ここまで進んでこれたのも、ひとえに皆様のご声援あってというもの。
この小説で少しでも楽しい時間を提供出来たなら、作者としてはこれ以上の至福はございません!
「────ハッ!?」
気がつくと目の前に広がっていた物は、四層主街区の光景だった。
はて。どうして僕はこんなところにいるんだっけ。
アルゴから依頼を受理した事は確固とした記憶がある。
だがしかし、なんだろう。その後にすごーく衝撃的な事態が発生したような。
頰に柔らかいものが────
いや、そうなんだけどね。
え、本当に?
ほっぺにキス? 優子が僕に?
うん。じゃあ、優子は僕が好きなんだな。
…………いやいやいやいやチョットマテ。
早まるな。落ち着け。状況を簡潔に整理するんだ。
客観視してみよう。そうすれば、また違った答えが見えてくるかもしれない。
深夜、二人でギルドホームを抜け出して天体観測。
孤島の草原に添い寝して肩枕。
おまけにほっぺたに接吻。
解答が一つしか見えてこない……。
じゃあ仮に、優子が僕を好いていると、恐れ多いことを前提として考えよう。
なら、僕はどうなんだ?
僕は優子が好きなのか。
いや、普通に好きだ。
それが友情なのか恋慕なのかはさて置き、好きであることに間違いは無い。
でも、何となく好き。だから付き合う。そう言うのは嫌だ。
普通はそういう風にして男女は共に過ごすのかもしれないが、僕は我慢ならない。
好きであるという理由が欲しい。
それが無ければ、彼女に対して失礼だ。
まるで暗中模索の放浪だ。
目的地も無ければ故郷も無い。それでは、僕は彼女を最後まで好きでいられる自信が無い。
そもそも優子は何故、僕なんかを好きになったのだろう。
僕を好きになってくれる人なんて、彼女の他に居るのだろうか。
────ちょっと待てよ。
ラフコフ戦で有耶無耶になってたけど、僕、アレックスに告白されてたじゃないか!
いや、好きと言ったのは僕からだ。
だけど、その一言でアレックスは天上の笑みを浮かべて、僕を好きだと言ったんだ。
そんな彼女の気持ちを、今の今まで忘れていたのか。
だけど、僕はアレックスにだって、愛の形成に足る理由を見つけられていない。
優柔不断め。結局僕は、彼女達に答えが出せないままなのか?
そんなの、一番タチが悪いじゃないか……。
僕は、どうすべきなんだろう。
いや、違う。こればっかりはエゴだ。どうすべきなのかじゃなくて、どうしたいのかを考えなくちゃならない。
「………ねえ、ライトってば!」
耳元で突如鳴り響く、僕を呼ぶ声。
僕の右腕をグイグイとと引っ張りながら、優子は口を尖らせていた。
「さっきからずっと上の空だけど、いきなりどうしたのよ」
「ご、ごめん、優子。ちょっと考え事してて……」
平謝りしながら正直に返答する。
優子は腕を組んで、横目で僕を見ながら、
「考え事、ねぇ……」
と呟いた。
見透かすような視線に息が詰まる。
何とか話題を逸らせないかと考えた、その時だった。
『キャアアァァァッッ──!!』
窓ガラスでも割りそうな悲鳴が、街の中心部から轟いた。
優子と二人で目を見合わせる。
そして、
「僕は発声源に向かうから、優子は念のために出口を見張って!」
「アンタは声の方に向かって! アタシは念のためにここに留まるから」
二人で同時に、同一の指示を出した。
お互いの顔を見て笑い合う。
ああ、彼女になら任せられる。
僕は、優子を背に地を蹴った。
第四層主街区たるロービアの街は、一言で言ってしまえば水の迷路だ。
通路は入り組み水路で塞がれ、対岸にさえ渡れれば近道なのに、なんて思うこともザラにある。
まあ、そんな時に役立つのが神耀なワケなのだが。
「よっと!」
5メートルほどの幅の水路を瞬間移動で飛び越える。
本来ならば船を使っても五分はかかるロービアの出口から転移門までの道程を、僕は三十秒で踏破しようとしていた。
路地裏から一気に抜け出す。
中央へと続く繁華街は、深夜でも疎らに人が見て取れた。
残すは直線距離二百メートル。僕の脚なら五秒とかかるまい。
さあ、ラストスパートだ。
一発入魂。前傾姿勢になったその時、
「うわっ!」
僕の身体に何かがぶつかり、掠めるように走り去って行った。
その直後、
「ソイツ捕まえて! ひったくりよ!」
悲鳴にも似た叫び声が、深夜のロービアに谺した。
ひったくりか。そりゃ大変だ。
きっと、さっき街の入り口で聞いた悲鳴もそれが原因だろう。
犯人を捕らえるべく方向転換をしてから、ふと我に返った。
ひったくり!? ここはSAOだぞ!?
保持者権限とアンチクリミナルコードで守られている筈のアイテムが、どうしてひったくられるんだ?
いや、疑問を抱くのは後だ。まずはこの緊急事態を解決しなければ。
前方の人影に照準を定める。
黒色のローブを羽織り、すばしっこく走り去っていく小柄な人物が一人。
ひったくり犯はあれで間違いないだろう。
僕が逡巡していた隙に、容疑者は路地裏へ逃げ込もうとしていた。
まずいな。この街で見失えば、再発見は難航すること請け合いだ。
万が一転移結晶を使われても行き先が分かるよう、聞き耳スキルの聴力拡張を、逃げ去る獲物に狙い撃つ。
石畳を足蹴にしながら、追い縋ろうと躍起になる。
瀟洒な街並みを一顧だにせず、標的が姿を眩ました曲がり角に辿り着くとそこには、
「…………行き止まり?」
そり立つ壁だけがあった。
レンガ塀で囲まれた袋小路。
どこだ。どこに逃げた?
赤レンガ達に起伏は少なく、手足をかけて登るのは苦しそうだ。
だが、転移結晶を使ったわけでもないらしい。
となると、残る可能性は…………
「下か!」
朗々として流れの止まぬ水路を凝視する。
夜目で見えにくいものの、水面下には確かに動く影があった。
メニューウィンドウをタップして、装備を全て解除する。
裸一貫で、余ったスキルを管理できるレアアイテムを使って、疾走スキルを外し水泳スキルをスキルスロットに装備した。
僕の水泳スキル熟練度は三百程度。
決して高くはないが、泳ぐのに支障はきたさない。
SAOでは準備体操も心臓への水かけも必要無い。
留まることのない水面に向かって、勢いをつけて飛び出した。
水と一体化する、流れるような飛び込み。
深夜の水中は暗く冷たい。
視覚強化スキルの、明度調整が自動で発動する。
聞き耳と視覚強化を駆使して、下手人の居場所を探索する。
水の方向からして、中央通りには向かっていない筈。
というか、ひったくりが成功したのだから、泥棒的には逃げるが勝ちなのだ。それなら、街唯一の出入り口へ向かうに決まっている。
となると、そこに待機する優子にメッセージを────
────その時、僕の額を鋼鉄が掠めた。
反射的に上体を仰け反らせる。そのおかげか、体力ゲージは全く減らなかった。
野郎め。逃げるのを止めて交戦ときたか。
剣のエネルギーに引っ張られた奴の身体に、体術スキル単発蹴り『舟撃』を入れるべく脚を回す。
だがしかし、水中で体勢が整っていないせいか、システムは僕の動きをスキルと認識してくれなかった。
それでも素の攻撃ながら相手の腹を蹴ることは出来た。
僕とひったくり犯の双方が、作用反作用で離れた。
間合いが出来て改めて犯人の顔を確認する。
それは意外なことに、年端もいかぬ勝気な目をした少年だった。
後でこってり叱ってやらねば。
そう決意した時、視界右下にある酸素残量ゲージが半ばを切ろうとしているのが見えた。
これが無くなると、体力や各種ステータスの低下という中々面倒臭いことになってしまう。
水底を蹴って浮上する。一度でも地上に出てしまえば、それだけで酸素残量は満タンになるからだ。
だがそこで、やはりというかまさかというか、ひったくり少年の妨害が加えられた。
彼は僕の真上に陣取り、是が非でも僕に息を吸わせないつもりらしい。
────早く決着をつけなくては。
焦燥感が、酸素の減りを更に早く見せた。
頭上の犯人に向かって、魚雷もかくやという速度で急進する。
愚直に突っ込む僕に向かって、少年は刃を振り下ろした。
それを、水を蹴って回避する。
そこでふと疑問が生じた。多少は攻撃を食らうと思って突進した。今のがソードスキルを使った攻撃なら、確実に僕はダメージを負っていただろう。
だがその剣筋は通常攻撃だった。だからこそ避けられた。
だが何故? 何故わざわざ通常攻撃を仕掛けてくるのか。
僕のように、水に慣れていないということはあるまい。水中の身のこなし一つ取ってみても、僕より格段にスムーズだ。
そんな彼が、ソードスキルの発動に失敗するとは到底思えない。
ならば、何故。
その時、僕はふと思った。
僕がソードスキルを発動出来なかった理由。彼がソードスキルを発動しなかった理由。
そのどちらもに完璧な説明をつける最適解。
そう、それは────
────ここ、圏内じゃん………。
それなら攻撃性の高いソードスキルは不発に終わるわけだよコンチキショウ。
そうと分かれば話は早い。
相手はまだ僕にダメージを与えられると思い込んでるみたいだし、ここは一発、痛い目に合わせてやろう。
ドルフィンキックで幼き剣士へと突進する。
当然、盗人は相克する僕へと得物を奔らせた。
月光に煌めく刀身は、僕を穿たんと発起する。
その直前、アンチクリミナルコードの防壁が、激烈なる凶刃を受け止めた。
「────ッ!」
少年は、つり目を見開いた。
だが、今更気づいてももう遅い。
パンツだけを装備した少年の、露わな胸板に手をつけた。
そして、僕と少年は光の粒子へと昇華した。
次に僕らが現れたのは、高度五メートルの上空だった。
「うわぁぁああぁあッッ!」
少年があられもなく悲鳴を上げる。
そんな些事には頓着せず、そのままコソ泥を地面へと叩き落とした。
「カハッ────!」
圏内だからダメージは通らないものの、石畳からの衝撃は流石に堪えたらしい。
動きを見せなくなった少年の傍に降り立った。
冷静に見てみると、水を滴らせながら横たわる彼は、途方もなく美少年だった。
クールな目つきと散切りの髪は、触れれば噛み付く猛犬を思わせる。
今はまだ童顔だが、将来はきっと相当な女誑しになるに違いない。
ふむ。これならぞんざいに扱っても良心が痛まない。
取り敢えず身動きを取らさぬよう、少年の首根っこを掴んで持ち上げた。
「さあ、盗んだ物を出して貰おうか」
すると少年は、歯を食いしばって僕を睥睨しながら、締められた喉から声を絞った。
「………い、嫌だ! オレには剣が必要なんだ!」
なるほど。奪ったのは剣なのか。
バカだな、コイツ。僕が言うんだから間違いない。
さて、どうやってこの野郎をとっちめてやろうか。そんな思考を巡らせ始めた、その時だった。
聞き耳スキルで拾われた跫音が、僕の耳朶を打った。
剣泥棒から目を逸らさぬように、身体ごと背後へと回す。
そして視界に収まったのは、ゲームらしくピンクの髪色をした女の子だった。
顔には可愛らしいそばかすが見受けられ、芯の通った眼力が彼女の性格を物語っている。
だが、僕と目が合うなり、彼女は明らかに慄然とし始めた。
ああ、そうか。よく考えてみればこの光景って、半裸の男が半裸の少年の首を絞め上げている状態なのか。
「キャアアァァアア────ッッ!! 変態────ッ!」
深夜のロービアに、悲しい絶叫が響き渡った。
さて、中途半端かつ急で、誠に身勝手ではありますが、ここで一度、更新を停止させていただきます。
と言いますのも、本格的に大学受験に専念したい為なんです。
本来は、SAO終了時点まで描きたかったのですが、三年生になって、そんな余裕がないを事を悟りました。
ここまで読んでくださった読者の方々には本当に感謝の念しかございません!
そんな皆様を裏切らないためにも、絶対に蒸発したりはしません。
もし、受験が終わってまた書き始めた時、もう一度この小説に目を通して頂けるなら、その時は僕の最高の文書でもっておもてなし致したいと思います。
それでは、また来年、僕が笑うことになればお会いしましょう!