インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S) 作:フラッシュファントム
2週間後、IS学園で入学式が予定通りに行われた。入学式に俺は参加せず、自室で待機している。
「今のところは異常無しだな」
世界初の男性IS操縦者が入学式に参加していたら確実に目立ち混乱が起きる事を危惧したが故の判断だ。
その後はこれといったトラブルもなく入学式は終わった。解散した生徒達が全員いなくなった。予定通りに入学式が終了して全生徒が教室に入ったと報告を受けた俺はこれから授業を受けることになる教室の扉の前で山田先生の指示を待った。
教室では生徒の挨拶や自己紹介が行われているようだ。全員の自己紹介と挨拶が終わり、山田先生に呼ばれた俺は教室のドアを開けて入室、山田先生の前に立って挨拶をする。
「私は織斑一夏と申します。年齢は20歳です。
先に申して置きますが私は織斑先生と名字が同じですが家族や親戚等ではございません。ISに関して私は未熟者でございます。ご迷惑をおかけになりますが宜しくお願い申し上げます」
この教室にいる生徒に挨拶と一礼をした。正直言うと俺はこの中で立場は一番下だと考えている。
織斑と聞いたら千冬の家族では無いかと疑う生徒がいると考えて先に無関係だと言っておいた。
一々探りを入れられても困るからだ。大抵の場合だとここで歓声が響くと予想したが俺の余りにも丁寧な挨拶にどう反応すれば良いのか戸惑いを俺は感じた。
少しすると織斑先生が教室に入ってきたので教壇前の空席に着席した。
織斑先生が教壇の前に立つと歓声が上がるも彼女はそれを直ぐに黙らせた。生徒の中には彼女を崇拝する様な声を上げる者がいたが関係ない。
1限目の授業が始まった。授業内容自体は問題なく理解できた。気がかりがあるとすればこちらに対して強い戸惑いと疑いを向ける生徒がいる事を感じ取ったこと程度だ。
1限目終了後、俺は次の授業準備を開始する。先程から例の気配を感じ取っていた問題の生徒が声をかけてきた。
「ちょっと良いか?」
「私は今、次の授業の準備をしている所です。少々お待ち頂けますか」
俺に声を掛けてきたのは黒髪のポニーテールと釣り目が特徴的な女性だった。こちらは丁寧な返答をしたが彼女はそれに驚いた表情を見せる。それに構う事無く準備を終わらせ、改めて問いかける。
「お待たせしました。用件を伺います」
そう問いかけると女性に引っ張られて教室から出て、屋上に連行された。抵抗しても良かったかもしれないが相手の出方を探るために大人しくした。
屋上に連行された俺は彼女から怒気を交えた口調で質問を投げかけられた。
「一夏、今までどこにいた!? 心配していたんだぞ!」
「恐れ入りますが私は貴女の事は存じておりません。誰かと間違えてはおりませんか。失礼ですが貴女とは初対面です」
本来なら荒い口調で返しても良いだろうがここは冷静に相手が間違っている可能性を指摘する。ここで相手を刺激するのは得策ではないからだ。こちらの予想に反して彼女は更に怒気を交えて叫ぶ。
「なっ……初対面ではない! 私はお前の幼馴染、篠ノ之箒だ! 忘れたのか!? どうなんだ!」
それを聞いて俺は少し考え込んだ後に篠ノ之に答えを述べる。
「幼馴染ですか……。申し訳ございませんが私は貴女のような幼馴染がいた記憶等は一切無いです。
私と同姓同名の誰かと勘違いをしていると思われます。私は貴女が認識している人物ではございません。用件が以上でしたら私はこれで失礼します」
呆然としている篠ノ之にそう告げて屋上から去った。篠ノ之から独り言が聞こえたが気に留めなかった。貴重な時間を無駄にしてしまった。そう思いながら教室に戻って2限目にする授業内容の確認と予習を進める。
「ちょっとよろしくて」
「用件があるなら手短にしてくれ」
そこに金髪の長いロール髪が特徴的な女性が偉そうに声をかけてきた。篠ノ之の件で腹が立っていた俺は少しぶっきら棒な返事をしてしまった。
「まぁ!? 何ですその態度は!? この私が態々声をかけているのに失礼ですのよ! 先程の応答をされるのが普通ではなくて!」
「これは失礼致しました。それでご用件がありましたら仰っていただけますか」
この手の輩は厄介だな。貴族特有の傲慢な感じがひしひしと感じる。ヴァランタイン家の当主、セイヴィアーに近い感じだったが彼女は彼の足元にも及ばないな。
こちらの物言いに気に入らなかったのか彼女は怒鳴ってきたが敢えて無視して授業内容の確認を進めているとチャイムが鳴ったので彼女は捨て台詞を吐いて席に戻った。
2限目の授業が始まるチャイムが鳴り終わると共に織斑先生が教室に入り、教壇の前に立って授業を始めようとする。
「2限目の授業を始める前にクラス代表を決める。自薦、推薦は問わない。誰かやりたい者はいるか」
どうやら授業を始める前にクラス代表を決めるようだ。クラス代表とは学級委員みたいな物でISの試合や学年会議に出席する人のようだ。
殆どの場合は今日の授業終わりに決める事だろと俺は思った。しかし大事な役職等は早く決めるに越した事は無いなと勝手にそう解釈しておいた。すると生徒の1人が俺を推薦する。
「はい! 私は織斑君が良いと思います!」
「私も織斑君を推薦します!」
予想通り、こちらを推薦する者が大勢いた。一見するとピンチだと思われがちだが俺はチャンスと考える。クラス代表はISを動かす機会が多くあり、生徒の会合で有力そうな情報を集める良いチャンスと思ったのだ。
これに便乗してクラス代表に立候補しようとしたが先程まで俺に絡んでいた女性がそれに異議を唱える。
「納得がいきませんわっ!!」
そう叫んだ女性は机を両手で思い切り叩いて立ち上がった。そこからイギリス代表候補生セシリア・オルコットによる俺への侮辱が始まった。俺だけが対象ならまだ良かったが残念ながら彼女の侮辱は1人に留まることなく何故か日本人や日本への侮辱に拡大していた。
オルコットの侮辱を敢えて止めなかった。何故なら平行世界から来たこちらにとっては関係が無いからだ。腕を組んでオルコットが話している事を黙って聞く。
貴族は偉そうにしている者は多いがそれ相応の実力を持ち、率先して最前線で戦っているから納得している。
「貴方、人の話を聞いていますの!?」
「話は聞いています。1つ確認したい事があります。
貴女は何故、立候補をしなかったのですか?
大抵の場合は自分から役職に立候補するはずです。何故、立候補しなかったのか答えて頂けますか」
反論していなかった態度が気に入らなかったのか俺に返事を求められたのでそう返すと共に立候補しなかった理由を問い質す。周囲も質問内容に納得して頷いく。
その質問に答えられなかったオルコットはヒステリックな口調で叫ぶ。
「よくも私に恥を欠かせましたわね!? 決闘ですわ!」
オルコットから決闘を申し込まれたので敢えて渋々とした態度を見せながら口を開く。
「織斑先生、オルコットさんは私のクラス代表推薦に納得されていないようです。なので私は彼女の仰る通りにISの試合をしますが宜しいですか」
織斑先生にそう訊ねた。意図的に相手の要求を受け入れたのは立場が一番下であるが故の対応だ。自ら事を大きくしないように気を配った。
「良いだろう。1週間後にアリーナで織斑とオルコットによるクラス代表をかけたISによる試合を行い、勝者に代表をしてもらう」
織斑先生はそう告げてクラス代表の決定を保留した。俺からすればISのデータを収集できる絶好のチャンスだ。そして残りの授業を受けたが問題は特に無かった。
代表決定戦迄の1週間、オルコットのISに関する情報収集と対策に時間を費やす。使える手段は全て使って勝つ。そうして1週間を過ごした。
入学式を終えた日の放課後、千冬は寮長室で箒に一夏の事について話をしていた。
「千冬さん、一夏に何があったのですか!?」
箒はそう叫びながら千冬に問い質した。彼女にとって一夏は大切な幼馴染だというのに記憶にすらないと彼の口から直々にそう言われたのだ。
「分からん。DNA鑑定を見ても一夏は私の弟だ。けど一夏は私を赤の他人としか思っていない……。記憶喪失だと判断して様子を見ているが…。
私があの時、一夏をドイツに連れていかなければこんなことには……」
「そんな……」
千冬からそう言われた箒は膝から崩れ落ちて酷く落ち込んだ。織斑一夏は中学生の時に開催されたISの世界大会モンド ・グロッソの開催地であるドイツに連れていったら誘拐されていた。決勝戦開始間際に知った彼女は決勝戦を放棄して彼を助けに向かった。この時、ドイツ軍が何故か彼が誘拐された場所を知っていた。
彼女は一夏が誘拐された場所に到着するも一夏の姿は見当たらない。周辺を必死に探すも結局、発見できずに捜索は打ち切られた。
それから数年後に一夏に極めて似た人物がIS学園の格納庫で発見、千冬は対面した。
当初は行方不明の年数と発見時の年齢的な外見が釣り合わなかったので確信が持てなかった。そこで血液検査と併せて密かにDNA鑑定をした。結果は血縁者だったが一夏の反応を見ると彼女達の事を赤の他人としか見ていないのだ。
事の経緯を涙を堪えながら話した千冬は箒に告げる。
「今は私も様子を見るしかないんだ。分かったら自室に戻れ」
千冬は酷く落ち込んでいる箒にそう告げて部屋から出させた。部屋から出て寮の自室に戻った箒は涙を流した。部屋に誰もいないのが幸いだった。
一夏はそれに気づく事もなく、黙々とやるべき事を進めていた……。
次はクラス代表決定戦です。
※余談ですが一夏は黒鷲を使うので打鉄弐式の開発は凍結せずに問題なく完成しています。