僕とキリトとSAO   作:MUUK

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前回の投稿から2ヶ月。遅筆ですまない……。

あと、今回のお話では場面転換と視点転換が非常に多いです。小説下手かよ……。


第七十四話「対峙」

洞窟を疾駆する。

今や彼は、プレイヤー達の庇護下にはない。

あるのはただ、自負のみ。修行の末に培った自信。

いや、それは嘘だ。恐怖もある。葛藤もある。一歩踏み込めば戻ることすら叶わないような暗黒に、彼の理性は歩みを拒む。

それでも彼は、前に進まねばならなかった。彼という自我が、その『魂』が、色を取り戻し始めたのだから────。

 

 

いきなり重大な問題に僕らは直面した。

それは、カストルはワープできないということ。

それが判明したのついさっきのことだ。

優子はあれから連絡が着かず、僕、カストル、リズの3人だけでヘパイストス討伐へ乗り出すことにした。4層主街区のロービアに到着し、転移門を使った。そうして、僕とリズは転移できた。

そこまでは良い。だが、肝心のカストルがいないのだ。

じゃあカストル抜きで攻略すれば良いんじゃないか、と思うかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

なぜか。その理由を語るには、昨日まで遡らねばならない。

それは、リズが剣についての情報を持ってきた後のこと。

カストルが自室に就寝しに行った途端に、リズから僕に切り出した。

 

「たぶん、この剣を得るためには、カストルの存在が必須なんだと思う」

「へ? なんで?」

「まず、敵はフロアボスと同等の強さがある。その時点でアタシ達だけじゃ倒せない」

「じゃ、じゃあどうするのさ!? それだったら、カストルが居ても居なくてもどっちにせよ無理なんじゃ……」

 

僕の語尾の濁った問いかけを、リズは目を閉じて腕組みをして聞いていた。

僕が言い終えるとリズは煌と目を輝かせ、どこか得意げに言い放った。

 

「そこで、よ。カストルとヘパイストス。この2人には共通項があるでしょう?」

「共通項?」

 

なんだろう。

僕がヘパイストスについて知っている情報と言えば、奴がモンスターだという事くらいだ。

一方、カストルについては色々と既知の事実はある。その中でも特に目を引くものと言えば、かなりのイケメンだという事。

あ、分かったぞ、2人の共通項!

 

「どちらも抹殺対象だ!」

「待って、あんたの思考回路が全然分かんない」

 

リズはドン引きした表情を隠そうともしない。答えを間違えたからだろうか?

しかし、共通項と言われてもそれ以外全く見えてこないのが現状だ。

どうしようもなく黙っていると、リズは見せつけるように大きく溜息をついて言った。

 

「どっちもギリシャ神話の登場人物よ」

「へぇー……」

 

それがどう関係あるのだろう?

気づけば、僕をムッと睨むリズが視界に入っていた。

 

「なんでそう鈍感なのかなぁ……。つまり、カストルを連れて行ったらイベントが発生するかもってこと」

「なんでそう思うのさ?」

 

さすがにそれは、ちょっと証拠が無さすぎる。可能性がある、というだけの話でしかない。

リズは数秒だけ目を閉じた。思考を洗っているのだろうか。

 

「えーっと……まず第一に、ヘパイストスからドロップするインゴットがあるでしょ? それから作られる武器の性能が、カストルを意識しているとしか思えないのよ。重さ、、長さ、攻撃力、全てのパラメーターがカストルに驚くほどぴったりなの。

そして第二に、ヘパイストスはギリシャ神話の神でしょ? だから、同じギリシャ神話の英雄であるカストルとは何か関係があるかもしれない。あたしもギリシャ神話にそんなに詳しくわけじゃないから、よく分かんないけど……。

それで第三に、なんだけど。これが一番決定的でね。件のヘパイストスがプレイヤーに初めて確認されだのが、あたし達がカストルと出会った後だったのよ」

 

 

そんな顛末があり、そして現在に至るわけだ。

僕らは今、迷宮区を登っている。カストルが転移門に入れないのだから、一階づつ踏破していくしか方策がないからだ。

この方法では、目的地にたどり着くまでどのくらいかかるのだろうか。次の次くらいのボス攻略までには終わればいいのだが。さすがに攻略をサボり過ぎなきらいがある。

謎の義務感に苛まれながらも、僕はカストルの戦いを後ろから見守っていた。

カストルたっての希望で、モンスター狩りはカストル1人で行っていた。僕とリズはカストルが危なくなったら助太刀に入るという形をとっている。が、いまだそのような事態には陥っておらず、なんとも危なげなくカストルはハントをこなしていた。

もう何匹目かも分からないモンスターをカストルの一撃が屠ったとき、祝福を示す鐘の音が聞こえた。レベルアップだ。

 

「おめでとう。カストル。今で何レベ?」

「ありがと。えーっと……11だな。ちなみにライト兄ちゃんは何レベなんだ?」

「僕? 77レベだよ。ちょうどカストルの7倍だね」

「はあ!? 77!?」

 

声を上げたのはリズだった。

 

「ど、どうしたのさ?」

「いやあんた、77って攻略組の中でもめちゃくちゃ高いんじゃ……」

 

あー、なるほど。その驚きだったのか。

 

「いやあ、僕ってこんな戦闘スタイルでしょ? だから、自然とタゲ集中時間が長くなって、分配される経験値も増えちゃうってわけ」

 

本当はもう1つ理由があるが、そちらはなんとなく伏せておきたかった。他人に吹聴すべきものではない気がしたのだ。

浮かんだのは優子の顔だった。

深夜、2人きりのレベリング。

そういえば、このクエストもそこから始まったんだった。

優子は今、どうしているんだろう。なんで帰ってこないんだろう?

いくらメッセージを送っても応答が無い。

やっぱり、僕が嫉妬してるって話を聞いたせいなのだろうか。それで気まずくって、僕と合わせる顔が無いのかな。

そう思うとどうしても湧き上がる幼い自分への自責。

ああ、僕はどうしてあんな態度をとったのだろう。

優子に会って謝って、また普通に接して欲しいと言いたい。

それでも、自分から優子の元へと駆けつけることはできなかった。踏ん切りがつかなかった。そんな自分が殊更嫌になる。

考えるのは止めよう。ここはダンジョンだ。幾ら低層だからって、いつ何時死の危険が訪れるか分からない。今は戦いに集中しよう。

そんなズルい逃げで、僕は思考に蓋をした。

 

 

篠崎里香、もといリズベットたるあたしははたと思った。

なんだろう。この状況。

なぜあたしは、出会って間も無いこの2人と寝食を共にし続けているのだろう。

謎い。わりと謎い。

一番の謎は、あたしがこの環境をすんなりと受け入れ、むしろ心地良いとすら感じていたことだ。

ライトとカストル。この2人との奇妙な共同生活が、なぜか好きになっていた。

断っておくが、この好きは恋愛の好きじゃない。どっちか選べな〜い、とか言うほどスイーツでもない。

だけど、なんだろう。

ヒビ割れた心に染み入って、たおやかに癒すのだ。

星が瞬く冬空の下。カストルは床ーーと言っても寝袋だがーーに着き、あたしはライトと並んで、ぼんやりと星を眺めてる。

少し雲が出てきたのか、星の明度が霞んだ気がする。

この2人と出会うまで、こんなにも自分が疲れてるなんて知らなかった。1人でいることに、何の違和感も苦痛も覚えてなかった。

なのに…………

 

「また1人になったら、どうなっちゃうんだろ…………」

「ん? リズ、なんか言った?」

「言ってなーい」

 

そう言って、あたしは隣に座るライトのおでこを小突いた。

ライトはうぐっと唸りながら仰け反った。

 

「どうしたのさ、リズ?」

「あはは! ごめん! あたし恥ずかしいね! 気にしないでよ!」

 

あたしは今、どんな顔をしているのだろう。

どうか夜闇に紛れて、ライトには見えてませんように。

そう思った矢先、あたしのほおにそっと手が添えられた。ゴツゴツしてて、男の人って感じがする、でもとっても暖かい手のひらだ。

春風のような穏やかさで、ライトは顔を近づけてきた。

 

「ひゃっ」

 

小さく悲鳴を上げてしまう。

嫌だったわけじゃない。ただこれ以上踏み込まれると、もう戻れなくなる気がしたのだ。

しかし、覚悟したその先は無かった。間近にまで迫っていた存在感が遠ざかる。ぎゅっとつむっていた瞳を無意識に開ける。

目の前のライトは、ささやかにえくぼを作っていた。

 

「よかった。泣いてるんじゃないんだね」

「へ?」

「いやあ、なんかリズってば今にも泣き出しそうな顔だったからさ」

「あっ……」

 

ちゃあ。

そうだよね。やっぱ見えるよね。こんなに星が綺麗な夜なんだもん。

けど。自分のせいとはいえ、見られて恥ずかしいものは恥ずかしい。

けれど、この朴念仁にはそれ以上に言ってやらなきゃいけないことがある。あたしのためにも、ライトのためにも、そして優子のためにも。

 

「あんたねえ! そんな簡単に女の子のほおに触れるなっての!」

「うぐ………ご、ごめん」

 

項垂れるライト。

ああもう、この男は! なんでいちいち小動物っぽいんだか! これが天然なのだからタチが悪すぎる。

 

「で、でもまあ、手くらいは握っても、良い、けど……」

 

何言ってるんだあたしは! 自分でちゃんと距離を置こうって決めたばっかりなのに。

困ったように逡巡する素振りを見せるライト。

そして────

 

「ーーーっっ!」

 

あたしの左手の小指に、ライトは右手の小指を絡ませた。

あたしを覗くライト。その瞳は採点を待つ生徒みたい。

あたしの口からはため息が漏れ出した。

…………このくらいは、小指ひとつぶんくらいは、暖まってもいいよね?

 

 

そんなこんなで1ヶ月が経過し、僕らは28層へと到達した。

パーティ扱いなので見られるカストルのレベルは、既に40を数えていた。

アインクラッド第28層の地形は、一言で言えば白亜である。

フィールド全てが照り輝く大理石に覆われたその層は、古代ギリシア建築を想起させる。……ような気がする。前にこの層を訪れたときには一切そんなことは思わなかったのだが、あらためてカストルやヘパイストスといった単語が僕の思考にバイアスをかけるらしい。

 

「なあ、リズ姉ちゃん。そのヘパイストスっつーのはどこらへんにいるんだよ」

 

猫目の美少年は既に戦う気満々だ。

だが、リズの言葉はそれを鎮めるものだった。

 

「気が早いってのよ。攻略は明日ね。もう夕方だし、今からダンジョンに潜るのは危険だもの」

「ええー! いけるよ。大丈夫だって!」

「ダメなもんはダメ! 適当に宿とって寝るわよ」

「ちぇっ」

 

渋るカストルを引きずるリズ。

そして僕らは宿へと向かった。

暮れなずむ夕陽は紅く、血のように白亜の都市を染めていた。

 

翌日、危なげなくヘパイストスが出現するというスポットの直前まで僕らは来ていた。

思えばこの1ヶ月、ほとんど命の危機に直面していない。いや、こんな低層の攻略なのだから当然と言えば当然なのだが、何か引っかかる。

これは限定クエスト。しかもサービス開始から1年を経て、殆どのプレイヤーがそこそこのレベルになった上での限定クエストなのだ。それがこんなに簡単でいいのだろうか。

いや、考え過ぎか。そもこのクエストは4層で受けられるようなもの。それなりの難易度にしか設定してないのだろう。

杞憂に気を取られている隙に、リズとカストルは最後の確認作業に入っていた。ヘパイストスの質問パターンとそれに対する回答を吟味し、どうすればもっとも効率良く目当ての剣が手に入るかという計画だ。

 

「よし。これで大体オッケーでしょ! んじゃ、ヘパイストスからインゴットかっさらうわよ!」

「「おおー!」」

 

僕ら3人だけの小さな鬨の声。

それを合図に一歩踏み出す。

すると天衝くような轟音と共に、巨大なポリゴン片が形作られていく。そのあまりに圧倒的な情報量と密度は、僕らを否応なく圧倒した。

顕現するは、まさに神と謳うべき偉丈夫だ。

隆々な筋骨は鎧が如く。服飾は極彩色。それでギリシアらしく身体を包んでいる。

髭は白く潤沢に湛えられ、その双眸には老獪な知性が見て取れる。巨大なる賢者と呼称すれば、それは即ち彼のことと言えるだろう。

 

「余は……」

 

30メートルはあろうかという巨人が口を開く。響いた声は地響きのような厳かさ。

 

「オリンポスが1柱、錬鉄のヘパイストスである。して、我が庭に踏み入った咎人共よ。余が手折る戦さ場の華よ。せめてもの手向けとして命じよう。(なれ)らの名をここに示せ」




さて、ここらで一つ決意表明をば。

ワタクシMUUKは夏休み(8、9月)中にアインクラッド編を完結させます!
マジです! ガチです!

こうやって背水の陣を張っとけば、モチベも上がってちゃんと書くって寸法よ………!
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