽くすのだった。

 

「あれ、メラゾーマじゃないわよ!?」

 

「今のはメラゾーマではない………………メラだ」

 

 一応、そう進言していた筈なのに何故か雫からは全否定をされてしまう。

 

「あのぉ、メラとかメラゾーマって?」

 

 余りの酷い炎に驚いて若干ながらチビりそうになったシアが、小さく右手を挙げながら代表をするかの様に質問をした。

 

「此処とは違う世界で賢者に成った僕が修得していった呪文体系、火球呪文と呼ばれるメラってのは最初に覚える最初級呪文で、メラゾーマってのは二番目に強い火球呪文」

 

「因みに一番目は?」

 

「メラガイアー」

 

 尚、ユートはDQⅢの時点で最上位呪文修得をしていたりする。

 

「同じ呪文でも魔力資質や魔力強度や魔力容量、それによって威力も範囲も桁違いになるんだ」

 

 大魔王バーンは魔力容量についてのみ言及をしていたが、それだけでは其処までの差を出す為にはそれこそ莫大な量を必要とする筈。

 

 例えば一つの魔法に10のMPが必要であった場合、強度が1ならば10の消費の侭になる処であるのだろうが、強度が2となると消費は5に減る……逆説的に10の消費で威力は倍になる。

 

 質が上がればこれらがより顕著となるだろう、大魔王バーンは正しく質も量も強度も高い反則級の魔力の持ち主だった訳だ。

 

 ユートも流石に未だバーンには及ばないけど、通常の魔術師の数百倍ともされる呪力を持つと云われるカンピオーネありで、しかも元々の量も質も強度もそこら辺の魔術師を凌いでいた為にか、本当に大魔王バーンにも迫る勢いで強化というか凶化されてしまっている。

 

 故にある程度は大魔王バーンごっこに興じる事が可能なくらい余裕を持てた。

 

 メラガイアーでカイザーフェニックスを撃てるのだから相当であろうし、その気になればそれこそフェニックスウイングやカラミティエンドなんかも放てる筈だ。

 

 世の中では星をドッカン出来ないと弱いみたいな風潮があったりするが、そんな莫迦な話は無いというのをユートは経験則から識っている。

 

 例えばの話で地上という【蓋】を破壊するのに黒のコアを使った大魔王バーンと、かめはめ波の一発で月を消し飛ばした亀仙人では果たしてどちらが強いのか?

 

 言わずもがな大魔王バーンである。

 

 つまりはそういう事だ。

 

「メラガイアーが使えるんだ。だったら他のも使えたりするの?」

 

「雫が言ったのはイオグランデ、マヒャデドス、バギムーチョ、ギラグレイドの事か? それなら使えるぞ」

 

 今までに最高位だった呪文の一段階上の呪文、これまではメラゾーマ、マヒャド、イオナズン、ベギラゴン、バギクロスがそれだった。

 

 無論、ドラクエⅢで賢者だったユートはそれらの全てを修得しているし、何なら勇者の呪文でさえも使い熟す事を可能としている。

 

「使う時は気を付けてね」

 

「判ってるよ」

 

 メラガイアー以外は基本的に範囲攻撃であり、下手に使うと味方を巻き込んでしまうから。

 

 先に進めば進む程に怪奇現象系が増えていき、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うとその扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たったからと天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いて見下ろしていたり、何かしら引き擦る音が廊下からしたかと思ったら生首と斧を持った男が現れ迫ってきたりとホラーとしか思えない出来事で一杯。

 

 殆んどはユートが閃熱呪文で撃ち抜いたり蹴りを放ったりで破壊したが、いい加減で精神的には

危なっかしくなっている少女()が一人。

 

 鈴は歩きながら涙目で香織に訊ねる。

 

「ねぇ、カオリンってああいうホラー系とかって苦手じゃなかったっけ?」

 

「ああ、何だか荒事に慣れちゃったからかな? 平気じゃないけど大丈夫になったみたい」

 

「そ、そうなんだね」

 

 香織とて元々が苦手なホラーを平気になっている訳ではないにせよ、色々な経験によりいつの間にか我慢が出来る様になったらしい。

 

「うう、鈴も頑張るよ」

 

 反面で鈴はホラーが苦手な訳ではなかったが、やはりリアルに視るのとはまた別物だった。

 

「やれやれ、此処の……【メルジーネ海底遺跡】の創設者たるメイル・メルジーネってのはとことんまで精神的に追い詰めるのが好きらしい。流石はミレディが引き攣りながらSだと言うだけある」

 

「ゆう君は平気なの?」

 

「積尸気を使う僕が死霊を恐れてどうするよ? 何より僕は死後の世界たるハーデスの冥界を運営してるんだぞ」

 

「積尸気? ハーデスの冥界って? 聖闘士的なやつなの?」

 

「鈴は女の子だし、原作が発表されたのはそもそもが一九八〇年代だからな。知識として知らないのも無理は無い。寧ろ識っていた雫や香織がアレだったんだろう」

 

「「アレって何!?」」

 

 何だかアレ呼ばわりされて二人は声を揃えての抗議をしたものだった。

 

「鈴も一応は聖闘士星矢くらい識っているけど、其処まで詳しい訳じゃないんだ」

 

 始まりは西暦一九八五年の昭和六〇年の事で、平成生まれの鈴が仮に識らなくてもそれは無理からぬ事だが、西暦ニ〇一二年にはアニメ的続編に当たる【聖闘士星矢Ω】を放映しているから見聞きをしていてもおかしくはない。

 

 因みにユートも平成生まれだけど、男だったから普通に週刊少年ジャンプは読んでいた訳だし、聖闘士星矢に興味を向けて古本を読んだり新刊として新装版を読んでもいた。

 

 寧ろ好きな漫画だったからこそハルケギニアでも【聖衣】なんて魔導具を造り、一ニ宮騎士団を組織して運営を行ったりしていたのだ。

 

 しかも一ニ宮騎士団は【魔法少女リリカルなのは】な世界でも運営したし、あの世界のギリシアには本営となる聖域すら構築をしている程。

 

 というより、やり過ぎなレベルで冥界には何と黄金聖闘士だった者達が住んでいる。

 

 ユートの冥界のエリシオンはハーデスの頃とはまた別物で、タナトスがニンフと戯れていた様な花畑みたいな場所も在るには在るが、ある程度は黄金聖闘士の希望を聞いて構築してもいた。

 

 例えば牡羊座のムウは聖衣修復や製作がやり易い様に、神鍛鋼やガマニオンや銀星砂が手に入り易い鉱山が有る場所を希望してきたから近場には鉱山を創っている。

 

『はぁ、昔は少ない在庫をどうするべきか考えるのも大変でしたのにね』

 

 ムウは三種類だけでなく他の神の闘士の闘衣の素材まで無限に産出する鉱山を目の当たりにし、呆れるやら喜ばしいやらどう言えば良いのか判らない複雑な表情であったと云う。

 

 元より無限とも云える汎暗黒物質を【創成】により物質化が出来るが、権能により冥界を構築したのはそれすら越えた謂わば擬似的世界創造とも云うべきものだった。

 

 金色の女王と白痴の女王から祝福をされていたが故に、人間という矮小な存在から考えれば有り得ない力――汎暗黒物質を自在に操る能力を得られたユートだからこそ、権能にこの力を足す事によって可能だった冥界の構築である。

 

 ユートの場合は権能にせよ神器にせよ持っている某かが干渉してパワーアップしていた。

 

 冥界を創る【冥王の箱庭の掟(ヘル&ヘブン)】は先に述べた通りだし、神器の【聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)】とアーサーの剣の竜骨がユートの後付けで得た権能の【麗しの騎士王(アルトリア・ペンドラゴン)】と連動をした結果、やはり権能がパワーアップをして本家本元? 的なアルトリアのエクスカリバーやカリバーン処か【最果てにて輝ける槍( ロンゴミニアド)】まで扱える様になっている。

 

 ものの序でに遺された竜骨たる鞘と鎧の呪力を取り込んでしまったから鞘で【全て遠き理想郷(アヴァロン)】を得て、鎧で一ニ人の――ユートを含めて一三人の円卓の騎士を構築してしまえる権能になった。

 

 

 閑話休題

 

 

 

 更に先に進むユート達。

 

「アレイスト王やフードは完全に見失っているにせよ漸く船倉にまで辿り着けた訳か」

 

 鈴が役に立てないという重圧下に在る所為か、すっかり弱気になってしまっていて困った。 

 

 そもそも鈴は仮面ライダーの力を得るべく付いてきたのであり、少なくともユートが好きだから付いてきた訳では決して無くて、力を得る対価としては仕方がないと身内にして貰うべく抱かれただけである。

 

 そう考えるとビッチっぽくなるかもだけれど、某勇者(笑)の暴挙から傍に居るのは躊躇う。

 

 ヤられる事は同じでもせめて自分の意志で抱かれる相手くらい選びたかったのだ。

 

 だけど存外に優しくされて気持ちが良かった、酷い目に遭うかもと思っていたから意外だったのもあるし、脳内にユートの囁きが染み渡るのが余りにも心地好く聴こえたのである。

 

 香織と雫がユートに付いていく気になったのも納得したのと同時に、若しユートの興味が離れたら捨てられるかも知れないと怖くもあった。

 

 殊更に媚びてしまったかも知れないけど終わった後は愛しいと感じていたし、香織が呼ぶみたいに『ゆう君』と鈴も呼んでいる。

 

 愉しいと感じていただけに捨てられて今を喪いたくはない、まるで天之河グループが音を立てて崩壊してしまったかの如く喪失感はもう要らないのだから。

 

 まさか仮面ライダータイガになっても余り役に立てないとは思わなかったし、それで役立たずと罵られたら生きていけないくらい好意を懐いてしまっていた。

 

 鈴が項垂れているとまたもや異常事態が発生しだしたらしく、急に辺りを濃い霧が立ち込め視界を閉ざし始めている。

 

「鈴、聖絶だ!」

 

「にゃ、は……はいぃ! ここは聖域なりて 神敵を通さず――【聖絶】っっ!!」

 

 ユートの言葉で反射的に光のドームを展開させたその瞬間、ヒュッ! という風切り音が鳴り響いて霧を切り裂き何かが飛来してきてドームへと当たって弾かれる。

 

「へ?」

 

 間抜けな声を上げる鈴の頭を乱暴に撫でてやりながら……

 

「よくやった!」

 

 鈴がきっと欲しかった言葉を伝えてやった。

 

「首の高さに合わせた極細な糸とかマニアックなトラップを!」

 

 光の膜たるドームに弾かれたのは糸、下手をしたら首がポトリと逝く致死性の物理トラップ。

 

 更に留めど無く連続で風を切る音が鳴り響き、今度は四方から八方から箭が飛来してきた。

 

「中々に嫌らしいね、解放者はっ!」

 

 ユートは刀を揮って箭を叩き落とす。

 

「飛び道具は神鳴流には効果が無い!」

 

「優斗って緒方逸真流って言ってなかった?」

 

「神鳴流も詠春さんから一年間くらい習っているから問題は無い」

 

「そ、そう……」

 

 雫もまさか一年間で一つの流派に堪能とか思えなかったが、ユートは無為な嘘は吐かない筈だから一応は修得したのだろうと思った。

 

 ユートは原典を識らない。

 

 だから香織と鈴の役割が入れ代わったかの如く進んでいたのも識らなかった。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

「暴風?」

 

 原典で香織が居た位置に偶々居た鈴が暴風に煽られてしまい、悲鳴を上げながら鈴は暴風により吹き飛ばされてしまった。

 

「ちぃっ!」

 

 舌打ちしながら走る。

 

 ユートは正確に鈴の位置を把握していた為に迷い無く突っ切っていると、今度は前方の霧を切り裂いて長剣を振り被る騎士風の男が襲い掛かってきたのを刀の鞘で受け止めた

 

「人の女に手ぇ出して無事に済むと思うな!」

 

 往なしたと同時に身体をクルリと回しつつ後ろへと回り込み、騎士らしき男の腰を横薙ぎにして上半身と下半身を泣き別れさせる。

 

 だが直ぐにも同じくらいの技量を持つであろう剣士や拳士や弓士など、も様々な武器を持っている武闘派の者共が霧に紛れて襲い来た。

 

「面倒臭いな……【緒方逸真流宗家刀舞術】が奥義の一つ――【颯真刀】!」

 

 それは修得する為に死に掛ける必要があるとされる奥義の一つ、名前は漢字こそ当て字みたいになっているが走馬灯という刹那で振り返る自身の人生を意味している。

 

 走馬灯は死に至る瞬間に脳内物質の過剰分泌により極限まで思考が加速され、ほんの一秒にも満たない時間で記憶の波が夢現に押し寄せる現象。

 

 ならば加速した思考に併せて肉体を動かせるのならどうか? 思考は電磁的パルスとなり肉体にも作用をするから不可能ではない。

 

 走馬灯を視る刹那を駆け抜ける奥義こそがこの【颯真刀】であった。

 

 五〇体に近い戦士の亡霊達ではあったものの、ユートにより一秒と経たず消滅させられた。

 

 更に大剣を上段にふり被る大男が現れたけど、『弐真刀!』……チンと刹那の刻に二回攻撃をする奥義により首チョンパされてしまう。

 

 こいつは抜刀術の一種で、抜刀と納刀の動作を二回分の攻撃にして本来は超近接戦闘で二人の敵の首をチョンパする技。

 

 【緒方逸真流】の創始者である緒方優之介も、戦国時代の倣いとして戦場(いくさば)に立ち首チョンパしていたものだった。

 

「鈴、返事をしろ! 鈴っ!」

 

 ユートが鈴の気配を元に探索を行うものの変な気配が重なっている。

 

「此処だよ、ゆう君!」

 

「……鈴」

 

 鈴が微笑みを浮かべながらユートに近付く。

 

「もう、すっごく怖かったよ」

 

「そうか……」

 

「うん、だから慰めて欲しいんだ」

 

 背丈が低いから鈴は爪先立ちになりながらも、ユートの首に腕を回して抱き付くとゆっくり唇を重ねるべく近付けてきた。

 

「随分と見縊られたものだな」

 

「え?」

 

 チャキッ! 刀の刃が鈴の首筋に当てられたのに気付いて離れる。

 

「ど、どうして?」

 

「愚かな、全て視えているんだ。鈴に取り憑いた悪霊が! 積尸気使いを舐めるなよ!」

 

 看破された鈴……に取り憑いた女の亡霊はニヤッと口角を吊り上げる。

 

「アハハ、それが判っても貴方にはどうする事も出来ない……もう、この女は私のものよ!」

 

「言ったろ、積尸気使いを舐めるなと! 流石に本家本元なデスマスクやデストールやマニゴルドには劣るが……な」

 

 ユートは右腕を天高く掲げて人差し指をピンと伸ばすと燐気を収束していく。

 

「ま、待ちなさい! 何をするのよ? この女はアンタの女でしょ! 傷付ける心算なのッ!? そもそも私が消滅すればこの女の魂も壊れてしまうわよ? それでも良いの!?」

 

「消滅? 単に消滅が出来るなんて思うなよな。こちとらは積尸気使いだと言ったぞ」

 

「な、何を!?」

 

 燐気が最高潮にまで高まった。

 

「積尸気冥界波ぁぁぁぁぁっ!」

 

「ば、莫迦な!? 複雑に絡み合っている筈の私と小娘の魂が一つ一つ解されていくぅぅっ?」

 

 積尸気冥界波――蟹座の黄金聖闘士デスマスクが使っている蟹座の奥義、勿論ながら過去の蟹座のデストールやマニゴルドも使えた技だ。

 

 敵の魂を黄泉津比良坂へと送る一撃死な技で、喰らえばエターナル・フォース・ブリザード的に相手は死ぬ……仮死だから黄泉の穴に落ちるまでは生きているけど。

 

 余程の強者でもなければ抗う事など出来ず魂が肉体から引き剥がされるのみ。

 

「その存在は、今この時を以て滅びるが良い! 積尸気魂葬波!」

 

 スドォォォン!

 

『グギャァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』

 

 特に何かを破壊するでなく無意味に魂を爆発させる奥義で、亡霊の魂は悲鳴を上げて散々になり消滅してしまう。

 

「お前は意味も無く只消え失せろ」

 

 霊的な存在を爆発させるが故に最早、亡霊など転生も叶わぬレベルで滅びたのである。

 

「貴様の魂に幸いは要らない、平穏も災いも要らない……虚無へと還れ」

 

 金色の御許ですらない無限の虚無へ……

 

「鈴」

 

「ん?」

 

 ユートが唇を重ねると鈴が目を覚ます。

 

「な、何で鈴ってばゆう君にキスされてんの? これっていったいどういう状況!?」

 

「魔力による気付けだ。それとも背中から喝を入れて起こして欲しかったか?」

 

「キス……で、良いです……」

 

 鈴は恥ずかしそうに言ったものだった。

 

「んんっ!」

 

「お前はもう僕のモノだ、誰にもやらないし手放してもやらん。お前の唇も胸……はいずれ子が生まれたら譲るが、膣なんかもう僕のブツ以外は受け容れさせてやらない」

 

「は、恥ずかしい事を言わないでよ……鈴だけじゃない癖に……」

 

「僕は七つの大罪の殆んどを網羅しているから、

沢山を欲しがる癖に独占欲も強いのさ」

 

「……地獄に堕ちるよ?」

 

「死んだら即転生するし、そもそもにして死後の世界たるあの世――ハーデスの冥界は僕の領域さ。エリシオン以外に僕は逝かない」

 

「ず、ずっこい! ゆう君ってずっこいよ!」

 

「鈴が死んでも肉体を与えてエリシオンに迎え入れてやる。宇宙が滅びても永劫に愛してやるから覚悟して僕のモノで居るんだね」

 

「な、何て殺し文句……鈴だけじゃないのにお腹がキューッてなっちゃうよ~」

 

「じゃあ、さっさと遺跡をクリアしてベッドへ行こうか」

 

「う、うん……」

 

 もう一度、ユートは鈴の唇を奪ってやる。

 

「んんっ! ぷはぁ!」

 

 鈴は『もう逃げらんないよ』と頬を紅く染めながら女の子座りをしていた――股座を女の子の液体でネットリと湿らせて。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「まったく、今から始めるんじゃないかってヒヤヒヤしたわよ」

 

「ごめーん、シズシズ」

 

 とはいえ御股は湿っていて気持ち悪い。

 

「取り敢えず行くぞ」

 

 ユートの号令に頷く一行。

 

 抜けた先で淡い光が海面を照らしそれが天井に揺らめく波を作り、その空間には中央に神殿の様な建造物が存在している。

 

 四本の巨大な支柱に支えられ、支柱の間に壁は無くて謂わば吹き抜けになっていた。

 

 中央に有る祭壇らしき場所にはとても緻密で、更には複雑な魔法陣が描かれている。

 

 神殿の周囲は海水で満たされて、海面に浮かぶ通路が四方に伸びて先端は円形になってその円形の足場にもまた魔法陣が描かれていた。

 

 四つの魔法陣が爆発的に輝いて幾人かの人影が顕現、即ちユートと【閃姫】のパーティがこの場へと到達したのである。

 

「あれは魔法陣か、どうやら攻略したみたいだ。手間を掛けさせられたけどな」

 

「……ん、色々とキツかった」

 

 ユエが肯定をする。

 

「う~ん、ラスボスが待ち構えているかと思ったんだけどな」

 

「雫ちゃん?」

 

「だって、今までの大迷宮ではオルクス大迷宮でヒュドラでしょ? ライセン大迷宮でミレディゴーレム、グリューエン大火山では名前は付けてないけど莫迦みたいな数の魔物。だから此処でだってもう一悶着くらいあるかなってさ」

 

「ああ、確かに」

 

「……んん、ちょっと楽?」

 

 始めから大迷宮を攻略してた雫と香織とユエはヒュドラから始まるボスに辟易していた。

 

「いえ、此処も充分ですからね?」

 

 シアはウサミミをフリフリしながら言う。

 

「主殿よ、此処はシアの言う通りで充分に大変な場所だったぞよ。海底洞窟も普通はあんな海水を潜る船なぞ有りはせぬし、クリアするまで可成りの魔力を消費し続けるのじゃよ。普通の者であれば大概は溺死よのぉ」

 

 シアに追従をするティオはいつになく真剣なる面持ちで語った。

 

「あのクリオネみたいなのは有り得ないくらいの強敵だったしね」

 

「それに亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないからまた魔力頼りになる。ゆう君は刀に魔力を纏わせていたから簡単に見えたけど、あんなに大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ? 難易度は間違いなく高かったよ!」

 

 うんうんと頷く雫と香織。

 

「ま、終わった事だな。それにレミアやミュウの容姿から性格は兎も角、メイル・メルジーネには期待をしているんだよね。オスカー・オルクスみたいな映像を遺してくれていると嬉しい」

 

「優斗らしいと云えばらしいけどさ」

 

「あはは……」

 

 雫の言葉に苦笑いな香織。

 

「そもそも、この世界の人だったら信仰心が強いだろうからあんな狂気を見せられたら……ね」

 

「狂信者でもないとキツそうだよな」

 

 例えばイシュタル・ランゴバルト教皇みたいな奴なら、寧ろ嬉々として『神よ神よ』と気持ち悪い表情で恍惚としそうだし、メルド・ロギンスの場合は目を逸らしたくなるのではなかろうか?

 

「それじゃあ、魔法陣に入ろうか」

 

 神代魔法を得る手法は変わらないから魔法陣に入れば頭を走査され、合格基準に到達していると認められたら頭に刻み込まれる形だ。

 

「何だこりゃ?」

 

「似た様な場面が延々と垂れ流しね」

 

「ひょっとしたら本来は別れ別れにされて各々が試練を受ける筈だったのかもな」

 

「ああ、期せずして私達は一緒に居たからか」

 

 どうやら別れ別れになって経験したモノを見せる筈だったらしいが、ユート達は普通に全員で居たからか意味は無かったみたいである。

 

「で、再生魔法だ」

 

「これでハルツィナ樹海も行けますね」

 

 ユートの言葉に頷いたシア、やはり故国であるフェアベルゲンに在る大迷宮だからか気合いが入っている様子。

 

「あれ? 祭壇か何かかな?」

 

 香織の視線の先に現れた直方体の祭壇から光が溢れて映像を結び、エメラルドグリーンの綺麗な髪の毛を長く伸ばした美しい女性が顕れた。

 

「メイル・メルジーネ……か」

 

『貴方の名前を教えてくれるかしら?』

 

 グリューエン大火山の時と同じ質問であるなら答えは決まっている。

 

「ゼロワン……だ」

 

『どうやら私のもう一人の妹ときちんと出逢えたみたいで嬉しいわ、ゼロワン』

 

 恐らく名前を言うとそれに反応して先の映像が切り替わる仕組み、何気に高度な絡繰りではあるのだが造ったのは錬成師にして生成魔法の使い手――オスカー・オルクスだろう。

 

 最初の話の内容はオスカー・オルクスと丸被りだったから聴かなくても良かった。

 

『……どうか神に縋らないで、頼らないで欲しい。与えられる事に慣れないで、掴み取る為に足掻き続けて。己の意志で決め、己の足で前へ進んで。どんな難題でも答えは常に貴方の中に有るのだし貴方の中にしか無い。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志の許にこそ幸福は有る。貴方に幸福の雨が降り注ぐことを祈っています』

 

 Sとは思えない優しい表情で誰しも見惚れそうになる微笑みをを浮かべ、穏やかな口調はまるで小鳥か何かの囀ずりにも似ていて歌姫と云われても納得しそうな声音だった。

 

『そしてゼロワン、貴方には私達の全てを託したいと思います。勿論ですがそれをどうするかは、貴方の自由の意志の許に決めて構いません。願わくは本当の意味で貴方に会いたいとは思います』

 

 祭壇がパカリと割れて出てきた水色を基調としたプログライズキー。

 

 ユートはゼロワンドライバーを腰に装着してからライズスターターを押す。

 

《REVERSE!》

 

 オーソライザーに認証させた。

 

《AUTHORIZE!》

 

 そして装填。

 

《PROGRIZE……MAEL MELUSINE!》

 

「やっぱりメイル・メルジーネの魂が五割だな。それで他の【解放者】の魂は一割程度か」

 

 どうあれ、【メルジーネ海底遺跡】を皆無事にクリアする事に成功したユート。

 

「戻ろう、ミュウとレミアが待つエリセンに」

 

 それは正しく凱旋であったと云う。

 

 

.

 

 

 




 ちょっと長めでしたが、メルジーネ海底遺跡を一気に終わらせたかったのと一応は少しずつ書いていたのをくっ付けた為です。

勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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