この調子で頑張ってたら、いつごろアインクラッド編終わりますかねー。
百話にはならないと信じたいです。
「…………なっ!?」
ヒースクリフの発言の意図が掴めず、ユウは口をパクパクとさせた。
ライトが欲しい?
意味は分かる。
だがワケが分からない。
それは、ライトを血盟騎士団に引き抜かせろ、という事に違いない。
だがその報酬は、血盟騎士団にとってメリットは薄く、サーヴァンツにとってデメリットが重い。そうとしか思えないからこそ、ユウは驚愕しているのだ。
血盟騎士団は、充分に洗練された部隊だ。
ギルドとしての力は、アインクラッド中で紛れもなくトップ。ギルドメンバー数で言えばサーヴァンツの五倍はあろう。
そんなギルドが何故、ギルド間の関係悪化というリスクを負ってまで、たった一人の人員をヘッドハンティングしようというのか。
ユウには、まるで理解など出来なかった。
混乱の只中にある脳内を殊に掻き乱したのは、リンドの刺々しい嫌味だった。
「なるほど、そうきたか。流石だな、ヒースクリフ。悪知恵にかけて、君の右に出る者はいない」
「お誉めに預かり恐悦の至りだ。だが、奸計の熟練度では、君には負けると思うがね」
二人のギルマスが舌戦を繰り広げる中、ユウは知力を尽くして考えた。
もしもライトを血盟騎士団へと譲り渡せばどうなるか。
サーヴァンツメンバーは、全員がまさしくトッププレイヤーだ。
だが、皆に共通する一つの欠点がある。
防御力だ。
このギルドには
なぜならば、その役目は全てライトが背負っている。
ボスやパワー系Mobの強力な一撃には、通常、盾が不可欠となる。
普通はその為に人手、もしくは装備重量を割かねばならず、ギルドの総攻撃力は、減少を余儀なくされる。
だがしかし、サーヴァンツの場合、スピードファイターのライトが、それらの攻撃を無力化する。
まず、モンスターが誰かに攻撃をしたとしよう。
その攻撃を、ライトは横から弾くのだ。それだけで、敵の攻撃力は半減する。
それを成し得るのは、最速と名高いステータスと、体術、そしてユニークスキル拳術だ。
ライトがモンスターの攻撃の威力を封殺するからこそ、攻撃されたアタッカーは、軽く流すだけでノーダメージとなる。
故に、サーヴァンツは全ての構成員がアタッカーとして配置出来る。
これがサーヴァンツがトップギルドの一角に数えられる所以である。
言わば、ライトはサーヴァンツを攻略組へと導いた立役者なのだ。
それをヒースクリフは看破しているのであろう。だからこそ、引き抜きの対象に、ヒースクリフに次ぐプレイヤーであるキリトではなく、ライトを選択したのだ。
ここまで考えて、遅蒔きながら気付いた。
ライトを失う事は、サーヴァンツにとって、この上なく大きな打撃であるという事実に。
ならば、自分が為すべき事は、ヒースクリフの思惑をどう打ち崩すかだろう。
気概を新たに、ユウは交渉の思案を始めた。
その時。
「ならば、俺もその言にあやからせて頂こう。聖龍連合は、支援の褒賞にキリトを所望する」
リンドの口から、そんな言葉が飛び出した。
ユウの心情に去来したのは、またもや驚愕────ではなく、煮え滾るような怒りだった。
(今でさえ手一杯なのに、これ以上に厄介事を増やすのか!)
ティアの為に強く出られないという現状に、ユウはぐっと拳を握った。
クールに。クールに。
煮え繰り返るハラワタに落し蓋をして、計算を一から練り直そうとする。
その直前、声を発したのは、意外な人物だった。
「いいんじゃない。その条件で飲んでも」
いつの間にか、優子はそこに立っていた。
味方からの思わぬ肯定に、ユウは顔を顰めて優子を見る。
それを意にも介さぬように、優子は流水が如く言を紡いだ。
「ただし、それは本人の意思を聞いてからよ」
「どうやって? 二人とも前線を張っているのだろう。本人の意思など、尋ねようが無いじゃないか」
眉を寄せて、リンドは早口でまくし立てた。
リンドの高圧的な態度にも、優子は平静と対応する。
「だから、この戦いが終わってからよ」
「それこそ意味不明だな。戦いが終わってしまっては、元も子もないじゃないか」
段々とリンドの語調が強くなる。
「アタシにとっては、それが前提条件よ。それが無理なら、本人の意思に拠らないスカウト方法を考えなさい」
「はぁ!?」
リンドの苛つきが臨界に達した。
禅問答だ。
こんな議論に、終着点など見つかる筈は無い。
徒らに時間を消費しては、ラフコフの拠点に居るメンバーを危険に晒すだけだ。
優子の暴挙を止めるべく、ユウは口を出そうとした。
それを、優子は目線で制した。
待って、大丈夫だから。
そんな言葉が、瞳に込められているようだった。
ユウは渋々と引き下がる。
優子の口が、音を立てずに『ありがと』と動かされた。
そうして優子は、リンドをしっかりと見詰めて言った。
「そうね、例えば……力づくで奪うとか」
「え………えぇッ!?」
声を上げたのはユウだった。
そりゃ大声も出す。だって意味不明なのだから。
力づく、という事は血盟騎士団や聖龍連合と、サーヴァンツが全面戦争を展開するという事か?
それこそ、何がしたいのか解らない。
その時、ヒースクリフから冷静な一言が入った。
「なるほど。
「ええ、そうよ。そうすれば、不平不満は出ないでしょう?」
「ああ、確かにそうだな。だが……」
騎士団長は、熟考するようにこめかみを押さえた。
決断を渋る気持ちも良くわかる。この条件では、サーヴァンツに有利過ぎるのだ。
もし決闘に負ければ、仲間を危険に晒した挙句、ただ働きになってしまう。
自分がライトに勝つ絶対の自信が無ければ、こんな提案など飲もう筈が無い。
「何よ、口籠って。貴方は一対一で、ライトに勝てないと臆病風を吹かせるのかしら?」
感情無く畳み掛けるような優子の言葉。
神聖剣は一つ溜息を吐くと、大仰に肩を竦めてみせた。
「安い挑発だな。………ふむ、だが、それに乗るのも一興か。
よし、それで良いだろう。与件は、私とライト君の一騎打ちで間違い無いね?」
「ええ、そうなるわね」
そして、血盟騎士団との取り決めは締結した。
残るタスクは、リンドの同意だ。
優子は、青髪の曲刀使いに無機質な様子で言質を取った。
「貴方は? この条件で良いかしら?」
ヒースクリフが承諾したのだ。
ここでリンドが退けば、ギルドマスターとして以前に、男として廃るというものだ。
それを弁えていながらも、リンドは嫌悪を惜しげも無く顕にしていた。
「…………チッ! ああ。聖龍連合もそれで了解だ」
憎々しげに吐き捨てながら、リンドは勢いをつけて席を立った。その衝撃を受けて、木製の椅子がバタンと倒れた。
「善は急げだ。奴らは今も危険な状態なんだろう? これで助けられなかったら、契約不履行だからな」
そう言うとリンドは、ズカズカと地面を踏み鳴らしながらギルドホームを立ち去った。
ユウと優子は、そんなリンドの態度に苦笑を浮かべ合った。
「ならば私も、リンド君の言に従うとしようか。さらばだ、ユウ君。優子君。ライト君とのデュエル、楽しみにしているよ」
「ああ、また。ラフコフのアジトで」
ユウの言葉に、騎士団長はどこか愉しげに頷いた。
騎士は、起立すると礼儀良く一礼し、椅子を戻した。
そして、流れるような動作でカツカツと歩みを進めると、音も立てずに扉を閉め、サーヴァンツを後にした。
どこまでも騎士然とした、彼らしい去り際だった。
二人だけになったギルドホームに、一過の静寂が訪れる。
「ああー、緊張したーー!」
だが、そんな静けさは、優子によっていとも容易く屠られた。
ぐーっと伸びをしながら、優子は会議から解放された喜びに打ちひしがれている。
「落ち着く所に落ち着いて良かった。すまん優子、恩に着る」
言いながら、ユウも緊張が解れたかのように、椅子に身を任せた。
慇懃な会席には、一転して弛緩した空気が流れだした。
ん、とユウの礼を受け取ると、ユウから目線を逸らしながら、優子は円卓に腰掛けた。
「んー、でも、ぶっちゃけ微妙じゃない? デュエルって」
自分の戦果に納得がいかないのか、優子は憮然と頬杖をついた。
完璧主義な彼女らしく、目にはいまだ闘志の炎を燃やしている。
「いや、充分だろ。急造にしちゃ上出来な謀だ」
「さあ、どうかしら。普段のアナタなら、もっとスマートな解答を導き出せるんじゃない?」
確かにそうかもしれない。
だが、今のユウには不可能だ。
理由など知れている。
冷静になんてなれやしない。頭に血が滾ってしょうがない。
ユウにはもう、平静を装うのが限界だった。
目の前に居るのが優子だからこそ、ユウはここまで平生を保てるのだ。
もしボルトが現れれば、確実に激情に駆られること請け合いだ。
そんな心境を見透かしたように、悪戯っぽく優子は笑った。
「動転してんでしょ。ティアのコトで」
図星だ。
「ああ、してるな。間違いなくしてる」
「……意外。そんなアッサリ認めちゃうんだ」
「たりめーだ。いつまでも子供じゃあるまいし」
そこで、ユウは口を開きかけてから、呼吸を一拍置いた。
続く言葉は有るには有るのだが、どこか言うのが憚られた。
だが、続きを期待する優子の視線に根負けし、ユウは即座に口を割った。
「…………けどまあ、ガキ臭い意地もあるけどな」
「ふうん、どんな?」
いかにも興味津々といった風に優子が問うた。
ユウはやにさがり、正直に韜晦した。
「ティアは俺が救う。その役目は、他の誰にも渡さねえ」
言ってから、羞恥心が真っ先に浮かぶ。
こんなにも真っ直ぐに翔子、もといティアへの想いを誰かに吐露するなど、初めての経験だった。
こういうのは、どうにもユウの性根に合わない。
愚直に純真なセリフは、ライトあたりが言ってこそ映えるのだ。
少し発言を後悔しかけた時、優子が口を切った。
「良いじゃない。うん。カッコイイ。流石旦那ね」
どうやら心底そんなことを言っているらしく、優子は目を輝かせている。
純朴な態度に気恥ずかしくなって頬を掻いた。
「旦那じゃねぇよ。つーか、無駄口叩いてないでさっさと行くぞ。
無理矢理にでも話題を逸らす。
甘ったるい会話は、嫌いではないがどうにも苦手だ。
ユウのそんな思考を知ってか知らずか、優子は同調した。
「そうね。そろそろ行きましょっか。いつまでも待たせるわけにはいかないし」
そう言うと、円卓に腰掛けていた優子は、体操選手よろしく両手を上に振り上げて、ピョンと着地した。
「んじゃ、アタシ達も行きますか!」
「ん、あ、いや、すまん。先行っててくれ」
「えー、なんでよ」
ユウの歯切れの悪い返答に、優子は頬を膨らませた。
賛同を得られなかったのが、優子の癇に障ったらしい。
このまま放置は得策ではないと、ユウは取り繕うように理由を説明した。
「別に一緒に行きたくないとかじゃなくてだな。単純に、俺はSTR極振りでお前はAGI型だろ?」
「あ、そっか。むぅ……なんか、こじつけな気もするけど………。
まあ、いいや。取り敢えずは納得しといてあげるわ」
不満気な口調で歩を進めると、優子は扉を開け放った。
そうして、身体は前に向けたまま振り返り、
「けど、コトが済むまでには来なさいよね。王子様が遅れてきちゃ、お姫様にカッコがつかないじゃない」
楽しげに言うと、有無を言わさぬように優子はドアをバタンと閉めた。
「………ったく。誰が王子様だ。似合わねぇんだよ。そういうのは」
優子の姿を追うように、愚痴っぽい言葉を吐く。
十分前まで、五人の人間が居たリビングには、もう、ユウしか残されていなかった。
微かな孤独感。
それには酔い痴れるほどの魔力も無く、ただ心の隙間に虚無を作る。
だが、そんな間隙は、勇気で、怒りで、愛情で、埋め尽くしてしまえばいい。
誰も居なくなった部屋で、男は一人、闘志を燃やす。
瞳を閉じれば、彼女の面影が脳裏を過る。
どこまでも純真に、誰よりもひた向きに、彼女は彼を想っていた。
彼女が好きなのか?
そう問われれば、最早ユウは、答えを一つしか持ち合わせていなかった。
「待ってろよ、ティア」
そう言い残し、最後の一人がギルドホームを去った。
彼こそは、この闘いに終止符を打つ不落の守護者。
この瞬間、高らかな凱旋の幕が上がる。
そして、ユウは思った。
王子様も、一度くらいは良いかもしれない、と。
さあ、ついに大将の出陣です。
血盟騎士団や聖龍連合の援助も有りますし、後はもう消化試合ですね(白目)