僕とキリトとSAO   作:MUUK

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ついにALO編開始です! と言っても導入になるのですが! ともかく本編どうぞ!


第二章「フェアリィ・ダンス」
第一話「「リンクスタート!!」」


家に見慣れない書類が届いた。それは編入手続きの案内だった。

SAOから生き延びたもの──SAO生還者(サバイバー)の中には子供も多い。その中で就学意思のある者は、生還者専用の学校、もしくは生還者を受け入れる学校に編入が許可されている。

入学時期は今から1か月後に迫った4月だ。通常の学生と同じく、各学校の入学式に参加することになる。

もちろん僕も学校には通おうと思っている。これから通学する場所がどこになるのかがこの茶封筒に封入されていると思うと、少なからず胸が膨らむというもの。

さてさて、僕の新天地はどこやら……

 

「げぇ……文月学園……」

 

ババア長め、生還者受け入れなんて殊勝なことしてたのか。なんらかの悪巧みとしか思えない……。

顔ぶれも変わり映えしないんだろうなあ。僕が文月学園に編入するなら当然ユウ……じゃなくて雄二と秀吉、ムッツリーニや霧島さん、工藤さん、そして……

 

「あっ……」

 

未だ昏睡を続ける優子を想起し、胸が締め付けられる。

今しがた優子の面会に行ってきたところだった。彼女の寝顔はどこまでも穏やかで、本当にただ眠っているだけのよう。────頭を覆う、鈍色のヘルメットさえ無ければ。

もうSAOがクリアされてから2ヶ月が経った。せっかくクリアしたのに、優子がいないんじゃ意味無いじゃないか……!

 

「くそ!」

 

憤りに任せて壁を殴る。壁には傷1つなくて、拳はジンジンと痛みを訴える。現実の身体の弱さに情けなくなる。

自室に戻り、入学書類を机に投げてベッドに身体を預けた。古くなった蛍光灯が目障りに明滅する。

SAOじゃ超人的だった身体も、現実では寝たきりでやせ細ったただの学生なのだ。無力さが苛む。僕はどうすれば、優子にまた会えるのだろうか……。

僕の最愛の人。いつも傍らに立っていた彼女の笑顔をもう一度見れるなら、僕はなんだってできるだろう。

 

「ダメだな……美波もこんな気持ちだったのかな……」

 

自分に何もできないことが、こんなにもどかしいなんて。実際に行動して不可能だったなら諦めもつく。最初から動くことすら許されていないのだ。だったらせめて、僕に戦う場所を与えて欲しい。

その時だった。

ドアベルが甲高い音を鳴らす。時刻は既に夜7時。こんな時間に来客とは珍しい。

 

「はーい! 今行きまーす!」

 

玄関へと駆ける。まだ復調しきっていない足が絡まりそうになるが、なんとかドアにたどり着く。

扉を引いた先に立っていたのは──。

 

「おっす、ライト!」

「キリト!? どうしてここに!?」

 

無二の戦友にして最高の剣士、キリトの姿だった。

ゲームの中で見たよりもだいぶ痩せてしまってはいるが、見違えるはずもない。勇壮な双眸には疲弊の色が見て取れる。リハビリ疲れだろうか。

キリトは玄関先で厚手の黒いチェスターコートを脱ぎながら、僕の質問に答えた。

 

「《SAO対策本部》の役人にお前の居場所を聞いたんだ。ライト……じゃなくて現実では明久だっけ? お前の病院にも来ただろ?」

「あー……来たはずなんだけど、姉さんが追い返しちゃったんだよね。『今のアキくんに余計な負荷をかけるわけにはいきません』とか言って」

「へえ、良いお姉さんだな」

「え……あ……えーっと……」

 

とてもじゃないが首肯しかねる。いや、基本的には良い人ではあるんだけど。

 

「まあいいや。どうぞ上がっていってよ! キリトと喋りたいこともいっぱいあるしね!」

「うん。じゃあお言葉に甘えて……」

 

キリトは屈んで、黒いブーツから足を抜いた。そこから出てきた靴下も黒。SAOでも思ってたけど、キリトってどんだけ黒が好きなんだ? 黒の剣士の名に恥じぬ単色ファッションを見せつけるキリトに、先ほどから気になっていた質問をぶつける。

 

「そういえばさ、キリトの本当の名前はなんなの?」

「ああ、桐ヶ谷和人だ。呼び方は自由で構わないよ。────あらためてよろしくな、明久」

 

言いながらキリト改め和人は手を差し出した。和人の真っすぐな目を見ながら手の平を握り返す。

 

「うん。よろしく、和人」

 

まだ呼称に抵抗があるが、言ってるうちに慣れるだろう。

和人をソファに座らせて、僕はお茶を汲みにいく。リビングに腰掛ける和人が首を台所へ向けた。和人は沈んだ声音で、如何にも深刻そうに切り出した。

 

「……明久、協力して欲しいことがあるんだ」

 

キッチン越しにも聞こえるように、少し大きな声で返事をした。

 

「ん? なに? なんでも言ってよ」

「俺と一緒に、アルヴヘイム・オンラインをプレイしてくれないか?」

 

まるで別れ話をするカップルみたいな沈鬱さだったので、正直拍子抜けだった。

ALO(アルヴヘイム・オンライン)のことは僕も知っている。現在最大手のファンタジー系MMORPG。妖精を形取ったアバターで空を飛ぶ感覚は、他では味わえない体験だとか。フィールドやオブジェクトのクオリティーはSAOと比べても遜色ないと、生還者の間ではもっぱらの噂だった、

まさかキリトは、僕がフルダイブ自体を拒絶すると思ったのだろうか。僕にはフルダイブ技術に対する忌避感が、自分でもびっくりするくらい無い。むしろ親友からゲームのお誘いがきたんだ。ここで断ってはゲーマーの名が廃るというもの。

 

「もちろん! 一緒に遊んでくれる友達いなかったの? 和人、友達少なそうだもんね」

「普通に失礼だからな? 友達ぐらいいる……っちゃいるような、そうでもないような……っていうか、本題はそこじゃないんだよ。この写真を見てくれ」

 

和人は立ち上がり、僕の目の前まで黒いカバーの携帯電話を持ってきた。

やはり友達いないんだな、と思いつつ、和人の差し出した写真に目をやる。拡大に拡大を繰り返したかのような、低解像度の画像が表示されている。顔までは分からないものの、人が写っているということは見て取れた。

巨大な鳥かごじみた金の檻が、さらに巨大な木にぶら下がっている。その中で佇むのは、腰まで届きそうなくらいに長い、栗色の髪をした少女だった。

 

「これって……アスナ?」

「……ああ、たぶんな」

「アスナが写真に写ってて、それが一体どうしたの?」

 

確かに鳥かごに封じられているというのは尋常ならざる事態に思えるが、それと今までの話がどう結びつくのだろうか。そんな考えを吹き飛ばすように、続くキリトの言葉が全てを繋げた。

 

「アスナは……まだ目を覚ましてはいないんだ」

 

朴訥に吐き出された、告解を思わせる台詞は、僕の頭を激しく揺さぶった。

優子と……同じだ。

可能性は充分にあった。SAO生還者の内3百人ほどが今も目を覚ましていないことは、ネットやニュースで話題になっている。ショッキングな話題の渦中に、まさか2人も知り合いがいるなんて。しかも僕らの最愛の人というオマケ付き。

話の流れや写真の内容から察するに、アスナの写真はALO内部で撮られた画像なのだろう。となるとアスナはALOから出られないという状況で、優子も同じように囚われているのだろうか。

重大な情報をもたらしてくれた友人に、深い感謝の念が湧く。

 

「そっか……優子も眠ったままだって知ってるから、キリトは僕のところにきてくれたんだね?」

「え!? 優子もなのか!?」

「知らなかったのかよ!」

 

ああ、コイツ本当にただ僕を巻き込みたかっただけなのか。まあ頼られるのは嬉しいのだけど。

茶葉を入れた急須にお湯を注ぎながら、和人へと顔を向ける。

 

「ともかく、何か手がかりがあるかもってことでALOに行こうって話だよね。うん。ありがとうキリト。声をかけてくれて」

「感謝するのはこっちの方だ。サンキューな、ライト。一緒にアスナと優子を助けようぜ……って、俺たちまたアバター名で呼び合ってるな」

「あ、ほんとだ。慣れないもんだね」

 

2人で苦笑しながら拳を合わせる。

さっきまで打ち拉がれていた心に火が灯る。僕と和人ならやれる。そんな根拠のない未来予想図が、和人と一緒なら湧き出てくる。

優子、待っててね。すぐ助けに行く。どこに君が囚われていたって、音を超えて飛んでいくから。

決意を新たにしたところで、キリトの表情に影が差していることに気がついた。2年の間一緒にいて嫌という程キリトのことを見てきたが、コイツは意外と繊細だ。勢いがあるときは実に頼り甲斐があるのだが、わりとすぐメンタルが弱る。

今回は何を思い煩っているのかは明白だった。

 

「アスナのことが心配?」

「え、俺、そんな顔してたか?」

「うん。それはもう。大丈夫だって! 僕らなら絶対アスナも優子も助けられるから!」

「ああ、そうだな……」

 

僕の励ましも虚しく、和人は悄然とした態度を崩そうとしない。

いや、これはおかしい。いつもの『キリト』なら、僕の言葉にノリ良く乗ってくるところだ。沈鬱な表情を鑑みるに、問題はそう単純じゃないとみた。

 

「何かあったの? よかったら相談のるよ?」

「ありがとう……でも、ライトには……」

「関係無い? そんなわけあるか! キリトとアスナのことなんだ! 関係大アリに決まってるだろ?」

 

お茶の入ったコップを和人の前に強く置きながら、僕は和人の目を見て言った。

僕らの頭上で、年季の入ったランプがふらふらと揺れる。電灯の揺れが収まるくらいの時間が経過して、もう一度僕は和人へと詰め寄った。

 

「だからさ、僕に話してよ」

「…………ほんと、明久には助けられっぱなしだな……」

 

和人のこけた頬にシニカルな笑みが浮かぶ。

和人の口から訥々と語られた内容は、一介の男子高校生には重過ぎる内容だった。アスナの病室に須郷という男が現れた。須郷は自分はアスナの婚約者であると言い、和人には金輪際、面会に来ないよう命令したのだ。

掻い摘んで説明するとこんなところ。話を聞いていると、僕の中に沸々と煮え滾る感情が芽生えた。

 

「それで、何もない言い返さなかったのかよ!」

「言い返せるわけないだろ! 相手はアスナの親も認める婚約者だ! 俺がでしゃばれるかよ……」

「そういう時は、『アスナはお前なんかより俺の方が好きなんだ!』って言ってやれば良いんだよ」

「小学生かお前は……」

 

和人は呆れ顔を隠そうともしない。

んー、でも譲れない物があるんなら、しっかり言った方が良いと思うんだけどなあ……。

どうにも釈然としなくて、和人の横に腰掛けながら頬杖をついてしまう。

 

「だったら、アスナのことは諦めたのかよ?」

 

不貞腐れた僕の質問に、キリトが返したのは失笑だった。自分の苛立ちを自覚しながらもキリトへと向きなおる。向かい合ったキリトは、さっきまでの意気消沈っぷりが嘘みたいな清々しい笑顔だった。

 

「まさか! むしろアスナを助け出して、須郷の鼻を明かしてやろうって話だろ?」

「それでこそだよ、キリト!」

 

僕ら2人で顔を合わせて、悪い顔して笑い合う。

そうと決まれば善は急げだ! まずはソフトを買わなきゃ始まらない。ネットで中古でもポチって……

 

「そうだ。明久、これ」

 

キリトが差し出したのは、種々の妖精達が大木の周りを飛び回っているパッケージ。

 

「これって……」

「ALO。こっちから頼むんだ。ソフトくらい提供しないとな!」

「あなたが神か……」

「そんな、大袈裟だって」

 

実は大袈裟でもなかったりする。今月の食費が底をつくかどうかの瀬戸際だったのだ。和人のおかげでカップ麺一箱耐久生活に勤しまずとも良くなった。これが神でなくてなんだろう。

そんな未来が待ってるのに買うことを即決するなんて、後先考えなさ過ぎじゃないかな、僕……。

自分で自分に呆れながらも、快く和人からゲームを受け取る。

 

「じゃあゲーム内での待ち合わせは、アスナが囚われてるっていう世界樹ってとこにする?」

「ああ。ざっくりだけど、まあなんとかなるだろ」

 

僕に同意を示しながら、和人は自分の黒い手提げ鞄に手を伸ばした。丸く膨らんだバッグからとりだされたのは、鈍い銀色に輝くナーヴギア。

 

「わざわざ持ってきたんだ。ここでプレイ開始するつもり?」

「あのさ……明久って一人暮らしだよな?」

「うん。そうだけど……」

「泊めてくれ」

「だろうと思った。別に良いよ。着替えは僕のを使う?」

「実は……」

 

少し申し訳なさそうにはにかんで、和人はカバンから綺麗に畳まれた服を取り出した。

こいつ……! 最初から泊まる気満々か!

突発的な事故に見せかけた計画犯罪に、苦笑しながらも心が沸き立つ気分になる。SAOじゃ何度も衣食住を共にしたが、やはり現実の身体となれば新鮮みも変わる。

和人がすくりと立ち上がって、意気揚々と両拳をぶつけた。

 

「さて、じゃあ早速ログインしちまおうぜ!」

「オーケー。じゃあ僕の部屋に行こう。パソコンを設置してるのは僕の部屋だけだからね。先にご飯食べなくて大丈夫?」

「ちょっとくらい大丈夫だって。()で食べれば気も紛れるだろ」

「それって最近話題になってる電脳餓死になるやつじゃ……」

 

他愛の無い会話を繰り広げつつも、僕らは粛々と手足を動かす。

僕の部屋でベッドの上に僕、床に敷いた布団に和人が寝転がり、ナーヴギアを装着する。この感覚は、あまりに懐かしい。始まりの日、僕の運命が変わった日に立ち戻ったような高揚感が、じわりと心中に染み渡る。

しかし、これから赴くのは未知の世界だ。剣と魔法が支配する妖精の理想郷では、どんな冒険が僕を待ち受けるのか。

優子、もう少しだけ待ってて。僕が出せる全速力で、君の居場所に駆けつけるから。

最後に優子のことを想起してから、僕は和人と同時に式句(コマンド)を詠唱した。

 

「「リンクスタート!!」」

 




シリアス・アトモスフィアなんて知らねえ……! ウチのキリトは原作と性格違うんだ……! ライト達に誑かされてパッションボーイなテンションなんだ……!!
とまあそんな感じで、原作より鬱みが少ないキリトなのでした。
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