インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S) 作:フラッシュファントム
学年対抗戦から数週間後、IS学園に入学した生徒の半数が退学または編入した。その理由は俺がボーデヴィッヒを殺したことが原因だった。これが切欠で他の学年や生徒から嫌われる様になったが特に問題は無い。寧ろ危機感が低い生徒ばかりが入学していた事に呆れている。
特に深刻だったのは1年1組でその生徒数は入学時の半分以下になっており空席が目立っている。生徒が大勢いた教室の空席を見ると少し虚しくなったがそれ以上の事は何も感じなかった。今の状況で残っている生徒は篠ノ之とオルコット、10人の生徒だった。
オルコットは代表候補生でこのクラスの副代表を担当しているので理解はできるが篠ノ之は血縁者という足枷で彼女の都合や意思を上層部が無視して残らざるを得ないと思うと同情した。
俺が登校していた数日間、織斑先生は休職をしており他の教師が授業を担当した。織斑先生の教え子を殺した張本人を前にして平常通りに授業できるとは思えないので納得している。
こちらを見て先生が癇癪等を起こして授業が進まなかったら本末転倒だからな。
ボーデヴィッヒは織斑先生に軍の教官として戻って欲しいとお願いした際に生徒たちを『意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしていた者たちばかり』と言っていたが皮肉にも彼女の死によってそれが証明された。
特に入学していた日に織斑先生に憧れて入学していた生徒が全員、退学ないし別の学校に編入した事については何も思わなかった。
その中にはクラスメイトを殺した俺と一緒に授業を受け続ける事が耐えられないという理由で辞めた生徒もいたがこれは仕方ないと思った。
犯罪者と一緒にいるだけで精神的苦痛を伴う人もいるので自分の心を守る為に学園を去ることは正しいと俺は感じた。自分の身は自分で守るしかないからな。
ボーデヴィッヒを殺した件については罰則を科す事が非常に難しい状況だと言える。鎮圧部隊の到着と共に撤退して戦闘を継続する意思が無いにも関わらず、奴は鎮圧部隊の包囲網を抜けて斬りかかった。
機体がボロボロで油断していた俺は自衛だが止む無く反撃した結果、レーザー刃がボーデヴィッヒの心臓近くに刺さった。正当防衛に当たるかは別としてもしもあそこで死んだとしたら学園上層部はどんな行動をしていたかを考えたが無意味なので辞めた。
この後、口外禁止を条件に知った事だがボーデヴィッヒはドイツの研究施設で生み出された人造人間でかつ兵士として戦う存在で『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という名前は識別する為に名付けられた事実に衝撃を受けた。
言葉を選ばずに例えるなら生体兵器を破壊しただけと解釈できる。だからと言って人の命を奪った事実、それが許される理由にならないがある意味で自分と同じ消耗品扱いという事に俺は同情をした。
彼女もまた被害者の様なもので上の人達に搾取され続けて不要になったら切り捨てられる存在だったと思うとボーデヴィッヒが過酷な人生を送ったのか容易に想像できた。
しかしだからと言って誰かを殺して良い理由にはならないがそれでも俺は心の何処かで彼女に少し共感を覚えた。
暫くして織斑先生は職場復帰をしたが俺を見て動揺していた事はよく覚えているが気にも留めなかった。しかし信念は揺らぐことなく授業は進んだ。
数日後、林間学校の一環でバスで海辺の旅館で一泊二日の合宿が決まった。目的地に行くまでのバスは当初こそ1台で40人乗れるバズが4台用意されていたが半分の2台で事足りた。何故なら1クラス40人で4クラスの計160人だったがボーデヴィッヒが死んだ事で1年生の生徒数が半数以上減ったからだ。
俺の席の隣に座る生徒は居ないと既に予想していたので予め座席の一番前にある一人用の席に座った。移動中は生徒達の雑談が最初こそ聞こえていたが途中で静かになった。やはり俺と一緒にいる事が気まずいと思う人が多かったのだろう。
バスは予定通りに目的地に到着、生徒全員が下車してこれから旅館でお世話になる従業員の代表に挨拶をした。その後は各自に割り当てられた部屋に赴いて荷物を置いた後は自由行動だ。
「俺の部屋は1人部屋だよな」
相部屋を拒否されることは予想済みで驚き等は特に無かった。人殺しの肩書きが如何に重いのか心に圧し掛かってくる。とはいえ与えられた自由行動を活かす為に外へ出た。
「海か……。オーヴァルリンクの海は赤かったがこの世界の海は美しい青だな」
外に広がる青い海の光景を見て感慨深く思った。オーヴァルリンクの水と海は目覚めの日にフェムトが大量に降り注いだ影響で汚染されて赤く染まっている。フェムトは水に拡散する性質を持っておりアーセナルはこれにより水に入ると停止して沈んでしまう。
アウターの俺もフェムトを有しているがフェムト汚染を懸念して海に入らないようにしている。万が一、海に浸かって無毒のフェムトが変質、毒性を持ち環境汚染を引き起こしたら大問題になるからだ。
「部屋に戻るか……」
青い海を見て満足して部屋に戻って持参しておいたノートPCを取り出して機体と接続、パーツと武装の組み合わせを行った。前回の戦いで保存できるデータ数が増えて10個になったので4つは愛用していた黒鷲の初号機~四号機の再現をした。
残りの6つは高機動中距離射撃型と近接格闘特化型、狙撃戦用型と重装甲高火力型、重装甲格闘特化型と特殊攻撃特化型にした。これを主軸として任務や戦う敵に応じて武装を変えて戦う。
それだけでなく俺は元の世界に帰還する事を想定して現時点で作成できる稼働データを兼ねた報告書を作成した。帰還できる可能性は限りなく低いかもしれないが備えておいて損は無いと考えた。
報告書を作成し終えると夕食の時間になった。夕食は大広間で食べる事になっていたが生徒に考慮して自分の部屋でたった一人で食べることした。
「アウターはこんな時に不便だが仕方ないな」
俺は大浴場を使わずに個室に用意されたシャワーを浴びた。俺が浴槽に浸かってフェムト汚染が発生したら大変な事が起きる可能性がある事を考慮して使わなかった。
「明日は何か起きそうな気がするな……」
そう呟き、今日のやる事は全て終わったので布団を用意して眠りについた。
幾ら罪に問われず罰則が無かったとはいえ、犯罪者と一緒にいる事は精神的な負担が大きいことを考えてこうしました。
次は赤椿の初陣と福音戦です。