インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S) 作:フラッシュファントム
自室に戻ろうとした俺は道中でボーデヴィッヒと織斑先生の話し声が聞こえた。俺は近くの物陰に隠れて様子を伺う。
「教官、何故こんな所で教師をしているのですか!?」
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
どうやら、ボーデヴィッヒと織斑先生が口論をしているようだ。声が明らかに大きい……。できれば他所でやって頂きたいものだ。
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!?」
話の内容からすると奴は織斑先生がここで仕事をしている事に大層ご不満のようだ。と言っても俺の知った事ではないが俺は奴の話を最後まで話を聞くことにした。
「教官! ドイツで再びご指導をお願いします! ここではあなたの能力は半分も発揮できません!!」
「何故だ?」
彼女の訴えに対して織斑先生はそう問いかける。自分の能力が生かせていない理由を知ることも指導者として必要な事だと俺は思った。
「そもそもここの生徒など教官が教えるにたる人間ではありません!
意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしています!!」
奴の意見に一理あると思った。建前では競技用だと謳っているが実際は人を容易に殺せる凶器を扱っているのだ。自動車も使い方次第では人の命を奪う凶器に変わるので取り扱うのに教習所に通って試験に合格して初めて免許が与えられる。
尤も、凶器を扱っているという自覚を持っている生徒の方が少なそうだがな。
「そのような程度の低い者たちに教官が時間を割かれるなど……!?」
「そこまでにしておけよ…小娘!」
彼女は最後に何かを言おうとした時、織斑先生の威圧的な口調の言葉に奴は押し黙った。流石に教官だからこれ以上は逆らえないようだ。織斑先生が発した覇気をまともに受けたら堪ったもんじゃないな。
「少し見ない間に相当偉くなったな。15歳でもう選ばれし者を気取るとは……」
織斑先生の言葉にボーデヴィッヒは震えて何も言い返せないでいる。奴は織斑先生の元から直ぐに去った。俺も織斑先生に見つかると面倒なので自室に戻った。
自室に戻った俺はデュノアが戻ってくる前にフランス代表候補生について調査を進める。あの反応は怪しすぎるからな。
「予想通りだったか……」
フランスの代表候補生リストを確認したところ、シャルル・デュノアという人物はいなかった。その代わり彼に極めてよく似た人物『シャルロット・デュノア』が目に止まった。
他人の空似と俺は一瞬そう思ったが不自然な点が多くリスクが大きすぎる。
万が一、奴が工作員等だとしてそれが発覚しようものなら大事になるのは確実だ。こうも簡単に分かる事の筈なのに何故IS学園は見逃しているのか。それに不信感を抱いたがそれを奴の尻尾を掴むチャンスに変える。
意図的に稼働データの記録を机の上に置いたままにする。次に奴が端末で確認して持ち去る瞬間を映像で記録する。最後に生徒会長と教師を同伴させて奴がスパイをする決定的証拠を押さえる事にした。ダメ押しとしてデータと性別偽装等を突き付ければ終わりだ。スパイ目的で来たと思われるデュノアを捕える計画を脳内で組み立てた。
データ確認は後でも問題は無いと判断して奴の様子を伺ったが今の所は変わった動きは無いようだ。
翌日、その準備を進める為にこの計画を生徒会長と学園の教師とその上層部に伝えた。
本来ならこの時点で奴を捕える事もできるそうだ。しかしスパイをした証拠があれば有利になると上層部が考えたのか俺の計画を了承してくれた。
生徒会長と教師陣は早急に捕まえた方が良いと主張したがそれは退けられたようだ。上層部はこのスパイ活動を名目にフランスから多額の賠償金が欲しいようで現場の事は殆ど考えていない連中だ。
これに関しては俺の管轄外だが直ぐに実行することになった。
その翌日、小物に偽装した超小型隠しカメラを机の怪しまれない所に設置した。次に初期の稼働データが入っている端末をPC近くに置いて罠を仕掛ける。
罠を設置後、自室から出て別の部屋に待機した。
デュノアは罠に呆気なく引っ掛りスパイ活動と戸籍偽装等の罪で強制送還と退学処分が下された。
奴はこちらの罠を警戒して行動するかと思っていたが無警戒だったようだ。
彼女は本国で諜報活動の訓練等を明らかに受けていない証拠だ。学園上層部の狙い通り連中はフランスに多額の賠償金の支払いを求めて訴訟をするようだ。
この件で一番の決め手となったのはデュノア社と国が共謀していた事が致命的だった。デュノア達の末路は知らんがあの分だと表に戻ることは無理だと思った。
デュノアが退学した日の夜、俺は後回しにしていた稼働データの分析を行う。デュノアとの模擬戦で得られたデータは俺のデータ解禁に役立った。それを基にして俺はパーツと武装の組み合わせをしていく中である事に気付いた。
(そういえばフェムトを使っているのに誰もアウター症候群を発症していないのは何故だ?)
フェムトに毒性がある事を思い出した。それは新たなエネルギー源でもあるが同時に劇毒でアウター症候群を発症し病気に適応した者以外は死亡する筈だ。しかし今の所は誰も発症していないので念の為、黒鷲が使用するフェムトの性質を確認した。
(マジかよ……!?)
黒鷲が使っていたフェムトにアウター症候群を引き起こす毒物反応が無かった。俺はその要因を平行世界を飛び越えた影響だと推測したが詳しい事はこれ以上は分からなかった。
(どうしたものか? アーセナルを使うのは控えるべきだが…。稼働データが無いとパーツ解禁ができないからフェムトの変化を随時、確認だな)
そう考えて機体と武器の組み合わせを一晩中考えた。それで大丈夫なのかと思う人達もいそうだが経過観察と称するしかない。
機体を組み終えた翌日の朝、俺は第3アリーナに一番乗りで到着、黒鷲に乗り込んでピットからフィールドに飛び出す。ここに奴が来る事を感じ取ったからだ。
予想通り、ボーデヴィッヒが俺から見て正面にあるピットから姿を現した。
「待ってたぜ。模擬戦を希望するなら受けて立とう!」
「貴様の望み通り、受けて立つ!!」
ボーデヴィッヒがフィールドに着地すると同時に模擬戦を開始する。
奴の武器は右肩のレールカノン、背部にある6つのワイヤーブレードと両腕のプラズマ手刀で実験機に相応しいな。先制攻撃として俺は左手に持っている
彼女は銃撃に対して体を軽く反らして回避と同時にワイヤーブレードを3つ射出して接近する。俺は右手に持ったシルバーレイヴンで牽制しつつブーストで後退と同時に跳躍して空中戦に持ち込もうとする。
「ふっ、馬鹿め! 逃がすと思うな!」
ボーデヴィッヒは口角を釣り上げて残り3つのワイヤーを空中に飛ばした。奴が出したワイヤーに囚われてそのまま地面に叩き落とされた。彼女は右肩のレールカノンで追撃を仕掛けようとしたが俺は咄嗟に奴に向けてハンドグレネードを投げつけた。
ボーデヴィッヒは右腕を突き出してそれを空中で制止させた。奴は制止させたグレネードを左腕のプラズマ手刀で両断、レールカノンで砲撃した。
「中々やりますね…。しかしこの程度では私を倒せませんよ!」
砲撃の直前にシールドシフトに切り替えて砲弾を辛うじて防ぐことが出来た。しかし代償として暫くシールドシフトが使えなくなった。
左手の突撃銃をLPに格納している
「愚か者! 私の
奴はそう叫びながら右腕を突き出すと攻撃が届く前に停止させられた。これは……スタン攻撃のように思うが違うと感じ取った。ボーデヴィッヒは俺が身動きが取れない状態を利用して決着をつけようとする。
「それはどうかな?」
俺が意味深にそう告げると同時に奴は背部からの攻撃を受けた。それと共に俺は停止状態が何故か解除された。
ボーデヴィッヒに接近する前に予めブリッツを射出して正解だった。
こちらの使用しているブリッツ『グレイスラスト』は遠隔操作型のショルダーウェポンで子機を射出、それにマシンガンが内蔵されており自動的に接近して攻撃する武器である。
奴が子機に気を取られている隙をついて太刀で横一閃の一太刀を浴びせ、ブーストによる後退と同時にシルバーレイヴンを連射。ハンドグレネードを投げつけて直ぐに子機を回収した。
ボーデヴィッヒは迫るグレネードを先程のように制止させたが俺は奴が停止させたグレネードにマシンガンの弾を撃ちこんだ。
弾はグレネードに着弾と同時に爆発を起こして彼女を巻き込んだ。これにより奴のシールドエネルギーは尽きて勝負が決まった。
「俺の勝ちだな」
「ちっ……覚えていろ!」
俺が勝利を告げるとボーデヴィッヒは舌打ちをしながらその場を逃げるように去った。
それから俺達の後にここに来ていたオルコットと鈴音に模擬戦を申し込んだ。
俺は1人で鈴音とオルコットのペアで戦うように所望した。複数で戦う訓練の一環だと彼女達に説明した上で模擬戦をした。
結果、2人を相手に何とか勝利した。
この調子でデータ解禁を進めて学年対抗戦に備えよう。模擬戦を終えた俺は稼働データを確認するために自室に戻った。
(戦果は上々、この調子で戦っていこう)
心の中でそう呟いた。
次は学年対抗戦です。
黒鷲のパーツとウエポン
ヘッド:ロングソード
ボディ:ソードブレイカー
プロセッサー:メモリアップⅡ
アーム:スティレット
レッグ:スサノオ
ウエポン
RW:シルバーレイヴン
LW:アストライオ
SW:グレイスラスト
AUX:ハンドグレネード
RP:ギリングインパクト
LP:アメノハバキリ