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「な、何なのよこの雨は!?」
「さてね、トラップなのは確定だが」
火精障壁により完全に阻まれて蒸発をしている雨は、障壁の無い部分には普通に地面へと落ちて濡らしている。
それをユートは掬って視た。
ユートの【神秘の瞳】ならだいたいの組成などが視て取れる筈だから。
「純粋な水じゃなく粘液、しかも乳白色とはまた狙った感じだよな」
「ゆう君、何か判ったのかな?」
「取り敢えず、このトラップを仕掛けたリューティリス・ハルツィナは底意地が悪そうだ」
「へ?」
「香織、自分に……雫の方が判り易いか? そうだな雫の全身を乳白色の粘液が汚した姿を想像してみると良い。割と見覚えがあるだろう?」
ポックポックポックポックチーン!
古典的な思考で思い至ったらしい香織は顔を真っ赤に染めてしまう。
実際にユートとベッドに行けば高確率で白濁とした粘りの強く熱い液体が、香織やシアや雫といった面々の肢体を汚しているのだから。
あのヌメヌメッとした乳白色の粘液が女の子に掛かるのが絵面的に宜しくないのは理解した。
「序でに言えばどうやら成分の中に媚薬が含まれているみたいだな」
「びっ、媚薬ぅ!?」
驚愕する雫はやはり顔が赤い。
「若し掛かっていたらきっとムラムラしていたんだろうな……天之河が」
「な、何で俺だけなんだ!?」
「雫達にはバッドステータスに対抗策を持たせてある。僕にバッドステータスはそもそも効かないとなれば、媚薬の効果を受けるのはさて? 誰だけなんだろうな?」
【閃姫】契約をした時点でユートとほぼ同じだけの寿命と強力無比な耐性を獲ており、彼女らは不老長生を手に入れているしデバフ系のダメージも殆んど受けない、これは契約の謂わば
アイテムも貰っているが単なるアクセサリーに近く、役立つのは【異物排除】の効果による病気や花粉症や
「ぐっ! だったら俺にもそれを!」
「僕が力を与えるのは身内だけだ。天之河は単なるクラスメイトに過ぎない上に、お前はいったい何度敵対してきたと思っているんだよ?」
「それは……」
「身内以前に敵、そんな奴が僕の造るアイテムを貰えるとかマジに考えてんのか? 最早、頭ん中が沸いてるとしか思えんな」
「なっ!? し、失礼だろ!」
「礼を失するのがライフワークのお前にだけは言われたくないね」
「く、緒方ぁぁぁっ!」
叫ぶ天之河光輝を相手にする価値も無いと考えると無視して進む、取り分け急いでいるとまでは云わないものの何があるか判らないのだから。
それに天之河光輝が礼を失するというのも半ば本心であり、その実態は自分の嫌う――本人は頑として認めないが――相手に対するものである。
流石にメルドなど目上や友人知人には普通だから至極判り難いが、ユートやハジメへの態度を視れば意味も理解が出来るからか雫と香織と鈴は確りと頷いていた。
「ふむ、火精障壁に降り注いだ乳白色の粘液の方は蒸発しているけど、それ以外の場所に落ちたのは普通に地面を濡らしているよな」
「待って、樹とかあちこちから似た様なモノが滲み出てきてるわよ!」
「スライムだな」
樹々や地面などから乳白色のスライムが滲み出てきており、更にはそいつらがグワッと拡がる様に襲い掛かってきた。
「燃えろ」
ユートの言葉に反応してスライムが行き成り燃え上がる。
精霊術師は炎術師としての力だ。
「この世界の精霊はアクセスし難いけど時間さえ掛ければ集められるからな」
世界には小さな……意思こそ持つが意志を持たない小精霊、更にははっきり意識をもっている精霊主という精霊達が存在している。
ユートは周りを視て焼き尽くすしかないだろうと判断をしてその為の準備を行う。
「コール、サイバッスッタァァァー!」
それは【ヒーロー戦記~プロジェクトオリュンポス~】的なパワードスーツのサイバスターで、
流石にシロとクロの意識は登載されていないけど武装はきちんと装備されている。
「サァァァァイフラァァァァッシュッ!」
放たれたのは敵と味方を識別せる機能を持ったMAP兵器――サイフラッシュ。
ユートは【魔装機神】が好きだからか、それを
モデルにした機体をよく造っている。
【機神咆哮デモンベイン】の世界で魔装機神という機種で、【異世界はスマートフォンとともに】の世界ではフレームギアという機種でだし、【ナイツ&マジック】の世界では幻晶騎士という機種であったが……
このパワードスーツっぽいのもそうだ。
元々はマチルダ・オブ・サウスゴータが着込むゴーレムだったの物を更に拡大させ、様々な機体のパワードスーツっぽい物を造っていた。
発想としては【魔獣創造】の保有者が創造する魔獣は強くとも、保有者本人が弱ければそれを突かれてしまうから魔獣を着込むというのと同じ、仮面ライダーへの変身はその答えの一つ。
ユートはハルケギニア時代でのゴーレムから、その対策を練っていたに過ぎない。
直ぐにサイバスターを解除したユートは新たな攻撃をするべく炎の精霊を集束、召喚をするべきは炎術の最高峰たる
現世には原則として存在し得ない三昧真火を、ユートはその手の内へと召喚したのだ。
「百邪を討つ為、四神の力を今此処に! 龍虎河車、雀武周天! 召還、兜率八卦炉!」
ユートは陰陽法を以て更に火力を引き上げると詠唱を詠む。
「乾! 兌! 離! 震! 巽! 坎! 艮! 坤! 精霊術が最高奥義、四神真火八卦陣!」
顕現させた法陣は飽く迄も増幅の為だが対象となる敵を封じ込める力もあり、ユートはこの法陣を樹海全体に拡大して全てを対象とした。
ユートの背中には三昧真火にて形作られた翼が生え、一千五百万度という太陽の中心核並の炎の塊となり浮かび上がると、法陣へと向けて翼から羽の如く焔が放たれる。
炎の精霊神の力の真髄は完全なる破邪。
自らの意志の力を以て燃やすべきモノとそうでないモノ、これを完全に分けて対象となる存在のみを焼き尽くす正しく破邪顕正の力。
「征ぃぃぃぃぃぃっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええっっ!」
ユートが燃やすべきはこの空間に存在していて更にあちこちに隠れる乳白色のスライムであり、神炎すらをも凌駕する三昧真火は法陣により増幅されて全てのスライム焼き滅ぼした。
それでいながら周囲の樹々にも【閃姫】にも、序でに+αな天之河光輝にも一切の焦げ痕すら付けないでいる超越技法。
昔はこれをやるのに炎術師の大家たる神凪家から巻き上げ……もとい、取り戻した炎雷覇を界放させなければ難しかったが今なら素で可能だ。
抑々にして炎雷覇は八神和麻の嫁たる翠鈴へと与えたから持っていない。
レプリカ以外は。
「な、何なのよこれは……」
流石に雫も絶句したいくらい驚く。
「今の技って確か真・龍虎王の?」
ゲームに割と詳しくなった香織はそれが即ち、【第三次スーパーロボット大戦α】にて登場した真・龍虎王の技だと気付いた。
「ちょっとしたネタ技ではあるけど威力は見ての通り折紙付きだ」
降りてきたユートが言う。
天之河光輝は呆然自失となっていたがどうでも良いからシカト、はっきり云えば魔法能力がこの中で最も高い【閃姫】のユエですら言葉が出ないくらいに驚愕をしていた。
ネタ技とは言うが、ユートは【第三次スーパーロボット大戦α】を経験をしているから当然ながら真・龍虎王の技も見知っており、視たなら再現をする事も可能な【
勿論、ユートと真・龍虎王ではサイズが違うからそこら辺は変わってくるけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
天之河光輝は混乱していた。
(な、何なんだ今のは!? 魔法? 精霊術だとか何だとか……彼奴は――緒方は無能な錬成師じゃなかったのか? それなのに!)
ユートの力を散々見ていながら尚もこんな事を考えている辺り最早、御都合解釈主義というよりは病気なのではなかろうか?
(緒方は卑怯な力を使って俺に掛かってきたんじゃないか! それが何も使わないであんな莫迦げた攻撃を放つだって? 天翔閃は疎か全力全開の神威ですら意味を持たない!?)
未だに認めようとしない天之河光輝はギリッと奥歯を噛み締める。
(くそっ! 俺は……俺が……勇者なんだ!)
嫉妬と憤怒と傲慢……七つの大罪の内の三つが、天之河光輝の精神を支配していたという。
まぁ、序でに云えば女が欲しいと色欲を、称賛が欲しいと強欲を、更には思考を停めて怠惰まで支配していたから厄介な事この上無い。
しかも本人に自覚無し。
処置無しと雫も香織も幼馴染みを解消したくなるくらいであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さ、進むぞ」
障害も排除された事だし先を促す。
ユートに促されて雫達も歩を進め始めるけど、天之河光輝だけは何故か動こうとはしない。
「天之河、遣る気が無いなら置いていくからな。坂上も学校で言っていたろ? 『遣る気の無い奴にゃ何を言っても無駄だと思うがな』ってねぇ」
「っ! 遣る気なら充分に有る!」
「なら、とっとと歩けや愚図勇者(笑)!」
「わ、判っている!」
天之河光輝はやけに不満そうな顔で叫ぶと漸く歩き出した。
「やれやれね」
「光輝君にも困ったものだよ」
「何でああなっちゃったんだろうね?」
雫も香織も鈴も学校での天之河光輝と丸っきり違うからか、呆れ果ててしまっている様子がありありと見て取れる。
それが聴こえてくるから更に天之河光輝の苛立ちが弥増す結果に。
そんな天之河光輝の心情は知った事では無かったユートは先々と進み、渋々ながら置いて行かれては堪らないからと歩き始める天之河光輝。
先の乳白色スライムなトラップ以降は特に何も妨害は無く、正に順調そのものでユート達と+αの歩みは進んでいく。
因みにユートは興味本位で乳白色のスライムを
幾らか採取しており、折角だからこいつから分離した媚薬を誰かに使ってみようと可成り邪悪なる考えを持っていた。
何より物さえ手にすれば媚薬も自分で増産など容易く出来る。
「着いたな」
巨樹の許に辿り着くと前回同様に巨樹の幹に祠が現れたから入ると、思った通り入口が塞がって密室となったと思えば転移魔法陣が輝いて一行を何処かへ転移させた。
視界を焼く凄まじいばかりの白光が消えると、其処は先程の巨樹の祠と変わらない場所。
「あれが出口みたいだ」
唯一の違いは出口の存在。
見回してみたが欠けた人員は無く――非常に残念ながら天之河光輝も居た――て、偽者が入れ替わっているという二番煎じも無かった。
「中々に壮観だねこれは」
「……フェアベルゲンみたい」
ユートとユエが出口から出てからの感想を口にすると、全員が同じ意見だったのか暫くその広がる光景に見入っている。
祠から続く幅が五mはありそうな巨大なる枝、それは外周を目で測れないくらいにでかい樹の枝の根元だという事、複雑な空中回廊を形成している巨大な枝の通路は目の錯覚を起こすトリックアートにも似ていた。
「見入っても仕方がないか。行こう」
ふと上を見ると石壁が見えているのだからこの場所が巨大な地下なのだろう、更に世界にもこの果てしないレベルの巨木が幾つも有る筈がない事を鑑みれば此処は?
「大樹ウーア・アルト……か」
「ですぅ。此処は大樹ウーア・アルトの真下に当たる空間って事ですね」
「そうすると地上に見えていた大樹は?」
ユートとシアの推測に香織が疑問を挟む。
「ふ~む、地下の幹から枝が生えているという事は即ち、根元は更にずっと地下の深くという事になるのぅ。ならば地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃが……」
「麻帆良の世界樹ってか、神木・蟠桃なんか及びもつかないよな」
樹高が二七〇mではとても足りない。
「世界樹といえば天空世界のアレが似ているな、ゲームだとダンジョンとして可成り簡易化がされていたけど、実際の大きさはウーア・アルトとも比較が出来るくらいに巨樹だったからな」
ドラクエⅤとⅥには特に出てなくてスポットも当たらなかったが、ドラクエⅣでは落ちた天空人であるルーシアと天空の剣がイベント上で存在している重要な場所で、地図の位置的に気球を手に入れないと行けない様に進入不能な岩で囲まれていたりする。
そんなにでかいか? とはゲームの印象での話だろうが、よく考えればモンスター数匹と勇者のパーティ数人が如何無く戦闘を行える場所な訳だから可成りの巨樹なのが判るし、モンスターが住まうに足る広さというのだから相当だろう。
「天を衝くとは正にこの事か」
大樹ウーア・アルトの巨大さに全員が度肝を抜かれており、無意識に頭上を仰いでみたらその先は天井の壁に阻まれていたものの、ユートが言う天を衝く大樹の姿を幻視するには充分に過ぎた。
「うん?」
「おや? 何の音でしょう?」
はたと気付いたユートとシア。
「この……不快感しか湧かない音は……」
「ど、どうしたのよ二人して?」
雫が不安そうな表情で訊いてきた。
シアのウサミミがピクピクと動いているのは、何かの音を捉えたのだと理解が出来る。
「『台所の悪魔』らしき蟲が大量に居る」
『『『『『っ!?』』』』』
その二つ名を聞いただけで身の毛が弥立つ程の嫌悪感に襲われ、香織はプツプツと鳥肌を立てるくらいになっていて自身の肢体を抱き締めた。
香織の場合はハジメの為とは云わないまでも、弁当を手作りしているから『台所の悪魔』というのは不倶戴天の敵……否さ、女の子ならば大半が嫌うであろう蟲なのである。
男だってこいつは嫌だ。
「見たいなら映像を出せるぞ、サーチャーを使えば一発だしな」
ブンブン! 全員の意見が一致したらしくて、天之河光輝を含めて全員が一斉に首を横に振る。
「ならちゃっちゃと片付けるべきだろうけどな、どうやって殲滅をするかが些か問題だ」
「どうやってって何よ?」
「下手な攻撃をしたら死ななかったゴッキーが、それこそ千だか万だかの単位で飛び掛かって来そうだからな……雫はそれに賛成か?」
ゾワッ! これまた全員が背筋に氷でも入れられたかの如く寒気を感じた。
「じょ、冗談じゃないわよ!」
当然だけど嫌過ぎる。
「流石に何度もアレを使うのはなぁ」
真・龍虎王の必殺技は割と消耗が激しいから、ユートとしては余り使いたく無い。
例えばドラクエやFFやテイルズやウィザードリィなど、ゲームなんかの魔法は消費MPは数値のマイナスでしかないのだが、精霊術はパーセンテージ……つまりどれだけMPの量を誇ろうとも、何%の消費だから仮に一〇%の消費ならMPの量が一〇〇なら一〇の消費、一〇〇〇なら一〇〇の消費といった具合で一〇〇%から-○%といった感じに使える回数が変わらない。
勿論、MPの消費が増えるからには威力もそれだけ上がるので悪い事ばかりでは無いが……
真・龍虎王が最終奥義『四神真火八卦陣』だと約三〇%は消費してしまう。
火精障壁は精々が三%と昔の消費税くらいで、維持時間が長くなるとまた三%を消費する。
ユートのMP量がどれだけ膨大なものだろうと『四神真火八卦陣』は三発が限度という事だ。
仮に大魔王バーンくらいのMP量であっても、システム的に使える回数が決まっている。
何より既にサイフラッシュで消費していたから残りは一発でしかなく、それを使ってしまったら流石に後が無くなるからやりたくない。
因みに何故か精霊に与えた分のMPは自然回復を待たねばならず、薬などでの急速回復というのは出来ない仕様になっていた。
恐らくではあるけど異世界での小宇宙の封印と同じ理屈だと思われる。
(強過ぎる力を制限されるとかめんどい)
ユートは聖剣マサムネを抜刀した。
(どうしたもんかね)
ユートは抑々【
だけど大前提として欲する能力を持っている事が必須であり、今回の『台所の悪魔』の異名を持つ数万を越えるGの対処に必須な能力持ちなどは居なかった。
(仕方がないからサイフラッシュで一掃でもするかな? あれならサイバスターの効果で消費MPも少しは減せるだろうし)
サイフラッシュは範囲こそ広いが威力が乏しいから確実性には欠ける。
(ゲームでも一撃必殺じゃなく、満遍なくダメージを与える武装だからな)
サイバスターの必殺武装はアカシックバスターとコスモノヴァ、一撃の威力は高いが広域範囲に攻撃をするタイプでは当然無い。
(『四神真火八卦陣』は範囲攻撃が出来るけど、必殺の威力を出せるから範囲が狭い。範囲を拡げたら結局は威力が犠牲になるからな)
痛し痒しというやつだ。
「コール! サイバスター!」
再びサイバスター化したユートはGが屯ろっている場へ……
「サァァァイ・フラァァァァッシュッ!」
サイフラッシュを放った。
「何なんだよ……」
天之河光輝はそれを見てその力に羨望と嫉妬を覚えている。
「あんな……ちから……」
「あれが光輝の否定した錬成師の力よ」
「し、雫?」
「優斗も南雲君も錬成師の力でこれだけの物を造り出せるわ。前に優斗が言っていたの」
「な、何をだよ?」
「知も大きな力になるって」
「っ!?」
「光輝が否定した図書館での読書、優斗も南雲君
も知を力に換えて錬成に活かしているのよ」
しかもハジメの場合は完全に素の能力でのみの錬成でG3を錬成していた。
「べ、別に否定なんか……」
「していたでしょ? 南雲君が図書館で本を読んでいるのを否定して訓練に参加するべきだとか、休みの時に何をしても自由なのに光輝は訓練をするべきだと私に言ったわ。御都合解釈でそれすら忘れたのかしら?」
「っ!?」
雫の瞳に温かみは無かった。
それはまるで道端に吐かれた吐瀉物でも見るかの様な目、天之河光輝はそんな視線に貫かれてしまって居心地が悪い。
「あれもきっと優斗が造ったんでしょうね」
サイバスター自体は雫も識っているが、それをユートが造った処は見た事が無かった。
というより、大半の物を初めから持っていた様に感じるから若しかしたら……
(優斗は錬成魔法より以前から【創成】を扱えると言っていたから、私達の世界に来る前から普通に造っていたのかも知れないわね)
という予測をしている。
サイフラッシュにより斃せたのは表面的な所だけでしかなく、やはり後ろの方は前方のGが壁になって斃し切れてない。
数千か数万か判らないけど数えるのも億劫な程のGが飛翔してきた。
「ひぃぃっ!?」
香織が引き攣った顔で悲鳴を上げる。
「アァァァカシックバスタァァァーーッ!」
聖剣マサムネを床に突き立て魔法陣を顕現させると、招喚が成される巨大な火の鳥をGへと向けて放ったものの斃せるのは直線上のモノだけ。
「……んーーっ! 雷龍ぅぅっ!」
涙目になりながらユエは最上級の雷魔法と重力魔法をミックスした東洋龍っぽい形の雷龍を。
「ひゃぁぁぁっ! ぶっ飛べ! グラビティショックウェェェェブッッ!」
シアが放つのはアイゼンⅡによるグラビティショックウェーブ。
「変身!」
《CHANGE!》
白を基調とする仮面ライダーリューン。
「消えちゃえ!」
《TORNADO!》
ブォッ! 突風が渦を巻いてGを大量に巻き込んで香織が吹き飛ばす。
「く、来るでないわぁぁぁぁっ!」
ティオの口から放たれるブレスでGが焼き尽くされていった。
多数との闘いには向かない雫、碌な力を持たない天之河光輝は天翔閃や神威も放てないから何も出来ない。
更に雫は意識を失い掛けている。
「チィッ! やっぱり数が多過ぎてすぐに対処は難しいかよ!?」
こんな場所では余りド派手な攻撃もヤバいだろうから、広野で六万もの魔物と闘ったみたいには中々いかないらしい。
「こ、此処は聖域なりてぇぇ……し、し……神敵を通さずぅぅぅ……聖絶ぅ!」
まるで津波みたいなGが空間全体に広がりながら一糸乱れぬ動きで飛び回るのを、鈴は涙を浮かべつつ光の障壁を展開して突撃を阻む。
やはり鈴にもGは悍ましいモノだった。
(もうこうなれば普通に呪文を放つしかないか)
ユートは呪文を放つべく準備する。
「右手にギラグレイド、左手にイオグランデ」
片手にイオとギラの最高呪文を保持したかと思えばそれを一つに
「合体呪文……閃煌爆裂ギオラグライド!」
名称は兎も角として呪文は完成。
ブッ放すと大爆発がGを殲滅した。
「やっぱり生き残るか……」
ゲームでイオ系は全体呪文だけど、だからといって現実に放てば爆発が広がりはしても全てを斃せる訳でも無い。
文字通り肉壁となって後ろのGが護られている状態なのだ。
威力があるから連弾など出来ない呪文であり、やはり痛し痒しなのはどうにもならないだろう。
「うう、何だかこのハルツィナ大迷宮に来てからこんなのばっかりですぅ」
「これまでの大迷宮以上に厄介極まりないの~。他の大迷宮攻略を前提にしておるだけあってか、若しやすれば難易度も格段上に設定されておるのかも知れぬ」
シアもティオも女性であるからにはGの存在は忌避するべきモノである。
「れ、れれれ、冷静に分析なんてしてないで何とかし、しないとっ!」
「大丈夫よ香織、何の問題も無いわ。あれは只の黒胡麻だもの。うふふ、黒胡麻プリンとか黒胡麻フリカケとか結構私は好きなのよ。特に“黒胡麻フリカケ醤油風味”はとっても美味しいもの。御飯がとっても進むんだから……ら、ら、らら、らららららぁ……」
「し、雫ちゃん!? きゃぁぁっ! どどどど、どうしよう、雫ちゃんが既に壊れ掛けてるよ!」
刃物での闘いは個対個が通常なのに個対群な上に悍ましいG相手、雫の瞳からハイライトが消えて言動が怪しくなっており、香織が絶望にも近い叫びを上げる中で、ユートが再び合体呪文を使おうと頭の中に呪文を構築し始めるが、そうするよりも前にGの動きに異変が起きた。
鈴が展開した聖絶の障壁へと群がっていたGが一斉に引いたのである。
「何だ?」
Gの集まりが空中で球体を作るとそれを中心として囲む様に円環を作り出す。
Gが作るには巨大な円環の外周に更に円環が重ねられ、無数の縦列飛行をしているGが更に円環のあちこちに並び始めた。
それは次第に幾何学模様を空中へと作り出していて、そんな光景を見ていたユートは表情を引き攣らせてしまう。
「ま、まさか……Gの奴らは魔法陣を形成してるのかよっ?」
そういえば以前に闘った
あの数多ものGがしているのも原理的に同じ、拙い! と感じたユート達はそれを遣らせないと一斉に攻撃を放ったものの、その魔法陣と中央に存在している球体を守っているかの様にG共が立ちはだかった。
「
Gは蟲であるが故に熱に強い訳ではないから、ギラグレイドを拡散させても割と落とせるもののやはりと云うか、肉壁役となるGが防いでしまって思ったよりも殺せずにいる。
香織が仮面ライダーリューンの姿をノイントの形態に換えて、固有魔法に当たる『分解』を使ってまで落としていくがやはり殲滅は難しい。
「だ、駄目……間に合わないよ!」
そして遂には魔法陣が完成をしてしまったらしくて、空中に浮かんだ直径約一五m近い魔法陣が赤黒い強烈な光を放った。
すると次の瞬間には弾けるとGで構成されていた中央の球体が不気味に蠢き形を変え始めると、全長が三m程にも成る巨大なGへと変化する。
その姿は周囲の蟲型Gの様な楕円形ではなく、百足の様に胴長で尾には針が付きカサカサと動く脚も一〇存在していて、一番前側の脚には刃物の如く鋭利な指が付いていた。
顔には黒一色の複眼が有って顎は鋭くて巨大であり、油ぎった背中には三対六枚の半透明の羽が付い羽ばたいている。
ボス級の魔物と思われる存在感だ。
「ギ~チ、ギッチチチチチィッ!」
不快な鳴き聲に雫が乙女――処女ではないが――としてあるまじき行為をしながら倒れた。
そんな雫を視てふとユートは思い出す。
「そういえば昔にプレイをしたMMOーRPGに、人型をしている蟲人型の魔物が存在してたんだけどさ、そいつは設定上だけど股間辺りから触腕っぽいモノを伸ばして女のアソコをぶっ刺した上、子宮にまで潜り込ませて卵を産み付けるとか」
『『『『『ギャァァァァッ!』』』』』
何処のエロゲかという酷い設定に男女を問わず悲鳴が上がる。
尚、ゲーム自体は飽く迄も健全なRー12だったから裏設定に過ぎないと、
歪つで醜悪な人型のパロディとも云うべきGが先の蟲型Gと同じ赤黒い燐光を纏う。
「チィッ!」
すると、周囲にゴキブリが集まり、更に魔法陣を形成し始めた。
「どうやら、支配格らしく他のGを自由に操れるらしい……厄介な!」
先程のと似た魔法陣の中央に人型が顕れたのより少し小さい球体が幾つも形成される。
大きさから人型G程ではないにせよ、小型のGよりは大きくて何らかの特殊能力持ちなGが出現するのは火を見るより明らか。
「クソッタレ! やらせるかよっ!」
「……んっ!」
ユートがユエと共にGの魔法陣に対して攻撃を仕掛けようとした瞬間に突然、足元から凄まじいまでの魔力の奔流が発生する。
「なっ!?」
足元へ視線を落とすユートだけど足場には何も無いのだが、ユートが【神秘の瞳】凝らしてよく視れば通路の更に下……謂わば通路の裏側にいつの間にやらGが集まり魔法陣を形成している光景が視て取れた。
「手品の一手か!」
派手なモノに目を向けさせて仕掛けを発動させる手品の初歩、意外と頭が良いらしいGはまんまと魔法陣を発動させた訳だ。
足場となる通路を透過して赤黒い魔力が迸り、
激しく爆発でもしたかの様な閃光が周囲一帯を包み込んでいた。
「無傷? 攻撃じゃないのか?」
訝しい表情で隣の香織とユエを見る。
「?」
「……」
二人を見ても傷一つ付いてないし、当人達にしても自分を見ているみたいだが異変が無くて小首を傾げていた。
とても可愛らしい仕草だ。
「何なんだ? さっきのは……まさか!?」
物理的なダメージを負わなかったというのは、即ち=で結ばれる答えは……
「緒方、愛している!」
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!?」
精神攻撃!
ユート達にデバフは効かない、オルクス大迷宮のヒュドラも黒頭が何らかの精神攻撃をしてきたみたいだが効かなかったし、この人型Gの魔法が精神に影響を与える魂魄魔法由来のモノであれば当然ながら効く筈も無い。
ユート達には。
唯一、バッドステータスを諸に受けるであろう天之河光輝は見事に喰らっており、言動を鑑みるに感情の反転である事が解る。
「あ、ある意味で恐ろしい」
天之河光輝を蹴り抜いてぶっ飛ばしたユートは別の意味で戦慄するのだった。
.
うん、ハルツィナ大迷宮が終わらなかった。
勇者(笑)な天之河の最後について
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原作通り全てが終わって覚醒
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ラストバトル前に覚醒
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いっそ死亡する
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取って付けた適当なヒロインと結ばれる
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性犯罪者となる