インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S)   作:フラッシュファントム

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VTシステムとの戦いです。
デュノア退場の件に関する補足ですが一夏はシャルルの家庭事情を知りません。
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オーダー11:偽りの暮桜

  俺はボーデヴィッヒのISが不気味な黒い人型に変化した光景を見て警戒する。打鉄に酷似しているものの肩の装甲等の細かい部分が異なっていたからだ。

 黒い人型は突然、間近に急速接近して刀を勢いよく振り下ろす。

 

「くっ、なんだ……この重い一撃は!?」

 

 RWのバルターエッジⅡで刀を受け止めたが桁違いの威力だった。そのまま鍔競り合いに持ち込むも奴の方が力が圧倒的だ。奴の横一閃を受けてアリーナ後ろの壁へ叩き付けられた。

 

「何て力だ……こいつを外に出すわけにはいかん!」

 

 俺は何とか立ち上がってバルターエッジⅡを構える。そこに黒い人型がまた接近して刀を振り下ろす。

 

「くっ!?」

 

 左にブーストして何とか回避するも奴は執拗に近づいては斬るを繰り返す。スピードは前に戦ったソロモンよりも弱いが受けたら只ではすまない。射撃をする隙が無い厄介な敵だと俺は戦慄する。

 その時、織斑先生から通信が入ったので開いた。

 

『織斑、あれはVTシステムだ』

 

「VTシステム? 何なんですかあれは!?」

 

 織斑先生が発したVTシステムについて尋ねる。名前からすると碌でもないシステムだと予想できるが当たりだった。

 

『あれはモンド・グロッソでヴァルキリークラス以上の操縦者の動きをトレースして動かす。

 条約で現在は国家・組織・企業においても研究、開発、使用の全てが禁止されている禁忌のシステムだ。あの姿は私に酷似しているから第一回大会で優勝した私のデータ(暮桜)を基にしている。教員部隊を今すぐ送るからその間だけ持ちこたえてくれ』

 

「分かりました。篠ノ乃は……既に離脱していたか。イーグル、オーダーを実行する!」

 

 ドイツは奴のISに違法なシステムを搭載していた。下手な実験動物よりも質が悪いな。そうなると後が大変な事になると思ったが今は時間稼ぎが最優先だ。

 相手は幸い近距離戦闘特化型かつ武器が刀だけなので距離を詰められない限りは何とかなると考えて即席で立てた作戦を実行に移す。

 両手の突撃銃で中距離から銃撃を仕掛けて牽制する。しかし偽暮桜は刀で銃弾を切り捨てながらこちらにまた接近する。

 

「ちっ!?」

 俺は粒子兵装をウイングシフトに切り替えて後方にブースト、突撃銃の弾を発射する。ウイングシフトは攻撃すると自動的に解除されてしまう。しかしウイングシフト中は防御が低下するのでその欠点を利用して只管逃げ回る。

 目的は鎮圧部隊の到着までの時間稼ぎだ。こいつが観客の所に行こうものなら大きな被害の発生は確実だ。空中に逃げて奴の攻撃を回避すれば余波でバリアが破壊される危険を考慮したら地上戦に徹するしかないと思った。

 近づかれないように奴との距離を開けるもそれを見抜いたのか積極的にこちらの懐に飛び込もうとする。偽暮桜にダメージを与えているがその部位が徐々に再生している。

 突撃銃とミサイルによる攻撃を行うがその途中でミサイルの弾が尽きた。

 

「このままではジリ貧だ……」

 

 逃げ回っている間に突撃銃の残弾を確認、僅かしかない事に気付いた。偽暮桜が瞬時加速で刀が届く間合いにまた来た。粒子兵装をウイングシフトに切り替えて距離をとると同時に残弾を全て奴に撃ちこんだ。

 

「弾切れか……」

 

 俺は弾が尽きた両手に持った突撃銃を見ながら呟いた。その時、偽暮桜がまた接近して刀を振り下ろすが空になったRWの突撃銃を咄嗟に手放して攻撃を避けた。そこから奴は刀を振り上げるが今度はLWの突撃銃を盾代わりにして攻撃を防ぐも銃は真っ二つになった。

 これで突撃銃は破壊されたがウイングシフトによるブーストで奴から距離を取ることができた。しかし奴はそれに応じて瞬時加速で接近、偽暮桜の攻撃を3回受けてしまった。ウイングシフト中は防御が低下しているのでこれは痛手だ。

 

「俺にこいつを使わせるとは……。模造品でも世界最強ということか!!」

 

 粒子兵装を解除、ミラージュ機能を解禁する。これにより機体が緋色に包まれると共にもう一機の黒鷲が俺の前に姿を現した。

 

「行くぞ!」

 

 分身と共に偽暮桜に近づいて攻撃を仕掛ける。

 囮として分身を先行させ、奴が攪乱した隙をついて死角からLWのバズーカで砲撃をすると分身もそれに応じてミサイルで援護射撃を行う。分身は本体の残弾に関わる事無く無制限に攻撃が可能だ。

 俺は更にバズーカによる砲撃を当てて動きが止まった偽暮桜をアリーナの壁端に吹き飛ばす。バズーカは衝撃で相手を後ろに吹き飛ばせる事を利用した。動いている相手にバズーカは使いにくいが動きが止まれば当てるのは容易だ。

 分身は偽暮桜へ積極的に攻撃を仕掛けており、バルターエッジⅡによる斬撃やバズーカの砲撃、ミサイル攻撃で奴を追い詰めている。その合間にバズーカによる援護射撃をするが途中でバズーカの弾が尽きた。バルターエッジⅡは使う度にフェムトを消費、分身の滞在時間が減るので俺は使わずに奴の様子を見ることにした。

 奴の再生速度が先程よりも低下、再生が追い付いておらず破損が目立っているようだ。分身にこのまま攻撃させておこうと思った。

 しかし偽暮桜は標的を分身からバズーカで援護射撃をしていた俺に切り替えて接近してきた。本体がこちらであることに思ったよりも早く気付いた。しかもミラージュをしている間は粒子兵装が一切使えない。

 

「ちっ、気付かれたか!」

 

 俺は咄嗟にLWのバズーカを盾代わりにして偽暮桜の斬撃を防ぐがバズーカと左腕が破壊されてしまった。

 

「左腕が大破した。……だが!」

 

 アーセナルのパーツは個々に耐久値がありそれが尽きると性能が大幅に下がってしまう。左腕が破壊された場合、LWが使用不可になってしまうのだ。其々の耐久値を確認するとどれも残り半分以下だった。フェムト残量は尽きそうだったが勝利を確信する。

 フェムトが尽きて分身が消滅すると同時に打鉄を纏った5人編成の教員部隊がアリーナに到着した。

 

「鎮圧部隊の到着を確認、後は頼みます。イーグル、戦線から離脱する」

 

 後始末は教員に任せてピットに向けてブーストする。俺の機体はボロボロで耐久が10%以下、これ以上の攻撃に耐えるのは不可能だ。

 あの数なら余程の事が無い限り、問題は無さそうだな。逃げる事に夢中になったせいでスタミナ切れを起こしたが回復次第、離脱しよう。

 

「VTシステム…とんでもない代物だが、こっちの世界では役に立たないな」

 

 俺はあのシステムと戦って感じたことを呟きながらピットに向かい跳躍地点に着いた瞬間、後ろから近づく物体をレーダーが捉えた。

 

『織斑! 暮桜が鎮圧部隊の包囲を抜けてそちらに急速接近している!!』

 

「なにっ!?」

 

 振り向くと奴が後ろから追ってきていた。敵はこちらを殺さないと気が収まりそうにないと悟った。しかし今、奴と戦ったら確実にやられる。鎮圧部隊も奴を追っているが間に合わない。

 

「くそっ!?」

 

 奴は刃が届くところまで接近している。瞬時加速で鎮圧部隊の包囲網を抜けてここまで来たようだ。

 

(このままでは……死ぬ!!)

 

 俺は咄嗟にRWのバルターエッジⅡを奴の胸に突き刺すとレーザーの刃は偽暮桜を貫通、刀が振り下ろされる直前に停止した。俺は直ぐに奴から離れて警戒する。

 

「敵だから刺した……。それだけだ」

 

 言い訳を呟くと偽暮桜はドロドロに溶けて取り込んでいたボーデヴィッヒが姿を現した。しかし奴の心臓近くに穴が空いており傷を近くで目視したが即死に等しい状況だった。出血こそしてはいないが細胞はレーザー刃で焼かれている事は明らかだ。

 彼女は俺と教員によってその場で死亡を確認、学年別対抗戦は中止になった。

 

 

 

 

 

 

  偽暮桜を破壊した後、個室で尋問が行われた。その内容はミラージュと何故ボーデヴィッヒを殺したかだ。

 あの時、教員部隊の到着と共に撤退した。その途中で奴が包囲網を振り切ってこちらを殺そうとしたから反撃、下手をすればこちらが死んでいた可能性があることも伝えた。

 ミラージュについては最初に提出した資料に掲載済みである事を話した。

 ドイツは当初、代表候補生殺害を理由にこちらに身柄を引き渡すように申し出をした。

 しかし俺はドイツが違法研究をしていてかつそれによりこちらが危うく命を落としかけた事、何よりもドイツは条約に反した違法研究を何故黙認したのかということも厳しく追及した。

 学年対抗戦は各国の代表が集まる行事だ。

 大国のお偉いさんが当時、発生した映像の一部始終を見ていたので俺に味方してくれた。そのお陰で罰則等は特に下されなかった。

 ドイツはこの件でどうなったかは知らないがあんな醜態を全世界に晒したからお先真っ暗なのは確実だ。しかしこちらの管轄外で知ったことではない。

 

「人殺しか……。少佐と同じ立場になってしまったなぁ~……」

 

 連日続いた尋問を終えた後、自室のベッドで独り言を呟きながら眠りについた。




ラウラ推しの皆様に申し訳ありませんが彼女はここで退場させました。

補足ですがミラージュ等でフェムトが無い状態だと粒子兵装は一切使えません。
レーザーブレードはフェムトが不足していても攻撃できますが範囲は狭くなります。

次回は総集編ですがDXM本編のネタバレがございます。

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