僕とキリトとSAO   作:MUUK

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ななななんと!! 通算100話めです!!
ずいぶんと遠いところまで来てしまいました。
いろいろあったなぁ、などと小説情報をみていると、お気に入り登録が1000名様を突破している!!?
連載開始当初は、4年連載し続けるとも、1000名もの方に見て頂けるとも思っていませんでした。感無量です!
皆様からの感想等、反応があってこそのモチベーションでした。今後も応援よろしくお願いします!!


第十話「世界樹」

寝落ちして、現実の硬いベッドで目を覚ました。朝食を済ませてログインし直す。電子の海を越えた先に、夜明け前の妖精郷があった。

朝焼けが森の闇を払っていく。

実体化していく身体に、羽毛のような、のしかかる感覚があった。ヘラちゃんが僕の膝を枕にして寝ていた。

穏やかな寝顔はなんとも愛らしい。

ショートパンツとチューブトップだけしか装備していない現状は、いささか不安に感じるが。

 

「こんな薄着で寝てたら風邪ひいちゃうよ……って、ゲームで風邪引かないか」

 

ヘラちゃんの服(布?)は上下統一された柄だ。白色ベースの布地に、極彩色のエスニックな紋様か意匠されている。ヘラちゃんの雪のように白い肌と溶け合って、肌と服の境目は一目では分からない。

ふと、今の自分は、ヘラちゃんの胸を凝視しているという状況に他ならないと気がついた。慌てて目をそらす。

寝ている女の子に出歯亀紛いのことをしている罪悪感が生まれる。穏やかな寝息をたてる無垢な横顔が、一層の後ろめたさと庇護欲を煽った。

飼い主に身を寄せて眠る、ペットみたいな感覚だ。そう思うと自然に、純白のレースを思わせる髪に手を伸ばしてしまう。頭頂から生えた大きな猫耳に触れると、想像以上の多幸感が訪れた。

これは……尋常じゃないもふもふだ!

すごい。ずっと撫でていられる。この質感を再現した技術者に敬意と変態の称号を差し上げたい。

髪にも指を通してみると、またも衝撃が僕を走る。手くしをしている手の方が気持ちいいとさえ思える髪質だった。

理想郷はここにあったのか……。

永遠にモフり続けられるとさえ錯覚したそれは、

 

「ライトくん? 何してるのだよ?」

 

ヘラちゃんの目覚めで幕を下ろした。

 

「お、おはよう」

「おはよ。それで? ワタシの耳と髪の感想は?」

「とても心地よいですね」

「うむ。存分に楽しむとよいのだよ」

 

ゆ、許された……。

あだっぽい微笑みで、ヘラちゃんは猫耳をピコピコと動かす。まるで誘っているかのよう。

だったら乗ってやろう。頭も耳も思う存分撫で回す。

もふもふもふもふ。

 

「あはは! くすぐったいのだよ!」

「存分に、って言ったのはヘラちゃんでしょ?」

「にゃ! 調子乗ってるのだね! 早くやめないと仕返しするのだよ!」

「できるもんならどーぞ」

 

速度と反射神経には自信がある。ましてや頭への攻撃だ。SAOならクリティカルになるからこそ、2年間必死に頭部を守ってきた。

ヘラちゃんの耳を触りながらほくそ笑む。さあ、どっからでもかかって……

 

「ふあぁ!?」

「あははは! 可愛い声!」

「し、尻尾! なんか変な感じが、こしょば、ひへっ!?」

「そうでしょそうでしょ! ケットシーは尻尾が弱点なのだよ!」

 

白猫少女の色素の薄い口元が、にんまりとつり上がって牙を見せる。

尻尾を触られると、身体の芯からいじられているような言い知れないゾワゾワ感が絶え間なく襲ってきた。

反撃を試みてヘラちゃんの尻尾に手を伸ばした。羽衣のような白猫の尻尾は、遊泳するように僕の手をすり抜けてしまう。猫妖精力の差は歴然だ。

 

「はい。これでおしまいにしといてあげるのだよ」

「ふへぇ……」

「ほら、切り替えて支度しよ!」

 

へたりこむ僕をよそ目に、ヘラちゃんは立ち上がって翻った。

ふふふ……。僕に背を向けたうぬが不覚よ……。くらえヘラちゃん! 君の尻尾に仕返しだ!

 

「もう。ライトくん分かり易すぎなのだよ」

 

な……消え……

 

「むぎゅ!」

 

ヘラちゃんは見事なバク転で、倒れ臥す僕の背中に着地した。若干ダメージ。

 

「悔しかったら、人間相手の立ち回りを鍛えるのだよ。ライトくん、モンスターとばっかり戦ってたでしょ。出された状況に対して、対処がワンパターン過ぎなのだね」

 

背中の上からヘラちゃんの説教が飛んでくる。助言の内容はあまりに的確だ。ALOの基本はPvP。マニュアル対処では勝ちぬけない。

だがしかし、僕だって伊達に2年間戦い続けていない。ほんのり過剰な自意識が、プライドによる反抗心を沸き立たせた。

こうなったら是が非でも勝ちたくなるのが男の子だ。

ちょっとズルいけど……

 

「ふぇ!?」

 

急に消えた足場に、ヘラちゃんは小さく悲鳴をもらす。

なぜ一瞬にして移動できたのか。決まっている。神耀だ。

瞬間移動でヘラちゃんの後ろをとった。この勝負、僕の勝ちだ!

尻尾を掴むその寸前、ヘラちゃんは何かを探すそぶりを見せた。気になるが、今は尻尾が先決だ。

ヘラちゃん、討ち取ったり!

 

「ふにゃあん!?」

「ふっふっふ……これは僕の完全勝利と言わざるを得ないね」

「にゃうぅ……ライトくんのいじわるぅ……」

 

ヘラちゃんは身をよじりながら、涙を浮かべて訴えるように僕をみる。

あれ? なんかすっごく悪いことしている気がしてきたぞ?

よく考えろ。ちょっといたずらされたくらいで、女の子を泣かせるほどやり返すとか、普通にどうかしている。

 

「ごめんヘラちゃん!」

 

謝りながら手を離したその瞬間だった。

 

「獲物を捕らえたら、殺すまで離しちゃダメなのだよ」

 

殺意に身の毛がよだつ。僕には反応の暇さえなかった。

首筋と尻尾に手をあてがわれるまでの動作は人間の埒外だ。

勢いで仰け反った僕の死角を這う敏捷さに慄然とする他ない。

対人戦をナメていた。Mob戦の延長線上にはない、苛烈極まる駆け引き模様。心技体すべてがクリティカルに戦局を動かす感覚は、なるほどクセになる。

 

「せっかくのチャンスだったのに、もったいないのだね。詰めが甘いってよく言われない?」

「……言われる。どっちかというと底が浅い、かな? もしかして、さっき僕に尻尾を掴まれたのもわざとだったり?」

「ううん。さすがに瞬間移動は読めなかったのだね。あれって前のゲームでの技なのかな? ALOでは、えーっと、うん。たぶん見たことないのだよ」

 

語末に近づくにつれ、声量は小さくなっていった。

記憶に自信がないのだろうか? そういえばケビンとサマンサのことも忘れていたっけ。

 

「うん。その通りだよ。SAOからいくつかスキルを引き継げてて、そのうちの1つが今の『神耀』。10メートルまでの瞬間移動」

 

心意技であることは伏せておく。無駄に混乱させる必要はない。

 

「へえ! てことはさ、SAOではスキルで超能力みたいなのが使えたってこと!? すごい! ワタシもやってみたかったのだよ!」

「うーん……それはどうだろ」

 

神耀に関しては僕だけの特例だった。SAOのシステムはALOと大差無い。

しかし、SAOに拘らずとも、異能系のアクションVRは探せば出てくるだろう。

 

「じゃあさ、そんなゲームが出たら一緒にプレイしようよ!」

 

ヘラちゃんのノリの良さを信じた誘い。

横髪をいじりながら、ヘラちゃんは曖昧に笑った。

 

「それは遠慮しとくのだよ」

「どうして?」

「ほら、ワタシALOで手がいっぱいだから」

 

ヘラちゃんの目線は、空を彷徨っていた。

トッププレイヤーと呼ばれるからには、生活のほとんどをALOに傾けているんだろうし、そりゃ手一杯にもなるよね。

実際、僕がログインしているときはほぼ必ずヘラちゃんもログインしている。いったいどれほどのイン率なのかは想像もつかない。

ヘラちゃんについて巡らしていた僕の思考を打ち切ったのは、聞き耳スキルが拾った、草むらをかき分ける背後の音だった。

 

「ヘラちゃん、モンスター来るよ。構えて」

「オッケー。ところでさ、剣一本貸して欲しいのだよ」

「!?」

 

確かに、ヘラちゃんの腰にいつも携えられていた短剣が消えている。

 

「どこやったのさ?」

「適当に使ってたら耐久尽きちゃったのだよ」

「ええ……?」

 

適当すぎる……。ヘラちゃん、手入れとかしなさそうだもんなあ……。

だけどヘラちゃんに貸せる短剣があるものかどうか。一応、SAO時代のアイテムを引き継げてはいるのだが、その中身はほとんど使用不可になっている。数少ない使用可能なアイテムの中に、短剣がある確率はかなり薄い。

アイテム欄に目を通すが、残念ながら見当たらなかった。それどころか使える武器そのものがほとんど無い。僕が徒手空拳の信徒なのだから当たり前だけど。

どうにか見繕ってヘラちゃんに手渡す。

 

「はいこれ。短剣じゃないし、すごい弱いけど大丈夫?」

 

わたした片手剣の銘は『スモールソード』。その名に違わず、刀身は長めの短剣と言われれば信じてしまうほどに短い。

これは SAOの初期装備。僕が唯一使ったことのある武器だ。

受け取った白く細い指が、持ち手の皮と擦れてギュッと音が鳴る。

 

「充分!」

 

ヘラちゃんは口を釣り上げる。頼もしいことこの上ない。

見計らったようなタイミングでの背後からの急襲を、左右に散開して回避する。視認したMobの姿は、牛の頭骨を被ったゴブリンだった。

 

「僕がタゲとるから、ヘラちゃんは────」

 

ズバン。

牛頭の首が飛ぶ。

気づいたときには終わっていた。首筋への一撃必殺。最高速の剣舞は、雑魚ゴブリンに断末魔すら啼かせなかった。

 

「うっそぉ……それ初期武器だよ?」

「今湧いてきたのも最弱級モンスターだし、おあいこなのだね」

 

位置、速度、剣の傾き。どこを取っても超一流。最弱武器でさえ、ポテンシャルの何倍も引き出すのだから恐れ入る。

なんか、そんなことわざがあったような……

 

「ごぼう筆にならず!」

「当たり前なのだね」

 

正解はなんだっけ? まあいいか。

あれ? そういえば、僕らが寝ている間にモンスターは来なかったのだろうか?

無傷だから襲われてはいないのだろうけど……

 

「ね、ヘラちゃん。ヘラちゃんっていつまで起きてたの?」

「にゃ? 寝てないのだよ?」

「へ? でもさっきは普通に……」

「あれは目を閉じてただけ。半分寝てた、みたいな?」

「ネトゲ廃人かな?」

 

その通りだった。

 

「じゃあ、夜の間、ずっと迎撃してくれてたの?」

「えっへん! もっと褒めるとよいのだよ!」

 

ヘラちゃんは腰に手をあてて、得意げに鼻を鳴らした。その姿に、しっぽを振る子犬が連想された。

言われとおりに頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目をほそめた。素直さが愛らしい。

 

「なんでそこまでALOやりこむようになったの?」

「だって、起きてなきゃ死んじゃうよ?」

 

確かにそうなんだけど……!

 

「いや、それ以前の問題っていうか……」

「そんなことよりさ! ライトくん、今から出発しないと集合時間に間に合わないのだよ!」

「うぇっ!? 世界樹までってそんなに遠いの!?」

 

上空から見ても、木が大き過ぎて距離感が掴めていなかった。どうやらアルヴヘイムは僕の想像より遥かに広大らしい。

 

「うん。普通の速度だともう遅刻だけど、ライトくんならギリギリかな?」

「それだとヘラちゃんが間に合わないんじゃ……」

 

瞬間速度は大差無いものの、トップスピードは僕の8割くらいだったはず。

だが、ヘラちゃんにも案があるらしく、笑顔でサムズアップをしてきた。

 

「だいじょーぶ! ワタシはリュータローと合流してから行くから! まあ、ちょっと遅れるかもだけど……」

 

ヘラちゃんは耳をへたれこませた。

ゲーマーの彼女としては、グランドクエスト攻略開始の瞬間に立ち会えないのが悔しいのだろう。

口を曲げている白猫少女に、いたずら心が呼び起こされる。

 

「もしかすると、ヘラちゃんが着くまえに全部片付いちゃうかもね」

「にゃ~……。まあそれは別に良いのだけど」

「良いの!?」

 

じゃあなにを残念がっていたんだ?

いやいや。雑談している場合じゃないよね。

 

「じゃあ僕はいくね! ヘラちゃん、また後で!」

「ちょっと待った!」

 

平手を突き出して、僕を止めたヘラちゃんは、蕾のように小さな口で指を咥えた。甲高い口笛が響く。

そういえば、ヘラちゃんの口笛を前も聞いたことがあるような。あれは確か……

 

「トリタローを呼ぶためだっけ?」

「そ! よく覚えてたのだね! ライトくん、トリタローに乗せてってもらうと良いのだよ!」

「ええ!? そんなわざわざ!」

「遠慮しなくて良いのだよ。だってライトくん迷いそうだし。ヨツンヘイムにまた落ちるかもだし。誰かが一緒にいないと不安なのだね」

「うぐ……」

 

反論できない……。

 

「その点、トリタローがついてるなら安心……って言ってる間にきたのだよ。おーい! トリタロー!」

「クェーッ!」

 

ダンプカーもかくやの怪鳥が、両翼を大きく広げながら差し迫ってくる。僕らの近くで急停止すると、引き連れられた風がビュウっと吹いた。

 

「ライトくんを世界樹まで連れて行ってあげて欲しいのだよ! いける?」

「クゥッ!」

 

身体のわりに小さな頭を、こくんと縦に振った。見た目とのギャップがあるせいか、素直な動作は少し可愛らしい。

 

「よろしくね、トリタロー」

「グェッ!」

 

本当にモンスターだよね? 人語を解しすぎている気がする。ゲームなのだし、そういうものだと割り切った方が良さそうだ。

トリタローは乗りやすくしゃがんで、僕に背中を差し出してくれた。ヘラちゃんのテイミングした子はみんな良い子だ。

ダチョウじみた背中を撫でてから飛び乗った。

 

「じゃあまたあとでね」

「うん。できるだけ早く行くのだよ!」

 

最後のあいさつを交わすのを待って、トリタローは急発進を開始した。

 

 

 

道中のモンスターは無視し、プレイヤーは説得し、僕らはなんとか約束の20分前に世界樹にたどり着いた。

深い森を抜けると、世界の中心だった。

遠くで見てもわかってはいたが、近づくと一層デカい。上部は雲を軽々と突き抜けている。幹の直径に至っては、100メートルはありそうだ。

樹皮に刻まれた荘厳な皺は、言外の圧力を醸し出す。モデリング班は変態だなあ、なんて益体もない思考が過る。

木の周りは不毛だった。まるで養分が全て巨木に横取りされたよう。

無数の歳月が凝り固まったが如き神樹の根元に、黒と緑の粒みたいな人影があった。

黒い方は男の子だった。なんの種族だろう? 浅黒い肌の、大剣を背にした少年剣士だ。

緑の女の子はたぶんシルフだ。種族選択の際、ケットシーかシルフで最後まで迷っていたから覚えている。

薄緑の髪と、普段は快活そうな顔立ちが魅力的な美少女だ。

普段は、と断ったのには理由がある。今、女の子の両目は、赤く泣き腫らしていた。

こんなところで痴話喧嘩か……。

ちょっと気が滅入りかけた僕に向かって、見ず知らずであるはずの少年剣士が手を振ってきた。

 

「おーい! おまえ、ライトか?」

「うぇっ!? なんで僕の名前を!?」

「やっぱりか。俺はキリトだよ」

 

ほう。

 

「ALOでも新たに手駒にしてるのか、この女誑しめ!」

「ななな何言ってんだ! 人聞きの悪い!」

「お兄ちゃん……?」

 

女の子の表情が笑顔で固まる。

良い笑顔だ。FFF団の素質がある。

っていうか、お兄ちゃん?

 

「キリトの妹さん?」

「ああ。義理の、なんだけどな」

 

なんだこいつ。ラノベ主人公か?

なにはともあれ、友人の妹に挨拶しておかねばなるまい。ついでに義理のお兄ちゃんに爆弾をプレセントしよう。

 

「僕はライト。よろしくね」

「私はリーファです。よろしくお願いします」

「しかしリーファちゃんも災難だったね」

「え? なにがですか?」

「キリトの妹になっちゃったことさ。SAOでのキリトは、それはもうナンパ師として名が通っていてね。出会う女の子をみんな攻略しちゃうもんだから、『黒の剣士(意味深)』なんて呼ばれていたくらいで……」

 

言いかけたところで、グリフォンに鷲掴みされたのかと思うほどの握力が、僕の右肩を襲った。犯人の黒の剣士(笑)は陶芸みたく固定された笑顔をみせる。やはり兄妹なだけある。

 

「よし、ライト。おまえ一回だまれ」

「お兄ちゃん? アスナさんの他にも……」

「違うぞスグ! これはライトの妄言で……」

「あ、ごめんごめん! キリトのたとえにナンパ師とか、過小評価にもほどがあったね!」

 

キリト本人にその気がなくとも落としてしまえるあたり、ナンパ師なんかよりよほどタチが悪い。ほんと羨ま妬ましい。

ついにキリトは笑顔を崩して普通に怒鳴った。

 

「よし、戦争だ。表出やがれ!」

「口で勝てないからって暴力かい? 野蛮だなぁ……」

「自分に似合わない台詞ナンバーワンを、よく恥ずかしげもなく吐けるな」

「なんだとこの野郎! 頭脳でも体術でも勝てないことを証明してやる!」

「上等だ! 存在しない脳みそごと捻りつぶす!」

「喧嘩はダメですよ、ふたりとも! 」

 

毅然と意を示したのは、僕の目鼻の先に突如として現れた、小さな小さな女の子だった。

 

「もしかして……ユイちゃん!?」

「はい! お久しぶりです、ライトさん!」

「こんなにちっちゃくなっちゃって……。パパにご飯食べさせてもらえなかったのかな?」

「飯抜くだけでそこまで縮むかバカ」

 

パパはキレキレだなあ。

女子小学生くらいだったユイちゃんの身長は、今やマグカップとどっこいだ。ピンクの花を模した服に半透明の煌めく翅。これではまるで……

 

「本物の妖精みたいだね」

「えへへ……照れちゃいますね」

「ここにユイちゃんがいるってことは、復元できたんだね。確かあのとき……」

 

あれ? 誰がユイちゃんをアイテム化して保存したんだっけ?

ユイちゃんと一緒に黒鉄宮へ、僕と、キリトと、アスナと……。

────頭が、痛い。

 

「ああ。俺がユイをアイテム化したんだったな」

「そう、だったよね」

 

だったっけ?

キリトは何ら疑問を感じていないらしい。本当に僕の記憶違いなのか。

吹き荒ぶ冷たい風が、記憶をこそげ取っていくみたいだ。

渦巻く思考は、耳元のささやきにせき止められた。

 

「ライトさん。少しお話しがあります」

「なにかな、ユイちゃん?」

「ライトさんは、アレックスさんを覚えてらっしゃいますか?」

 

その一言は、僕をAIの少女へと振り返らせるのに充分な威力を伴っていた。

 

「そ、そうだ! 誰か知ってる人にアレックスのことを聞きたかったんだ! あのね、ユイちゃ……」

「良かったぁ……ライトさんは忘れていらっしゃらないんですね」

「ライトさん『は』って……」

 

その言い方じゃ、まるで……

続く言葉を肯定するような、ユイちゃんのうなずき。

荒涼とした広場に、かしいだ日が一段と強く照りつける。

冬の冷たさを忘れたような、ジリジリと焼けるような空気の中、告げられた一言はあまりに順当で、それ故に信じたくなくて。

 

「パパは、アレックスさんの存在自体を完全に忘れています」




次回決戦開始、とか前回ほざいていたにも関わらずこの体たらく。次回は始まります!!

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