インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S)   作:フラッシュファントム

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オーダー2:準備

  翌日、俺は起床して着替えると部屋のドアからノックをする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

 

 俺はその場からドアに向かって一声掛けてこちらからドアを開けた。短髪で髪の毛が水色で瞳の色が赤が特徴の女性が大きなダンボール箱を持って入室した。

 

「貴方が織斑一夏君ね。私は更識楯無、IS学園の生徒会長宜しくね」

 

「私は織斑一夏、20歳です。ご迷惑をかけることは沢山あると思いますが宜しくお願いします。その箱は私がお持ちします。荷物を持って来ていただきありがとうございます」

 

 その女性、更識楯無は自己紹介をしたのでこちらも改めて自分の名前と歳を名乗って彼女が持っていたダンボールを持った。今の立場は下なので丁寧な挨拶をした方が得策だと判断した。

 

「そんなに畏まらなくていいわよ。私の事は好きに呼んでいいからね」

 

「何というか私の癖のようなもので……生徒会長と呼ばせてもらいます。その方が私としても呼びやすいです」

 

 俺はそう言ったが生徒会長はご不満な様子だった。そこで楯無さんと呼ぶ事を提案すると彼女は渋々ではあるが了承してくれた。

 自己紹介の後に彼女は千冬からの指示で昨日、支給すると言っていた物品が入ったダンボールを渡し来たのだ。

 

「支給された物品の内容を確認をしました。問題は無いです、ありがとうございます」

 

 届けられた物はノートパソコンとケーブル類、生徒手帳と学生証、ISに関する資料と参考書類と制服等のこれからの学園生活に必要な物だ。問題が無い事を確認して楯無さんにお礼を言った。

 どうやら彼女は挨拶がてら俺に物品を支給するために来たとの事だ。俺に会ってみたいという私的な考えがありそうだが気にしない。

 その後、彼女から学園生活に関する規則等の説明を簡潔にしてもらった。規則に関してはオーヴァルリンクで活動していた時と比べたら外出に関しては制限はあるが特に問題は無いと判断した。

 

「説明は以上だけどここで何か質問はある?」

 

 楯無さんは説明を終えると俺に質問が無いかを確認する。そこで俺はある事を訊ねる。

 

「あります。入学までに私は量産型のISを動かしたいのですが現状でどれだけ時間が確保できるか教えて頂けますか。それとその申請した時間内で私のブラックイーグルを稼働させても問題は無いですか」

 

「そうね……今から申請書類を書いて提出しても量産機は約1時間ね。今の時期だと施設の点検の関係で3週間の内で動かせるチャンスは一度だけね。

 貴方の専用機は所定の場所や緊急事態以外での展開は許可されていないわ。けどその時間内で専用機を使う事は問題ないからね」

 

 それを聞いた量産機を動かす時間が確保できると分かって内心、ホッとした。

 このまま動かす事ができなければISの使い勝手や対策を考案するのは困難だからだ。実際に物を動かしたりしないと分からない事が多くある。

 

「ありがとうございます。荷物の整理が終わったら申請用紙の記入をします」

 

 お礼を言って急いで取り掛かる。早く書いて提出した方がお互いに助かると思ったからだ。

 

「どういたしまして。そんなに急がなくて良いのよ。用紙は私が取りに行くから大丈夫よ」

 

「お気遣い、感謝します。恐れ入りますがその類いの書類は今後、自ら取りに行く事が多くなると思います。自分で行けるようになっておきたいので代わりに場所への案内をお願いします」

 

 彼女に任せても良いかもしれないが自分で出来るようにした方が安心だ。俺はそう思って提案した。

 

「整理が終わったら声をかけて。廊下で待つわ、でも急がなくていいからね。その前に1つ、貴方に訊きたいことがあるけどいいかな」

 

「私の申し上げられる内容でしたらお答えします」

 

 楯無さんが俺に確認したいことがあるので聞くことにした。

 

「貴方は織斑千冬の弟ですか?」

 

 彼女にそう聞かれた俺は少し考えた後に答える。

 

「いえ、私の身内に姉はいないです。確かに同じ名字で顔つきが何となく似ているとは思いました。しかし改めて申し上げますが織斑先生の弟ではありません」

 

 自分の感想を交えてそう述べた。生憎だが俺に姉はいない。あの世界の孤児院で育った。

 

「そう……分かったわ。ありがとう」

 

 楯無さんはそう言って部屋から出た。すぐに物の整理を開始する。ノートパソコンは机の奥に配置、貴重品類は衣服のポケットに入れて資料は机の上に重ねて置いた。

 

「とりあえずこんな物にしておくか。楯無さんを呼びに行こう。……警戒するに越したことは無いな」

 

 楯無さんは表面上は物事を親切に教えてくれる頼れる先輩に見えた。しかし裏では俺に対して強い警戒心を抱いている事を感じ取った。それにテラーズに似た黒い感覚もあった。

 一旦、その事を考えるのは止めて部屋の外に出た。

 部屋を出ると廊下に楯無さんが待っていた。そのまま彼女は俺を職員室に案内し、そこに在中している教師に話をして用紙を受け取った。

 

「これが申請書よ。職員室の先生に声をかけたら貰えるわ」

 

 そう言って楯無さんは申請書を渡してくれた。

 

「ありがとうございます。申請書は今日中に書いてそちらに提出します。分からないはこちらで確認します。失礼します」

 

 楯無さんと対応してくれた教師にお礼を言ってから職員室を出て自室に戻り書類に必要事項を記入する。分からない所は特になかったので必要事項を全て書いて職員に提出、不備が無いか確認してもらった。

 

「不備は無いですね。申請書を受理しました。結果が出るまでお待ちください」

 

 幸い、不備は無かったようだ。書類は書き間違い等があったら面倒なことになるから早い内に見つけて直したいと思っていたが杞憂だった。

 申請の結果が出るまでの間に俺は支給された資料を読む傍らで世界情勢の調査、アーセナルと量産型ISのスペック表の作成をした。其々のスペック表を作った理由はアーセナルとISの違いを確かめてISの理解を深める為だ。

 

 

 

  それから1週間後、アリーナと量産機の使用許可が出たので即座に行動を取る。

 山田先生の監視下でISと黒鷲を動かすのだ。フィールドに立った俺は最初に黒鷲を起動させて地上と空中、合計で5分程度で基本動作と飛行を終わらせた。

 

「感覚は今までと同じだから問題は無しだな」

 

 これに関しては今まで腕輪に変化する前の黒鷲と変化後に違いは無かった。管制室に目をやると山田先生はデータ収集をしていた。直ぐに切り上げてカタパルトデッキに入りこむ。

 

「本命はこれだな」

 

 黒鷲を解除してデッキに置いた侍の甲冑を模した量産型IS『打鉄』を着用、カタパルトデッキからフィールドに飛び出した。

 黒鷲で先程行った基本動作を全て実行した。感覚としてはアーセナルに近いが微妙に違うような物で具体的に表現するのは難しい。慣れるのに少し時間がかかりそうだ。

 残りの時間は武装を確認、銃器は試射をして刀剣類は素振りを行い、フィールドの周辺を飛び回った。飛行についてはアーセナルでしている事をイメージしてやってみたら大きな違和感は無かった。

 

『織斑君、あと5分で終了時間になります』

 

「分かりました。イーグル、任務を終了する」

 

 山田先生が残り時間を告げた。必要な情報がとれたのでカタパルトデッキに飛行して戻り、打鉄を解除した。そこに山田先生がやって来た。

 

「山田先生、お忙しい所をお立合いいただきありがとうございます。今回収集できたデータについてですが内容はこちらでまとめて提出した方が宜しいですか」

 

 俺は念の為に彼女に確認を取った。

 

「いえ、大丈夫です、稼働データはこちらも記録しているので私から提出します。なので織斑君は入学まで勉学に専念してください。それと打鉄もこちらで回収します。ゆっくり休んでください」

 

「分かりました。ありがとうございます。私はこれで失礼します」

 

 山田先生にそう言ってアリーナを去った。部屋に戻り、今回のアリーナで得られたデータをまとめた。

 

「ISとアーセナル、カタログスペックと使用した感覚に大きな違いは無しと……。大まかな違いはあるがそれは明日改めてまとめるとするか」

 

 大まかなまとめを終えてそう呟きながらパソコンの電源を切ってシャワーを浴びた。それから着替えて直ぐにベッドで眠った。

 

 

 

 

 

 

  その日の夜、職員室で織斑千冬と更識楯無は一夏の事について話をしていた。

 

「DNA鑑定の結果が今日の夕方に届いた。私と一夏は姉弟だ。あの時は疑っていたが……生きていて良かった!」

 

 千冬は涙声をあげながらも喜んだ。ここで楯無が疑問を投げ掛ける。

 

「けど……彼のあの反応はおかしいわね。まるで織斑先生は存在していないような言い方だった」

 

 千冬は当初、一夏が記憶喪失で自分の事を忘れていると思った。自分から確かめたかったが冷静さを保てないと考えて結果が来るまで待った。

 だから楯無に物を持っていかせた。もしも結果を待つことなく千冬が荷物を持っていって尋ねたら酷く動揺している自分の姿が目に浮かぶだろう。

 

「そうだな。最初に会った時、それから何度か話をしたが他人行儀みたいだった。家族なのに……何故だ」

 

 今までのやり取りを思い出した千冬は落ち込んでいた。

 

「今は様子を見るしかないですね……」

 

 楯無はそう言い残して職員室から出た。千冬が誰もいない職員室で抑えていた涙を流した。




一夏の秘密は徐々に明かしていきます。

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