僕とキリトとSAO   作:MUUK

62 / 101
最近、週刊投稿出来てますね。
この調子で頑張ってたら、いつごろアインクラッド編終わりますかねー。
百話にはならないと信じたいです。


第六十二話「待ってろよ」

「…………なっ!?」

 

ヒースクリフの発言の意図が掴めず、ユウは口をパクパクとさせた。

ライトが欲しい?

意味は分かる。

だがワケが分からない。

それは、ライトを血盟騎士団に引き抜かせろ、という事に違いない。

だがその報酬は、血盟騎士団にとってメリットは薄く、サーヴァンツにとってデメリットが重い。そうとしか思えないからこそ、ユウは驚愕しているのだ。

血盟騎士団は、充分に洗練された部隊だ。

ギルドとしての力は、アインクラッド中で紛れもなくトップ。ギルドメンバー数で言えばサーヴァンツの五倍はあろう。

そんなギルドが何故、ギルド間の関係悪化というリスクを負ってまで、たった一人の人員をヘッドハンティングしようというのか。

ユウには、まるで理解など出来なかった。

混乱の只中にある脳内を殊に掻き乱したのは、リンドの刺々しい嫌味だった。

 

「なるほど、そうきたか。流石だな、ヒースクリフ。悪知恵にかけて、君の右に出る者はいない」

「お誉めに預かり恐悦の至りだ。だが、奸計の熟練度では、君には負けると思うがね」

 

二人のギルマスが舌戦を繰り広げる中、ユウは知力を尽くして考えた。

もしもライトを血盟騎士団へと譲り渡せばどうなるか。

サーヴァンツメンバーは、全員がまさしくトッププレイヤーだ。

だが、皆に共通する一つの欠点がある。

防御力だ。

このギルドには盾役(タンク)が居ない。いや、存在する必要が無かったのだ。

なぜならば、その役目は全てライトが背負っている。

ボスやパワー系Mobの強力な一撃には、通常、盾が不可欠となる。

普通はその為に人手、もしくは装備重量を割かねばならず、ギルドの総攻撃力は、減少を余儀なくされる。

だがしかし、サーヴァンツの場合、スピードファイターのライトが、それらの攻撃を無力化する。

まず、モンスターが誰かに攻撃をしたとしよう。

その攻撃を、ライトは横から弾くのだ。それだけで、敵の攻撃力は半減する。

それを成し得るのは、最速と名高いステータスと、体術、そしてユニークスキル拳術だ。

ライトがモンスターの攻撃の威力を封殺するからこそ、攻撃されたアタッカーは、軽く流すだけでノーダメージとなる。

故に、サーヴァンツは全ての構成員がアタッカーとして配置出来る。

これがサーヴァンツがトップギルドの一角に数えられる所以である。

言わば、ライトはサーヴァンツを攻略組へと導いた立役者なのだ。

それをヒースクリフは看破しているのであろう。だからこそ、引き抜きの対象に、ヒースクリフに次ぐプレイヤーであるキリトではなく、ライトを選択したのだ。

ここまで考えて、遅蒔きながら気付いた。

ライトを失う事は、サーヴァンツにとって、この上なく大きな打撃であるという事実に。

ならば、自分が為すべき事は、ヒースクリフの思惑をどう打ち崩すかだろう。

気概を新たに、ユウは交渉の思案を始めた。

その時。

 

「ならば、俺もその言にあやからせて頂こう。聖龍連合は、支援の褒賞にキリトを所望する」

 

リンドの口から、そんな言葉が飛び出した。

ユウの心情に去来したのは、またもや驚愕────ではなく、煮え滾るような怒りだった。

 

(今でさえ手一杯なのに、これ以上に厄介事を増やすのか!)

 

ティアの為に強く出られないという現状に、ユウはぐっと拳を握った。

クールに。クールに。

煮え繰り返るハラワタに落し蓋をして、計算を一から練り直そうとする。

その直前、声を発したのは、意外な人物だった。

 

「いいんじゃない。その条件で飲んでも」

 

いつの間にか、優子はそこに立っていた。

味方からの思わぬ肯定に、ユウは顔を顰めて優子を見る。

それを意にも介さぬように、優子は流水が如く言を紡いだ。

 

「ただし、それは本人の意思を聞いてからよ」

「どうやって? 二人とも前線を張っているのだろう。本人の意思など、尋ねようが無いじゃないか」

 

眉を寄せて、リンドは早口でまくし立てた。

リンドの高圧的な態度にも、優子は平静と対応する。

 

「だから、この戦いが終わってからよ」

「それこそ意味不明だな。戦いが終わってしまっては、元も子もないじゃないか」

 

段々とリンドの語調が強くなる。

 

「アタシにとっては、それが前提条件よ。それが無理なら、本人の意思に拠らないスカウト方法を考えなさい」

「はぁ!?」

 

リンドの苛つきが臨界に達した。

禅問答だ。

こんな議論に、終着点など見つかる筈は無い。

徒らに時間を消費しては、ラフコフの拠点に居るメンバーを危険に晒すだけだ。

優子の暴挙を止めるべく、ユウは口を出そうとした。

それを、優子は目線で制した。

待って、大丈夫だから。

そんな言葉が、瞳に込められているようだった。

ユウは渋々と引き下がる。

優子の口が、音を立てずに『ありがと』と動かされた。

そうして優子は、リンドをしっかりと見詰めて言った。

 

「そうね、例えば……力づくで奪うとか」

「え………えぇッ!?」

 

声を上げたのはユウだった。

そりゃ大声も出す。だって意味不明なのだから。

力づく、という事は血盟騎士団や聖龍連合と、サーヴァンツが全面戦争を展開するという事か?

それこそ、何がしたいのか解らない。

その時、ヒースクリフから冷静な一言が入った。

 

「なるほど。決闘(デュエル)かい」

「ええ、そうよ。そうすれば、不平不満は出ないでしょう?」

「ああ、確かにそうだな。だが……」

 

騎士団長は、熟考するようにこめかみを押さえた。

決断を渋る気持ちも良くわかる。この条件では、サーヴァンツに有利過ぎるのだ。

もし決闘に負ければ、仲間を危険に晒した挙句、ただ働きになってしまう。

自分がライトに勝つ絶対の自信が無ければ、こんな提案など飲もう筈が無い。

 

「何よ、口籠って。貴方は一対一で、ライトに勝てないと臆病風を吹かせるのかしら?」

 

感情無く畳み掛けるような優子の言葉。

神聖剣は一つ溜息を吐くと、大仰に肩を竦めてみせた。

 

「安い挑発だな。………ふむ、だが、それに乗るのも一興か。

よし、それで良いだろう。与件は、私とライト君の一騎打ちで間違い無いね?」

「ええ、そうなるわね」

 

そして、血盟騎士団との取り決めは締結した。

残るタスクは、リンドの同意だ。

優子は、青髪の曲刀使いに無機質な様子で言質を取った。

 

「貴方は? この条件で良いかしら?」

 

ヒースクリフが承諾したのだ。

ここでリンドが退けば、ギルドマスターとして以前に、男として廃るというものだ。

それを弁えていながらも、リンドは嫌悪を惜しげも無く顕にしていた。

 

「…………チッ! ああ。聖龍連合もそれで了解だ」

 

憎々しげに吐き捨てながら、リンドは勢いをつけて席を立った。その衝撃を受けて、木製の椅子がバタンと倒れた。

 

「善は急げだ。奴らは今も危険な状態なんだろう? これで助けられなかったら、契約不履行だからな」

 

そう言うとリンドは、ズカズカと地面を踏み鳴らしながらギルドホームを立ち去った。

ユウと優子は、そんなリンドの態度に苦笑を浮かべ合った。

 

「ならば私も、リンド君の言に従うとしようか。さらばだ、ユウ君。優子君。ライト君とのデュエル、楽しみにしているよ」

「ああ、また。ラフコフのアジトで」

 

ユウの言葉に、騎士団長はどこか愉しげに頷いた。

騎士は、起立すると礼儀良く一礼し、椅子を戻した。

そして、流れるような動作でカツカツと歩みを進めると、音も立てずに扉を閉め、サーヴァンツを後にした。

どこまでも騎士然とした、彼らしい去り際だった。

二人だけになったギルドホームに、一過の静寂が訪れる。

 

「ああー、緊張したーー!」

 

だが、そんな静けさは、優子によっていとも容易く屠られた。

ぐーっと伸びをしながら、優子は会議から解放された喜びに打ちひしがれている。

 

「落ち着く所に落ち着いて良かった。すまん優子、恩に着る」

 

言いながら、ユウも緊張が解れたかのように、椅子に身を任せた。

慇懃な会席には、一転して弛緩した空気が流れだした。

ん、とユウの礼を受け取ると、ユウから目線を逸らしながら、優子は円卓に腰掛けた。

 

「んー、でも、ぶっちゃけ微妙じゃない? デュエルって」

 

自分の戦果に納得がいかないのか、優子は憮然と頬杖をついた。

完璧主義な彼女らしく、目にはいまだ闘志の炎を燃やしている。

片手剣使い(ソードマン)の美少女を宥めるように、ユウは珍しく柔らかな笑顔を見せた。

 

「いや、充分だろ。急造にしちゃ上出来な謀だ」

「さあ、どうかしら。普段のアナタなら、もっとスマートな解答を導き出せるんじゃない?」

 

確かにそうかもしれない。

だが、今のユウには不可能だ。

理由など知れている。

冷静になんてなれやしない。頭に血が滾ってしょうがない。

ユウにはもう、平静を装うのが限界だった。

目の前に居るのが優子だからこそ、ユウはここまで平生を保てるのだ。

もしボルトが現れれば、確実に激情に駆られること請け合いだ。

そんな心境を見透かしたように、悪戯っぽく優子は笑った。

 

「動転してんでしょ。ティアのコトで」

 

図星だ。

 

「ああ、してるな。間違いなくしてる」

「……意外。そんなアッサリ認めちゃうんだ」

「たりめーだ。いつまでも子供じゃあるまいし」

 

そこで、ユウは口を開きかけてから、呼吸を一拍置いた。

続く言葉は有るには有るのだが、どこか言うのが憚られた。

だが、続きを期待する優子の視線に根負けし、ユウは即座に口を割った。

 

「…………けどまあ、ガキ臭い意地もあるけどな」

「ふうん、どんな?」

 

いかにも興味津々といった風に優子が問うた。

ユウはやにさがり、正直に韜晦した。

 

「ティアは俺が救う。その役目は、他の誰にも渡さねえ」

 

言ってから、羞恥心が真っ先に浮かぶ。

こんなにも真っ直ぐに翔子、もといティアへの想いを誰かに吐露するなど、初めての経験だった。

こういうのは、どうにもユウの性根に合わない。

愚直に純真なセリフは、ライトあたりが言ってこそ映えるのだ。

少し発言を後悔しかけた時、優子が口を切った。

 

「良いじゃない。うん。カッコイイ。流石旦那ね」

 

どうやら心底そんなことを言っているらしく、優子は目を輝かせている。

純朴な態度に気恥ずかしくなって頬を掻いた。

 

「旦那じゃねぇよ。つーか、無駄口叩いてないでさっさと行くぞ。()()()()はもう到着してる頃合いだろ?」

 

無理矢理にでも話題を逸らす。

甘ったるい会話は、嫌いではないがどうにも苦手だ。

ユウのそんな思考を知ってか知らずか、優子は同調した。

 

「そうね。そろそろ行きましょっか。いつまでも待たせるわけにはいかないし」

 

そう言うと、円卓に腰掛けていた優子は、体操選手よろしく両手を上に振り上げて、ピョンと着地した。

 

「んじゃ、アタシ達も行きますか!」

「ん、あ、いや、すまん。先行っててくれ」

「えー、なんでよ」

 

ユウの歯切れの悪い返答に、優子は頬を膨らませた。

賛同を得られなかったのが、優子の癇に障ったらしい。

このまま放置は得策ではないと、ユウは取り繕うように理由を説明した。

 

「別に一緒に行きたくないとかじゃなくてだな。単純に、俺はSTR極振りでお前はAGI型だろ?」

「あ、そっか。むぅ……なんか、こじつけな気もするけど………。

まあ、いいや。取り敢えずは納得しといてあげるわ」

 

不満気な口調で歩を進めると、優子は扉を開け放った。

そうして、身体は前に向けたまま振り返り、

 

「けど、コトが済むまでには来なさいよね。王子様が遅れてきちゃ、お姫様にカッコがつかないじゃない」

 

楽しげに言うと、有無を言わさぬように優子はドアをバタンと閉めた。

 

「………ったく。誰が王子様だ。似合わねぇんだよ。そういうのは」

 

優子の姿を追うように、愚痴っぽい言葉を吐く。

十分前まで、五人の人間が居たリビングには、もう、ユウしか残されていなかった。

微かな孤独感。

それには酔い痴れるほどの魔力も無く、ただ心の隙間に虚無を作る。

だが、そんな間隙は、勇気で、怒りで、愛情で、埋め尽くしてしまえばいい。

誰も居なくなった部屋で、男は一人、闘志を燃やす。

瞳を閉じれば、彼女の面影が脳裏を過る。

どこまでも純真に、誰よりもひた向きに、彼女は彼を想っていた。

彼女が好きなのか?

そう問われれば、最早ユウは、答えを一つしか持ち合わせていなかった。

 

「待ってろよ、ティア」

 

そう言い残し、最後の一人がギルドホームを去った。

彼こそは、この闘いに終止符を打つ不落の守護者。

この瞬間、高らかな凱旋の幕が上がる。

そして、ユウは思った。

王子様も、一度くらいは良いかもしれない、と。




さあ、ついに大将の出陣です。
血盟騎士団や聖龍連合の援助も有りますし、後はもう消化試合ですね(白目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。