本年もどうぞ宜しくお願い致します!
この小説は、今年も皆様の暇潰しとなれるよう、誠心誠意精進してまいりますので、どうか、楽しくお読み頂ければ幸いです!
「チッ!」
PoHが、口惜しげに舌を鳴らした。
「ったく。面白くねぇなぁ。もうちょいお前が弱く居てくれたなら、友食いも狙えたかもしれねぇのによ」
なるほど。その作戦は効率的だ。
僕を焚き付け、理性を失わせれば、間近に居る仲間達に危害が及ぶのは目に見えている。
ラフコフは其の後で、仲間達との戦闘で弱った僕を不意打ちすれば事足りる。
何より、この催しはPoHの嗜好に合致しているのだろう。
「そうか。つまりお前、ぶん殴られたいんだな?」
僕の口から発せられたその声は、極地のように抑揚が無かった。
PoHは忍び笑いを洩らす。この洞窟を思わせる陰鬱な笑いだ。
そうして、殺人鬼は右手親指で肩越しに後ろを指した。
「殴れるもんなら殴ってみろよ。ただしあれを見てからな」
その指先に在った物は────ティアの首筋に、鉄針が当てがわれている光景だった。
白雪が如き頚椎は、今や無骨な鉄塊によって貶められている。
「人質は良いよな。形式美だ。これほどスマートな手も無えぜ?」
殺人鬼の親玉は、何が可笑しいのかくつくつと笑い続ける。
蜚蠊の足音を思わせる、生理的に不快な嬌声。
それにつられて、死刑執行人たるジョニーブラックも嫌らしい笑みを見せた。
「よし。今すぐお前らをぶっ飛ばしてやる」
僕の怒り任せの発言は、ジョニーの哄笑に上書きされた。
「んんー。良いのかな、そんな事言っちゃって?
アンタが神耀を発動してから移動完了までの所要時間は0.03秒。そこで技後硬直を挟んで拳術スキル『封炎』を発動するのに0.08秒。その拳がオレに届くのに0.04秒。
ほうら、ざんねーん! オレがティアを刺す方が速いよねぇ、ライトクン?」
悔しいくらいに図星だった。いや、むしろこの数字は早目に見積もっているくらいだろう。
恐らく、先ほどまでの戦闘で僕の動きを見切っているのだろう。『鎧』を着た僕が同じ行動をすれば、きっとジョニーの目算通りになる筈だ。
態度とは裏腹に、ジョニーブラックは何処までも冷静沈着だ。
今の僕に、この場を逆転する手立ては無い。
ティアの命を優先させるなら、ここは一つ、下手に出るべきだろう。
「…………分かった。僕達はどうすれば良い?」
無味乾燥な僕の声音に応じたのは、この事件の首謀者であるラフコフのリーダーだった。
「んー……どうする、ボルト?」
それは意外な問い掛けだった。
PoHは用心深い男だ。こんな重要な決断を、新入りのボルトに任せるとは思っていなかった。
いや、逆か。
この機会を利用して、ボルトの心理を計っているのかもしれない。
つまり、ボルトがどれほど僕らに非情な決断を下せるか。それを確認した上で、ボルトを信頼に足る人物かどうかを見極めようと言うのだろう。
PoHが不安になるのは当たり前だ。だってボルトには、僕らを裏切った前科が有るのだから。
僕は、ボルトの口が開かれるのをじっと待った。
「そうだな……」
ボルトの嫌らしく湿った声が、岩屋に染みた。
「まず、ライト以外の三人、麻痺らせろ」
「なら、ライトはどうするんだ?」
「両手足を縛れ。このバカは、そっちの方が面白い」
「Perfect! お前最高だぜ、ボルト!」
ボルトはそんな、考え得る限り最悪で最高な答えを提示した。
血液が沸騰する。
どうしても、あの裏切り者をぶっ飛ばさなきゃ気が済まなくなった。
「ボルト! お前───」
「抑えて、ライトさん。今はボルトさんに従いましょう」
冷酷とも取れる声で、アレックスは言った。
「なんで!? あいつらは殺人集団なんだよ。従ったって殺されるだけだ。なら、ここで仕掛けた方が……」
「いいから。私を、信じてください」
光線のように真っ直ぐな瞳で、メイサーは僕を見つめる。
ああ、弱った。そんな目をされちゃ逆らえない。
「……うん」
僕がそう言うと、アレックスは胸を撫で下ろした。
すると間を置かずにザザから怒号に近い質問が発せられた。
「おい。話し合、いは終わ、ったか?」
「ああ、ボルトのオーダー通りにしよう」
僕はザザへと振り返り、出来るだけ高圧的な声音を出した。
今更状況は覆らない。圧倒的に此方が不利だ。威丈高にしても何ら意味は無い。
けれどそれは、僕の精一杯のプライドだった。
「よし。テメェら、適当にヤれ」
PoHの楽しげな命令がかかる。
それを受けて、如何にも悪人面といった男達が、僕らの周囲を取り囲んだ。
作業は手際良く終わった。
僕は四肢を麻縄で縛られ、三人は不随の毒牙を受けた。
憤りを隠しきれず、僕は口早に言った。
「ほら、言う通りにしたぞ。だから、早くティアから針を遠ざけてくれ」
反応は、PoHの失笑だった。
それが順々に、ラフィンコフィン全体へと伝播していく。
「何だ! 何がおかしい!?」
不可解な笑いが気持ち悪くて、堪らず叫んでしまう。
それすらも笑い捨てるように、殺人集団は際限を増していく。
ひと段落がついた頃、ボルトが、今にも噴き出しそうになりながら口を開いた。
「なあ、ライト。俺達がいつ、お前らが従順ならティアの殺害を取り止めると言った?」
意味が、分からなかった。
ちょっと待て。落ち着け。冷静に。思考をクリアに。考えろ。考えろ。考えろ!
ああ、そうだ。確かに奴らは、ティアを解放するなんて言ってない。
けどでも、あの流れなら、それは暗黙の了解だろう。ふざけんな!
いや、怒るな。今はティアを救う事が先決だ。冷静に。あくまで冷静沈着に。
あ、そうだ。アレックス!
アレックスは、私を信じろと言った。なら、この状況において何らかの策を持っている筈じゃないのか。
拘束された身を捩らせて、アレックスを視界に収める。
彼女は、床に突っ伏して動こうとしない。
え、そんな、いや、でも、なんで!?
クソッ!
どうしたら良いって言うんだ、畜生!
「残念だったなぁ、ライト。所詮お前じゃ、ティアは救えなかったっつーコトだ」
響いたのは、昨日まで仲間だった
そこで、僕の理性は決壊した。
「ボルトォッ!! テメェ────ッ!!!」
拳術スキル『神耀』で、裏切り者との距離を零にする。
そのまま体術スキル『天衝』により、ノーモーションで頭突きを炸裂させる────ッッ!!
歯を食いしばる。朱色のライトエフェクトが生成される。
瞬間。この身は紅の弾丸と相成った。
ならば、それを止めるのは如何なる理不尽か?
いや、違う。
ボルトが行ったのは飽くまで予測。
挑発で僕が神耀をすることを見越し、尚且つ、両手両足を縛る事で、使用可能な技を天衝だけに制限した結果の、完全なる行動予測だ。
故に、この結果は必然だった。
僕が神耀を発動するよりも早く、ボルトは体術スキル単発蹴り『舟撃』のモーションに突入していた。
スキルを阻まれ、手足に自由の無い僕には、倒れ伏す以外の選択肢は存在し得なかったのだ。
ボルトの右脚が、僕の胸を踏み込んだ。
「お、いーね、ボルちん。そいつ殺す手間が省けたわ」
軽い調子でそう言ったのは、今まさにティアを死に至らしめんとする殺人鬼、ジョニーブラックだった。
ボルトは、彼の言葉に応えるように、口角を吊り上げた。
そして、ボルトの冷やかな侮蔑が僕に投げられる。
「ジョニーの鎧通しがティアの喉を抉ってるぜ? ほら、助けなくて良いのかよ」
「クソ、クソ、クソ!」
鳩尾を踏まれ、掠れた声で怨嗟を叫ぶ。
「……う………ぁ」
その時、呻いたのはティアだった。
深い眠りに落ちながらも、彼女の額には玉のような汗が浮かんでいる。
見れば、ティアの体力は残すところ半分となっていた。
地に臥しながらも、僕はティアへと縛られた腕を伸ばす。
それすらも、ボルトの脚に阻まれる。
「悔しいか? 憎いか? けどな、お前の英雄譚はここで終わりだ。御伽噺はバットエンドで閉幕した。そして────」
ボルトが、徐にハルバードを振り上げた。
ああ、振り下ろすのか。
機械的にそう思った。
四肢は捕縛され、身動きできない。
神耀にも待機時間が有り、発動できない。
可能性が有るとすれば、援軍か。
それでも僕は助かるまい。
だからせめて願っておこう。
援軍によってティア、そして皆が救済される可能性を。
そして僕は、ハルバードの軌跡を呆として見詰めた。
巨大な鉄くれは、空を裂き、音を立てて凱旋する。
鉾槍の刃先は、無謬無く獲物を捕らえ、そして────
──────ジョニーブラックの首が、一息に両断されていた。
「次は俺達の番だ」
殺人鬼の殺人犯は、物憂げな笑みを零した。
僕の命を狩る直前、ボルトのハルバードは直角に曲がった。
笑う棺桶の幹部の一人は、嗤いながら堕ちていく。
遺された身体が待つモノは、ポリゴン片という未来のみだった。
「先に訊いとくが。ボルト、お前、何故ジョニーを殺した?」
仲間が殺されたにも関わらず、PoHは至って楽しげな口調を崩さない。
そんな狂人とは対照的に、ボルトは毅然としたまま一歩進み出た。
「何故もクソも無えよ。大将、俺はな、腐ってもサーヴァンツの一員だ」
ボルトの科白に噴き出すように笑ってから、PoHは叩きつけるような大声で言った。
「なるほどな。テメェ、ハナからそういう腹だったって訳か。だがどうする? 未だ数の差は圧倒的だ。援軍も来る気配が無い。その状況をどうやってひっくり返す?」
勝ち誇ったようなPoHの言葉。
それを嘲るような視線で、ボルトは、腰から一つの結晶アイテムを取り出した。
見慣れない結晶だった。転移でも回復でも記録用でもない。
しかしそれを見た途端、PoHの表情から余裕が消えた。奴の顔に残っているのは、殺意を籠めた鋭い眼光のみだった。
「やっぱテメェ、筋金入りのクズ野郎だな」
唾棄するようにPoHは侮辱を発する。
余裕を見せるのは、今度はボルトの番だった。
「クズの王様からお褒めに預かれるとは、こりゃとんだ災難だ」
それが火蓋を切った。
瞬間、PoHは怒号に近い命令を下す。
「テメェら! ボルトを殺せ! 今すぐに!」
それを嘲笑うかのように、ボルトはぼそりと結晶発動の呪文を呟いた。
「
ボルトの真横に、青白い光が明滅しだす。それは次第に鮮明に、鏡のような穴ぼこを、何も無い空間に創り上げていく。
明らかに、回廊結晶の光だ。
本当、登場するのが遅過ぎだ。いや、違うな。ヒーローは決まって遅れて来るものだ。
歪んだ空間から徐に現れたのは、漆黒のレザーコートを身に纏った小柄な剣士。
顔には幼さが残り、女と言われれば信じてしまいそうなぐらいに中性的だ。
だが、その少年が持つ一種の圧力は、この場の誰とも一線を画している。
当たり前だ。彼は、誰よりも強い。
手にする得物は、超が幾つあっても足りない程の業物『エリュシデータ』。
その剣は、揮われる事を待ち侘びたように艶やかな黒を呈する。
そうして黒の剣士は、ボルトを絶たんとする有象無象を、ただ一刀の下に斬り伏せた。
「……ったく、待ちくたびれたぜ、ボルト。俺は調査なんて柄じゃないんだ。剣が鈍る」
顔にシニカルな笑みを浮かべながら、少年は冗談交じりにボルトに言った。
「抜かせ。スキルとレベルが物を言う世界で、一日二日で技倆が変わるかっての」
安堵のような笑いを頬に浮かべ、ボルトは軽口を叩く。
「なるほど、そりゃ一理ある」
ボルトの言葉に、少年は芝居っぽく肩を竦ませる。
目線を合わせ、二人は拳を突き合わせた。
そして、少年は真正面へと向き直る。
見据えるのは、この災禍の元凶。
アインクラッドの全プレイヤーを震撼させた殺人ギルドのリーダーだ。
「さあ、こっからは、俺ら裏方サイドの反撃開始だ!」
キリトの凛とした声は、洞窟全てを照らすよう響き渡った。
黒の剣士、推参!
さあさあ、出番の無かったキリト君が、ようやく出てまいりました!
しかしここで残念なお知らせ。僕の冬休みの宿題が、全然終わっていません!
しかも、冬季課題考査も控えております!
というわけで、二週間ほど投稿出来ませんので悪しからず。