ありふれた職業で世界最強【魔を滅する転生業】   作:月乃杜

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 ちょっと遅れました。

 タイトルの意味は御笑い草です。





第88話:異世界転生者殺し(笑)

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 ユートの許に戻ってくる面々。

 

「小悪党リーダー?」

 

 何故かは知らないけどシアが小悪党リーダー――檜山大介の右足首を持ちながら歩いて来る。

 

 オルクス大迷宮でベヒモスが居る中で莫迦を仕出かして死んだ筈の檜山大介、それが何故か生存していたのだろうか?

 

「アレは中村アナザーが持ってきたのか?」

 

「いんや、あれはこの世界の檜山だ。抑々にしてボクの世界の檜山は魔物に喰われて欠片くらいしか残ってなかったさ」

 

 彼方のハジメは容赦が無い。

 

 ズタボロになっていた檜山大介を魔物の群へと投げ込んだのだから。

 

 まぁ、香織の殺害をした張本人であるからにはハジメの『大切』に手を掛けたからには、惨たらしく殺されても仕方がないだろう。

 

 トータスの生命はトイレットペーパーより薄くて軽い、そんな世界で他者を殺したなら自分自身が殺されても文句など言えた義理ではない。

 

「この世界の小悪党リーダー、まさかベヒモスにプレスされても生き残っていたとはな」

 

「そんな事になってたのか。取り敢えずホルアドで物乞いをしていたから引っ張って来た。賑やかしくらいにはなるかと思ったもんだからさ。向こうの檜山と同じで香織に執着していたし」

 

「香織に執着していたのは地球に居た頃からだ。莫迦だよな、抑々にしてハジメを好きな香織の前でハジメを虐めるとか。嫌って下さいと謂わんばかりだってのに」

 

「巫座戯ろよ! 香織は俺のモンだ! 誰にも、天之河にだって渡すものかよ!」

 

「あ、目覚めてたですぅ」

 

 ボイッと放り投げられて……

 

「プギャッ!?」

 

 地面にキスさせられた。

 

 檜山大介――ベヒモスにプレスをされたものの、近藤礼一達がクッションになってしぶとく生き残りはしたが左腕は動かなくなるわ、装備品は壊れてしまうわと不幸が続いた上に死んだと思われていたから置いて行かれたのだ。

 

 何しろ場所は第六五層である。

 

 こそこそと逃げ惑いながら運良く? 命からがらながらもホルアドの街にまで戻ってくるなり、恵里アナザーに捕縛されて曰く賑やかしに王都へ連れ去られたのだ。

 

 物乞いをしなければ食べる物さえ侭ならない、勇者一行の一人だと喚いても信じて貰えないくらいにボロボロ、だから一応は食事を奢って貰えたのはある意味でラッキーだった。

 

 そして王都では大半の騎士を恵里アナザーからのサポート付きながら殺害、彼女が『縛魂』を行う()()を集めて回ったのである。

 

「おい、中村ぁぁっ! 何捕まってんだよぉぉぉぉぉぉぉっ! 香織を俺のモンにするって約束だろうがぁぁぁぁぁぁあああっ!」

 

「失敗したんだからしょうがないじゃないか? 君も見果てぬ夢をいつまでも視ない方が良いよ」

 

「ふっざっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 激昂する檜山大介にユートはトドメとも云える一言を放つ。

 

「それに香織の処女なら既に僕が戴き済みだし、何なら心まで虜にしてしまっかからな」

 

 シンと静まるのは檜山大介が目を見開きながら顔芸をしているから。

 

 幾つかの凄まじい顔芸を披露した後……

 

「お、お、俺の香織ぃぃぃぃっ!」

 

 檜山大介は絶叫したと云う。

 

「お前のモノじゃない、僕のモノだろ」

 

「ぎぃぃぃざまぁぁぁぁぁぁぁっ! よぐも! よぐも香織の処女をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! おがだぁぁぁぁぁぁっ! ぜっだいにごろじでやるぅぅぅぅぅっっ!」

 

 最早、呂律も滑舌も怪しい叫びが木霊している中でユートは何処吹く風で香織を『おいでおいで』しており、何と無く目的を覚りながらも頬を朱に染めながらてとてとと近付く。

 

「小悪党、お前じゃ一生は疎か何度生まれ変わって平行世界を巡ろうが出来ない事をしてやるよ」

 

 それは謂わばライザー・フェニックスムーヴであった。

 

 【ハイスクールD×D】世界のライザー・フェニックスという上級悪魔、彼は一誠に見せ付けるかの如く眷属悪魔のユーベルーナと濃厚なキスを仕出かしている。

 

 但し、ユートが関わった世界線ではやらかす前にユートの茶々でミラを嗾かけていた。

 

 余り関係は無いが、その後にライザー・フェニックスを破ったユートは兵士の三人としてミラとイル&ネル、僧侶の美南風を約束した通りに貰っている上に凍結させられたライザーを元に戻す為の対価に彼の妹にして僧侶のレイヴェル・フェニックスを貰っている。

 

 ミラに関しては一誠が面倒を見て、その後にはイッセーハーレムのメンバー【燚誠の赤龍帝】の兵士の一人に成った。

 

 この世界線の一誠には可哀想な話になったが、本来の世界線に於ける大半のハーレムメンバーがユートに付いた為、人数が可成り減った形で結成されてしまっていたりする。

 

 それは兎も角として、ライザームーヴによってある意味でズッキューン! な光景が繰り広げられており、【閃姫】の娘らは顔を赤くしていたり優しい目で見たりしているのだが、リクは初心な反応で顔を手で覆っているけど檜山大介は最早、顔芸が極まってしまい剣を手にしてユートの方へと駆け出した。

 

「おおおおおおおおがぁぁぁぁぁぁぁたぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっっ!」

 

 それは余りにも軽挙妄動としか云えない行動でしかなく、幾ら惚れていた女とのキスシーンを見せられたとはいえこれでは単なる攻撃行動に過ぎない為、端から視たならユートの正当防衛が成立してしまうものだ。

 

 振り下ろされた鋼製の剣だったが……

 

「緒方逸真流防御の型――幻甲」

 

 小さなナイフで檜山大介の刃と一瞬だけ併せてすぐに引く事で、運動エネルギーの全てをそらしてしまった為にユートには当たらず、位置的には僅かに逸れて地面に刃をめり込ませてしまう。

 

 僅かな力点作用の逸らしを防御に応用したというもので、本来は自身の武器を使って敵の武器を随時逸らしつつ攻撃して首を落とす技。

 

 【緒方逸真流】は宗家の刀舞術に首斬りの技が多数有るが、使われたのが戦国時代だったからというのが大きい。

 

「さぁ死ね、小悪党リーダー。二号と三号と四号が地獄で待っているぞ」

 

「ヒィィッ!?」

 

 先程までの既知外染みた言動とは打って変わって情けなく悲鳴を上げる。

 

「やめろ!」

 

 檜山大介を殺そうとした瞬間に上がった声は、全く以ていつもの通りで天之河光輝。

 

「またか」

 

 いい加減で止せば良いのに天之河光輝は何故か自信満々、いつもの事だと云えばその通りでしかないからもう面倒臭い。

 

「坂上?」

 

「わぁってる! 俺も止めてんだ!」

 

 もう泣きたいレベルの顔だ。

 

 少なくとも天之河光輝が持っていたニャル子に由来するアイテムは、ホッパーゼクターは取り上げてジオウアナザーウォッチとジオウⅡアナザーウォッチは破壊済み。

 

又候(またぞろ)、ニャル子から何かしら貰ったのかね? だとしたら今度は何かな?)

 

 怪人系なら破壊待った無しだが、ゼクターみたいな仮面ライダーに変身が出来るアイテムならば取り上げれば良い。

 

 勘違いされそうだが、ユートが天之河光輝を生かしている理由の一つはニャル子が彼にアイテムを与えているからだ。

 

 それが手に入れて活用可能な物なら奪えば良いのだし、怪人系――ガイアメモリやゾディアーツスイッチやアナザーウォッチなどなら破壊する。

 

(今回は当りか外れか)

 

 ニャル子が天之河光輝に与えるアイテムだけが生かす価値で態々、尤もらしい理由を付けてまで生かしているのだから五回に一回は大当り(SSR)を引きたいものだった。

 

 それはまるでガチャの如く。

 

「で、今回は何だ?」

 

「黙れ! 遂にお前の正体が判ったぞ! そして無力化をする方法もな!」

 

「へぇ、正体……ね」

 

 どうやら中々に面白くなりそうだとは思うが、天之河光輝に限って無いかと嘆息する。

 

「緒方の正体?」

 

「そうさ龍太郎! こいつはとんでもない悪党、それを隠して雫や香織や鈴、ユエやシアやティオをその毒牙に掛けたんだ!」

 

 取り敢えず地球組は兎も角、トータス組は呼び捨てで名前を呼ばれて薄ら寒い感覚でサブイボが出来る思いで震えた。

 

「それで、正体って何なんだ?」

 

「緒方は()()()だ!」

 

 何故か『転生者だ!』がエコーする。

 

「は? ああ?」

 

 坂上龍太郎は首を傾げた。

 

「俺は知った、緒方が転生者と呼ばれる存在であり転生者の真実といのを! 部屋に引き篭り現実逃避をするゲーム廃人、大した能力も持たず成果を上げるでもなく不満ばかりを懐く社畜、恋愛脳の癖に非モテだから二次元で自分を慰める憐れなゴミ野郎。奴の幸運は死んで神様からチートを貰えた事に集約される! 持てばいずれもこの世の理を覆す特殊で強力無比な能力であるチート! 緒方はそんなチート能力で楽に無双し他者を蹂躙して悦ぶ野郎なんだよ! 緒方はたった一つだけの幸運に与れただけで、一切の努力もしてなければ苦労も無い。チート能力でイキっているだけの陰キャ野郎なんだ!」

 

 随分な事を言うが、確かにそんな転生者も世にはゴロゴロしているであろう。

 

「きっと前世ではブクブクと肥えた蒲蛙みたいな見た目で、心だって醜い腐れ陰キャ野郎が神様から力だけ貰って『転生サイッコー!』とか叫んでいるに違いないんだ!」

 

「こ、光輝……お前……」

 

 坂上龍太郎の表情に浮かぶのは転生者ユートに対する嫌悪――などでは決して無くて、親友である天之河光輝に対する戸惑いみたいなもの。

 

 どちらかと云えば承認欲求がとっても旺盛たる天之河光輝こそ、ステータスプレートで能力確認をした際にイキっていたのだが……

 

 事実としてメルドに褒められた際に謙遜みたいな笑いを浮かべていたが、その中に僅かな愉悦と優越感が浮かんでいたのを見逃していない。

 

(まるで転生者の全てが悪の権化みたいな言い方をしているよな)

 

 これはユートも呆れるより他に無かったけど、未だに天之河光輝のターンは続く。

 

「俺を……勇者であるこの俺を蹂躙した力も所詮は神様から貰っただけのモノだったんだな!」

 

「……で?」

 

「それならば勇者の俺がお前を斃す――否、速やかに()()()()()ぞ!」

 

「ホント、気炎だけは立派に吐くな」

 

「俺が、俺こそが異世界転生者殺し(チートスレイヤー)だ!」

 

「御大層な名前だな……だが無意味だ!」

 

 何故か異世界転生者殺しだ! という科白が、エコーしていた気がするものの無意味と判断。

 

「まだしもゴブリンスレイヤーの方が役に立つだろうに」

 

「黙れっ!」

 

 天之河光輝は小さなバッグからバッグより大きな箱を取り出す、それは四角い箱で蓋が紐によって縛られている物だった。

 

 上の方で中央寄りに十字で蝶結び。

 

「あれってまるで()()()ね」

 

 雫が箱を見て呟いた。

 

「成程、だいたい解った」

 

 そしてユートは理解する――今回の天之河ガチャは外れか……と。

 

「これがお前みたいなチート野郎を無力化してくれる切札だ!」

 

「つまり逆玉手箱って訳だな」

 

「なっ!?」

 

 名前を言い当てられて動揺する。

 

 正しく、この箱は昔話の【浦島太郎】に出てくる乙姫が浦島太郎に渡した玉手箱に見えなくもなかった。

 

「逆玉手箱?」

 

 だけど【逆玉手箱】と逆が付くという事は別の代物なのは間違いない。

 

「浦島太郎が竜宮城から出る際に乙姫から渡された玉手箱、それは浦島太郎の時間その物が封印をされていたアイテムで開ければ浦島太郎の過ぎ去った時が戻る。だから浦島太郎は三〇〇年分もの時を放たれて老人化した。逆玉手箱はその真逆で内部には粒子化された【前世の実】が封入されていて、時粒子の先進波への干渉で粒子化された煙を浴びると若返るんだ。その濃度や浴びた時間によっては()()()()()()()()()

 

「な、何故それを!」

 

「はぁ? それは【幽☆遊☆白書】という漫画に登場した裏浦島が使っていたアイテムなんだし、識らない理由が無いと思うんだけどな?」

 

「っ!?」

 

 漫画に興味が無いから判らないらしい。

 

「相変わらずよく解らんアイテムを貰うが侭に使おうってか?」

 

「くっ! どちらにせよお前は終わりなんだ! こいつで醜くて弱い前世を晒せ!」

 

 開かれた裏玉手箱、中から粒子化された前世の実の成分が煙の様にモクモクと立ち上るとそれがユートの方へ流れていく。

 

「ふむ……」

 

 天之河光輝は知らないがユートはある程度ではあるものの、時粒子を操作する能力を持っているから実は影響を受けない様にするのは可能。

 

(だけどそれは面白くない。ニャル子もそれを判っているから渡したんだろうな)

 

 だけど折角だから浴びてやる。

 

 どうせ視ながらほくそ笑んでいるのであろう、ニャル子の思惑のその通りに踊ってやるさ。

 

 嗚呼、矢張り自分も結局は這い寄る混沌の性を多少なり持ち合わせているのかも知れないな!

 

 超々高濃度の粒子はユートを子供に戻しただけに飽き足らず、ユート・オガタ・ド・オルニエールだった頃にまで戻した更にその先――緒方優斗であったその時にまで巻き戻していた。

 

「見ろ! 香織、雫! これが奴の――緒方の醜い正体なんだ! どうせ引き篭ってゲームをしながら菓子をバク付いて、ブクブクに肥え太った姿をしたヒキニートで恋愛脳でキモオタな陰キャ野郎

なんだろうがぁぁぁっ!」

 

 気付いていない。

 

 如何なイケメンであろうと、今の天之河光輝は親友ですらドン引きするくらいに醜い事に。

 

「ニャル子が語ったであろう情報をその侭で叫ぶとか、自分の言葉で語ろうとはしないものなのかな天之河?」

 

 粒子――煙が晴れてきて現れたのは……

 

「別に変わらねーじゃねーか」

 

 呟く坂上龍太郎。

 

 服装こそ【緒方逸真流】制式胴着に日本刀を持った姿をしていたが、顔は先程までと一切合切が変わらないユートその者であったと云う。

 

「なっ、莫迦な!? 煙が……逆玉手箱の効果が効いてないのか!」

 

「否、勿論だが効いてるさ。確かに身体が重い。さっきまでと明らかに身体能力が落ちている証拠だろうね」

 

「っ!?」

 

 絶句する天之河光輝。

 

「【幽☆遊☆白書】で裏浦島が使った際は蔵馬を南野秀一から前世の妖狐に戻すのみだったけど、粒子濃度が凄かったからか前々世にまで戻されたって事だろうな」

 

 緒方優斗の頃の弱さを今更ながら実感をすると同時に、ハルケギニア時代に嘗ての実妹であった緒方白亜の出鱈目さを再認識した。

 

(よく考えたら白亜はハルケギニアの頃の僕とも打ち合えていたんだよな……前々世では五歳も年下ながら勝てなかった訳だよ)

 

 緒方優斗の頃は白亜と試合をした回数=敗北の回数で、初めての試合はユートが一七歳で白亜が一二歳の時だったのだからやってられない。

 

 実際、ユートは皆伝まではいけても印可状を戴くまでには届かなかったのに、白亜はそれを幼い頃には普通に獲てしまっていた。

 

 勿論、ハルケギニア時代にはもうユートの方が強かったから改めて実家――緒方家で印可状を戴く事に成功をしているのだが……

 

「とはいえ、今の僕はそうだな……トータスに於けるステータスプレートによる数値的にみるなら、筋力が2000で俊敏が2500とかか」

 

「めっちゃつえーし!?」

 

 勇者(笑)が最初のステータスでレベルを最大限にまで鍛えたより高い数値、それを知った坂上龍太郎は驚天動地にして吃驚仰天であろう。

 

「ば、莫迦な……」

 

「お前は幾つか勘違いをしている」

 

「か、勘違いだと!?」

 

「先ず、僕の転生前の実家は剣術の道場を経営していたから自動的に門下生扱い。ヒキニートになんて仮に僕が成りたくても成れんよ。それと僕の今生も前世も前々世も顔は全く変わらないから。菓子も別に嫌いじゃないが道場でカロリー消費が半端ないから太らんし、緒方家は初代の妻であった白の謎知識から赤筋や白筋の両方の特性を持つピンク筋に鍛える術を得ていたんでエネルギーは寝ていても消費されていたんだよな」

 

 つまりユートはちょっとやそっとじゃ太らなかったのである。

 

「それに社交性が無かった訳じゃ無し、陽キャとはいかないが陰キャじゃなかったのは間違いが無いと思うぞ。MMOーRPGのゲームはしていたが、パーティは基本的に女の子だったからな。あ! ネカマじゃないぞ?」

 

 MMOーRPG【英雄譚(インフィニット・ブレイバー)】という人気を博していたゲームで、実は開発者が橋本祐希――ユーキだったりするのだけどパーティは緒方家の分家筋に生まれた長女達で、長男とは真逆に宗家云々な身分に関係無くユートを好いていたのだから、少なくとも天之河光輝の言葉は単なる中傷にもならない。

 

 例えば白音なら『オト』と名付けていたし妹の白亜なら『ハク』だった。

 

 因みに緒方優斗は『ユート』である。

 

「煩い! 何であれ俺が勝つんだ!」

 

 手にしたのは鉄製の騎士剣、アザンチウムとは云わないからせめて鋼鉄の剣くらい見繕えなかったものか? と思うくらいショボい。

 

 ユートは腰に佩いている太刀を抜くまでも無い斬撃に対し、小さなナイフで攻撃を軽く逸らしてやると地面に誤爆してしまった。

 

「うぐっ!」

 

 それは【緒方逸真流】防御の型――幻甲。

 

「まさか小悪党リーダーと同じ失敗をやらかすとはね、お前って確か八重樫流剣道場で門下生をしていて剣道の試合でも優勝したみたいな話を聞いていたんだが……ガセか?」

 

「クソッ!」

 

 勿論、ガセではない。

 

 だけど頭に血が上っている天之河光輝の動きは余りにも単純、余りにも明解に過ぎるからユートの目――【神秘の瞳】が現在は使えなくなっているとしても読むに易い。

 

 次なる攻撃に移る天之河光輝ではあるものの、ベーシックスペックでさえ越えているから当たる訳も無く、雫が使う八重樫流剣術を使う訳でも無かったからか簡単にあしらわれる。

 

「何故だ! 転生者なんて神様から貰っただけのチートに胡座を掻いている屑なのに!」

 

「お前は一度で良いから鏡を見ろよ」

 

「巫座戯るな!」

 

「巫座戯ちゃいない。ニャル子から()()()()()のゼクターやアナザーウォッチや逆玉手箱を使う。お前が屑と呼ぶ転生者と何が違うよ?」

 

「これは俺の力だ!」

 

「やっぱ話にもならない……か」

 

 大概な御都合解釈主義は既に天之河光輝にとってはデフォルトらしい。

 

「雫、君が奴の所業を『悪気は無いから許して』とかやって注意すらしないからコレだ」

 

「御免なさい……だけど私は光輝の幼馴染みではあるにせよ、保護者でも何でも無いんだから責任を押し付けられても困るのよ!」

 

「それもそうか」

 

 矢張りフラストレーションが溜まるのだろう、雫は吐き捨てるかの如く叫んでいる。

 

 天之河光輝がどう思っているか兎も角として、雫は彼女でも恋人でも妻でも無く況してや母親では決して無く、彼の言動や行動にいちいち責任を追求されても厭でしかない。

 

 それでも幼馴染みだからとハジメにしていた様にフォローに回る辺り、『オカン』とか呼ばれてしまっても仕方がないのであろう。

 

 ユートは会話をしながらも視線を目まぐるしく動かしており、天之河光輝との()()()()()に興味は全く無さそうである。

 

 視線は天之河光輝の腕や腰にも往くのだけど、他にも彼方や此方と視線だけを動かしていた。

 

「クソ、クソ、クソがぁぁぁっ!」

 

 最早、イケメンの面影が無いくらいに顔芸をしている天之河光輝の姿はみっともなく映るけど、本来の予定ではこの役回りはユートが行う筈だったのだろう。

 

異世界転生者殺し(チートスレイヤー)を舐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

 空間に黒い孔が一瞬だけ開くと三つ――金銀銅――の輝きが競い合う様に天之河光輝に向かう。

 

 その左手首には銀色のブレスレットが装着されており、天之河光輝が左腕を天高く掲げると競争に勝利した金色の輝きが、このブレスレットへとカチリと確り填まり込んだ。

 

「変身!」

 

 叫ぶと自動的に九〇度の回転……

 

《HENSHIN!》

 

 電子音声が鳴り響いて手首を中心として黒色のアンダースーツに金色のアーマーが装着された。

 

「三つのカブティックゼクターか。何だよ、やれば出来るじゃないか天之河!」

 

 喜色満面なユートは天之河ガチャでSSRだと、正しく大喜びをしていたけど何処か辛そうな表情にも見える為、香織も雫もシアやユエやティオや鈴にリリアーナに至るまで少し心配そうだ。

 

 天之河光輝の変身した姿は仮面ライダーコーカサスで、原典の【仮面ライダーカブト】の劇場版でむさ――黒崎一ゴホン、黒崎一誠という筋肉質なナルシストが変身をしている。

 

 青薔薇で愛を囁く程に。

 

 仮面ライダーコーカサスと成った天之河光輝は左腰のハイパーゼクターを叩く。

 

《HYPER CLOCK UP!》

 

 それはハイパーゼクターを持たない者からしたならば絶望しかない科白。

 

 ガキィィィンッ! 甲高い金属と金属がぶつかり合った音が鳴り響いたかと思うと仮面ライダーコーカサスが唐竹割りにユートをゼクトクナイガンのソードモードで斬り付けているのを、何故かユートが佩いた大太刀をいつの間にか抜き放って

両手で万歳した状態で持つと防いでいた。

 

「ば、莫迦な!? そんな莫迦なっ!」

 

 ハイパークロックアップというクロックアップよりも疾い状態、時間流に乗るが故にどれだけの超高速でもダメージを受けたりしないこの技術、普通の人間ならば攻撃を受けるのは疎か視認する事すらも不可能な筈。

 

 ハイパークロックアップ中の仮面ライダーから視れば、通常空間に居るしかない人間は停まっているにも等しいのだから。

 

「【緒方逸真流】宗家刀舞術が正当奥義が一つ――『颯眞刀』と同じく正当奥義――『燦然勢界』を使ったのさ」

 

「っ!?」

 

「そして未熟未熟!」

 

 ガキン……それはユートの揮った大太刀が左腰のハイパーゼクターを弾き飛ばした音。

 

 行き成り通常空間に戻された仮面ライダーコーカサスが勢いを殺されて落ち、ユートは飛び去ろうとしていたハイパーゼクターと銀色と銅色をしたカブティックゼクターを掻っ浚う。

 

「天之河ガチャのSSR、戴きます!」

 

 カブティックゼクターとハイパーゼクターは、回収後にアイテムストレージに仕舞った。

 

「か、返せ!」

 

「返す訳が無いだろうに」

 

「くっ、どうやって防いだんだ!」

 

「戦闘中に教えるか、莫迦め」

 

 漸く()()されたのもあって清々しい。

 

 【緒方逸真流】には通常剣術――刀舞術の他に、とんでも業とも云える奥義が幾つか存在する。

 

 『颯眞刀』は技術的に視れば御神流の奥義である『神速』に近く、クロックアップにも似ている高速戦闘を可能とした奥義だ。

 

 余計な情報として色を削除、灰色となってしまった世界で更に脳の未使用域を用いて思考加速をすると、まるでタールの海を進むかの如く緩やかになった肉体を思考に併せて肉体のリミッターを解除すると共に加速領域に入る。

 

 この奥義を教えられるのは印可状を与えられている者に限られ、本来の使い手は緒方家次期宗主であった緒方白亜のみ。

 

 その修得方法は仮死状態と成り走馬灯の経験をする事と、死に至る際に肉体が燃え上がり消える寸前の蝋燭の如く爆発的なリミッター解除が成される経験をする事。

 

 それを肉体が、脳が、意識と無意識が覚え込んでこそ初めて修得条件が整う。

 

 更にはピンク筋肉を極限にまで鍛え上げている肉体も相俟って、御神流の『神速』よりも可成り疾い超高速の奥義と成っていた。

 

 それこそ時間流に干渉する程に。

 

 但し、肉体に掛かる負担は『神速』に比べても篦棒(べらぼう)に高いし、脳に掛かる負担も可成り凄まじい事になるから多用は禁物でもある。

 

 【緒方逸真流】宗家刀舞術が奥義の型――『燦然勢界』は修得条件自体が『颯眞刀』と同じくで、つまりはこの二つの奥義は同時に修得をしなければならなかった。

 

 この奥義の真髄は未来()()

 

 予知ではなく予測、即ち周辺の視界に納められた世界の情報を高速で取得していき、在るべき敵の動きや周囲の状況を約数十秒に亘って予測し、闘いに応用をして優位に立てる状態を模索する。

 

「慈悲深いからな業の名前だけは教えてやるよ。【緒方逸真流】宗家刀舞術・印可の真奥――『絢爛舞刀』という」

 

 奥義と奥義を同時に発動して行う真なる奥義、つまりは真奥となる業の名は『絢爛舞刀』。

 

 奥義の『颯眞刀』で加速した思考により超速で『燦然勢界』による周辺情報の取得、複数思考で同時に精査をしつつ視界に在る世界の未来を予測して肉体的限界のリミッターを限界を超克しての解除、これにより天之河光輝がこれからやらかす事を事前に既知のモノとして準備万端に整えた。

 

 彼奴の腕に鈍く輝く見覚えのあるブレスレット――ライダーブレスの存在、ホッパーゼクターをも越えるであろう超高速戦闘を行えるモノ。

 

 其処から導かれる答えはカブティックゼクターによる仮面ライダーコーカサスへの変身であり、初めから腰に装着されたハイパーゼクターという装備である。

 

 ユートが戦闘の最中に辛そうな表情をしていた理由、奥義の一つ一つが脳に多大な負担を強いるからには真奥は更なる負担となるからだ。

 

 激しくも鈍い頭痛が常に纒わり付き、肉体的な限界を超克するから全身で冷や汗を掻きながらも激痛に耐えていた。

 

 抑々にして【緒方逸真流】の舞い手が肉体を鍛えるのも、この真奥を数秒でも僅か一秒でも長く維持する為のものである。

 

 まぁ、『舞う』という言葉の通り激しく肉体を酷使するからというのも有るのだが……

 

「お前が未熟で助かった。これが若しも原典での黒崎一誠だったら流石にどうにもならなかっただろうからな」

 

 仮令、異世界転生者殺し(チートスレイヤー)を名乗ろうと転生者と同じで貰った力を享受するだけな天之河光輝は、殺し合いをする戦闘者としては矢張り未熟も未熟でしかなかった訳だ。

 

 故にこそ、ユートからしたなら小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の方が余程に手強いと感じたのだろう。

 

「か、返せ……それは……俺の……」

 

「ぶぅわぁかめ! 天之河ガチャのSSRの景品、誰が返すかっての!」

 

「天之河ガチャ?」

 

「そうさ、お前がニャル子からアイテムを得れば僕に突っ掛かって来る。其処から剥ぎ取る訳だが獲ているアイテムは完全にランダムだからガチャって訳だよ。今回は『逆玉手箱』とか外れだったと思えばカブティックゼクターにハイパーゼクターだから。まさかの大当たり(SSR)ってな?」

 

 

「あ、嗚呼……」

 

 其処に浮かぶのは絶望なのか? それは余りにも屈辱的な科白であったのだと云う。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

 天之河光輝本人は真剣に本気で全力全開を以て闘ってきた心算が、まさかのアイテムガチャ扱いをされていたのだから慟哭が凄まじい。

 

大当たり(SSR)記念に今回は生かしておいてやるさ、疲れたろうからさっさと寝るんだな」

 

 その辛辣な科白から全員が気付く。

 

 ユートが天之河光輝を生かしていたのは甘さや優しさ、況してやクラスメイトや幼馴染み達への配慮なんかでは決して無かったのだ……と。

 

 そしてユートも気付いている。

 

 此処では無い何処かの時空間であのニャル子はこの様子を観ており、ユートの一挙手一投足にて背筋を奮わせ熱くなった子宮を慰めるべく右手を御股に伸ばしているのだという事を。

 

 今頃はアヘ顔を晒して盛大に潮でも吹いている事であろう。

 

 ズキリと頭に鈍痛を感じると同時に全身を引き裂く様な痛みを感じる。

 

「くっ!」

 

「ゆう君!」

 

 優秀な治療師(ヒーラー)の香織がいの一番に飛び出すが、ユートは右腕を真っ直ぐ香織の方へ掲げて掌で制す。

 

「もうすぐ逆玉手箱の効果が切れる」

 

「そ、そうなの?」

 

 坂上龍太郎が天之河光輝を連れて行ったのを見定めると……

 

「もう一つ勘違いをしている」

 

 ニヤリと口角を吊り上げて呟く。

 

 カシャリと音が響いて香織が音源を視てみるとマゼンタカラーのバックルを持つベルト。

 

「ネオディケイドライバー?」

 

「これは僕の魂に在った力を女神の二柱によって喚起され具現化した物だ。つまり肉体に依存していないから今世も前世も前々世も関係無く使えるんだからな」

 

 姿が同じだから判り難いにしても確かに雰囲気が変わり、どうやら話している内に肉体が本来の姿に戻ったらしい。

 

「そして更に今一つ」

 

 代表して雫が引き継ぐ様に言う。

 

「光輝、あんたはあの場に居なかったから知らないでしょうが、私達はとっくに優斗が転生者だってのを知らされていたのよ。別に知りたくもなかった残酷な事実と共にね」

 

 香織と雫と此処に居ない愛子先生に至っては、オルクス大迷宮で知らされているのだ。

 

 蚊帳の外だった天之河光輝に憐れみすら覚えながら、今回の事件の解決に向けて動かねばならないのを誰もが億劫に感じているのだった。

 

 

.




『やれば出来るじゃないか天之河!』

 デスマーチで魔族が大怪魚――クジラを召喚した時のサトゥーの科白から。

勇者(笑)な天之河の最後について

  • 原作通り全てが終わって覚醒
  • ラストバトル前に覚醒
  • いっそ死亡する
  • 取って付けた適当なヒロインと結ばれる
  • 性犯罪者となる
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