僕とキリトとSAO   作:MUUK

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今回はちょっと早かったですね。

実は、前回の時点でラストまでいくかな、と思って書いてたんです。そしたら、大幅に字数が多くなったので分割にしまして。
だから今回は早かったんですよね。


第五十二話「妖刀」

「あら、シリカ……と、そのお友達。奇遇じゃない」

「ええ、ホント、奇遇ですね。奇遇すぎて……」

 

────笑ってしまう。

振り向いた先には、案の定ロザリア。その傍らに、いかにも屈強な男達が列を成していた。

 

「首尾よくアイテムをゲットできたみたいじゃない。よかったわね。まあ、あんたはそこの女にくっ付いてただけなんだろうけど」

 

あまりに嫌味がましい言葉を吐きながら、ロザリアは秀吉を顎で指した。

当の秀吉は、肩を竦めて、芝居がかった口調で応じる。

 

「いやいや、シリカもなかなかどうして筋が良かったぞい。少なくとも、貴殿を連れるよりは役に立ったじゃろうな」

 

ロザリアは無言のまま、嫌味をさらりと受け流した。

秀吉は、眉をピクリと動かしたかと思うと、すぐに平静に戻って放言した。

 

「しかしまあ、よくもここまで辿り着いたもんじゃの」

「アンタ達が馬鹿丁寧にMobを潰してくれたお陰ね。あ・り・が・と・う」

 

嫌味たらしく、突きつけるようにロザリアは謝辞を述べた。

 

「ふむ。なら、一体くらいそちらに流せば良かったかの。お主らの体力も減るし一石二鳥じゃったな」

「マナーがなってないわね。まあ、そんことされても、隠蔽スキルで回避してだろうけど」

「じゃろうな。お主らが要所要所でスキルを発動するのは視認出来ておったしの」

「なに?アンタ、あたし達に気づいてたとでも言いたいの」

「うむ。もっと言えば、昨日の宿屋で聞き耳を立てられていたことにも気づいておったぞ?」

「…………っ!」

 

ロザリアは息を呑んだ。

完全に隠匿しきっていると思われた自分達の作戦が、既に看破されているという事実。それに、ロザリアの自尊心は傷つけられた。

だが、そんなことにはお構い無しに、シリカは場違いに紅潮した。

昨日の秀吉との会話を思い出し、急に羞恥が湧いて出たのだ。

『そんな絶景を前に、隣に秀吉さんが居てくれたなら、あたしは、きっと幸せです』

……秀吉さんは、聞き耳に気づいていたから、恥ずかしいことを言うな、なんて言っていたんだ。なら、メモか何かでこっちにも知らせてくれれば良かったんじゃないかな。

それならあたしも、あんなに恥ずかしいコト言わなかったのに……。

 

「なら、アタシ達がこうして取り囲んでる理由(ワケ)、アンタも薄々分かってんでしょ?」

「さあ、何のことやら」

 

秀吉の台詞に、ロザリアは眉を顰め、舌を鳴らした。

 

「いちいち癪に障る奴ね。頭の悪いアンタでも分かるように、アタシが解説してあげましょうか?」

「これはどうも、ご丁寧に。ならば、その解説とやらを授からせて頂こうかの」

「ええ、いいわ。つまり、アタシが言いたいのはね、その薄汚い花をこっちに渡しなさいってコトよ」

 

ロザリアの目つきに凄まれ、シリカは、手にした二つのアイテムを、胸に強く抱き抱えた。

渡したくなかった。渡してしまえば、ピナとはもう二度と再会することが出来ないのだから。

だが、シリカには、諦観の念も浮かんでいた。

素直に花を譲渡した方が良いのではないだろうか。そうすれば、確かにピナを生き返らせることはできないが、無関係な秀吉を巻き込む心配はなくなる。

秀吉の強さについては、充分に承知しているつもりだ。ロザリアとの一騎打ちならば、敗北などまずあり得ないだろう。

だが、相手方は十数人の団体だ。

さすがの秀吉でも、この人数を相手取ることは不可能だろう。

まして自分では、戦力の頭数になるかすら怪しい。

────でも、そんなに簡単に、ピナの命を諦めてもいいものか?

あたしにとって、ピナな大切な友達で、唯一無二のパートナーだ。

そんなピナを蘇生させる、千載一遇の機会を、こんな簡単に棒に振っていいのか?

でも、諦めなければ秀吉が……しかし、いや、だって……

その時、背中を押す、暖かな手のひらの感触があった。

 

「自分で決めればよい。わしは、お主の決定に、全力で従うぞい」

 

そんな秀吉の後押しが、相克する葛藤の只中にあったシリカの意識を引っ張りあげた。

 

「ほら、どうするの、シリカ?大人しく渡すって言うのなら、手を引いてあげるわ。けど、その逆は、わかってるわよね?」

 

あやすようなロザリアの声音。

だが、それとは裏腹に、目も口も、平坦に固まっている。

笑顔の裏に込められた毒牙に、シリカは立ち竦み、救いを求めて秀吉を見た。

秀吉は、目線を合わせ、シリカの背中に当てた腕を一気に振りかぶった。

パン、と快活な音が響く。

前のめりになり、二、三歩よろめく。急な行為に戸惑い、行動の真意を求めて秀吉に振り返った。

その時、秀吉は笑っていた。

抱擁のような笑みだった。

────ああ、この人は、なんて優しい人なんだろう。

覚悟は決まった。

きっとこの人ならば、こんな状況でも、なんとか打破してくれるに決まってる。

だからあたしは、あたしのやりたいように言えばいいんだ!

 

「────やです」

「ん?なに?もうちょっと大きな声で言ってくれないかしら?」

「────嫌です」

「は?」

「アイテムも手に入れたのに、もうあと一歩で生き返らせてあげられるのに、あなたみたいな人達のせいで、ピナを諦めるなんて、絶対に嫌ですっ!!」

 

数瞬間、呆けたように固まってから、ロザリアは、鼻白んだ表情を浮かべた。

 

「ふん。そうかい。なら、あんた達、やっちま……」

 

────蛇が奔った。

ロザリアが指令を出すよりも疾く、彼女の首には、死神の牙が擡げられていた。

 

「なっ……!!」

 

視認など、この場の誰にも許されなかった。

侍の一閃は、冷酷無比に刃を添える。

たった一歩の踏み込み。

ただそれだけが、次元の違う疾さだった。

 

「詰みじゃ」

 

ロザリアの耳元で囁かれたその声は、心臓を握り潰さんとする圧力を伴っていた。

戦慄した。

甚く圧倒的な力量の差。それに身震いを禁じ得なかった。

勝てない。絶対に勝てない。この場の全員が、一斉に襲いかかったところで、この侍は、それを容易く凌駕する。

其の御前では、肉叢(ししむら)など虚空も同然だ。

薄紫色に光る刃は、死の気配を濃密に孕む。

その瘴気にあてられたロザリアは、恐慌を露呈しながら、半ば叫ぶように言った。

 

「あ、あんた……何者よ。()のカタナ使いが攻略組にいるなんて話、聞いたことも無いわよ!」

 

攻略組。そう考えるしかなかった。

これほど出鱈目な力の持ち主ならば、最前線、その中でも最高レベルの実力者に違いない。

だが、ロザリアの知っているカタナ使いの最前線プレイヤーは二人だけだ。

一人は、風林火山のギルドマスター、クライン。

そしてもう一人は、トップギルドの一角たるサーヴァンツ、その剣客、秀吉。

しかしながら、この両者は揃って男性だ。

どちらも顔を見たことは無いが、そう伝え聞いている。

だからこそ、眼前の女の存在は、あまりに不可解だった。

その時、ロザリアの幕下に控える男達の一人が、侍のカタナを指差して、慄くように声を上げた。

 

「ロ、ロザリアさん。そのカタナ……『獄蛇』だ!」

 

『獄蛇』。

一度斬れば、標的は毒を受け、連撃を繋げば、毒の効果は持続する。状態異常のバットステータスを持つ剣の中で、最強と目される業物だ。

しかし、それをもつのは、秀吉と呼ばれるプレイヤーの筈。

目前の女が、そのカタナを持ち得る道理はない。

あまりに理不尽な状況に、ロザリアは最大の糾弾を放った。

 

「ご、獄蛇って……魔剣クラスの妖刀じゃない!で、でも、それを持ってるのは、秀吉って()の筈じゃ……」

「わしが女であると、いつ言った?」

 

理解した。

そも、自分は勘違いしていたのだ。

 

「そ、そんな……っ!」

「さあ、どうする?このまま首を跳ねられるか、それともブタ箱にぶち込まれるか」

「な、なによ。まだ未遂じゃない。そんなので、アンチクリミナルコードには引っかからないわよ!」

 

ロザリアの言葉を聞き、秀吉はやにさがった。

そして────

 

「六日前、二十六層、パーティ全滅事件。

二週間前、八層、ギルド解散事件。

十日前、十五層、金品強奪事件。

この他にもまだまだあるぞい。これだけの事をしておいて、よくもそんな白が切れたもんじゃな」

「な、なんで……」

「知ってるのか、とな?うむ。少々、諜報に長けた友人がおっての。お主らの事を調べてもらったのじゃ。そしたら、出るわ出るわ悪事の数々。一周回って面白くなってきたくらいじゃ。まったく」

 

奥歯を軋ませながら、秀吉は言った。その声音が孕むのは、どう見積もっても怒気だけだった。

ロザリアは、よろけるようにへたり込んだ。

 

「コリドーオープン!」

 

秀吉が、聞きなれない起動式を上げた。

すると虚空に、二メートルほどの、扉のような青白い光が浮かんだ。

 

「ここに回廊結晶がある。黒鉄宮直通の特別製じゃ。さあ、どうする?」

 

秀吉が言うと、列なす男達が、一人また一人と、ワープゾーンまで力無く歩いていった。

そうして、盗賊然とした男達が全員、黒鉄宮に送還された。

後に残るのは、地面に座り込んだロザリアだけだ。

 

「む……どうした?お主はワープゾーンに入らんのか?」

「ふ、ふん!あたしのカーソルはグリーンよ!黒鉄宮に送還されても、瞬時に監獄送りにはならないし、まして、あたしを攻撃すれば、アンタがオレンジに……」

 

そこまで言ったところで、ロザリアの手の甲を、『獄蛇』の鋒が掠った。

秀吉のカーソルが、新緑色から、明褐色へとすり替わった。

 

「……えっ?」

 

シリカとロザリアの両者から、ほぼ同時に驚嘆が漏れた。

 

「お主を毒の状態異常にした。一秒間に千ダメージずつ加算されてゆくぞ。

────さあ、お主の命はあと何秒じゃ?」

「な、なんで、そんな……オレンジになるのに……!?」

 

ロザリアは、呂律も回らず叫び出す。

そんな相手を犯罪(オレンジ)(プレイヤー)となった侍が()めつける。

 

「カーソルの色がなんじゃ。そんなもの、カルマ回復クエをクリアすればよいだけじゃろう。さあ、どうするのじゃ、ロザリア。黒鉄宮は『圏内』じゃぞ?」

「…………っ!」

 

ロザリアは、歯噛みしながら、転移門へと飛び込んだ。

そして、コリドーは収束を始めた。

シリカと秀吉の二人は、顔を見合わせ、微笑みを交わした。

やがて、両者は揃って帰路に着いた。

 

「秀吉さんのお友達って、凄い人ですね。一晩で、あれだけの情報を調べ上げちゃうだなんて」

 

まずは、最も気になった事について話題を振った。

実際、『彼』の手腕は尋常ではない。

情報管理の甘いあたしの事なら、一時間くらいで調べ上げちゃうんだろうなあ、などと独り言ちていると、秀吉は、手柄顔を作り、まるで我がことのように言った。

 

「うむ。あやつは、普段は頼りないんじゃが、その筋に関してはエキスパートじゃからの」

 

そう言い切ると、打って変わり、秀吉は神妙な容貌を呈した。

急な表情の変化に、ほんの少しドギマギしてしまう。

少し硬くなりながら待った秀吉の言葉は、シリカにとって、少々意外な物だった。

 

「ところでシリカよ。お主に謝らねばならぬ事がある」

「な、なんですか?」

 

秀吉は、目を伏せながら続けた。

 

「実はの、わしは今回の件に関して、少しばかり私情を挟んでおったのじゃ」

「それは、どんな?」

 

答えが齎されるまでの数瞬間、想像を巡らせる。

この事件の中で、秀吉の得になるような事があっただろうか。

いや、そもそも、秀吉に助けて貰ったのはこちらなのだ。

自分は、謝りこそすれ、謝られるような身分ではないではないか。

 

「今、攻略組は、とある集団を見つけ出そうと躍起になっておるのじゃ」

「集団って、どんな?」

「うーむ……一応、極秘情報なのじゃが、シリカになら言っても問題なかろう。『ラフィンコフィン』というギルドを知っておるか?」

 

『ラフィン・コフィン』

その名を知らぬなど、言える筈がない。

笑う棺桶の名を冠するそのギルドは、アインクラッド初にして唯一の殺人専門ギルドなのだ。

体力の消費が死に直結するこの世界では、どれほどの悪党であっても、殺人は忌避すべき物だ。

だが、ラフコフだけは違う。

彼らは嬉々として人を殺し、愉悦に浸る。

そこに、善悪の呵責は存在しない。

ただ、殺したいから人を殺す殺人集団。

それが、シリカの知りうるラフィン・コフィンの情報だった。

 

「ええ……殺人(レッド)ギルドの……」

「うむ。今、わしらはそやつらの影を追っておるのじゃ」

 

その言葉は、予想できた。

けれど、聞きたくなかった。

聞きたくなかった?

なぜ、あたしはその作戦を聞きたくなかったのだろう。

殺人鬼達が捕まるというのなら、むしろ好ましい自体ではないのか。

策略の一端を聞いてしまったことで、殺人者に狙われるとでも思ったのだろうか。

冗談。

あたしはその考えへと瞬時に至るほど頭の回転は早くない。そもそも、そんなに利己的じゃない……と信じたい。

なら、どうしてだろう。

いや、多分、わかってる。

自分でも、分かっているのだ。

きっとあたしは、秀吉さんをレッドプレイヤー達と遭わせたくなかったんだ。

もしかすると、秀吉さんは、殺されてしまうかもしれない。だから、そんなのは嫌だと思ったんだ。

保身より早く、真っ先にそう思ったのは、きっと、あたしは秀吉さんのコトを大好きになってしまったという事なのだろう。

そう、シリカは結論づけた。

 

「今回の件で尻尾くらいは掴めるかと思っておったのじゃが、まったくの別件じゃったの」

 

秀吉は、苦虫を潰すように言った。

その落胆は、シリカには推し量るべくも無い。

少しでも力になれないだろうか。そう思ってみても、非力な自分では、出来そうなことなど思いもよらなかった。

それからも、他愛の無い話を語らいながら、二人は逍遥を続けた。

そして────

 

「ではな。また縁があれば、出会うこともあるじゃろう」

 

そう言って、秀吉は転移門の前に立った。

────言わなきゃ。

今言わなきゃ、この人は、また遠いところへ行ってしまう。

あたし程度の実力じゃ、いつまで経っても辿りつけないような場所に。

なのに、渇いた口は動いてくれない。

感情が本能に抑圧される。

理性が知性に圧迫される。

シリカは理解しているのだ。待ち受ける困難を。

今ここで、ついていきたいと懇願すれば、秀吉は快く了承してくれるだろう。

けれどそれは、茨の道だ。

圧倒的なレベルの格差。

現在の層とは比較も憚られる、強力なモンスター達。

それらはあまりに高すぎるハードルだ。

だからこそ、言葉はどうしても(カタチ)にならない。なってくれない。

最後の一歩が、どうしてもシリカには踏み出せなかった。

その時、シリカに背を向けたまま、秀吉が、言い聞かせるように呟いた。

 

「ああ、そうじゃ。ウチのギルドは、攻略組にしては、著しく人数が少なくての。せめて前衛があと一人増えたら大助かりなんじゃ。まあ、無理にとは言わんがな」

 

息が詰まった。

喉元に熱感がこみ上げて、目から水滴が溢れそうになる。

ああ、本当に、なんて優しい人なんだろう。

 

「────はい!」




これにてシリカ編、完結です。

そして、次回はまたまたオリ展開です。
内容は、秀吉の言っていた通り、ラフィンコフィン決戦編!
お楽しみに!
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